雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

変容する雇用政策

全労働省労働組合 中央副執行委員長 河村直樹

 政府は、2013年6月に日本再興戦略を閣議決定して、以降2014年、2015年と毎年改定しています。その中で職業安定行政に関する分野では、人材ビジネスへの露骨な利益誘導が推し進められています。本稿では、これまで実施された事業や現在検討されている事業について、その特徴を述べます。

 

1 求職者の人材ビジネスへの誘導

 2003年11月から、公共職業安定所(以下、安定所)を利用する求職者が希望する場合、人材ビジネス(有料職業紹介事業者や労働者派遣事業者)のリーフレットを渡して誘導する事業が開始されました。安定所は人材ビジネスに事業を周知し、送付されたA4表裏のリーフレットをファイルにまとめ、求職者の希望に応じてコピーを手渡します。各都道府県労働局のホームページにも同じ情報が掲載されています。

 リーフレットの内容に、安定所はまったく関与していません。安定所の求人票に記載された内容は、求人事業主が記入したものをそのまま公開するのではなく、安定所が求人条件に法違反はないかを確認し、仕事内容も事業主と相談しながら正確でわかりやすい記述となるように工夫しています。このように、求人票はあくまで「安定所が提供している情報」であるのに対し、人材ビジネスの作成した情報をノーチェックで求職者に提供するのがこの事業の特徴です。

 利用状況はたいへん低調です。求人情報誌等が氾濫する中で、混雑する安定所にわざわざ足を運ぶ求職者は、安定所の求人内容のチェックや職業相談への期待が大きく、人材ビジネスへの案内希望はほとんどありません。むしろ、リーフレットがあることを伝えると、「安定所に相談に来たのに人材ビジネスに行けとでも言うのか」との苦情が寄せられています。

2 求人情報のオンライン提供

 2014年9月から、安定所の求人情報を、求人事業主の希望によって地方自治体や職業紹介事業者へオンラインで提供されています。「自治体、人材ビジネスともに提供」、「自治体のみに提供」、「人材ビジネスのみに提供」、「どちらにも提供しない」の4つの区分を、求人受理時に確認しています。安定所求人を自治体や職業紹介事業者の職業紹介でも活用することによって、全体としてのマッチング機能を強化することが目的とされています。しかし、開始以前からこの事業には疑問がありました。有料職業紹介事業や自治体の職業紹介の就職件数は決して多くありません。むしろ、有料職業紹介事業者は、労働者派遣事業もあわせて行っていたり、系列の派遣会社が存在するのが一般的です。つまり、有料職業紹介事業者に求人情報を提供すれば、派遣会社にその情報が渡ることになります。安定所では求人受理にあたって、求職者の希望に沿ってできる限り正社員で、より高い処遇での募集を働きかけます。そこでは、安定した雇用と良質な労働条件は良い人材の確保につながり、結果的に企業にプラスになることを強調します。それを理解して提出された求人は、求職者にとっては良質求人ですが、「高コスト」の側面を併せ持ちます。有料職業紹介事業者から情報を得た派遣会社にとっては、この上ない営業先と言えます。安定所では、オンライン提供を希望して求人を提出した事業主から、派遣会社から電話があったとの苦情も寄せられています。

 自治体への情報提供も、自治体が行う職業紹介事業の多くは人材ビジネスに委託して実施されていることから、派遣会社への情報提供であることに変わりはありません。

3 求職情報のオンライン提供

 求人情報に続き、求職情報についても2015年度中に有料職業紹介事業者や自治体にオンライン提供されることとなっています。求職情報は、求人情報と異なり個人情報そのものであるため、流出したり転用されることがあれば、重大な人権侵害が生じかねません。 個人情報保護のため、厚生労働省は「求職情報サイト(仮)」を設置し、個人が特定されない範囲で希望する求職者が登録し、人材ビジネスが希望する求職者にサイト内でメールを送信し、求職者が納得した場合に人材ビジネスに求職登録するシステムを準備しています。それでも、人権侵害のリスクは払拭されていません。人材ビジネスから送信されるメールだけで、求職者が再就職実現可能性が高く、個人情報保護に信頼できる事業者かどうかを判断することは困難です。有効求人倍率は高水準でも、非正規雇用や低賃金求人が多く、再就職は容易でない中、すがるような思いで多数の人材ビジネスに求職登録する求職者も生じるでしょう。そこで「再就職の可能性が高まる」と、有料のセミナー等に誘導されることは十分考えられます。万一個人情報が流出すれば、失業中の求職者であるためサラ金のDMや、女性求職者に風俗産業の求人情報が送られることになりかねません。

