民間開放・地域主権 −労働行政の民間開放、地域主権など

2002年 2月
規制改革の推進に関する第一次答申(総合規制改革会議)の分析について
全労働省労働組合 雇用政策プロジェクト・労基法プロジェクト

1 第一次答申は労働者の実態をどう描いているか

内閣府の総合規制改革会議は、2001年12月11日に「規制改革の推進に関する第1次答申」(以下、第一次答申)をとりまとめ、その中で、人材(労働)分野の規制改革をかかげて、現行の労働法制、雇用法制の根幹を揺るがす「改革」を求めている。
ここでまず考察すべきは、第一次答申が雇用・労働情勢の動向とその中にある労働者(求職者を含む)の実態をどのようにとらえているかという点である。前提となる情勢、いわば立法事実(法律を成立させ、かつその存続を支える事実)を誤って認識しているならば、そこから導かれる改革方向(法令改正等の方向)も自ずから誤ったものとならざるを得ないからである。

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1)雇用・労働情勢の動向をどう見るか

第1次答申は、今後の雇用情勢を次のように理解する。

  • 個別企業、産業の栄枯盛衰のテンポは速くなる。結果として、個々の企業あるいは産業が労働者に対して保障できる雇用期間は短くならざるを得ない。
  • 個人は雇用を守れなくなった企業から、人材を必要とし、雇用を増やそうとする企業へ移動することで長い職業人生を全うしなければならない。
  • 若年人口の減少するこれからは、主として中高年労働者の企業間・産業間移動を通じてこれを実現しなければならなくなる。
  • 就職から定年退職まで一企業で雇用を保障するのではなく、労働市場を通じて雇用を保障していく体制への移行が必要である。

要するに、これからは個別企業の「栄枯盛衰」の急テンポ化が避けられず、雇用を一企業で保障することは困難であるから、雇用の流動(不安定)化を全面的にすすめて、労働者に頻繁な離・転職を求めながら「働く機会」を与えていこうと言いたいようである。
しかし、この論法は「目的」と「手段」を逆転させて述べていないだろうか。個別企業の「栄枯盛衰」の急テンポ化が避けられないのではなく、むしろ、個別企業が永く生き延びるために労働者を必要に応じて自由に入れ替えることを望んでいるのであり、こうした雇用の不安定化(継ぎはぎの雇用)、多様化(使い勝手のよい雇用)を進めることを望んでいる、これが本音であろう。
後述するとおり、第一次答申では、有期雇用契約期間の上限緩和(3年5年)等を求めているが、その前提として多くの企業が3年から5年の短いスパンで設立、解散していく状況が訪れると考えるいるわけでもないだろう。第一次答申が示す情勢認識は、専ら労働力のジャストインタイム化をねらう企業、あるいはこれに介在して利潤を得ようとする人材ビジネスのニーズを覆い隠す「詭弁」であって、改革方向をミスリードさせるものである。

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2)今後の労働者像をどうみるか

第1次答申は、現在そして今後の労働者像を次のように理解する。

  • これまでの典型的な労働者像は、雇主の指揮命令に従って、定時に始め定時に終わるようなタイプの仕事をする。
  • 産業高度化に伴い、高度の専門能力を有するホワイトカラー層なども増えており、労働条件の個別化も進んできた。
  • 就労意識の多様化から、生活と仕事のバランスを考えて、パートタイム労働や派遣労働などを選択する個人も増えている。
  • こうした新しいタイプの労働者像に対しては、従来の規制は必ずしも適切とは言えなくなっている。これは企業にとって雇用しにくいというだけでなく、多様な形で働きたい と考えている個人にとっての選択肢を制約するという点でも問題となる。

要するに、現行の時間法制、契約法制による規制は企業にとってじゃまなだけでなく、労働者、特にホワイトカラーにとっても働き方の選択肢をせばめ、働きにくい環境を生み出しているという指摘である。
しかし、今日、失業者が増大する一方で、ホワイトカラー層(在職者)の長時間労働はいっこうに改善せず、多くのホワイトカラーが過労死、過労自殺の不安のただ中にいる。第一次答申は、高い専門能力をもち使用者と対等な交渉力を持つ労働者像を印象づけたいようであるが、多くのホワイトカラーが、「リストラ」「成果主義」をかざした労務管理の下で正当な権利すら主張できない状況に置かれ、要らなくなればいとも簡単にリストラ(使い捨て)されていく現実の前に、何らの説得力を持ち得ないだろう。
後述するとおり、第一次答申では、従来の規制は適切でないとし、裁量労働制の拡大やホワイトカラーの時間規制の適用除外などを求めているが、その一方でホワイトカラー層に蔓延している長時間労働を如何に適切に規制するかといった視点は皆無である。専ら企業(使用者)の立場をおもんぱかった「規制はずし」を、無理矢理に労働者のニーズと位置づけることに腐心した虚構の情勢認識は、改革方向をミスリードすることになる。

