行政体制・行政運営 −労働行政体制・行政運営など

2011年05月
東日本大震災に伴う労働施策の現状と課題
−労働行政で何が起きているのか−

(本稿は、『季刊・労働者の権利』(Vol.289、2011年4月、労働弁護団発行)に寄稿したものを転載させていただきました。)

全労働省労働組合 中央執行委員長 森崎 巌

 

 3月11日午後に発生した東日本大震災は、私たちがこれまで想像したこともない甚大な被害をもたらし、日々明らかとなる深刻な実態の前に言葉を失う。

 労働行政においても職員が命を落とした。津波の被害を受けて依然、行方不明の職員もいる(いずれも勤務中、陸前高田市)。また、両親・兄弟・子供を亡くしたり、住居を失った職員も多く、被災地の労働行政は、自らも被災者である職員が厳しい状況の中で必死の努力で業務を運営している。しかしながら、大震災の爪痕は大きく、多大な困難を抱える被災者への支援は簡単なことではない。来庁する求職者、労働者、事業主の多くは大震災の被災者であり、まずは傾聴の姿勢を重視し、諸施策(特例措置等)を積極的に活用しながら、少しでも安心を与えていく姿勢が求められる。

 徐々に回復の兆しを見せ始めていた雇用情勢も、今後、一気に悪化していくおそれがある。すでに広範な産業分野で事業の休止、廃止が広がり、解雇、雇い止め、内定取り消しなどの動きが生じている。

 本稿では、大震災に伴う労働施策の現状を明らかにしつつ、労働行政をこの深刻な事態に即して如何に強化していくか、そのための課題を考察する。なお、大震災に伴う諸施策は日々追加、更新されており、その評価も執筆時点のものであることに留意いただきたい。

 

1 大震災に伴う主な労働施策の概要等

(1) 労災保険給付の特例措置等

事業場の消失や医療機関が倒壊等で所定様式の提出が困難な労働者又は遺族については、労災保険給付の請求にあたって所定事項を任意様式に記載することで差し支えなく、その際、事業主の証明及び診療担当者の証明を受けられない場合にも受理し得ることとする。また、非指定医療機関に受診した場合であっても、遡及して指定することを認め、自己負担のない現物給付(受診)を極力可能とする(基労補発0311第9号、同0314第1号)。

業務上外等の判断にあたっては、昭和49年10月25日付基収第2950号「伊豆半島沖地震に際して発生した災害の業務上外について」及び平成7年1月30日付「兵庫県南部地震における業務上外等の考え方について」等で示された考え方に基づくこととし、「天災地変による災害については業務起因性等がないとの予断を持って処理することのないよう特に留意すること」とする。

また、被災地等の労働局及び労働基準監督署においては、「緊急相談窓口」を設置するほか、避難所への出張相談等を実施する。

 

(2) 雇用保険給付の特例措置等

災害救助法適用地域に所在する適用事業所に雇用される被保険者ついては、雇用保険給付の特例を適用する(職発0315第3号、職保発0328第1号)。

具体的には、

(a)原則として、受給者の住居地を管轄する公共職業安定所以外の安定所でも受給できることとする。

(b)事業所が地震によってやむを得ず事業所を休止、廃止されたことで休業するに至り、労働の意思・能力を有するにも関わらず就労できず、賃金を受けることができない状態にあるときは、失業しているものとみなして雇用保険給付(求職者給付)を支給する。

(c)災害救助法適用地域(東京都を除く)に居住する受給資格者であって、雇用保険法第33条の給付制限(3カ月)を受けている者について、3月11日現在で給付制限期間が1カ月を超える者については、3月11日以降の失業認定を可能とする。

(d)災害救助法適用地域(東京都を除く)に居住する受給資格者であって、基本手当の所定給付日数の終了日が平成24年3月10日までにある場合、個別延長給付の支給決定にあたっての応募要件を問わない。

(e)以上の特例措置は、福島第一原子力発電所の影響で避難及び屋内退避の指示のある地域の事業所が休業に至り、就労できず、賃金を受け取れない場合においても適用する。

また、被災地の公共職業安定所において「特別相談窓口」を設置し、特例措置を始め各種の施策を活用したきめ細かい相談・援助を図る。

 

