公務員制度 −公務員の働き方、労働条件など

2002年 1月
「公務員制度改革大綱」にかかる全労働の考え方

公務員制度改革を「行革」の最重要課題の一つに位置づけてきた政府は、昨年12月25日、「公務員制度改革大綱」(以下、大綱)を閣議決定した。
全労働は、今回の公務員制度改革の手順をめぐり、(a)公務員の採用から退職、再就職に至るまでの働くルールの重大な変更であり、対等な立場で誠実な「交渉・協議」を行い関係労働組合との合意をはかること、(b)労働者の生活と権利に関わる行政分野の運営に影響を与えることから、幅広い労働組合の意見に耳を傾けることなどを求めてきた。
また、内容をめぐっては、全労働がこれまで指摘してきた労働条件(処遇改善を求める要求)と行政運営(行政民主化を求める要求)にかかわる数々の課題の解決をはかり、私たちが求める改革方向、すなわち、(a)厳しい社会環境に中で公務の専門性を如何に高めるか、(b)相次ぐ不祥事を生み出した「腐敗」と決別し、真に公正・中立な行政を如何に確立するか、(c)安定的・継続的な行政運営に専念し得る勤務条件を如何に確立するかなどを真正面から取り上げることを求めてきた。
しかしながら、「大綱」は、手続面でも、内容面でも重大かつ多くの問題点を残しており、以下にその主要な問題点を指摘する。
「大綱」は、引き続いて内閣官房行政改革推進事務局(以下、事務局)が中心となり検討作業を進めることを明らかにし、(a)制度全体の基礎となる国家公務員法の改正案を平成15年中を目標に国会に提出する、(b)関係法律案及び下位法令の整備を平成17年度末までに行う、(c)全体として平成18年度を目途に新たな制度に移行するなどのスケジュールを示した。また、「制度の詳細設計に向けては職員団体を始めとする関係者とも十分意見交換を行っていく」とする。
しかしながら、一方的に決めたスケジュールは、誠実な「交渉、協議」の前提とはならず速やかに撤回すべきである。その上で、労使対等の原則に基づき関係労働組合との合意をはかる立場に立ち戻り、「大綱」がもつ問題点の解決をはかるとともに、公正、中立、効率の行政サービスを支える民主的な公務員制度の確立にむけた誠意ある「交渉・協議」に応じるようあらためて求めるものである。

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手続面の問題点について

ILO(国際労働機関)が求めた「交渉・協議」は誠実に行われていない

使用者たる政府自らが押し進める今回の公務員制度改革のすすめ方をめぐっては、昨年6月のILO条約勧告適用委員会の場で「争点」となり、日本政府は「制度の内容については、今後、職員団体をはじめとする関係者と『交渉、協議』していく中で順次決まっていくものと考えている」と回答した。
こうした経過にてらせば、その後の事務局と関係労働組合との「交渉、協議」は少なくとも公務における労働条件決定に関する国際労働基準であり、すでに日本政府が批准しているILO87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約)の定める水準に即して行われることが求められてきた(注・参照)。
この点について、事務局は「交渉、協議」を現在の国家公務員法上の「交渉」(第108条の5)にすぎず、依然、交渉締結権及び争議権が制約されており「合意をはかる必要もない」と解し、その制約の「代償」として、人事院からの意見の申し出などが担保されていると強弁している(11月16日・事務局参事官)。
しかしながら、現行制度の根底から見直す今回の公務員制度改革に対して、人事院の賛否は格別としてこの間一切の意見の申し出を行い得ていないこと自体、「代償」が全く機能していないことの証左であり、「交渉、協議」を国家公務員法上のそれと同義に解することは到底できない。また、この間与党協議を最優先としてきた事務局が公正・中立な第三者機関の「代役」となり得ないことは明白である。
また、「交渉、協議」の中身は、「基本設計」の枠組みにとらわれることなく、その骨格自体を問い直すものであるべきところ、この間の「交渉、協議」に臨む事務局の姿勢は、自らの立場(基本設計など)を繰り返し述べるばかりで、対等な「交渉、協議」となる得ていない。

