「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書について 2022年5月
2022年5月28日

「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書について
―不安定な雇用を適切に規制し、安心して働ける労働社会へ―

全労働省労働組合・労契法PT

 無期転換ルールの見直しと多様な正社員の雇用ルールの明確化等について検討を重ねてきた厚労省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」は3月30日、報告書をとりまとめ、公表しました。
 報告書は企業、労働組合、有識者へのヒアリング等をふまえ、いくつもの政策提言を行っていますが、同時に「議論が更に深められることを期待する」と述べていることから、以下、いくつかの論点を取り上げ、考え方を明らかにします。

Ⅰ 無期転換ルールに関する見直し
1 「無期転換回避策」の現状と見直し方向
 報告書は、「現時点で無期転換ルールを根幹から見直さなければならない大きな問題が生じている状況ではない」との現状認識を示しています。
 しかし、無期転換ルールは導入当初から様々な問題点が指摘されており、労使関係紛争が増大していないことなどをもって問題がないと見るべきではありません。
 もっとも大きな問題点は、無期転換を行われるかどうかの判断が事実上使用者にゆだねられており、有期雇用労働者の意向が反映される余地がほとんどない点です。無期転換申込権の行使は、労働者からの申出を要件としていますが、それ以前に「無期転換回避策」を講じないという使用者の判断が先行してこそ、申出は可能となります。
 使用者が有期雇用労働者の無期転換を認めたくなければ、あらかじめ更新回数や勤務年数の上限を定めるなどの「無期転換回避策」を講じておくことができるのです。例えば、契約期間を1年とした上で更新回数の上限を4回と設定し、そこに到達した労働者は雇止めとし、代替する労働者を新たに雇い入れたり、クーリング制度を利用したりする方法があります。
 また、更新を一定回数重ねた有期契約労働者を対象とした「選抜試験」を設けて一部の者のみに無期転換を許し、他の者は無期転換前に雇止めとする方法も「回避策」の一つと見ることができます。
 報告書は、更新上限を設定する「無期転換回避策」について「それ自体としては違法ではない」とし、更新上限があるか不明確だとトラブルが生じやすいので、①更新上限の有無とその内容について明示することを義務づける(労働基準法施行規則5条1項1号の2の「更新する場合の基準」の中に更新上限の有無・内容が含まれることを明確化する)こと、②最初の契約締結後に更新上限を設けた場合には、労働者の求めに応じて上限設定の理由説明を義務づける(「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に必要な規定を追加する)ことがそれぞれ適当としています。

2 見直し方向の問題点とあるべき法制
(1)職安法5条の3に基づく明示事項の充実
 前記①の措置は、報告書でも一部の参集者(検討会委員)から「使用者が更新上限を設定する方向に誘導されるのではないかとの懸念もありうる」との指摘があったことを明らかにしています。しかし、「それ以上に労使間の認識の齟齬を未然に防ぎ、納得を促すことを重視すべき」であるとし、前記①を義務づけることが適当との結論を導いています。トラブルを未然に防ぐことはもとより大切ですが、労働者の権利をあらかじめ抑制しておく方法で行うことは、本末転倒です。更新上限等を設けること自体を原則として禁止すべきでしょう。
 前記①の方法について報告書は、労基法15条に基づき明示(原則、書面)すべき労働条件の中に「更新上限の有無等」が含まれることを明確化するとしています。この点に関し、同条が明示の時期として規定する「労働契約締結の際」がいつを意味するのかが問題となりますが、実務では必ずしも契約締結(内定を含む)と同時ではなく、出勤の初日あるいはその後数日内であることが多いようです。しかも、ここで言う「明示」は一方的な通知の形式をとる場合が多く、労働者の承諾を得るための提案(申込み)と位置付けている場合は多くないのが実情です。
 つまり、労働者は同意しかねる事項を15条に基づく明示によって一方的に知らされることもあり得るのです(その効力は格別)。例えば、求人段階で明示された労働条件で「更新あり」とされていたものが、勤務開始後に交付された労働条件通知書で「更新回数上限あり」と追記されることがあり得ます。この場合、労働者は同意せざるを得ない状況に追い込まれたり、直ちに異議を唱えなかったことで同意したとみなされてしまうこともあるでしょう
 このような事態を防ぐには、更新上等の設定を例外的に認める場合であっても、それを求人段階で明示しておくことを義務づけることが適当です。具体的には、職安法5条の3(同施行規則4条の2、3項)に基づく明示事項とし、労働者の真意に沿った合意がない限り、後から当該事項に付加・変更を加えることを禁止すべきです。
 更新上限等の有無を求人段階から明示させることによって、無期転換への期待がある労働者はこれに応募しなくなることから、それこそ無用な紛争を未然に防ぐことができるでしょう。

