民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2006年 1月
規制改革・民間開放の推進に関する「第2次答申」に対する全労働の考え方
全労働省労働組合

規制改革・民間開放推進会議(以下、推進会議)は、2005年12月21日、
「『小さくて効率的な政府』の実現に向けて‐官民を通じた競争と消費者・利用者による選択‐」
と題する第2次答申を行った。第2次答申は、国や地方の行政事務・サービスの現状を、「どの時代のどの国においても歴史上成功を収めることができなかった社会主義的システムにおける市場の機能を無視する配給制度と同様」、「既得権益と非効率を擁護する」などと決め付けている。そして「官だけがいわゆる公共公益性を体現できる唯一の主体であるという旧来の発想は終焉を迎えた」として、「『行政部門の徹底した効率化・コスト削減』及び『国民負担の軽減・民間部門の需要創出』に資する規制改革・民間開放」を論じたものとなっている。
第2次答申は、分野横断的な「民間開放」の手法とする「市場化テスト」にはじまり、雇用・労働、社会保障、医療、教育、保育、金融、情報通信など幅広い分野に言及し、そのいずれもが、国民生活に甚大な影響を及ぼしかねないものとなっている。
私たちは、労働者・国民の権利保障を担う立場から、雇用・労働分野を中心とした、第2次答申の持つ危険性を以下に指摘する。

A 「民間開放」の持つ本質的な問題点

「民間にできることは民間に」、「小さくて効率的な政府の実現」を強調する推進会議の主張については、「労働行政の『民間開放』をどうみるか(見解)」(2004年10月29日)において、基本的な考え方を明らかにしてきたところであり、あらためてその問題点を指摘する。
多くの公的サービスは、国民の権利保障に直接又は間接に関わるものであるから、これまでその責務を有する行政(機関)が公的サービスの実施主体となってきた。しかし、近年の財政危機に促された行政スリム化の方策として、また新たな民間需要(ビジネスチャンス)をつくり出す方策(加えて金融機関に過剰に蓄積された資金の活用策)として、公的サービスの「民間開放」を加速する動きが強められてきた。
「民間開放」の適否は、多様な公的サービスの目的、内容、性格等にてらして考察されるべきであり、その際、次の視点を重視すべきである。

まず第1に、人権保障を担う国(あるいは地方自治体)の責任放棄にならないかである。
公的サービスを「民間開放」することによって、当該サービスは民間企業によって提供される商品と位置づけられる。この商品を購入できるかどうかは、購入者の資力等の経済合理性によって決まり、もはや平等に扱われるべき国民の権利とは言えない。とくに、当該サービスが人権保障に直接関わるものである場合には、貧富や地域等による人権保障の格差を認めることになり、「民間開放」は基本的人権を保障すべき国(あるいは地方自治体)の責任の放棄あるいは後退を意味することになる。また、公的サービスの提供主体の変更(行政機関→民間企業)は、サービス実施過程での行政責任を免責するとともに、議会(あるいは国民)による民主的コントロール(監視と少数意見の反映)を困難にする(民間企業の事業には国政調査権や情報公開請求権等が及ばない)こととなる。

第2に、公的サービスに求められる「公共性」を変質させないかという点である。
多様な公的サービスには、それぞれに求められる「公共性」がある。公正性、中立性、安定性、専門性等はその例であり、「民間開放」を論ずるにあたっても、これらが十全に考慮されなければならない。もとより、公的サービスに求められる「公共性」は、それぞれにその内容や強弱に違いが認められるが、これらが大きく失われることになれば、「民間開放」は公的サービスの変質を意味することになる。例えば、公的サービスが「社会のセーフティネット」としての性格を強く持っている場合、「民間開放」がその性格と機能を失わせるなら、国民の安全・安心を奪い、大きな社会不安を広げることになる。

第3に、公的サービスを担う民間企業が効率的かについてである。
「官から民へ」と称される「民間開放」は、その前提に「官は非効率、民は効率」という「評価」があるが、この前提がまず検証されなければならない。その際、1つの公的サービスが他の様々な施策と一体的に運営されている場合には、その行政運営全体の効率性をとらえた評価が重要となる。また、公的サービスが定型・反復的な内容であるのか、逆に時々の政策判断を迅速に反映させなければならない内容であるのかの検討も重要であり、後者の「民間開放」は業務の非効率化をまねき、行政目的の達成を困難にする懸念がある。なお、「民間開放」によるコストについては、後述するとおり職業紹介事業を民間事業者に委託し、コスト増となった事例がある。

第4には、公的資金を使ったビジネスの拡大が財政規律を失わせないかという問題である。
公的サービスの「民間開放」が、公的資金の投入を前提とする場合、民間企業の側からさらなる資金投入を求める圧力が強まり、構造的な「既得権益」となっていく傾向がある。これまでの公共事業が、政官財の癒着を生みだし、強い政治的圧力の下で、効率性あるいは国民にとっての必要性を度外視した事業が増殖され続けてきたことを銘記しなければならない。「民間開放」の動きは、財政危機打開の方策として位置づけられているが、こうした「構図」の中で財政規律が失われるなら、むしろ財政危機を深刻化させる可能性が高い。

