民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2002年 8月
雇用分野の「規制改革」の分析と提言
全労働省労働組合 雇用政策プロジェクト

第1章 はじめに−雇用分野の「規制改革」をめぐる動向の特徴と本稿の位置づけ

1、総合規制改革会議・第1次答申と規制改革3か年計画

昨年12月11日に総合規制改革会議がまとめた「規制改革の推進に関する第1次答申」(以下、第1次答申)は、人材(労働)分野のいっそうの「規制改革」をかかげ、雇用にかかわっては職業紹介事業と労働者派遣事業に関するさらなる規制緩和を迫っています。政府が今年3月29日に閣議決定した「規制改革推進3か年計画(改定)」も、「第1次答申」の速やかな実施を打ち出しています。
職業紹介事業と労働者派遣事業に関する主な規制緩和事項は以下のとおりです。

【職業紹介事業】

○求職者からの手数料規制の緩和
○求人企業から徴収する手数料の上限に係る大臣基準の廃止
○無料職業紹介事業に関する規制緩和
・学校等以外の者の行う無料職業紹介事業の許可制から届出制への変更
・地方公共団体が行う無料職業紹介事業への支援の強化
○雇用関係助成金の公共職業安定所紹介要件の緩和
○職業紹介責任者に係る規制緩和
○国外にわたる職業紹介に係る規制緩和

【労働者派遣事業】

○派遣期間の延長(期間を1年に限定することの撤廃も含め検討)
○派遣対象業務の拡大
・「物の製造」業務の解禁
・法改正を対象としない対象業務(26業務)の拡大
○紹介予定派遣制度の見直し

1999年の職業安定法及び労働者派遣法の「改正」の際、3年後の見直しが定められましたが、「第1次答申」では、この見直し規定にかかわらずに前倒しで見直しをすすめることを打ち出し、現在、労働政策審議会の関係分科会等での検討作業が進められています。 他方、法「改正」を要しない事項については、すでに2001年度に政省令「改正」などが実施されました。

2、法「見直し」に先行した省令「改正」

厚生労働省は、職業紹介事業および労働者派遣事業に関して、今年2月及び3月に次のような政省令「改正」などを行いました。

  • 1)求職者からの手数料徴収範囲の拡大(省令「改正」)
    従来から認められていたモデル、芸能家に加え、年収1,200万円以上の経営管理者及び科学技術者からの手数料徴収を認めました。
  • 2)求人企業から徴収する手数料の上限に係る大臣基準の廃止(変更命令基準「改正」)
    従来は、求人企業から徴収する手数料の上限を年収の100分の50と定め、これを超える場合は大臣が変更命令を発することとされていましたが、100分の50の上限を廃止し、「該当する労働者についての手数料が著しく不当であると認められるときは、変更命令を発出する」に変えました。
  • 3)法「改正」を必要としない対象業務(26業務)の拡大
    労働者派遣法では、26の対象業務を定めていますが、法「改正」を要しないものとして、1)専門的知識を必要とする金融商品の営業、販売の業務(政令「改正」)、2)ITに関する営業、販売の業務(施行令の解釈の明確化)を追加しました。

なお、5月28日に発足した日本経団連は「経済活性化に向けた規制改革緊急要望」を発表しましたが、ここでも1)労働者派遣法における派遣対象業務の拡大と派遣期間制限の見直し、2)紹介予定派遣制度の実効性確保に向けた労働者派遣法の見直し、2)職業紹介における求職者からの手数料規制の更なる緩和、3)労働者派遣事業許可制度の見直し、を求めています。

3、「総合雇用対策」をはじめとする各種雇用対策の展開

こうした雇用分野の「規制改革」の動きに呼応して、政府(産業構造改革・雇用対策本部)は、昨年9月、「総合雇用対策」を決定し、様々な施策を盛り込んだ対策を打ち出しました。そこでは、「雇用の受け皿整備」「雇用のミスマッチの解消」「セーフティネット整備」を柱とした施策が示され、補正予算等を通じて順次実施に移されました。
特に、緊急地域雇用創出特別交付金による雇用創出、雇用関係助成金の労働移動、再就職支援へのいっそうの傾斜、トライアル雇用(試行就業)の拡大などは、これからの雇用対策を考える上でも重要な意味を持っています。
また、新規学卒者の就職をめぐる状況が厳しさを増しており、中でも高校卒業者の就職をめぐる問題は社会問題化しています。こうした中で、厚生労働者は、「指定校制」や「1人1社応募制」の見直しなどを打ち出しています。
さらに、深刻な雇用・失業情勢への対応策として、厚生労働大臣、日経連会長、連合会長の3者が、3月29日、「ワークシェアリングについての基本的な考え方」を合意するなど、ワークシェアリングに対する国民の関心が高まっています。

4、本稿の位置づけ

雇用分野をめぐって総合規制改革会議や政府・厚生労働省などの様々な動きがあるなかで、労働行政の第一線職場で労働者・求職者の実情に日々触れる私たちは、これらの動きに多くの疑問・意見を持っています。
すでに、私たちは雇用対策のあるべき方向と重視すべき施策をとりまとめた「今、求められる雇用対策の提言」(昨年11月)や第1次答申の内容と策定過程を批判的に分析した「規制改革の推進に関する第1次答申(総合規制改革会議)の分析について」(本年2月)を公表していますが、本稿では、労働者・求職者の視点を重視しながら、雇用分野の「規制改革」をめぐって焦点とされている「民営職業紹介事業」(第2章章参照)と「労働者派遣事業」(第3章参照)のあるべき方向を探るとともに、焦眉の課題となってい「若年者をめぐる雇用対策」(第4章参照)と「緊急地域雇用創出特別基金事業の運用」(第5章参照)に関する試論を提起しています。あわせて、「補論」(Y参照)として政府・財界がめざす労働市場の在り方を概観しその問題点を指摘しています。

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第2章 民営職業紹介事業の「規制改革」の分析と提言−
適格紹介の原則に立った職業紹介の徹底を

1、民営職業紹介事業の自由化が雇用情勢を改善するという主張は正しいか

1)民営職業紹介事業の自由化の背景

有料職業紹介事業に対する「規制緩和」要求の本格化は、1995年5月の日経連「新時代の『日本的経営』」が大きな契機となりました。
労働者を、2)長期雇用の「長期蓄積能力活用型グループ」、[2]有期雇用の「高度専門能力活用型グループ」、3)有期雇用の「雇用柔軟型グループ」に分け、労働力の最大限活用を図ろうという意図を明らかにしたこの提言では、同時に、「外部労働市場」整備のための関連する法制度の見直しをも提唱しています。
それは、90年代半ばから本格化する資本のグローバリゼーション及びそれを促進する「構造改革」によって、大量の失業者が生ずることを容認し、これに対して、民間の「人材ビジネス」を通じた「雇用の流動化」を図ろうというものです。長期雇用から短期雇用へ、直接雇用から間接雇用へ、正規雇用から非正規雇用へ、などがその具体的方策として打ち出されています。
民営職業紹介事業の自由化は、こうした一連の動きの中で本格化しました。その具体化が1997年の省令「改正」及び1999年の職業安定法「改正」であり、[1]港湾運送業務、[2]建設業務、[3]その他有料職業紹介事業において職業のあっせんを行うことが当該職業に就く労働者の保護に支障を及ぼす恐れのあるものとして命令で定める職業以外の職業については有料職業紹介事業者がすべて取り扱うことができるようになりました([3]については、厚生労働大臣が定めることとされていますが、これまでこれに該当する職業はありません)。
これによって、有料職業紹介事業所数は1999年度までは3,000事業所台で推移し、年増加率も5〜6%でしたが、2000年度には対前年度比25.4%増の4,675事業所と大幅に増えています(厚生労働省(労働省)・民営職業紹介事業報告)。民営職業紹介事業の自由化が、営利を目的とする有料職業紹介事業所の急増をもたらしたことは明らかです。

2)ビジネスチャンスの拡大が最大のねらい

とは言え、民営職業紹介事業自由化への最大の原動力は、関連業者自身の中にあります。有料職業紹介事業や労働者派遣事業などの民間の「人材ビジネス」は、政府の「新規・成長15分野」の一つとして位置づけられ、その「市場規模」も膨大なものとみられています。
全国求人情報誌協会・日本人材紹介事業協会・日本人材派遣協会の3者による「民間の活力と創意を活かした労働市場サービスに関する研究会」が今年3月にまとめた「労働市場サービス産業の活性化のための提言」(以下、労働市場サービス活性化提言)によると、「労働市場サービス産業」の市場規模の合計は2兆3,860億円で、このうち有料職業紹介事業は1,095億円となっています。「労働市場サービス活性化提言」では、公共職業安定機関の役割の限定から人材ビジネスへのさらなるシフトで、いっそうの市場規模拡大を求めています。「労働市場サービス産業」の伸長は、公共職業安定機関の機能低下と一対のものとされているのです。
ここで指摘しなければならないのは、雇用・労働分野における「規制改革」のいっそうの推進を迫っている総合規制改革会議のメンバー構成についてです。総合規制改革会議の人材(労働)ワーキンググループでは、構成メンバー8人中、労働者・労働組合の代表者は1人もいませんが、その一方で人材ビジネス関連会社の社長が2人も入っています。国の基本施策を決定する機関の中で、こうした片寄った人員構成はきわめて異常なことであり、雇用・労働分野の「規制改革」が「人材ビジネス」の営業領域を拡大する方向へと誘導されることは既定の方向であったと言わなければなりません(注1)。
ここで想起すべきは、1988年に発覚し、大きな疑獄事件に発展したリクルート事件の重要な契機が、就職情報などの雇用情報の独占を企図したものであったということです。これをみても、「人材仲介」には、「口入屋」「募集人」などによる労働力の売買が公然と行われた戦前期だけではなく、現在においても巨額の利権がついて回ることが明らかです。民営職業紹介事業は、労働力需給調整機能の一端を担うという法的な位置づけがなされているものの、その本質は営利追求にあることに何ら変わりはありません。

