雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

シンポジウム
岐路に立つ労働市場政策

 

本編は『労働法律旬報』1871号(2016年9月上旬号)から、発行元の了解を得て転載したものです。


コーディネーター:森崎 巌 全労働省労働組合中央執行委員長
パネリスト:伍賀一道 金沢大学名誉教授
脇田 滋 龍谷大学教授
河村直樹 全労働省労働組合中央副執行委員長
会場発言:中村和雄 弁護士

●はじめに

森崎 今回のシンポジウムは、「岐路に立つ労働市場政策」というタイトルを付けました。労働市場の現状、現下の労働市場政策の評価、そして、今後の労働市場政策のあるべき方向を、皆さんと一緒に探っていければと思っています。
 本日は様々な労働組合の皆さんも多く参加いただいていますが、労働市場政策というと、なかなか捉えどころがないという印象ではないでしょうか。労基法が改悪されるとか、派遣法が危ないというと、労働組合の皆さんも敏感に反応されますが、労働市場政策の動きにはそこまでの反応には至らないことが多いのではないでしょうか。実際、法令の施行だけでなく、いろいろな事業を含めた労働市場政策が展開されているので、なかなかすべてが視野に入ってこない部分があると思います。
 しかしながら、こういった労働市場政策の分野も、私たちの働き方、あるいは雇用のあり方に密接に関連しますから、これを機に関心が高まればと思っています。
 さて、わが国の労働市場政策ですが、時代ごとに大きな転換を遂げてきましたが、近年では、2013年の日本再興戦略の決定が大きな転換点だったと思います。それ以降に示されている政策は、本当に現状を正しく捉えているのか、あるいは、この方向が雇用も改善させるのか、一部の者だけが潤って、格差社会、貧困社会が広がるのではないか、こうした疑問や懸念が広がるなかで、この間、私たち全労働省労働組合の呼びかけに応じて、研究者、弁護士、ジャーナリストに集まっていただいて研究会を開催してきましたが、その成果の一つとして、今回、旬報社から『劣化する雇用—ビジネス化する労働市場政策』を刊行しました。本日は、その執筆者のなかから3名に集まっていただきシンポジウムを行います。私から参加いただいている皆さんをご紹介します。
 まず、編者でもあります伍賀一道先生(金沢大学名誉教授)です。同じく編者でもある脇田滋先生(龍谷大学法学部教授)です。そして、河村直樹さん(全労働省労働組合中央副執行委員長)です。本日は、皆さんに本書のエッセンスの部分、あるいは書き足りなかった部分やその後の情勢変化など、様々にうかがっていきたいと思います。
 まず、この間の労働市場の変化をどう見るのかをお尋ねしていきたいと思います。最近、私たちの耳目に触れるのは、有効求人倍率が24年ぶりの高水準だとか、大学などの就職率も非常に好調で、リーマン・ショックの前まで回復したという話もあります。一方で、非正規化の流れは止まらず非正規労働者が全体の4割を超えたという指摘もありますし、実質賃金は、年単位で見ていると5年連続減少しているという話もあります。
 いろいろなデータが、それぞれの立場から強調されているわけですが、これらの変化は、少し長いスパンで捉えていかないと、労働市場の構造的な課題や労働市場政策の影響は分からないと思っています。
 そこで、少し長いスパンで労働市場の変化を俯瞰したときに、どのような特徴に着目すべきなのか、そして、その変化の要因の一つでもある労働市場政策の影響とその評価についても、伍賀先生に触れていただきたいと思います。

 今回のシンポジウムは、「岐路に立つ労働市場政策」というタイトルを付けました。労働市場の現状、現下の労働市場政策の評価、そして、今後の労働市場政策のあるべき方向を、皆さんと一緒に探っていければと思っています。
 本日は様々な労働組合の皆さんも多く参加いただいていますが、労働市場政策というと、なかなか捉えどころがないという印象ではないでしょうか。労基法が改悪されるとか、派遣法が危ないというと、労働組合の皆さんも敏感に反応されますが、労働市場政策の動きにはそこまでの反応には至らないことが多いのではないでしょうか。実際、法令の施行だけでなく、いろいろな事業を含めた労働市場政策が展開されているので、なかなかすべてが視野に入ってこない部分があると思います。
 しかしながら、こういった労働市場政策の分野も、私たちの働き方、あるいは雇用のあり方に密接に関連しますから、これを機に関心が高まればと思っています。
 さて、わが国の労働市場政策ですが、時代ごとに大きな転換を遂げてきましたが、近年では、2013年の日本再興戦略の決定が大きな転換点だったと思います。それ以降に示されている政策は、本当に現状を正しく捉えているのか、あるいは、この方向が雇用も改善させるのか、一部の者だけが潤って、格差社会、貧困社会が広がるのではないか、こうした疑問や懸念が広がるなかで、この間、私たち全労働省労働組合の呼びかけに応じて、研究者、弁護士、ジャーナリストに集まっていただいて研究会を開催してきましたが、その成果の一つとして、今回、旬報社から『劣化する雇用—ビジネス化する労働市場政策』を刊行しました。本日は、その執筆者のなかから3名に集まっていただきシンポジウムを行います。私から参加いただいている皆さんをご紹介します。
 まず、編者でもあります伍賀一道先生(金沢大学名誉教授)です。同じく編者でもある脇田滋先生(龍谷大学法学部教授)です。そして、河村直樹さん(全労働省労働組合中央副執行委員長)です。本日は、皆さんに本書のエッセンスの部分、あるいは書き足りなかった部分やその後の情勢変化など、様々にうかがっていきたいと思います。
 まず、この間の労働市場の変化をどう見るのかをお尋ねしていきたいと思います。最近、私たちの耳目に触れるのは、有効求人倍率が24年ぶりの高水準だとか、大学などの就職率も非常に好調で、リーマン・ショックの前まで回復したという話もあります。一方で、非正規化の流れは止まらず非正規労働者が全体の4割を超えたという指摘もありますし、実質賃金は、年単位で見ていると5年連続減少しているという話もあります。
 いろいろなデータが、それぞれの立場から強調されているわけですが、これらの変化は、少し長いスパンで捉えていかないと、労働市場の構造的な課題や労働市場政策の影響は分からないと思っています。
 そこで、少し長いスパンで労働市場の変化を俯瞰したときに、どのような特徴に着目すべきなのか、そして、その変化の要因の一つでもある労働市場政策の影響とその評価についても、伍賀先生に触れていただきたいと思います。

 

