公務員制度 −公務員の働き方、労働条件など

2014年6月

国家公務における人事評価制度の深刻な弊害と改善方向
全労働中央執行委員長 森崎 巌

 

 

(A) 「信賞必罰」の新人事評価制度の導入の経緯

1 新人事評価制度導入の背景と政府の動き

 わが国では、1980年代半ば以降、これまでの「日本的経営」への自信喪失が広がり、これと相俟って、年俸制を始めとする成果主義賃金の導入が進んだ。

 特に、バブル崩壊以降は、成果主義賃金の導入が一つのブームとなり、年功賃金制度や終身雇用制度を縮小させる一方、目標管理制度、コンピテンシー評価制度などの結果(成果)を賃金制度に反映する新たな人事制度が急速に普及した。また、これらの主要な目的の一つが人件費の削減にあったことから、非正規雇用の拡大等とも相俟って推進された点にも特徴がある。

 公務においてもこうした動向が反映し、1997年の「行政改革会議最終報告」が新たな人事評価制度の確立を図ることを提起した(同報告は、主に中央省庁の再編と内閣機能の強化を提起しているが、その中で「評価機能の強化」に言及)。

 また、同年に設置された「公務員制度調査会」でも、1999年の「基本答申」の中で国公法の定めるメリット・システム(スポイルズ・システム(猟官制)に対比する意味での成績主義)の維持を前提に、能力・実績に応じた昇進・給与を支える人事評価システムを整備することを提起した。

 そして、中央省庁再編を控えた時期(再編は2001年1月)、これらの再編を「器の改革」と呼び、以降は「中身の改革」が必要との論調が強まり、大胆な行政改革、公務員制度改革が政府内外から唱えられた。その具体化は、「行政改革大綱」(2000年12月、閣議決定)として取りまとめられ、この中では、「信賞必罰の人事制度の実現」「年功的人事制度から能力・実績主義の人事制度へ」等が掲げられた。さらに、翌年12月に閣議決定された「公務員制度改革大綱」では、職階制に替えて能力等級制度の創設を前提に、能力評価と実績評価からなる新評価制度の導入が決定された。

 他方、人事院からも2001年の「能力、実績等の評価・活用に関する研究会」最終報告で、従来の勤務評定制度に替わる実績評価・能力評価を中核とした新たな人事評価システムの導入が提起された。

2 人事評価制度導入に向けた試行と法整備

 こうした経緯を経て、政府は「今後の行政改革の方針」(2004年12月、閣議決定)の中で、「行政改革大綱」等の実行を念頭に、「(人事評価制度の導入に向けた)改革関連法案の提出を検討する」「現行制度の枠内でも実施可能なものについては早期に実行に移す」とした。その際、政府が検討を進めた新人事評価制度は、2005年度中に本府省を対象とした評価の試行に着手するなど段階的な取り組みを進めることが決められた。

 これを受けて、総務省・人事院は、第1次試行(2006年)から全職員を対象としたリハーサル試行(2008年)まで計4回にわたる人事評価の試行を行った。

 法整備の面では2007年4月、政府は新人事評価制度の構築などによる能力・実績主義の徹底と再就職に関する規制の見直しを中心とする「国家公務員法改正法案」を国会に提出した。

 この改正は、従来の「職階制」に代えて、新たに「標準職務遂行能力」の基準を定め、1年乃至半年を単位に職員の「能力」や「実績(業績)」を評価し、その結果を「昇任」「昇格」「昇給」「勤勉手当(勤勉率)」「分限処分」にまで広く活用することにより、「能力・実績主義」に基づく人事管理を推し進めようとするものである。

 この法案は、安倍内閣(第一次)によって同年6月30日に成立した。この法律の成立により、人事評価制度等に係る規定は2009年4月1日から施行された。

 なお、人事評価制度をめぐる近時の動向に関しては、人事院が2013年の「報告」の中で、人事評価の適切な実施と昇給の効果への在り方等について検討を行うことを明らかにしている点を指摘しておきたい。

 具体的には、人事評価結果の給与への反映について、「下位の評語が付与されたものは必ず下位の昇給区分に決定されているが、現在はそれが少数となっている」ことに触れ、「職員の能力・実績を的確に評価し、処遇に反映していくことが重要」として、「下位の評語の付与を含め実情に即した適切な人事評価を行うことが肝要」としている。