(2)新たに不更新条項を設けることの禁止
 前記②の措置は、その前提として最初の有期労働契約締結後の契約更新時に不更新条項(更新上限)を新たに設けることを認めています。しかし、最初の有期労働契約の締結後ですから、すでに有期契約労働者に無期転換への期待権が生じていることが少なくありません。
 こうした段階で有期契約労働者が使用者から次の契約更新の条件として不更新条項(更新上限)を盛り込みたい意向を伝えられた場面を考えてみると、有期契約労働者がそれに同意しなければ、その時点で雇止めを言い渡されることになり、不更新条項が如何に不満があってもそれを受け入れざるを得ないことになるでしょう。いわゆる変更解約告知と同じ構図です。こうした行為は有期契約労働者の弱みにつけこんで無期転換の機会を奪うことにつながり易く不当であるから、原則禁止すべきです。
 前記②の措置は、不更新条項を新たに盛り込む際、労働者の求めに応じて説明することを義務づけようとするものですが、それによって前述の不当性が解消することは考えにくく、あまり意味がありません(なお、一般に労働条件変更時の説明義務・情報提供義務は重要であり、広く義務づけるべきです)。
 また、報告書は前記②の措置に加えて当該労働者に対し、不更新条項に異議を唱えなかったことをもって「更新の合理的期待は必ずしも消滅しない」ことなどを周知することが適当としていますが、むしろ有期労働契約締結後に不更新条項を設けることの不当性を周知すべきでしょう。

(3)無期転換前の「選抜試験」の原則禁止
 有識者ヒアリングでは、「経営者・上司に都合の良い労働者は無期転換する恣意的選別がなされ実質的に無期転換ルールを骨抜きにしている事例」(※1)が紹介されています。
 このような制度は、無期転換ルールの導入前にも存在していましたが、有期契約労働者に無期転換の期待を抱かせながら、無期転換申込権の発生直前に「選抜試験」という高いハードル(過去の更新よりも厳しい条件を課すことが一般的)を設けて有期契約労働者の全部又は一部を無期転換前に雇止めするものです。
 要するに有期契約労働者に無期転換(本採用)の期待を抱かせながら、比較的長期にわたって不安定な立場におくという点で「試用期間」乃至それに類似する扱いと見ることができます。
 この点に関し、ブラザー工業事件判決(※2)は、試用期間中の労働者は不安定な地位におかれることから、合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であるとしています。また、試用期間終了時の解雇(本採用拒否)についても、多くの判例が解雇権濫用法理に準じて扱い、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認されるものでなければならないとしています。
 従って、こうした有期労働契約を「長期の試用期間」のように扱い、有期労働契約を繰り返し更新した後、本採用に向けた「選抜試験」の運用を通じて自由に雇止めできる仕組みは認めるべきではありません。

(4)クーリング期間の廃止
 報告書は、クーリング期間がない場合、「使用者としては、労働者と有期労働契約を締結するに際して、無期転換申込権の発生の有無や時期を判断するため、長期間過去に遡って当該労働者と有期労働契約を締結したことがあるか否かを調査する必要」があり、使用者の負担が大きいことや、労働者にとっても「5年で離職した労働者が再度同じ企業で働くことが事実上困難となり、同一企業での再雇用を希望する労働者の職業選択の幅が狭められてしまうという問題が生じる」と指摘しています。
 しかし、報告書も明らかにするとおり、無期転換ルールの趣旨は「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図る」ことにあります。もっぱら無期転換の回避を狙い、クーリング期間を挟みながら有期労働契約を長期間にわたって反復・継続していく行為はその趣旨を完全に没却していることに気付くべきです。

