民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

ハローワークの地方移管を求める主張と反論

 ハローワーク(公共職業安定所)の地方移管を求める主張の中には、事実を歪曲あるいは誤認したものや、国と地方自治体の対等な関係の構築を求める「地方自治」の趣旨に反するものが多く含まれています。

 全労働は、こうした主張に対して、労働行政の実態に即して反論します。

(以下、●が地方移管推進派の主な主張、○が反論)

●ハローワークは、以前、地方事務官制度のもとで都道府県知事が指揮監督しており、事務移管は容易である。

○第1次地方分権改革によって、かつての機関委任事務や地方事務官制度は、「責任の所在があいまいになる」「国と自治体を上下の関係に置くもの」「知事が国の指揮監督を受けるのはおかしい」等の理由から廃止されています。その際、ハローワークの業務を「自治事務」とするか「国の直接執行事務」とするかの議論があり、ハローワークは国が責任を持ち、直接実施する事務であると判断され、都道府県労働局が設置されたのです(2000年4月)。つまり、ハローワークの担い手についての議論はすでに決着済みと言えます。

 今日の地方移管を求める主張が、再び都道府県を国の指揮監督下に置こうという議論であるなら、国と地方自治体を対等な関係の確立を追求してきた地方分権の考え方に逆行します。反対に、雇用対策を担う行政機関に国の指揮監督が及ばないとするなら、今日の緊急雇用対策を始めとする、迅速かつ全国規模の対策の実施は不可能となり、労働者の権利と生活に重大な影響が及びます。また、労働基準監督等との連携が失われ、雇用の劣化も懸念されます。

●近年の失業は、例えばリーマンショック直後の「派遣切り」のように、失業と同時に住居を失うものであるが、そのような失業者がハローワークへ行って住居の相談をしても、たらい回しになる。ハローワークが自治体に地方移管されれば、自治体は住宅も所管しているので、ワンストップで対応できる。

○ハローワークと地方自治体間のたらい回しとの批判については、リーマンショック直後の「第2のセーフティネット」創設当時、各行政機関(国、市町村等)がみずから所掌する業務に習熟することに追われ、一部で連携不足が指摘されました。

 しかし、その後、各行政機関間で協議会が設けられるとともに、「連絡票」等の連携ルールが整備され、行政機関は異なっていても相互に連携しながら業務を進められています。

 なお、ハローワークではリーマンショック以降、住居確保相談に関わって、雇用促進住宅への特例入居あっせんを積極的に行うとともに、自治体と連携して公営住宅への入居あっせんを行っており、少なくとも、公営住宅についてのたらい回しは生じていません。

 他方、都道府県への地方移管によって生活保護、住宅確保支援等の窓口とのワンストップ化(一体化)が可能との指摘ですが、これらの窓口は市区町村に存在しており、都道府県の所掌事務ではありません。さもなければ、ハローワークの設置数を市町村の数だけ増やすということかもしれませんが(現在の約4倍)、その財政的な担保はどこにあるのでしょうか。そもそも地方移管後にハローワークの設置数を自治体に義務付けること自体、分権の趣旨に反します。全く「青写真」のない構想をあたかも現実味のあるものとして描くことは国民を欺くことになりかねません。

●ハローワークの地方移管にあたっては、同時にハローワーク業務を民間委託できる仕組みも創設すべき。

○ハローワーク業務(職業紹介)は、かつて足立区が実施した特区事業で官民競争の枠組みが作られ、その実績(2003年11月〜2006年3月)が報告されています。

 これによると、実施期間中の「紹介による就職件数」では、ハローワークが4,654件、民間が60件、「就職1件当たりのコスト」では、ハローワークが3.2万円、民間が152.6万円となり、官(ハローワーク)の効率性が、実績、コストの両面で圧倒的に優っていることが明らかとなっています。

 また、求人開拓事業等を対象とした市場化テストモデル事業でも官民競争の仕組みが作られていましたが、ここでも官(ハローワーク)が実績(就職者数、正社員率等)、コスト等で民間を圧倒し、国による運営が最も効果・効率的であることが証明され、すでに市場化テストの対象からも除外されています。

 このような経過がある中で、ハローワーク業務の民間委託を主張するのは全く不可解です。

●ハローワークの窓口は混雑しているが、国の行政機関は縦割りであり、厚労省以外の府省からの応援態勢等を組むことはできない。地方自治体に移管すれば、本庁の労働部局はじめ他部署からの応援態勢を組むことも容易であり、窓口の混雑も緩和する。

○国は縦割りで応援態勢を組めないとしていますが、実は、様々な政策・施策で全府省的な応援態勢が構築されています。近年では、年金記録第三者委員会に対して、各府省が職員を派遣し(ハローワーク、労働基準監督署等からも職員派遣)、年金記録問題に対応しました。但し、こうした職員派遣は、行政の専門性等の面で限界があるのも事実です。

