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民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2004年 1月
「規制改革の推進に関する第3次答申」に対する全労働の考え方
―労災保険の民間開放の促進等、職業紹介事業の地方公共団体・民間事業者への開放促進等について―
全労働省労働組合中央執行委員会

総合規制改革会議は12月22日、「規制改革の推進に関する第3次答申」(以下、「第3次答申」)をとりまとめ、内閣総理大臣に提出した。「第3次答申」では、関係各省と合意に至ったものについては【具体的施策】として、関係各省と合意の至らなかった点については、会議の見解として【現状認識】及び【今後の課題】として掲載している。
これを受けて政府は12月26日、【具体的施策】として掲載された部分については、政府として最大限尊重するとの閣議決定を行った。今後は、関係各省との調整を経て本年3月に予定される「規制改革推進3か年計画」(改定)に盛り込まれることになる。
また、【現状認識】及び【今後の課題】として掲載された部分については、関係各省が実施に向けた直接の義務を負うものではないものの、その考え方は、総合規制改革会議の「後継組織」へと引き継がれることは必至の状況である。
労働行政をめぐっては、「労災保険の民間開放の促進等」、「職業紹介事業の地方公共団体・民間事業者への開放促進」等が答申されているが、いずれも労働者・国民の権利を大幅に後退させる内容を含んでいる。
以下、主な項目について、全労働の考え方を明らかにする。

1 労災保険の民間開放の促進等

「第3次答申」は、【今後の課題】として「労災保険の民間開放の検討」を掲げている。すなわち、「使用者の災害補償に備える労災保険の仕組みについては、民間の損害保険(自動車損害賠償責任保険)と多くの共通点を有している」として、「何が労災に相当するかといった基本的な概念や認定基準については国が労働基準法に基づき定め、他方、それに基づく労災保険の管理・運営については、民間事業者が行うこととすべき」というのである。あわせて、「現在の労災保険の給付や適用範囲は・・・次第に労働基準法の規定を上回る水準に拡大し、結果として、医療や年金・介護等の社会保障給付を上回る水準を保障するに至っている」「労災保険は、社会保険であっても、『保険』である限り、その保険料率は、本来、使用者の労災発生のリスクに応じた『給付と負担の均衡原則』の下で設定されるべきである」との【現状認識】を示している。
要するに、現行の労災補償の給付水準と適用範囲は縮小し、労働基準法が定める最低水準の補償については自賠責保険と同様に使用者に加入を義務づけ、そこに上乗せする補償は、自動車保険(任意保険)と同様に民間事業者の自由な管理・運営に任すべきであり、そこでは、これも自動車保険と同様に各企業の災害発生の履歴やリスクに応じた保険料設定を可能にすべきだ、との主張と解することができる。
「第3次答申」のこうした主張は、労災補償があまねく保障されるべき「人権」であり、労災保険がこれを実効あるものとする「社会保険」であることを全く見逃しており、「民間の損害保険と共通」などととらえる議論は暴論以外の何ものでもない。また、その水準も国際条約に則り、労災補償の趣旨に即して定めるべきものであって、他の「社会保障給付を上回る」ことは問題であるとする批判は全く受け入れられない。
「第3次答申」は民間事業者を労災保険の運営の主体と位置づけているのが特徴であるが、こうしたスキームがもたらす弊害は深刻かつ重大である。未手続事業場への強制適用や保険料未納事業場に対する滞納処分はたちまち困難となり、被災者保護に欠けるばかりか、使用者間の公平も保てなくなる。また、民間事業者が自ら労災認定を行う場合、損害保険の実務がそうであるように被災者等に「挙証責任」が強く求められ、適正な補償が十全に確保されない可能性が高い。しかも、「企業の労災発生のリスク等に応じた保険料率」を定めるとなれば、安い保険料を追求するあまり、不正な労災隠しが急増することは避けがたい。
特定の業界の「利潤追求」と引き換えに、労働者の重要な権利を大きく脅かす、労災保険の民間開放を行うことは国民の声とは到底言いがたい。
全労働は、「人権保障」を担う労災補償制度をその趣旨に即して充実させる立場から、労災保険制度を不断に見直し、改善していくことが必要であると考える。特に、過労死(脳・心臓疾患)、過労自殺(精神障害)等に関する認定基準は、この間の判例の水準に即して直ちに改めるべきであり、また、迅速かつ公正な保険給付等にむけた行政体制の拡充、被災労働者の職場復帰にむけた社会復帰制度の充実等をはかることが重要である。

2 職業紹介事業の地方公共団体・民間事業者への開放促進等

「第3次答申」では、【現状認識】及び【今後の課題】の中で、職業紹介事業の民間委託の拡大に加え、公共職業安定所の組織・業務の抜本的な見直しを求めると同時に、求職者からの手数料徴収規制の撤廃を主張している。また、雇用保険三事業の財源について、職業紹介業務の民間委託の推進など多様な職業紹介機能の強化、民間の求人・求職マッチングサービスを受ける失業者に対する現物給付の形での直接助成などに対し重点的に配分すべきとしている。あわせて、求職者からの手数料徴収規制の緩和については、【具体的施策】としても掲げている。これらの主張は、一体的に捉えることによってそのねらいが見えてくる。
求職者からの手数料徴収規制については、「求職者からの手数料規制を撤廃した方が求職者の選択肢を拡大するという点で労働者の利益になる」と主張しているが、民間事業者の経営を安定させるためには、求職者にかかるコストを手数料として徴収することが最も効率的な方法であり、そのために職業紹介事業を民間主導による有料職業紹介事業へと大きくシフトさせていこうとするものである。あわせて、「民間の求人・求職マッチングサービスを受ける失業者に対する現物給付の形での直接助成」を求めているのは、雇用保険(三事業)の財源を使ったビジネスチャンスの拡大をねらうものと言わざるを得ない。こうした方向は、求職者からの手数料徴収を原則禁止としたILO第181号条約の規定に反するとともに、無料の職業紹介事業を通して労働者の働く権利を保障するという国の責務と機能を大幅に縮小しようとするものである。
厚生労働省は、平成16年度の新たな雇用対策の柱として、1人当たり最大60万円もの成功報酬制による「成果に対する評価に基づく民間委託による長期失業者の就職支援」の実施を予定している。こうした民間委託による長期失業者の就職支援は、国や地方公共団体が有する生活支援制度なども活用して総合的に支援すべき長期失業者を公共職業安定所による援助から切り離すことになると同時に、国の資金を使って、職業相談から職業紹介に至るまでの全過程を公共職業安定所の外で行う仕組みを作るという点で、これまでの業務委託とは質的に違う問題を含んでいる。リストラ・合理化が横行し、労働条件も大幅に低下している下で、こうした動きを絶好のビジネスチャンスとしようとする人材ビジネスに職業紹介事業の将来を委ねることは、適格紹介や職業選択の自由の原則などを歪め、憲法で保障された労働者の権利の重大な後退をもたらすことになりかねない。
全労働は、すべての国民に差別なく無料の職業紹介サービスを提供することこそが国の責務であり、そのためには、もっとも公共性を担保できる公共職業安定所が責任を持って行うための行政体制を確立し充実させることが不可欠であると考える。そして、このことが最も有効で効率的な雇用対策であり、国が早急に確立すべきセーフティーネットのあるべき姿である。