公務員制度 −公務員の働き方、労働条件など

政府の公務員給与削減提案に対する全労働の考え方
2011年5月16日
全労働省労働組合

総務大臣は5月13日、政府を代表して国公労連等に対し、国家公務員給与(月例給及び一時金)を平成25年度末までの間、その1割を基本に引き下げるとの提案を行った。

その際、大臣は「現在の人事院勧告制度のもとで極めて異例のこと」と認めた上で、厳しい財政事情を指摘し、「今般の東日本大震災の発生とそれへの対処を考えれば、歳出削減は不可欠」とも述べ、職員の理解と協力を求めたが、以下に指摘するとおり、提案内容は受け入れ難いと考える。

1 給与決定方法の議論を棚上げすべきでない

国家公務員の給与を上げるか、下げるかの前に、国家公務員の給与水準をどう決めるべきかかの議論こそ先行させるべきであり、それが論理的である。

 この点では、現行法上、人事院勧告制度が存在し、機能しており、これを無視したかたちで給与を決めることは許されない。

今回の提案は、新法をもって現行の人事院勧告制度を否定し、これに代わる新たな給与決定の枠組みを創設することを含意しているのかもしれないが、人事院勧告制度が公務員の労働基本権制約下で「憲法上の要請」(代償措置、28条)と位置付けられていることにてらすなら、新たな枠組みを先行して創設し、その枠組みに沿った手続きを経るべきである。

また、政府はこの間、公務員労働組合からの様々な提案(給与改善等)に対し、人事院勧告制度に基づく給与決定によるべきとし、これを一蹴してきた経緯があり、今回の提案はまったくのご都合主義と言えよう。

2 厳しい財政事情をどう見るか

提案は、わが国の厳しい財政事情を強調する。そうであるならば、まず、このような財政状況を招来させた要因を明らかにすべきだろう。

この間、国家公務員の人件費は大きく減少しているが、その一方で財政赤字はふくらみ続けている。平成12年3月から平成22年3月までの10年間を見ると、国家公務員は約84万人から約30万人まで減少しているが、国債等残高は約493兆円から約883兆円にまで急増している。このことからも国家公務員の人件費が財政赤字の要因でないことは明瞭である(むしろ、国家公務員人件費は先進諸外国に比べ、きわめて少ないとさえ言える)。

このような財政状況を生じさせた主要な要因は、財政構造自体に内包されていたと言えるだろう。また、この間の数次にわたる緊急経済対策等、「借金覚悟」で支出せざるを得なかった部分も少なくない。そして、圧倒的多数の公務員は、こうした予算編成の基本方針の策定・決定に関与することさえできないのである。

いっさいの権限を有していない者が、なぜ一割もの給与削減というかたちで責任を負うことになるのか、納得は難しい。

結局のところ、公務員バッシングを競い合う政治状況の下、より勇ましいバッシングを掲げる政党、政治家が「人気を博する」という異常な事態の中、今回の提案も「政治主導」を演出した人気取り(公務員叩き)の一環と見えるのである。

なお、多くの行政分野にムダがあるのではないかとの指摘は重要である。それは、P・F・ドラッカーの指摘する「予算型組織」に内在する問題点とも通じるだろう。しかし、これを如何に排除するかという具体的手法は「事業仕分け」等、官僚バッシングをアピールする一種のパフォーマンスに堕してしまっており(ワイドショー化)、効果が限定的であるばかりか、十把一絡げの「廃止判定」で真に必要な事業まで廃止、縮小を余儀なくされている。

各行政の実務に精通する第一線の職員の声に耳を傾けてこそ、有効な事業の見直しができると考える。

3 震災復興財源との関係をどう考えるべきか

提案は、震災復興財源による財政逼迫にも言及しているが、総務大臣自身は「復興財源のために『まず隗(公務員)より始めよ』というようなことではない」としている。事実、復興財源は国家公務員給与の削減で確保できる金額とは桁違いである。加えて、今後に予想される原子力損害賠償法に基づく国の負担も膨大となるだろう。

こうした財源確保の議論は当然に必要であり、国家公務員も国民の一人として、勤労者の一人として負うべき責任がある。

しかし、公務員労働者の責任の果たし方は、自らの専門性を発揮しながら、その職務と職責に全力をあげることであり、すでにその努力が傾注されている。被災地では、自らも被災した公務員労働者が、住居を失い、親族を亡くしながらも不眠不休で職務に精励しているし、全国からも多くの職員が被災地へ入り、広範な業務に就いている。また、本省でも多くの職員が、復旧・復興に向けた諸制度の整備、補正予算案の策定作業等に日夜奮闘している。

こうした中で、給与削減で責任を果たせというのはまったくの筋違いではないだろうか。

なお、原子力損害の賠償に関わっては、原子力エネルギー政策の推進を財界が強力に後押ししてきた経緯がある。その一方、大企業の多くは経済危機の最中にもかかわらず、内部留保金を増やし続け、数百兆円にまでふくれあがっている(中堅・大企業3万3千社の内部留保金は1999年からの10年間で190兆円から318兆円に積み増しされている、労働総研調べ)。これらの一部(5%でも16兆円)を取り崩すことは可能であり、下請企業を含む労働者の雇用確保や賃金改善に充てるなら格別、そうでないなら、復興又は賠償財源の一部に充てることも検討すべきだろう。

