民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2003年 2月
雇用・労働分野の「規制改革」がもたらす深刻な影響とあるべき改革方向について
規制改革の推進に関する第二次答申(総合規制改革会議)の分析について

1 第2次答申が打ち出した新たな「改革」の特徴

内閣府の総合規制改革会議は、2002年12月12日、「規制改革の推進に関する第2次答申」(以下、第2次答申)をとりまとめ、内閣総理大臣にあてて答申した。
その内容は、第一次答申と同様に、規制改革を構造改革の柱と位置づけてこれを推進することによって経済活性化を図り、もって「豊かな国民生活を実現する」としている。
その上で、雇用・労働分野を含むきわめて広範な分野について「具体的施策」=規制緩和策を打ち出している。
また、第2次答申は、1)本年4月に施行される「規制改革特区」を規制改革の「突破口」と位置づけ、全国規模の改革の加速を促していること、2)株式会社の参入が原則禁止されている医療、福祉、教育、農業の4分野を「官製市場」と呼び、民間企業への全面開放を求めていること、3)民間参入の形態として「民営化」「民間への事業譲渡」「民間委託」の3つを挙げ、公権力の行使を伴う事務・事業についても積極的な民間企業の参入を求めていることなどが特徴である。
以上のような考え方は、当然のことながら「雇用・労働分野」にも及ぼされており、その結果、労働者の生活と権利を保障してきた現行の労働法制の根幹をも揺るがすいくつもの「改革」を求めている。

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2 第2次答申の「問題意識」=情勢認識はおかしくないか

第2次答申は、次のような「問題意識」を指摘する。

  • 経済のグローバル化等に伴う競争環境の激化や技術構造の急速な変化などにより、個別企業、産業の栄枯盛衰のテンポは速くなっており、結果として、個々の企業あるいは産業が労働者に対して保障できる雇用期間は短くならざるを得ない。
  • パートタイム労働や派遣労働などを自発的に選択する個人も増えている。こうした新しいタイプの労働者増に対しては、従来の規制は必ずしも適切と言えず、個人がその個性と能力に応じた働き方ができるようにしていくことが重要である。
  • 以上のような観点から、より市場を通じた雇用保障を充実し、多様な就業・雇用形態に対応し得るような形に改革していく必要がある。
  • この間、一定の前進は見られるものの、労働者派遣制度や有期労働契約、裁量労働制等の大きな課題が残されており、その改革が不可欠である。

第2次答申は、これからは個別企業の「栄枯盛衰」の急テンポ化が避けられず、雇用を一企業で保障することは困難であるから、雇用の流動(不安定)化を全面的にすすめて、労働者にひんぱんな離・転職を求めることで、「市場を通じた雇用保障」をはかると言いたいようである。
しかし、この論法は「目的」と「手段」を逆転させて述べていないだろうか。個別企業の「栄枯盛衰」の急テンポ化が避けられないのではなく、むしろ、個別企業が永く生き延びるために労働者を必要に応じて自由に入れ替えることを望んでいるのであり、こうした雇用の不安定化(継ぎはぎの雇用)、多様化(使い勝手のよい雇用)を進めることを望んでいる、これが本音であろう。
後述するとおり、第2次答申では、有期雇用契約期間の上限緩和(3年5年)等を求めているが、その前提として多くの企業が3年から5年の短いスパンで設立、解散していく状況が訪れると考えるいるわけでもないだろう。第2次答申の「問題意識」は、専ら労働力のジャストインタイム化をねらう企業、あるいはこれに介在して利潤を得ようとする人材ビジネスのニーズを覆い隠す「詭弁」である。
また、第2次答申は、現行の労働法制による規制は企業にとってじゃまなだけでなく、労働者にとっても働き方の選択肢をせばめ、働きにくい環境を生み出していると言いたいようである。その上で、多様なパートタイム労働、派遣労働などを労働者が望んでいるのであるから雇用の選択肢の更なる拡充をはかるべきであるとしている。
しかし、労働者の多くが自発的にいわゆる正社員の立場を嫌い、パートタイム労働、派遣労働を積極的に選択しているという認識はあまりにも今日の事態をゆがめた解釈ではないだろうか。企業の首切り・「合理化」が横行し、多くの正社員が退職を余儀なくされる一方で、その正社員が就いていた業務を新たに受け入れる低賃金のパートタイム労働者あるいは派遣労働者が代替していくという事態が広がっているのである。
高失業率が続く中で、多くの求職者がパートタイム労働、派遣労働等をやむなく選択せざるを得ない状況に追い込まれているのである(事実、公共職業安定所では正社員の求人が激減する一方で、派遣、業務請負の求人は増加傾向にある)。第2次答申の言う、雇用の選択肢の拡充とは実のところ企業のニーズであり、企業が望む選択肢を拡大することにほかならない。それゆえに新たな選択肢はいずれも不安定雇用であり、雇用のいっそうの不安定化と低賃金構造への再編(離・転職や契約更新を通じて、判例上確立した労働条件の不利益変更の法理等を免れて賃金を劇的に切り下げることも可能)に奉仕するものとなっているのである。
他方、失業者が増大する一方で、労働者の長時間労働はいっこうに改善せず、多くの労働者が過労死、過労自殺の不安のただ中にいる。こうした中で、第2次答申では、従来の規制は適切でないとし、裁量労働制の拡大などを求めているが、その一方で蔓延している長時間労働を如何に適切に規制するかといった視点は皆無である。専ら企業(使用者)の立場をおもんぱかった「規制はずし」を、無理矢理に労働者のニーズと位置づけることに腐心した虚構の情勢認識は、改革方向をミスリードすることになる。