 一方で、「特に優秀な者の昇給の効果が標準者の2倍と大きく、結果としてチームで職務を遂行する環境に必ずしもなじまない」との問題意識を明らかにしている。

 人事院は、上位の評語に基づく昇給効果を抑制し、下位の評語の付与を増やすことで「格差」を維持する考え方を示したと言えよう。

(B) 国公労連「人事評価アンケート」の概要

日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)は、現行の人事評価制度の問題点や不満・疑問の傾向等を明らかにすることを目的に、同制度の施行から3年が経過した2012年5月に「人事評価制度アンケート」を実施し、5府省庁、5174人(機関別内訳は、a本府省67人、b管区機関1045人、c府県単位機関495人、d地方出先機関2807人、e施設等機関36人、fその他・NA724人)から回答を得た。

 当該アンケートは、a制度の基本設計、b評価者、c調整者、d公務運営への影響、e苦情処理制度、f評価結果の開示内容とその方法、g評価結果の給与等への反映等の各項目に関わって、問題があると思われる事項を選択(複数回答可)する形式による。以下、集計結果を概観する。

(1)短期の数値目標だけが重視される

人事評価制度の基本設計に関しては、60.2%の人が「本来求められる仕事は何かという視点を失い、予め定めた数値目標だけが重視される」と回答し、次いで「短期の評価で判定することが業務実態に合わない」(37・9%)、「人材育成の視点がほとんどない」(30.5%)、「評価項目が限定的であり、トータルな評価とならない」(29.9%)と続いている(図表1)。現行の人事評価制度は、短期(6ヵ月)で数値目標を掲げ、その達成を重視するが、そのことが行政運営の実情に合わないばかりか、各行政分野に求められる本来の役割を見失わせていることに強い懸念が示されている。

 また、基本設計以外の制度に関する回答では、「評価者毎に評価基準があいまい」(59.5%)、「評価者の恣意性は排除できない」(45.7%)、「自己アピールのうまさで評価が決まる傾向がある」(37.6%)の順に高い割合となっており、評価結果の公正・公平性に対する強い疑問が示されている(図表2)。

(2)評価者によって評価に大きな差

評価者に関する回答では、「評価者毎に人事評価の分布が大きく異なる」(35.8%)、「評価基準の統一を図る訓練が行われていない」(31.2%)、「人材育成の観点がほとんどない」(27.8%)の順で高い割合となっている(図表3)。同制度の本格実施前から評価者に対する事前の研修・訓練の不十分さが指摘されていたが、その後も改善はなく、あらためてその不十分さが浮き彫りになった。

 また、日常の業務を通じて、管理者(評価者)からの指導、助言、援助がないと回答している者が2割を超えている点は、人材育成の視点が乏しいとの指摘とも通じる。

 調整者に関しては、「調整者が被評価者の業務を知らない」(30.9%)、「調整者が被評価者の業務を知らない(精通していない)」(30.9%)、「調整の仕組み(技術、ノウハウ)が確立していない」(30.8%)の順で回答者の割合が高くなっている(図表4)。被評価者のことも、被評価者が行っている業務のこともほとんど知らない調整者が、最終的な評価を客観的に下すことができるのかという、根本的な問題が指摘されている。

(3)非効率な行政運営が広がる

 人事評価制度が公務運営に与える影響については、「目標項目しか重視されず、公務運営が非効率となる」(44.1%)、「数値重視の人事評価が職員のモチベーションを阻害している」(36.4%)、「目標設定が数値で定められることから、質の高い公務運営を難しくしている」(31.7%)の順に高い割合を示している(図表5)。

 効果的、効率的な行政運営にあたっては、各職員が従事する行政分野の意義と目的をふまえ、大局的な見地から機敏かつ的確な判断していくこと重要であるが、日常の行政運営では、細分化された各業務の数値目標が前面に押し出されていることから、かえって非効率な行政運営が広がっている状況が垣間見える。

