「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」最終報告書に対する意見
                                                                   2024年1月
                                                                  全労働省労働組合

  「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は11月30日、最終報告書(以下、報告書)をまとめた。
 この背景には、①国内の労働力人口の減少に伴って、地方や中小・零細企業を中心に深刻な人手不足が生じており、外国人労働者の確保を期待する声が少なくないこと、②現行の技能実習制度等のもと、深刻な人権侵害・法令違反が認められること、③劣悪な労働条件や高額借金の返済困難等を理由に失踪する実習生が相次いでいること、④②及び③について国際社会から改善の必要性が指摘されていることなどの事情がある。(※1、2、3)
報告書が提起する「新たな制度」は、これらの課題を適切に解決することができるのか、また真の問題解決に必要な制度とはどのようなものか、以下、課題ごとに検討する。

1 新たな制度の検討プロセス

 技能実習制度に代わる新たな制度の設計は、外国人労働者の権利を大きく左右する課題であり、労働分野における専門的な検討と労使の合意形成が不可欠であることから、厚生労働省の労働政策審議会で議論が尽くされる必要がある。労働政策審議会の十分な議論を経ない結論は、公正な手続きを欠いていると見ざるを得ない。
 また、外国人労働者の受け入れに関する新たな制度は共生社会のあり方と整合的でなければならず、教育、住宅、宗教、医療、福祉、差別禁止等の幅広い分野に関わる専門的な検討をふまえた総合的な制度設計が求められている。こうした視点から見たとき、報告書が提起する新たな制度は、現行技能実習制度の若干の手直しに過ぎず、検討不足が否めない。

2 外国人労働者の権利の確立

(1) 一定期間の転籍(転職)制限

 現行技能実習制度の実習生は、受入企業が倒産するなどの場合を除いて転籍(転職)の自由がない。新たな制度では一定の要件(①同一機関の就労が1年超、②技能検定試験基礎等級等・日本語能力A1相当以上の試験合格、③同一業務区分)のもとで本人の意向による転籍を認めることとしている。
 しかし、転籍(転職)に前記①~③の要件を設けている点で依然として労働者の職業選択の自由は大きく制約されており、不適切である。「意に反する労働」を強いられないことは、国籍に関わらず、すべての労働者に保障されるべきである。
 転籍(転職)が一定期間制限されることの弊害はそれだけではない。使用者にとっては、転籍(離職)を防ぐための努力(労働条件や職場環境の改善等)が不要となることから、劣悪な「働き方」が放置されるおそれがある。また、技能や日本語能力の向上に配慮のない受入企業ほど転籍を防ぐことができるという矛盾も生じる。
 もとより、地方や中小・零細の企業において人手不足は喫緊の課題であるが、その解決は労働者の権利を制約することで図るのではなく、労働条件・職場環境の改善に務める事業者を適切に支援することで対応すべきである。
 新たな制度は「人材確保」に加えて「人材育成」を目的に掲げているが、「人材育成」を理由にした権利の制約も適切ではない。実際、転籍(転職)の制限は労働者のキャリア・アップの機会を奪うことにもなりかねない。また、「意に反した労働」によって人材育成が図られるとも思えない。
 さらに、転籍(転職)前の受入機関の初期費用の負担について、転籍後の受入機関にも分担させる仕組みを新たに設けるとしているが、労働者の転籍(転職)の足かせとなるものであり適切でない。外国人労働者であっても「労働者」である以上、労働者の権利は日本人労働者と同様にその権利が保障されるべきである。外国人労働者にだけこうした足かせを設けることに合理性はない。
 なお、転籍の支援にあたっては、職業相談・職業紹介の専門性を有する国の公共職業安定所(ハローワーク)が中心となり、他の公的機関と連携しながら、各人に相応しい転職支援(キャリアコンサルティングや雇用保険制度による支援を含む)を講じることが望まれる。

(2) 長期にわたる家族帯同の禁止

 新たな制度は最長8年間(新制度:3年、特定技能1号:5年)にわたって、労働者の家族帯同が認められない。
そこには国内への定住を回避させたい狙いが垣間見えるが、家族が一緒に暮らすことは、基本的人権であると考える。
 日本企業では海外への単身赴任も珍しくないが、その場合でも年に数回の帰省を想定した休暇や手当が措置されていることが一般的である。こうした措置もなく、8年間にわたって家族帯同を認めないことは人道上、問題がある。
 また、「人材育成」を理由に家族帯同の禁止を正当化する意見もあるが、家族の帯同が「人材育成」にマイナスであるとは考えにくい。

(3) 自己負担すべき経費の賃金からの控除

 技能実習制度等のもとでは、賃金から高額と思える住居費、食費、光熱・水道費等が控除される事例が散見される。これらの控除は、賃金全額払い原則の例外となることから、労使協定の締結やその金額に関する個別合意が必要であるが、外国人労働者が事業主と対等に交渉し、合意形成を図ることは至難であり、不適切な事例が後を絶たない。
 報告書はこの点にふれていないが、新たな制度の設計にあたっては、外国人労働者が負担する経費ごとに具体的な基準を定め、受入企業にその遵守を義務づけることが適当である。