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3 この間の「規制改革」は雇用を創出し、豊かな国民生活を実現したか

第2次答申は、規制改革を通じて「新規需要・雇用の創出、豊かな国民生活の実現」がはかられることを強調する。
ならば、この間の「規制改革」によってこうした成果がもたらされたのか、あるいはもたらされつつあるのかを検証しなければならないが、次に指摘するとおり、この間の「改革」はいずれも雇用の安定を奪い、消費を冷え込ませて経済を低迷させ、国民生活を不安のただ中に追いやっていると言わなければならない。そのことが新規需要の創出を困難にしている最大の原因なのである。

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(1) この間の不安定雇用の拡大は、新たな雇用をつくり出していない

この間、多くの企業が進めてきたリストラは、常用労働者(正社員)を削減しながら、その一方で派遣労働者や業務請負業者(違法派遣をふくむ)を迎え入れるというものであった。この間の「改革」の目玉の1つであった労働者派遣の適用業務の拡大や派遣期間の延長が、両者の「仕切り」を低くし、常用労働者(正社員)から派遣労働者への代替を容易にし、加速させてきたことは明らかである。
こうした雇用形態の変化が新たな雇用創出に結びついていたのだろうか。近年、公共職業安定所の求人状況を見ると、たしかに派遣業者や業務請負業者から多くの求人(派遣する労働者等を雇い入れるための求人)が提出されるようになった。しかし、こうした求人に応募した労働者(求職者)の就労先(派遣先)をよく見てみると常用労働者の雇用調整(人員整理)が行われた企業である場合が多く、派遣労働者の求人が増えた分だけ、常用労働者の求人が減っているのである。このことは、雇用形態を変化させることでは新たな雇用を生み出せないことを端的に表している。
つまり、派遣労働者の拡大は、新たな雇用を創り出し雇用情勢を改善することにはならず、常用労働者の「仕事」を奪いながら、重要な「雇用維持モデル」の一つである「長期雇用システム」を崩壊させ、いっそう深刻な雇用情勢をつくり出しているのである。

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(2) 派遣労働者の拡大は、労働条件の「底割れ」を生みミスマッチを拡大している

ところで、公共職業安定所の窓口から見る、現下の深刻な雇用情勢の最大の要因は、労働条件の「底割れ」によるミスマッチ、すなわち、求職者の決して法外でない「求職条件」と「求人条件」のあまりにも大きな隔たりにあるという点にある。今日、求人情報は安定所内外に相当量が蓄積されている。それにもかかわらず、求職者の真剣な就職活動が実を結ばないのは、求人条件の質(賃金)の低下が著しく、将来にわたって(家族を含む)生活を維持しうる仕事が見つからないからなのである。
この間の「改革」が雇用の新たな「選択肢」として拡大をはかってきた派遣労働者や有期雇用労働者の賃金水準は低下傾向にあり、常用労働者(正社員)を代替するかたちで派遣労働者や有期雇用労働者(契約社員、パート等)を拡大していくならば、労働条件の「底割れ」をいっそう加速させることになる。
とすれば、労働者派遣の適用業務の拡大や派遣期間の延長は、雇用情勢を改善するどころか、労働条件の「底割れ」によるミスマッチをさらに拡大させ、雇用情勢をますます悪化させることは明白である。

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(3) 「不安定・低賃金の労働市場」の拡大は、「産業構造の転換」を妨げる

常用労働者(正社員)から派遣労働者や有期雇用労働者への代替がより容易になるならば、人件費の削減をねらう企業にとってまことに好都合であるが、その結果、労働市場は全体としてますます不安定・低賃金となる。
低賃金労働者の増加は、当然に個人消費を冷え込ませるでしょうし、不安定雇用労働者にとっては、住宅ローンも、自動車ローンも許されないのが現実であって、この点でも新たな消費需要を生み出す契機を失わせることになる。
規制緩和論者は、規制緩和政策を通じて新たな産業と雇用が創出されると主張しているが、同時に、労働者の所得水準を引き下げ、個人消費を萎縮させてしまうのであれば、経済活動は縮小し、彼らの言う「産業構造の円滑な転換」を妨げてしまうことになるのである。

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4 雇用・労働分野の「規制改革」の問題点とあるべき改革方向

第2次答申は、雇用・労働分野において、次のような「具体的施策」を求めている。これらの多くは、労働者・労働組合の積年の運動によって築かれてきた貴重な到達点であり、雇用・労働法制の根幹を揺り動かすものである。以下、主な項目ごとにその問題点とあるべき方向を示すこととする。