変貌する労働市場と改革の課題

1「劣化する雇用」とはどのような状態か

(1)日本の労働市場と貧困の特徴

●伍賀 まず、はじめに、「劣化する雇用」の特徴についてお話します。
 日本の労働市場と貧困の特徴を、要約すると、顕在的失業率が低いにもかかわらず、貧困率が高いということです。図表1は2000年から最近までの日本、EU、アメリカの失業率を示しています。EUの失業率に比べ、日本のほうがはるかに低いことがわかります。このように、失業率が低ければ、当然、労働市場の需給状況も良好で、中間層もそれなりに分厚くなるはずです。
 ところが、図表2のOECDの相対的貧困率を見ると(2009年のデータですが)、イスラエル、メキシコ、トルコ、チリ、アメリカについで日本は第6位です。失業率は低いのに、なぜ貧困率が高いのか。その秘密は、働く貧困層、つまりワーキングプアが大量に形成されていることにあると思います。ワーキングプアの大半は非正規で働いています。その4分の3は年収200万円未満ですから、非正規雇用が増えると、当然、貧困層が増えます。顕在的失業者が減少する一方で、細切れ的な就労状態の人たちや、単身では生計維持が難しいため、もっとマシな仕事を探す人びとが増えてきました。「半失業」の広がりです。これが「劣化する雇用」の第一の指標です。
 このような状況になった要因として四点指摘したいと思います。一つは、大企業による雇用の弾力化戦略です。正規社員を減らして、非正規に置き換える雇用管理が20年ぐらい続いてきました。このような雇用戦略を取った背景には、株主重視の観点から短期ベースで利益を上げる経営戦略に転換したことがありました。
 第二は、顕在的失業者をパートや派遣労働者などの非正規雇用に誘導する新自由主義的な労働市場政策が広がったことです。この点は、のちにまた少し触れたいと思います。
 第三は、たとえば、雇用保険の求職者給付(失業手当)の減額や給付日数の削減等に見られるように、失業時の生活保障を大幅に切り下げる施策が、2000年代初頭に相次いで行われました。その結果、なかなか安心して離職できない、失業者にとどまれない状態がつくり出されました。加えて、日本では自己責任を追及する圧力が高まってきました。生活保護バッシングはその典型です。
 さらに四点目として、この間に日本の産業構造が飲食サービスや小売業に代表されるように、非正規雇用依存型にシフトしてきたことがあります。以上の要因が重なり、今日の雇用と労働市場の特徴がつくりだされました。

(2)雇用形態の変化——全体的特徴

 そこで、過去30年間の雇用形態の変化をざっと見ておきます。
 図表3は、総務省が5年おきに実施している就業構造基本調査をもとに、1982年から2012年までの正規雇用と非正規雇用の推移を示しています。この30年間に、日本の労働者(「役員を除く雇用者」)は、1,383万人も増えています。ところが、正社員の数は3,300万人でほぼ変わっていません。たったの10万1,000人しか増えていません。つまり増加した労働者のほとんどを非正規雇用が占めたことになります。
 労働者全体に占める非正規雇用の比率は1982年から2012年にかけて16.9%から38.2%に、女性では31.8%から57.5%に上昇しました。1982年当時、男性の9割以上は正社員、非正規雇用比率は1割未満でしたが、今では2割を突破するまでになっています(図表4)
 最近の10年間を見ても、この傾向は、大きくは変わっていません。図表5は総務省が毎月実施している労働力調査を用いて作成したものですが、これによると、直近の2015年平均の非正規雇用比率は37.5%です。私は4割を超えると予想していたのですが、結果的には超えませんでした。今、非正規雇用比率は高止まりする傾向にあるのではないかと感じています。なお、図表4と図表5で非正規雇用比率が異なるのはもとの調査が別のためです。
 雇用形態別にこの10年間の労働者数の増減を見たのが図表6です。男女で相違があります。男性は正社員が96万人減って、非正規は127万人増えています。この背景には団塊の世代の男性が定年によって嘱託などの非正規に移動した影響があるでしょう。他方、女性では、非正規雇用の増加数より少ないですが、正社員も増えています。これが男性と異なる点です。これは、医療・福祉部門の正規労働者が増えていることと関連しているのではないかと思います。安倍政権下の2012年から2015年の3年間についても、男性正社員の減少に対して、女性はわずか1万人ですが、正社員が増えています(図表5)。
 図表7(男性)(後掲11頁)と図表8(女性)(後掲11頁)は、安倍政権が出発した直後の「2013年1月〜3月期」と、「2016年1月〜3月期」の3年間の産業別・雇用形態別労働者数の増減を比べたものです。男性は、製造業における正社員の減少が顕著です。一方、伸びているのが情報通信業です。これは、マイナンバー制関連の需要が影響しているのではないでしょうか。また、飲食サービス業はご承知のとおりブラック企業≠ェ多い部門ですが、正社員が増加しています。
 他方、女性は、卸売業・小売業部門の労働者の増加が顕著ですが、その大半を非正規雇用が占めています。最近、卸売業・小売業で非正規雇用を限定正社員に転換するということが盛んに言われていますが、図表8を見る限りでは正社員数は増えていません。増えているのは医療・福祉部門です。先に指摘したように、女性の正規労働者増大の背景にはこのことがあると見ています。
 今夏の参院選の際に安倍政権は2014年から15年までの過去1年間で正社員が増えたことを強調しましたが、図表5の正規雇用数を見ると、増えたといっても2010年や12年の水準まで回復しているわけではありません。たしかに有効求人倍率は改善されているのは事実ですが、これだけを取り上げて雇用と働き方が全体として改善されたわけではありません。この点の詳細は『劣化する雇用』T章6をご参照ください。

(3)非正規雇用化の現状

 非正規の状況について、少しくわしく見ていきます。かつて、非正規の中心は主婦パートや若年非正規労働者(いわゆる「フリーター」)でした。近年は、もちろん若年非正規も依然として無視できませんが、非正規労働者は単身の女性や中年層、さらには高齢者にシフトしています図表9-図10。とくに65歳以上の非正規の数がたいへん多くなって、若年層を上回るようになっています。この特徴はとりわけ男性で顕著です。
 また、かつては配偶者や親の収入に依存する非正規が多かったのですが、近年では、自分の賃金が主たる収入源になっている人が非正規労働者のなかで多数派になっています。非正規の賃金で生活を維持しなければならなくなると、生活の困難度が増します。住居費を節約するため、中年単身の非正規労働者が親と同居し、親の年金と親子二世代の非正規雇用の賃金をあわせて生計を維持する事例が報告されています。『下流老人』(藤田孝典著)や『老後親子破産』(NHKスペシャル取材班編)という本が評判になりましたが、このような状況は中高齢者の非正規化の問題も関わっていると思います。
 さらに、単身の非正規雇用は、女性の場合、独身女性やシングルマザーの生活困難とも直結しています。これまで、非正規労働者の多くは家計補助の目的で働いているので、賃金が低くてもそれほど問題ではないという考えがありましたが、これは、現実に即していません。このような発想に立つ限り、雇用にかかわる格差と貧困の問題は解決できません。会場におられる中村和雄弁護士からお話があると思いますが、均等待遇の実現は、こういった観点からも求められています。

