民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2005年 1月
規制改革・民間開放の推進に関する第1次答申に対する全労働の考え方
全労働省労働組合

12月24日、首相の諮問機関である規制改革・民間開放推進会議は、「官製市場の民間開放による『民主導の経済社会の実現』」と題する第1次答申(以下、答申)を行った。答申は、国や地方の実施する行政事務・事業のすべてを対象に、民間に開放するよう求めている。しかし、そもそも行政の行う事業は、国民の重要な諸権利を保障する目的を持っており、民間開放によって、これらの権利の後退につながることが強く懸念される。答申は、労働行政に関しても、「ハローワークの業務」を名指しして、民間開放を論じている。私たちは、労働者・国民の権利保障を担う立場から、答申の持つ危険性を以下に指摘するものである。なお、平成17年度中に実施するとされる「キャリア交流プラザの公設民営」等については、現時点で詳細が明らかでないため、後日あらためて考え方を明らかにする。

1.意図的につくられた「官の非効率」

答申は、「ハローワークによる求職・求人のマッチングは、必ずしも効果的に実施されていないとの指摘もある」と述べている。
この指摘は再三繰り返されているが、これに関しては、これまで裏付けとなるデータは一切示されておらず、単なる主観にもとづく一方的な言い方でしかない。逆に、就職支援事業等の民間委託を行っている東京都足立区や神奈川県藤沢市の実態からは、「民間による求職・求人のマッチングは非効率な実態にある」ことが浮かび上がる。
足立区における官民共同窓口では、足立安定所と民間事業者(リクルート社)が隣接して求職者に対する支援を行っている。その実績に関してリクルート社は、総務省行政評価局に対して、「平成15年11月の事業開始から16年4月末までの実績をみると、本事業の主な対象者である30歳未満の若年者層では、新規求職者に対する就職決定者の割合は、ハローワークが15.1%(新規求職者1,098人、就業決定者166人)であるのに対し、当社は33.8%(新規求職者358人、就業決定者121人)となっている」と、いかにも民間の優位性を証明したかのように述べている。しかし、この数字はそもそも比較の意味がない。安定所の統計は、みずから職業紹介を行い、その結果、就職に結びついたもののみを計上している。一方のリクルート社のそれは、縁故就職や自己就職、安定所の職業紹介で就職したものまで含め、「リクルート社の実績」として計上している。正確な実態を比較するなら、リクルート社の保有する求人によるマッチング件数で行うべきであり、その数は、約5ヶ月間(15年11月〜16年3月)でわずか4件であった(足立区産業経済部経済観光課による)。同期間に足立安定所は613件の紹介就職を実現している。千万円単位の委託料(足立区は平成15年11月から16年3月までの委託料として、リクルート社に900万円の委託料を支払っている)を考慮するなら、民の非効率性は明らかである。
藤沢市が独自に行う職業紹介事業においても同様の実態が明らかになっている。藤沢市は、「市場化テスト」で最も積極的な提案を行っている東京リーガルマインド(LEC)社に職業紹介事業を委託している。東京新聞(11月28日付)は、「就職者一人当たりのコストは安定所が約8万円であり、国の職業あっせんのあり方を『高コストだ』と指摘する」と、東京リーガルマインド社のコメントを紹介している。また、同記事は、東京リーガルマインド社による就職率が「3割に達した」とし、安定所は5%台に過ぎないとして、その優位性を伝えている。しかし、ここでも作為的な統計操作があることを指摘しなければならない。安定所の就職率は、月間就職者数を月間有効求職者数で除して求めるが、東京リーガルマインド社の数字は、約8ヶ月間の就職者を累計した数字を使用しており、これを新規求職者の累計数で除しているが、これでは就職率が高くなるのは当然であり、「水増し」としか言いようがない。安定所の統計と同様の方法で換算した推計就職率はせいぜい2〜3%台であり、藤沢安定所の半分程度の水準に過ぎない。一方、就職者一人あたりの費用は、年間委託費4200万円、紹介就職者60人、実施期間8ヶ月で推計すると40万円を上回り、安定所の8万円よりも相当割高となっており、「安定所は高コスト」と批判できるものではない。
全労働は、求職者に対する多様な支援窓口の存在を否定するものではなく、安定所機能を補うべく、非効率を承知で民間事業者に事業委託を行うなど、地方自治体の努力には敬意を表するものである。問題は、その実態を歪曲し、職業安定所業務を意図的に「非効率」と宣伝し、国民のセーフティーネットを破壊しようとする動きにある。