 例えば、ハローワークの職業相談、職業紹介は、カウンセリング手法を用いた専門性の高い業務であり、労基法、労安法を始めとする労働法制や各種の雇用対策にも精通してこそ、求職者、求人者一人ひとりに相応しい支援が可能になります。そのため、ハローワークに勤務する職員は、厚生労働省入省後、職業生活の多くの期間についてハローワークを中心とする労働行政で勤務し、様々な研修等通じて、専門知識を身につけ、職業関連情報、産業情報、雇用保険制度等に習熟することによって、様々な困難に直面した求職者に対する的確な支援を進めています。

 労働行政の窓口が混雑するからと言って、専門性を身に付けていない他部局の職員を応援として派遣することは、労働行政機能を後退させる懸念もあるのです。

 なお、地方自治体ではいかにも日常的に応援態勢を確立し、迅速な事務を実施しているかのような指摘ですが、福祉事務所の生活保護申請が激増し、ケースワーカー1人あたりの標準数を大きく越える実態が明らかとなっても、応援体制を組むなどの対策が組まれ、その解消が図られたとの例はほとんど聞きません。

 

●都道府県労働局は、都道府県単位で設置されているのだから、事務移管は比較的容易である。

○都道府県域を超えた就職への対応や都道府県域に限定されない企業の人材確保ニーズへの対応等、職業紹介事業では、都道府県を超えて形成されている労働市場に対応できる体制を整備が重要です。

 雇用動向調査(平成20年度)によると、全就職者の17.3%が他都道府県で就職していることが分かります(特に新規学卒者の都道府県を越えた就職の割合は38.9%にのぼります)。そのため、交通機関が発達した大都市圏等では都道府県を超える職業紹介が日常的に行われており、これと並行して、求人倍率の低い地域の求職者の就職先を確保するため、積極的に都市部のハローワークが求人の少ない地域のハローワークと連携し、他県の求職者向け求人の開拓を行っています。

 こうした中で、「事務移管は比較的容易」とは到底言えません。

 加えて、地方移管を行うなら、全国斉一の雇用保険・労災保険の適用・給付や労働基準行政・雇用均等行政と連携した事業主指導等が困難となるなどの深刻な弊害が生じることになります。こうした観点からも国による全国ネットワークの行政体制が不可欠です。

 なお、労働局が都道府県毎に設置されているのは、その事務・事業が都道府県毎に完結しているからではなく、国民のアクセスを確保するとともに、都道府県毎に存在する労使団体の参画、関係行政機関(他府省(地方検察庁等)、都道府県、市町村等)等との多様な連携を重視しているからであり、地方移管の議論とは無関係です。

●ハローワークを国が運営することについて、厚労省は「ナショナルミニマム」というが、義務教育は市町村の教育委員会、生活保護も市町村が事務を行っており、ハローワークのみ国が運営することとはならない。

○行政の事務・事業は、それぞれに国、都道府県、市区町村等のうち、最も効果・効率的に実施できる機関はどこかを慎重に検討し、その担い手を決めるべきです。例えば、義務教育については、児童・生徒の通学圏等を考慮し、市区町村によって運営されています。また、生活保護は現在地主義で実施するため、市区町村の事務とされています。

 しかし、ハローワークの業務については、企業の経済活動や求人募集、労働者の通勤や求職活動等が、都道府県境を越えて展開されていることから、全国ネットワークにより、広域的な求人・求職やこれに付随するトラブルに対応できる国が担うことが最も効果的かつ効率的です。

 ハローワーク業務を自治事務とするなら、「県が確保した求人は、県民の就職に活用すべき」等との理由から求人の「抱え込み」が行われる懸念や、職業相談が「県民・県内企業向けサービス」と位置づけられることで、現在普通に行われている、県外から(への)求職者への対応が困難となる可能性が高く、さらに全国規模の企業が倒産する等の広域的な事案に対応できなくなる等の事態が生じます。

 また、職業紹介と一体で運営すべき雇用保険については、地域毎に著しい収支差があり、これを都道府県毎に運営するなら、保険料が4、5倍に跳ね上がる自治体が出現することとなり、国以外に運営主体は考えられません。

●現在のハローワークでは、成長産業や人材不足分野への計画的・戦略的な人材の育成(訓練)・供給ができない。地方自治体にハローワークを移管することで、人材の確保・育成から定着支援まで企業を一貫サポートすることができる。