(4)正規労働者の縮小・流動化と無限定な働かせ方

 非正規労働者がこうした問題に直面している一方で、正社員も決して安泰ではありません。非正規が増大することは、正社員の働き方にも大きな影響をもたらしてきました。とくに最近の特徴として、低処遇の正規雇用が増加しています。男性も例外ではありません。年収300万円未満層は女性正社員のほぼ半数、男性正社員でも2割を超えています。400万円未満層まで広げると、それぞれ7割、4割を超えます(「労働力調査(詳細集計)」2015年平均)。この点はあとで述べますが、「最低賃金を1,500円に」という要求とも関連してきます。正社員であっても年功賃金のカーブに乗れない層が増えているなかで、最低賃金引上げの課題がより切実になっています。
 正社員の問題は所得に限らず、これまでも指摘されているように、長時間労働や、使い捨て雇用の問題があります。図表11は、長時間就労する男性雇用者の比率を示しています。30代〜40代では、週60時間以上働く人が15%を超えています。この状況はここ数年来、抜本的に改善していません。
 また、図表12は長時間労働する正規労働者の比率を産業別に見たものですが、この比率の大きい業種は、非正規雇用に依存する率が高い業種とほぼ重なっています。宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業、教育・学習支援業はいずれも非正規雇用比率が高い業種です。ブラック企業≠ヘこれらの部門に多く見られます。非正規雇用が多い部門では正社員が少ないために、正社員に過重な責任と負担が集中するため長時間労働になるという悪循環が生じています。こういう産業が栄えていることが日本の雇用と働き方の特徴の一つだと考えています。
 長時間労働の蔓延によって、過労死の労災請求件数は高止まりし、過労自殺(精神障害の罹患)の労災請求件数が急増しています。こうした結果、働き続けることができなくなって辞めていく若者が増えてきました。図表13は1,000人以上の大企業に就労する男性・大卒労働者のなかで、「標準労働者」、つまり、学校卒業時に就職した会社にずっと勤め続けている労働者の割合を示しています。とくに、2013年を見ると、標準労働者の割合が30代前半および後半で3割台にまで下がっています。中学卒業者の7割、高卒の5割、大卒の3割が就職後3年以内に辞めていくと言われてきましたが(「七五三現象」)、図表13だけで言うと、辞めていく労働者比率はもっと高いようです。もちろん、このなかには、自ら進んで転職する人の増加という積極的に見るべき面も含まれていますが、同時に、ブラック企業≠ノ象徴されるように、働き続けることが難しくなってきていることにも目を向けたいと思います。以上、「劣化する雇用」ということで、全体的な動向について概観しました。

 

2 労働市場政策の変化とその影響

(1)新自由主義的労働市場政策の台頭

 さて、これらをふまえて、今日のメインテーマである「労働市場政策の変化」について述べたいと思います。その前に、第二次大戦後の福祉国家の労働市場政策について触れておきます。福祉国家の理念としては、現役労働者には完全雇用を、失業者に対しては失業期間中の生活保障を国が講じるというものでした。現役労働者と失業者の中間形態とでも言うべき不安定就労を除去するという対応をしてきました。日本でも、1950年代から60年代前半あたりまで、このような福祉国家的な雇用政策をめざす動きが一部に見られましたが、実際にはそうはなりませんでした。
 わが国は、日本型雇用、つまり企業社会依存型の雇用・失業政策を取ってきたために、ヨーロッパ型の福祉国家的施策が具体化されませんでした。たとえば、雇用保険法(1974年)の雇用調整助成金制度は、企業による雇用保障に対する支援に力点をおいた政策だったことはご承知のとおりです。技能形成も企業内での養成が中心だったため、公的職業訓練制度は貧弱なままです。
 ところが2000年代に入って、小泉政権の構造改革のもとで新自由主義的な労働市場政策が全面展開します。日本型雇用の見直しが進められ、リストラも本格化しました。くわしくは述べませんが、2003年には雇用保険の失業給付額が大幅に引き下げられました図表14。この年には労働者派遣法が改正され製造業務の派遣も解禁されました。これらは、不良債権処理の強行で急増した失業者に対して失業状態にとどまることを難しくし、非正規雇用に誘導する政策です。再就職手当を就業促進手当に名称変更し、それまで1年を超える常用雇用に再就職した場合に限定して支給していた手当を、常用以外の職の場合にも拡大しました。
 こうした新自由主義的な労働市場政策によって、日本では半失業状態の労働者が増加しました。不安定かつ低賃金の非正規職に従事しつつ、よりマシな仕事への転換を求めている人びとは、就業者であっても同時に失業の契機をかかえており、半失業状態にあると考えてよいでしょう。図表15は、完全失業者に半失業および潜在的失業状態の人びとを加えて実質的な失業率を試算したものです。2010年以降、完全失業者は減少し、完全失業率も低下しているのですが、実質的失業率図表15の失業率α、β)は微増傾向にあります。日本では完全失業率だけを見ていては失業状態を正確に捉えることはできません。なお、半失業については『劣化する雇用』U章1で後藤道夫さんが詳細に述べていますので参照下さい。

(2)人材ビジネス(派遣業、民営職業紹介事業)の積極的活用政策

 顕在的失業者を非正規雇用に誘導することで、半失業状態に転換していく際におおいに活用されたのが民間の人材ビジネスでした。安倍政権はその流れをさらに加速させています。1999年の派遣法の規制緩和で、派遣対象業務が原則自由化されましたが、この時に、職業安定法も改正され、有料職業紹介事業の対象職種も同様に原則自由化され、人材ビジネスの活用政策が拡大していきました。
 このような人材ビジネスの活用の際に、ILO181号条約の批准(1999年)がその根拠づけにおおいに使われました。この条約は公共職業安定所と人材ビジネスの協力関係をうたっていますが、こんにちの日本の政策は、人材ビジネスを主役に、公共職業安定所を脇役にするように転換していることが特徴だと思います。この点の詳細は、『劣化する雇用』のT章5を参照ください。
 最後に、こうした雇用の変化は、日本の経済社会に対して大きな困難をもたらしています。しばしば指摘されているように、この間、日本の実質賃金は、ほとんど上がっていません。これは脱デフレを困難にしています。2010年以降、完全失業率は改善し、完全失業者は減っているのに、実質賃金は低下しています。これは不思議です。図表16が示すように、実質賃金指数と関連しているのは非正規雇用比率です。この比率の逆数の指数と、実質賃金指数の動きはほぼ一致しています。つまり、実質賃金指数は、非正規雇用率と反比例する関係になっています。
 また、非正規雇用の増加は、未婚化を加速し、ひいては少子化の背景ともなっています。男性の非正規雇用の未婚率は40代前半で57.1%、40代後半で48.3%です(「労働力調査(基本集計)」2014年)。これも雇用の劣化がもたらす日本社会の困難のひとつと言えるでしょう。
●森崎 失業に際して、安心して適職を探せる状況になく、求職者にとって過酷な労働市場が出現し、それを背景に雇用の劣化が進行している構造をわかりやすく明らかにしていただいたと思います。そして、こうした状況を出現させている要因の一つが、新自由主義的な諸政策であるという指摘もありました。
 そこで、この新自由主義的な労働市場政策の柱の一つである労働者派遣制度。派遣法の制定が1985年ですけれども、労働市場に与えたインパクトは、単に派遣労働を公認しただけではなく、非常に大きいものがあったと思っています。
 そこで、脇田先生にお尋ねします。労働市場政策の変遷のなかで、派遣法の制定やその後の見直しがどういう意味を持っているのか、また、2015年に派遣法があらためて改定されたわけですけれども、それはどういう位置づけを持っているのか、コメントをいただけたらと思います。

 