(3) 雇用調整助成金等の特例措置

雇用調整助成金及び中小企業緊急雇用安定助成金について、大震災に伴う「経済上の理由」によって事業活動が縮小した場合、新たに「東北地方太平洋沖地震等被災地事業主」として特例を適用する(職発0317第2号)。当該事業主については、生産指標(5%減)の確認期間を3カ月から1カ月に短縮するとともに、平成23年6月16日までの間は震災後1カ月間の生産指標の値が減少する見込みである事業所も対象とする。

 

(4) 職業相談・職業紹介の強化

大震災によって30万人規模の人たちが避難生活を強いられているほか、大量の離職者・求職者に対する雇用を確保するため、「震災被災者対象求人」の確保に努めながら、職業相談・職業紹介を強化する。加えて、政府の被災者等就労支援・雇用創出推進会議等を中心に被災者雇用の奨励を目的とした新たな助成制度の検討(補正予算関連)を進めている。

 

(5) 労働保険料等の納期限の延期

労働保険料等の納期限について、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県に所在する事業場(労働保険事務組合を含む)を対象に平成23年3月11日以降に納期限が到来するものについて、災害が止んだ日から2カ月以内の日(具体的には、近く官報告示)まで延期する(基発0314第1号)。

 

(6) 被災者への雇用促進住宅の提供

被災者の救援を目的に雇用・能力開発機構が所有する雇用促進住宅の空戸を緊急避難のために一時的に提供する(提供期限は、原則として平成23年9月末日まで)。その際、福島第一原発周辺の避難者(自主避難を含む)に対しては、その事情を十分考慮する(職発0312第1号、職発0319第1号)。

 

(7) 基金訓練の特例措置

基金訓練(緊急人材育成支援事業における職業訓練)を受講し、訓練・生活支援給付の支給を受けていた者が、大震災によって訓練の受講が困難となった場合であって、当該訓練が中止にならない場合には、「やむを得ない事情」により訓練に出席できないものとして、訓練・生活支援給付の支給を行う。

 

(8) 被害を受けた新卒者等への配慮に関する要請

本省及び各労働局から経済団体等に対して、?採用内定を受けた被災地の新卒者等が可能な限り入社できるよう努力すること、?被災地の新規採用者の入社時期等について個別の事情を十分に勘案し、柔軟な対応を行うこと、?被災地の学生・生徒等を積極的に採用すること等を要請する(職派若発0322第1号)。

 

(9) 労働基準法等に関するQ&Aの周知

地震(計画停電を含む)に伴う休業に関する労働基準法の解釈等(第1版)及び派遣労働者の雇用管理、解雇、採用内定者への対応、1年単位変形労働時間制に関する解釈等(第2版)をQ&A形式でそれぞれとりまとめ、周知する(平成23年3月19日及び3月31日付事務連絡)。

 

(10) 未払賃金の立替払事業の運営

災害救助法適用地域(東京都を除く)に本社機能を有する事業場(中小企業)の労働者については、立替払事業に係る申請に際し、添付資料の簡略化等によって労働者の負担軽減を図る。また、事務処理体制を確保しつつ、迅速処理を図る(基発0323第4号)。

 

(11) 電離放射線障害予防規則の改定

原子力緊急事態解除宣言がなされる日までの間、緊急事態応急対策実施区域(福島第一原発から半径30キロメートル圏内)において、特にやむを得ない緊急の場合(事故の制御と即時かつ緊急の救済作業)は電離放射線障害予防規則第7条第2項の被曝上限を100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに改定する(平成23年厚生労働省令第23号及び基発0315第7号)。

 

(12) 復旧・復興工事における労働災害防止

本省及び各労働局から建設業団体等に対し、災害復旧工事における、?余震による2次災害の防止、?土砂崩壊災害の防止、?建築物等の解体、がれきの処理における石綿等ばく露の防止等の徹底を要請する(基安安発0318第1号、基安化発0318第8号)。

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2 労働行政における大震災の被害等

これらの労働施策を担う被災地における労働行政の各職場は、大震災直後から職員の安否確認と並行して、一部の庁舎を「避難所」(職員が炊き出し等で支援)とするなど地域の中で求められる努力を重ねてきた。

行政体制の再確立に向けて大きな困難となったのは、地震、津波等によって多くの庁舎がその機能の全部又は一部を喪失したことであった。特に、釜石(岩手労働局管内)、気仙沼(宮城労働局管内)等の各庁舎(労働基準監督署、公共職業安定所)は大きく損壊し、使用不能に陥った。また、富岡、相双(福島労働局管内)の各庁舎は、原子力発電所の事故の影響を受けて閉庁を余儀なくされた。