2.行政体制の確立こそが求められる

答申は、「民間出身で短期間しか雇用されない非常勤職員が、個別相談的な業務や求人企業の開拓業務を行っており、こうした官が雇用する民間出身者の比率が急速に高まり、常勤の公務員数に匹敵する水準に達している。このような非常勤の民間人活用の仕組みが、十分なインセンティブメカニズムを有しているか、どれだけ職業紹介に結びついているか、またそのためにかけられた費用の全体像についての情報は、十分に開示されていない」としている。
推進会議の問題意識がどこにあるか十分明らかではないが、非常勤職員は、決して安定所の機能が不十分であるため、その比率を高めてきたものではない。行政施策や行政需要への臨時の対応が必要であるため、各種の非常勤職員が配置されてきたものである。低賃金かつ不安定雇用に加え、十分な研修も行われないままに、求人開拓や求職者との相談を担う非常勤職員の苦労は大変なものである。安定所の各業務は密接に関連し、労働基準行政や雇用均等行政とも深く連携している。窓口は、チームワークによってその質を維持し、同時に職員の専門性を育成しているのであり、その視点が欠落した議論自体意味をなさない。
答申は、「財政的な制約により、サービスを質量ともに充実することもままならず、長い待ち行列ができる等の弊害が生じている」とも述べている。しかし、国家予算を労働者・国民への支援に振り向けるなど、現状の限られた行政体制によって生じている「弊害」を解決する政府の努力は何ら求めず、民間開放への誘導に終始する姿勢はあまりに奇異である。
また答申の「民間人活用の仕組み」という表現は理解に苦しむ。非常勤職員とはいえ、国が雇用していることに変わりはなく、民間人との指摘は当たらない。一部に、民間での経験に着目した採用が行われてはいるが、それも同じ枠組みであり、「民間人活用」とする推進会議の主張はきわめて意図的である。
さて、答申は、民間経験を持つ「非常勤職員(公務員)」活用が、「十分なインセンティブメカニズムを有しているか」、「職業紹介に結びついているか」に問題意識があるとしている。
これは、実際に業務を行う非常勤職員の存在が非効率性の原因であり、ハローワーク総体の「やる気」を阻害しているとでも言いたいのであろうか。そうした指摘なら、チームワークで日々窓口を支えている常勤職員・非常勤職員に対する侮辱であり、とうてい容認できない。職業紹介業務における専門性向上が、長期間にわたり、さまざまな行政分野を経験することを通じてはかられることは言うまでもない。第一線の現場では、常勤職員が中心となり非常勤職員とのチームワークで業務を行っており、非常勤職員のみを切り取って「インセンティブ」や「就職に結びついているか」を問題にすること自体に無理がある。

3.幅広い職業を対象とした職業訓練を行う民間事業者はない

答申は、「職業紹介については、教育・訓練事業と一体的に実施すべきであるが、民間とは異なり、国の公共職業訓練事業はハローワークと独立の事業であり、両者の連携をより緊密にし、実効をあげる必要がある」としている。
「職業紹介と職業訓練を一体的に実施すべき」との問題意識はわかるが、そもそも、職業紹介と職業訓練の受講指示は一体で行われている。その点で答申の指摘は現状に対する事実誤認がある。職業紹介と職業訓練を行う施設の一体性を言うのなら、現実を見ない机上の空論である。すべての国民が利用できるセーフティーネットとしての公共職業安定所は、すべての職業を対象にしている。この多種多様な職業に就くための職業訓練は、国が直接実施するものはもとより、関連する外部団体、地方自治体が運営するものを広く活用している。さらに、民間に委託して実施する訓練も多岐にわたる。推進会議は、職業紹介とあわせてこれらをすべて1ヵ所で行うべきとの問題意識であろうか。広大な敷地や施設を保有し、しかも産業構造や労働市場の変化に対応して柔軟に訓練内容を見直す訓練機関を、公共職業安定所の内部につくることなど、およそ現実的でなく非効率である。
職業紹介と職業訓練の「連携をより緊密にし、実効をあげる必要がある」という問題意識は、「ここまで行けばもう十分」という一線はなく、常に意識されるべきものである。したがって、「より連携を密にする必要があるから、官は不適当」という結論付けは不可解としか言いようがない。
一方で、安定所のように職業訓練を念頭に置きながら、あらゆる職業に関わって職業相談・職業紹介を実施している民間企業がどれだけあるだろうか。多くは、国の委託を受けて職業訓練を行う各種学校等によるもので、「学校による職業紹介事業」の域を出ないものであり、多様な職業に対応できるものではない。民間の事業者ができない分野が職業相談と職業訓練の連携であり、こうした民の実態は民間開放の理由には全くならない。
答申は、「公共職業訓練事業については、求職者のニーズに対応したサービス(メニュー・受講時間等)となっていないとの指摘もある」とも述べている。
委託訓練も含め、現在の公共職業訓練へのニーズは非常に高く、希望しても選考等により受講できないケースも多い。こうした実態にもかかわらず、どこからこのような指摘があるのか理解に苦しむ。受講期間(時間)が短く、期待する技術を習得できないとの指摘であるなら理解できる面もあるが、それに応えるには、より高いコストが当然求められるため、慎重な議論が必要であろう。公共職業訓練の規模と内容を大幅に拡充することは当然必要と考えるが、これは民間開放とは次元の違う問題である。