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【横断的分野】

(1) 職業紹介分野における民間参入

  • 公共職業紹介所の保有する求人情報等の民間への公開や、管理職・専門職等の紹介に関する民間への業務委託等をすすめる。

(2) 職業訓練分野おける民間参入

  • 雇用・能力開発機構が行う職業訓練について、一層の民間委託をすすめる等により民間教育訓練機関の育成を図るとともに、当該業務を継続させる必要性、組織の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる。

職業紹介分野への民間参入については、1997年のILO第181号条約(民間職業事業所に関する条約)の採択を「契機」として改定された職業安定法によって、すでに取扱対象職業の原則自由化が「実現」している。
わが国では、こうした経緯からこの条約を民営職業紹介事業等の自由化を定めた条約であるとの理解がまかりとおっているが、同条約は、むしろ、国の職業安定行政機関と民間職業事業所の共存を前提に、従来の条約や勧告が視野に入れていなかった多様な「民間雇用サービス」を適切に規制し、労働者に対する保護を全うしようとするところに主眼があることを見逃してはならない。
こうした中で、第2次答申は、公共職業安定所の保有する求人情報を民間職業紹介所へ公開するよう求め、また、管理職・専門職等の紹介の事務や職業訓練の事務を民間委託するよう求めている。厳しい雇用失業情勢の下で、求人の確保や職業紹介・就職が困難な状況にあるのは官民を問わない。民営の職業紹介所がリストラの対象となった労働者の再就職支援をリストラを行う事業所から請け負いカウンセリング等を行っても、就職につながってるのは少数である。数々の弊害から原則禁止されていた民営職業紹介事業等を認めさせ、次はその民営職業紹介事業者に公共職業安定所の職業紹介事業を委託(国が民営職業紹介所に委託費用を払う)するよう求めているのである。このような「民間参入」の促進が打ち出されてきたのは、総合規制改革会議・人材(労働)ワーキンググループのメンバー構成(8人)によるところが大きいといえよう。そこには労働者・労働組合の代表が1人もいない一方で、人材ビジネス会社(グループ)の代表者、つまり直接の利害関係者が2人も入っているのは如何にも偏っている。結局、第2次答申がめざすべき先は、無料の職業紹介事業で公共に奉仕し、職業安定機関以外の者の行う職業紹介事業等の適正な運営を確保する(指導監督する)公共職業安定所の縮小・解体(国の行政組織等の減量)と民営職業紹介事業者等の権益拡大にほかならない。
職業安定行政の組織の減量については、2002年12月25日に開催された経済財政諮問会議に出席した片山総務大臣が、「国の行政組織等の減量・効率化の推進について」と題する資料を提出し、同省の15年度のとりくみとして、1)組織・業務の合理化、2)民間委託等のアウトソーシング、3)

IT化による合理化をさらにすすめ、一層の減量・効率化をはかるとしている。特に、職業安定業務については、「民営職業紹介事業への規制緩和を推進し、一層のアウトソーシングをはかるとしているのである。
そもそも、仕事を探す求職者と労働者を募集する求人者との間には、力の関係で大きな格差がある。採否の権限は求人者が握り、今日のような高失業率の下では、圧倒的に求職者が弱い立場に置かれている。そのため、過去に求職者から不当な手数料を搾取したり、不当な労働条件を押しつけたり、身柄を拘束する強制労働が行われた事実があり、これを厳しく規制する一方で、無料職業紹介所・公立職業紹介所(公益職業紹介所)設置され、自治体の行政域を越えて職業紹介事業を行う必要から国営化されてきた。いま、公共職業安定所の職業紹介事業を民間に委託し、公共職業安定所を縮小・解体するなら、こうした歴史の流れに逆行することとなり、市場経済万能論の下で労働者(求職者)は、厳しい労働市場に投げ出され、深刻な権利侵害を招くことになろう。

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【雇用・労働分野】

(1) 能力開発プログラムの充実

  • 教育訓練給付制度等の在り方についてさらに検討する。
  • キャリア・コンサルティングや職業能力評価制度の拡充、資金の貸付度等の活用の促進等、個人の自発的な能力開発に対する支援を強化する