働く権利を守る雇用法制

1 日本の労働者派遣制度の特徴

(1)世界標準との乖離

●脇田 1985年に派遣法ができて、30年を超えました(『劣化する雇用』117頁以下参照)。この間に、労働市場のあり方が変わり、何よりも労働法や労働行政のあり方が、それまでとはまったく違うものに変わりました。最初、派遣労働は、非常に例外的なものであるとされましたが、違法な現状をどんどん追認し続けて、最初とはまったく違って、今では派遣労働の弊害が際立っていると思います
 濱口桂一郎さんが指摘されているように、戦前の工場法の時代には、事業所内にいろいろな下請けが入っていましたが、行政当局者は、こうした事業所内下請け労働者に対しても、工場主が工場法上の責任を負うということを行政通牒で明記していました。
 ところが、昭和が進んで戦争の影が大きくなるなかで、使用者責任回避がだんだん広がりました。「職工」であれば工場法適用になるので、実態は変わらないのに「人夫」名義にして、工場法適用を免れる目的で構内請負、労務供給業などの形態で間接雇用が広がったのです。こうして戦前には、強制労働や中間搾取をともなう、ひどい人権無視の間接雇用が拡大しました。
 戦後になって、このような間接雇用が労働者の地位を弱め、非常に非民主的な労使関係を生み出して、労働者が人間らしく働く権利を主張できない。こうした認識のもとで占領軍は、間接雇用の規制を重視したのです。これは、戦後の労働民主化、労働改革の一つの軸になりました。
 たとえば、労働基準法5条は強制労働を禁止し、6条は中間搾取の排除を規定します。これらと並んで、職業安定法44条は労働者供給事業として間接雇用そのものを禁止しました。戦後すぐ、これらが重要な法規制に位置づけられたことは、非常に大きな意味を持っていたと思います。
 ところが、1985年になると、政府が、「戦後直後的な状況はなくなって労使関係は成熟した」、「間接雇用は労働者のニーズに応えるものの一つとして必要だ」などと言い立てて、派遣法が制定されることになりました。当時、「ドイツやフランスでも派遣法が制定されたから、日本にも」との主張もされましたが、西欧と日本は事情がまったく違っていたのです。
 ドイツやフランスでは、企業を超えた横断的な協約規制があって、企業が違っても同じ仕事をしていれば同じ賃金が保障されます。大企業であれ、中小企業であれ、仕事別賃金は産業別組合の力で実現していました。日本の場合は、大企業の労働条件と中小・零細企業の労働条件は大きく違います。このように企業別格差が大きい日本で間接雇用を導入したときに、その弊害は劇的でした。私はヨーロッパにおける派遣と日本の派遣はまったく違うものだと思います。
 さらに、日本の労働者派遣法(1985年法)は業法です。労働者保護という労働法的な面よりも、人材ビジネスとしての派遣業を容認し、また、高級官僚が天下りできる業界づくりの狙いもあったと思います。
 私は、この派遣法には少なくとも四つの面があったと思います。
 一つは、職安法で禁止されていた業務請負の合法化です。これは実質的に、労働行政の違法取り締まりの後退だったと思います。
 二番目に、当時は、国内的には公序良俗違反ということで、女性だけが結婚で辞めるなどの男女の差別退職制が問題になっていました。国際的にも、国連の女性差別撤廃条約批准が日本に求められていました。日本の企業は、本音では女性差別慣行を維持して、名目だけ男女差別の非難を回避するために、商社や銀行などの女性が多い会社は、100%出資の派遣子会社をつくったのです。住友銀行は泉オフィスサービス、東京海上は東京海上キャリアサービスというように、第二人事部と言われる派遣会社をつくって、女性社員を移籍させたのです。同じ職場で、同じように働いていても、昨日までは正社員の女性が、別会社の派遣社員になります。
 日本の労働法の大きな弱点ですが、使用者が異なれば差別ではなくなります。労働基準法3条、4条や男女雇用機会均等法も、同じ使用者のもとでの差別だけを禁止しています。住友では男女差別が裁判になっていました。そのような追及を、女性を派遣社員化すれば逃れられる。そんな狙いがあったと思います。
 三つめは、当時、コンピューター関連の労働者が増えていました。男性の場合、いろいろな仕事を経験させる、ゼネラリスト的な処遇が日本では広まっていましたが、情報関連労働者はつぶしが利きません。ちょうどオンライン化時期でしたが、それが終わったあとは保守で済みます。オンライン化のために男性情報労働者を正社員にすると、あとの処遇に困ることから、経済同友会は、情報労働者を、必要なときに利用して不要になれば使い捨て可能な派遣労働者として導入する「中間労働市場」論を提言していました。
 また、当時、派遣法を制定したのは中曽根内閣です。当時の総評労働運動の中心であった官公労働組合を、国家的不当労働行為と呼ばれるような方法で弾圧をした内閣が作った法律ですので、労組弱体化の狙いがあったと思います。つまり、日本の企業別労働組合は、同じ職場に派遣労働者が増えても別会社の人間という理由で、組合の仲間と考えない。派遣労働が広がれば広がるほど、職場の労働組合が組織するのは正社員だけで、派遣労働者を組織しない。時間がたつにつれて労働組合は弱者を守る組織としての信頼や権威を失って弱体化します。
 私は、派遣法には労働者を分断し、とくに民間大企業の企業別組織を弱体化させる「団結抑圧法」的な意味があると考えました。この点は学界でも明確に指摘する人は少ないのですが、過去30年を振り返るとき、決して間違っていなかったと思います。まさに、日本の派遣法は「悪法中の悪法」、「毒の缶詰め」でした。同法制定以降、日本の労働法や労働行政は大きく崩壊・変質することになったからです。

(2)虚構の概念の上の構築

 派遣法自体は、虚構の固まりです。まず、本来、外国では「派遣労働」ではなく、「一時的労働(temporary work)」と呼んでいました。日本に導入するとき、「派遣労働(dispatch work)」に変えられたのです。「派遣」というのは公務員の人事管理用語です。「国家公務員が国連機関に派遣される」、「地方公務員が外郭団体に派遣される」などと使われてきたのです。国や自治体が派遣元ですから、派遣元は雇用主としてもっとも実体があることになります。
 ところが、派遣法にもとづく派遣元は「名ばかりの雇用主」です。許可要件を見ても事務所面積は20平米で済みます。私の研究室よりも狭い事務所があれば良い。従来は、新卒採用から職場での訓練を経て数十年も雇用継続し、定年後は退職金まで保証するのが日本の雇用主=使用者でした。派遣法は、これとは大きく違って「名ばかり雇用主」で実体のない派遣会社(派遣元)を雇用主と擬制したのです。
 そして、「雇用と使用の分離」という虚構です。派遣労働者にすれば一日の労働時間のほとんどを過ごして労務指揮する派遣先が、使用者としての責任を取らない。労働者を指揮命令もせずに4割もピンはねする派遣元を「名ばかり雇用主」として公認する。これが「雇用と使用の分離」の本質です。
 とくに、派遣法の虚構の極みは36協定です。派遣労働者の場合、派遣元事業場単位に36協定を締結することになっています。あちこちの派遣先に散らばって働く、何百人、何千人が派遣元事業場に一堂に会して、民主的に過半数代表者を選出するというのは明らかな虚構です。実際には、ファックスやメールで、派遣会社が指名した代表者候補に「反対であれば、メール、ファックスを返して下さい」と形式的に連絡を送るという方式がまだ「良心的」な部類です。反対の意思を表明すれば次の派遣紹介で目を付けられるので、弱い立場の派遣労働者が表明できるはずがない。こうして36協定という労働基準法が定める最低基準が、派遣労働者については虚構化・形骸化しているのです。労働行政はそれを容認してきました。これは、まさに労働法・労働行政の自己破壊です。
 従来、労働法は、使用・従属の実態にもとづいて法的な契約関係の存在を認め、労働者を保護することを基本にしていました。これに対して、派遣法は、使用従属の実態がない派遣元という「雇用主」に使用者責任を負担させ、実際に就業する派遣先事業場単位の代表選出から派遣労働者を排除しています。これは、使用従属の実態にもとづいて労働者を保護し、使用者に責任を負わせる労働法の原則からの重大な逸脱です。こうした法的虚構にもとづく派遣労働規制は労働法と労働行政の骨抜きにつながり、それが30年も続いた結果は深刻です。

