雇用仲介事業に関する職業安定法の改正について 2022年1月
全労働省労働組合(職安法PT)

 労働政策審議会は12月8日、同職業安定分科会労働力需給制度部会がとりまとめた報告書に基づき、厚生労働大臣に対して「雇用仲介事業に関する制度の改正について」と題する建議を行った。
 IT技術の進展やスマートフォン等のデバイスの普及等を背景として、今日、多種・多様な雇用仲介事業(サービス)が広がり、労働市場に膨大な募集情報等が流通している。
 建議は、こうした状況を受けて「雇用仲介事業の機能強化と募集情報等提供事業の適正な運営を確保し、もって労働市場が的確かつ効率的に機能するための基盤を整備するため、雇用仲介事業に関する制度の改正を行」う必要があると指摘した。
 厚生労働省は、本建議に即した職業安定法改正案を国会提出することとしている。
 以下、建議が掲げる主な具体的措置及び今後の課題について考え方を述べる。

1 主な具体的措置について
(1) 募集情報等の的確性
 建議は、雇用仲介事業者や求人者等が募集情報等を提供するにあたって、①虚偽又は誤解を生じさせる表示をしてはならないものとすること、②正確かつ最新の内容に保たなければならないものとすることがそれぞれ適当であると指摘する。
 これらの措置を講じることは一歩前進であるが、「誤解を生じさせる表示」「正確かつ最新」等の基準があいまいであるなら、当該規制の実効性を確保できないことから、同様に不当表示を禁じる景品表示法や健康増進法等の運用例にならい、不当表示の類型化や事例判断をできる限り明らかにすべきである。
 また、みかけの賃金額を高く見せる「固定残業代」が横行しており、労働関係紛争の原因にもなっていることから、基本賃金額の表示にあたっては、「所定労働時間に相当する賃金額」の表示を義務づけることが適当である。

(2) 個人情報の保護
建議は、募集情報等提供事業者を含む雇用仲介事業者が、業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして求職者等の個人情報を収集し、かつ適切に使用しなければならないものとすることが適当であるとする。
 職安法5条の4の名宛人に募集情報等提供事業者を含めた点で一歩前進と言えるが、多様な雇用関連事業(サービス)が次々と出現する状況下では、求職者等の個人情報を取り扱う様々な雇用関連事業者を包括的に規制する規定を創設することが適当である。
 また、個人情報保護の内容に関しては、職安法48条に基づく指針に盛り込まれている個人情報保護に関する措置等(例えば、本人から求められた場合の個人情報の開示・訂正・削除の義務化や個人情報を扱う端末のインターネットからの遮断等)を法令で規定し、実効性を高めるべきである。
 真意に基づく同意の確保も重要な課題である。ネット上の手続きでは、次のステップへの移行に際してクリックを誘導することで同意を得ようとするものが少なくないが、これでは真意に基づく同意とは言い難い。あらかじめ的確な説明があり、十分な理解が得られ、いつでも容易に同意を撤回できる方式を検討し、それを義務づけることが適当である。

(3) 官民の連携
建議は、職業紹介事業者に加え、募集情報等提供事業を行う者についても職業安定機関(ハローワーク等)と雇用情報の充実等に関して相互に協力するものとすることが適当であるとする。
 ここで言う「雇用情報の充実等に関する相互の協力」の中身が必ずしも明らかでないが、
例えば、「ハローワーク求人・求職情報提供サービス」で提供される情報を希望する募集情報等提供事業者に提供し、それが当該事業者の営業先として「活用」されるだけであるなら、求人者・求職者の権利・利益を脅かすおそれがあり、生じ得る弊害の分析を含めて慎重な検討が求められる。

(4) 優良事業者認定制度
建議では、国が雇用仲介事業の実態に即した優良事業者認定制度の検討を通じ、利用者にとって優良な事業者が分かり易くなるようにするとともに、優良な事業者の利用を促進していくことが適当であるとする。
 この間、労働行政の諸分野で優良事業者認定制度が導入されているが、過去には「くるみん認定」(次世代法)を受けた企業において、痛ましい過労自死の事案が発生したこともあり、行政機関が事業の実態を正確に把握・評価することには限界があると言わざるを得ない。従って、実態把握、実態評価、認定・更新・取消等の方法等を慎重に検討する必要がある。

(5) 募集情報等提供事業者の把握
 建議は、募集情報等提供事業者について、より適切な事業運営の確保と指導監督のため、①届出制を導入し、その実態を把握すること、②適切・迅速な苦情の処理体制を整備することがそれぞれ適当であると指摘する。
 これらは、募集情報等提供事業者が果たしている役割の大きさにてらして必要な措置である。一方、届出等の手続きに関して、「事業者の過大な負担となることがないよう簡素なものとする」よう求めていることから、目的にてらして相応しい内容となるのか、その動向を注視する必要がある。