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内容面の問題点について

1 「時の内閣」が人事行政を主導する仕組みは無理がある

「大綱」は、現在の内閣と第三者機関(人事院)の機能の整理をすすめ、人事行政の企画立案、総合調整機能について「現状は第三者機関に大きく依存している」とし、今後は内閣が「公務員制度の企画立案等に責任をもって取り組んでいく」「法律案の策定や法律の委任に基づく制令の制定等を通じて、人事行政に係る企画立案機能を発揮し、人事管理権者が行う適切かつ弾力的な人事・組織マネージメントに必要なルール等を定める。さらに、法律が人事院規則に委任した事項についても」「人事院に対して具体的な対応を求める要請を行うことができるようにする」とする。
人事行政では、(a)すべての労働者に労働基本権の保障した憲法の趣旨に則って労使対等の原則が貫かれること、(b)公務員の「全体の奉仕者」たる性格をふまえあらゆる政治的思惑から離れて公正・中立であること、(c)円滑な行政事務を支える組織に相応しく長期的な観点から安定的・継続的に運営されることなどが求められる。ところが、内閣はその性格上、(a)公務員労働者に対する使用者たる立場に立つこと、(b)議員内閣制の下、強い政治性を有していること、(c)政権交代で何時でもその立場を転換し得ることから、第三者機関の役割を大きく縮小させる一方で、「時の内閣」が人事行政において主導的な役割を担うという枠組みには強い疑問を感じざるを得ない。また、これによって円滑で公正、効率な国民サービスの提供、公務員労働者の生活と権利の保障等が脅かされるおそれがある。

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2 「代償」機能の縮小は、労働基本権の回復とパラレルにすすむべき

「大綱」は、労働基本権の「代償」措置の多くを担ってきた人事院の役割を大幅に縮小する一方で、「内閣及びその構成員たる各府省の主任大臣等が機動的・弾力的に人事・組織マネジメントを行っていく」などとし、(a)等級別の人員枠の設定、(b)能力等級表の基本職位への各職務の分類、(c)能力基準の内容の追加、(d)職責手当の職責段階の変更、(e)業績手当(業績反映部分)の支給額、段階数及び分布率の設定、(f)業績評価を通じた賃金額決定への関与の拡大など、随所で労働条件決定にかかわる内閣及び各府省大臣等(人事管理権者)の権限を拡大させている。
「代償」機能を縮小するのであれば、国際的に確立したルール(ILO条約)に従って、生活と労働条件を自ら改善する手段としての労働基本権が十全に回復されなければならない。しかしながら、「大綱」は、公務員労働者の労働基本権について「現行の制約を維持する」としており、その姿勢は全く不当なものである。しかも、現行の制約を維持するにあたって、「今後もこれに代わる相応の措置を確保」する、あるいは「公務員の処遇を適切に確保するための枠組みが必要である」とするものの具体論は一切なく、公務員労働者の生活と権利を脅かすことへのあまりの「無関心」に怒りを禁じ得ない。

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3 「能力重視」を標榜しながら、現行制度の矛盾を踏襲

「大綱」は「能力・職責・業績を適切に反映したインセンティブに富んだ給与処遇を実現する」とし、「職務(官職)を通じて現に発揮している職務遂行能力に応じて職員を等級に格付ける能力等級制度」を設けるとする。そのため、「府省共通の能力等級表を設け、同表において、組織段階ごとに、基本職位、代表職務及び能力基準を定める」とする。
このことは、「能力重視」を標榜しながら、結局、地方出先機関に近いほど同種の役職であっても能力等級を低く抑え込む仕組みを温存するもので、現行級別標準職務表の最大の矛盾を引き継いだものと言える。第一線の職場の実情を正しく把握し、相応しい処遇によって行政サービスの向上をはかろうとする立場に立つことが求められる。
なお、「大綱」には「各機関の組織段階への分類は」「業務の内容や組織体制を実質的に評価して行う」と記述されたが、一方で「等級ごとの人員数」は内閣が決定する政府予算案(人件費予算)によって制約される仕組みとなっている。

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4 短期的な評価を賃金に反映させるなら非効率な行政運営を招きかねない