(5)入口規制の導入に向けた検討
 入口規制については、有識者ヒアリングでも賛否が大きく分かれています。
 この点では、2011年12月の労働政策審議会建議(「有期労働契約の在り方について」)が「合理的な理由がない場合(例外事由に該当しない場合)には、有期労働契約を締結できない仕組みとすることは、例外業務の範囲をめぐる紛争多発への懸念や、雇用機会の減少等を踏まえて措置しない」としていたことを再考する必要があります。
前記建議は「例外業務の範囲をめぐる紛争多発」や「雇用機会の減少」への懸念を入口規制を行わない理由として掲げていましたが、必要な規制に伴って新たな紛争が生じ易いのであれば、適切な紛争解決制度を整備することが必要かつ可能なのであって、入口規制を認めない理由にはなりません。また、雇用量は当該事業が必要とする仕事量に比例するのであって、有期契約労働者を増やすことで雇用量が増えるわけではなく、これも入口規制を行わない理由にはなりません。

(6)小括
報告書は、無期転換ルールの趣旨を「有期労働契約の濫用的な利用を抑制し労働者の雇用の安定を図る」ことにあると指摘しています。
 更新上限の設定等の「無期転換回避策」は、この趣旨に真正面から衝突することを指摘せざるを得ません。従って、更新上限等を設けることを原則禁止し、合理的な範囲に限定することが必要です。また、例外的に更新上限の設定等が認められる場合には、その有無を求人段階から明示することを義務づけることが適当です(職安法5条の3)。そして、労働者の真意に沿った合意がない限り、求人条件に後から変更することを原則禁止すべきです。
 最初の契約締結後の契約更新にあたって新たに不更新条項を設ける行為も、当面の契約更新を切望する有期契約労働者に対して、更新拒否という「威嚇」のもとで将来の無期転換の芽を摘もうとするもので適当でなく、不更新条項を追加する行為自体を禁止すべきです。
 有期労働契約を繰り返した後に「選抜試験」(従前の更新基準よりも高いハードルで運用する場合等)を行うことによって、多くの有期契約労働者の無期転換を回避する行為は原則禁止すべきです。
 クーリング期間は、無期転換を回避し不安定雇用の状態を継続させるため、労働者にとって不必要な「失業」を強いるもので合理的でなく、廃止すべきです。
 そして、前記の無期転換ルールの趣旨を徹底するためには、入口規制すなわち合理的な理由(業務自体が臨時的・一時的であるなど)のある場合を除いて有期労働契約を締結することはできないこととすることが必要であり、その導入に向けた検討を開始すべきです。

2 無期転換申込みの機会の通知のあり方
(1)通知の方法と時期
 報告書は「有期契約労働者のうち、無期転換ルールに関して内容について知っていることがある労働者は約4割にとどまる」ことなどを指摘した上で、使用者が無期転換の要件を満たす労働者に対して「無期転換申込みの機会の通知を義務づけることが適当」としています。そして、その方法については「労働基準法15条に基づく労働条件明示事項とすることが適当」とし、その時期としては「無期転換申込権が発生する契約更新ごとのタイミング」が適当としています。
 無期転換申込権を行使するかどうかの判断にあたっては、有期契約労働者が「無期転換申込みの機会」を通知されるだけでなく、それ以前の段階で無期転換の仕組み(例えば、①権利行使のタイミングと方法、②無期転換後の労働条件、③無期転換後の人事運用等)について十分な情報が与えられ、かつよく理解していることが欠かせません。
 従って、有期契約労働者に対しては、「無期転換申込権が初めて発生するよりも前のタイミング」から、無期転換の申込みを行うかどうかを判断に資する十分な情報を周知しておくことが必要です。
 なお、報告書は「無期転換申込権が初めて発生するよりも前のタイミング」で無期転換申込みの機会の通知を行うことは「5年を超える雇用継続の期待を生じさせる可能性あり、雇止めに関して無用な混乱を招くおそれがある」ので不適当としていますが、自社の仕組み(無期転換制度)やその現状を知らせることで混乱が生じるとは思えません。

(2)通知の内容
 報告書は、通知の内容に関して「無期転換後の労働条件も併せて通知することが適当」としています。具体的には、労働基準法施行規則5条1項各号(新たに「就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲」も追加)に掲げられた事項であり、その際、労働契約法18条1項の「別段の定めがある部分」を反映したものとすることが適当としています。
 そこで問題となるのは、無期転換後の労働条件の中に不利益な内容が含まれている場合です(例えば、有期契約労働者が家庭責任を有する場合であって、無期転換後の労働条件として全国転勤があり得ると定められていた場合)。こうした定めは事実上の「無期転換回避策」となることから、不利益な内容を定めることを原則として禁止すべきです。

