「新たな在留資格に基づく外国人労働者の受け入れ拡大」に対する意見
2018年11月
全労働省労働組合


 政府は11月2日、新たな在留資格(特定技能1号及び特定技能2号)の創設等を通じた、外国人労働者の受け入れの拡大を図るための出入国管理及び難民認定法改定案(以下、改定案)を閣議決定した。その背景には、労働力人口の減少に伴う広範な産業分野で生じている深刻な人手不足がある。しかしながら、この問題は人手不足をどう補うかに止まらず、外国人労働者を「ともに働く者」として、そして「地域社会の一員」として受け入れ、新たな共生社会をどう構築するかという問題であり、そこには解決すべき多くの課題がある。以下、主に労働分野における課題の解決に向けた意見を明らかにする。

1 外国人技能実習制度等を含めた抜本的見直しが急務

 外国人労働者の受け入れは従来、外国人技能実習制度(以下、技能実習制度)や在留資格「留学」といった、大きな矛盾(本来の目的と実態との乖離)を含んだサイド・ドアからの受け入れが多くの部分を占めていたが、改定案はフロント・ドアからの受け入れを認める点で政策の大きな転換と言える。

 しかしながら、改定案は、外国人技能実習制度や在留資格「留学」の見直しを伴っておらず、人権侵害(賃金不払い、長時間労働、労災隠し、不当解雇・強制帰国、暴力等)を引き起こしかねない状況が残されている。(※1)

 この際、外国人技能実習制度は、その本来の目的である「開発途上国への技能等の移転」をいっさい潜脱しないものに、また、在留資格「留学」は、その本来の目的である「勉学や国際理解等」をいっさい潜脱しないものに抜本的に見直すべきである。

 なお、技能実習制度に関しては、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を目的とした外国人技能実習法が施行されており(2017年11月)、あわせて新たな監督機関として外国人技能実習機構が設置されている。それ自体は一定の前進であるが、当該機構の体制はあまりにもぜい弱であり、経験豊かな労働行政職員(労働基準監督官を含む)が出向しているものの、当該機構はあくまで民間法人であることから、付与されている権限も小さく、体制強化と実効確保に向けた見直し(国の機関とすることを含む)が急務である。



2 多すぎる「他人の就労の介在する事業者」

 新たな在留資格による受け入れの枠組みを見ると、技能実習制度(とくに団体監理型)の枠組みを踏襲したものと考えられる。その両者に共通する特徴は、「他人の就労に介在する事業者」があまりにも多く存在することである。

 具体的には、現地(外国)の仲介業者(ブローカー)、現地(外国)の送り出し業者、国内の監理団体(新制度では「登録支援機関」)等である(新制度が労働者派遣による就労を容認するなら、これに派遣会社が加わる)。

 このような「他人の就労に介在する事業者」への規制の歴史は古い。かつて求職者の貧困や無知につけ込むかたちで様々な権利侵害(中間搾取、人身売買、強制労働等)が横行したからである。戦後はILO96号条約に促されながら、労働者供給事業、職業紹介事業等への厳格な規制に加え、勤労権保障を担う公共職業安定所(ハローワーク)が整備された。近年では、ILO181号条約が雇用関連サービス事業全般を視野に入れた上で労働者の権利保障に向けた立法的措置を促している。

 こうした視点から、現在の技能実習制度の運用を見ると、前記の業者・団体の多くが様々な名目で(少なくとも技能実習生にとっては多額の)収入を得ている実態がある。これらの収入の源泉は、すべて技能実習生の「労働」であるから、こうした構図が存在し続ける限り、悪質なブローカーや送り出し業者、そして権利保障をないがしろにする監理団体や実習実施機関(受入企業)が現れる可能性があり、過酷な労働(法違反を含む)や劣悪な労働条件・就労環境へと技能実習生を追い詰めていく傾向はあらたまらないだろう。

 とくに、現地のブローカーや送り出し機関は、技能実習生から手数料や保証金その他の名目で多額の費用を徴収しており、そのことが技能実習生を「借金漬け」にし、種々の弊害を引き起こしているが、原則として日本の法規制や行政監督が及ばない。こうした点が新制度にまで引き継がれかねない点は重大である。(※2)

 したがって、「他人の就労の介在する事業者」が多く存在する仕組み自体をあらため、技能実習生と新たに受け入れる外国人労働者の職業の斡旋は、公共職業安定所に一本化し、海外からの送り出しを担う機関も、国又は公的な団体に限ることが適当である。



3 「対等な労使関係」をどう確立するか

 労働基準法等の労働者保護法制は外国人労働者にも日本人同様に適用される。しかし、それだけでは、外国人労働者の権利をまもることができない。労働条件等をめぐって対等な交渉(労働基準法2条)を担保する労働基本権の保障はもとより、再就職の自由(職業選択の自由)や雇用・労働に関する諸権利の保障を実効あるものとする特別の配慮が必要である。具体的には、以下の点が重要である。