(注1)総合規制改革会議・第1次答申の問題点については、「規制改革の推進に関する第1次答申(総合規制改革会議)の分析について」(本年2月)で全労働の考え方を明らかにしています。

3)自由化のなかで曲解された国際労働基準

民営職業紹介事業(及び労働者派遣事業)の「規制緩和」のもう1つのきっかけとなったのが、1997年のILO第85回総会における第181号条約(民間職業事業所に関する条約)の採択でした。
第181号条約は、それまでの、民間職業事業所の活動を原則として禁止した第96号条約を改正(廃棄)し、新たな国際基準を定めたもので、民間職業事業1)狭義の有料職業紹介事業、[2]労働者派遣事業、2)その他の就職情報提供などの民間サービス)を、公的なコントロールのもとで公認することを定めるとともに、特に派遣労働者に対する保護を規定したものです。
日本では、97年当時も、そして今日に至っても、この第181号条約を、労働者派遣事業や有料職業紹介事業の自由化を定めた条約であるとして、新しい「国際基準」に見合った労働市場法制を確立しなければならない、という主張がまかりとおっています。労働者派遣事業や民営職業紹介事業の自由化をはかる法「改正」、政省令「改正」も、第181号条約を金科玉条にして行われてきました。
しかし、すでに述べたように、第181号条約は民間職業事業を無条件に容認したわけではなく、「ILOは、むしろ、国の職業安定行政機関による公的職業紹介の共存を前提に(第88号条約)、従来の条約や勧告ではまったく視野に入っていなかったといえる『労働者派遣事業』や多様な『民間雇用サービス』をも規制しようと、その対象を拡大したのである」(全労働省労働組合職安法プロジェクト「職業紹介事業のあるべき方向と労働権保障−雇用法制研究会報告の批判的検討」(1998年12月)(以下、職安法プロジェクト報告))という性格を強く有するものです。
事実、有料職業紹介事業の「規制緩和」で現在の大きな焦点となっている求職者からの手数料徴収については、「民間職業事業所は、直接又は間接に、全部又は一部について、労働者に対しいかなる手数料又は経費も徴収してはならない」(第7条)ことを原則としていますし、日本では全く法的な規制がない求人情報などの情報提供サービスに対しても、条約と同時に採択された第188号勧告で「権限のある機関は、不公正な宣伝活動及び誤解のおそれのある広告(存在しない仕事に関する広告を含む)の防止に努めるべきである」(第7条)と明確に規定しています。また、特に派遣労働者の保護措置を十分に講ずるよう定めています。「規制緩和」論は、こうしたILOの条約・勧告の真髄を意図的に覆いかくしていると言わざるを得ません。
「ILOの各種規制をほとんど受け入れていない日本が、他の多くの労働者保護や差別禁止を定める諸条約を批准することなしに、第181号条約の一面だけを強調することは余りにも身勝手な態度と言わざるを得ない」(職安法プロジェクト報告)という指摘を今日もあらためて強調せざるを得ないのが、残念ながら日本の現状です。

4)「求職者」からの手数料徴収をめぐる問題点

有料職業紹介事業をめぐって最大の焦点の一つとなっているのが、求職者からの手数料徴収に対する規制の緩和です。ILO181号条約では求職者からの手数料徴収は原則禁止としていますが、日本では求職者からの手数料徴収を容易にしようとする動きが強まり、一部でそれが実行に移されています。
昨年12月の総合規制改革会議「第1次答申」では、「職業紹介規制の抜本的緩和」として、ILO条約の例外の範囲(求職者の利益となる場合には例外を認める)内で可能な限り認める方向で省令「改正」を行うよう促しました。
厚生労働省はこれを受けて今年2月、すでに手数料徴収が認められているモデル、芸能家に加え、就職後1年間の年収が1,200万円を超える経営管理者および科学技術者から手数料を徴収することができるとの省令「改正」をしました。
日本経団連が「経済活性化に向けた規制改革緊急要望」(5月29日)で「職業紹介における求職者からの手数料規制の更なる緩和」をあげているように、求職者の手数料徴収は今回の省令「改正」にとどまらず、さらに拡大されることにより、ILO条約の原則がなし崩しにされ、職業紹介の無料原則が形骸化されることが懸念されます。
求職者からの手数料徴収について、経済審議会行動計画委員会の雇用・労働ワーキンググループ報告(1996年10月)は、「求職者からの実質的なサービス料金の徴収に道を開くことは、それによって職業紹介事業者が求人者よりのバイアスを持つことが防止され、労働者の雇用主に対する交渉上の地歩を強めることに資するものと考えられる」と述べています。このこと自体、有料職業紹介事業は本来、求職者よりも求人側に立つ必然性があることを認めているものです。
仮に、市場原理にもとづいて、求職者が求人者と対等あるいはそれ以上の立場に立とうとすれば、求人者よりも高い手数料を負担しなければならないことになります。これは、経済的に求人者よりも圧倒的に弱い立場にある求職者には絶対不可能なことです。結局、求職者からの手数料徴収は、対求人者という面では決して有利に作用することはなく、有料職業紹介事業者の新たな収入源の拡大にしかなりえません。
求職者からの手数料徴収のもう一つの問題点は、費用負担の可能な労働者とそれが困難な労働者との間に格差・不平等を生じさせることにあります。手数料を払える労働者には良質の求人を紹介し、それができない労働者に対しては紹介を拒否するか、おざなりの対応しかしない、という事態が広がりかねません。これでは、職業紹介による公平中立の原則を否定されることにならざるを得ません。

5)「求人者」からの手数料徴収をめぐる問題点

有料職業紹介事業所が求人者から徴収できる紹介手数料については、「上限制手数料」と「届出制手数料」があり、前者については支払われた賃金額の100分の10.5(6カ月を上限とする)、後者については年収の100分の50を限度に徴収できることとされていましたが、今年2月の省令「改正」により、後者についての上限が撤廃され、求人企業と紹介事業所による合意の範囲で徴収することができることとされました。
このことは、一見すると合理的なように思われますが、有料職業紹介事業所と求人企業との関係で、求人企業の立場が強い場合は100分の50以下に設定され、その逆に求人企業の立場が弱い場合には100分の50を上回る手数料が設定される、ということが生じる可能性があります。職業紹介事業において、無料で求人を申し込むことができる公共職業安定所が中心的な役割を果たしていればこうした事態は回避できますが、公共職業安定所の機能が低下するようなことになれば、上記のような懸念が現実化することも考えなければなりません。
また、紹介手数料は求人企業にとっては募集費であり、人件費コストにほかなりません。求人者に対する紹介手数料だからといって、企業の負担増という側面だけを見ることはできず、賃金抑制の重要な要素となることもみておかなければなりません。求人を無料の職業紹介ではなく、有料職業紹介事業に依存すればするほど、こうした傾向が強まることが考えられます。

6)民営職業紹介事業の自由化が雇用創出に寄与するのか

「労働市場サービス活性化提言」は「前書き」で、「新たな雇用機会を創出するためには、労働力需要の拡大が不可欠であるが、潜在的な需要を顕在化させることも雇用創出に貢献でき、労働市場サービス産業は、雇用創出機能を併せ持つものである」と述べています。
民営職業紹介事業の自由化が雇用創出に役立つ―これは、政府の雇用・労働法制「見直し」の中でも強調されていることです。しかし、有料職業紹介事業や労働者派遣事業が自由化された1999年以降を見ると、雇用労働者数は減少する一方で、非正規雇用労働者数は急速に増加しています。有料職業紹介事業や労働者派遣事業の自由化は、正規雇用から非正規雇用への置き換えによる不安定雇用は創出しても、新たな、安定した雇用を創出する機能は果たしえない、というべきです。
「規制緩和」論者は、雇用・労働分野の自由化がすすんでいる(もともと規制がない)アメリカで、柔軟な労働市場が長期にわたる経済成長の実現に大きく寄与し、雇用労働者数も増加していることをあげ、日本でもアメリカに学んで「規制緩和」をすすめ、民営職業紹介事業の自由化を図るべきだ、と主張しています。
しかし、アメリカでは、レイオフ(一時帰休などとは言えない、文字通りの首切り)の頻発、パートタイム労働者、派遣労働者、オン・コール・ワーカー、インディペンデント・コントラクター(個人請負業)など、随時契約の形で働く非正規雇用労働者の増加が大きな特徴となっており、全労働者中に占める低賃金労働者の割合も増え、ごく一部の労働者上層と圧倒的多数の一般労働者層との賃金格差が拡大する傾向が強まっています。
小嶌典明・大阪大学大学院教授は、韓国では労働市場の改革が急ピッチですすみ、有料職業紹介事業の取扱職業について一切の制限をなくしたことなどを高く評価しています。(「ジュリスト」1221、2002年4月15日号)しかし、韓国では、98年を中心に労働者派遣法の制定、職業安定法改正、解雇ルールの明文化など、労働市場の「柔軟性を確保」した結果、2001年12月の政府統計では、雇用契約期間が1年に満たない「非定期職」が賃金労働者全体の52%を占め、不安定雇用化が急速にすすんでいます(朝日新聞、2月8日付)。
「規制緩和」論者は、労働市場改革によって労働市場の柔軟性が確保され、民営職業紹介事業の活動が自由になることを手放しで評価しますが、その一方で、雇用不安、低賃金化がすすみ、労働者の雇用・生活が深刻な状況に陥っていることについては一顧だにしていません。

