公共職業安定所の窓口受付時間はなぜ必要なのか
2019年10月 全労働省労働組合
1 背景

 国家公務員の勤務時間は1日7時間45分、週38時間45分と定められ、基本的に官庁の執務時間(8時30分から17時まで)に実施するよう求められている。実際は、公共職業安定所(以下、安定所)では勤務時間が原則8時30分から17時15分までとされている。

 安定所の利用者は数多く、勤務時間のすべてを窓口受付時間とすれば、官庁執務時間を過ぎても受付を済ませた求職者等との相談対応が必要となる。そのため従前、多くの安定所では16時頃までにその日の受付を終了し、その後はすでに受付を済ませた求職者の相談を実施してきた。それでも、相談が官庁執務時間後に及ぶことが多く、相談後の事務作業(相談記録の入力等)などは超過勤務によって実施している実態であった。

ところが、2006年1月、厚労省は「厚生労働省に勤務する職員の勤務時間、休憩等に関する訓令」を改定し、2006年7月1日以降、窓口取扱時間を8時30分~17時15分とし、窓口受付時間を廃止した。以来、現在に至るまでこの運用が継続されている。

 安定所の基本業務は、職業紹介関係業務と雇用保険業務であるが、いずれも求職者や求人者と相対し、様々な事情や具体的な希望を十分に共有することが重要となる。そして、その内容は、それぞれの生活や今後の職業人生に関わるものであることから、極めて重く深刻であり、一定程度の時間が必要となる。例えば、安定所で仕事を探すには「求職申し込み」が必要となる。ここでは、氏名、住所、希望職種・賃金・勤務時間・休日、過去の職歴、保有する資格や経験などを具体的かつ丁寧に確認するため、一律的でないものの、概ね20~30分程度を要する。また、雇用保険給付の受給手続きの場合、こうした「求職申し込み」に加え、「受給資格決定」という手続きが必要となり、離職理由の確認などに相当な時間を要する。さらに、職業相談や紹介では、安定所は適格紹介の原則に基づき、求職者・求人者双方にとってふさわしい紹介を実現するよう努めている。そこでは、求職者の希望や職歴などの状況に応じた求人の選定にとどまらず、希望条件の確認や修正(既存の求人に合わせて生活困難な低賃金を希望してしまう求職者もいる)を行い、求人開拓も実施する。加えて、求職者の状態や希望に応じ、職業訓練等を案内しあっせんする。これらの業務はいずれも相当の時間が必要となる。また、安定所の業務は窓口対応で完結するものでなく、相談後に登録内容の漏れがないかなどのチェックや相談内容の記録、雇用保険給付金額の計算など多数の事後処理を行い、求職者に適合した求人の選定や説明すべき職業訓練の検討など多様で多角的な支援を準備し、実施する。

 このような業務を行っている安定所において窓口受付時間がないことが、様々な問題を生じさせている。



2 窓口受付時間と開庁時間が同一であることの問題

(1)朝のミーティングができない

 安定所の開庁時間は8時30分からであるが、すでにその前から、利用者用の求人情報検索用端末や職員用端末等の起動、リーフレットや申請書類、プリンターのインクや用紙の補充、清掃、来庁予定の求職者との相談準備など、多様な準備が実施されている。これらは、開庁時間を迎えるために必要な業務であるが、時間外の超過勤務であり、その多くは手当が不払いとなっている。

 これらのほかに必要なのが、窓口業務開始前のミーティングである。多くの安定所では、前日受理の新規求人を紹介担当職員に回覧で周知しているが、求人部門が把握している「求人票以上の求人情報」をミーティングで共有することは、職業相談業務で不可欠と言える。加えて、前日までの職業相談において再就職に困難を抱える求職者に対する支援策の検討、法・制度等が変更された場合における職場内での周知・確認などを行うミーティングの意義も極めて大きい。

 しかし、前述した8時30分以前の時間帯では、育児や介護などの家庭事情を抱える職員や交通事情等により早朝に出勤できない職員もあり、全員参加のミーティングは実施できない。一方、開庁時間を迎えれば相談業務の開始が求められるため、必要な情報を十分に共有することなく相談業務が行われてしまうおそれがあり、求職者・求人者に必要な情報が行き届かない状況が生じかねない。