(6) 求職者等からの報酬受領の禁止
 建議は、募集情報等提供事業を行う者が、募集に応じた労働者から報酬を受領してはならないという指針の内容について、法令において規定することが適当であるとする。
 こうした措置は、実効性確保の観点から一歩前進と言える。一方、近年、求職者(新卒を含む)をターゲットに「就職に必要なスキルの修得」等を掲げ、応募に際し、内容に到底見合わない高額な講習(セミナー)の受講(購入)を勧奨する事例がある。このような実態を把握し、適切に規制すべきである。

(7) 違反への対応等
建議は、①募集情報等提供事業の適正な運営の確保のため、現行の助言・指導、報告徴収に加え、改善命令、停止命令、立入検査について法定すること、②募集情報等提供事業の届出義務違反等に罰則を設けること、③公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で募集情報等提供を行うことや、虚偽の広告をして募集情報等提供を行うこと等に罰則を設けることがそれぞれ適当であると指摘する。
 募集情報等提供事業者に求められる措置義務に関して、行政指導・行政処分・罰則の対象とし、適正な運営を確保するとしたことには賛同したい。
一方、職安法では、現在も多くの規定に罰則が設けられているが、規定の仕方(あいまいな文言等)からくる立証の難しさや行政体制(需給調整事業部門)の不十分さから、行政処分や刑事告発に踏み切るケースは多くない。罰則の実効性を高めるため、規定の明確化(施行規則の整備を含む)を図るとともに、労働基準監督官に職安法違反に係る司法警察官の職務を行わせることを検討すべきである。

2 今後の課題について
ILO181号条約は、「労働市場において民間職業仲介事業所が果たし得る役割」を認めつつ、その事業に関わって「労働者を不当な取扱いから保護する必要性」を指摘している。その上で、①職業紹介事業、②労働者派遣事業、③その他の雇用関連サービスまで幅広い事業を規制の対象とすることを規定している(1条、2条)。
 今後も多様な雇用仲介事業が出現することを想定したとき、同条約の立場と同様に、多様な雇用仲介事業の全体を視野に入れた包括的な規制を設けることが適当である。具体的には、①結社の自由の権利及び団体交渉権の保障、②不合理な差別の禁止、③個人情報の保護(不必要な個人情報の記録の禁止を含む)、④求職者(労働者)からの手数料徴収の原則禁止、⑤外国人労働者の保護、⑥苦情及び不当行為・詐欺行為の救済制度の創設、⑦適切な訓練を受けた有資格者の配置等が考えられる(181号条約、188号勧告)。
 同時に、雇用仲介事業の多様化の中で生じる弊害に対して監視を強め、新たな事業類型を積極的に把握し、的確に定義した上で生じ得る弊害を未然に防止する有効な措置を順次義務づけていくことが重要である。
 例えば、近年、フリーランス(個人事業主)やインターンシップ(職業体験)の仲介する事業者が増えている。具体的な業務もIT関連業務、運転業務、販売業務等、幅広い分野に及んでいる。こうした事業者は「雇用」を仲介している訳ではないことから、職安法等の適用が除外されているが、雇用に類似した関係性(使用従属的な関係性)が生じていることも多く、一定の要件に該当するフリーランスやインターン生の就労を仲介する事業者については、雇用仲介事業に準じた規制を適用すべきである。
 また、本格的な請負法制の整備に着手すべきである。
 業務請負業(アウトソーシング業)は、業務請負事業者(下請事業者)が雇用する労働者を元請事業者が受け入れ、その事業の一部に従事させる点で労働者派遣と類似しているが、その規制の現状は大きく異なっている。労働者派遣事業の場合は、派遣先事業者も労働者派遣法(44条~47条の4)に基づき、労基法・労安法等で規定された使用者の義務の一部(主に指揮命令に関連する事項)を負っているが、業務請負事業の場合、元請事業者は(指揮命令を行わない建前であるから)その義務のほとんどを負わない。しかし、業務請負業者(下請事業者)にとって、元請事業者の意向は無視できないばかりか、業務請負業者が使用する労働者の労働条件、作業環境、さらには雇用関係をも事実上左右することも少なくない。
 こうした実態をふまえるなら、建設業等の元方事業者、注文者、貸与者等の責任を定めた労安法の規定(具体的には、施行規則634条の2~678条)や下請事業者の賃金不払いに関する元請事業者の責任等を定めた建設業法の規定等を参考に請負法制を速やかに整備すべきである。
以上
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