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2、今、求められるのは、職業紹介事業における公共性の強化〜提言として

憲法が定めた国民の適職選択権を実効あるものとするためには、誰もが無料で利用できる公共職業安定機関が職業紹介事業の中心的な機関として位置づけられることが必要です。「『無料』といっても、国民の税金でまかなっている以上、国民にとっての負担はゼロではない」という議論がありますが、収入の多寡、資格の有無、学歴等に関係なく、人間が人間らしく働き、生活できるために、誰もが安心して利用できる公共機関を確立・充実することは、国民に対する国の最低限の義務です。また、公共職業安定所の存在を、「民業圧迫」とする議論などもありますが、これらは、国民の職業選択権に対する保障という観点を欠いた議論と言わざるを得ません。
民営職業紹介事業をめぐっては、求人・求職にあたって選別を行っている、賃金の間接払いが行われている、賃金をはじめとして求人条件と実際の労働条件に食い違いが見られる、などの苦情が依然として後を絶ちませんし、事業所数の増加とともに、苦情の件数も増える傾向が見られます。求人・求職双方の権利確保という観点から、民営職業紹介事業に対する新たな実効ある規制措置の必要性が高まっています。一方、新たな規制措置は直ちには困難としても、官民を問わない職業紹介事業における公共性をあらためて確認し、これを厳守・強化することが強く求められます。
それは一言でいえば、職業紹介事業の原則とされてきた、[1]求職の申し込み(職業安定法5条5項)、[2]求人の申し込み(同5条6項)、[3]労働条件の明示(同5条3項)、[4]適格紹介(同5条7項)、[5]労働争議に対する不介入(同20条、民間事業者には第34条で準用を規定)などを今後も堅持することです。
以下では、これらの諸点を中心に具体的な方向を提言します。

1)官民ともに求人・求職の原則受理を堅持すること

有料職業紹介事業であっても、「労働力の需要供給の適正かつ円滑な調整」(職業安定法)に資するためには、法令に違反する場合等を除き、求人および求職をすべて受理すべきこととされています。これは、職業紹介事業が強い公共性を有することからして当然の原則です。
これに対して「労働市場サービス活性化提言」は、「市場原理を活かした高い品質のサービスを民間が提供する場合には、選別受理を可能にすることも必要と考えられる」と述べていますが、ここに人材ビジネス関連業者の本音が表れています。
要するに、各事業者が強い分野・地域に特化した職業紹介事業の展開を認めろということですが、ここには「労働力需給の適正かつ円滑な調整」は二の次にされ、効率的に利益が上げられるようにせよ、との営利追求を前面に出した主張が見られます。上記提言では、「民でできることは民で行う」ことを原則とすべき、と述べていますが、こうした主張を認めれば、公共職業安定機関の機能は大幅に縮小された上、有料職業紹介業者は強い分野・地域だけで営業を虫食い的に行うこととなり、求人者・求職者の権利は大きく損なわれることになります。
現行制度でも、民営職業紹介業者が公共職業安定所に届け出をすれば、職業や地域を限定した職業紹介を行うことができることとされており、それ以外の場合は、求人・求職の原則受理を引き続き堅持すべきです。

2)労働条件の明示を徹底すること

労使双方が対等な立場で雇用契約を結ぶ以上、労働条件の明示は最低限必要なことであり、民営職業紹介事業者もこれを遵守する必要があります。ところが、労働条件については「委細面談」とするだけでなく、就業する職種や就業場所を複数あげ、就業開始日直前になって初めて自分が就く職業・場所が特定される、というような求人も目立っています。労働基準法第15条は労働契約の締結に際して、賃金、労働時間その他の労働条件の明示(主要事項の文書による明示を含む)を事業主に義務づけていますが、その不履行とも相まって人権侵害とも言える状況が生じています。
労働条件に関しては、特に変形労働時間制、裁量労働制など労働時間規制の緩和によって、求人時に提示された労働時間と実際の労働時間とに大きな違いが生まれる状況が広がっています。求人段階での労働条件の明示にあたっても、求人企業での実際の労働時間がどうなっているかも的確に把握し、求職者に正確な情報を提供するように努めるべきです。
また、特に問題が多く、苦情・トラブルも頻発しているのが求人広告です。日本では、求人広告に関しては業界団体による「自主規制」以外の法的規制は一切ありませんが、労働者保護という観点から新たな法的措置を講ずるべきです。

3)「適格紹介」を実効あるものとすること

求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するという「適格紹介」は、公正・中立な職業紹介という観点から堅持されるべきです。しかし、有料職業紹介事業の場合は、事業者間の競争が激化すると、「求人条件を満たす求職者をいかに保持・開拓するか」に関心が向く傾向が強まります。「開かれた労働市場」ではなく、良質な求人・求職者の「囲い込み」が横行することにもなりかねません。
これは、紹介事業者にとっては避けられないことかも知れませんが、求人・求職者の側からすれば、情報が限定され、希望する職業紹介サービスが得られない(紹介事業者の利益にならない求人・求職者への紹介は実質的に拒否される)という事態を招くことになります。求人・求職者の立場に立った適格紹介ではなく、職業紹介業者にとってどうしたら採算がとれるか、多くの収益が上がるかが優先されることになり、職業紹介事業の公共性は大きく損なわれることになります。
また、公共職業安定機関が有している求人情報については、すでに「ハローワークインターネットサービス」を通じて公開され、どのような求人があるのかについては広く提供されていますが、民間業者の保有する情報についてはそれが徹底されていません。「良質な求人・求職は紹介業者にとっての命綱であり、すべてをオープンにすることはできない」ということは、営利事業からすれば至極当然のように聞こえます。
しかし、職業紹介事業はきわめて公共性が高く、すべての利用者が平等に求人・求職情報を得ることが最も重要であることを考えれば、民間職業紹介業者の保有する情報も原則公開とするための措置を検討すべきです。

4)争議不介入の原則を徹底すること

職業安定法第20条は、「公共職業安定所は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業又は作業所閉鎖の行われている事業所に、求職者を紹介してはならない」と定め、同第34条でこれを民間職業紹介事業者にも準用しています。
争議中の企業の中には、「スト破り」の目的で労働者を募集・採用する場合があり、「争議不介入の原則」はこれを防止するために設けられたもので、あらためて、この原則を官民共通のものとして確認することが必要です。

5)無料の原則を堅持すること

職業安定法第5条では、政府は求職者に対して無料の職業紹介事業を行うこととする「無料の原則」を定めています。有料職業紹介事業にあっても、ごく一部の例外を除いては求職者からの手数料徴収は禁止されています。しかし、「規制緩和」の動きの中で、求職者からの手数料徴収の範囲を拡大する主張が強まっていること、およびその問題点についてはすでに指摘したとおりです。求職者間に差別を持ち込ませないためにも、この「無料の原則」は堅持されるべきであり、求職者からの手数料徴収の範囲を拡大すべきではありません。
厳しい雇用・失業情勢の反映でもありますが、有料職業紹介事業の自由化後も職安の利用者は激増しています。「職安を利用するのは、失業給付とセットだからだ」という議論もありますが、職安利用者の伸びが雇用保険受給者数の伸びを大きく上回っていることからも明らかなように、無料の職業紹介への国民の期待は高まっています。政府は、行政需要の高まりに応じた行政体制の充実を急ぐべきです。

6)個人情報の保護を徹底すること

職業安定法は、第5条の4で公共職業安定所等に求職者等の個人情報を適正に管理すべきことを、そして第51条で有料職業紹介事業者等に個人情報等の秘密を守る義務を、それぞれ課しています。引き続き、これらの厳守が必要です。
民営職業紹介事業に関わる法違反などの問題が生じても、求職者が公的機関等への相談・苦情申立をためらう大きな理由として、そのことによって不利益を被るのではないか、ということがあります。その典型が、いわゆる「ブラックリスト」であり、とくに今日のような情報化社会においては影響が甚大です。求職者等の告発権を制約しかねない「ブラックリスト」の作成・利用も個人情報の保護に反するものとして、それを禁止するための実効ある措置も検討されるべきです。

7)「事後規制」の徹底とそれに必要な行政権限・体制の整備をはかること

「規制緩和」にあたっては、参入規制などの「事前規制」は必要最小限にとどめるが、その代わりに参入後のルール=「事後規制」は強化し、事業の適切な運営を徹底するということが強調されていました。これは民営職業紹介事業にとっても例外ではないどころか、労働権・生存権に直接かかわる分野だけに、より徹底される必要があります。
「規制緩和」論の立場からは、「悪質業者が職業紹介に介在した場合、そのような業者は市場メカニズムによって淘汰される」というようなことが何の根拠もなく主張され、法「改正」による「事後規制」の内容とそれを担保する行政体制についてはきわめて不十分なままに置かれています。
労働市場における商品(労働力)の売買は、一般商品の売買と違って、問題が生じた際に代替商品の提供によって問題が解決するという性格のものではなく、労働力という商品の所持者=求職者(労働者)にその後の生活にも及ぶ深刻な影響をもたらす場合が少なくありません。だからこそ、職業紹介事業においては、「事後規制」ではなく厳格な「事前規制」が必要なのです。
これをあえて、「事後規制」とするのであれば、民営職業紹介事業によって何らかの被害を受けた求人・求職者の問題を解決し、原状回復かそれに匹敵するだけの措置が講じられるような措置を講ずるべきであり、違反事業者への罰則適用を含めた行政措置が迅速・適切に行えるような行政体制の確立を急ぐべきです。しかし、現状は、民間労働力需給調整にかかわる行政職員数やその体制・権限はきわめて脆弱です。「職業安定機関はレフェリーではなくプレーヤーに徹するべき」という議論に惑わされることなく、求人・求職者の立場に立った適切な措置を講ずるべきです。
その場合、民営職業紹介事業と労働者派遣事業を対象とする「民間労働力需給監督官(民需監督官)」(仮称)の創設を図る必要があります。