教育訓練給付制度は、制度創設当初から受講要件が「雇用保険被保険者期間5年以上」と職業能力開発の必要性とリンクしておらず、しかも、労働大臣(当時)の指定した教育訓練講座が趣味・娯楽的な内容や一般教養の域を出ないものまで含んでいたことから、職業能力の開発という目的にてらして、その在り方を疑問視する声が聞かれていた。このため、職業能力開発の目的にてらした効果を厳しくチェックして、真に必要な訓練内容を限定するなどの見直しが求められていた。
この間の教育訓練給付制度の見直しでは、前述の見地からの講座の見直しや大学・大学院等における社会人むけコース指定の拡大等がはかられてきたが、地域の労働者や中小業を中心とした産業界が求める職業能力開発を行う視点から、制度の検証・見直しを不断に進めていくべきである。
また、現行制度が「講座」の指定を厚生労働大臣が行うとしている枠組みをも見直すべきである。能力開発の内容と再就職の促進との関連は、地域の産業構造や労働市場の実情(求人・求職の実態等)によってかなりの違いがある。このため教育訓練として指定する「講座」は、厚生労働大臣ではなく、都道府県労働局長が管内の産業構造や公共職業安定所で分析するが地域の求人・求職のバランスシートなどに基づいて、施設や講座の指定を行うことを可能とすべきである。具体的には、厚生労働大臣は施設や講座の指定について一定の基準と手続きを示し、これに基づき都道府県労働局長が管内の実情を十分に考慮した指定ができるしくみが適当である。
加えて、再就職に結びつける能力開発の在り方を考える際に、採用後に企業が求める複数の能力開発を援助する制度を設けることによって、いわゆる未経験者の採用を積極的に促していく観点をより重視すべきである。採用後に行う能力開発では当該企業が必要とする具体的な職業能力がはっきりしているのであるから実践的な内容となり、採用された労働者の定着促進にも資する。

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(2) 職業紹介規制の抜本緩和

1)求職者からの手数料規制緩和
  • 求職者からの手数料規制について、年収要件の大幅な引き下げ、職種の拡大により対象者の拡大を図ることを検討し、所要の措置を講ずる。
2)無料職業紹介事業に関する規制緩和
  • 無料職業紹介事業の届出制の範囲の拡大について検討し、所要の措置を講ずる。
  • 地方公共団体が無料職業紹介を事業として行えるようにする。
3)有料職業紹介事業に関する規制緩和
  • 有料職業紹介事業は、法人として許可があれば事業所の設置は届出で済むよう許可制度を緩和することを含めて検討し、所要の措置を講ずる。
  • 職業紹介事業に係る兼業規制については、原則として撤廃することを含めて検討し、所要の措置を講ずる。
4)公共職業安定所紹介要件の緩和
  • 雇用関係助成金について、民間職業紹介事業者の紹介による雇い入れも支援対象とする措置が講じられてきたことについて周知徹底を図る。
  • 再就職手当の一部及び常用就職支度金についても、公共職業安定所の紹介が支給要件とされていることを緩和する。
5)職業紹介責任者に係る規制緩和
  • 職業紹介責任者の設置要件(人数)、同責任者の変更手続きの簡素化、講習制度の見直しについて検討し、所要の措置を講ずる。
求職者からの手数料の徴収については、ILO181号条約が「労働者に対しいかなる手数料又は経費も徴収してはならない」と定めている。求職者の多くは失業者であり、生活の糧(賃金)を得るために一日も早く職に就かなければならない。また、高失業率の下で、採用の可否は求人企業の全くの裁量にまかされていると言っても過言でなく、まして労働組合の支援とも無縁な多くの失業者はもっとも弱い立場に置かれている。この弱みにつけ込んで不当な手数料を取る業者が現れた歴史的な経過がある。これは他人の就労に介在して利益を得る「中間搾取」であり、労働者の権利・利益を著しく害することから法令はこれを原則として禁止してきたのである。こうした原則は、いわばグローバルスタンダードに属し、今日、わが国でこれを放棄しなければならない事情は見あたらない。
ところで、前述のように買い手(求人企業)と売り手(求職者・労働者)が対等な関係にない労働市場での「契約」を媒介する職業紹介事業には、元来、求職者の権利・利益の侵害を防ぐという観点から強い公共性が求められてきた(具体的には、[1]自由(職業選択、雇い入れの自由)、[2]適格紹介(求職者の能力に適合する職業、求人者の雇用条件に適合する求職者)、[3]公益(求職者又は求人者の一方の利益に偏しない)、[4]均等待遇(差別的取扱の禁止)、[5]中立(労使に対して中立)、[6]労働条件明示(求職者に従事すべき業務の内容労働条件等の明示)の6つの原則)。加えて、こうした公共性をもった職業紹介事業が、有為な人材を求める小・零細企業の事業運営にとっても欠くことのできない存在であることも見逃してはならない。
第2次答申は、民間の職業紹介事業者に対して、これまで「6つの原則」の立場から課せられてきた諸々の責務を免れさせるよう求めている。これにより今後の事業展開をいっそう容易にしていこうというねらいがみて取れる。こうした「緩和策」は事業の公共性を顧みない多くの無責任な民間事業者の参入を許すおそれがある。
これに対して、こうした悪質業者の参入には事後規制の強化によって対処すれば十分との主張がある。しかし、ここで守られるべき権利は、求職者の生存に関わる権利あるいは人格に関わる権利なのであり、事後規制によっては決して保障され得ないものであることを考慮しなければならない。
また、悪質事業者は結局のところ競争によって淘汰されるとの主張もある。しかし、今日でも外国人労働者などの就労に介在するブローカーなどは淘汰されるどころか、いっこうに後を絶ち得ないでいるのであり(こうしたケースの多くが賃金不払いなど重大な権利侵害を引き起こしている)、悪質事業者の参入を許す土壌がわが国の労働市場にはあることを見ておかなければならないだろう。