 厚生労働省は、利用規約を策定して一定の枠組みを整備して、求職者や個人情報を保護しようとしています。しかし、「求職情報を一定条件の下に削除・廃棄する」としていますが、どこに個人情報が保存され、完全に削除されたかを確認する方法はあるはずもなく、実効性には大きな疑問があります。

 求人情報のオンライン提供では、求人受理時に事業主に対し、情報を提供するか、どの範囲で提供するかを確認します。本年8月の労働政策審議会職業安定分科会での厚生労働省説明資料では、求職情報のオンライン提供でも求職受理時に求職者の意向を確認するとされています。しかし、求職情報提供はリスクが大きく、求職者に対し最初に安定所に手続きする時点で、公開か非公開かの判断を求めることは適当ではありません。求職受理時にには、求職情報公開に伴うメリット・デメリットを詳しく解説したリーフレットを配付するにとどめ、求職者が十分理解した上で、適宜公開する運用が必要と考えます。

4 ハローワーク業務の総合的見直し

 2013年6月の日本再興戦略は、上述した求人・求職情報のオンライン提供など、多くの事項を今後の検討事項に掲げました。そして産業競争力会議に「雇用・人材分科会」が設置され、検討事項の具体化が議論されました。厚生労働省は見直し方向を示す必要に迫られ、2014年3月18日の分科会に田村憲久厚生労働大臣(当時)名による「外部労働市場の活性化について」と題した資料が提示されました。本稿で批判する雇用政策の見直しは、人材ビジネスをマッチング機能の主要な担い手と位置づけたこの資料に凝縮されています。その中に「ITの利活用の推進(システムを活用した業務フローの改善・将来的には、ハローワークに来所せずとも、職探しができる環境の整備‥)との記述があります。職業紹介には対面でこそ可能な求職者支援の機能があり、全労働は大きな問題意識を持ち、厚生労働省に説明を求めましたが、具体的内容は示されませんでした。

 2015年11月、厚生労働省は、「ハローワーク業務の総合的見直し」として、ハローワークインターネットサービスを大改修し、求職者が安定所に出向くことなく、オンラインで求職活動ができるしくみの構築を示しました。自主的な求職活動が可能な求職者はネットでの求職活動に誘導し、安定所はネット求職や人材ビジネス活用が困難な求職者のサービスに特化することを打ち出しています。新たなシステムでは、求職登録も求人受理も職員が関与することなくネット上で可能にしようとしています。さらに窓口の相談で職員が「オンライン紹介可」と判断した求職者は、以降は安定所に行かなくても、ネット上で安定所職員の関与なく紹介状の交付が受けられることとなっています。

 現在の安定所では多くの求人検索端末が設置され、求職者はその端末を使ってみずから検索し、応募希望の求人を選択しています。しかし窓口では求職者が自主的に選択した求人をそのまま紹介するわけではありません。求人企業の特徴などを伝えて、求職者とともに再検討することは日常的です。能力が高く経験豊富な求職者が、当該職種では低賃金の求人しかなく、やむを得ずその求人を「自主選択」していれば、安定所職員が求人企業に求職者の特性を伝え賃金引き上げを要請します。求人賃金に幅があれば、職員が事業主に連絡し賃金額の目安を確認します。安定所の職員が「いい方ですから」と連絡することは、求職者にも事業主にも安心感をもたらします。これらのサービスを必要としない「自主的な求職活動が可能な求職者」など1人も存在しません。事業主にとっても、事実上の予備先行を安定所が行うことに大きな期待と安心があります。今回の当局案は、こうした安定所の大切な機能をすべて投げ捨てるものです。憲法は、勤労権や職業選択の自由を定めていますが、安定所が求人事業主や求職者に接してこそ国民の権利保障が可能となるものであり、「システム上でご自由に」では国民の権利保障を自己責任に化します。まさに、憲法に背く行政の自殺行為です。