B 「市場化テスト」に関する問題点

【2横断的制度整備等 1市場化テストの速やかな本格的導入】

1.先進諸国の事例に対する事実誤認

国や自治体の事務・事業を「民間開放」することの是非については、このように慎重な議論を重ねる必要があるにもかかわらず、第2次答申は、「『公共サービス効率化法(市場化テスト法)案』」(仮称)を次期通常国会に早期に提出すべき」としている。
第2次答申は、市場化テストが、「積極的に財政改革を進めてきた多くの先進諸国(米・英・豪等)において、既に実施されているところであり」と、すでに実績をあげている制度であるかのように評価している。
しかし、たとえば「人事管理通信」(2005年11月12日)は、アメリカでの実態が、必ずしも効率的でないことを紹介している。同誌によると、連邦管理予算局は1967年に通達A76を出し、連邦各局の事業をより低い費用で実施できる民間部門に移管する仕組みを作った。しかし、A76に基づく審査にかかる費用が5年間で800〜1,000万ドルであったのに対し、市場化テストを経て実施された民間委託による予算節減額はわずか48万ドルに止まっている。
オーストラリアについては、全労働が2004年11月に労働行政を中心に現地調査を行った。オーストラリアの職業紹介事業は、「ジョブネットワーク」という枠組みで、政府が民間サービスを購入しているが、その対象は失業保障の受給者に限定され、在職求職者やパート希望者は利用できない。その点で、ILOが国際基準としている「国民の誰もが、無料で利用できるセーフティネット」とは、明らかに異なると言えよう。ちなみに同国はILO第88号条約の批准国であるが、同国の職業紹介事業の水準は、在職求職者やパート希望者を排除していることから、条約違反の疑いが非常に濃厚である。推進会議は、折にふれて市場化テストの根拠として、オーストラリアの職業紹介事業を取り上げてきたが、その意図は「日本における雇用のセーフティネットを破壊させても良い」と言うに等しいものである。

2.推進会議には、中立・公正は担えない

第2次答申は、「『第三者機関』(「規制改革・民間開放推進3か年計画(改定)」(平成17年3月25日閣議決定)参照)の必要な機能は、当会議が実施する」としている。この「第三者機関」については、「(市場化テストにおいて)落札者の選定等に際し、透明性・中立性・公正性を確保する必要」があることから設置すると説明されてきたが、第2次答申は、当面、推進会議みずからが、その役割を担うと言うのである。しかし、推進会議は、労働者代表がまったく参加していない。労働者の権利保障にかかわる問題を、企業経営者と規制緩和論者だけで議論して、どうして中立や公正を保てるのか理解に苦しむ。

3.ハローワークの現状に関する事実誤認の数々

【2) ハローワーク関連業務】
(1)意図的につくられた「官の非効率」

第2次答申は、「ハローワークによる求職・求人のマッチングは、必ずしも効果的に実施されていないとの指摘もある」と述べている。
この指摘は再三繰り返されているが、これに関しては、これに関するデータはこれまでも一切示されておらず、主観にもとづく一方的な言い方でしかない。逆に、就職支援事業等の民間委託を行っている東京都足立区や神奈川県藤沢市の実態からは、民間による求職・求人のマッチングの非効率さが浮かび上がる。
足立区における官民共同窓口では、足立安定所と民間事業者(リクルート社)が隣接して求職者に対する支援を行っている。その実績に関してリクルート社は、総務省行政評価局に対して、「平成15年11月の事業開始から16年4月末までの実績をみると、本事業の主な対象者である30歳未満の若年者層では、新規求職者に対する就職決定者の割合は、ハローワークが15.1%(新規求職者1,098人、就業決定者166人)であるのに対し、当社は33.8%(新規求職者358人、就業決定者121人)となっている」と、いかにも民間の優位性を証明したかのように述べている。しかし、この数字はそもそも比較の意味がない。安定所の統計は、みずから職業紹介を行い、その結果、就職に結びついたもののみを計上している。一方のリクルート社のそれは、縁故就職や自己就職、安定所の職業紹介で就職したものまで含め、「リクルート社の実績」として計上している。正確な実態を比較するなら、リクルート社の保有する求人によるマッチング件数で行うべきであり、その数は、約5ヶ月間(15年11月〜16年3月)でわずか4件であった(足立区産業経済部経済観光課による)。同期間に足立安定所は613件の紹介就職を実現している。多額の委託料(足立区は平成15年11月から16年3月までの委託料として、リクルート社に900万円の委託料を支払っている)を考慮するなら、民の非効率性とコストの増嵩は明らかである。
藤沢市が行う職業紹介事業においても同様の実態が明らかになっている。藤沢市は、「市場化テスト」で積極的な提案を行っている東京リーガルマインド(LEC)社に職業紹介事業を委託している。東京新聞(11月28日付)は、「就職者一人当たりのコストは安定所が約8万円であり、国の職業あっせんのあり方を『高コストだ』と指摘する」と、東京リーガルマインド社のコメントを紹介している。また、同記事は、東京リーガルマインド社による就職率が「3割に達した」とし、安定所は5%台に過ぎないとして、その優位性を伝えている。しかし、ここでも作為的な統計操作がある。安定所の就職率は、月間就職者数を月間有効求職者数で除して求めるが、東京リーガルマインド社の数字は、約8ヶ月間の就職者を累計した数字を使用しており、これを新規求職者の累計数で除しているが、これでは就職率が高くなるのは当然であり、「水増し」としか言いようがない。安定所の統計と同様の方法で換算した推計就職率はせいぜい2〜3%台であり、藤沢安定所の半分程度の水準に過ぎない。一方、就職者一人あたりの費用は、年間委託費4200万円、紹介就職者60人、実施期間8ヶ月で推計すると40万円を上回り、安定所の8万円よりも相当割高となっており、「高コスト」との批判は自身に向けられねばならない。
全労働は、求職者に対する多様な支援窓口の存在を否定するものではなく、安定所機能を補うべく、地方自治体が民間事業者への事業委託を含むさまざま努力を払っていることに敬意を表するものである。問題は、その実態を歪曲し、職業安定所業務を意図的に「非効率」と宣伝し、国民のセーフティネットを破壊しようとする動きにある。