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2 「規制改革」を叫びつづける財界のねらいはどこにあるのか

このように情勢認識を偽ってまで「規制改革」を叫び続けるねらいはどこにあるのだろうか。第一次答申は、前述の「情勢認識」に基づいて次の二点にわたって「改革方向」を示している。

第一に、「円滑に人材の移動が行われるための労働市場システムの整備」を求めている。具体的には、離・転職が頻繁に繰り返されることを前提に、失業した者にも「必要に応じて能力開発の援助があり、職業復帰がしやすい制度作り」が必要であるとする。
換言すれば、企業が必要なときに必要な専門能力を持った即戦力(労働者)を雇い入れ、不要となった場合には速やかに排除できるシステムの整備にほかならない。これによって、企業は雇い入れた労働者の能力開発をはかる負担から解放される上に、雇い入れに際して人材派遣業、アウトソーシング業等を介在させることで「使用者責任」を免れることができる。つまり、「労働者の使い捨て」を何らの障害なく行いたいという企業のニーズの実現をねらったものと言える。他方、労働者は自前で能力開発が求められるとともに(こうした就職先のあてのない能力開発が非効率であることは明らか)、離・転職を通じて、賃金、労働条件等の切り下げを甘受せざるを得ない立場に置かれるのである。

第二は、「有期労働契約、派遣労働などの雇用の選択肢」の更なる拡充を求めている。そしてこれらが女性の社会進出の円滑化にも貢献するとする。また、将来にむけては「高度な専門能力で仕事をするような新たな労働者像に対応した制度作りや解雇基準の明示化」を求めている。
しかしながら、「雇用の選択肢の拡充」とは、前述のとおり専ら企業のニーズであり、それゆえに企業の側の望む選択肢を拡大することにほかならない。しかも新たに拡大する選択肢はいずれも不安定雇用であり、雇用のいっそうの不安定化と低賃金構造への再編(離・転職や契約更新を通じて、判例上確立した労働条件の不利益変更の法理等を免れて賃金を劇的に切り下げることも可能)を後押しすることになる。また、こうした事態を「女性の社会進出に貢献する」ものと位置づけていることは「女性労働者=不安定雇用」という「従来の図式」を無批判に受け入れているものと推測される。さらに「新たな労働者像」という虚構まで持ち出す議論は「規制はずし」の「口実」にも値しない。
また、「規制改革」の真のねらいを探るにあたっては、総合規制改革会議のメンバー構成にも着目する必要がある。
2001年4月から内閣府に設置されている総合規制改革会議は、学者・研究者(5名)と企業経営者(10名)からなるが、その多くは新自由主義の立場に立ち、あるいはその立場から主張される「規制はずし」の恩恵を受ける者によって構成されている。しかも、同会議の人材WG(ワーキンググループ)には、派遣会社の代表者や派遣会社等を傘下に持つ企業グループの代表者、すなわち直接の利害関係者を入れ、これに人材(労働)分野の規制緩和を声高に唱えてき学者・研究者を加えた構成となっており、まさに異様である。また、ここに労働者の代表が全く含まれていないことは公正さを著しく欠いたものである。
第一次答申には、こうしたメンバーの「利益」を露骨に追求したと見ざるを得ない部分が少なくない。労働者の権利擁護の見地から設けられた人材ビジネス(労働者派遣事業、職業紹介事業、アウトソーシング業等)への規制を取り払うこと(後記3-(2)-1),2),4),6),7)、(5)-4))、公的な助成金制度の運用主体となること(後記3-(2)-5))、雇用の不安定化(労働者の離・転職が頻繁化)を一層すすめて彼らが利潤を得る機会(チャンス)は広げること(後記3-(5)-1),2),3)、(6))などをねらっているのである。また、人材派遣業、アウトソーシング業は、労働力を安く買いそして売ることで利潤を得る。こうした「機能」は労働力を安く買う点で財界全体の「利益」と全く一致する。近時の規制改革をめぐる論議でも人材ビジネスのニーズが前面に出ているのはそのためである。