○ハローワークは、産業政策との連携を重視しつつも、労働者の生活や権利を保障することを主眼とした専門機関です。

 こうした立場から、政府の重点施策を具体化すべく、「新規成長分野」への就職を目的とした施策を、労働局やハローワークで積極的に展開しており、この指摘は事実誤認です。

 また、雇用対策が国の経済成長戦略や労働力人口予測等と整合的であることは極めて需要ですが、大局的な成長戦略や労働力人口予測を自治体毎に行うことは困難であって、国が雇用対策から事実上撤退することを意味する地方移管は、非現実的と言えます。

 ハローワークは、現在でも求職者との相談を重ねる中で、職業訓練が必要な求職者に受講指示、推薦を行うとともに、ポリテクセンター(国)等の公共職業訓練施設と連携を取りながら求人情報の提供等を行っており、一貫的なサポートを実施しています。

 平成20年度において、雇用・能力開発機構における施設内訓練受講者の就職率は78.5%、都道府県による施設内訓練受講者の就職率は66.0%となっており、国の支援が高い効果を上げています。

 なお、都道府県等が実施する職業訓練等の事業では、民間委託化が広がっており、公的職業訓練の後退が指摘されています。

●求職者が求めるサービスは職業紹介だけでなく、住宅、生活保護、職業訓練など多岐にわたる。総合行政である地方は、これらの総合的サービスを「ワンストップ」で常時提供できる。地方移管により、就職相談〜職業訓練〜職業紹介まで一貫サポートする体制が構築できる。

○一概に「地方」といいますが、都道府県と市区町村(基礎自治体)では、役割や機能が大きく異なります。地方移管によって、直ちにワンストップ・サービスが可能となるとする議論には疑問があります。

 例えば、都道府県がハローワークを運営した場合、生活保護(福祉事務所)を運営する市区とはどのように連携するのでしょうか。都道府県と市区の連携は可能だが、国(労働局)と市区の連携は不可能という主張は理解できません。

 他方、ハローワークを約4倍に増設し、市区町村(基礎自治体)ごとに運営する構想も想定できますが、権限・財源の地域移管後のハローワークの数を国がコントロールすることは分権の趣旨からできないばかりか、財政上の担保が全くなく、実現可能性が見いだせません。

 

●地方移管により、職業訓練、生活支援等と連携した雇用施策や、産業・教育等、自治体の他部局と連携した政策展開が可能ではないか。

○ハローワークでは、すでに職業訓練施設や福祉事務所、障害者施設、企業や学校などと有機的な連携を図りながら、それぞれの求職者に対する支援を行っています。

 例えば、障害を持つ求職者の就職については、地域にある就業・生活支援センター、地域障害者センター(高障機構=国)との連携のもと、ハローワークによる専門的な職業相談(各種支援制度の活動を含む)、求人開拓を進めています。また、新卒者支援では、ハローワーク職員が頻繁に高校等に赴き、進路指導担当の教師と連携しながら、生徒の相談に対応し、就職につなげています。

 地方移管によって、労働行政分野の専門職員がいなくなるなら、このような専門家同士の連携が困難になる懸念があります。

●国と地方の事務が一部重複(職業紹介・就労支援)するなど非効率ではないか。

○無料職業紹介業務は、都道府県でほとんど行われていません(事業の許可を受けている自治体が一部あるが、職業紹介の実績はごくわずか)。つまり、職業紹介業務が「二重行政」であるとの批判は、事実を歪曲したものです。

 具体例としてよく挙げられる埼玉県のヤングキャリアセンターや京都府のジョブパークなどは、職業相談・紹介機能を有するものの、その実務を担っているのは、国のハローワーク職員であり、「都道府県が職業紹介を実施している」という事実は全くの誤認です。

なお、自治体の就労支援策の多くは、そのほとんどが民間事業者(派遣会社等)への委託(丸投げ)であり、ハローワークのような職業紹介・雇用保険・雇用対策が一体となった就労支援とはなっていません。

●警察事務は、都道府県警察組織が運営して、広域犯罪等にも対応しており、ハローワークも同様に都道府県が運営できる。

○都道府県警察組織は、国の警察庁長官の指揮命令により運営されています(警察法16条1項)。例えば、警視正以上の階級の警察官は国家公務員であり(同法56条)、国が地方公務員を指揮監督する形態がとられています。

 これは、地方分権の考え方とは本来、相容れないものですが、警察事務の特殊性、沿革等から存続されているものであり、これをモデルと捉えることは間違いです。

 

●ハローワークは全国ネットワークというが、実際にハローワークで自己検索機を操作したところ、県内の求人しか閲覧できなかった。

○全国のハローワークの自己検索機について、同一都道府県内の求人しか閲覧できないような主張ですが、全くの事実誤認です。

 ハローワークでは、都道府県境を越えた全国的な職業相談・職業紹介に対応していますが、ハローワークを利用する求職者の多くは、当該ハローワークの労働市場・通勤圏(都道府県とは一致しない)での就職を希望しています。