8)公的職業紹介事業の充実をはかること

これまでの職業紹介事業は「官主民補」だったが、これからは「民主官補」の方向にシフトする必要があるなどという主張が、「規制緩和」の流れに乗って強まっています。しかし、その主張には、労働者の労働権・生存権をいかに確保・充実させていくか、という観点は全く見られません。職業安定法では、公共職業安定機関と民間の職業紹介事業者等の協力が定められていますが、「職業の安定を図る」という法の趣旨からいって、公共職業安定機関が確固として存在し、確実な機能を果たすことが、民間職業紹介事業による弊害を除去し、その公共性を高めることにつながります。
公共職業安定機関の体制整備は、求人・求職者の権利を守り、民営職業紹介事業者の適切な事業運営をはかる上でも、今日的な重要課題となっています。

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第3章 労働者派遣事業の「規制改革」の分析と提言−
労働者派遣の拡大ではなく、派遣労働者の権利を守るための規制強化をはかること

1、労働者派遣の拡大は深刻な雇用情勢を改善するという主張は正しいか

労働者派遣法は、「専門的な知識、技能又は経験を必要とする業務」「特別の雇用管理を行う必要がある業務」あるいは「一時的・臨時的な業務」について、「労働力の適正かつ迅速な需給調整」を行うことを目的とし、これらの業務に対して労働者派遣なる特別な就労形態を認めています。他面、労働者派遣法は、派遣先における常用雇用労働者の派遣労働者による代替を防止する観点から、適用業務等に応じた派遣期間の制限(原則1年〜3年)を設け、また、希望する派遣労働者の常用雇用への移行を促進する観点から、同一業務に継続して1年間従事した労働者の雇用努力義務(派遣先)や期間制限に抵触して派遣労働者を受け入れた派遣先に対する措置(労働大臣の勧告等)を定めています。さらに、種々の弊害防止の観点から適用除外業務(建設、港湾運送、物の製造など)を定め、これらの業務への労働者派遣を禁止しています。
こうした労働者派遣の適用業務や派遣期間に関する規制を撤廃・緩和することで、新たな雇用を創出させ、今日の深刻な雇用失業情勢を改善させることができるという主張があります。例えば、前掲の「第1次答申」は、「昨今の雇用情勢の急速な変化を踏まえ、労働者の働き方の選択肢を広げ、雇用機会の拡大を図る等の目的から、派遣事業許可制度の在り方、派遣期間の延長や『物の製造』の業務の派遣禁止の撤廃等を含めて(中略)可及的速やかに法改正を行うべきである」としています。
しかしながら、このような主張は、日々求職者に接し、職場の実情に触れている労働行政の第一線から見たとき、二重、三重に誤りがあることを指摘しなければなりません。

1)労働者派遣の拡大は雇用維持モデルの一つである長期雇用システムを破壊している

まず、見ておかなければならないのは、前述の労働者派遣法の趣旨(常用雇用労働者の代替防止等)とはうらはらに、この間、多くの企業が常用雇用労働者を削減しながら、その一方で多くの派遣労働者や業務請負業者(違法派遣をふくむ)を迎え入れているという事実です(注2)。労働者派遣の適用業務の拡大や派遣期間の延長は、派遣労働者と常用雇用労働者の「仕切り」をさらに低くし、代替防止の「歯止め」を緩めることを意味しており、常用雇用労働者から派遣労働者への代替をさらに加速させることは明らかです。
こうした雇用形態の変化の進行が新たな雇用創出に結びつくでしょうか。たしかに、近年、安定所の窓口には、派遣元から多くの求人(派遣労働者を雇い入れるための求人)が提出されるようになりました。しかし、こうした求人に応募した労働者(求職者)の就労先(派遣先)を見てみると常用雇用労働者の雇用調整(人員整理)が行われた企業である場合が多く、派遣労働者の求人が増えた分だけ、常用雇用労働者の求人が減っているのです。このことは、雇用形態を変化させることでは新たな雇用を生み出せないことを表しています。新たな雇用は、あくまでも業務(仕事)の拡大によって創出されるものなのです。
しかも、今日、派遣労働者の多くが、ごく短期の有期雇用契約(注3)を強いられていることを見るとき、派遣労働者の拡大は雇用の不安定化を意味し、従来、雇用維持にむけた経営者のモラルにも裏打ちされてきた「長期雇用システム」を崩壊させていくことにつながります。
つまり、派遣労働者の拡大は、新たな雇用を創り出し雇用情勢を改善することにはならず、常用労働者の「仕事」を奪いながら、重要な「雇用維持モデル」の一つを失わせ、いっそう深刻な情勢をつくりだすことになります。

(注2)2000年12月に労働省の実施した「労働者派遣事業に関する派遣先事業所調査」 によれば、派遣労働者が従事する業務の73.7%は、以前は常用労働者が行ってい たと回答しています。
(注3)2001年7月〜8月に派遣労働ネットワークが実施した「派遣スタッフアンケート」 によれば、派遣労働者の契約期間(雇用期間)は、有効回答のうち、53%が「3ヶ 月以下」、75%が「6ヶ月以下」となっており、きわめて短期の契約を強いられて いる実態が明らかとなっています。

2)派遣労働者の拡大は労働条件の「底割れ」によるミスマッチを拡大している

ところで、公共職業安定所の窓口から見る、現下の深刻な雇用情勢の最大の要因は、労働条件の「底割れ」によるミスマッチ、すなわち、求職者の決して法外でない「求職条件」と「求人条件」のあまりにも大きな隔たりにあるという点にあります。今日、求人情報は安定所内外に相当量が蓄積されています。それにもかかわらず、求職者の真剣な就職活動が実を結ばないのは、多くの場合、求人条件の質(賃金)の低下が著しく、将来にわたって(家族を含む)生活を維持しうる仕事が見つからないからなのです。
この点で注目しなければならないのは、派遣労働者の賃金水準が急速に低下していることです(注4)。常用雇用労働者を代替するかたちで派遣労働者を急速に増大させていくならば、労働条件の「底割れ」をいっそう加速させることになるでしょう。
とすれば、労働者派遣の適用業務の拡大や派遣期間の延長は、雇用情勢を改善するどころか、労働条件の「底割れ」によるミスマッチをさらに拡大させ、雇用情勢をますます悪化させることは明白です。

(注4)前掲「派遣スタッフアンケート」(2001年)によれば、派遣労働者の平均時給は 「1,465円」となっており、同様の調査を行った1998年の「1,660円」、1994年の 「1,704円」に比べ、急速に下がっていることが明らかとなっています。

3)「不安定・低賃金の派遣労働市場」の拡大は、「産業構造の転換」を妨げる

常用雇用労働者から派遣労働者への代替がより容易になるならば、人件費の削減をねらう企業にとってまことに好都合ですが、その結果、派遣労働市場はさらに不安定・低賃金の労働市場となります。
低賃金労働者の増加は、当然に個人消費を冷え込ませるでしょうし、不安定雇用労働者にとっては、住宅ローンも、自動車ローンも許されないのが現実であって、この点でも新たな消費需要を生み出す契機を失わせることになります。
規制緩和論者は、規制緩和政策を通じて新たな産業と雇用が創出されるとすると主張していますが、同時に、労働者の所得水準を引き下げ、個人消費を萎縮させてしまうのであれば、経済活動は縮小し、彼らの言う「産業構造の円滑な転換」を妨げてしまうことになるのです。
加えて、不安定・低賃金な労働市場の拡大が、わが国の良質な労働力の多くを失わせていくプロセスであることも見逃すことができません。
つまり、人件費の削減と雇用の不安定化を追求する個々の企業の判断が、一見正しく見えたとしても、これらが積み重ねられ社会全体としてとらえたときに大きな間違いを生じさせることになるのです。

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2、今、必要なことは常用雇用労働者からの代替を防ぎ、派遣労働者の権利を守ること〜提言として

労働者派遣法の趣旨とはうらはらに常用雇用労働者から派遣労働者への代替がすすむのは、労働者派遣の期間制限(原則1年〜3年)を設けたものの、恒常的な業務への派遣自体を禁止していないことや、派遣期間を超える労働者派遣に対する規制の不備に加えて、実効ある監督指導をなし得ていないためです。その結果、恒常的な同一業務への派遣が、契約更新を繰り返しながら継続し、当該業務に5年、6年と従事している派遣労働者が少なくないのです。
このように、恒常的な業務であるにも関わらず、企業が常用雇用労働者の雇い入れを嫌い、派遣労働者の受け入れを続けるのは、単なる法令の不知だけでなく、1)雇用の調整弁(使い捨ての労働力の確保)、2)人件費の削減(安価な労働力の確保)、3)使用者責任の放棄など、派遣労働者を受け入れることで得られる「メリット」を最大限に享受したいからにほかなりません。これを派遣元である派遣会社の側から見れば、この間の参入規制の緩和で過当競争が進む中、顧客(ユーザー)である派遣先を確保するためにも脱法的な労働者派遣を続けざるを得ないのです。
こうした「規制の欠如」と「過当な競争」が、低賃金、不安定雇用、そして数々の権利侵害など「何でもあり」の派遣労働市場をつくり出しているのです。
今、求められているのは、常用雇用労働者から派遣労働者への代替を防ぎ、派遣労働者の権利・利益を適切に守り得る法制と行政体制を確立することです。具体的には、派遣労働者の実態と諸外国(特に欧州諸国)の派遣制度に見られる労働者保護の水準をふまえて、主要に次の改革をすすめるべきです。