(1) 「大綱」は、(a)基本給(能力給)、(b)職責手当(職責給)、(c)業績手当(業績給)、(d)その他の手当からなる新たな給与制度を設定し、その上で、基本給の加算部分や業績手当の業績反映部分について「業績評価」の結果等を反映させるとする。
このことは、現在の定期昇給制度の廃止するとともに、短期間(6ヶ月乃至1年)の「評価」をもって直接個々人の賃金額に大幅な格差を生じさせることを意味する。
ここで言う「評価」は、職員個々人を対象としており、多様な事務の担当者と連携しながら組織的な行政運営をはかる私たちの職場にはそぐわず、結局、管理者の恣意的なものとなる。また、「評価」は「適用枠」「分布率」を定めた相対評価であるから、足の引っ張り合いを煽り、チームワークを阻害し、非効率な行政運営を招きかねない。
(2) 「能力評価においては、職務遂行能力の発揮度を能力基準に照らして評価する」としている。その上で、「能力評価により職務遂行能力の発揮度が現等級に求められる水準に達しない者等については、あらかじめ定められた明確な基準と手続に基づき、厳正に降格処分を行う」とする。この場合、「能力基準」「明確な基準と手続き」の中身がいずれも不明であるが、恣意的な運用の余地を残すならば、不偏不党の立場で企画・立案し、公正・中立な立場で執行する民主的な行政運営の前提となる公務員の「身分保障」を脅かすことになる。
(3)「業績評価においては、目標管理の手法を用いて業績を評価する」としている。しかしながら、目標管理制度の実際は、使用者と個々の労働者とのやりとりである点で対等な労働条件決定システムとはなり得ず、とかく過大なノルマや不利益を押しつける場となっていることが指摘されており、加えて「仕事の異なる職員の評価が困難」「評価者間の基準の統一が困難」など多くの運用上の問題点が顕在化している。
また、こうした制度が持ち込まれることで「国民に向いた行政」から「評価者に向いた行政」へと変質がすすみ、「全体の奉仕者」としての姿勢を揺るがしかねない。
「大綱」では、「評価の公正性・納得性を確保する」として、「評価のフィードバック」「職員の苦情に適切に対応する仕組み」の整備などを「各府省の実情を踏まえつつ」行うとし、また、「各府省がそれぞれの実情を踏まえた手法により評価の試行を十分に行い、その試行結果を踏まえつつ具体的な制度設計を行う」としているが、前述の懸念を払拭することはできない。
(4) その他の手当に関わって、「本府省の職務の困難性、特殊性等に適切に対応するため」とし、「課長補佐及び係長」を対象として「本省勤務手当を新設する」とする。
新たな「能力等級表」は「組織段階」ごとにその職務の困難性、特殊性等を考慮した「能力基準」を定めて処遇をするのであるから、本府省に限って「職務の困難性、特殊性等」を二重に評価しなければならない合理性はない。また、新たな手当の新設は人件費のどこかを削らなければ財源を確保できないのであるから、トータルな議論を尽くす中で労使の合意をはかるべきである。

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5 良質な行政サービスを提供する第一線の職員を育成する視点が欠落

(1) 「大綱」は「職員の能力・資質の向上」を重視し、「職員の研修等による育成」を「人事管理権者が主体的な責任を持って行う」と明記する。労働者にとって「能力開発」は権利でありその充実は切実である。しかしその一方で「研修のアウトソーシング化を進める」としていることは大きな矛盾である。また、職員の能力開発の機会の拡充として掲げられた具体的措置は、「留学派遣」「大学院等への進学」「研究所・シンクタンク等での研究活動への従事」などであり、国民サービスを担う第一線で働く職員を置き去りにしたものとなっている。
(2) 人材育成における内閣の役割を強調し「職員の育成に関する方針の企画立案及び実施に関する総合的企画・調整を行う」ものとし、他方で、人事院を「中立性・公正性の確保の観点から、必要な基準の設定、人事管理権者に対する改善の勧告を行う」ものと位置づけた。安定的・継続的な行政運営の担い手でり、不偏不党の立場と長期的な視野で公益を守るべき「職業公務員」を育成するにあたって、政権交代によって生まれる「時の内閣」が企画・調整を行うことが相応しいとは認めがたく、混乱を生じさせるおそれがある。
なお、この指摘は「採用試験の企画立案について内閣が主体的に行う仕組みに転換する」としていることにも同様にあてはまる。
(3) 「本府省幹部候補職員として計画的に育成することを目的とする仕組みの導入を図る」とする。その上で、「1種採用職員と1種採用以外の職員のうち人事管理権者が定める基準により選考する職員を対象」とし「特別な人材育成を図る」とする。
しかしながら、現行の1種、2種及び3種の試験区分は、それぞれ1級、2級及び3級官職への登用を意味するにすぎず、この間、昇任などで事実上の「特別扱い」を認められてきた1種採用職員に制度上の「特別扱い」を保証するものにほかならない。

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6 試験合格者の大幅増加で情実採用が広がるおそれが大きい

(1) 「大綱」は「より多くの候補者の中から、人事管理権者が総合的な人物評価に基づき主体的に採用者を決定できるよう」「試験合格者数を大幅に増加させる」としている(1種試験では最終的に概ね4倍)。これによって多くの者が試験合格から採用にたどりつかず、情実採用が広がるおそれが強い。さらに「時の内閣」が「採用試験の企画立案について主体的に行う」こととも相まって政治的意図をもった採否判断が懸念される。こうした事態は公務員志望者の不信をかい、結局、有為な人材の確保を困難にする。
なお、「総合的な人物評価においては、社会奉仕活動の経験等も考慮するものとする」としているが、善意の社会奉仕活動が「人物評価向上」の手段と化すことになれば本末転倒である。
(2) 女性の採用・登用の拡大をはかるとし、「男女ともに仕事と家庭・地域生活を両立できるような勤務環境の改善に努める」とする。しかし具体論は乏しく、「両立を困難にしている原因の一つである超過勤務」の縮減についても「国会答弁作成業務」など本省職場の一部に焦点をあてたことを除いて従来の対策の域を出ていない。
併せて、「能力等級制度の導入や人材育成を図る仕組みの整備、公募制の活用などにより、意欲と能力ある女性の登用を積極的に推進する」としているが、前述の「勤務環境の改善」なくしては、逆に「意欲と能力」を口実に女性差別が温存される危険がある。