(4)不透明な苦情処理制度

 苦情処理制度の問題点に関しては、「苦情処理の手続きが不透明(説明不十分)」が38.7%と最も多く、次いで「不利益を受けるおそれを感じる」が30.2%となっている(図表6)。

 評価者や調整者に関する設問では、多くの回答者が「公正な評価」に疑問を抱いていることがわかるが、それに対して「苦情」をどこに、どう伝えればいいのか、必要な情報が十分に周知されていない状況がうかがえる。

 また、評価結果等について苦情を訴えると不利益を受けるおそれがあると回答している者が3割にものぼること自体、深刻であり、行き場のない不信感、閉塞感が蔓延していることが見て取れる。

(5)評価結果の開示

 評価結果の開示については、「個々の評価の判断内容を開示すべき(結論だけでは能力開発につながらない)」が42.0%、「分布が開示されないことから評価者、調整者の恣意的な運用が検証できない」が41.5%と高い割合を示している(図表7)。実際、ほとんどの職員に対しては、期末面談時にA、B、Cといった全体評語(結果)だけが示され、どうしてそのような結果になったかの説明はなく、「評価はブラックボックス」と受け止められている。

 評価結果の詳細を開示することは、評価の納得性を高めるためにも、人材育成の観点からも重要であり、同時に制度が公正に運用されているかどうかを検証するためにも重要である。

(6)不公平感に強い不満

 評価結果の給与等への反映については、「未成熟な制度のまま給与などの労働条件に反映されることから不公平感が強い」が68.7%と圧倒的に多くなっている。また、「給与等への反映の段階で相対評価に還元されることから、職場のチームワークが阻害される」との指摘も27.8%に及び、制度の根幹への不信感とともに、職場への悪影響を懸念が示されている(図表8)。

 

(C) あるべき人事評価制度の方向性

(B)で見たとおり、「信賞必罰の人事制度」を掲げて導入された人事評価制度は、国家公務の職場と職員、ひいては行政運営にまで様々な弊害をもたらしており、事態は深刻である。多くの職員は、こうした人事評価制度を運用し続けていることに納得していないばかりか、不信感や嫌悪感すら抱くに至っており、現行の人事評価制度は大きく崩壊していると言えよう。

 もっとも、こうした事態は、驚くに価しない。

 1990年代から多くの民間企業に導入された成果主義の人事制度(成果に応じて賃金や賞与を決める仕組み)について、専門家を集めた経済産業省の報告書(※1)も、「周囲を見渡して、『大成功!』という事例を寡聞にして知らない。逆に。成果主義の失敗事例報告や成果主義バッシングが盛んだ」等と指摘している。

 ひとり国家公務に導入された成果主義だけが「成功」すると考える方がおかしいのである。むしろ、驚くべきは、こうした事態をまるで直視しようとはせず、多くの重大な問題点を湖塗しながら、漫然と運用を継続していることである。

 これまでの調査・分析から明らかとなった種々の問題点は、人事評価制度の基本設計そのものに関わる部分も多く、現行制度の抜本的な見直しが求められている。

 以下、いくつかの先行的な研究成果も参照しながら、解決すべき課題を再整理し、その上で現行制度の抜本的な見直し方向を明らかにする。

1 優先的に解決すべき問題点

(1)評価者、被評価者の「納得感」の欠如

国公労連が実施したアンケートからも明らかなように、人事評価制度への不信・不満はきわめて大きい。

 とくに、「評価者ごとに評価基準が統一されておらず、恣意的な運用が排除できない」「異なる業務を統一的な評価基準で評価することが困難」「短期(6か月又は1年)に評価が行政運営の実情に適さない」等、制度の根幹に関わる問題点がほとんど解決されていないことが、評価者、被評価者の「納得感」の欠如に結び付いている。

 この点に関して、自らも国家公務員として経済産業省に勤務した経験を持つ中野剛志氏は、次のように指摘する(※2)。

 「成果主義の最大の虚妄は、人間の能力を客観的指標によって的確に測定するという誤った信念にある。その虚妄がもたらす弊害は、企業経営以上に、行政組織においてひどくなるだろう。なぜなら、企業の目的が営利にある以上、企業人の業績は、生産性、売上、利潤率などで、正確ではないにせよ一定程度は表現し得るかもしれないが、営利目的ではない公務員の業績はそれすら不可能だからである」