(2)非常勤職員はチームワークの重要な柱

第2次答申は、「多くのハローワークでは、民間出身で任用期間の短い非常勤職員が、個別相談等の業務や求人開拓の業務に従事しており、その数は既に常勤の公務員に匹敵する水準に達している。しかし、このような非常勤職員も含めた現行の職業紹介の仕組みが、どれだけ効率的な職業紹介に結びついているのか、そのためにかけられた費用の全体像など、多くの情報が十分には開示されていない」としている。
推進会議の問題意識がどこにあるか十分明らかではないが、非常勤職員は、決して安定所の機能が不十分であるため、その比率を高めてきたものではない。雇用失業情勢の変動や、行政施策や行政需要への臨時の対応が必要であるため、時々の行政施策の一環として各種の非常勤職員が配置されてきたものである。当然にその数は増減を繰り返しており、近年は大規模に縮減されている実態がある。そうした中で、非常勤職員は、低賃金かつ不安定雇用にもかかわらず、求人開拓や求職者との相談等の業務と真剣に向き合っている。
また、第2次答申は、「非常勤職員も含めた現行の職業紹介の仕組みが、どれだけ効率的な職業紹介に結びついているか」に問題意識があるとしている。
これは、実際に業務を行う非常勤職員の存在が非効率性を生み出しているとでも言いたいのであろうか。そうした指摘なら、とうてい容認できない。職業紹介業務における専門性向上が、長期間にわたり、さまざまな行政分野を経験することを通じてはかられることは言うまでもない。第一線の現場では、常勤職員が中心となり非常勤職員と一体的にチームワークを重視した業務を行っており、非常勤職員のみを切り取って「効率的な就職に結びついているか」を問題にすること自体に無理がある。

(3)幅広い職業を対象とした職業訓練を行う民間事業者はない

第2次答申は、「職業紹介については、教育・訓練事業と一体的に実施することが効果的であるが、民間とは異なり、国の行う公共職業訓練事業はハローワークから独立した事業であり、両者の連携をより緊密にし、実効をあげる必要がある」としている。
「職業紹介と職業訓練を一体的に実施すべき」との問題意識はわかるが、そもそも、職業紹介と職業訓練の受講指示は一体で行われている。その点で答申の指摘は現状に対する事実誤認がある。職業紹介と職業訓練を行う施設の一体性を言うのなら、現実を見ない机上の空論である。すべての国民が利用できるセーフティネットとしての公共職業安定所は、すべての職業を対象にしている。この多種多様な職業に就くための職業訓練は、国が直接実施するものはもとより、関連する外部団体、地方自治体が運営するものを広く活用している。さらに、民間に委託して実施する訓練も多岐にわたる。推進会議は、職業紹介とあわせてこれらをすべて1ヵ所で行うべきとの問題意識であろうか。広大な敷地や施設を保有し、しかも産業構造や労働市場の変化に対応して柔軟に訓練内容を見直す訓練機関を、公共職業安定所の内部につくることなど、およそ現実的でなく非効率である。
職業紹介と職業訓練の「連携をより緊密にし、実効をあげる必要がある」という問題意識は、「ここまで行けばもう十分」という一線はなく、常に意識されるべきものである。したがって、「より連携を密にする必要があるから、官は不適当」という結論付けは不可解としか言いようがない。
一方で、安定所のように職業訓練を念頭に置きながら、あらゆる職業に関わって職業相談・職業紹介を実施している民間企業がどれだけあるだろうか。多くは、国の委託を受けて職業訓練を行う各種学校等によるもので、「学校による職業紹介事業」の域を出ないものであり、多様な職業に対応できるものではない。民間の事業者ができない分野が職業相談と職業訓練の連携であり、こうした民の実態は「民間開放」の理由には全くならない。

(4)「モデル事業」は公正に検証すべき

第2次答申は、「本年度に実施されたハローワーク関連の市場化テストの『モデル事業』には、延べ74の民間事業者が入札に参加したが、例えば『キャリア交流プラザ』事業についてみると、従来の官直営の『キャリア交流プラザ』における就職率55%(平均値)を超えるサービスの水準を確保することを前提に、これまでの官直営の事業に要したコスト(直接経費のみ(厚生労働省発表))に比較して、30%を超えるコスト削減となる金額で落札された例もあるなど、一定の成果を得たと言える」としている。
市場化テストの目的とは、「価格と質の両面で、より優れた主体が落札し、当該サービスを提供していく制度」ではなかったのか。この「質」について、「サービスの水準を確保することを前提に(入札した)」ことをもって済ませてしまう安直な議論には驚かされる。これでは「質の軽視」と批判せざるを得ない。第2次答申の言うキャリア交流プラザについては、現在「モデル事業」を実施している段階であり、その実績や評価は何ら明らかではない。一定の時期が経過した後、価格と質の両面から、的確に判断されるべきものである。落札価格のみを比較して「一定の成果を得たと言える」と結論づけることはできないのである。加えて言えば、55%という就職率は、キャリア交流プラザ単独の努力で成し得るものではない。キャリア交流プラザにおいて再就職に向けた支援が行われるが、これを受けて安定所が適格紹介を行うことによって、効果的・効率的に再就職が実現するものである。質の評価にあたっては、こうした点も十分考慮されることが必要である。

(5)求人企業にとっても「無料」は不可欠

第2次答申は、「民間の有料職業紹介事業者の多くは、求人企業が費用を負担する形で、求職者からは原則として手数料を徴収せずに、マッチングサービスを提供しており、その意味では、官民のいずれがサービスを供給する主体であっても、その事業が求職者にとっては無料の職業紹介事業であることに違いはなく、両者の相違点は、職業紹介費用の負担者が国であるか企業であるかの違いに過ぎないものとなっている」と述べている。
しかし、有料職業紹介事業では、一部職種において、年収700万円を超える場合には求職者からの手数料徴収を行っており、そのこと一つをとってもこの記載は正確ではない。
また、この問題意識は、求人企業にとっても、無料で利用できる公的機関の存在が欠かせないという現実を見ていない。たとえば、中小企業家同友会全国協議会「同友会景況調査報告」(2004年12月)によると、「正規従業者確保の主なルート」は、回答した中小企業の66.3%(複数回答可)が「公共職業安定所」と回答しており、他を大きく引き離している。安定所を利用する求人者の圧倒的多数は中小企業であり、募集活動費に制約の大きいこれら企業にとって、無料の安定所の存在意義は大きい。
第2次答申の「求職者から見れば無料に変わりない」とする論は、行政の役割に何の理解もない推進会議の認識を端的に示したものといえる。公的職業紹介事業は、事業主・求職者双方とも無料であってはじめて、中立・公正な立場が維持できるものである。