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(3) 労働者募集に係る規制緩和

  • 委託募集の許可制の在り方について検討を行い、所要の措置を講ずる。

労働者の募集は、[1]文書による募集、[2]直接募集(募集主が自ら行う又は被用者をして行わせる募集)、[3]委託募集(募集主が自己の被用者以外の者をして行わせる募集)の三種類がある。文書による募集は記載された内容(職務内容、労働条件など)を求職者(労働者)がよく検討し、応募の可否について主体的に判断できる場合が多いが(もっとも、文書に記載された内容が誇大であったり、「委細面談」など不十分なために、労働者が被害を被るケースは少なくない)、他方、委託募集の場合には、とかく労働者の無知や苦しい立場に乗じて、労働条件等に明確を欠ききわめて不利な労働契約を締結させられるなどの弊害があった。特に、募集行為を業とする者が、報奨金を目当てに無責任な募集を行い、労働者の権利・利益の侵害が著しかった歴史的事実がある。
今日、悪質なキャッチセールスや訪問販売などの被害が後を絶たない現状がある。残念なことであるが、契約内容等をあいまいにしたまま言葉巧みに契約を迫る「手法」がまかり通ってしまう「土壌」があるということだろう。しかも、その契約が雇用契約である場合には、その被害は甚大なものとなることから、委託募集に関わろうとする悪質業者を排除するシステムが必要となるのである。従って、現行規制の「緩和策」の検討には相当に慎重な姿勢で臨むべきである。
他方、求人条件と採用後の労働条件の相違が原因となり、再び離職(自己退職)を招くことが少なくないことから、求人広告等への規制と労働条件の明示義務履行にむけた指導の強化が急務であり、直ちに必要な措置(法改正を含む)を検討すべきである。

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(4) 募集採用における制限の緩和・差別撤廃

  • 改正雇用対策法に基づく「指針」で年齢上限の設定を認めている例外規定の妥当性について検討すべきである。中長期的には、年齢制限そのものの禁止についてもその可能性を検討する。

近い将来、労働力人口の約4人に1人が55歳以上になる超高齢化社会の到来が見込まれている。労働力人口の構成が大きく変化する中で、募集・採用での年齢制限を課すことは、中高年者に対して就職活動の「入り口」を閉ざすもので、募集・採用における年齢制限の禁止にむけて実効ある施策を講じることは基本的に正しい。
他方、賃金決定における生計費の重要性にてらすならば、賃金決定の要素に年齢が考慮されていることはむしろ望ましく、否定することはできない。すなわち、わが国では各種社会保障制度の不十分さから、中高年者に対する教育費、医療費などの負担が重く、賃金決定の要素に年齢を加味することが実情に即しているのである。
とすれば、募集・採用における年齢制限をなくす前提として、中高年者の生計費を軽減する、換言すれば、年齢による生計費負担の平準化をはかるために、各種社会保障制度の拡充をすすめるなど、あらためて総合的な対策を確立する必要がある。
単に、募集・採用差別を厳しく禁止するだけでは、中高年者が必要とする賃金水準を満たす「求人」がないというミスマッチが際だつだけであり、中高年者の就職促進にはつながらない。
なお、中期的な視点からの年齢制限の禁止については、第1次答申から大きくトーンダウンし「その可能性を検討する」と後退した。この点も労働者の権利・利益よりも事業主の都合を優先させる当会議の性格をよく表している。

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(5) 派遣労働者の拡大

1)派遣期間の制限の延長又は撤廃
  • 派遣期間に関して、法律に基づく1年の期間制限と行政指導に基づく3年の期間制限のいずれについても、延長又は撤廃することを含めて検討し、所要の措置を講ずる。
2)派遣対象業務の拡大等
  • 「物の製造」の業務について派遣禁止を解禁することも含めて検討し、所要の措置を講ずる。
3)労働者派遣事業に関する規制緩和
  • 労働者派遣事業は、法人として許可があれば事業所の設置は届出で済むよう許可制度を緩和することを含めて検討し、所要の措置を講ずる。
4)紹介予定派遣制度の見直し
  • 紹介予定派遣を通常の派遣と同様の規定で律することには限界があり、事前面接や履歴書の送付要請、採用内定等の行為の解禁等法制度を含む見直しを行う。
5)その他
  • 派遣元責任者の選任の在り方や講習制度の簡素化について検討する。
  • 労働者派遣に係る手続きの簡素化(届け出書類の削減等について検討する。
  • 派遣先事業主から派遣元事業主への通知書類の電子化を検討する。
  • 派遣事業と紹介事業の兼業規制の見直しを検討する。