開庁した各庁舎においても、ライフライン(電話、電気、水道、ガス等)の復旧の遅れが業務運営に大きな支障を生じさせた。特に、今日の業務運営は、労働基準行政情報システム、労災行政情報管理システム、労働保険適用徴収システム、ハローワークシステム、ADAMS等の複数の全国ネットワークシステムを利用した事務処理を基本としており、電源及び通信回線の確保の遅れが広範な業務に深刻な影響を及ぼした(計画停電が実施された地域の職場も同様)。この点では、急きょ手作業による事務処理方法を確立したが、膨大な作業量を強いることとなり、一部で混乱も生じた。

また、被災地の各職場では、親族を失ったり、住居を失った職員も数多く、避難所から通勤を続ける職員や通勤手段が確保できず庁舎に寝泊まりしながら勤務を続ける職員も依然として多い。そして、見逃せないのは、被害の大きかった沿岸部に所在する労働基準監督署、公共職業安定所の多くが職員定員6人〜8人の極めて小規模の職場であることであって、休日・深夜に及ぶ勤務が続く中、個々の職員の体力的、精神的負担は余りにも大きくなっている。

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3 労働施策の課題と改善方向

(1) 雇用確保に向け実効ある施策の推進

(a)特例措置の拡充・見直し

大震災直後に措置された雇用保険給付の特例措置は、被災者の現状をとらえたものであるが、これまで後退を重ねてきた雇用保険制度(※1)をわずかに手直ししたと見ることもでき、抜本的な拡充・見直しが必要である。例えば、雇用保険給付の特例措置に関しては、労働市場(各地域)全体が壊滅的な打撃を受けるという未曾有の事態の中、今後の求職活動が困難を極めることは明らかであり、所定給付日数(多くは90日〜150日)等の更なる改善が求められる。加えて、避難生活が長期化せざるを得ない実情にてらし、認定日変更の限度(56日以内)の緩和や基本手当日額の算定困難な場合(関係書類消失等)の特例措置等を斉一的に講じるべきである。

また、被災地ではすでに解雇、雇い止め、内定取り消し等の動きが広がっているが、非正規労働者の一部や採用内定者等は、そもそも雇用保険の被保険者ではない。しかしながら、困難な中で求職活動を始めなければならない事情は、被保険者と何ら変わらないことから、こうした人たちの求職活動を幅広く支援する新たな制度の確立(例えば、一定の採用内定者や自営業者等を幅広く雇用保険の被保険者とみなすなど)が必要である。

雇用調整助成金等の特例措置は、「経済上の理由で事業活動を縮小した場合」に適用し得るとしており、原子力発電所の事故に伴う避難勧告、避難指示など法令上の制限を理由とする場合については対象外とされているが(原子力損害賠償法に基づく補償を想定していると思われる)、迅速な救済による雇用確保を重視する立場から、特例措置の対象に含めた上で、国(雇用保険特別会計)による求償を認めるべきである。また、雇用保険の求職者給付の最高日額が雇用調整助成金の上限となっていることから、実情に即した引き上げを検討すべきである。

(b)雇用奨励を目的とした助成金の在り方

現在、被災者雇用の奨励を目的とした新たな助成制度の検討が進められているが、こうした奨励金・助成金の適用対象は、「直接雇用」「常用雇用」を前提とした雇用を原則とすべきである。有期雇用(トライアル雇用、実習型雇用等)を前提とした助成金等は、継続雇用を意図せず高額な助成金を目当てとした申請を排除できず、必ずしも雇用拡大に結び付かないばかりか、新たな離職者を生じさせるおそれがある。

(c)新たな雇用創出策

甚大な被害を被った地域における雇用創出策は、近年の経済対策の枠を超えた規模と手厚い支援が求められる。具体的には、被災地で実施される公共事業に被災失業者が雇用される割合を定め、その雇用を促進することとした「阪神・淡路大震災を受けた地域における被災失業者の公共事業への就労促進に関する特別措置法」をベースに住宅支援や職業訓練を組み合わせた総合的な支援が講じられるべきである。

(d)職種転換等の支援

被災地においては、従来の産業(各地場産業)の復興を強力に支援していくことが重要であるが、他方、多くの求職者が職種転換を余儀なくされ、広域的な求職活動(その後の転居)が必要となることも想定しなければならない。その際、こうした一連の活動を支援する諸制度の整備が急務である。具体的には、被災者一人ひとりの事情に即した職業相談・職業紹介、生活保障を伴った職業訓練(少なくとも一年以上)、広域的な求職活動の支援措置等をそれぞれ充実すべきである。