(6)国際条約の遵守は批准国の責務

第2次答申は、ILO第88号条約に関して、「上記条約は、国際的に職業紹介の国家独占政策が採用されていた1948年に採択されたものであり、その後の職業紹介に関する考え方の変化(民間職業紹介事業の役割が積極的に評価されるようになったことや、官民の職業紹介事業の協力が必要であることの認識が高まったこと等)等を踏まえると、同条約については、労働者の保護というILOの究極の目的を踏まえた解釈を行うべきである」としている。
「職業紹介の国家独占政策が採用されていた」とする解釈に、利益優先の推進会議の姿勢を見ることができる。同条約は、第三者の就業に介在する悪徳事業者の存在により、中間搾取等が横行していた中で、これら弊害の除去を国際ルールとして定めたものにほかならない。「労働者の保護というILOの究極の目的」を言うのであれば、第88号条約の精神は現在においても何ら色褪せるものではなく、国がその責任を果たすことは当然必要である。民間事業者に関していえば、その後確立された第181号条約等の枠組みの中で、役割を発揮すべきであろう。
また第2次答申は、「民間職業紹介事業が発達し、極めて大きな役割を果たすに至っている我が国においては、民間事業者の能力を職業安定のためのセーフティネットの構築に積極的に活用することこそ、条約の趣旨に沿うものと考えられる」としている。
この考え方も、現実を正確に見たものではない。特定の職業分野で民間職業紹介などが成長している実態はあろうが、幅広い職業、すべての求職者に対するセーフティネットとなりえる民間企業は未だ存在しない。民間企業が得意分野で求職者を支援することは、求職者サービスにおいて意味を持つことであるが、そのことはセーフティネットである公共職業安定所を否定する理由にはならない。
見過ごせないのは、今日最も成長を遂げている人材ビジネスの領域は、職業紹介や職業訓練に関わるものよりも、労働者派遣や業務請負だということである。これらに関係する企業は、あたかも労働者の側に「働き方の多様化」というニーズがあるように装いつつ、実は企業の「働かせ方の多様化」を推し進め、労働者に不安定雇用と劣悪な労働条件を押し付けてきた「旗振り役」である。こうした働かせ方は、国民の生活基盤を不安定にし、社会不安を引き起こすばかりか、製造現場などでは品質悪化等を顕在化させ、見直しが迫られているものである。2004年11月10日の参議院の「経済・産業・雇用に関する調査会」において、経済産業省経済産業政策局長は、「コストだけで派遣を増やしたというのは、‥強い製造業を作るという意味ではマイナスだ‥強い競争力を持つためには終身雇用に戻した方がいい」と答弁している。推進会議は、企業育成に軸足を置く経済産業省幹部でさえ警鐘を鳴らす人事管理を、国の事業にまで拡大しようとしているのである。人材ビジネスの成長と相まって、国民生活と経済活動の将来に深刻な影を落としていることを、十分に見据えた議論こそ必要である。また、これら人材ビジネスを営む民間事業者にとって、企業は重要な顧客である。こうした民間事業者が安定所を運営するなら、法令順守の事業主指導や、労働基準監督行政との連携に重大な支障を生じかねず、それは労働者の権利保障を大きく後退させることを意味する。
第2次答申は「また、同条約によれば、国の指揮監督の下にある全国的体系の職業安定機関は、『各地理的区域について十分な数であって使用者及び労働者にとって便利な位置』(第3条)にあればよいのであって、具体的にこうした職業安定機関がどの程度の数、どのような位置関係において設置されなければならないかについては、上記規定の範囲で社会経済情勢の変化や通信・交通等の技術の進化を踏まえつつ、各国の裁量に委ねられているとも言うことができる」とも述べている。
文中、「あればよいのであって」以下は、条約ではなく推進会議による記述である。真意は測りかねるが、現状の職業紹介機関の数が多過ぎるとの指摘であるなら、それは当たらない。都市部を除いては、職業紹介機関はきわめて限られた数しか配置されておらず、最寄りの安定所に行くにも多くの時間と交通費の負担を強いられる地域は非常に多い。都市部においても、利用者数にくらべて職員数は著しく不足し、窓口には慢性的な混雑が生じている。こんにちの社会で多発する犯罪を見ると、それを引き起こした原因として「失業」等雇用不安が報じられるケースは数多い。国策として重視されている「国民の安心・安全」を実現させるためにも、雇用のセーフティネットである公共職業紹介機関のさらなる充実こそが求められている。

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4.市場化テストの本格的導入への疑問

【ア 「人材銀行」事業、「キャリア交流プラザ」事業、「求人開拓」事業への市場化テストの本格的導入】

第2次答申は、職業紹介事業に関係して、人材銀行、キャリア交流プラザ、求人開拓の各事業を、市場化テストの対象としている。また、現在「モデル事業」として実施しているキャリア交流プラザ、若年版キャリア交流プラザ、求人開拓の各事業については、2006年度も継続して「モデル事業」として実施するとしている。
現在実施されている「モデル事業」に関する事後評価が何ら行われないままに、その対象を拡大しようとするものであり、そもそも「モデル事業」とは何であったのかが、大きな疑問である。第2次答申は、各事業の今後の進め方として、「民間事業者による運営状況(サービスの質や効率性等)を官が直轄で実施する他の『人材銀行(キャリア交流プラザや求人開拓も同様)』事業と比較しつつ、市場化テストの本格的導入の拡大を更に検討する」と述べている。しかしながら今回の答申内容を見るならば、はじめからサービスの質や効率性等の比較など行うつもりはなく、拡大の方向性しか持ち合わせていない姿勢が明らかになっている。少なくとも中立性や公平性を口にできる内容とは言い難い。
現在行われている「モデル事業」の一つである求人開拓事業において、2つの地域で、受託事業者から地元の安定所に、当該事業を担当する「求人開拓推進員」の求人が提出された。つまり、求人開拓事業を受託したが、実際にその業務を行える体制は当該事業者にはなく、安定所を利用して期限付きの社員を募集しているのである。求人開拓を行うには、労働法に加え、多様な職業に関する知識が求められ、当該労働市場の特徴などを把握しておく必要もある。こうした安易な求人姿勢を見るとき、その事業の質がどうであったかについては、しっかり検証しておくことが求められるあわせて、同様の立場から「市場化テストの本格的導入の拡大をさらに検討する」ことの是非についても、十分検証されなければならない。