(3)派遣・請負等、多様な「使い捨て雇用」の広がり

 派遣法30年でもっとも納得しがたいのは、派遣法制定時になされた立法推進者の主張です。つまり、「違法な偽装請負が広がり過ぎたので、いまさら職安法44条を徹底するのは現実的でない」、「むしろ現実に合わせてある程度法的ルール化をすることが適当である」という議論です。しかし、法施行後、労働行政は偽装請負の取り締まりや、製造工場での偽装請負の広がりを取り締まらなかったのです。後に風間直樹さん(当時「週刊東洋経済」記者、現「朝日新聞」記者)が、「異形の帝国『クリスタル』の実験」(週刊東洋経済2003年2月8日号)を発表しました。これは、もともと京都駅近くの七条職安前にあった業者です。それが、事実上の製造業派遣で異様な拡大をしたのです。一方では、派遣法でルール化すると言いながら、労働行政は、製造業の偽装請負、違法派遣を放置し続けたのです。
 その結果、2004、5年頃から、若い男性が製造現場でフルタイムの派遣労働者になっていることが注目されました。若い女性中心に派遣労働が広がっていたそれ以前は問題意識のなかったマスコミも、低劣労働条件で働く男性派遣労働者の不安定な雇用の現実を大きく取り上げました。このままでは、日本社会の将来が危うくなることにようやく危機感をもったのです。いわゆるワーキングプアの問題が噴出します。そして派遣法のもたらす弊害が大きいことが可視化されることになったと思います。

 

2 2015年改定の特徴と今後の労働市場への影響

 2015年派遣法改定の詳細は、『劣化する雇用』(121頁以下)を参照いただければと思います。ここでは要点を指摘します。2003年から2009年の間、派遣労働拡大による弊害が際立ちました。リーマン・ショックでの「派遣切り」問題の後、民主党のマニフェスト等でも派遣労働の規制強化がうたわれるようになり、連立政権下の2012年に、日雇い派遣や違法派遣に一定の規制を加える等の限定された内容で派遣法改定が実現しました。
 しかし、安倍政権下での2015年改定は、まったく逆方向の内容で、日本の派遣労働規制の欠陥を改めないまま、派遣元や派遣先の要望に応える形で派遣労働を大幅に拡大できる大改悪です。従来、3年以内に限定された業務を含めて、派遣先は、派遣労働者を事実上、無期限に受け入れることが可能となりました。対象業務の区別による制約がなくなり、これまで正社員がしていた仕事も派遣労働者に行なわせることで「正社員ゼロ」の職場が増える可能性が大きくなりました。
 また、法改定で、派遣労働者から正社員に転換する道が非常に狭く閉ざされることになり、ほとんど可能性がなくなりました。その意味では、「生涯派遣」の拡大と言えるかもしれません。しかし、かつて女性の派遣労働者が多い時代、女性が派遣労働者として働けるのは実際には35歳頃までとされ「35歳の壁」と呼ばれていました。35歳を超える年齢では、時給を下げても派遣の依頼はなくなってしまうのです。だから、「生涯派遣」とさえも言えません。
 劣悪で不安定な雇用が増えて「雇用の質」が大きく低下してきました。森岡孝二さんが『雇用身分社会』(岩波新書)という本を出されましたが、本当に、無期限の不安定・劣悪雇用の派遣労働は「雇用身分」と言えるものです。しかし、労働者自身がそれを選択し合意して契約したとして、「身分」が「虚構の合意」によって正当化されるのです。これが2015年派遣法改定の本質です。施行されて間がないので、具体的な結果はまだわかりませんが、将来的には必ず「雇用身分社会」の弊害を拡大する内容だと思っています。
●森崎 日本の労働者派遣制度の本質的な部分に未解決の問題が温存されている、しかも、それは日本特有の問題でもあるという指摘だったと思います。また、「虚構の固まり」という言葉もありましたが、派遣労働者に関する36協定制度の運用実態に関する指摘は、労働行政の第一線からも同様の声が上がっています。あらためて、派遣法の抜本見直しを議論していく必要性を感じます。
 こういう労働者派遣に代表される人材ビジネスを、今、積極的に活用していくことが政策の柱になっています。そこで、派遣会社だけではありませんが、人材ビジネスが労働市場政策のなかでどう活用されようとしているのかも明らかにしていきたいと思います。
 実務にくわしい立場から、河村さんに、具体的な活用策とその特徴をお尋ねしたいと思います。

人材ビジネスの「活用」政策の拡がり

1 外部労働市場の活性化≠ノついて

●河村 先ほども先生方から話があったように、1980〇年代の半ばから人材ビジネスの活用が本格的になってきて、1990年代の後半に大きく進んで、近年では、労働行政は、むしろ、人材ビジネスがより活躍できるようにするよう指示が盛んに出てきています。
 コーディネーターからも指摘があったように、2013年の日本再興戦略が決定的な曲がり角になりました。その日本再興戦略の議論をしている産業競争力会議の雇用・人材分科会というところから、「厚生労働省は、人材ビジネスの活用のために何をするのか」と厳しく問われるなか、それに答える形でおととしの3月に出されたものが、「成長のための労働政策」と題する文書です。

2 人材ビジネスとハローワークの連携?