なお、公的職業訓練はこれまで縮小され続けており、基金訓練を始めとする民間(専門学校等)主導の訓練が広がっているが、地域的な偏在や労働市場の実情に合わない訓練科目が多く、その効果も限定的であることから、あらためて公的職業訓練の充実を図るべきである。

 

(2) 労働条件・安全健康確保に向けた実効ある施策の推進

(a)使用者の責務の明確化

厚生労働省がとりまとめた労働基準法等の解釈(Q&A)は、基本的に従来の行政解釈を踏襲したものだが、一部で補強的な見解が必要である。例えば、Q&A(第1版)は計画停電に関して、昭和26年10月11日付基発第696号「電力不足に伴う労働基準法の適用について」を示しながら、「計画停電の時間帯、すなわち電力が供給されない時間帯を休業とする場合、原則として、労働基準法第26条に定める使用者の責に帰すべき休業に該当せず、休業手当を支払わなくても労働基準法違反にはならない」としているが、昭和20年代とは全く異なる今日の社会・経済情勢を考察し、使用者として休業回避の具体的努力の在り方を示した上で判断すべきであろう。また、労働基準法第26条は、あくまでも刑罰をもってその確保が強制される最低労働条件であって、当該休業に関わる民事的な権利関係は別途の判断を要することも付記されるべきである。

派遣労働者の休業に関する見解にも疑義がある。Q&A(第2版)は派遣先事業場の被災によって派遣労働者を就業させることができない場合について、使用者の責に帰すべき事由に該当しないとは必ずしも言えないとし、曖昧な言い回しを用いるが、もともと派遣先事業場の諸事情(経営難、派遣契約の解除等)で派遣労働者の就業が困難となる場合は少なくなく、派遣元事業場が被災していないのであるなら、原則として、使用者の責に帰すべき事由に該当すると解すべきである。

(b)電離放射線障害防止規則の見直し

厚生労働省は福島第1原子力発電所の重大事故を受けて、3月15日に前記の省令改定を行っている(特定の放射線業務に従事する労働者の被曝線量上限の引き上げ)。この点について厚生労働省は、専門家の意見を聴取した上での措置としているが、事故発生後に労働者の健康確保に必要な規制を緩和すること自体、全く異例であり、法令改定の手続きを経ているものの、事実上、超法規的措置と言えるだろう。少なくとも、規則改定の必要性、労働者の健康に及ぼす影響の分析、新たに必要となる管理と健康確保策等を直ちに明らかにすべきである。

(c)原子力発電所周辺地域における健康確保措置

福島第1原子力発電所の事故は3月18日現在、「所外へのリスクを伴う事故」(国際原子力事故評価尺度)と公表されており(経済産業省原子力安全・保安院)、文部科学省の放射線量測定においても原子力発電所から北西に約30キロの浪江町内で150マイクロシーベルト/時を観測し、屋内退避区域外の飯舘村内でも52マイクロシーベルト/時という高い数値を観測している(3月18日現在)。つまり、これらの地域(屋外)では、電離放射線障害防止規則第3条に定める「管理区域」(外部放射線による実効線量と空気中の放射性物質による実効線量との合計が3月間につき1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある区域等)を大きく超える放射線被曝が生じているのであって、そこで今も交通警備や清掃等の業務に常時従事する労働者がいる。

この点では電離放射線障害防止規則の適用が考えられるが、これらの業務はそもそも労働安全衛生法施行令別表第2に定める放射線業務に該当しない。放射線業務以外で労働者が同規則が定める被曝線量上限(※2)を超える事態は全く想定されていなかったのである。しかも、これらの地域では外部被曝に止まらず、微量とは言え飛散した放射性物質を体内に取り込む内部被曝のおそれがあること、労働時間外であっても同程度の被曝が継続すること等を合わせて考慮するなら、労働者の健康被害のおそれを考えざるを得ず、これらの地域で働く(そのための居住を含む)労働者の健康確保策(電離放射線障害防止規則に準じた措置等)を直ちに講じるべきである。

あわせて、福島市、郡山市などの周辺地域でもこの間、比較的高い水準(2〜12マイクロシーベルト/時、文部科学省)の放射線量が観測されており、こうした状況が継続する以上、必要な健康確保措置を明らかにすべきである(継続的なモニタリングの実施、放射線測定器による被曝管理、作業上の遵守事項の徹底等)。