 多くの国家公務員が抱いている率直な気持ちではないだろうか。

 「業績を数値化することが困難な職務」「個人の能力を測定することが困難な職務」が多いことに加え、「一人の評価者」が「短期間(6か月又は1年)」で評価しようとするなら、評価の客観性など期待すべくもなく、不信感が増幅されるのは当然である。

 また、一人の評価者の評価が絶対視されるなら、上司(評価者)の顔色ばかりうかがう公務員が増殖し、全体の奉仕者としての姿勢は失われ、公正な行政運営が脅かされることになる。

 もっとも、現行制度の中にも、こうした評価者の「バイアス」を是正する措置がないではない。調整者の役割発揮である。しかし、評価者にとって困難なことが調整者にとって容易であるはずもなく、加えて、実際の調整者の多くが、個々の被評価者(職員)の行動を日常的に把握する立場になく、「自己の把握する事実」(調整の根拠となる事実)がほとんど無いことから(顔と名前すら一致していないことが多い)、調整の仕組みは「虚構」というほかない。

 従って、公務における人事評価制度は、「業績を数値化することが困難な職務」「個人の能力を測定することが困難な職務」が多いことを前提とし、被評価者を「一人の評価者」が「短期間(6か月又は1年)」で評価を行う仕組み自体の見直しが必要である。

(2)人材育成(能力向上)の視点の欠如

 人事評価制度は、その目的の1つに人材育成を掲げているが、逆に人材育成を困難にしていることが指摘されている。

 国公労連のアンケートの中でも、「困難な課題に挑戦することがなくなる」「上司・先輩による人材育成(OJT)を阻害している」との声が多い。そればかりか、「高評価を得るため、あらかじめ低い目標を設定していくことが得策」といった、およそ能力向上とは無縁の「ノウハウ」の広がりを指摘する声もある。

 このような事態の広がりも、人事評価制度自体に起因する。

 公務における人材育成も民間と同様、長期的な視点が不可欠であり、必ずしも短期間で成果(業績や能力向上)が認められなくとも、困難な分野や困難な課題に挑戦し続け、上司もそのプロセスに着目しながら、多様な支援(アドバイス)を施していくことが重要である。

 しかしながら、現行の人事評価制度は、「長期間」でなく「短期間」で、かつ業務の「プロセス」でなく「結果」(多くは結果としての数値)を主として評価するのであるから、人材育成の観点は大きく後退せざるを得ない。

 真の意味で成果(業績、能力向上)を上げようとするなら、長期的な視野に立ち、成果に至るプロセスを重視し、それを一層公正かつ効率的なものへとブラッシュ・アップしていかなければならない。プロセスの改善なくして、結果の改善は成し得ないからである。「結果責任」「個人責任」を強調し、もっぱら成果(とくに数値)を求める人事評価制度は、公務において不可欠な人材育成をおろそかにさせ、結果として成果の上がりにくい組織を作り上げていることに気づくべきである。

(3)モチベーション(労働意欲)の低下

 現行の人事評価制度は、被評価者(職員)の金銭的なインセンティブに訴えることで、労働意欲(モチベーション)を高め、能力の発揮を促そうとする仕組みである。つまり、賃金の上げ下げを意識させれば、懸命に働くだろう、言い換えるなら、馬の鼻先にニンジンをぶら下げれば、馬は必死になって必至に走り出すだろうという発想と同様の労働者観、公務員観に依拠している。

 しかし、こうした発想自体が如何に軽薄で幼稚なものであるかを多くの識者が明らかにしている。

 個人を尊重する組織論者として有名な太田肇氏は、次のように指摘する(※3)。

 「給与は、それが積極的な“やる気”をもたらすというよりも、むしろ不足しているときや不公平なときに不満をもらす性質のものなのである。したがって、個人の仕事や分担が不明確ななかで成果主義を取り入れるのは、やはりメリットよりデメリットが大きいといえよう」

 (公務員の場合)「『お金持ちになりたい』『他人より裕福な暮らしがしたい』という動機で、公務員になり、働いている人は少ないはずである(まったくいないわけではないが)。いわゆる『経済人』(ホモエコノミカス)ではないのだ。このことからも、公務員に対する成果主義の導入は、それが不満や不公平感をもたらすことはあっても、積極的に動機づける効果をあまり期待できない」