 いくつか具体的に説明したいと思います。一つは、人材ビジネスが活躍するために、安定所の窓口に、有料職業紹介事業者と人材派遣会社のパンフレットを備え付けることになりました。安定所が人材ビジネスに対して、「御社のパンフレットを安定所に置くことによって、より多くの人に活用してもらうようにしたらどうでしょうか」ということを言うようになりました。
 それで、チラシが、有料職業紹介会社、派遣会社それぞれから送られてきて、安定所はこれをファイリングして庁舎のなかで公開しています。希望する人があれば、そのコピーを取って渡すという業務をしています。
 安定所は企業から求人をもらって、これを公開していますが、この求人情報は企業の言いなりで出しているわけではありません。安定行政の職員が内容を必ず確認して、記載方法も含めてお互いに話し合って、じゃあ、これでいこうと決めています。当然、わかりにくい記述は改めていきますし、法違反があったら直していきます。しかし、このチラシは、企業が出してきたチラシを、安定所はまったく関与しないで公開しているところに大きな特徴があります。
 たとえば、「スタッフからリーダーになって、正社員になるキャリアアップの制度も持っています」というような記載も、企業が言えばそのまま公開しているところが特徴です。しかも、これは各労働局のホームページにも同じ内容が公開されています。

3 ハローワーク求人情報の活用

 今、安定行政の職員が窓口で受け付けた求人、また、企業に足を運んで求人開拓をしてきた求人の情報を、希望する人材ビジネスにはオンラインでリアルタイムに提供する仕組みが行なわれています。安定所の持っている求人はいわば「公共財」であるとし、民間人材ビジネスが活用して、あるいは地方公共団体の職業紹介で活用することによって、求職者が就職するチャンスがより増えるから結構だということで始められました。
 私たちは、当初から、これは職業紹介に使われるはずがないと思ってきました。なぜかというと、そもそも、有料職業紹介事業で、安定所がやっているような職業紹介のスタイルは非常に規模が小さくて、しかも、その職業紹介事業者のほとんどが労働者派遣を兼業しているか、あるいは系列に労働者派遣業の事業者があるからです。そうすると、われわれの求人情報が事実上、オンラインでリアルタイムに派遣業者に届くことになります。
 安定行政の職員は、できるだけ正社員で、しかも、少しでも良い条件で求人を出すことが、回り回って企業のためにもなると説明して求人をいただいていますが、派遣会社にとっては、そういう正社員で賃金の高い求人ほど営業がしやすい先はありません。これによってずいぶんコストカットができ、雇用調整も楽になるというアプローチが始まるに違いないと、当初から指摘してきました。
 実際、われわれの組合員から聞くと、求人事業主が求人を提出するとただちに派遣会社から電話がかかってくるということも起きています。これは、今後、検証が必要だと思いますが、そういう活動がさらに広がっていくことを強く懸念しています。

4 ハローワーク求職情報提供の仕組み

 それだけにとどまらず、今度は求人情報ではなく、求職者の情報についても、オンラインで提供することが今年の3月から始まっています。
 さすがに求職情報はきわめて秘匿性の高い個人情報が多数含まれているので、求職者が希望し、個人が特定をされない範囲で、「求職情報提供サイト」という所に、個人の、たとえば、何歳で、どういう学歴で、どういう職種で、いくらぐらいの賃金で探しているということを登録すると、同じく登録している職業紹介会社からサイト内でメールが行きます。そのメールのやりとりをして、気に入ったということになったら、求職者が職業紹介会社に求職登録をすることによって初めて個人情報が明らかになって、そこで職業紹介が行なわれる仕組みです。
 しかし、これもそう使われるとは限りません。個人情報が登録されたら、たとえば、そこで、「派遣の仕事ならあります」と言われても、われわれには確認する方法がありません。さらには、この個人情報がどこかへ転用されたり流出した場合、追い掛ける方法はありません。さらに、職業紹介をするときに、「あなたの今の条件では、再就職はなかなか難しいから、有料ですが、私たちがやっているセミナーを受けたら、もう少し再就職がしやすくなりますよ」というような勧誘をするビジネスが広がっていくのではないかとたいへん心配しています。

5 労働移動支援助成金

 そういうことと相まって、先の国会でも話題になりましたが、労働移動支援助成金も大幅に拡大されました。伍賀先生の話にありましたが、雇用調整助成金は企業が雇用を維持する目的で始められた助成金ですが、そうではなく、リストラ企業が、リストラの対象になっている労働者の再就職支援を人材ビジネスに委託した場合、委託をした人材ビジネスではなくリストラ企業に助成金が支払われています。こういうものの予算規模が拡大しています。
 この間、要件の相次ぐ見直しがありましたが、直近の状況で言うと、人材ビジネスに再就職支援を委託しただけで、結果は何も出ていなくても10万円が出ます。再就職が実現した場合には、最大60万円がリストラ企業に出ます。これによってリストラ企業は、人材ビジネスがより活用しやすくなるということが現に起こっています。
 私が納得できないのは、再就職の経緯を問わないことです。人材ビジネスが受託した労働者の再就職を、自社の求人で斡旋をして就職が決まったならそれはそれで実績でしょう。ところが、実際には、縁故で決まろうが、安定所紹介で決まろうが、全部同じように助成金の対象になります。
 したがって、安定所には、「再就職支援を受託した会社から安定所に行って仕事を探しなさい」と言われたとか、あるいは人材ビジネスの担当者が、直接リストラされる労働者を引率してきて、「この人たちを何とか再就職させてくれ」という相談が来ています。それによって、安定所ががんばって再就職を実現すると、60万円の助成金が支給されるという仕組みが導入されています。

6 再就職支援の人材ビジネスへの委託

 こうした人材ビジネスを活用した施策は国の安定行政だけではなくて、様々な自治体のなかでも幅広く行なわれています。今は自治体が、若年者の支援とか、高齢者の支援とか、障碍者の再就職支援をやっていますけれども、都市部の多くの自治体では人材ビジネスに委託して行なわれています。
 ある県が行なっている再就職支援事業のチラシの「運営・問い合わせ先」の欄に人材ビジネスの企業名が記載されています。こういう動きが至る所にあり、膨大な委託費が人材ビジネスに支払われているという状況が起こっています。

労働市場政策の向かうべき方向

●森崎 これまでの皆さんの発言で、労働市場の現状が明らかとなり、そして労働市場政策はこのままでよいのかという点が問われてくると思います。ここで考えなければいけないのは、「労働市場政策の目的はいったい何なのか」ということだと思います。ILO条約を紐解くまでもなく、ディーセント・ワークをどう広げるかというところにあるのではないか。今日お集まりの皆さんであれば、この点に異論はないと思います。
 そういう観点から、今の方向ではない、違う方向での労働市場政策が求められているのではないか、シンポジウムのタイトルにもあるとおり、私たちは今、そうした岐路に立っているのではないか、ならば、本来向かうべき方向はどこか、というところに話を進めていきたいと思います。
 あらためて伍賀先生にお聞きしたいのですが、労働市場政策の向かうべき方向、あるいは必要となる視点について、コメントをいただければと思います。

1 「まともな雇用」への転換の課題

●伍賀 ILOの「ディーセント・ワーク」という言葉は皆さんよくご存知だと思います。ILOは、グローバル競争がもたらす「まともな雇用」の危機に対して、1999年の総会でこの原則を提案しました。
 2013年にバングラデシュで縫製工場が倒壊して、1,000人を超える女性労働者が亡くなる大事故が発生しました。これに象徴されるように、労働条件を切り下げて外国資本を呼び込み、劣悪な労働環境のまま労働者を働かせて利益を上げるということが、世界各地で起こっています。これに対する対抗策としてディーセント・ワークが提案されました。
 「まともな雇用」とは何かということについては、様々な考え方があると思いますが、要するに不安定な雇用や、自ら希望していないのに非正規にならざるをえないという事態をなくす、あるいは最低生計費を上回る賃金や、過労死とは無縁のゆとりある労働時間を確保すること、これらのことが、「まともな雇用」、「まともな賃金」、「まともな労働時間」のおおよその中身だろうと思います。
 先ほどの私の発言との関連で言えば、劣悪な労働条件を拒否できるためには、失業した場合に、一定の生活保障を受けながら新しい職に転換できるような、生活保障付きの職業訓練制度の整備が課題になるでしょう。さらに、使用者に対して、対等に交渉できる権利を保障していく課題もあります。
 日本における具体的課題として、以下の点を指摘したいと思います。

 a 労働時間の明確化と抜本的短縮、インターバル時間(勤務と勤務の間の最低休息時間)の確保
 b 非正規雇用のリスク縮小措置(間接雇用および有期契約の制限、無期雇用への転換)
 c 最低賃金制の実質化、公契約条例の制定
 d 均等待遇、同一価値労働同一賃金原則の確立
 e 失業時の生活保障(雇用保険制度の適用範囲の拡大、失業給付水準の引き上げ、求職者保障制度の創設)
 f 職業訓練・能力開発の条件整備、人材ビジネスの規制、公的職業紹介の充実
 g 職場における労働組合の発言権・交渉権の確保