4.全国的なセーフティーネットたりえる民間事業者は未だ存在しない

答申は、「職業紹介や職業訓練に関わる民間事業は、既に成長・発展してきている」としている。
特定の職業分野で民間職業紹介などが成長している実態はあろうが、幅広い職業、すべての求職者に対するセーフティーネットとなりえる民間企業は未だ存在しない。民間企業が得意分野で求職者を支援することは、求職者サービスにおいて積極的な意味を持つことであるが、そのことはセーフティーネットである公共職業安定所を否定する理由にはならない。
見過ごせないのは、今日最も成長を遂げている人材ビジネスの領域は、職業紹介や職業訓練に関わるものではなく、労働者派遣や業務請負だということである。これらに関係する企業は、あたかも労働者の側に「働き方の多様化」というニーズがあるように装いつつ、実は企業の「働かせ方の多様化」を推し進め、労働者に不安定雇用と劣悪な労働条件を押し付けてきた旗振り役である。こうした働かせ方は、国民の生活基盤を不安定にし、社会不安を引き起こすばかりか、製造現場などで品質悪化等を顕在化させ、見直しが迫られているものである。昨年11月10日の参議院の「経済・産業・雇用に関する調査会」において、経済産業省経済産業政策局長は、「コストだけで派遣を増やしたというのは、‥強い製造業を作るという意味ではマイナスだ‥強い競争力を持つためには終身雇用に戻した方がいい」と答弁している。推進会議は、企業育成に軸足を置く経済産業省幹部でさえ警鐘を鳴らす人事管理を、国の事業にまで拡大しようとしているのである。人材ビジネスの成長と相まって、国民生活と経済活動の将来に深刻な影を落としていることを、十分に見据えた議論こそ必要である。また、これら人材ビジネスを営む民間事業者にとって、企業は重要な顧客である。こうした民間事業者が安定所を運営するなら、法令順守の事業主指導や、労働基準監督行政との連携に重大な支障を生じかねず、それは労働者の権利保障を大きく後退させることを意味する。

5.安定所利用企業には「無料」が欠かせない

答申は、「民間の有料職業紹介事業者は、企業の必要とする求人を、求人企業の費用負担の下、求職者には原則として無料でマッチングサービスを提供している。その意味では、官民のどちらがサービスを供給する主体であっても、その事業は、求職者にとっては無料の職業紹介事業であることには変わらず、職業紹介費用の負担者が国か企業かの違いに過ぎない」と述べている。
有料職業紹介事業では、一部職種において、年収700万円を超える場合には求職者からの手数料徴収を行っており、この記載は正確ではない。
また、この問題意識は、安定所の利用者層を見ていない。中小企業家同友会全国協議会「同友会景況調査報告」(2004年12月)によると、「正規従業者確保の主なルート」は、回答した中小企業の66.3%(複数回答可)が「公共職業安定所」と回答しており、他を大きく引き離している。安定所を利用する求人者の圧倒的多数は中小企業であり、募集活動費に制約の強いこれら企業にとって、無料の安定所の存在意義は大きい。
「求職者から見れば無料に変わりない」とする論は、行政の中立性に何の理解もないことのあらわれである。事業主・求職者双方とも無料であってはじめて、中立・公正な立場が維持できるものであり、事業主から手数料を取る運営は、事業主の意向をより反映した内容にならざるを得ない。その点で労働行政の大きな目的である労働者保護の姿勢は大きな違いがあるものであり、「求職者にとって無料だから同じ」という理屈は、求職者からの紹介手数料の拡大を主張する自らの立場とも矛盾するものである。