C 国民の安全・安心の確保こそ重要

【2 官業の民間開放の推進 (4)公益法人 オ(社)日本ボイラ協会】

第2次答申は、(社)日本ボイラ協会に関わって、「労働安全衛生法の認定制度では、ボイラー及び第一種圧力容器について、高庄ガス保安法のような自主検査が認められていない。したがって、一定の安全管理基準を満たす事業者において自主検査が可能となる認定制度・基準について、安全の確保を前提に検討するべきである」と述べている。
これは、労働者の安全を著しく脅かすものであり容認できない。すでに厚生労働省も反論しているように、ボイラーや第一種圧力容器は、いずれも膨大なエネルギーを有し、腐食等のおそれがあることから、十分な安全確保対策がはかられなければ、重大災害につながりかねない。実際、近年においても、安全対策の不備や腐食等により労働災害が発生している。
いま、国民の安全・安心の確保が厳しく問われている。1998年の建築基準法「改正」は、建築物の安全確認を民間の確認検査機関に委ね、今回の耐震構造偽装事件を引き起こした。また、分割・民営化を強行したJRでは、民間鉄道会社との競争を優先してきたが、その結果、JR西日本では、死者107人、負傷者555人の大惨事が発生した。これらによって規制緩和・民間開放の矛盾が大きくクローズアップされ、必要な規制を求める世論が大きく高まっている。その点で、第2次答申が、「住宅購入後の瑕疵に対する被害者救済の仕組みの整備」の中で、「今回の構造計算書偽装問題では、建築基準法の建築確認に関し、官民を問わず検査機関のチェック機能の不備等が指摘されている」と述べているのは見当違いも甚だしい。まずは「事前規制」から「事後規制」へと規制緩和を強引に推し進めた愚を率直に反省し、国民の安全確保に必要な規制を、あらためて強化すべきである。そのような視点に立てば、ボイラー・第一種圧力容器検査の規制緩和など出て来ようはずがない。

D 行政指導を骨抜きにする「規制の見直し基準」

【3 規制の見直し基準の策定等 (2)-ィ-(ィ)-b「外部効果」がないものとされる通知・通達等】

推進会議は9月27日に発表した「提言」において、「行政指導指針」の見直しに言及し、その典型例として、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について(平成14 年2月12 日基発第0212001号)」を名指しした。
第2次答申においては、「『外部効果』がないものと整理される通知・通達等」の典型例として「行政手続法に定める行政指導指針」をあげ、「現在制定・発出されている通知・通達等は、私人に対し法的効果を有しないかどうかが不明確であり、それが私人の活動を不当に拘束する原因となっている。私人に対し法的効果を有しないのであれば、そのことを明確にする必要があり、このために、当該通知・通達等の冒頭に『この通知・通達等には拘束力はありません』『この通知・通達等に従うかどうかは任意です』という趣旨の注意書きを付するべきであり、かかる観点で見直されるべきである」と述べている。
「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(以下、対策)は、最新の医学上の知見をふまえて脳・心臓疾患の労災認定基準が改正されたことを受けて策定されたものである。すなわち、月80時間あるいは月100時間にも及ぶ過重労働が、脳・心臓疾患(過労死)と「強い関連」があることを明らかにした労災認定基準の確立にあわせて、そのような脳・心臓疾患を生じさせないための「事業主の講ずべき措置」が、対策なのである。具体的には、使用者に対して、時間外労働の削減(そのための労働時間管理、労働時間の適正な把握)、年次有給休暇の取得促進を求めるとともに、健康診断の実施等の徹底、産業医等による助言・指導等を求めているが、これらは使用者が負う安全配慮義務の基本的な内容と言えよう。そもそも、使用者は、労働者に脳・心臓疾患を罹患させるほどの過重な労働を行わせてよいはずもなく、対策の内容は、本来、法令によって義務づけるべきものである。とは言え、この間、対策は法的拘束力を持たずとも、その合理性や必要性を行政が積極的に働きかけることにより、労働者のみならず、多くの事業主からも理解を得、過労死・過労自殺が社会問題化する中で、労働者の健康確保に大きく寄与してきたものである。しかしながら第2次答申は、この対策を敵視し、「この通知・通達等には拘束力はありません」「この通知・通達等に従うかどうかは任意です」と、通達の冒頭に明記せよとしている。これでは、必要な行政指導を事実上「無視せよ」と言うに等しく、例えば、対策には、被災者救済の上でなお改善すべき点は少なくないが、これさえも緩和せよというならば、労働者の健康確保対策が大きく後退することは避けられない。法定事項を国民に正確に伝えることは重要であり、過度に国民を規制することは当然避けるべきであろう。しかし、労働行政が労働者の健康確保の方向性を示した対策を、その冒頭に「無視せよ」と言うことではまったく話が違う。第2次答申は、労働者をパートナーとして尊重する多くの事業主の感覚を離れ、労働者を使い捨て感覚でしか捉えていない一部の企業の代弁者であることが、端的にあらわれたものと言えよう。