(1)賃金控除の項目・内容の適正化

 技能実習制度をめぐっては、賃金から法外な住居費、食費、光熱・水道費等が控除されることがある。これらの金額の決定に際しては個別の合意を要するが、技能実習生は事実上、権利主張ができず、不適切な事例が後を絶たない。したがって、賃金控除の基準を定め、受入企業にその順守を罰則付きで義務づけるべきである。

(2)離職(再就職)の自由の保障

 技能実習生は、受入企業が倒産するなどの場合を除いて離職(再就職)の自由がない。実は、そのことが実習実施機関(受入企業)への技能実習生の従属性を強め、権利侵害の温床となっている(多くの企業は有為な人材に離職されないよう労働条件の改善に努めているが、技能実習制度ではその必要性がない)。

 しかし、外国人であるかどうかに関わらず、「意に反する労働」を強いられることがあってよいはずがない。(※3)

 したがって、離職の自由を認めるとともに、離職したままでは技能実習の実効が上がらないことから、各人に相応しい再就職を積極的に支援する仕組み(雇用保険制度による支援を含む)を構築すべきである。(※4)

(3)「日本人と同等以上の報酬」の実効確保

 技能実習制度や新制度でも外国人労働者の報酬は「日本人と同等以上」とされているが、その具体的な判断基準や判断方法は確立していない。そもそも、外国人労働者は同等であるべき「日本人の報酬」を知り得る立場になく、また、職場に同じ仕事をする日本人がいない場合もある。また、どのような場合に同じ「労働」と判断し、何を考慮して「同等以上」と判断するのかもはっきりせず、あわせて、当該規定が民事効を有するのかも定かでない。これらを実効確保の視点から明確に定めるとともに、外国人労働者自身が容易にアクセスでき、必要な専門的支援を得ることができる公的機関を整備すべきである。

(4)労働法令等の理解と労働行政機関の活用

 外国人労働者にとって、労働基準法や労働安全衛生法等を理解したり、労働基準監督署や労働局を活用するには、大きな「言葉の壁」がある。加えて、労働法令や関係制度の知識もなく、労働組合の支援もなく、労働行政機関へのアクセスも困難な状況の中では、誰もが無権利とならざるを得ず、この点での実効ある支援策が必要である。

 また、今日の労働者保護法制は、労使協定(労使委員会)によって適切な労働条件を設定することが望まれているが、外国人労働者が協定当事者である労働者代表の選出に関与し、適切に意見反映を図るための特別の支援が必要である。

(5)失踪労働者の権利保障

 多くの技能実習生が実習実施機関(受入企業)から失踪している(2017年は7,089人、法務省)。その多くは実習実施機関等からの度重なる権利侵害に耐えかねたものと指摘されている。しかしながら、技能実習制度から離れて就労(資格外活動)していることが発覚するなら、「不法就労者」として直ちに帰国を余儀なくされる。

 こうした失踪労働者であっても、労働基準法や労災保険制度等の保護は全く除外されておらず、諸権利が十全に保障されなければならないが、失踪労働者は、資格外活動の発覚をおそれて労働行政機関への救済の申し立てができず、無権利状態から抜け出せないという矛盾がある。

 したがって、入管法等の遵守を前提としつつ、労働分野の権利保障が失われることのないよう、救済制度を整備(一定の資格外活動を認めるなど)すべきである。

 

4 支援の主体は、外国人労働者と「利害対立」

 改定案では、受入機関(受入企業)又は登録支援機関等(技能実習制度では実習実施機関又は監理団体)が「日常生活上、職業生活上又は社会生活上の支援」を実施するとしているが、受入機関は労使関係の当事者であり、登録支援機関は受入機関からの収入で事業を行う存在であるから、いずれも外国人労働者とは広い意味で利害が対立する関係にある。

 しかも、これらの機関は民間法人であるから、前記支援を有料で行うことが想定されるが、その負担は最終的に外国人労働者が負わざるを得ない。

 支援の内容は「所要の基準に適合することを求める」とされているが、利害が対立する構図自体が望ましくなく、前記支援を専門的に担う第三者機関を設けることが望ましい。



5 長期にわたって家族帯同を禁止することは適切か

 改定案に基づく特定技能1号の労働者は家族帯同が認められず、特定技能2号に至って家族帯同を認めるとしている。しかし、外国人労働者の技能(具体的には、「相当程度」か、「熟練」か)に着目し、家族帯同の可否を判断することに合理性があるだろうか。

 そこには、家族帯同を認めないことで国内への定住を避けたい狙いが垣間見えるが、特定技能1号であっても在留期間は決して「短期間」と言えず、家族が一緒に暮らすことは、基本的人権と考える。

 実際、日本では、海外赴任の際、本人都合の単身赴任も珍しくないが、その場合でも、年に数回の帰省を保障する休暇や手当が措置されている例が一般的である。こうした措置もないまま、5年(技能実習を経れば最長10年)にわたって家族帯同を認めないことは、人道上、問題がある。