 また、ベストセラーとなった『虚妄の成果主義』の著者である高橋伸夫氏も、本来、一体的である「職務遂行」と「職務満足」の間に、「金銭的報酬を動機付け」を介在させることで、「金のために仕事をするようになってしまう」と指摘する。そればかりか、金銭的報酬が与えられなければ、職務満足も得られなくなり、さらに職務も遂行されなくなると警鐘をならす(※4)。

 つまり、主目的ではなかった「金銭」が、主目的にすり替わってしまうのである。

 この点は、公務も民間も同じであり、多くの公務員がモチベーション(労働意欲)を低下させている。

 真のモチベーションの向上は、内発的動機付け(仕事自体に意欲を感じる)によるべきであり、評価の結果を賃金の上げ下げに直接結び付けることはメリットよりデメリットの方がはるかに大きい。前出の高橋伸夫氏は、「単純な『賃金による動機付け』は科学的根拠のない迷信である」(※4)と言い切っている。

 なお、現行の人事評価制度は、まず、自己評価を評価者に申告し、それを受けたかたちで評価者が評価を下す方法をとるが、自己評価という行為自体も、混乱を生じさせている面がある。積極的に自己アピールを行う者もいれば、そうした行為を潔しとしない者もいる。わが国には「陰徳を積む」「謙譲の美徳」という言葉があるが、自己アピールを競い合う行為は米国で当たり前であっても、こうした「日本的美風」にそぐわない面がある。

 これも各人の努力に金銭的報酬で報いること中心とした制度設計に起因する矛盾であり、「全体の奉仕者」として身に付けるべき感性(何を持って満足するか)とも齟齬がある。実際、金銭的報酬を狙って「自己アピール」に腐心する公務員の姿を国民は見たくはないだろう。

(4)チームワークの後退と組織力の低下

 現行の人事評価制度は、いわゆる目標管理制度(業績評価)を採用しており、組織目標よりも個人目標を重視した評価が行われている。

 これによって被評価者は、個人の目標を第一に考えることとなり、組織全体で達成すべき目標への意識は薄らぎ、全体として組織力の低下を招くことになる。

 この点について、前出の報告書(※1)は、JILPT(労働政策研究・研修機構)の調査結果(※5)を紹介しながら、「個人間競争の促進によって、職場における協働意識が低下していると考えられ、それがチーム力(チームワーク)の低下を生み出している」「日本企業の強みであるチームワークを損なう懸念も大いにある」と指摘している。

 これは、国公労連のアンケートに示された「職場のチームワークを阻害している」とする多くの声とも合致する。

 一定の目的を持った組織が成果を上げるには、組織(チーム)を構成する各人がそれぞれの専門性を生かしつつも、互いに信頼し、協力し合うことが不可欠であり、とりわけ連年の定員削減により脆弱な業務運営体制となっている公務職場ではなおのことである。野球チームが4番バッターばかりを集めても勝てないことと同様、たとえ、個人の業績に直接結び付かなくても、部下を育てる、他者をサポートする、一人のミスを全員でカバーするといった献身的な行為なくして、組織力量の向上は成し得ない。

 それゆえ、組織(チーム)の全員で獲得した成果について、各人の寄与分を計測し、定量化しようとするなら、それ自体が不協和音となってチームワーク(信頼関係)の後退につながるのである。

 すでに、他者の努力を自己評価と結び付けたり、部下の努力を自己評価に取り込んでアピールする者が出現しているとの指摘がある。このまま放置するなら、他者が成果を上げることを疎んだり、自分の失敗を他者と結び付けたり、さらに他者の失敗を歓迎するといった退廃的な感性が広がりかねない。

 なお、この点について、人事評価制度は絶対評価であるから、競い合いの弊害は少ないとの指摘があるが、昇給等への反映に関わって、評価結果の「順位付け」を行っているのであるから、事実上、相対評価と変わりがない。また、管理者の多くが一定の「分布率」を意識した運用(評価)を行っていることからも、相対評価と大差がないのである。