6.民間事業者の活用はセーフティーネットの存在が大前提

答申は、「今後とも国が公務員を用いて自ら行う全国的な無料職業紹介事業を維持するか、それとも、すでに知見・ノウハウを有する民間事業者の力を活用して抜本的な民間開放を行い、サービスのコスト削減・質向上を目指していくのか選択が迫られている」としている。
「知見・ノウハウを有する民間事業者」とは、いかなる事業者を言うのであろうか。労働者の生活や雇用の安定は顧みず、企業の人件費削減にだけ大きく貢献している民間事業者が多数存在し、急成長している。こうした中で高い公共性・専門性・総合性を備え、公的職業紹介を担うにふさわしい事業者か否かを判断するには、労働者代表も参加して慎重に見極める必要がある。万一、労働者の雇用・労働条件破壊に手を貸してきた民間事業者に職業安定行政を委ねるなら、低賃金労働者の採用によるコスト削減はあり得るだろうが、中小企業や求職者へのサービスの質を向上させることは期待し難い。したがって、答申のような二者択一の議論は、官民の職業紹介事業の実態をふまえたものとは言えない。特定の専門分野で民間事業者が効果的に就職支援を行うためにも、公共職業安定所が全国的なセーフティーネットをしっかりと維持した上で、国民の勤労権保障の立場に立って職業紹介を行うことが必要である。

7.見直すべきは推進会議の議論方向

答申は、「規制改革の推進に関する第3次答申」を持ち出し、「公共職業安定所については、その基本的な機能とサービスの質を維持した上で、民間委託のさらなる拡大に加え、公設民営化方式等の導入、独立行政法人化、地方公共団体への業務移管等、その組織・業務の抜本的な見直しについて、検討を進め、結論を得べきである。なお、ハローワークについては、求職・求人のマッチング率が必ずしも高くないとの指摘もある」との記述を紹介している。
民間開放推進派で占められた総合規制改革会議においても、「公共職業安定所の機能とサービスの質を維持」と記載せざるを得なかったのは、前述の現状に照らして当然の帰結である。求人・求職のマッチング率を問題にした点も、足立区や藤沢市の実態が「必ずしも高くない」とする主観的な指摘の不当性を実証している。「第3次答申」については、これら実態に即した見直しこそが必要であり、民間開放を加速する方向はあまりにも偏向した議論である。

8.ハローワークの「民間開放」・包括的委託等は論外

答申は、「今後の課題」として、「特定の一のハローワークが実施している原則全ての事業を、契約上の守秘義務等を課した上で、知見・ノウハウを有する民間事業者等に一括して民間開放(包括的委託等)する。(市場化テストの対象とし、官民間の競争入札によって、どちらがサービスの質・コストの面で優れているか、国民の目に見える形で客観的に検証し、職業紹介事業等の実施主体を決めていく)」としている。
ハローワークの「民間開放(包括的委託等)」については、すでに全労働の見解「労働行政の『民間開放』をどうみるか」(2004年10月)で述べたとおり、あまりにも問題点の多いものである。今後も推進会議が、こうした議論を継続すること自体、労働者・国民の生活不安、雇用不安をさらに広げ、深刻な社会不安を引き起こしかねないと言えよう。

(注)見解の重複は避けるが、安定所の運営において、とりわけ重要な基準・均等行政との連携について、見解の抜粋を再掲する。
〈 労働行政の総合的・一体的運営によって発揮される効率性 〉
公共職業安定所における職業紹介業務では、労働基準行政や雇用均等行政との連携強化がますます重要となっている。近年、労働者派遣や業務請負の求人が急増するもとで、不安定かつ劣悪な労働条件の求人が増え、その改善が強く求められている(労働基準行政との連携)。また、雇用形態による格差の広がりが、家庭責任を有する労働者が安心して働くことを妨げており、その改善が強く求められている(雇用均等行政との連携)。
これまでも労働行政では、職業安定、労働基準、雇用均等の三行政が緊密に連携をはかりながら、各行政分野の様々な課題に対して効果的・効率的なアプローチを追求してきたが、職業紹介事業のみを切り離して民間に委ねることは、労働行政全体の非効率化をまねき、かえって今日の労働者が抱える重要な課題の解決を困難にする。
また、職業安定行政の諸分野(職業紹介、雇用対策、雇用保険など)をとらえた時、その総合的・一体的運営も重要となる。一人ひとりの実情に見合った職業訓練の保障や、失業期間中の生活を保障する失業給付は、いずれも効果的な求職活動を支えるものであり、職業紹介と結びついてこそ成果をあげることができる。雇用政策の企画・立案も、職業紹介を実際に運営する中で行い得るものであり、統計資料等を頼りに机上で行うだけでは、労働者や事業主の実態を見失う。とりわけ雇用対策の立案・実施には迅速性が求められるが、職業紹介事業のみを分離することは、有効な雇用対策の展開に重大な支障をもたらしかねない。