E 少子化問題の驚くべき曲解

【3 横断的重点検討分野の改革 1 少子化への対応等 (1)仕事と育児の両立を可能とする多様な働き方の推進】

第2次答申は、「男性と同じ立場で継続的に働く女性が増えているにもかかわらず、世帯主である男性が働き、配偶者である女性が家事や子育てを行うことを暗黙の前提とした画一的な働き方が依然として主流を占めている。その結果、特に共働き世帯では仕事と育児の両立が困難となり、第1子の出産を機に働く女性の約70%が離職していることに見られるように、子育ての負担感が大きくなるとともに、就業継続を希望する女性は結婚や出産を控えることになり、少子化が進展する大きな要因となっている」とする。
仕事と育児の両立支援が、少子化を克服するための一つの課題であることは間違いないが、労働の実態から見た少子化の最も大きな原因は、何より雇用の不安定化と賃金の低下があげられよう。いまや、労働者の3人に1人は派遣や請負、パートなどの非正規労働者であり、若い世代ほどその比率が高い。こうした労働者は、短期雇用のため生活設計が立てられない上に、収入もきわめて低い状態に置かれている。勤続年数に応じて賃金が上昇することもないため、不安定雇用かつ低収入が、将来にわたって続くことも想定せざるを得ないのが実態である。UIゼンセン同盟の派遣社員実態調査(05年3月)によると、34歳以下の男性の41.5%が「今の状態では結婚できない」、20代の女性の20.7%が「子供を生み育てることができない」と答えている。派遣労働の拡大は、出産はおろか、結婚も出来ない労働者を増やしているのであり、ここに抜本改善のメスを入れなければ有効な少子化対策とはなりえない。技術の伝承や安全性確保さえ困難となっている製造現場の実情もふまえ、安定した正社員の雇用を増やすことが何よりの対策である。また、同一価値労働同一賃金の徹底や、まともな生活を保障する最低賃金の引き上げも急務と言えよう。
一方、正社員労働者にあっても、出産・子育ては容易でない。その最大の原因は長時間・過密労働の蔓延であり、過労死と隣り合わせで、家に帰っても寝るだけでは、子育てどころではない。こうした状態を改善するには、1週40時間、1日8時間労働の原則を徹底し、超過勤務の短縮と割増率の引き上げ、不払い残業の根絶がただちに必要である。
このように、少子化対策を言うのであれば、男女ともに人間らしく働くためのルールの確立、すなわち、労働分野の規制強化こそが必要であるのに対し、第2次答申の対策は、財界の要望が羅列されているに過ぎない、あまりに的はずれのものである。

1.労働時間規制は強化すべき

【(1)労働時間規制の適用除外制度の整備拡充 (3)労働契約法制の整備】

第2次答申は、「多様な働き方を選択する労働者が増える中で、ホワイトカラーを中心として、自らの能力を発揮するために、労働時間にとらわれない働き方を肯定する労働者も多くなっており、自己の裁量による時間配分を容易にし、能力を存分に発揮できる環境を整備するためには、そうした労働時間にとらわれない働き方を可能にすることが強く求められている」とし、「アメリカにおけるホワイトカラー・エグゼンプション制度等を参考にしつつ、現行の専門業務型及び企画業務型の裁量労働制の対象業務を含め、ホワイトカラーの従事する業務のうち裁量性の高い業務については、労働者の健康に配慮する措置等を講ずる中で、労働時間規制の適用を除外する制度について、その検討を着実に進め、結論を得るべき」と述べている。
ホワイトカラーを労働時間規制から除外することによって、「労働時間にとらわれない働き方」を手に入れることのできる労働者など一握りに過ぎない。圧倒的多数の労働者にとっては、使用者の時間管理責任を免責し、不払い残業を「合法化」するマイナスの方向でしかない。
また第2次答申は、「深夜業規制の適用除外についても、労働者の健康確保に留保しつつ検討を行い、結論を得るべき」、「労働時間規制の適用を現在除外されている管理監督者についても、適用除外制度の在り方の検討を進める中で、併せてその範囲の見直しを検討するとともに、深夜業規制の適用除外について、管理監督者の健康確保に留意しつつ検討を行い、結論を得るべき」とも述べている。
深夜業務は、そもそも「夜眠る」人間の生理と相反するものであり、健康への悪影響が大きく、慎重かつ限定的に行うべきものであり、適用除外がいかなる理由で少子化対策となり得るのか理解できない。いずれにせよ、労働時間規制の緩和は、安心して子供を産み、育てられることとはまったく逆に作用するものでしかない。にもかかわらず、「少子化への対応」の「具体的施策」として持ち出してきていることは、推進会議の理論が破綻していることを公言するに等しいと言えよう。
あわせて、第2次答申は、「労働時間規制の適用除外制度について検討を進めていくためにも、労働契約法制の在り方についての検討は、必要不可欠である」としている。
いま検討されている労働契約法制は、解雇をちらつかせながら労働者に労働条件の不利益変更を迫る変更解約告知の制度化や、解雇の金銭解決制度の導入に言及するなど、労働者にとって不利に働く内容が多く、とうてい容認できる内容ではない。これについても「少子化への対応」と強弁する第2次答申の主張は、常軌を逸脱していると言うしかない。なお、労働契約法制について全労働は、すでに「『今後の労働契約法制の在り方に関する研究会報告書』に対する全労働の考え方」を明らかにしている。詳細はそれを参照されたい。

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2.派遣労働に関する規制緩和の有害性

【(2)派遣労働をめぐる規制の見直し等】

第2次答申は、労働者派遣についても相当な分量で規制緩和を求めている。ここでも、「少子化への対応」という的はずれな理屈付けをしている。派遣労働者の拡大が子供を産み、育てられる対策だと言うのであれば、派遣先正社員との均等待遇や、各種社会保険加入の枠組み整備、中途解約の禁止等が必要である。しかしながら第2次答申の処方箋は明らかに間違っている。派遣労働者の命取りになりかねないその毒性について、特徴点のみ批判する。