 これらのうち三点に絞って述べたいと思います。
 第一の労働時間規制は、誰しもが願っていることです。2014年に過労死等防止対策推進法が成立しました。過労死家族の会をはじめ、研究者や医師、法律家の皆さん方のたいへん熱心な運動の結果、実現したわけで、この成果は高く評価したいと思います。しかし、この法律自体には、長時間労働を規制していくという視点がありません。今後、労働時間条項をどう入れるかということが課題となると思います。
 ところが、安倍政権はこれらに逆行するホワイトカラーエグゼンプション法案(労働基準法改正法案)を国会に提出しています。参院選の争点となることをおそれて実質審議に入っていませんが、今度の臨時国会で審議入りするものと思います。その一方で、「一億総活躍社会プラン」のなかに、36協定における時間外労働規制のあり方の再検討を盛りこむなど、どうもちぐはぐな対応が見られますが、そうしたことに対しても、きちんと監視していく必要があります。労働時間規制の課題については、EU並みのインターバル時間の確保、具体的には勤務と次の勤務の間に11時間空けることが不可欠です。
 私は、いま金沢大学で非常勤で授業をしていますが、先日、森岡孝二さん(関西大学名誉教授)と、過労死で息子さんを亡くされた西垣迪世さんにお越しいただいて学生たちにお話していただきました。この息子さんは、システムエンジニアの仕事をされていました。地デジ放送への移行関連のプログラム開発業務で繁忙をきわめており、35時間ぶっ通しで仕事をして、わずか数十分しか間を置かないで次の仕事に入っていくような、とても考えられない働き方をした挙げ句、精神疾患にかかり、薬の過剰服用をした結果、2006年に亡くなりました。まだ27歳でした。
 程度に違いはあれ、夜中の2時、3時に帰って、また明くる日の8時半に出勤という状況は、霞が関のなかでもあると思います。そうした状況をなくすことがインターバル時間の確保で、これはぜひ実現しなければならない課題です。また、総労働時間の上限規制は、EU指令では週労働時間の上限を48時間としていますが、そうした上限の規制もたいへん大事な課題です。
 図表17は、賃金不払い残業の解消および残業時間半減による雇用創出規模を試算したものです。この試算では、たとえばサービス残業をなくせば、163万人の雇用が生まれます。さらに、年間の残業時間を半分に減らすと、213万人の雇用が創出できます。とくに、サービス残業をなくすというのは、違法状態を解消することですから、誰も反対できないと思います。この図表とその解説は『劣化する雇用』で述べています(165頁)。
 次に最低賃金についてです。最近、政府も最低賃金を1,000円にすると言い出しています。すでに民主党政権のもとで、2020年までに最賃1,000円の実現を政労使で合意しています。時給1,000円の場合、一日9時間(8時間+残業1時間=8,000円+1,000円×1.25倍=9,250円)、週5日、年間50週就労という条件で計算すると、年間賃金総額は231万2,500円になります。最賃1,000円のもとでは、年間賃金231万円未満は最低賃金違反になります。毎日2時間残業する場合、先ほどの計算でいくと、262万5,000円。したがって、約263万円未満は最低賃金違反になるわけです。
 今、「最賃1,500円」をめざす運動が、エキタスの若者を中心に活発化していますが、時給1,500円で先ほどと同様の計算をすると、346万8,750円です(一日9時間労働の場合)。最賃1,500円が実現すると、年間賃金が約350万円未満層は最低賃金違反になります。また同様に毎日2時間残業をする場合、393万7,500円ですから、約400万円未満は最低賃金違反となるわけです。
 「最賃1,500円」という要求は夢物語と考える人がいるかもしれません。しかし、いまアメリカ各地では時給15ドルの最賃制が州法や市の条例で実現しています。市のレベルでは、シアトル、サンフランシスコなどです。1ドル100円の為替レートでは15ドルは1,500円です。1ドル120円のレートであれば、15ドルは1,800円になりますから、1,500円という最賃要求は決して法外な額ではない、当たり前の額であると思います。
 従来の年功賃金型の賃金上昇を期待できない層、低所得の正社員が男性のなかにも増えているもとで、最賃1,500円運動は、これまで自分たちは最低賃金運動とは関係ないと考えていた正社員の人たちを巻き込んだ運動に発展する可能性を持っています。この点は、後藤道夫さんが『劣化する雇用』でくわしく述べていますが(54頁以下参照)、注目すべき提起だと思います。
 三点目は、非正規雇用の正規化の課題です。「劣化する雇用」を、どのようにしてまともな雇用に転換していくかということについて、種々のルートが考えられます。正社員との均等待遇原則、同一価値労働同一賃金の実現はもちろん重要です。ここで注目したいのは、企業内における非正規雇用率の上限を設定していくという考え方です。
 フォルクスワーゲン社は「派遣労働に関する憲章」を2012年に作っています。これは全世界のフォルクスワーゲンの事業所で適用していく憲章です。そのなかで、事業所従業員に占める派遣労働者の比率の上限を一事業所内で原則5%までとするとしています。さらに、派遣期間を最長36ヵ月、つまり3年を超えないこととし、上限に達した場合の正規雇用への採用方法についても定めています。この憲章が実際にどのように運用されているかは調査しなければわかりませんが、こうしたことを参考にしながら、日本でも非正規雇用の正規労働者への転換について具体的に検討していければと考えています。
●森崎 ディーセント・ワークの実現に向けた課題を提起いただきましたが、日本では、労働時間でも、賃金でも、雇用でも、規制を強化すると産業の競争力が低下する、経済そのものが駄目になってしまうという指摘があります。こういう声にどう応えていくのか、一言、補足をいただけますか。
●伍賀 先の私の発言で今後の課題としてあげた@からFまでの多くは、ヨーロッパの国々でほぼ実現しています。日本だけ厳しいことをすべきというわけではありません。EUの国々、フランスやイギリスやドイツに進出している日本企業は、いずれもその国の法律を守って事業をしていますから、同じことが日本でできないはずはないと言いたいと思います。前述のとおり、アメリカでは、最低賃金を15ドルとする法制が州や市レベルで近く施行されますが、そこに進出した日本企業は、当然、それに従わなければなりません。
 私が強調しておきたいことは、日本では、この間ずっと労働条件が下がっています。とくに派遣法が昨年改正され、先ほどの脇田さんのお話のとおり、生涯派遣も可能になり、また、派遣先は、派遣労働者さえ代えれば期間制限なしに派遣システムを使えるようになりました。このような日本の規制緩和は、ヨーロッパの国々の派遣労働の規制の水準を引き下げる役割をする危険があると思います。こうした事態を防ぐことが大事ではないかと考えています。
●森崎 続いて、脇田先生にも、今後のあるべき労働市場政策の方向性についてうかがいます。とくに派遣法、労基法をはじめとする労働法制のあり方に関わって提起をいただきたいと思います。