わが国の労働者派遣制度は、数回の法「改正」を重ねながら拡大の一途をたどってきたが、その間、常用雇用者(正社員)の代替として派遣労働者は急増している。しかも、労働者派遣の適正をはかるはずの労働者派遣法自体がきわめて不十分である上に、「ザル法」と揶揄されるほど盛り込まれている規制も実効性がない。
その結果、派遣先事業者の横暴・差別や派遣元事業者の使用者責任の欠如などで派遣労働者の権利侵害はきわめて深刻なものとなっており、近時は派遣契約の競争入札などにより賃金水準などの労働条件の切り下げが目立っている。また、少なくない無許可・無届出の派遣元事業者が存在し、「請負」を偽装した対象業務以外への「派遣」も横行している。
第2次答申は、こうした現在の労働者派遣に見られる深刻な問題点の数々を解決しようという立場でなく、@雇用の調整弁(使い捨ての労働力の確保)、A人件費の削減(安価な労働力の確保と正社員の代替)、B雇用責任の放棄など、労働者派遣の「メリット」を最大限に享受したいという事業主の願望とそれに伴って事業拡大をはかりたいという労働者派遣事業者の願望を一方的に述べたものと言ってよい。
特に、「物の製造」の業務にまで労働者派遣を拡大させることは、派遣法制定当時の「派遣労働者の市場を一般労働者の市場と融合させず高待遇の市場として形成する」としたねらいを放棄するものであろう(事実、派遣労働者の賃金は低下し続けており、また、いわゆる26業務の中にも専門性の疑わしい業務への派遣も横行している)。
派遣期間の延長又は撤廃を求めていることも、対象業務の原則自由化を行った際の「テンポラリーワーク(一時的労働)と位置づける」とした言い分を事実上放棄したものと言わざるを得ない。
また、紹介予定派遣について、事前面接や履歴書の送付要請等の行為の解禁を求めている点は重大である。こうした措置は派遣元・先それぞれに大きな「メリット」がある。派遣元は、常用雇用を希望する労働者(新卒者を含む)に対してその期待を抱かせることで、低賃金で派遣労働者として雇い入れることができるし、実際に派遣先への採用にむすびつくならば「派遣」に続いて「職業紹介」でも紹介手数料でも利益を得られる。一方、派遣先は一切のリスク(雇用義務)なしに労働者を「試用」することができる。それゆえにこうした「メリット」の裏側にある、派遣労働者の「デメリット」が十分に考慮されなければならないが、第2次答申にはそういう観点は見あたらない。しかも、第2次答申が打ち出した事前面接や履歴書の送付要請等の行為の解禁は「派遣労働者の特定」を容認することを意味し、従来の労働者派遣制度自体の崩壊に等しく、もはや「労働者供給」とかわるところがない。

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(6) 有期労働契約の拡大

  • 専門職の労働契約期間の上限を5年にし、原則1年の契約期間の上限を3年に延長することを検討し、所要の措置を講ずる。

今日、多くの企業が、恒常的に必要な業務に従事する労働者を正規雇用とせずに有期雇用としているが、そのねらいは、@判例上確立した解雇権濫用法理、不利益変更の法理等を免れることができること、A期間の定めのない労働者に比べて低い賃金水準を設定し人件費を大幅に抑制することができること、B契約更新の自由を持つことで「もの言わぬ労働者」として従属させることができること、C急増している労働者派遣業や業務請負業では、派遣・請負期間に応じて労働者を拘束することができることなどにある。有期雇用契約の適用範囲の拡大はこうした「メリット」をさらに大きくしたいという願望にほかならず、労働者の権利侵害は甚大なものとなる。
また、有期雇用契約期間の延長(3年5年)の要請は、雇い止めをめぐる一連の判例が契約更新を重ねることで当該契約を期間の定めのない契約に転化したものとみなす考え方をとっていることから、契約更新の回数を数回に止めながら適当な期間(5年あるいは10年)が経過した後の雇い止めを正当化するために、執拗に行われてきたものにほかならない。また、例えば10年程度の契約期間(数回の更新)を認めることは若年定年制の復活にほかならず、これとコース別人事管理が結びつけば差別定年制の復活を意味する。
もっとも、こうした契約期間で労働者を使用するには、身分保証期間を定める契約(1年経過後はいつでも労働者側から解約することができることとし、1年経過後の期間は身分保障の期間とする契約)を活用すればよいとの考え方がある。しかし、派遣会社が有期雇用で労働者を派遣しようとする場合には、このような身分保証期間を定める契約は使いにくいと考えるに違いない。派遣会社は、派遣した期間だけは労働者をしっかりと拘束しておく必要があるからである。
こうした事情は、第2次答申が有期雇用契約期間の上限緩和とともに、派遣期間の廃止等をいっしょに求めていることにも通じる。
直ちに求められる改革は、脱法的な意図を持って横行している合理的な理由のない有期雇用契約を適切に規制することである(雇い止めに対する的確な法規制など)
なお、第2次答申は、有期雇用契約の拡大を「働き方の選択肢を増やし、雇用機会の拡大を図る」ものとして位置づけているが、雇用維持モデルの一つである「長期雇用システム」を崩壊させ、その代替として派遣労働者、有期雇用労働者を想定していることは明らかである。前記3-(2)で述べたとおり、こうした措置によって企業が求人を増やし雇用を拡大すると考えることは幻想にほかならない。むしろ、雇用を不安定化させ、労働条件の低下を招く効果しかもち得ない。

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(7) 裁量労働制の拡大

  • 企画業務型裁量労働制については、その手続きの大幅な簡素化や適用対象事業場等の拡大を図ることを検討し、所要の措置を講ずる。
  • 将来的には、裁量労働制の対象業務の範囲についても、労使自治に委ねる方向で制度の見直しを図る。