(1)人権侵害の解消こそが先決
【ア 紹介予定派遣以外の労働者派遣における事前面接の解禁】

まず、事前面接の解禁については、「労働者派遣の役務を現実に提供するのは、生身の人間である派遣労働者であって、機械やロボットではなく、派遣先のことを知っておきたい、と願う声もある」と、あたかも労働者側からの要望であるかのように描きながら、「ミスマッチから生じる中途解約等の問題の発生を未然に防止するためにも、紹介予定派遣以外の派遣における事前面接の解禁のための条件整備等について、可及的速やかに検討を行うべきである」と述べている。
そもそも派遣労働とは、臨時的・一時的業務や、高い専門性を必要とする業務において、適切な人材を有する派遣会社から労働者の派遣を受けるものであったはずである。であるなら、業務に必要な専門性や能力を、労働者が有しているかの判断は派遣元で行うことで十分足りる。現実に起こっているのは、事前に履歴書が派遣先に回覧されているなどの法違反の実態であり、派遣労働者の個人情報やプライバシーの確保において、重大な権利侵害が生じている。これは、派遣労働者の能力以外の事項において、労働者を選別しようとする派遣先企業の思惑によるものであり、職業安定法の精神にも反する行為である。それほどまでに直接面接したいのであれば、派遣先企業が直接雇用すれば良いではないか。そうしないのは、必要なとき、必要なだけ、安上がりに労働者を使い捨てしようという企業側の身勝手に過ぎず、事前面接解禁が派遣労働者の少子化対策には、何の効果もないことは明らかであろう。

(2)長期雇用なら直接雇用すべき
【イ 派遣労働者に対する雇用契約申込み義務の見直し】

第2次答申は、「いわゆる3年超えの派遣については、26業務以外の業務と同様、派遣先に雇用契約の申込み義務が新たに課せられるに至っている」ことについて、「雇用契約の申込み義務については、その施行状況等を踏まえ、必要な検討を行うべき」と述べている。
第2次答申はその理由として、「使用者には本来『採用の自由』(雇用契約締結の自由)があり、法は原則としてこれに介入すべきではないこと等を理由に、このような不自然な規制は撤廃すべきであるとの指摘がある」としている。しかし、この論は詭弁である。そもそも3年を超えてまで、同一業務に派遣労働者を使用すること自体が、労働者派遣法の立法趣旨に照らして問題であることから生じた措置であることを、意図的に無視しているからである。派遣先企業が、最初から直接雇用するなら、雇用契約締結の自由もあろう。しかし、派遣先正社員にくらべて著しく低い労働条件で、派遣労働者を無期限に働かせることを、法は想定していない。そもそも労働界や法曹界の反対を押し切って労働者派遣法を制定した際には、あくまで専門的・一時的であり、常用労働者の代替ではないことを、派遣業界自体が強く主張した経過がある。また第2次答申は、「雇用契約の申込み義務が新たに課せられたことによって、派遣先が3年を超えて同一の派遣労働者を使用することに慎重になり、その結果、派遣労働者の雇用がかえって不安定なものとなることを懸念する声もある」としている。派遣労働者は、そもそも有期契約であり、常用労働者よりも不安定で劣悪な労働条件を強いられている。こうした状態に3年を超えて置くことが、なぜ「派遣労働者の雇用の安定」と言えるのか。正社員として直接雇うことが、雇用の安定であることは明らかである。「派遣先が3年を超えて同一の派遣労働者を使用することに慎重になり」を懸念するより前に、「企業が人件費削減のため正社員の雇用に慎重になり」を見直すべきであろう。

(3)専門的職種は厳格な運用こそ必要
【ウ いわゆる「複合業務」に関する基準の明確化】

第2次答申は、『「複合業務』に関しては、26業務に含まれる付随業務等の内容について、その明確化を早急に図り、これを周知すべきである」としている。その理由として、「朝礼や掃除、後片づけ、電話応対、書類整理等派遣労働者が26業務に従事する場合に当然に必要となる業務についての解釈を明確にし、適切な契約に基づく派遣就業を確保することは、職場における円滑な人間関係形成を図るためにも必要になるとの指摘」をあげている。
26業務の判断基準である、「当該業務以外は1割以下」とする業務の範囲を明確化する点に異論はない。問題はその方向性である。派遣労働者の権利擁護の観点からは、26業務の範囲を限定的に定めることが必要であるが、第2次答申が求めるのは、あくまで拡大解釈であり、26業務をより幅広に運用する方向であることは疑う余地もない。企業において、単独で完結するような業務などおよそ存在しない。したがって、「朝礼や掃除、後片づけ、電話応対、書類整理等」と言って「26業務に付随」などの理屈付けを許せば、その範囲は限りなく拡大し、専門的職種を定める26業務の位置づけそのものを失うことになりかねない。また、「職場における円滑な人間関係の形成」を持ち出すことも虫が良すぎる。そもそも不安定で劣悪な労働条件を強要し、派遣先正社員との大きな格差を放置したままでは、「処遇はがまんして、会社にとけこめ」と言うに等しく、派遣先のあまりにも身勝手な要求と言わざるを得ない。

(4)「派遣労働者のための法律」というごまかし
【【今後の課題】派遣労働をめぐる規制の抜本的見直し等】

このように、派遣労働者の過酷な現状からは目をそらし、派遣先企業にとって都合のいいことばかりを主張する第2次答申は、「同法は『派遣労働者のための法律』というよりは、『常用労働者を保護するための法律』としての性格が強くなっているとも言うことができる」とし、「その本来の姿である『派遣労働者のための法律』にこれを改める時期にきている」とまで述べている。しかし、ここで述べられている具体的内容は、派遣労働者の権利を何ら改善しないままに、現在の常用労働者をさらに派遣労働者に置き換えようとするもの以外の何物でもない。