3 無期転換者と他の無期労働契約者との待遇の均等・均衡
 報告書は、無期転換者と他の無期労働契約者との待遇の均等・均衡について、(無期転換者がフルタイムであるなら)「原則として労使自治に委ねられているものだが、労働契約法3条2項を踏まえた均衡の考慮についても求められる」としています。
 しかし、無期転換前の有期契約労働者や無期転換後もパートタイム(短時間勤務)で働く労働者は、他の無期労働契約者との間でパート有期労働法8条及び9条(これらは強行法規)がすでに適用されています。無期転換後であっても、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更範囲、③その他の事情(①及び②は均等・均衡待遇原則、③は均衡待遇原則で考慮)が変わらないなら、特段の対応は不要なはずです。
 従って、無期転換者と他の無期労働契約者の間にも、パート有期労働法8条及び9条で定められている規制の枠組みを適用する立法措置を講じること(当面、類推適用すること)が適当であり必要です。

Ⅱ 多様な正社員の労働契約関係の明確化
1 多様な正社員の労働条件の明確化 
(1)労働条件明示事項の拡大(就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲を追加)
 報告書は「労使双方にとって望ましい形で、多様な正社員の更なる普及・促進を推進していくことが適当」とし、その際、「法令上の措置も含めて、労働契約関係の明確化を検討することが適当」と指摘しています。具体的には「労働基準法15条1項による労働条件明示事項として、就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲を追加することが適当」としています。
 労基法15条は、雇用関係や労働条件が不明確なことから生じる紛争を未然に防ぐとともに、雇用形態の多様化や労働条件決定の個別化が広がる中で労働条件を周知する方法の一つとして近年重視され、明示すべき事項の範囲が拡大されてきた経緯があります。報告書の指摘もその延長線上にあると見ることもできますが、ここでいったん立ち止まり、「労基法15条」の実際の運用とその機能をあらためて考えてみる必要があると考えます。
 言うまでもなく労働契約も「契約」(当事者間の相対立する意思表示の合致)ですから、その内容(権利と義務)は合意原則(労契法1条、3条1項及び8条、労基法2条1項)に基づくものでなければなりません。ところが、労働契約の締結時に労働条件の詳細についてまで実質的な合意が存在するケースはむしろまれです。この点では、労働契約における合意を「成立要件としての合意」と「解釈対象としての合意」に分け、後者については階層的・複合的な「合意の束」とする見方がありますが(※3)、実態に沿った考え方であると思われます。
 そうであるなら、労基法15条を労働契約における合意形成のプロセスの中でどのように位置づけるのかを明確にしておくことが必要です(例えば、契約成立後の詳細事項決定に向けた申し入れなのか、あるいは合意プロセスとは無関係な通知なのかなど)。そのような位置づけをあいまいにしたまま、同法15条に基づく明示の範囲を次々と広げていくことは、その運用実態(多くの場合、使用者からの一方的な通知であることなど)と相俟って、かえって合意原則を骨抜きにしてしまうおそれがないでしょうか。換言するなら、労働者を保護するはずの同法15条が、形骸化した「同意」を取り付ける「道具」となってしまう懸念です。
 報告書では、同法15条に基づく明示事項として「就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲」を追加することが適当としていますが、使用者は今でもこれを明示することができます。今回それを刑罰で強制するのは、それが労働者保護に資すると判断したものと推察しますが、疑問が残ります。
 「不明確条項の解釈準則」という考え方があります。約款の解釈方法として確立してきたもので「表示作成者がより明確な形で条項を表現しえたにもかかわらず、不明確なまま放置した場合に責任を負い、表示作成者は条項の文言の意味を自己の有利に援用することはできないとの効果が生じる原則」(※4)です。この考え方が労働契約においても妥当するなら、使用者(表示作成者)としては、フリーハンドを残しておくためにあらゆる事態を想定した規定を盛り込んでおきたいところでしょう。「就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲」に関して言えば、広い範囲で変更があり得ることを明記することで、万に一つでもあるかもしれない転勤・配転命令をめぐって紛争の余地を減らしておきたいと考えるのが自然でしょう。
 もとよりそれは使用者の意向としては理解できるところですが、その方法として労基法15条の基づく通知を用いることには、賛同できません。前述のとおり、当該通知は多くの場合、一方的なものであり、労働者は同意の有無をめぐって新たな紛争が生じることが考えられるからです。
「就業の場所・従事すべき業務の変更の範囲」の明示を徹底したいのであれば、職業安定法5条の3に基づく求人段階の労働条件明示義務として付加することが適当です(同条に労基法15条と同様の罰則を設けることにも賛同できます)。