3 外国人労働者の受け入れに関する仕組み

(1) 「他人の就労に介在する事業者」の原則排除

 現行技能実習制度(団体監理型)の特徴の一つが「他人の就労に介在する事業者」の多さである。具体的には、現地の仲介業者(ブローカー)、現地の送出業者、国内の監理団体等である。
 こうした業者・団体の収入源は究極的に技能実習生の「労働」であるから、業者・団体が不当な利益を上げようとした場合、技能実習生の権利が大きく侵害される事態が生じる。
 とくに、現地の仲介業者(ブローカー)及び送出業者への規制については、二国間協定の締結によっても十分な効果をあげていないことから、この際、現地における求人から採用までの手続きを送出国政府と日本政府(厚労省が設ける現地の出先機関を含む)が担うこととしてはどうか。(※4)
 現在、国内の受入企業(実習実施機関)から監理団体に対しては、3年間で「監理費」(職業紹介料、講習料、監査指導料、その他諸経費)だけでも平均141万円(一人あたり)の支出があり、このほか監理団体への入会費(平均67.625円)、年会費(平均93,211円)等が必要となる。(※5)こうした受入企業の経費負担が実習生の賃金抑制につながることのないよう、国による規制と支援を講じながら、受入企業の負担(支出)を軽減すべきである。
 なお、報告書は優良な監理団体について申請書類の簡素化や届出頻度の軽減を図るとしているが、優良の「認定」を得るために問題事案の隠ぺい等が生じるおそれもあり、慎重な検討が求められる。

(2)その他の外国人労働者の受け入れに関する仕組み

 報告書は技能実習制度、特定技能制度の現状と見直し方向を検討したものであるが、在留資格「留学」についても留学生(日本語学校等)に過酷な就労を強いている実態が見受けられる。
 留学生は技能実習生と同様、送出費用(初年度授業料、寮費、入国手続き代行費等)を捻出するにあたって高額な借金(100万円超の場合もある)を抱え、来日後も毎年度の授業料等を負担しなければならない。そのため、留学生は資格外活動の上限(週28時間)を大きく超える過重労働をせざるを得ない状況が生じており、受け入れに関する仕組みの抜本的な見直しが必要である。(※6)

4 その他

 このほか、新たな制度の構築にあたっては、①日本人と同等以上の報酬の確保、②失踪労働者の権利保障、③労働法令等の理解と労働行政機関の活用、④外国人技能実習機構の体制拡充、⑤労働市場の劣化防止等の課題が認められる。これらの解決策等については、全労働省労働組合「『新たな在留資格に基づく外国人労働者の受け入れ拡大』に対する意見」(2018年)を参照されたい。(※7)

                                                                       以上

(※1)令和5年8月1日付「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和4年)」(厚労省労働基準局監督課)によると、①労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,829事業場(実習実施者)のうち7,247事業場(73.7%)、②主な違反事項は、「使用する機械等の安全基準」(23.7%)、「割増賃金の支払い」(16.9%)、「健康診断結果の医師等からの意見聴取」(16.1%)、③重大・悪質な労働基準関係法令違反により送検したのは21件。

(※2)米国務省は2023年6月15日、「人身売買に関する年次報告書」(2023年版)を発表し、日本では外国人技能実習制度のもとで強制労働の報告が続いており、「最低基準を完全に満たしていない」とし、4段階のうち上から2番目の「対策不十分」の国に位置づけた。

(※3) 国連ビジネスと人権の作業部会「訪日調査」ミッション終了ステートメント(2023年8月4日)は技能実習制度を取り上げ、日本政府の検討にあたって、①仲介手数料の廃止、②実習生の転職の柔軟化、③同一労働同一賃金の確保などの「明示的な人権保護規定」を盛り込むことを期待するとした。

(※4)佐野孝治「韓国の『雇用許可制』にみる日本へのインプリケーション」(日本政策金融公庫論集第36号、2017年)によると、韓国の雇用許可制では、従来、民間事業者・ブローカーが横行したことの反省から、二国間協定に加えて送出機関の政府・公的機関と韓国政府(雇用労働部)が韓国語教育、就職あっせん、雇用契約の締結、就業教育及び帰国支援等の全プロセスを主管している。これによって労働者が負担(多くは借金)する送出し費用を激減させた。

(※5)外国人技能実習機構「監理団体が実習実施者から徴収する監理費等に関するアンケート調査の結果について」(令和3年9月9日から10月に実施、有効回答率32.0%)。

(※6)西日本新聞社編『新移民時代』(明石書店、2017年)。

(※7)全労働省労働組合「『新たな在留資格に基づく外国人労働者の受け入れ拡大』に対する意見」(2018年11月)

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