(5)技術の伝承には正規雇用が不可欠
【ア 26業務以外の業務に係る派遣受入期間制限の撤廃】

第2次答申は、「26業務以外の業務に係る派遣受入期間制限の撤廃」を求め、「『物の製造』の業務についても、派遣受入期間の制限を撤廃すべき」と述べている。その理由として、「製造現場である派遣先の指揮命令が認められる派遣であればこそ、モノづくりのために必要な技能伝承が可能になるという側面がある。しかし、こうした技能伝承には、一定の時間を必要とすることから、派遣受入期間に制限がある限り、伝承可能な技能には限界がある」としている。これは、きわめて利己的な製造業の本音を表した記述と言えよう。「指揮命令が認められる派遣であればこそ」としているのは、何のことはない労働者派遣と業務請負を比較してのことであり、技術の伝承を間接雇用労働者にやってもらおうとする言い分に過ぎない。大企業が短期的な人件費コストに目を奪われ、派遣や請負に依存しているからこそ、技術の伝承に赤信号が点灯していることを、未だ推進会議は直視しようとしていない(前述1‐(5)参照)。第2次答申が言う「製造現場における技能伝承を更に円滑に進め、我が国製造業の足場を一層強固なものとする観点」を大切にしたいなら、正社員雇用の拡大に真正面から向き合うべきであり、それこそが喫緊の課題である。
また第2次答申は、「すぐには正社員として就業することが困難なフリーターやニート等の雇用対策という点においても、まず派遣社員として製造現場で継続的に就業できる機会を与えることは、個人の技能形成という面でも極めて有用である」とも述べている。ここでも、ニート・フリーター対策という筋違いの議論を持ち出している。言うまでもなく、今でもニートやフリーターに労働者派遣の門戸は開かれている。内閣府の「国民生活白書」等では、派遣社員はフリーターに含まれている。そもそも派遣労働の拡大はニート・フリーター対策とはなり得ないものである。職業訓練やカウンセリング、職業安定所の増員による丁寧な職業相談など、本質的なニート・フリーター対策には何の興味もなく、派遣労働(非正規雇用)拡大の言い訳に使おうとするところにも、推進会議の欺瞞性を見て取れる。

(6)労働者供給事業全面解禁は認められない
【イ 派遣禁止業務の解禁】

第2次答申は「法令により派遣事業が現在禁止されている(ア)港湾運送業務、(イ)建設業務、(ウ)警備業務及び(エ)病院等における医療関係業務(当該業務について紹介予定派遣をする場合を除く)のすべてについて、派遣事業を解禁すべきである」とも述べている。これらを通じ、「労働者派遣に係るいっさいの規制を取り除く」ことが、推進会議の描く青写真であることが明らかになった。この意味するところは、労働者供給事業の全面解禁にほかならない。戦前、悪質な事業者等は、自己の抱える労働者を他人の指揮下で働かせ、中間搾取をほしいままにしていた。こうした労働者の権利侵害を排除するため、職業安定法は第44条で「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」と規定し、労働組合が行うもの以外の労働者供給事業を全面禁止した。今日の労働者派遣法は、この労働者供給事業の例外規定であり、だからこそ専門的・一時的職業に限定されているのである。労働者派遣事業規制を全廃することは、労働者供給事業の禁止について「すべての職業を例外」とするに等しい。そこまで拡大解釈するのであれば、労働者派遣法は廃止する以外にない。

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F 労働力不足対策は、安易に外国人労働者に求めるべきではない

【3 外国人移入・在留 【今後の課題】(3)-(3)現在が専門的・技術的分野とは評価されていない分野における外国人労働者の受け入れ】

第2次答申は「いわゆる『団塊の世代』(昭和22年〜24年生まれ)の退職も平成20年前後にピークを迎えるなどの形で生産年齢人口全体が減少していく我が国が国際競争力を維持していくためには、各国がその専門的な知識や技術の獲得を争っている高度人材と呼ばれる外国人のみならず、日本人だけでは優秀な人材を確保できない場合についても、外国人の人材の開発から受入れに至る基本的なルールを明らかにしつつ、より積極的に受け入れていくこともまた必要である」と述べている。具体的には、「現在は専門的・技術的分野とは評価されていない分野における外国人労働者の受入れ」に言及し、「例えば、
ア 我が国の高等学校卒業相当以上の学歴、
イ 日本語検定2級以上合格、
ウ 該当の分野における一定の実務経験、
工 資格・試験等の外国との相互承認、
オ 技能実習の修了(技能検定3級以上合格)といった要件を入国前に充足し、我が国の状況を知悉しており、入国後比較的早期に産業界等での活躍が展望され、社会的な統合も期待できる外国人に、適法な労働者としての在留資格を付与することを含め検討を行う」としている。
しかし、労働力が本当に不足するのか未知数の問題であり、本質的な疑問も呈されている。いわゆる2007年問題は、団塊世代の退職を60歳としたものであるが、すでに「改正高年齢者雇用安定法」は、2006年4月1日までに「定年年齢を65歳に引き上げる」か、「定年を廃止する」か、あるいは「定年退職者のうち希望者を嘱託等の身分で引き続き雇用する継続雇用制度を導入する」か、いずれかの対策を講じるよう義務づけている。この実現に向けて第2次答申は何ら触れていない。技術の伝承の上からも、団塊世代が引き続き現役で働き続けることが必要となっている。また、年金支給開始年齢が引き上げられていることも相俟って、60歳代の雇用確保は喫緊の課題なのである。
一方、外国人労働者受け入れによって生じる課題も見ておかねばならない。すでに相当数の外国人労働者がわが国で就労しているが、その多くはいわゆる3K(あるいは3D)労働に従事し、無権利状態といえる劣悪な労働条件の下にある。とくに、技能実習制度等を悪用し、非人間的とも言える過酷な就労の実態(最低賃金をはるかに下回る賃金で、とても技能研修・実習とはいえない単純労働に従事させる等)が広がっている。これら外国人労働者の保護は緊急の課題であり、それが果たされない限り、日本には外国人労働者受け入れの資格がないと言えよう。

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