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3 第一次答申が求める労働法制の見直しとその分析

第一次答申は、次のような「具体的施策」を求めている。これらの多くは、労働者・労働組合の積年の運動によって築かれてきた貴重な到達点であり、雇用・労働法制の根幹を揺り動かすものである。以下、主な項目ごとにその問題点とあるべき方向を示すこととする。

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(1) 能力開発プログラムの充実

  • 教育訓練給付制度等の在り方についてさらに検討する。
  • キャリア・カウンセリングや職業能力評価制度の拡充、資金の貸付度等の活用の促進等、個人の自発的な能力開発に対する支援を強化すべきである。

教育訓練給付制度は、制度創設当初から趣味・娯楽的な内容や一般教養の域を出ない内容の講座が「教育訓練」として指定されているなど、再就職のための職業能力の開発という目的にてらして、その在り方を疑問視する声が聞かれていた。しかも、同制度が被保険者期間が5年以上を要件として在職者も給付の対象としていたことから、必ずしも職業能力の向上を目的とせず、専ら趣味・娯楽などを目的した者が少なからず給付を受けていることは想像に難くないのであり、前述の目的にてらした効果を厳しくチェックし、制度内容を見直すことが急務である。
その際、現行制度が「講座」の指定を厚生労働大臣が行うとしている枠組みをも見直すべきである。能力開発の内容と再就職の促進との関連は、地域の産業構造や労働市場の実情(求人・求職の実態等)によってかなりの違いがある。このため教育訓練として指定する「講座」は、厚生労働大臣ではなく、都道府県労働局長が管内の産業構造や公共職業安定所で分析するが地域の求人・求職のバランスシートなどに基づいて、施設や講座の指定を行うことを可能とすべきである。具体的には、厚生労働大臣は施設や講座の指定について一定の基準と手続きを示し、これに基づき都道府県労働局長が管内の実情を十分に考慮した指定ができるしくみが適当である。
なお、再就職に結びつける能力開発の在り方を考えるにあたって、労働者が「多能工化」している現在、採用後に企業が求める複数の能力開発を援助する制度を設けることによって、いわゆる未経験者の採用を積極的に促していくことも重要である。採用後に行う能力開発は当該企業が必要とするより具体的な職業能力を身につけるものであるから実践的な内容となり、採用された労働者の定着促進にも資する。まさに効果的な国の援助が可能となる。
ところで、第一次答申は「個人の自発的な能力開発に対する支援を強化すべき」ことを強調し、これによって「円滑な労働移動を可能とする」システムをめざすとしている。
ここには、雇用の不安定化(派遣労働者、有期契約労働者などの増大)をはかりながら、労働者の自己責任に基づく能力開発を求めていくことで、企業が必要とする人材=即戦力をその都度、労働市場から調達しようというねらいを見て取ることができる。しかしながら、一定の「即戦力」が労働市場にストックされていると考えること自体が現実離れしているし、戦後のわが国の企業の発展を支えたものの一つが優れた企業内能力開発のシステムであったことを見逃してはならない。
労働者の能力開発は、再就職に結びつけるためのそれに止まらず、企業が雇用する労働者に対して行う、人事制度等とリンクした実践的・効果的な能力開発を重視すべきであり、そのノウハウが失われていくことは何としても避けなければならない。国の援助もこうした観点から行うべきであって、「個人の自発的な能力開発」を過大評価することはできない。

