公務員制度 −公務員の働き方、労働条件など

2001年 7月
「公務員制度改革の基本設計」に対する全労働の考え方

行政改革推進本部(本部長・小泉首相)は6月29日、「信賞必罰の徹底」などを柱とした「公務員制度改革の基本設計」(以下、基本設計)を明らかにした。
その内容のうち、任用、人事、評価の諸制度に関する部分は、内閣官房・行政推進事務局が5月29日に示した「新たな人事制度について(検討案)」(以下、「検討案」)を概ね踏襲しており、これに「公務員制度改革の大枠」(3月27日)に盛り込まれた他の事項を加えたものとなっている。
また、各事項ごとに「新たな公務員制度改革の骨格」と「これを具体化するに当たって必要となる検討課題」等を整理したものとなっており、今後、これにもとづいて政府部内で検討をすすめ、12月を目途に「公務員制度改革大綱(仮称)」をとりまとめ、「法制化等の具体的な内容、平成17年度までの集中改革期間におけるスケジュール等を明らかにする」としている。

●「基本設計」は独断的な「検討結果」にすぎない

行革推進事務局は、「基本設計」を「政府部内の共通認識」であるとしているが、この間の各府省とのやりとりはきわめて形式的であり、同事務局の独断的な「検討結果」にすぎない。
特に、「基本設計」が給与制度をはじめとする労働条件の基本にかかわる重大な変更を含んでいることから、労使の対等な交渉を積み重ねながら決定されるべきであったにもかかわらず、労働組合との交渉はおろか、まともな意見聴取すら行っていない。
今後、対等な労働条件決定システムの下で、その骨格自体を問い直す誠実な交渉が行われなければならない。

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●今後の「交渉、協議」にあたり、国際水準に即したルールの確立が不可欠

策定の手続きをめぐるきびしい批判に対して、政府はILO条約勧告適用委員会(6月12日)の場で、「制度の内容については、今後、職員団体をはじめとする関係者と交渉、協議していく中で順次決まっていくものと考えている」と回答せざるを得なかったが、次の点でこれをもって手続きが正常化したと受け止めることはできない。
(a) 政府は、公務員の労働条件決定に関与する中立機関(人事院)の役割を事実上否定し、使用者たる政府自らが労働条件の根幹の変更に着手する立場を明らかにしているが、人事院の役割を労働基本権の「代償」と位置づける立場からは、これを否定する以上、逆にその「代償」として労働基本権がふさわしく回復されなければならず、これが担保されてはじめて公正な「労働条件決定システム」と呼び得る。
(b) 政府がILOの場で回答した「交渉、協議」の内実が明らかでないが、「話を聴く」程度のものでは許されず、すべての労働者に労働基本権を保障した憲法28条に即しながら、少なくとも公務における労働条件決定の国際労働基準であるILO151号条約(公務における団結権の保護及び雇用条件の決定のための手続に関する条約)が定めた水準(合意をめざす労使間の交渉と独立かつ公平な紛争解決手続の設定など)のもとで、「基本設計」の骨格自体を問い直す交渉が保障されなければならない。

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●公正・中立な立場で執行する民主的な行政運営を脅かす

「基本設計」は、「分限処分の基準や手続きの明確化等を図る」とし、「降任、降格に関する身分保障の原則の適用の在り方」を検討課題としている。
現行制度の適切な運用でこと足りず、歴史的に確立された先進諸国共通の制度である公務員の「身分保障」に風穴を開けるものであるならば、不偏不党の立場で企画立案し、公正・中立な立場で執行する民主的な行政運営を脅かすこととなる。

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●能力等級制度は第一線職場の処遇を抑えつける「道具」にすぎない

「基本設計」は、その内容においても様々な問題点を含んでいる。
「基本設計」は、「能力本意の任用と給与の実現を図る」として、「全ての官職を職務の遂行に当たって必要とされる能力の程度に基づいて一定の役職段階に区分し、当該役職段階に応じた能力等級体系を設ける」としている。
その具体的な内容は、5月29日に示された「検討案」を想定していると考えられ、地方出先機関に近いほど同種の役職であっても能力等級を低く抑え込み、第一線で働く者の処遇を抑制しようとする姿勢を見て取ることができる。「インセンティブを高める」などの言辞も、労働条件切り下げの口実と受け止めざるを得ない。

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●いま、職場に求められているのは、「競争」ではなく「協力」で力を発揮すること