 個人目標を重視する人事評価制度の弊害に目を向け、これを見直すことが急務である。

(5)目標定量化がもたらす行政運営の変質

 現行の人事評価制度が採用する目標管理制度は、その目標設定と業績評価にあたって、結果としての数値を重視した運用が行われている。

 そこには、いちおうの理由がある。定量化することで客観的な評価を行い、主観的評価(恣意性)を排除しようというわけである。

 しかし、これまで見たとおり、行政実務の成果の多くは定量化が難しく、逆に表面的な数値のみを切り出して評価するなら、行政本来の目標を見失ったり、数値では表せない質的な面での努力を怠ることになり、行政運営は歪んだ非効率なものに変質してしまう。

 この点について、鶴光太郎氏は、目標設定において定量化に関わって、「アウトプットの『量』が目標になれば、計測の難しい『質』への取り組みが疎かになってしまうという問題が発生する」「量的な目標を達成するためのつじつま合わせも資源の単なる浪費である(企業の決算対策もその一例)」等とした上で、目標の定量化がある程度必要であるとしても、あくまで満たすべき最低基準の設定として使うべきと指摘する(※6)。

 鶴氏の「最低基準の設定として使用可」とする議論にただちに与しないが、一般に「量」と「質」はトレード・オフの関係にあり、そこジレンマが生じていることの指摘は公務の実感にも沿う。

 さらに言うなら、行政分野において、「質」の伴わない「量」は、本来の意味での成果にはあたらないと言うべきであろう。例えば、労働行政の施策を通じて、質の劣化した雇用の数をいくら増やしても、労働者の生活の安定、経済社会の活性化には結び付かず、むしろ、貧困の広がりと社会不安の増大を招くことになる(本来なら、求職者一人ひとりの適性や能力に合致し、雇用の安定と適切な労働条件が確保された就職(雇用)を増やすことが求められる)。「質より量」の姿勢がもたらす弊害は、むしろ公務において甚大と言うべきである。

 それにもかかわらず、職員の多くが「量」を追い求めた行政運営を進めるなら、行政本来の目的は放擲され、国民不在の行政運営となる危険が大きい。

 数値・件数ばかりを追い求める姿勢を正す見地から、人事評価制度の見直しが求められている。

2 あるべき制度に求められる「基本的な考え方」

(1)「内発的動機付け」を重視した人事評価制度

前述のとおり、現行の人事評価制度は、賃金を上げ下げすることで労働意欲(モチベーション)を高めることができるという発想に基づいているが、そのことがかえって、労働意欲(モチベーション)を減退させている。

 人事評価の結果を賃金の上げ下げに直接反映する仕組みを廃し、「内発的動機付け」を高めていく新しい人事評価制度を確立する必要がある。

 この点に関わって、前出の太田肇氏は、臨床心理学者のF・ハーズバーグの調査を紹介しながら、労働者に満足をもたらす要因の中には「達成」「承認」「仕事そのもの」などがあり、不満をもたらす要因には、「給与」「上司との人間関係」「作業環境」などがあり、とくに「給与は、“やる気”をもたらすというよりも、不足しているときや不公平なときに不満をもたらす性質のもの」と指摘する。しかも、公務員の場合、成果を定量化することが難しいという事情が加わることから、「『他人の目標より自分の目標の方が難しいのに達成率だけで評価されるのは不公平だ』というような不満は常について回る」とも指摘する(※3)。

 従って、新しい人事評価制度は、労働者(公務員)が何によってモチベーションを高めているかという現実に即し、「いい仕事をしたい」「能力を向上させたい」等の内発的動機付けを重視し、人事評価の結果は、人材育成(能力開発)と適材適所の任用(人事異動)に活かす仕組みとすべきである。

 同時に、所属する行政機関とその中で各人が担うべき役割やその意義を不断に確認していくことが重要であることから、上司・部下、管理職員と一般職員のコミュニケーション(面談等)を重視した運用を図るべきである。

 なお、こうした制度に関わっては、「努力しても、しなくても同じ」と考える、いわゆるフリーライダーの増加を懸念する指摘がある。しかし、新たな人事評価制度は、その結果を適材適所の任用(人事異動)に活用するのであるから、現行給与制度が「職務給を原則」を採用している以上、おのずと給与水準に差が生じることになり(高位の官職に就くなら給与差は加速度的に拡がる)、年功序列賃金等の批判もあたらない。