1)派遣期間終了後の派遣先の雇用義務を強化すること

派遣期間(原則1〜3年)の制限は、常用雇用労働者の代替として派遣労働者を使うことを防ぐために設けられたものです。この規定に反して派遣労働者を受け入れつづけた場合、派遣先には「雇用努力義務」が生じます(法40条の3)。しかし、これはあくまでも努力義務にすぎないのであって雇用(直用)関係を生じさせる効果はきわめて乏しいものです。要するに、派遣先は雇用のリスク(責任)を負わずにいつまでも派遣労働者を受け入れつづけることができるのです(注5)。

こうした事態を適切に処理する前提として、諸外国の多くの法制と同様に、派遣期間の制限を超えて労働者を受け入れ続ける派遣先に対しては、その直接雇用義務を明確にすることが必要です(なお、26業務も同様に取り扱うべきです)。そもそも派遣期間を超える受け入れは「派遣関係の枠組み」を超えているのですから、実態にてらして派遣先との雇用関係を擬制することが自然と言えるでしょう。なお、このような場合、派遣先は雇用関係をきらって当該労働者を「解雇」してしまうなどの事態が想定されますが、個別労働関係紛争の解決等に関する法律に基づく「紛争解決手段」(注6)を積極的に活用し、派遣元、派遣先及び派遣労働者の三者関係を適切に整理しながら、当該労働者の意向をふまえた相応しい解決(金銭賠償を含む)をはかっていくことが求められます。

(注5)法49条の2は、このような場合には、派遣労働者の雇い入れにむけた労働大臣の勧告(指導又は助言が前置)や企業名の公表(勧告が前置)などの措置が可能であるとしていますが、行政体制の不備等から実務上こうした措置はほとんどとられていないのが実情です。
(注6)個別労働関係紛争の解決等に関する法律に基づく「紛争解決手段」は、都道府県労働局長による助言、指導、あっせんなどであるが、強制力を持たないなど不十分さが指摘されている。また、行政体制面でもきわめて不十分な状況にあり(労働局総務部に1人〜数人の担当者が配置されているにすぎない)、これらの充実が欠かせません。また、こうした「紛争解決手段」は、違法派遣・偽装請負の解消後の権利関係の整理にも積極的に活用していくことが求められます。

2)違法派遣に対する取締りを抜本的に強化すること

労働者派遣法は「ざる法」と揶揄されるほど、今日の労働者派遣をめぐって「違法」がまかりとおっています。

具体的には、1)無許可・無届出の派遣元事業者の横行、2)請負を偽装した適用除外業務への派遣の横行、3)派遣期間の制限を超えた長期派遣の横行、4)派遣先による事前面接や履歴書提出の強要、5)年齢や性別差別による登録の拒否(差別)、6)労働契約契約更新時の労働条件の切り下げ、7)派遣先都合による派遣契約解約に伴う解雇、8)派遣先による差別待遇やセクハラなど、法違反や派遣労働者への権利侵害は枚挙にいとまがありません(注7、8)。
これらを適切に指導・監督し、常用雇用労働者からの代替防止を防ぐとともに、派遣元及び派遣先に法令遵守を迫ることで派遣労働者の諸権利を守っていくことが求められています。具体的には、都道府県労働局における職業安定行政、労働基準行政、雇用均等行政の連携を強化するとともに、英国の派遣保安官などをモデルにした民需監督官(仮称)を都道府県労働局に配置し、罰則の適用を含む機敏で実効ある対応をはかるべきです(注9)。その上で、少なくとも派遣元には年一回程度、派遣先には三年に一回程度の事業所訪問ができる体制を確立することが必要です。

(注7)前掲「派遣スタッフアンケート」には、「契約外の業務をさせられる」(24%)、「派遣先の事前面接・採用試験」(14%)、「派遣先の履歴書提出等」(16%)、 「契約の不当な打ち切り」(12%)、「不適切な労働時間管理」、「苦情に対応してくれない」(21%)、「年次有給休暇が取れない」(13%)、「職場のいじめ、セクハラ」(12%)など回答が寄せられています。
(注8)柏労働基準監督署は、本年4月、「フリーターネットワーク」「ネオプレステー ジ」などの名称で1都3県で業務請負業を装い、違法な人材派遣(ビラ配り、倉庫内作業、商品のデモンストレーションなど)を繰り返していた業者を労働基準 法違反(賃金不払罪)の疑いで送検しています。実際の被害は約300人、約1千 万円にのぼると見られています(平成14年4月29日付「労働新聞」)。こうした違法派遣・偽装請負は氷山の一角にすぎません。
(注9)民需監督官(仮称)は、効率的な行政運営を行うためにも労働基準監督官の権限をあわせもつことが有効です。例えば、労働者派遣法は派遣元及び派遣先は共同(責任分担)して労働基準法、労働安全衛生法等の労働者保護法規を遵守する義務があり、これらの違反が派遣元の許可にかかる欠格事由となっていることからも(法6条)、これらを適切に指導し得る者が相応しいと言えます。

3)派遣先に「使用者責任」を相応しく担わせること

前述のような、違法派遣・偽装請負や派遣労働者の権利侵害が生じる原因は、派遣先が原則的に「使用者責任」(指揮命令権に付随する労働基準法等の遵守義務を除く)を負わないにもかかわらず、実際は「ユーザー」として派遣元に対して優位な立場にあり、実質的に派遣労働者の雇用や労働条件に関する大きな影響力を行使しうるという「特別な関係」に起因しています。こうした実態にてらすならば、派遣先に「使用者責任」をより相応しく担わせていくことが必要となります。
ちなみに、建設業法は重層的な請負関係を持つ建設事業の特殊性にてらして、下請事業主が労働者への賃金不払いを生じさせた場合には、国土交通大臣又は都道府県知事が元請事業主に対して賃金相当額を立替払いを勧告できるとする制度があります(法41条2項)。また、労働安全衛生法は建設業等において下請事業主が同法違反をしないよう指導する義務(法29条1項)、下請事業主の労働者に設備等を使用させるにあたって労働災害の防止に必要な措置を講じる義務(法31条1項)等を元請事業主に課しています。
指揮命令権を持たない元請事業主でさえ、下請事業主の使用する労働者の諸権利を守る相応の義務を負っているのであり、まして派遣労働者への指揮命令権を持ち大きな影響力を行使しうる派遣元事業主が、より重い責任を果たすべきことは当然と言えます。
具体的には、派遣元及び派遣先が「使用者」としての責任を共同で負うこととし(賃金の支払いを例にとれば、刑事面では双方が責任を負い、民事面では連帯債務とする)、「利益あるところに責任あり」との原則に即した公平な制度にあらためるべきです。
また、違法派遣(適用除外業務や無許可業者)を受け入れた派遣先には、当該派遣労働者の同意を前提に、同人との雇用契約の締結を擬制すべきです。
なお、現行法の下では、違法派遣を受け入れた派遣先に対し派遣法違反を問うことはできませんが、供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させる行為であることから、職業安定法44条違反を問うことができる場合があり、同条及び64条8号(罰則)を積極的に適用していくべきです。

4)派遣先での同一労働同一待遇を確立すること

「仕事は同じ、賃金は半分」といった派遣労働者が少なくありません。
常用雇用労働者から派遣労働者への代替は、派遣労働者を「安上がりな労働者」と位置づけ、「同一労働差別待遇」を広げることで人件費の削減をはかろうとする企業によって急速に広がっています。
こうした状況をくい止めるためには、派遣先における「同一労働同一待遇」を確立する以外になく、すでにEU諸国ではかかる観点から必要な規制を設けています。
具体的には、月例給与、諸手当(通勤手当など)、一時金(賞与)、退職金、休暇制度、福利厚生など広範な事項を対象とし、同種の労働者との同一待遇を義務づけることが必要です。

5)紹介予定派遣の「運用緩和」は雇用の拡大に結びつかない

2001年12月から、派遣元が派遣開始から1年後に派遣先への「職業紹介」を予定する紹介予定派遣(ジョブサーチ型派遣)が認められています。こうした紹介予定派遣の「運用緩和」は派遣元、派遣先それぞれに大きなメリットがあります。
派遣元は、常用雇用を希望する労働者(新卒者を含む)に対してもその期待を抱かせることで、低賃金で派遣労働者としての雇い入れを甘受させることができますし、実際に派遣先への採用にむすびつくならば「派遣」に続いて「職業紹介」でも利益を上げることが可能になります。
派遣先は、一切のリスク(雇用義務)なしに労働者を試用することができますし、派遣労働者に対して「採用の可能性」を匂わせることで、より過重な労働を受け入れさせることができます。
他方、現行法は、派遣先に対して派遣労働者を雇い入れるよう努力義務を課しており(法40条の3)、また派遣元に対しては、雇用関係終了後に派遣労働者と派遣先が雇用契約を締結することを制限してはならないことを定めているのであって(33条)、元来、派遣労働者が派遣先へ雇い入れられること(常用化)が望ましいとの立場に立っているのです。そうである以上、前述した紹介予定派遣の種々のメリットの裏側にある、派遣労働者のデメリットが十分に考慮されなければならないでしょう(注10)。
今後、紹介予定派遣の実を上げるためなど称して、さらなる「運用緩和」を求める主張が予想されます。その中心課題の一つが、派遣労働者との事前面接の解禁、すなわち派遣労働者の特定の容認であると思われます。しかしながら、こうした紹介予定派遣はもはや「労働者供給」とかわるところがなく、労働者派遣制度自体の崩壊と言わなければなりません。