(d)危険・有害な作業における重層的請負関係の解消

福島第1原子力発電所で作業をしていた協力企業(下請企業)の労働者3人が3月24日、ケーブルの敷設作業中に173〜180ミリシーベルトを被曝し、放射線熱傷を負ったことが明らかとなった。

近時、重層的な請負関係のもとで下請企業の労働者が、十分な安全確保措置、労働安全衛生教育等が講じられないまま、危険・有害な作業に従事する状況が見受けられる。使い勝手のよい労働力確保策(派遣・請負)が、労働者の安全と健康を犠牲にしながら、広がっていると言えるだろう。重層的請負関係のもとでの作業は、安全確保に必要な連絡調整や長期・継続的な健康管理を大きく阻害し、また、苛烈な請負価格競争が下請企業を安全確保措置や安全衛生教育を軽視する姿勢へと向かわせている。このような事態の解消に向けて法制上の規制を講じるべきである。

 

(3) 労働行政体制の拡充

今後、被災地に留まる被災者及び全国に避難した被災者への支援を目的とした労働施策は、かつてない規模で展開されなければならない。

すでに雇用調整助成金、雇用保険、未払賃金の立替払制度等の問い合わせが各職場に殺到しており、電力不足の問題とも相俟って、これらの申請が東日本を中心に急増することは間違いない。そして、こうした事務の一つ一つに被災者の置かれた実情や心情を考慮した丁寧な対応と専門性に裏打ちされた効果的な助言、指導が求められる。

被災労働者又は遺族への労災補償事務も膨大となるだろう。阪神・淡路大震災時の数百倍、数千倍の件数が想定される(兵庫県南部地震は午前5時46分、東北地方太平洋沖地震は午後2時46分であり、業務遂行中の労働者が多かったと推定される)。加えて、関係書類の消失や関係者の死亡・安否不明等で労働者性、給付基礎日額、生計維持関係、特別加入者(一人親方等)の業務遂行性等に関する事実認定は相当な困難が予想される。

被災地での復旧・復興に向けた土木・建築工事における労働災害防止も重要な課題となる。特に、建築物の解体やがれきの撤去等の作業にあたって、石綿ばく露防止対策の徹底が重要となる。また、メンタルヘルス対策(PTSD対策を含む)が必要であり、労働局・労働基準監督署と産業保健推進センター(メンタルヘルス対策支援センター)との連携が重要となる(産業保健推進センターは、先の「事業仕分け」に伴って事業縮小が決定されているが見直すべきである)。

これに対して、被害が大きかった沿岸部の労働基準監督署、公共職業安定所はいずれも職員数の少ない体制(6人〜8人)であることから、厚生労働省は全国規模の応援態勢の確立を急いでいるが、連年の定員削減の影響は全国的に深刻であり、体制確保の手立ては隘路に陥っている。労働行政体制の推移を見ると、国家公務員の人件費削減方針のもと、2001年度から2010年度にかけて1480人(地方労働行政全体)の人員が純減となっている。そして、2011年度は136人の純減と新規採用抑制(※3)によって大量の欠員が生じることが明らかとなっている。必要とされる諸施策を着実に推進するため、定員削減計画及び新規採用抑制方針を見直し、数百人〜1千人規模の臨時・緊急の増員措置が不可欠である。

 

(※1)小川洋「雇用保険制度の課題と改善方向」(http://www.zenrodo.com/teigen_kenkai/t02_koyouhousei/t02_1002_01.html)は、雇用保険制度について実務をふまえた問題点を指摘している。

(※2)一般人の放射線被曝上限は、年間につき1ミリシーベルト(3カ月につき250マイクロシーベルト)であり、放射線作業従事者であっても、5年間につき100ミリシーベルトかつ1年間につき50ミリシーベルト(但し、女性(妊娠する可能性がないと診断された者を除く)については3カ月間につき5ミリシーベルト)の被曝上限が定められている(電離放射線障害防止規則第4条)。

(※3)「平成23年度の国家公務員の新規採用抑制の方針について」(2010年5月21日、閣議決定)は、各府省の定員とは別に平成23年度の職員採用数の上限を定めたことから、公共職業安定所では23名、労働基準監督署では53名(労働基準監督官)がそれぞれ年度を通じた職員採用数の上限とされている。

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