5 マッチング機能の強化

 2014年に改定された日本再興戦略2014では、「官民協働による外部労働市場のマッチング機能の強化」が掲げられ、「ハローワークの機能強化のため、各所ごとのパフォーマンスの比較・公表、意欲を持って取り組む職員が評価される仕組みの構築について(略)2015 年度から実施する」とされました。

 そもそも、「マッチング機能」をことさら重視することには問題があります。職業相談業務は、求人と求職の結合(マッチング)のみを行っているのではありません。求職者が安心して働き続けられるかどうか、経済的に生活が成り立つ賃金水準か、職業相談・紹介の過程ではさまざまなことを検討します。経済面や健康面などに課題を抱える求職者に対しては、関係機関につなぎます。これらは、憲法の定める職業選択の自由や勤労権、生存権など人権保障の具体化です。安定所の役割は、「何件就職させたか」を競うような浅薄なものではありません。

 いま行われている「マッチング機能の強化」とは、全国の安定所を求人企業が多い地域か求職者が多い地域か、大規模か小規模かなどの条件で11グループに分け、各グループ内で、就職者数、求人充足数、雇用保険受給者の早期再就職件数件数を主要指標として、安定所ごとの実績を競うものです。これらの件数を高めようとすれば、労働条件や労働環境が劣悪でも、再離職のリスクが高くても、一旦は「採用」の結果が得られる紹介を優先せざるを得ません。これでは決して求職者の権利保障の役割を果たすことはできず、私たちは件数主義に陥る危険性を強く指摘しています。本年1月23日に開かれた労政審職業安定分科会では「ハローワークのマッチング機能に関する業務の評価・改善の取組」が審議され、了承されました。そこでは、「総合評価というのが唯一絶対の評価軸にならないように」(公益代表委員)、「成果が第一であるような使い方はなされない方が良い」(分科会長)との指摘が相次ぎました。

 「意欲を持って取り組む職員が評価される仕組みの構築」では、キャリア・コンサルタント資格の取得が強く求められています。資格取得は悪いことではありませんが、職業相談は経験の積み重ねが重要であるとともに、管内の労働市場・企業情報の蓄積、生活保護などの関連制度、メンタルヘルスなど幅広い知識を身につけることで質が向上します。資格を取ったから劇的に能力が高まるようなものではなく、資格を偏重することは、職業相談業務を矮小化することになりかねません。

 キャリア・コンサルタント資格を重要視する動きは、一方で安定所の非常勤職員に大きな負担を押し付けています。非常勤職員の任用要件でキャリア・コンサルタント資格は必須とされてはいませんが、1年契約の不安定な雇用に置かれ、次年度契約が更新されるかどうかの強い不安があるために、多くの非常勤職員は資格を取得しています。標準レベルキャリア・コンサルタントと呼ばれる資格を得るには、30万円を超える費用負担と、4ヵ月程度週1回の通学、さらに認定試験に合格する必要があります。しかもこの講座や試験は主要都市でしか実施されておらず、地方の非常勤職員は通学や受験の交通費も大きな負担となっています。非常勤職員の任用も、資格ではなく経験や能力で判断すべきと考えます。

6 民間活用によるキャリア・コンサルティングの実施

 2014年度から都市部で実施されている民間委託の訓練前キャリア・コンサルティングが、2015年度からすべての安定所の庁舎内で、常駐または巡回によって実施されています。職業訓練の受講予定の求職者が、希望すれば人材ビジネスによるキャリア・コンサルティングを受けられるというものです。派遣法違反を避けるため、手狭な庁舎内に受託事業者の専用スペースを確保する必要があり、コンサルティングの内容に問題があっても、安定所職員が直接指導することもできません。