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(2) 職業紹介規制の抜本緩和

1)求職者からの手数料規制緩和のための省令改正
  • 求職者からの手数料徴収を可能な限り認める方向で省令改正を行うべきである。
  • 例えば、一定以上の収入を得られる経営管理者層・プロフェッショナル等の求職者から徴収する手数料についてはその規制を撤廃すべきである。
2)求人企業から徴収する手数料の上限に係る大臣基準の見直し
  • 求人企業から徴収する手数料の上限に係る現行の大臣基準の廃止をふくめ検討し、措置すべきである。
  • トライアル雇用紹介(仮称)が実施可能であること及びその方法について明確化を図るべきである。
3)無料職業紹介事業に関する規制緩和
  • 許可制を届出制に改め行為規制(事後規制)に徹することも視野に入れて検討を行い、可及的速やかに法改正を行うべきである。
  • 地方公共団体が必要に応じて行う無料職業紹介については、より円滑に行うことができるよう更なる支援の強化を図るべきである。
4)「付帯業務」の定義の明確化
  • 職業紹介事業者が許可事業所を持たない地方においてもUターンの求人開拓等を円滑に行うことができるよう「付帯業務」の定義を明確化すべきである。
5)公共職業安定所紹介要件の緩和
  • 雇用関係助成金について、民間職業紹介事業者の紹介による雇い入れも支援対象とする措置が講じられてきたことについて周知徹底を図るべきである。
  • 再就職手当の一部及び常用就職支度金についても、公共職業安定所の紹介が支給要件とされていることを緩和することの可能性も含め、その在り方について検討すべきである。
6)職業紹介責任者に係る規制緩和
  • 職業紹介責任者の設置要件(人数要件)や講習制度を見直し、また変更手続きの簡素化を図るべきである。
7)国外にわたる職業紹介に係る規制緩和
  • 相手先国の関係法令及び日本語訳の収集手続きを簡素化すべきである。

求職者からの手数料の徴収については、ILO181号条約が「労働者に対しいかなる手数料又は経費も徴収してはならない」と定めている。ところが、第一次答申は同条約に一定の例外規定があることを利用して求職者からの手数料徴収を拡大しようとしているのである。求職者の多くは失業者であり、生活の糧(賃金)を得るために一日も早く職に就かなければならない。また、高失業率の下で、採用の可否は求人企業の全くの裁量にまかされていると言っても過言でなく、まして労働組合の支援とも無縁な多くの失業者はもっとも弱い立場に置かれている。この弱みにつけ込んで不当な手数料を取る業者が現れた歴史的な経過がある。これは他人の就労に介在して利益を得る「中間搾取」であり、労働者の権利・利益を著しく害することから法令はこれを原則として禁止してきたのである。今日、こうした原則を放棄しなければならない事情は見あたらない。
求人企業から徴収する手数料については、厚生労働大臣が上限を示すこととなっており、現在、年収の2分の1とされている。第一次答申は「上限を規制すべき積極的理由はない」として上限の廃止を含めた検討を行い実施することを求めている。しかしながら、求人企業が支払うこうした採用コスト(手数料)は、結局のところ賃金を抑制するなどによって労働者に転嫁されるのであるから、前述した求職者の劣位な立場にてらして、ここには一定の制限があってしかるべきである。
ところで、前述のように買い手(求人企業)と売り手(求職者・労働者)が対等な関係にない労働市場での「契約」を媒介する民営職業紹介事業には、元来、求職者の権利・利益を守るという強い公共性が求められてきた(例えば、1)求職者に「適格紹介の原則」を貫くこと、A求職者に「公平性の原則」を貫くこと(求職者を選別してはならない)、2)労使に対して中立であること、C職業紹介の権利性にてらして求職者に無料であること(所得の高い者に有利に、低い者に不利になってはならない)、3)労働条件を適切に明示すること)。
ところが、第一次答申は、民間職業紹介事業者に対して、これまで求職者の権利・利益擁護の立場から課せられた諸々の責務を免れさせるよう求めている。これにより今後の事業展開をいっそう容易にしていこうというねらいが見て取れる。こうした「緩和策」は事業の公共性を顧みない無責任な民間事業者の参入を許すおそれがある。第一次答申の立場では、おそらく悪質な事業者は競争によって淘汰されると主張するのであろうが、今日でも外国人労働者などの就労に介在するブローカーなどは淘汰されるどころか、いっこうに後を絶ち得ないでいるのであり(こうしたケースの多くが賃金不払いなど重大な権利侵害を引き起こしている)、今日においても、悪質な事業者の参入を許す土壌がわが国の労働市場にはあることを見ておかなければならないだろう。
他方、国の職業紹介事業は、最も重要な雇用対策の一つであるが、1)積極的な事業所訪問を通じた事業所・求人情報の組織的な蓄積、A高い専門性に裏打ちされた十分な職業相談、2)求職者の適性や労働市場の現状等をふまえた能力開発、3)求職者の立場に応じた就職支援策、4)総合的雇用情報システムの改善、5)求職活動を支える雇用保険制度の改善などと一体となった「公的職業紹介」の充実をはかることが急務である(注1参照)。第一次答申はこうした方向の「改革」にはほとんど無関心であり、労働者の権利保障よりも専ら民間事業者の利益拡大を念頭に置いた検討結果と見ることができる。