第2次答申は「労働者がより創造的な能力を発揮できる環境を整備する」として、裁量労働制の拡大を労働者にとって歓迎されるべき「緩和策」のように描いているが、すでに裁量労働制の導入されている職場の実情は全く逆であって、ノルマや期日に追われ、労働時間の配分に全く裁量の余地のないものが多く、従来のサービス残業(ただ働き)が合法化されたにすぎないケースが少なくないのである。また、企画業務型裁量労働制の拡大に向けた動きは、ホワイトカラー全般にいわゆるサービス残業(ただ働き)が広く横行している現状を容認する効果しか持ち得ず、成果主義賃金や有期雇用契約とセットで運用することで、労働者を一層の長時間労働あるいは過密労働へと駆り立てていくことにつながり、過労死、過労自殺をさらに広げることになる。
求められる改革は、裁量労働制の名の下に横行する「ただ働き」をなくし、長時間労働の上限規制をはじめとする時間法制を抜本強化することである。

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(8) 労働基準法の改正等

  • 現行の裁量労働制は、管理監督者等と同様、時間規制の適用除外を認めることが本来の姿であり、米国のホワイトカラー・エグゼンプションの制度を参考にしつつ、裁量性の高い業務については適用除外方式を採用することを検討する。
  • 管理監督者等の適用除外制度の在り方について、深夜業に関する適用除外の当否を含めて検討する。
  • 解雇の有効・無効に関する労使双方の事前予測可能性を高めるためにも、解雇の基準やルールについて、立法で明示することを検討し、所要の措置を講ずる。その際、いわゆる試用期間との関係についても検討するとともに、解雇の救済手段として、職場復帰だけでなく「金銭賠償方式」という選択肢を導入することを検討し、所要の措置を講ずる。

第2次答申には、ホワイトカラー全般を労働時間規制の適用除外としてしまうねらいを見て取ることができる。近時、ホワイトカラーを中心に様々な就労形態が出現し、従来の規制ではとらえきれない事態が一部に生じていることは事実であろう。しかしながら、そこで生じている問題点は何か、守られなければならない権利・利益がどのように扱われているのかを明らかにすることなくして、真の規制改革とはならないだろう。
とりわけ、見逃すことができないのはホワイトカラーの多くに長時間労働(サービス残業を含む)、過密労働(成果主義賃金の下での労働強化など)が広がり、過労死、過労自殺(近年、若い労働者にまで広がっている)が増加している点である。こうした中で、労働時間規制をはずすだけでは何らの問題解決にならないばかりか、むしろ深刻な実態をますます悪化させることになりかねないのであり、実態を改善しうる相応しい規制の在り方を検討する立場にこそ立つべきである。
また、現在、多くの中間管理職がその労働実態にかかわらず、わずかばかりの手当と引き替えに労基法第41条の「管理監督者」として扱われ、労働時間、休日、休憩に関する規制の埒外におかれている。こうした事態を改善するため、「管理監督者」の本来の趣旨(事業経営の管理的立場にある者又はこれと一体をなす者)に即し、具体的で明確な判断基準を確立するとともに、彼らの苛酷な労働実態を的確に規制する新たな枠組みつくりが求められている。
第2次答申は「解雇」にも言及している。現在、解雇については、現行法上、一定の解雇制限事由(労基法第19条、育介護第10条等)と解雇の手続き(労基法第20条等)が定められており、いわゆる不当解雇や整理解雇等の効力等をめぐっては、判例上、「解雇権濫用法理」や「整理解雇四要件」が確立している。
しかし、多くの労働者にとって、解雇をめぐって自ら訴訟を提起することは、@訴訟費用等の経済的負担が困難なこと、A迅速な解決が期待できず、長期間、訴訟当事者となることに不安があること、B訴訟を提起することが再就職に不利に作用すること、C必要な証拠のほとんどを使用者が保管しており、立証が困難なこと、D職場復帰を前提としない損害賠償請求等の理論が未成熟なことなどの事情から、これを躊躇せざるを得ない(解雇理由を争って訴訟を提起することのできる労働者は1%にも満たないだろう)。
要するに、解雇をめぐる争いについては、一定の裁判規範が存在するものの、それ自体不十分な面もあり、行政が適切に関与し得る根拠となる実体法が存在しないことから、事実上、解雇を規制する「規範」がないに等しく、多くの労働者が無権利状態のまま「泣き寝入り」しているのが現状である。従って、解雇をめぐる基準やルールを立法化することは必要であるが、その基本は現在の判例の到達点をクリアし、あわせて前述した現行制度の不十分さを克服するものでなければならないのである。あわせて、出向、配転、雇い止め等についても実定法上の規制が求められている。
第2次答申は、解雇の救済手段としての「金銭賠償方式」の導入を求めている。解雇に正当な理由がなく、労働者(被解雇者)の労働契約上の地位が確認された場合に、労働者が職場復帰ができるのは当然である。しかしながら、このような場合であっても、労働者が職場復帰を希望せず、その代わりに使用者に金銭賠償を求める権利を認めることは否定すべきでない。
しかしながら、使用者の側から一定の金銭賠償を行えば労働契約を終了させる権利を認めることがあってはならない。これでは「無効な解雇であっても金さえ払えばよい」としているに等しく、深刻なモラルハザードが生じ安易な解雇が広がるおそれがきわめて強い。