6 労働市場に与える影響をどのように考えるか

 改定案は、新たな在留資格に基づく受入枠を産業分野別に定めるとしている。(※5)

 この点では、労働力人口の予測はある程度可能であるから、中長期的な見通しを立て、外国人労働者にとって受入期間の短縮や永住許可の取り消しにつながらないよう、適切かつ柔軟な受け入れ枠を設定することが必要である。

 その際、人手不足かどうかの観点だけでなく、産業分野ごとに形成される労働市場が

ひとたび劣化(不安定雇用の広がりや低処遇の固定化など)するなら、当該産業自体の劣化に直結することに十分留意する必要がある。



7 受け入れに向けた多角的な検討が不可欠

 外国人労働者の受け入れにあたって、労働法令や労働市場のあり方をめぐって専門的な検討と幅広い合意形成が重要であり、労働政策審議会で十分な議論が尽くされるべきである。

 また、現下の人手不足はたしかに深刻であるが、その原因の多くは、労働条件、就労環境の改善が立ち遅れていることに起因することが少なくない。したがって、人手不足への対策は、これらの課題を解決する実効ある「働き方改革」を進める観点が重要である。

 さらに、外国人労働者の受け入れは、共生社会のあり方を問う課題でもあり、教育、住宅、宗教、医療、福祉、差別禁止等の幅広い分野の制度設計にも影響を及ぼし、国と自治体の役割分担や連携のあり方も問われている。

 したがって、こうした総合的な制度設計と各分野の専門的検討を十分に深め、国内外の広範な理解と信頼を得る努力が不可欠である。



※1)平成30年6月20日付「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成29年の監督指導、送検等の状況を公表します」(厚生労働省労働基準局)によれば、外国人技能実習実施者への監督指導の結果、70.8%にあたる4,226件で労働基準関係法令違反が認められた。主な違反事項は、(a)労働時間(26.2%)、(b)機械等の安全基準(19.7%)、(c)割増賃金(15.8%)の順。また、技能実習生から労働基準監督署への申告(労働基準法104条)は89件。主な申告内容は、(a)賃金・割増賃金の不払(81件)、(b)約定賃金額が最低賃金額未満(7件)、(c)解雇手続の不備(7件)の順。重大・悪質な労働基準関係法令違反による送検は34件。

 また、平成30年2月19日付「技能実習制度の現状(不正行為・失踪)」(法務省入国管理局)によれば、平成29年に不正行為を通知した監理団体や実習実施機関は213機関(不正行為は299件)であった。主な不正行為は、(a)賃金等の不払い(46.5%)、(b)偽変造文書等の行使・提供(24.4%)、(c)労働関連法令違反(8.0%)の順。これら以外にも「暴行・脅迫・監禁」(4件)、「保証金の徴収等」(3件)、「旅券・在留カードの取り上げ」(2件)等の不正行為があった。

(※2)技能実習制度を取り上げた報道(2018年11月16日付東京新聞他)によれば、現地の送り出し機関は、一般に来日前に技能実習生から手数料(日本語教育費や渡航費等)として数十万円から(送り出し国が定める上限を超えて)100万円を超える金額を徴収している。送り出し機関を紹介するブローカーも十万円から数十万円の手数料を徴収するケースがある。また、送り出し機関が違約金や保証金を徴収することは、一般に二国間覚書等で禁じられているが、様々な名目で類似の徴収行為が横行している。しかも、これらは技能実習生が借金として抱えるケースが多い。

 なお、国内の実習実施機関(受入企業)から監理団体への支出としては、一般に申込(受入)時に一定額が支払われるほか、以降、実習生1人あたり月3〜5万円程度の監理費が支払われている。

 在留資格「留学」の運用においても、現地の送り出し機関が留学予定者に対して100万円を大きく超える支払い(授業料、寮費、在留資格やビザ取得手続き代行費等)を求める事例がある。この場合、留学生の多くは、これらを借金をして支払うことになるが、アルバイトとしての収入は月10万円程にすぎず、借金の返済や生活費に加え、次年度以降の授業料を確保する必要もあり、資格外活動の許可上限である月28時間を超える長時間労働をせざるを得ない状況に追い込まれている。その実態は「偽装留学生」「出稼ぎ留学生」とも言われている(西日本新聞社編『新移民時代』(2017年、明石書店)等)。

(※3)労働基準法が定める違約金等の禁止(労働基準法16条)や労働条件相違時の即時契約解除権(同法15条2項)の規定も同様の趣旨である。

(※4)労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本部会では現在、「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処すべき指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)の見直しに向けた議論を進めている。

(※5)政府は2018年11月14日、外国人労働者の受け入れ範囲や規模について、14業種(介護業、ビルクリーニング業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設業、素形材産業、造船・舶用工業、自動車整備業、宿泊業、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、航空業)で5年間に最大35万人程度の受け入れを想定していることを明らかにした(2018年11月15日付毎日新聞他)。



以 上
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