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(3) 労働者募集に係る規制緩和

  • 委託募集の許可制の在り方について検討を行うべきである。

労働者の募集は、1)文書による募集、2)直接募集(募集主が自ら行う又は被用者をして行わせる募集)、3)委託募集(募集主が自己の被用者以外の者をして行わせる募集)の三種類がある。文書による募集は記載された内容(職務内容、労働条件など)を求職者(労働者)がよく検討し、応募の可否について主体的に判断できる場合が多いが(もっとも、文書に記載された内容が誇大であったり、「委細面談」など不十分なために、労働者が被害を被るケースは少なくない)、他方、委託募集の場合には、とかく労働者の無知や苦しい立場に乗じて、労働条件等に明確を欠ききわめて不利な労働契約を締結させられるなどの弊害があった。特に、募集行為を業とする者が、報奨金を目当てに無責任な募集を行い、労働者の権利・利益の侵害が著しかった歴史的事実がある。
今日、悪質なキャッチセールスや訪問販売などの被害が後を絶たない現状がある。残念なことであるが、契約内容等をあいまいにしたまま言葉巧みに契約を迫る「手法」がまかり通ってしまう「土壌」があるということだろう。しかも、その契約が雇用契約である場合には、その被害は甚大なものとなることから、委託募集に関わろうとする悪質業者を排除するシステムが必要となるのである。従って、現行規制の「緩和策」の検討には相当に慎重な姿勢で臨むべきである。
他方、求人条件と採用後の労働条件の相違が原因となり、再び離職(自己退職)を招くことが少なくないことから、求人広告等への規制と労働条件の明示義務履行にむけた指導の強化が急務であり、直ちに必要な措置(法改正を含む)を検討すべきである(注1参照)。

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(4) 募集採用における制限の緩和・差別撤廃

  • 改正雇用対策法に基づく「指針」で年齢上限の設定を認めている例外規定の妥当性について検討すべきである。中長期的には、年齢制限そのものの禁止についても検討すべきである。
  • 労働者派遣の際の「年齢及び性別の通知義務」を特に必要と考えられる場合にのみとする方向で検討すべきである。
  • 募集・採用差別をより広く制限・禁止する方向で検討を開始すべきである。

近い将来、労働力人口の約4人に1人が55歳以上になる超高齢化社会の到来が見込まれている。労働力人口の構成が大きく変化する中で、募集・採用での年齢制限を課すことは、中高年者に対して就職活動の「入り口」を閉ざすもので、募集・採用における年齢制限の禁止にむけて実効ある施策を講じることは基本的に正しい。
他方、賃金決定における生計費の重要性にてらすならば、賃金決定の要素に年齢が考慮されていることはむしろ望ましく、否定することはできない。すなわち、わが国では各種社会保障制度の不十分さから、中高年者に対する教育費、医療費などの負担が重く、賃金決定の要素に年齢を加味することが実情に即しているのである。
とすれば、募集・採用における年齢制限をなくす前提として、中高年者の生計費を軽減する、換言すれば、年齢による生計費負担の平準化をはかるために、各種社会保障制度の拡充をすすめるなど、あらためて総合的な対策を確立する必要がある。
単に、募集・採用差別を厳しく禁止するだけでは、中高年者が必要とする賃金水準を満たす「求人」がないというミスマッチが際だつだけであり、中高年者の就職促進にはつながらない。

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(5) 派遣労働者の拡大

1)派遣期間の拡大
  • 派遣期間(旧適用対象26業務以外)を1年に制限することに合理性はないとの指摘もあり、これを撤廃することを含め検討すべきである。
2)派遣対象業務の拡大等
  • 「物の製造」の業務について派遣禁止を解禁することも含めて検討すべきである。
  • 法改正に至るまでの緊急措置として現在3年の派遣が認められている業務(旧適用対象26業務)の範囲を拡大すべきである(営業や販売等、専門性の高い業務を例示)。
3)紹介予定派遣制度の見直し
  • 紹介予定派遣を通常の派遣と同様の規定で律することには限界があり、円滑な運用を妨げている阻害要因を取り除く方向で検討すべきである。
4)その他
  • 派遣元責任者の選任の在り方について検討すべきである。
  • 労働者派遣に係る手続きの簡素化について検討すべきである。
  • 派遣先事業主から派遣元事業主への通知書類の電子化を検討すべきである。