(2)「長期」「複数」の評価を基本とした納得性の高い人事評価制度

 前述のとおり、公務ではその成果を公正に評価すること自体がきわめて難しい。加えて、多種多様な業務に関してどのような評価基準を設定するのか、標準的な水準とは何を基準として決めるのか、臨検など「(評価者には)見えないやりとり」をどう評価するかなどの難題が山積しているが、まったく解決できていない。結局、ありきたりな「評価者所見例」の使い回しが横行している。

 しかも、こうした評価を「一人の評価者」が「短期間」に行っていることから、被評価者、評価者のいずれからも納得が得られず、行政運営にまで種々の悪影響をもたらしている。

 こうした中で人事評価の納得性を高めるには、複数の評価者(上司)が一人の被評価者を一定長期間にわたって、重層的かつ多角的に評価することを基本とすべきである。

 そもそも、評価期間内に結果が出ない業務は目標設定自体が意味をなさなかったが、これによって、被評価者も中・長期的な視野で高い目標を掲げることもできるし、困難な課題に挑戦することを躊躇する理由もなくなる。「国家百年の計」を意識した行政運営も可能になろう。

 また、複数の評価者が評価を行うことになるなら、特定の上司の目ばかりを気にすることなく、公正・中立な立場(全体の奉仕者の姿勢)で、行政が掲げる目的に向かって努力を傾注できる。

 現行の人事評価制度では、苦情処理制度の機能不全も指摘されているが、納得性が高まるなら、苦情そのものが減り、無駄(コスト)の削減にもつながる。

 なお、被評価者を上司だけではなく、同僚、部下等からも評価する、いわゆる360度評価の導入を求める声もあり、aパワハラにつながる関係性の排除、b評価に必要な多様な視点の確保等の点から、有益であると考えられることから、仕組み作りにむけて積極的な議論や研究が必要であろう。

(3)チームワークと人材育成を重視した評価と活用

 現行の人事評価制度は、職場のチームワークの維持を難しくし、組織力の低下をもたらしており、その克服が急がれる。

 実際の行政運営では、組織の総合力を如何に発揮するかが重要であり、「部下に恵まれていない」「決裁者の能力が低い」などと文句を言っている余裕はない。組織が正にチームとして機能し、互いの信頼と協力によって「欠点」「弱点」をリカバーする視点が重要である。

 その際、重要となるのが、上司・部下、同僚同士の多様なコミュニケーション(面談等)であり、こうしたアプローチが、業務の「結果」ではなく「プロセス」へのコミットを可能にし、人材育成にも効果が期待でき、ひいては業績向上にも結び付く。

 また、人事評価制度が事実上、「相対評価」となっていることが、組織力の後退に結び付いていることから、「絶対評価」であることを徹底し、全員が高評価となり得ることも認め、かつ、それを追求すべきである。その意味で、あらかじめ一定の「分布率」を示すなどの運用は排除されるべきである。同様の観点から、短期の評価を「順位付け」することも評価の信頼性の低さとも相俟って意義に乏しく、とくに行う必要がない。

 人材育成に関わっては、能力評価の位置づけが重要となるが、現行の能力評価は、いわゆるコンピテンシィ評価の手法を採用している。その実情に関わり、菊野一雄氏は、「表向きは高業績の行動特性を調査し、組織全体に適用しようとするが、実際にはもともと発生頻度が低く、ごく僅かの人しかできない希有な行動特性を記述し、それを闇雲に真似よといっても実現性はないに等しい(プロ野球の世界でさえ、王・金田・イチローの行動特性を真似て好成績を出せなどといわれても実現性は希有ではなかろうか。)つまるところ、アメリカ伝来の横文字をカタカナ言葉にしただけの空想的な期待を示されても、皆困惑するばかりで『成果』が出ないというアイロニカルな現実がある」(※7)と指摘する。