(注10)紹介予定派遣によって、派遣先が一切の雇用義務を負わずに労働者を試用できることになれば、いわゆる試用期間の法理(期間経過後の解約権の制約)等をなし崩しにしてしまうことになります。もっとも、こうした「効果」は派遣労働者と派遣元との間で締結された「有期雇用契約」に内在する問題点ではありますが、紹介予定派遣は、派遣元による「職業紹介」で常用雇用を期待させているだけに問題は深刻といえます。

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第4章  若年労働者の雇用対策にかかる提言

戦後最悪といわれる雇用・失業情勢の中でも、若年層の雇用問題はより深刻な様相をみせています。例えば、今年5月の15〜24歳層の完全失業率は10.4%と、全体の5.6%を大きく上回っています(いずれも原数値)。特に新規高卒者の就職状況がきびしく、今年3月卒業者の就職決定率(3月末現在)は89.7%と最悪の水準となっています。
こうした深刻な若年者雇用を抜本的に改善するためには、新規雇用の創出や十分な職業訓練などの実施が早急に求められますが、政府の施策の中心はトライアル雇用や紹介予定派遣の活用など、若年者間の競争をより激化させ、非正規雇用を拡大するものとなっています。
こうした情勢をふまえて、真の雇用改善につながる対策の方向を次のとおり提言します。

1)新規学卒者を対象とした基礎技術・技能を習得する長期(訓練期間1〜2年)の養成訓練の訓練科目・受講定員を拡充すること。また、養成訓練受講者の受講費用(教材費等を含む)を無料とするとともに、訓練受講中は求職活動手当を支給すること。1)公共職業安定所で求職活動を行う学卒未就職者に職業訓練を実施し、求職活動期間中は求職活動手当を支給すること。

新規学卒者に対する養成訓練は、基礎技術をしっかり習得させることにより、養成訓練修了後就職した企業での訓練と相まって訓練効果を相乗的に発揮するなど、これまでも高い評価を得てきており、訓練科目(民間の能力開発施設の利用も含む)と受講定員の拡大が緊急に求められています。
あわせて、最近の厳しい雇用失業情勢のもとで家族が失業するなど家庭状況の急変により長期の訓練期間中無収入であることに耐えられず途中退校する者が増えており、訓練受講中の手当の支給が必要になっています。
また、学卒未就職者は、雇用保険の受給資格がなく求職活動にも支障をきたすことや、社会人としての自立心を養う観点から、学卒未就職者の求職活動に対し手当を支給する等の支援が必要です。

2)緊急雇用創出特別交付金基金事業の積極的な拡充活用で公的雇用の拡大をはかり、学卒未就職者・青年を積極的に雇用すること。

いくつかの地方自治体では、職員の賃金カットを行い、その財源で臨時職員等を採用する等の「雇用対策」(ワークシェアリング)が行われています。しかし、こうした対策は職員の側にも、臨時職員の側にも大きな困難(職員にとっては賃金カット、臨時職員にとっては雇い止めなど)を持ち込むものでしかありません。
財源確保はこうした手段(賃金カット)によるのではなく、直接実施事業として教員補助者の採用を含んでいる特別交付金基金事業を、自治体の臨時職員等の採用にも行えるよう拡充していくことが求められます。
また、臨時雇用の在り方を再検討し、その後の常用雇用につながるよう職業訓練の要素を盛り込み、学卒未就職者や就業体験の不十分な若年求職者に有効な就業体験を積ませるとともに、被雇用者に対し職業教育を実施し、当該被雇用者が雇用期間中若しくは雇用終了時に安定した就職につながるよう支援することが重要です。

3)若年者トライアル雇用は、若年者の主体的利用を保障し、複数回トライアル雇用を体験できる制度となるよう変更を行なうこと。

トライアル雇用は、職業経験の少ない若年者にとって就業体験を通して自らの職業適性や事業所の労働環境等を確認できるなど利点もありますが、一方で「有期雇用」という枠組みの下で、事業主が一定期間(3ヶ月)後にあらためて採否を判定でき(事業主は解雇権を留保しているに等しい)、当該若年者はきわめて不安定な立場に置かれるなどの問題点を持っています。
すなわち、有効求人倍率が0.5前後で労働者にとって職業や事業所の選択の幅が狭いこの時期には、トライアル雇用は事業主にとって若年者の「選別」を強化することにつながる危険が高いのです。他方、この制度を利用する事業主は一定期間経過後に一切の法的義務を負わなくてもいいしくみとなっています(そのため、専ら助成金獲得を目的とした事業主が短期のアルバイトを「トライアル雇用」と称して申請を行う懸念もあります)。
また、こうした制度が広く実施されていくことで有期雇用・不安定雇用の採用形態の拡大を促進することも懸念されます。そもそもトライアル雇用は、雇用を量として増大させる対策ではなく、この時期の雇用対策として実施することに違和感があります。
職業経験がまったくないか少ない若年労働者が、自身の適性や事業所の労働環境などを確認することに重点を置くのであるなら、当該労働者が複数回トライアル雇用を体験でき、若年者の側が適職を選択できる制度とすべきです。

4)学生・生徒が、労働者保護法制を学ぶ機会を保障すること。
5)労基法をはじめとする労働者保護法制を、テレビ・ラジオなどマスメディアを活用し労働者・国民に周知すること。

いま、多くの若者がフリーターとなっています。フリーターになった理由を見てみると「自分に合う仕事を見つけるため」が38%、「自由な働き方をしたかったから」が30%となっており(注11)、自分に適する仕事を見いだせず、また確たる職業観も持てないままフリーターとなっている現状が見受けられます。また、フリーターの多くが不安定な雇用形態に加えて、ただ働きを強いられたり、休暇(年休)を与えられなかったり、若年者の労働法令等への無知に乗じた権利侵害が横行しています。
こうした中で、日本経団連は、都道府県の経営者協会とともにインターンシップの受け入れ企業を開拓する「インターンシップ普及促進事業」を全国規模で進めています。文部科学省の「高等学校インターンシップ事例集」は、インターンシップについて「生徒に望ましい勤労観や職業観を育成していく上で、また、実際の職場を経験することで職業に対する理解や学習意欲が高まること、さらに、生徒が教員や保護者以外の大人に接することによりコミュニケーション能力が向上するなど、極めて高い教育効果を持つものと期待されており、積極的に推進していく」と述べています。また、文部科学省の「教育改革プログラム」では、専門高校の生徒は全員、普通科・総合学科の生徒もできる限り多くの生徒がインターンシップを体験することを目標に掲げています。
働く意味や喜び、多種多様な職業についての知識、学生・生徒自身の職業への興味や適性の自覚を高めることははもとより重要です。同時に、人間らしく働くことを保障している労働法令の基礎知識などを初等教育から始まる各教育過程に応じて学ぶ労働教育が必要です。さらに、各学校に学生・生徒の職業適性に応じた職業斡旋を行なう専門職員を配置することも重要です。また、当面する緊急の対策としては、公共職業安定所が生徒に行う職業講話に労働法令等の基礎知識の解説を含めたり、進路指導の中で学生・生徒が労働法令等を学習する等、学生・生徒が労働者として社会参加するにあたり、働くことに関する基礎知識を学ぶ機会を保障することが求められます。
わずか「3日間程度の職場における実習」(インターシップ)ににみ過度の期待を寄せることはできません。

(注11)日本労働研究機構(JIL)による2001年2月の「若者のワークスタイル調査」(東京都内)によって明らかとなっています。

6)「指定校制」「1人1社制の廃止」は実情をふまえてた対応を再検討すること。

2002年3月の「高卒者の職業生活の移行に関する研究」最終報告は、指定校制、1人1社制、校内選考といった就職慣行について、「高校生の就職を取り巻く環境が大きく変化する中、これらの慣行がもたらす弊害も出てきている」とし、廃止の方向を示しています。
2002年3月末現在の高校の就職内定率は89.7%と初めて90%を割り、統計史上最低を記録しました。求人数が24万1千人と昨年同期を11.4%も下回っています。こうした厳しい状況のもとで、1人1社制の就職慣行のままでは面接さえ受けることのできない生徒もでてきています。こうした生徒にも面接の機会を保障するために、指定校制や1人1社制を廃止し求人を共有することはこの時期の有効な措置と一見映りますが、こうした慣行の廃止は、求人を量として増大させる対策ではなく、1人ひとりが応募できる事業所が増えるだけです。その結果として複数の採用内定をもらう学生・生徒が現われる一方で、これまで以上に未内定者をだすことになりかねず、教育現場の実情を十分にふまえた対応が必要です。

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第5章 緊急地域雇用創出特別基金事業にかかる緊急提言

政府は、1999年6月から「緊急地域雇用特別交付金」(旧交付金)事業を実施し、2002年4月にはこれを「緊急地域雇用創出特別交付金」(新交付金)事業として引き継いでいます。政府は、「第2の失対事業になる」として、公的責任による雇用創出に否定的な姿勢をとっていましたが、深刻化する一方の雇用・失業情勢への対応策とはいえ、交付金事業の意義は大きいものがあります。
今後は、事業の不十分さを是正しつつ、失業者に対する雇用の場の確保、さらには恒常的な雇用創出へとつなげていくための施策の充実が求められており、緊急に以下のとおり提言します。