わが国の労働者派遣制度は、数回の法「改正」を重ねながら拡大の一途をたどってきたが、この間、いわゆる正社員の代替として派遣労働者は急増している(注2参照)。しかも、労働者派遣の適正をはかるはずの労働者派遣法自体がきわめて不十分である上に、「ザル法」と揶揄されるほど盛り込まれている規制も実効性がない。
その結果、派遣先事業者の横暴・差別や派遣元事業者の使用者責任の欠如などで派遣労働者の権利侵害はきわめて深刻なものとなっており、近時は派遣契約の競争入札などにより賃金水準などの労働条件の切り下げが目立っている。また、少なくない無許可・無届出の派遣元事業者が存在し、「請負」を偽装した対象業務以外への「派遣」も横行している。
第一次答申は、こうした現在の労働者派遣に見られる深刻な問題点の数々を解決しようという立場でなく、@雇用の調整弁(使い捨ての労働力の確保)、A人件費の削減(安価な労働力の確保と正社員の代替)、B雇用責任の放棄など、労働者派遣の「メリット」を最大限に享受したいという事業主の願望とそれに伴って事業拡大をはかりたいという労働者派遣事業者の願望を一方的に述べたものにすぎない。
特に、政令で定められた26業務をこれ以上拡大させることは、労働者派遣法制定当時の「派遣労働者の市場を一般労働者の市場と融合させず高待遇の市場として形成する」としたねらいを完全に放棄することを意味している(事実、26業務への派遣労働者の賃金は低下し続けており、また、専門性の疑わしい業務への派遣も横行しているのである)。とするならば逆に、派遣労働を明確にテンポラリーワーク(一時的労働)と位置づけ、派遣期間の拡大などすべきでなく、政令で定められた26業務についても派遣期間を1年以内とすべきではないだろうか(もっとも、第一次答申は、これまでの経過など一切を投げ捨てて、常用・単純労働にまで派遣労働を広げようとしているのかもしれない)。
そして、真に求められる改革方向は、派遣労働者の実態と諸外国の派遣制度に見られる労働者保護の水準をふまえて、1)派遣先での同一労働同一待遇、A派遣期間終了後の派遣先の雇用義務、2)派遣先の使用者責任の明確化、3)違法派遣に対する取り締まり強化などに着手することである。特に、取り締まりの強化にむけては、司法警察権を持った派遣事業監督官(仮称)を都道府県労働局等に配置し、罰則の適用を含む機敏で実効ある対応をはかるべきである。

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(6) 有期労働契約の拡大

  • 労働契約期間の上限を現行3年から5年に延長し、適用範囲を拡大する等の方向で速やかに検討を進めるべきである。
  • 大臣告示で定められた専門職の範囲について一層拡大する方向で見直すべきである。

今日、多くの企業が、恒常的に必要な業務に従事する労働者を正規雇用とせずに有期雇用としているが、そのねらいは、1)判例上確立した解雇権濫用法理、不利益変更の法理等を免れることができること、2)期間の定めのない労働者に比べて低い賃金水準を設定し人件費を大幅に抑制することができること、3)契約更新の自由を持つことで「もの言わぬ労働者」として従属させることができること、4)急増している労働者派遣業や業務請負業では、派遣・請負期間に応じて労働者を拘束することができることなどにある。有期雇用契約の適用範囲の拡大はこうした「メリット」をさらに大きくしたいという願望にほかならず、労働者の権利侵害は甚大なものとなる。
また、有期雇用契約期間の延長(3年5年)の要請は、雇い止めをめぐる一連の判例が契約更新を重ねることで当該契約を期間の定めのない契約に転化したものとみなす考え方をとっていることから、契約更新の回数を数回に止めながら適当な期間(5年あるいは10年)が経過した後の雇い止めを正当化するために、執拗に行われてきたものにほかならない。また、例えば10年程度の契約期間(数回の更新)を認めることは若年定年制の復活にほかならず、これとコース別人事管理が結びつけば差別定年制の復活を意味する。
もっとも、こうした契約期間で労働者を使用するには、身分保証期間を定める契約(1年経過後はいつでも労働者側から解約することができることとし、1年経過後の期間は身分保障の期間とする契約)を活用すればよいとの考え方がある。しかし、派遣会社が有期雇用で労働者を派遣使用とする場合には、このような身分保証期間を定める契約は使いにくいと考えるに違いない。派遣会社は、派遣した期間だけは労働者をしっかりと拘束しておく必要があるからである。
こうした事情は、第一次答申が有期雇用契約期間の上限緩和とともに、派遣期間の廃止等をいっしょに求めていることにも通じる。
直ちに求められる改革は、脱法的な意図を持って横行している合理的な理由のない有期雇用契約を適切に規制することである(雇い止めに対する的確な法規制など)
なお、第一次答申は、労働者派遣や有期雇用契約の拡大などを「雇用対策」と位置づけているが、雇用維持モデルの一つである「長期雇用システム」を崩壊させ、その代替として派遣労働者、有期雇用労働者を想定していることは明らかであり、こうした措置によって企業が求人を増やし雇用を拡大すると考えることは幻想にほかならない。むしろ、雇用を不安定化させ、労働条件の低下を招く効果しかもち得ない。