ハローワークが自己検索機を設置する際にも、利用者ニーズを第一に考え、労働市場・通勤圏、求職者の検索しやすさの確保、行政コストの節減等を考慮して、閲覧範囲を設定する場合があります。

 このため、自己検索機の閲覧範囲は、それぞれのハローワークで異なります。例えば、県民の多くが東京都へ通勤している埼玉のハローワークは、埼玉・東京・神奈川・千葉全域が閲覧範囲です。一方、管内面積が広い北海道のハローワークでは、管内と周辺地域が閲覧範囲です。他にも、ハローワーク佐賀では同一労働市場・通勤圏である福岡県大川地方等を閲覧範囲としています(全国の求人が閲覧可能な自己検索機も順次設置)。

 つまり、全国ネットワークだからこそ、都道府県境ではなく、労働市場・通勤圏という、求職者の実情に応じた求人公開が可能となっているのです。

 加えて、職業紹介の窓口では、労働市場圏を越えた遠方での就職を希望する求職者に職員が就職希望地のハローワークと連絡を取るなど適切な紹介を実施しています。

 事実を全く逆さまに描こうとする思惑はよく分かりませんが、事実に基づいた議論が求められています。

●転職者のうち、国のハローワークで就業した人は1割にも満たない。

○まず、「転職者のうち、国のハローワークで就業した人」という表現は、2とおりの解釈が考えられます。一つは就職者のうち何割がハローワークを利用したのか。二つにはハローワーク利用者のうち何割が就職したのかです。

 一つ目のハローワーク利用率ですが、平成20年度の雇用動向調査によると、転職者(就労経験のある人)の入職経路は以下のとおりです。

  ハローワーク ・・・・・・・・・・・・・21.9%

  ハローワークインターネットサービス ・・ 3.5%

  民営職業紹介 ・・・・・・・・・・・・・ 1.9%

  学校 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.8%

  広告 ・・・・・・・・・・・・・・・・・28.3%

  その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・13.5%

  縁故 ・・・・・・・・・・・・・・・・・27.3%

  出向・同復帰 ・・・・・・・・・・・・・ 2.6%

 

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つまり、ハローワーク、同インターネットサービスあわせて約4分の1の転職者がハローワークを利用しており、先進諸国の中でも高い水準です。

 また、二つ目のハローワーク利用者の就職率についても、平成21年4月〜平成22年7月までの就職率は全国で25.4%、一番少ない東京でも17.7%となっています。

 以上、どちらの解釈であっても、事実誤認と言わざるを得ず、こうした認識をもとにハローワークの在り方の議論をミスリードすることは許されません。

●厚労省は、職業紹介と雇用保険は一体不可分であり、雇用保険を全国単位で運営する必要があるため、ハローワークを地方移管できないというが、国が雇用保険の保険者となり、窓口事務は地方公務員が担当すればよい。

○まず、職業紹介と雇用保険は、かつて分離したことで濫給が生じたイギリスの事例から見ても一体不可分であること、また、雇用保険財政は、地域間で格差が大きく、ナショナルミニマムの観点からも全国単位での運営が必要です。

 その上で、国が保険者となり、窓口事務は地方公務員が担当するという方法は、国が地方自治体を指揮監督することを意味し、かつて「国と地方自治体を上下関係に置くもの」として批判された機関委任事務を拡大して復活させることに他なりません(ハローワークの事務は以前も国の事務であり、機関委任事務はハローワークの指揮監督、連絡調整等のみ)。

 なお、雇用保険の事務は、受給者が権利として必要な額の給付を受けられることと同時に、公平な適用や濫給防止を図るよう努めなければなりませんが、保険主体でない機関が、財政面で一切責任を負わないまま実施機関となることによって、濫給も懸念されます。

●厚労省は、ハローワークの地方移管が困難な理由としてILO第88号条約をあげるが、条約批准国でも地方がハローワークを運営している国がある。

○ILO第88号条約は、雇用(勤労権保障)に関して国が負うべき責務を明確にする立場から「国の機関の指揮監督の下にある全国的体系の職業安定組織」のネットワーク維持を求めています。

 条約批准国で国以外が中心となって職業紹介をしている国にデンマーク(地方)とオーストラリア(民間)がありますが、デンマーク憲法82条は「自治体の業務は、国の監督の下、実施される」と規定しており、わが国がすでに解消した機関委任事務と類似した法律関係となっています。オーストラリアについては、労働組合等によりILOや国際司法裁判所に提訴されれば、条約違反と判断される可能性が高いものです。

 「分権国家」と呼ばれるドイツのほか、イギリス、フランス等、多くの先進国が職業紹介機関を国の機関として運営し、大きな成果をあげていることにこそ注目すべきでしょう。

 

以 上