「基本設計」は、「給与体系を『職務遂行能力に対する給与』『職責に対する給与』及び『業績に対する給与』に分割し、それらを(中略)適切に組み合わせることにより構成される新たな給与制度を構築する」とし、成績主義のさらなる強化を打ち出している。
ここで言う成績主義の強化は、職場のすべての者が能力を発揮し、業績を上げた場合であっても「総人件費の枠内」「分布率を定めた相対評価」で処遇するのであるから、結局、足の引っ張り合いをあおるものでしかない。
労働行政をめぐるきびしい環境の中で、いま職場に求められているのは、「競争」ではなく「協力」をもって最大限の力を発揮することである。

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●個々人を分断した評価は、チームワークを重視した職場にふさわしくない

「能力に対する給与」については、現在の定期昇給制度を廃止して、加算部分を設けて一定期間の業績評価に応じてここに格差を付けるとしている。
「業績に対する給与」については、「職員の業績に適切に報いる」ものと位置づけ、業績評価を反映させるとしている。また、一時金についても業績賞与部分を設け、業績評価をより反映させるとしている。
ここで言う評価は、あくまでも個々の職員を対象としており、多様な事務の担当者の連携を重視し組織的な運営を旨とする私たちの職場においては、その公正さを担保し得ず、結局、管理者の恣意的なものとならざるを得ない。
また、評価の基準となる「業務目標の設定」と「達成度等の評価」は「管理職員(上司)との話し合い」によって決定するとしているが、個々の職員を分断したやりとりは、対等な労働条件決定システムとはなり得ず、「過大な業務目標」と「労働条件切り下げ」を押しつける場にしかなり得ない。

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●短期間の評価を給与に直接反映させるしくみは、職員間の相互不信を招く

「基本設計」は「現行の評価制度は、専ら短期間の勤務実績のみを評価し職員の能力を中長期的な観点から評価していない」と指摘している。しかしその一方で、現行の勤務評定に加えて新たに導入するとしている評価制度は、いずれも個々人の短期間の業績を評価するものでしかない。
評価は、職員が長年にわたって様々な事務を担当し経験を積む中で、多くの管理者の目を通じて恣意的判断を排除し、長期的な観点から行われるべきものであって、その結果は専ら任用(適材適所)や能力開発等に用いられるべきある。
新たな評価制度は、限られた総人件費の枠内で少数の管理者による短期間の評価を給与に直接反映させるしくみであり、行政運営の上でも「国民・住民に向いた行政」から「上司(評価者)に向いた行政」への変質をすすめ、「全体の奉仕者」として働くことを困難なものにしかねない。

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●「能力」「実績」を隠れ蓑に女性差別が温存される危険性がある

「基本設計」は、職務分野等に応じて人材育成コースの設定を掲げているが、こうしたコース設定が硬直的な人事を招く懸念がある。幅広い職域を経験しながら広く人材の登用をはかっていくことはむしろ望ましく、専門分野への精通(経験の蓄積)との調和が重要である。他方、「官名上の事務官・技官の別の廃止」を検討課題としているが、専門性の向上を阻害する可能性があり、労働行政の実情をふまえた慎重な検討が求められる。
人材の登用をめぐり、「基本設計」は、「女性の採用、登用の拡大」を前面に打ち出している。しかしながら、従来、なぜ採用や登用が不十分であったのかを的確に分析することなくして実効ある改善は期し得ない。「基本設計」では、今後、「能力、実績を重視した人事制度を確立」等をもって改善をはかるとするが、「能力」「実績」を隠れ蓑に女性差別を温存される危険がある。
例えば、検討課題として掲げた「育児又は介護を行う職員に対する超過勤務の上限の設定」についても、「労働者の権利」として保障し、一切の不利益扱いを許さないとしなければならない。仕事と家庭の両立を支援する新たな措置を講じたとしても、これを利用した労働者を「能力」「実績」の名で低く見ると言うのでは、現状の「合理化」にしかならない。

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●労働者・国民に直接接し、その権利保障を担う職員を置き去りに

「基本設計」は、「職員が主体的に能力開発に取り組むことのできる環境整備を図る」としているが、その具体策は「民間企業等への派遣」「海外留学」「シンクタンクでの研究活動への従事」などの促進であり、第一線で働く職員を置き去りにした検討となっている。
また、恒常的な長時間超過勤務の縮減を打ち出しているが、その具体策は「国会関係、法令関係、予算折衝、各省協議などの業務の徹底した見直し」であり、ここでも長時間労働を強いられている第一線職場の実情は眼中にないことが見て取れる。
一部のマスコミが、「基本設計」を「キャリア官僚による、キャリア官僚のための要望書」と評したとおり、第一線において労働者・国民と直接相対し、その権利保障を担う職員の能力開発や勤務環境の整備を軽視する姿勢が鮮明となっている。