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(7) 裁量労働制の拡大

  • 専門業務型裁量労働制の対象業務について拡大すべきである。
  • 企画業務型裁量労働制については、施行後3年後の見直し規定にかかわらず、速やかに検討を進めるべきである。
  • 将来的には、裁量労働制の対象業務の範囲についても、労使自治に委ねる方向で制度の見直しを図ることが適当である。

第一次答申は「労働者がより創造的な能力を発揮できる環境を整備する」として、裁量労働制の拡大を労働者にとって歓迎されるべき「緩和策」のように描いているが、すでに裁量労働制の導入されている職場の実情は全く逆であって、ノルマや期日に追われ、労働時間の配分に全く裁量の余地のないものが多く、従来のサービス残業(ただ働き)が合法化されたにすぎないケースが少なくないのである。また、企画業務型裁量労働制の拡大に向けた動きは、ホワイトカラー全般にいわゆるサービス残業(ただ働き)が広く横行している現状を容認する効果しか持ち得ず、成果主義賃金や有期雇用契約とセットで運用することで、労働者を一層の長時間労働あるいは過密労働へと駆り立てていくことにつながり、過労死、過労自殺をさらに広げることになる。
求められる改革は、裁量労働制の名の下に横行する「ただ働き」をなくし、長時間労働の上限規制をはじめとする時間法制を抜本強化することである。

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(8) 労働基準法の改正等

  • 新しい労働者像に、定型労働を行う労働者を念頭に置いた規制を一律に課すことは適当でなく、労基法の見直しを図っていく必要がある。
  • 現行の裁量労働制は、管理監督者等と同様、時間規制の適用除外を認めることが本来の姿であり、米国のホワイトカラーエグゼンプションの制度を参考にしつつ、裁量性の高い業務については適用除外方式を採用することを検討すべきである。
  • 管理監督者等の適用除外制度の在り方について、深夜業に関する適用除外の当否を含めて検討すべきである。
  • 解雇の有効・無効に関する労使双方の事前予測可能性を高めるためにも、解雇の基準やルールについて、立法で明示することを検討すべきである。

第一次答申には、ホワイトカラー全般を労働時間規制の適用除外としてしまうねらいを見て取ることができる。近時、ホワイトカラーを中心に様々な就労形態が出現し、従来の規制ではとらえきれない事態が一部に生じていることは事実であろう。しかしながら、そこで生じている問題点は何か、守られなければならない権利・利益がどのように扱われているのかを明らかにすることなくして、真の規制改革とはならないだろう。
とりわけ、見逃すことができないのはホワイトカラーの多くに長時間労働(サービス残業を含む)、過密労働(成果主義賃金の下での労働強化など)が広がり、過労死、過労自殺(近年、若い労働者にまで広がっている)が増加している点である。こうした中で、労働時間規制をはずすだけでは何らの問題解決にならないばかりか、むしろ深刻な実態をますます悪化させることになりかねないのであり、実態を改善しうる相応しい規制の在り方を検討する立場にこそ立つべきである。
また、現在、多くの中間管理職がその労働実態にかかわらず、わずかばかりの手当と引き替えに労基法第41条の「管理監督者」として扱われ、労働時間、休日、休憩に関する規制の埒外におかれている。こうした事態を改善するため、「管理監督者」の本来の趣旨(事業経営の管理的立場にある者又はこれと一体をなす者)に即し、具体的で明確な判断基準を確立するとともに、彼らの苛酷な労働実態を的確に規制する新たな枠組みつくりが求められている。
第一次答申は「解雇」にも言及している。現在、解雇については、現行法上、一定の解雇制限事由(労基法第19条、育介護第10条等)と解雇の手続き(労基法第20条等)が定められており、いわゆる不当解雇や整理解雇等の効力等をめぐっては、判例上、「解雇権濫用法理」や「整理解雇四要件」が確立している。
しかし、多くの労働者にとって、解雇をめぐって自ら訴訟を提起することは、1)訴訟費用等の経済的負担が困難なこと、2)迅速な解決が期待できず、長期間、訴訟当事者となることに不安があること、3)訴訟を提起することが再就職に不利に作用すること、4)必要な証拠のほとんどを使用者が保管しており、立証が困難なこと、5)職場復帰を前提としない損害賠償請求等の理論が未成熟なことなどの事情から、これを躊躇せざるを得ない(解雇理由を争って訴訟を提起することのできる労働者は1%にも満たないだろう)。
要するに、解雇をめぐる争いについては、一定の裁判規範が存在するものの、それ自体不十分な面もあり、行政が適切に関与し得る根拠となる実体法が存在しないことから、事実上、解雇を規制する「規範」がないに等しく、多くの労働者が無権利状態のまま「泣き寝入り」しているのが現状である。
従って、解雇をめぐる基準やルールを立法化することは必要であるが、その基本は現在の判例の到達点をクリアし、あわせて前述した現行制度の不十分さを克服するものでなければならない。あわせて、出向、配転、雇い止め等についても実定法上の規制が求められている。