 この事業も利用はきわめて低調です。そもそもキャリア・コンサルティングは職業相談と一体で実施しており、今後のキャリア形成を職業相談の中で話し合い、その結果として職業訓練受講を決めたのであって、今さらキャリア・コンサルティングと言われても求職者はピンと来ないのが実態です。安定所の混雑時には、人材ビジネスのキャリア・コンサルタントだけが手持ち無沙汰な状態となりますが、利用者には事情はわかりません。「求職者を待たせて、どうして暇そうにしているのがいるのだ」と苦情が寄せられています。人材ビジネスのキャリア・コンサルタントには、安定所に求人を出して募集された方も少なくありません。求人内容は、有資格者を求めているものの「経験不問」も数多く見受けられます。キャリア・コンサルタントの多くは、公共機関の中で、就職支援に携わる仕事に熱意を持って就職されています。しかし、キャリア・コンサルタントだけを切り出した民間委託は利用者が見込めず、退職される方も生じています。

 この民間委託の実施が4月、同じタイミングの3月末に1,200人もの安定所の非常勤職員が削減されました。非常勤職員の多くはキャリア・コンサルタントの資格を有しており、国が直接実施していれば、職業相談と一体で高い質を維持しながら柔軟な業務運営が可能であったことは明らかです。

7 青少年雇用促進法の成立

 第189回通常国会で、青少年雇用促進法が成立しました。法律では、新卒求人を行う企業は、学校卒業予定者等に青少年雇用情報を提供するよう務めることが規定されました。また、労働法違反に関し、法律にもとづく処分、公表その他の措置が講じられたときは、安定所が新卒求人を受理しないことができると規定しました。離職率などが就活生に提供されるとともに、ブラック企業の求人が排除されると、好意的に受け止められているようですが、その効果には大きな疑問があります。

 10月21日の労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会では、これらの施行が議題とされ、厚生労働省から「具体的内容(たたき台)」が示されました。執筆時点で議事録が公開されておらず、検討状況は明らかでありませんが、国会段階でも問題点が指摘され、それらが解決される内容とはなっていません。

 青少年雇用情報の提供では、就活生の求める情報が提供される保証がありません。たたき台では、青少年雇用情報の具体的内容として、(1)「募集及び採用の状況に関する事項」として3項目、(2)「職業能力開発及び向上に関する取組の実施状況に関する事項」として5項目、(3)「職場への定着の促進に関する取組の実施状況に関する事項」として4項目が例示されています。たたき台は情報提供の方法として、(1)、(2)、(3)で例示した項目のうち、それぞれ1以上の項目を提供するとしており、すべての項目を開示することにはなっていません。具体的に見ると、(1)では「過去3年間の新卒採用者数及びそのうちの離職者数」「過去3年間の男女別の新卒採用者数」「その雇用する労働者の平均勤続年数」が項目として挙げられています。就活生が、採用実績と離職者数の開示を求めても、企業は男女別採用者数を開示すれば努力義務を果たしたことになります。毎年100人程度の新卒採用を行い、過酷な勤務によって3年後にはほぼ全員が離職しているような企業が、男女別採用者数だけを公開しても何の意味もありません。(2)や(3)も同様です。東洋経済社の「就職四季報」には、これらの企業情報が詳細に記載されており、回答のない項目は「NA」と表記されています。「無回答」も重要な情報であり、企業情報を開示しようとするなら、新卒求人票も「就職四季報」に習うべきです。

 求人不受理の対象については、(1)「違反行為について、新卒求人の申込み時点で、是正が行われていないこと又は是正された日から6ヶ月を経過していないこと(当該違反行為をした日から過去1年以内に同一の法違反をしたことがある場合、その他違反行為が青少年の職場への定着に重大な影響を及ぼすおそれがある場合に限る。)」、(2)「違反行為について送検された場合であって、新卒求人の申込み時点で、当該送検の日から起算して12ヶ月を経過していないこと、当該違反する行為の是正が行われていないこと又は是正された日から起算して6ヶ月が経過しないこと」とされています。送検に至らない(1)では、法違反を繰り返す企業であっても、「同一の法違反」以外は不受理の対象とならず、しかも「青少年の職場への定着に重大な影響を及ぼすおそれがある場合に限る」というあいまいな条件が付けられています。均等法や育介法違反による企業名公開企業についてもたたき台は記述していますが、企業名公開企業は本年9月まで0であり、そもそも効果に疑問があります。