  • 1)事業の入札や委託契約にあたっては、指名入札、プロポーザル方式や地場賃金の水準確保を考慮した最低入札価格を設定すること。
  • 2)直接実施事業では、新規雇用した労働者の就業期間中に一定の求職活動や再就職に向けた能力開発受講を保障すること。
  • 3)直接実施事業の対象を、地域住民の福祉向上のために実施する地方自治体の事業にも拡大するとともに、地方自治体の事業が採算ベースに乗るよう支援するとともに、当該事業での雇用拡大につなげること。
  • 4)事業の入札時期や工期、入札結果について公共職業安定所へ連絡することにより、受託事業所の安定所への求人票の提出を促進し、これによって求職者の雇用につなげること。

1999年6月から3か年度にわたって実施されてきた「緊急地域雇用特別基金事業(以下、旧基金事業)に続いて新たに「緊急地域雇用創出特別基金事業」(以下、新基金事業)が2004年度末まで実施されることになりました。
新基金事業では、事業費に占める人件費割合を8割以上、事業に従事する全労働者数の4分の3以上が失業者の新規雇用とされており、失業者の就労の場の確保・生活保障という観点で事業効率が高いものとなっています。
コスト削減・収益率向上のため企業で「過剰雇用の解消」が課題となり、大量の人員整理が当然のごとく横行し雇用拡大が進まない今日の情勢のもとで、大型公共工事より地域に密着した生活関連の事業の雇用創出効果が高いことが指摘されており(注12)、こうした分野での新基金事業は一時的な失業者の就労を公的責任で確保する施策として有効性が認められます。しかし、雇用・就業期間が原則6か月未満とされていることから、新基金事業の多くが2〜3か月の雇用・就業となっており、さらに、事業の委託契約が競争入札で行われるため、就業する労働者の賃金が低水準となることが報告されています。
また、新基金事業が失業者の就業を目的とした事業であることから、そこを単に一時的な就業の場とするのみではなく、新基金事業実施要領でも「事業に新規雇用した労働者が当該事業における雇用・就業期間終了後において、その事業での経験を生かして安定した雇用につながるよう留意するものとする」と述べているように、そこでの就業をとおして就職への展望が開けるものとなるよう改善が急務です。

(注12)自治体問題研究所編集部の「社会保障の経済効果は公共事業より大きい」(1998年4月)は、「公共事業は、社会保障部門に比べ原材料費や中間サービス購入が大きいのに対して、社会保障は、相対的に人件費と中間投入がほとんどのため 第一次波及効果は公共事業が大きいが、二次以降になると一次で生じた労働者の所得−消費によって需要増、生産増へ結びつき、最終波及額は同じ額の公的資金投入では公共事業より大きくなっていく」と指摘しています。

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補論〜政府・財界はどのような労働市場をつくろうとしているのか

全労働が昨年11月に発表した「今、求められる雇用対策の提言」は、今日の深刻な雇用失業情勢の実態とその原因を明らかにしてきました。
本稿は、雇用分野の「規制改革」を分析し、いくつかの提言を行っていますが、その背景にある動きとして、政府・財界がねらう労働市場の変質の実態とその危険性を以下に明らかにすることにします。

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1、「競争力強化」を最優先した労働市場の変質

バブル崩壊後、90年代の半ばに入って政府は、日本経済の閉塞状況からの脱出とグローバルな大競争時代に対応するために、経済や産業の「高コスト体質の是正」と「国際競争力の維持・強化」をかかげました。これらを実現するために、市場原理の徹底と規制緩和の断行が叫ばれ、雇用の弾力化や国内市場の開放が急速にすすめられました。
個別企業では、雇用の弾力化の具体策として、終身雇用・年功賃金の見直し、雇用の三層構造(長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型)への再編がすすめられ、後述するように、正規従業員のパート・派遣・契約社員などの不安定雇用への代替化の促進と成果主義賃金の導入がすすみました。また、安価な労働力を求めて、生産拠点の海外への移転も加速しました。
この間、規制緩和を口実に労働基準法(女子保護規定の撤廃、裁量労働制・変形労働時間制の拡大、3年有期労働契約の新設)や、労働者派遣法(適用対象業務の拡大等)、職業安定法(有料職業紹介対象職種の拡大等)の見直し・「改正」等が次々と実行に移され、雇用の弾力化や労働条件の改変を法制面から促進するものとなりました。
また、90年代終わりからは、「産業競争力再生」のために、「三つの過剰」(過剰設備、過剰雇用、過剰債務)の同時解消が喫緊の課題とされ、企業組織の再編、リストラ・人減らしが劇的に進行しました。企業による合理化の手法として、従来からの解雇・雇い止め、希望退職募集等による人員削減に加えて、合併、営業譲渡(売却)、会社分割などの企業再編によるリストラも急激に増加しました。
この背景には、97年12月の純粋持株会社の解禁に始まり、営業譲渡や分社化の手続きに関する産業活力再生法(99年)、経営不振に陥った企業が破産前に再生手続きを行うことが可能となる民事再生法(同年)、会社分割に関する商法改正(01年)、会社分割に伴う労働者の保護に関する労働契約承継法(01年)などの法整備が矢継ぎ早にすすめられ、法制面から「三つの過剰」の解消を後押しする措置がとられたことがあげられます。
このように、90年代半ばから「低コスト構造」と「効率化」を実現するための構造改革が進行し、政府がこれを法制面や財政面から直接・間接的に支援するという構図がつくられてきました。そこには、「競争社会」の構築こそが経済の効率化や企業競争力の強化につながるという考え方が土台にすえられています。働くものの雇用も労働条件も企業の競争力強化のための一つのファクターに過ぎないということなのでしょう。
しかし、これらのことは、労働市場の不安定化、高失業化をもたらし、日本社会にさまざまな歪みを生じさせつつあります。

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2、急速にすすむ失業の深刻な実態

完全失業率は、今から5年前の97年までは、年平均2%台から3%前半までで推移してきました。しかし、98年に一挙に4%台(4.1%)に乗ると、99年・00年が4.7%となり、01年には、ついに5%(5.0%、340万人)を突破し、02年に入っても5%台で推移しており、98年以降失業率の悪化が急速にすすみました。
98年を境にしたこのような急激な変化は、統計史上かってなかったことであり、なかでも、15歳から24歳の若者の失業率が突出し、01年で9.6%(男性は10.4%)となっています。次代を担う若者の10人に1人が失業しているという事実は、看過できない事態と言わなければなりません。
また、世帯主の失業率は、3年連続で3%を超え、01年は3.5%となっています。離職理由では、非自発的な離職・事業主の都合による離職が100万人を超え、失業者全体の31%を占めるなど事態の深刻さを表しています。
労働力人口は、95年6,666万人、98年6,793万人、01年6,752万人で、98年を境に減少傾向にあります。就業者数も、97年の6,557万人から01年の6,412万人に減少(△145万人)し、完全失業者は同期間に230万人から340万人に増加(+110万人)しました。
また、非労働力人口は、97年3,863万人から、01年には4,125万人に増加(+262万人)しました。このうち568万人(01年8月時点)が「就業を希望しているものの、求職活動をしていない者」(02年1〜3月平均では、533万人)となっており、完全失業者と合わせれば、900万人前後が失業又は失業に近い状態にあることを示しており、今や日本は高失業時代に入ったと言わざるをえません。

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3、産業空洞化が及ぼす雇用問題への深刻な影響

こうした深刻な雇用失業情勢の背景には、長期化する消費不況があることは明らかですが、国内企業が生産拠点を海外に移転することによって生じる産業空洞化の問題も見過ごすことはできません。経済産業省の海外事業活動基本調査によれば、製造業全体の海外生産比率は、85年度から00年度にかけて、3.0%から13.4%に上昇し、01年度にはさらに14.3%に上昇すると予測されています。海外に進出している企業の海外生産比率は、同期間に8.7%から32.0%に上昇し、01年度には34.3%まで上昇すると予測されています。
国内の失業率が悪化の一途をたどっている中で、現地法人の従業員数は、00年度で345万人で前年度比9.2%増となっており、とりわけ労働コストの安価なアジアへの展開が急速な伸びを示しています。さらに、この間、逆輸入が日本の総輸入額に占める割合も上昇傾向を示しており、99年度には14.8%を占めるに至っています。
富士総合研究所が4月にまとめた研究リポート「産業の空洞化をどう考えるか」によると、このまま輸入急増が00年から05年まで続いた場合、国内生産に2.4%(12兆3千億円)、国内雇用に2.7%(183万人)のマイナス圧力がかかるとの試算を示し、「過去にみられなかったインパクト(衝撃)が生じる可能性は否定できない」と指摘しています。
産業空洞化は、国内雇用環境に悪影響を及ぼすだけでなく、輸出が国際競争力の低下を伴って構造的に伸び悩む一方、輸入が国内生産を代替するという構図が定着することによって、日本の経済力の相対的な低下をもたらすことが指摘されています。
アジアなどの労働コストが安い国への生産工程の移転によって、これまで地方に工場を立地していた製造業が撤退し、雇用問題をはじめ地域に深刻な打撃を与えています。
雇用構造の面では、単純な生産工程が海外に移転される一方、本社機能や研究開発機能などが国内に残され、生産労働者に対する需要が減少し、技術職や管理職等に対する需要が増加する傾向が強まっています。このような結果、東京などの高度な機能の集積地と地方の間で、雇用構造の偏りや所得較差がますます拡大していく可能性があります。