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(9) 社会保険制度の改革等

  • 就労形態の多様化に対応した社会保険制度の改革等を速やかに検討する必要がある。
  • 年金・医療保険のパートタイム労働者への適用拡大について早急に検討すべきである。
  • 私立学校教員等について、雇用保険への加入を速やかに促進すべきである。
  • 企業年金のポータビリティの更なる拡大や退職金に関わる制度・枠組み等の見直しを検討すべきである。
  • 女性の就業意欲の阻害要因と考えられる配偶者手当などの制度について見直すべきである。

年金・医療保険をパートタイム労働者へ適用拡大し、あまねく社会保険(社会保障)の傘下におくことは重要なことである。
あわせて、第一次答申は、社会保険制度が働き方の制約とならないよう、企業年金のポータビリティのさらなる拡大や退職金に関わる制度・枠組み等の見直しを求めているが、こうした措置が雇用の不安定化を促進することをねらったものであったり、労働者の権利・利益を失わせるもの(退職金の削減など)であるならば、本末転倒と言わなければならない。
また、第一次答申は、配偶者手当などの制度を女性の就業意欲の阻害要因と位置づけて見直しを迫っている。その際、セットで解決すべき課題は、@先進諸国で最も大きい男女の賃金格差の解消、Aコース別人事管理などに代表される間接差別の禁止、B男女共通の枠組みとしての両立支援制度(育児、介護、看護等の家庭責任と仕事の実効ある両立策)の確立などであり、これなくして真の男女共同参画社会などあり得ない。逆にこれらの確立なく、配偶者手当などを廃止するというのであれば、それは単なる賃金抑制の主張にすぎず、女性の就業意欲を持ち出したのは口実にすぎないこととなる。

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4 すべての労働者・労働組合の力を合わせて

第一次答申が検討の俎上に乗せた事項の多くは、積年の労働者・労働組合のたたかいによって勝ち取った権利であり、制度である。これを見直すのであれば、労働者・労働組合の意見が十分に考慮されたものでなければならず、また、今日の労働者の実態にてらして相応しい新たな規制に転換していくものでなければならない。
しかしながら、第一次答申の中身は、「規制改革」とは名ばかりで、単なる「規制緩和」「規制はずし」にすぎず、財界・業界(とりわけ人材関連ビジネス)の利益追求を前面に打ち出したものとなっている。
こうした「規制改革」が労働者とその家族にどのような影響をもたらすかは火を見るよりも明らかであるが、第一次答申は言葉巧みにその危険性を覆い隠し、むしろ労働者の利益に資するかのごとく装っている。そのため、未だ多くの労働者にその危険性が伝えられていないのが実情である。
今、すべての労働者・労働組合が「規制改革」の欺瞞性と危険性に目を向け、力を合わせてたたかうことが重要となっており、そのたたかいを通じて真に人間らしい働くルール・ワークルールの確立をめざすことが求められている。

(注1)全労働省労働組合雇用政策プロジェクト「今、求められる雇用対策の提言」(2001年11月5日)
(注2)2000年12月に労働省の実施した「労働者派遣事業に関する派遣先事業所調査」によれば、派遣労働者が従事する業務の73.7%は、以前は常用労働者が行っていたと回答している。

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