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(9) 社会保険制度の改革等

  • 就労形態の多様化に対応した社会保険制度の改革等を速やかに検討する必要がある。
  • 年金・医療保険のパートタイム労働者への適用基準の徹底とともに、適用範囲の拡大を早急に検討する。
  • 私立学校教員等について、雇用保険への加入を更に促進する。
  • 人材流動化の阻害要因を取り除くため、企業年金のポータビリティの拡大を図るとともに、退職金についても、長期勤続者を過度に優遇する現行制度の見直しを図るべきである。

年金・医療保険をパートタイム労働者へ適用拡大し、あまねく社会保険(社会保障)の傘下におくことは重要なことである。
あわせて、第2次答申は、社会保険制度が働き方の制約とならないよう、企業年金のポータビリティの拡大を求めているが、こうした措置が雇用の不安定化を促進することをねらったものであったり、労働者の権利・利益を失わせるものであるならば、本末転倒と言わなければならない。また、退職金の在り方については、法規制は乏しく企業の自由なのであってとやかく言うべきでない。

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(10)事後チェック機能の強化

  • 迅速かつ低廉な費用で個別的な労働関係の紛争を適切に解決するため、労働調停制度や労働関係事件固有の訴訟手続きの整備の要否等について早急に検討し、所要の措置を講ずる。
  • 社会保険労務士に紛争調整委員会(個別労働関係紛争解決促進法関係)のあっせんにおける代理を認めた改正社会保険労務士法の円滑な施行を図る。

この間、労働法制、経営法制等の改定を背景に、賃金抑制をねらう賃金制度の見直し、
不安定雇用の増大をもたらす雇用形態の多様化などが進められてきた。他方、本来、使用者と対峙して労働者の権利を守るべき労働組合の組織率が年々低下の一途をたどり、労働者は孤立し、弱い立場におかれている。加えて、景気の低迷がつづく中、企業のリストラ・合理化は激しさを増しており、多くの労働者が既存の行政体制や権限行使では対応できない困難かつ多様な問題を抱えている。
こうした様々な問題をめぐる個別労働関係紛争を民事的側面を含めて最終的に解決するにあたっては、適正な事実認定とそれに基づく法的判断が、迅速かつ簡易なシステムの下で確定的に示される必要があり、かつその判断は強制力をもって担保されることが必要である。
このでは、第2次答申が指摘するとおり、労働裁判制度を「労働関係事件固有の訴訟手続き」として整備することは喫緊の課題といえる。
その際、今日の個別労働関係紛争の実態にてらして少なくとも次の諸点が重要であると考える。

  • 1)賃金生活者である労働者の立場にてらして「迅速性」が重要であること。
  • 2)資本制社会における個別的労使関係を、契約当事者の対等原則をもってみることは、公正とは言えず、個々の労働者の置かれた状況に相応しい「公正性」の担保が重要であること。
  • 3)個別的労使紛争の解決は、全国斉一的に取り扱われなければならず、事案相互間の「公平性」が重要であること。
  • 4)個別的労使紛争が、社会的に力を持たない一個人であることから、費用負担を最小限とする「無償性」の原則が重要であること。
  • 5)一個人である労働者が簡便に利用できるためには、全国すべての地域で対応が可能な「利便性」が重要であること。
  • 6)個別的労使紛争の多くが当事者間の話し合いが決裂した段階で持ち込まれること、さらに感情的な対立が激しい事案などでは「一切耳を貸さない事業主」も少なくないことから「実効性」が重要であること。

他方、これらの要素をすべてを「一制度」が担うことは困難な場合もあろう。加えて、多様な裁判外紛争処理(ADR)の確立も追求されなければならず、その重要な一分野として、第2次答申が指摘する「労働調停制度」が検討されるべきである。その上で、従来、個別労働関係紛争の裁判外紛争処理(ADR)を担ってきた行政機関である都道府県労働局(労働基準監督署、雇用均等室、公共職業安定所を含む)、労政事務所、地方労働委員会(一部)等との連携が従来以上にはかられることが求められている。
さて、第2次答申は、社会保険労務士に紛争調整委員会のあっせんにおける代理を認めた改正社会保険労務士法の円滑な施行を求めている。
社会保険労務士の多くは、今日、事業主に代わって労働保険、社会保険に関する行政書類の作成や手続きの代行などを行っている。従来、社会保険労務士法には「労働争議の介入してはならない」との定めがあり、団体交渉への出席や労働組合対策を担うことはできないとされてきた。個別労働関係紛争解決促進制度は、紛争当事者である労使が率直な話し合いによって紛争の解決をはかるものであり、話し合いが社会保険労務士によって代行されることでその趣旨が没却されることとなってはならない。