この点、りそな総合研究所株式会社が2006年、「ハローワークにおけるサービス提供マネジメント体制に関する調査報告書」を公表している。この報告の中で、「現在、ハローワークの開庁時間が8時30分であるため、打ち合わせ時間も物理的にとれない状態にある。民間企業でも、製造業では、ラインを組み立てる前工程、サービス業、小売、卸売業では打ち合わせ時間、準備時間が取られており、開庁時間がすべて利用客と向き合うことは、そもそも一般的ではない。むしろ段取り時間の喪失による仕事の効率ダウンの面で検討する必要がある」と指摘している。

この指摘のとおり、民間企業において一般的とされている窓口受付時間の設定は、効率的かつ効果的な業務運営のために必要である。むしろ、窓口受付時間を設定しないことが安定所における非効率な業務運営を強い、かえって行政サービスの低下として行政利用者に直接的に影響している。

(2)事業主への確認やアピールができない

現在は17時15分までが受付時間とされているため、閉庁(17時15分)間際に相談待ち人数があれば、相談が夜間に及ぶことになり、現に安定所ではそれが常態化している。しかし、職業紹介を夜間に実施し、求人事業主に連絡すれば、人事担当者に夜間の対応を求めることにもなる。また、職業紹介以外の業務で、たとえば各種報告の要請や雇用保険関係書類の不備による確認、面接会等のイベント参加要請を夜間に行ったなら、それは社会通念上「非常識な対応」と受け止められるであろう。特に、夜間における職業紹介の連絡は「相手の都合を考えず、自分の都合を優先させる求職者」などと受け止められかねず、求職者にとって不利に働きかねない。

あわせて重要な問題は、夜間や土曜日に求人事業主へ紹介の連絡をしたとしても、担当者が不在の場合や事業所自体が閉まっているなどして連絡不調となる場合があることである。その場合、安定所が翌日連絡することもあるが、求職者本人が後日事業所に連絡し、応募書類の提出方法や面接日時等を確認することとなる。しかし、安定所職員が紹介時に求人事業主に連絡する場合、単に面接時間等の打ち合わせのみならず、労働条件の詳細確認や応募する求職者のアピールなどを行っている。また、求職者が意欲を持って誠実に応募を希望していながら、事業主が求める資格や経験が不足する場合には条件緩和を求め、事業主の求める条件を満たす求職者が求人賃金では生活できなければ、求人賃金の引き上げを要請する。これらはいずれも、求職者にとって必要かつ重要な支援である。実際、求人条件の緩和や引き上げをみずから交渉できる求職者は少ない。

一方、求人事業主の立場からも、安定所による求人条件の緩和や賃金等の引き上げに応じることによって、それがなければ応募をあきらめていた求職者の応募が可能となり、実際、事業主からの謝意も多数寄せられている。

 厚労省は、行政利用者へのサービス向上を理由に窓口受付時間を設定しないとしているが、それはかえって行政利用者への重要なサービスを低下させている。

(3)チーム支援ができない

 不安定雇用を繰り返している求職者や、障害を有する求職者など、再就職に困難を抱える求職者は、担当した職員の支援にとどまらず、複数以上の職員がそれぞれの知見を活用し、チーム支援によって再就職を実現することが有効である。本来であれば、職業相談の段階から複数の職員が同席して支援すべきであるが、それができないにしても、相談終了後、チームを編成して時間を確保し、支援の方策を検討することが有効である。しかし現状では、勤務時間のすべてを窓口受付時間としていることから職業相談が夜間に及び、その後にチームによる検討時間を確保するほかない。多くの職員が知恵を出し合って対応方針を確立し、求人事業主への条件緩和や賃金等の引き上げ要請、個別求人開拓につなげることが安定所として重要な役割であるが、それが事実上困難となっている現状は、求職者への支援が不十分にとどまっていることの裏返しである。



3 おわりに

窓口受付時間を設定することは、一般的に「サービス低下」と受け止められがちであるが、これまで述べたとおり、窓口受付時間がないことの弊害は多岐にわたる。むしろ、窓口受付時間を設定することでこそ行政サービス向上につながり、効率的・効果的な行政運営が可能となり、職業紹介の質的向上が可能となる。

行政利用者本位の職業相談・紹介業務のため、早急に窓口受付時間を設定すべきである。



以 上
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