 また、現行の能力評価項目は、いずれも抽象的な項目ばかりで、恣意性をまったく排除できないとの指摘も多い。

 しかも、多種多様な公務員の職務をたった一つの「能力評価シート」で評価していること自体、無謀と言うべきである。航空管制官に求められる能力と国立医療機関の看護師に求められる能力は同じなのだろうか。労働基準監督官に求められる能力と外交官に求められる能力は同じなのだろうか。現行制度には、納得性のかけらもないと言うべきであり、人材育成に役立つ能力評価を実施しようとするなら、各官職、職務に応じた能力評価シートを一つ一つ作成することから、始めなければならない。

(4)行政の「目標」を意識した行政運営の追求

 個人の業績目標、とりわけ数値化された目標を追い求める行動様式の広がりが、幅広い行政分野で深刻な弊害となって現れている。

 実際、複雑で予測のできない業務の目標を数値化することはできないし、これを無理にやろうとするなら、数字であらわせるような業務しかしなくなり、公正かつ効率的な行政運営を阻害する。

 例えば、労働基準監督官の臨検を考えた場合、何件の事業場を臨検したかよりも、そこでどのような指導を行ったかが何より重要となる。中身のない臨検は、効果がないばかりか、事業主に「現状にお墨付きが得られた」との誤解を与え、将来にわたって禍根を残す。件数至上の行政運営は、行政本来の目的を違えてしまう危険がある。

 もとより、行政運営にあたって明確な目標を設定し、それを実現するための計画を樹立・達成することは重要であり、これを疎かにすべきではない。しかし、こうした目標を個人ごとの「数値化された目標」に還元してしまうことは弊害が大きい(実際、個人の目標を足し合わせても、行政本来の目標と似ても似つかない)。行政機関がめざすべき目標を共有することを優先すべきであり、それは「真の成果とは何か」を常に意識することにもつながる。そして、行政が直面する課題は日々刻々と変化することから、日常不断に優先課題を確認・共有するための場を構築することも必要である。

(5)労使共同による新たな評価制度の構築

 現行の人事評価制度は、(A)で示したとおり、政治主導のもとトップダウンで導入されたものである。しかも、その前提として、「公務員は働かない」「公務は年功序列賃金制」等といった偏見や事実誤認に基づいていることから、公務の実情を反映しておらず、至るところで混乱を生じさせている。

 しかも、こうした事態を認め、抜本的に改革することを困難にしているのが、ほかならぬ「人事評価制度」なのである。人事評価制度の円滑な運営を「目標」に掲げた途端、誰もが混乱のない運用を演出することに腐心し、重大な問題に気が付いたとしても、根本的な解決を先送りすることを選択せざるを得ないのである。

 実際、これまでも総務省は、検証と位置付けた評価者や被評価者を対象とした調査(アンケート)を繰り返しているが、感想を聞く程度のものであり、そこから導かれる対策も「評価者研修の充実」等でしかない。本来なら、まず、評価結果が真に公正なものであるかを検証しなければならず、そのため、複数の評価者による評価がどの程度のばらつきとして現れるのか、それを統一するには何が必要なのか、また、このような手法が、任用、給与、分限その他の人事管理の基礎となる能力・実績を実証する手段として適当かを検証すべきだろう。

 そして、真に公正で誰もが納得し得る人事評価制度を確立するには、公務の実情を熟知する労使が共同して見直しに着手することが必要であり、今、その決断が求められている。

 

(※1)経済産業省委託調査「『人材マネジメントに関する研究会』報告書」(平成18年3月)

(※2)中野剛志『官僚の反逆』(幻冬舎新書、2012年)

(※3)太田肇『公務員革命』(ちくま新書、2011年)

(※4)高橋伸夫『虚妄の成果主義』(日経BP社、2004年」

(※5)労働政策研究・研修機構編「変貌する人材マネジメントとガバナンス・経営戦略」(労働政策研究報告書No.33、2005年)

(※6)鶴光太郎「Economics Review No.7 目標定量化の落とし穴」(経済産業研究所HP)http://www.rieti.go.jp/users/economics-review/007.html

(※7)菊野一雄「所謂『成果主義』について」(立教大学21世紀社会デザイン研究所、2005年4号)http://www.rikkyo.ne.jp/~z3000268/journalsd/no4/no4_thesis04.html

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