(2)変更時の労働条件明示の義務化
 報告書は「労働基準法15条1項に基づく書面明示については、労働条件の変更時も明示すべき時期に加えることが適当」(就業規則の新設・変更の場合や法令の新設・改廃の場合等は除く)としています。
 ここでも労基法15条の枠組みをもって変更事項を明示するとしていることから、前記(1)と同様の問題を生じ、労働条件の変更にあたって労使が合意を形成していく過程の中で15条に基づく措置をどう位置付けるかが問われています。
 労働条件の変更にあたってもっとも重要なことは、対等な話し合い(労使コミュニケーション)を通じて合意(個別合意を含む)を図ることです。そして、合意が得られなければ、再考する姿勢こそ重要です。そのために必要な措置としては、例えば、労働条件の変更にあたって労働者が十分な説明や情報提供を求める権利や、労働者が変更内容を検討した上で場合によっては異議を唱える仕組みを整備することなどが考えられます。この点が抜け落ちたまま、一方的な通知を義務化することには大きな違和感があります。

2 多様な正社員といわゆる正社員との待遇の均等・均衡
報告書では、労働契約法3条2項がいわゆる正社員と多様な正社員間にも適用されることから、「均衡を考慮することが望ましい」としています。
 しかし、パートタイム労働者・有期契約労働者と正社員間に求められる均等・均衡原則の水準や判断方法が、多様な正社員といわゆる正社員間に適用されないこと自体、バランスを欠いていないでしょうか。これでは「労使双方にとって望ましい形で、多様な正社員の更なる普及・促進を推進していくこと」は難しいでしょう。
 「人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原則」のもと「およそ人はその労働に対し等しく報われなければならない」(※5)とする考え方は今日、パート有期労働法8条及び9条という到達点(均等・均衡原則)を築いており、この枠組みをいわゆる正社員と多様な正社員間に適用することは当然と考えます。速やかに立法措置を講じて多様な正社員といわゆる正社員間に同法8条及び9条が規定する「判断の枠組み」を適用すべきです。

Ⅲ 労使コミュニケーションの充実
 無期転換ルール等の運用にあたって重要なことは、報告書でも指摘されているように「適切な労使間のコミュニケーションを図りながら制度の設計や運用を行うこと」です。
この点に関し、厚労省の「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」(※6)は、無期転換ルールへの対応にあたって、中長期的な人事労務管理の観点から、①納得性の高い制度をどう構築するか、②無期転換後の労働者の役割や責任の範囲をどう設定するか、③就業規則等の諸規定をどう整備するかなど様々な検討と対応が必要であるとしていますが、重要な指摘と考えます。
 そして、こうしたプロセスに労働者・労働組合(有期契約労働者を含む)が適切に参画し、意見が反映されることを通じて、無期転換ルールをはじめとする人事制度の全体像やその運用実態等について労使がよく理解していくことが重要です。どちらか一方に理解不足があったままでは、無期転換ルール等の円滑な運用は困難です。従って、こうした労使の対等の話し合いを支援していく立法ないし施策の充実が求められています。

(※1)「多様化する労働契約のルールに関する検討会」(第4回)配付資料2「ヒアリング事項に関する意見」(島﨑量弁護士)
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000796177.pdf
(※2)ブラザー工業事件/名古屋地判昭59・3・23
(※3)野田進「労働契約における『合意』、日本労働法学会編『講座21世紀の労働法(第4巻)』(有斐閣、2000年)収録
(※4)根本到「労働契約による労働条件の決定と変更」、西谷敏・根本到編『労働契約と法』(旬報社、2011年)収録
(※5)丸子警報器事件/長野地上田支判決平8・3・15
(※6)https://muki.mhlw.go.jp/
前画面全労働の取組一覧

組合員ログイン
ログイン
新規組合員登録 パスワード再発行