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4、加速する雇用の流動化・不安定化

雇用の中身はどうでしょうか。総務省の労働力調査特別調査報告によれば、95年の雇用者(役員を除く)は4,780人であり、そのうち「正規の職員・従業員」が3,779万人でした。また、「非正規の職員・従業員」は1,001万人で、雇用者に占める比率は21.0%でした。(内訳は、「パート」が563万人、「アルバイト」が262万人、「嘱託・その他」が176万人)。
6年後の01年8月の調査では、雇用者(役員を除く)は、4,999万人で219万人増加しましたが、「正規の職員・従業員」は逆に139万人減少して3,640万人となり、「非正規の職員・従業員」は、1,359万人で358万人増加し、雇用者に占める比率は、27.2%になっています(内訳は、「パート」が769万人、「アルバイト」が382万人、「嘱託・その他」が176万人)。
これらの数字は、正規労働者から非正規労働者への代替化、不安定雇用の増大が急速にすすんでいることを示しています。
また、96年・99年の労働者派遣法の「改正」(規制緩和)によって、派遣労働者数は、95年の61.2万人から、00年には138.6万人となり、2.26倍に伸びています。さらに、近年社会問題となっている、いわゆるフリーター(15歳〜34歳で、在学中の男性・女性と配偶者のいる女性を除く)は、95年頃から急増し、95年の242万人から01年には、409万人に膨れ上がっています。

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5、顕在化してきた社会の様々な「歪み」

企業倒産は、倒産数(負債総額1千万円以上)で01年度が2万件を突破(20,052件)し、84年に次ぐ戦後2番目を記録しました。また、負債総額では、00年度に26兆円の過去最高(84年の4倍強)を記録し、01年度も16兆に減じたものの戦後2番目の規模(帝国データバンク)となるなど、深刻な事態が続いています。
賃金不払い件数(新規把握分)は、94年に7年ぶりに1万件台に乗り、それ以降毎年増加し、とくに98年以降急増して00年には、ついに2万件(20,225件)を突破、過去最高を記録しました。
自殺者は、98年を境に急増して3万人を突破し、人口10万人比率の25.2は、米国の2倍、英国の3倍以上となっています。中でも、経済・生活問題を動機とする自殺者は、98年以降飛躍的に増大しました。これとも関連する自己破産申請件数(最高裁)は、98年に年間10万件を突破し、01年には160,419件となっており、5年前(96年)の56,494件と比較すると実に2.8倍に急増しています。また、厚生労働省援護局地域福祉課の調査結果によると、ホームレスも地方都市を含めて年々増加し、不況による雇用危機の中で99年に2万人を突破し、年間2,000人が新たなホームレス(01年9月時点で24,090人)になっています。さらに、重要犯罪総数(殺人、強盗、放火、強姦、略取誘拐などの認知件数)が99年以降急増し、01年に98年の1.7倍となる21,530件を記録したことも、長引く不況や失業の増加との関連性を否定することはできません。
このように、失業や企業倒産の増大が日本社会にさまざまな歪みを生み、これが90年代の終わりになって顕在化してきました。

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6、「構造改革」が加速させる雇用・失業問題

昨年4月に登場した小泉内閣は、「聖域なき構造改革」の推進をかかげ、市場原理、自己責任をより徹底する政策を相次いで打ち出しましたが、すでに進行しつつある雇用危機や経済・社会の歪みを改善するものではなく、失業が失業を生む負の連鎖を一層加速するものとなっています。
小泉内閣が昨年6月26日に閣議決定した「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」(いわゆる「骨太方針」)は、日本経済の再生にとって、「ヒトと資本の移動」が必要であり、「労働市場の構造改革」が不可欠であるとしました。
そして、「構造改革に伴う雇用への影響を最小限にするためにも」「成長分野の拡大を促進」し、「そうした分野への円滑な労働移動の促進」「労働力の再配置」が円滑に行われるための環境整備を強調しました。そこで打ち出したのが、「[1]自発的な能力開発の支援、[2]派遣、有期労働、裁量労働、フレックス就業等の多様な就労形態を選択することが可能になるような制度改革、[3]キャリア・カウンセリングの充実と職業訓練の円滑化、[4]性別や年齢にかかわらず働ける環境の整備」でした。
しかし、これらの施策は、労働力の流動化をより促進し、企業にとって使い勝手のよい労働力を市場から調達しやすい「環境の整備」に過ぎないことは明らかです。
小泉内閣が発足して以降、不良債権処理に伴う建設、金融、流通関係などの中堅・大企業の倒産がすすみ、加えて、IT関連の電機・通信などの大企業が相次いでリストラ計画を発表し、予定数を超える希望退職者が応募するなど、昨年7月以降の雇用者数は、とくに製造業の企業規模500人以上のところで大きく減少しました。
「骨太方針」で示された「5年間で530万人の雇用機会の創出」も未だにその兆しさえ見えません。この雇用創出プランの起案者である島田晴雄慶大教授は、サービス部門の雇用、とりわけ「個人向け・家庭向けサービス」で195万人の雇用増が期待されるとしましたが、消費不況が続くもとでは、そのようなサービスに対する需要が起こるとは到底考えられません。

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7、労働分野のさらなる「規制改革」の推進

こうした中で、政府は3月29日に「規制改革推進3か年計画(改定)」を閣議決定しました。その内容は、[1]円滑な労働移動を可能とする規制改革、[2]就労形態の多様化を可能とする規制改革、[3]新しい労働者像に応じた制度改革が柱とされ、求職者からの手数料徴収の規制緩和、求人者からの手数料の上限の撤廃などの職業紹介の規制緩和、派遣労働者、有期労働契約、裁量労働制の拡大、解雇ルールの法制化、労働時間規制の適用除外の拡大などを早期に実施または検討することとなっています。
いずれも労働力の供給サイド(労働者)のニーズにもとづいているかのように扱われていますが、実際はそうではなく、例えば有期雇用契約期間の緩和について、企業の8割が「特に必要がない」とし、現行制度が新規雇用などの阻害要因になっているかどうかの質問にも、92%が「なっていない」と答えている(厚生労働省「13年度有期労働契約に関する調査」)ように、需要側のニーズでもなく、人材関連事業サイドの要望を反映したものと考えざるを得ません。このことは、今回の規制改革を主導している政府の規制改革会議の15人のメンバーをみても、労働者代表が一人も加えられていないばかりか、直接の利害関係者である人材関連企業の代表が入っている異常な構成からも窺い知ることができます。

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8、「構造改革」が労働・雇用分野に及ぼすもの

政府がめざす「労働市場の構造改革」は、日本再生の不可欠の課題として位置付けられ、直接的には、不良債権処理などによって生み出された失業者を新規成長分野に移動、吸収させることを目的としていますが、同時に、長期雇用システムを解体させ、雇用の弾力化と流動化を徹底することも重要な目的であることは明らかです。
雇用の弾力化によって、高水準の失業者がつくり出され、それが労働条件・労働基準の引き下げを生んでいます。また、企業経営者の労働者保護に関する倫理観を低下させ、サービス残業が後をたたない状況に示されるように、労働関係法令の違反や脱法行為がまかり通る事態さえ招いています。企業の中では、「無理が通れば道理が引っ込む無法地帯」のような様相が一般化しており、労働者に対する適正な労働量を設定するのではなく、「働けるだけ働いてもらう」という考え方が当たり前となっています。
「構造改革」が雇用の弾力化によってめざしているのは、自己責任で企業が求める能力・技術を身につけることを強要された労働者を「必要な時に、必要なだけ確保できる」労働力調達システムの確立であり、究極のコスト削減と競争力強化を実現することに他なりません。部品や原材料のカンバン方式は、余計な在庫を持たないことで競争力を高めましたが、そのカンバン方式を人間労働に持ち込もうとしているのです。
労働者は、雇用不安を常に抱えながら、劣悪な労働条件のもとでの際限のない競争を強いられることになります。加えて指摘しなければならないのは、こうした政府・財界のめざす労働市場の構造改革は、労働移動それ自体をビジネスとする人材関連事業者にさらなるビジネスチャンスを提供することにもつながります。「民間にできることは民間に」を旗印にする構造改革路線のもう一つの目的が見えてきます。

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9、労働を大切にする社会こそ未来を切り開く

以上見てきたように、労働市場の「構造改革」は、結局のところ、労働者・国民の「働く自由」を奪い、「働かせる自由」を際限なく拡大するものでしかないことが明らかとなりました。労働の社会的価値や役割が軽視され、「細切れ・使い捨て労働」が当たり前になれば、労働者が潜在的にもつ知的能力、技術力など、社会にとって貴重な資源が十分に引き出され、活かされないままに摩耗してしまうことになりかねません。昨今、「ものづくりの危機」が各方面から指摘されていますが、労働力の流動化がすすめば、熟練や技能などの伝承や人材養成が困難になり、技術進歩や経済成長に重大な支障をきたすことは明らかです。
企業は、人件費コストの削減によって短期の利益をあげることができても、長い目で見た場合に、競争力をむしろ低下させることになるでしょう。
また、失業者の増大・滞留は、直接的には失業給付等の増大を伴いますが、膨大な無年金者や健康保険の未加入者をつくり、さまざまな社会的諸問題を引き起こす誘因を拡大するなど、社会的コストを増大させる結果につながる危険性をもっています。
こうした中で、雇用を確保し安定させることは、最優先の最重要の課題だと言わなければなりません。また、労働法制の規制改革ではなく、国際労働基準をもとにした働くルールの確立こそが急務といえます。
グローバル化の進展に対して、世界の人々の間で市場原理一辺倒に懐疑的な見方が広がっており、国家による適切な統治の必要性が見直されはじめています。
ILO総会は、94年のアンセンヌ事務局長の「報告書」で「最低限の人間的基準のない競争はあり得ない」としました。また、99年の現ソマヴィア事務局長の「報告書」では、「ディーセント・ワーク」を提起し、すべての人の生活の基本は「仕事」であり、「安心して働ける仕事」を各国の経済社会政策の根幹にすえることの重要性を説きました。
わが国の労働政策の基本的な方向性の見直しが今切実に求められています。

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