 求人不受理を事業上単位としている点も注意が必要です。国会審議では、新卒採用者を、求人不受理となった事業場に半年以内に異動させるようなことは脱法的なもので求められないと説明していますが、たたき台にはどのように脱法的行為を禁止するかは触れられていません。新卒採用者を異動させるのではなく、求人不受理事業場のブラック支店長を新卒採用事業場に異動させることは議論もされていません。全国展開の企業が、1事業場で求人不受理となった場合、勤務先を「各支店及び本社」で募集することを禁止されるかどうかも明確ではありません。そもそも本社が集中する東京で、膨大な支社・支店・営業所のいずれもが求人不受理の要件に該当していないかなど確認しようがありません。仮に勤務先を求人不受理事業場を除いて受理したとしても、人事異動を追いかける手段もありません。

 このように、求人事業主を規制する内容は非常にゆるやかな青少年雇用促進法ですが、能力開発促進法の改正により、職業能力開発をこれまでにない手法で推進しようとしています。具体的には新ジョブ・カードの普及や職業能力評価制度の開発、技能検定等であり、労働者の情報を丸裸にした上で職業能力開発を自己責任化しようとするものです。その内容は本誌「新ジョブカード制度による労働市場インフラの戦略的強化」(木下秀人氏)に詳述されていますので、ここでは重複を避けます。

 青少年雇用促進法は、若者の雇用管理の状況が優良な中小事業主を厚生労働省が認定する制度を設けました。認定を受けた事業主は、安定所が当該企業の求人を求職者や学校に送付し、面接会を開催し、雇い入れに関する助成金を加算するなど全面的にバックアップします。認定を受けた企業には厚生労働大臣から認定マークが与えられ、ホームページや求人広告、封筒など、さまざまな物に認定マークを掲載できることになります。しかし、この認定基準には問題があります。過去3年の新卒正社員の離職率を20%以下と定めていますが、非正規労働者をどれだけ離職させても不問となっています。正社員の有給休暇の年平均取得率70%または正社員の年平均取得日数が10日以上としていますが、ここでも非正規は問題にしておらず、正社員もすべて企業による時期指定であっても問題とされません。セクハラやパワハラの発生を不認定要件としておらず、労働局に頻繁に相談が寄せられるような企業であっても、要件に合致していれば「優良」と認定されます。非正規労働者を使い捨てにし、ハラスメントが横行するブラック企業を、行政の公平性をかなぐり捨てて応援する制度となりまねません。

8 セルフ・キャリアドックの普及

 本年6月の日本再興戦略改訂2015では、「セルフ・キャリアドック」という耳慣れない制度の導入・促進が盛り込まれました。「定期的に自身の職務能力を見直し、今後、どのようなキャリアを歩むべきかを確認した上で、身に付けるべき知識・能力・スキルを確認する機会(「セルフ・キャリアドック(仮称)」)を整備する」としています。そこでは、制度を導入する企業に対し雇用保険による助成を行うこととしています。報道によると、人間ドックのように定期的にキャリアコンサルタントによるキャリア診断を受診することが予定され、受診料に対する雇用保険給付も検討されています。

 キャリア診断は、この間リストラ企業の再就職支援などで用いられてきましたが、「職務経歴の棚卸し」によって、再就職を強いられる労働者にみずからの職業能力の市場価値を認識するツールとされています。そこでは、退職前の賃金が市場価値と較べていかに高額であり、離職時賃金より著しく低い賃金でないと再就職は難しいことを、労働者に自覚させる機能を発揮しました。セルフ・キャリアドックの普及は、このように「職業能力不足」を証明するツールとされることを強く懸念します。能力不足と診断されれば、退職や処遇低下が正当化され、セミナーなどの有料の職業能力開発サービスへの誘導につながりかねません。職業能力開発の自己責任化と、それによる労働者の分断が加速することになるでしょう。

 

 このように、財界主導で進められる各種雇用政策は、人材ビジネスの利益を最大化しながら、労働者には職業能力の開示と、職業能力不足を理由とした不安定雇用や低賃金を強いるものです。そして、職業安定行政の役割を、本来の人権保障から逸脱させて人材ビジネスへの利益誘導と、件数主義のマッチングマシンに変質させようとするものです。安全保障法制成立で立憲主義や平和主義が危機に瀕していますが、国民の勤労権や生存権も踏みにじられようとしており、憲法を順守する立場から、雇用政策の民主的転換が求められます。