4 公務員も「労働者」であることに争いはない

近時、株価が下がったなどと言えば、すぐに労働者の雇用や賃金に手をつける企業が増えているが、これを正すべきである。労働者の整理解雇や労働条件の引き下げあたっては、長年の判例の到達点(使用者が果たすべき責任等)があり、これを遵守すべきだからである。

提案が、労働条件の不利益変更であることは明瞭だが、この点では、すでに労働契約法という実定法がある。同第9条は、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と定め、同第10条は、例外的に「変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」に限って、当該変更が有効と定めている。

公務員も日々懸命に努力する労働者である。そして、様々に家庭事情も異なり、生活実態も多様である。1割もの給与削減によって安穏としていられないのは、公務も民間も同様であろう。

前記の労働契約法が具体化した法理は、こうした労働者を使用する者は、当該労働者が受ける不利益を回避するギリギリの努力をする法的責任を負っているというもの。法治国家であるなら、政府は率先垂範でこの原則を体現すべきであるが、提案に際してその努力の経過はいっさい示されておらず、理解し難い。

5 異例の措置でも憲法違反は変わらない

給与削減は「きわめて異例の措置」と言うが、労働基本権制約の下、人事院勧告に基づかない給与削減は、明確に憲法に違反し、ILO条約にも反しよう。

大臣は、「強いていえば財政事情が険しく、平時ではない異例の状況であること、また25年度までの臨時的措置として期限を切った時限的措置ということで、一定整理している」と言うが、公務員の憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を持ち出すまでもなく、あまりに身勝手な解釈であって、憲法学者、労働法学者の多くを首肯させ得ないことを認めるべきである。

6 すでに大幅な給与削減が続いているという事実

国家公務の職場の現状が広く知られているとは言い難いが、実際、連年にわたる定員削減の影響等で長時間・深夜・休日に及ぶ時間外労働が広範に存在している。これを多くのメディアは報じようともしないが、これも公務員叩きの一翼を担っているメディアの限界と言えるだろう。

それ自体、大きな問題なのであるが、更にこうした時間外労働に対して時間外労働手当(超勤手当)が適正に支払われていない現実がある。しかも政府は、これを「予算がない」「財政が厳しい」で済まし、放置し続けている。

厚生労働省で言えば、月100時間を大きく超える時間外・休日労働に対しても、その10分の1程度が超勤手当として支払われるぐらいが一般的であろう。他府省の状況の詳細を承知しているわけではないが、一部の府省を除き、おそらく大きく違わないだろう(そうでないと言うなら、セキュリティゲートの記録等から在庁時間を割り出し、実際に支給されている超過勤務手当と比べてみればよい)。

要するに、本来支払われるべき人件費のうち1割を大きく超える部分がすでに削減され続けているのであって、このことを脇に置いた提案は不誠実と言えよう。

7 人件費削減方針そのものが間違い

大震災を通して、公務の重要性があらためて明らかとなっている。

この間、規制緩和、民間開放、小さな政府等を標榜しながら、公務の縮小・解体を進めてきた新自由主義改革は、労働者・国民の権利保障に向けたセーフティネットを壊し、わが国に格差と貧困、そして将来不安を広げてきた。

国家公務員の人件費削減方針は、まさに新自由主義的改革の帰結であり、ここに固執することの誤りを認めるべきではないか。公務の縮小・解体は、結局のところ、極端な自己責任を強調するほかなく、もはや弱者切り捨ての道であることを直視すべきである。

わが国の公務を担う人員体制はきわめて脆弱なものであって、先進主要国の中で公務員数を比較すると、人口比でフランス、アメリカ、イギリスのわずか半分以下にすぎないのである。震災からの復興を展望する中で、公務の重要性をあらためて確認し、人件費削減方針自体を見直すべきである。

8 国家公務員制度改革法案との取引は成り立たない

提案は、国家公務員制度改革関連法案(以下、関連法案)とセットでの議論を促しているようであるが、両者はトレード・オフの関係にない。

関連法案のうち、国家公務員法改正案は、?各府省の部長以上の官職の同列化(身分保障の事実上の撤廃)、?幹部職員人事の一元化と適格性審査(政治任用の拡大)、?採用・研修・任用等の使用者機関(公務員庁)への事務移管等を措置するもので、いずれも公務の中立・公正を大きく脅かし、「全体の奉仕者」であるべき公務員の基本的な性格を歪めるものと考える。

この間、人事院が政府に宛てた『国家公務員制度改革についての意見』(4月19日)は、人事行政の公正確保のために必要な様々な措置(適格性審査への人事公正委員会の関与等)を講じるよう求めているが、換言すれば、民主的な人事行政の諸原則(メリットシステム等)が大きく崩され、公務員が「政権の私兵」と化すという法案の重大な欠陥を指摘したものと言えよう。

また、関連法案のうち、国家公務員の労働関係に関する法律案は、自律的労使関係を措置(人事院勧告制度の廃止、労働協約締結権の付与等)するとしているが、多くの政党が総人件費削減を競い合う中、一層の公務リストラ(更なる給与削減、人員削減等)を狙ったものであり、あるべき労働基本権回復の目的(対等な労使関係の構築を通じた労働条件の向上等)とは相容れない。

実際、公正な労働条件を確保する制度的条件(勤務条件決定における自律性の確保等)、社会的条件(労働組合の権利行使への国民的な理解等)が欠落した「労働基本権」は画餅に等しいものであろう。

関連法案については、前記の問題指摘を受け止め、広く専門家を交えた冷静な検討を進めることを望む。

 

以上

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