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7 関係業界等との「癒着」を断ち切る姿勢に立つことが求められている

(1) 「大綱」は「官民の人的交流を積極的に推進していく」とし、「私企業からの隔離」の原則から導かれる「諸規制や制約を見直すなど必要な措置を講じる」とする。
公務員制度改革の契機ともなった一連の「不祥事」は、業界・企業との「癒着」が行政運営を如何に歪めてきたかを明らかにしたが、「大綱」はこれを断ち切ろうという姿勢に立たず、逆に、人事院の事前承認などの手続きを廃止し、人事管理権者(各府省大臣等)がイニシアティブを発揮して主体的に採用するとし、「癒着」を強めかねない方向での「規制緩和」を打ち出している。こうした「改革」は多くの国民の声に逆行するもので厳しい批判を浴びることは必至である。
また、労使の激しい利害対立の狭間で運営される労働行政では、公平な判断を行うためにも、国民の疑念を払拭するためにも、業界・企業との結びつきは厳に戒められなければならない。「大綱」では「交流元企業による不当な影響力の行使の制限」を官民双方で取り決めるなどの措置を講じるとするが実効性に乏しく、特に「民間企業の従業員としての地位の併有を可能とする」人的交流の促進は新たな「癒着の温床」として深刻な問題を抱えることになる。
他方、多様な民間企業での貴重な経験を積んだ若い人材が当該民間企業の従業員としての地位を離れて労働行政に従事する道を広げることは重要であり、その障害の一つとなってきた「採用時の初号格付けにおける経歴換算方法」のさらなる改善をはかるべきである。
(2) 営利企業への再就職に関しては、人事院による現在の事前承認などの手続きを廃止し、内閣が再就職に関する承認基準を定め、人事管理権者がこれに基づき承認を行う枠組みを設けるとする。「天下り」を契機とした業界・企業との「癒着」は再三にわたって国民の厳しい批判の的となってきたが、公正な第三者機関の関与を否定し、各府省大臣の承認に委ねる方式への変更は新たな「癒着」を生み出すものにほかならない。「大綱」は、在籍していた府省への働きかけを禁止するなど一定の「行為規制」を設けるとしているが、第三者機関が適切に関与することなくして、「密室での口利き」等が表面化することは期待できず実効性はきわめて乏しい。
(3) 退職手当制度に関しては、「長期勤務者に過度に有利となっている現状を是正する」とし「支給率カーブ、算定方式の在り方等」を見直すとする。しかしながら、退職手当が「賃金の後払い」の性格を強く持っており、その切り下げは賃金を遡及してカットすることに等しく、不利益変更には労働者の生活設計に配慮した「高度の合理性」が求められることは言うまでもない。

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8 国家戦略の企画立案等への従事は「全体の奉仕者」たる性格と相容れない

「大綱」は「行政内外から内閣の重要政策の企画立案・総合調整等に従事する職員を国家戦略スタッフとして機動的かつ柔軟に任用、配置できる仕組みを導入する」とし、トップダウンの行政運営を一層押し進める姿勢を打ち出している。
議員内閣制の下、「時の内閣」の重要政策の企画立案・総合調整を行う作業は、事柄の性格上、最も強い政治性を帯びることとなる。これに職業公務員が補佐するに止まらず、自ら従事することになれば「全体の奉仕者」たる性格と相容れないのであり、あらためて政治家と公務員の役割分担を慎重に整理すべきである。
また、労働行政では、労使の意見や第一線職場の実情が、政策判断等に的確に反映されることが円滑で行政運営に重要であり、こうした仕組みを構築すべきであって、これに逆行する動きと見ざるを得ない。

(注)ILO87号条約の3条、8条、10条及び11条は、団体交渉権及び争議権の明文上の言及はないが、この間、ILO条約勧告適用委員会は、同条文には、「公務員を含むすべての労働者に対して団体交渉権及び争議権に保障すべきこと」「公務や不可欠業務において争議権が禁止されている場合には、関係当事者があらゆる段階で参加できかつ、一旦なされた裁定が完全、迅速に実施される、十分かつ迅速な調停仲裁手続きを保障すべきこと」を内包しているとの立場を一貫してとっている。

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