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●労働行政でとりわけ重視されなければならない「私企業からの隔離」

「基本設計」は、「私企業からの隔離」の原則からもたらされる様々な制約の見直しを打ち出している。加えて、「官民の人事交流の積極的なとりくみを進める」としている。
しかしながら、労使の激しい利害対立の狭間で公正な判断を下さなければならない労働行政において、個別企業との結びつきを強めることは、公平な行政運営を担保するためにも、また国民から疑念を持たれないためにもあってはならない。
また、「公募制の積極的活用」を打ち出しているが、同様に民間等からの公募については労働行政の実情に相いれない。

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●新たな「再就職ルール」は新たな「政官財の癒着構造」をつくり出す

「基本設計」は、「天下りに対する国民の批判を踏まえ」るとしながら、最も問題の多い「密接な関連のある営利企業」への再就職について、公正な第三者の関与(人事院の事前承認制)を否定し、「大臣の直接承認を必要とする」としている。しかしながら、こうした枠組みは公務員の政治的中立性を損ない、新たな「政官財の癒着構造」をつくり出す危険性が高い。
また、退職手当制度の見直しに言及し、「在職中の貢献度をより的確に反映する」「長期勤務者に過度に有利となっている現状を是正する」などの見直し方向を明らかにしているが、退職手当が「賃金の後払い」の性格を強く持っており、その切り下げは賃金を遡及してカットすることに等しく、労働者の生活設計を崩すものでしかない。
最も是正すべきは、特殊法人等を「わたり」ながら高額の退職金を何度も受け続ける高級官僚の「既得権益」である。

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●独法化、外部委託化は、国民の権利保障を担う国の責務を放棄するもの

「基本設計」は、「各府省が自主的に企画立案と執行の分離を進めるとともに、独立行政法人化の推進、外部委託等の活用を図る」としている。労働行政においては、企画立案と執行を一体的に行うことを旨としており、ノルマ的に独立行政法人化、外部委託化を押しすすめる姿勢は実情に合わない。
そればかりか、法令等の執行を通じて国民の諸権利を保障することは行政本来の役割であり、独立行政法人化や外部委託化によってこうした重要な国の責務がないがしろにすることは許されない。

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●雇用と労働の実情を的確に反映した行政運営が求められる

「基本設計」は、「国政全体を見渡した総合的、戦略的な政策判断と機動的な意志決定の必要性が増大している」とし、国家戦略スタッフを「機動的かつ柔軟に任用、配置できる仕組みを導入する」とし、権力の一極集中をはかりながら、トップダウンの行政運営を押しすすめる姿勢を強めている。
しかしながら、労働行政においては、労使関係の当事者である労使の様々な意見や労働者・地域住民と接する第一線職場の実情が、政策判断等に的確に反映されることが円滑で民主的な行政運営に重要なのであり、これに逆行する動きは行政運営をいたずらに混乱させることになる。

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●労働基本権の保障は民主的な公務員制度の基盤である

「基本設計」は、中央人事行政機関である人事院の役割を大幅に縮小する一方で、「各府省内において自らの判断と責任において機動的・弾力的に組織・定員管理を行う」などとし、随所に労働条件決定にかかわる各府省の権限の拡大を掲げている。
しかしながら、各府省の権限はあくまでも、総人件費、総定員を抑制する中で行使されるにすぎず、その矛盾は「省内問題」に矮小化され、職場・住民無視の所・署の整理再編、定員再配置などに結びつく危険性が高い。
また、人事院の役割を縮小をねらうのであれば、国際的に確立したルールにしたがって、生活と労働条件を自ら改善する手段としての労働基本権が十全に回復されなければならない。
この点で「基本設計」は、「制度改革の具体化に向けた更に詳細な検討を進めていく中で、引き続き労働基本権の制約の在り方との関係を十分検討する」と述べるに止まっていることは全く不当である。
全労働は、「基本設計」が内包する多くの重大な問題点を内外に明らかにしながら、国公労連等に結集を強め、政府がILOの場で公約した「交渉、協議」を「ふさわしい交渉ルール」の下ですすめ、職員一人ひとりが公務に専念できる勤務条件の確立と労働基本権の回復をはじめとする民主的な公務員制度の確立に全力を尽くす決意である。

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