 

2 立ち後れた日本の非正規の雇用規制と正規雇用の光と影

(1)非正規保護における世界的潮流

●脇田 30年前は正社員が8割、9割で、正規雇用慣行が一般的でした。正社員雇用は、積極的な面として、長期の雇用で、生活の必要に応じて年齢が高くなれば賃金が上がる年功賃金などの面で、「光の部分」があったと思います。ただ、残念ながら、「影の部分」が大きく、労働組合が企業別組織のために、派遣労働が広がっても派遣労働者を組織対象にしない。その結果、この30年間、企業別組織がさらに企業別正社員組織へといっそう弱体化しました。企業別の労働条件格差が大きく、大企業は雇用が安定し賃金も高いが、中小・零細はそうではない。もう一つは女性です。男性中心モデルで、女性の多くは若年で会社を辞めさせられる、あるいは辞める。それを前提にした男女差別モデルであった。日本の労働法や労働組合は、こうした正社員雇用モデルを前提にしていたと思いますが、現在、非正規雇用をなくして正社員にさえなれば問題はないのか。30年を経た現在、あらためてこの点が問われていると思います。
 この間、EUはパート・有期・派遣の非典型雇用形態が広まっているなかで、それぞれ指針(directive)を出しました。指針では、同じ仕事をする正社員と同一待遇を義務づける「非差別(non discrimination)」の原則を定めています。そして、EU諸国では、この指針にもとづく非差別が基本になっています。
 ILOも、以前は、標準的労働関係的な雇用モデルでしたが、パートなどの非典型雇用形態が増えるなかで、それにふさわしい新たな規制を加える条約や勧告を採択することを進めました。
 日本の場合は、この30年間、先ほどの伍賀先生の指摘のとおり、非正規雇用が非常に増えているにもかかわらず、法的には特別な保護はしていません。派遣法が一番ひどくて、労働基準法の使用者責任を、派遣元と派遣先に配分する「水平的配分」でしかありません。本来、派遣の三面関係のなかで、派遣労働者の無権利な実態をふまえた保護、たとえば派遣先、派遣元の連帯責任とか、重畳的な労働基準法適用など、実態に即した特別な労働者保護が必要なのに、そういう特別な規制がほとんどありません。

(2)韓国における非正規保護

 2006六年に韓国では「非正規職保護法」が制定されました。非正規雇用が広がるのに対して、有期雇用は上限2年までとして、それを超えたら無期雇用になったと見なすこと、有期雇用の2年間については、類似または同一の仕事をしている正社員との労働条件差別を禁止する内容です。まさにEU的規制の韓国版と言えます。さらに、派遣労働にも同様の2年上限と差別禁止を定めました。EUや韓国の派遣法は、明らかに日本よりも進んだ内容であり、日本の派遣法は2015年改定で逆により後退したことになります。
 日本では、正規雇用と非正規雇用の二重の労働市場がつくり出されていますが、経営者団体は、1995年日経連「雇用の三分化」論以来、「雇用のポートフォリオ」とうそぶいています。
 「ポートフォリオ」は、本来、金融用語で、財産を多様な種類を分けて危険を分散するといったときに使われるようです。イタリア語では「ポルトフォリオ」は財布を意味します。「雇用のポートフォリオ」は労働者(人材)をお金に例えるもので、一万円札の正社員は少数で、派遣労働者などは千円札、女性などのパートタイム労働者は小銭といった位置づけで労働者を利用し使い捨てる、露骨な企業本位の考え方です。世界的にもこれほど露骨な雇用政策は見られないと思います。
 とくに、この10年間、私は韓国との交流は続けており、韓国との比較で考えさせられることが少なくありません。それまで、韓国のことはほとんど知らなかったのですが、1999年の派遣法改正で、日本では派遣業務が原則自由化されました。私は、派遣労働が一気に拡大すれば、もう日本の労働法や労働行政には未来がなくなると落胆していましたが、ちょうどそのときに韓国の市民団体から「派遣労働者をどのように正社員に転換するべきか」というシンポジウムで日本の経験を話してほしいと要請されたのです。それ以降、韓国では非正規労働運動や非正規職保護法など、日本には見られない活発な議論や運動が高まっていくのがとても興味深く、ハングルを勉強することになりました。

(3)国、自治体が率先して非正規労働を利用

 韓国での真剣な非正規雇用をめぐる議論や運動のなかで、最近、とくに注目できると思ったことは、国や自治体などの公共部門で働く非正規労働者の問題です。日本では、「非正規公務員」という法の谷間の存在が「官製ワーキングプア」になっていることが問題として深刻です。しかし、韓国では「公務員に非正規問題はない」と断言されました。公務員は正規職だけですが、公共部門ではかなり大人数の非正規職が働いています。彼らは公務員ではなく、国や自治体あるいはその外郭団体が労働契約によって雇った非正規職です。つまり、日本の労働基準法や労働組合法に相当する法律が適用され、2006年の非正規職保護法も適用されるのです。実際、この2006年法は、公共部門の非正規職に適用され、2年経過後に正規職転換する例が一般的です。2年間については差別禁止も適用されます。日本では「任用の壁」なるものがあって、「非正規公務員の正規公務員化」は難題となっています。韓国の状況を知って「目からうろこ」の感じを持ちました。実際、公共部門で働く非正規職を対象に、十数万人の組織規模をもつ「公共運輸労組」という産別労組が活発な活動をしています。同労組は、さらに「大産別」をめざして、将来は公務員労組や教員労組も含めて50万人規模の公共部門で働く労働者を代表する大産別組織の結成を展望しています。公共性のある産業で働く労働者全体を代表し、その雇用と労働条件の底上げをめざしているのです。
 韓国の首都である大都市、ソウルの市長はパク・ウォンスン(朴元淳)さんですが、革新市長として労働・社会分野でも素晴らしい独自政策を積極的に展開しています。なかでも、ソウル市関係の非正規労働者約7,000人を正規職化する政策は画期的なものです。このパク市長の労働政策は、市長選挙にあって公共運輸労組や市民団体との間で締結した政策協定の実現ということです。ソウル市が先頭になって、劣悪雇用の改善を進めていることは、日本にも大きな示唆を与えるものと思います。たとえば、公共部門の非正規職は、公務員にはできなくても、実際の職務にもとづいて相応しい処遇をするという考え方です。ソウル市は、労働契約による非正規職を正規職に転換して、いわゆる無期雇用にした後、「公務職」という独自の新たな職位を作って、無期転換した労働者を可能な限り公務員に近づけて処遇することにしています。
 日本の場合は、むしろ国や自治体が率先して非正規公務員を増やしています。とくに市民にとって重要な公共サービスは、それを担う労働者の労働条件、雇用のあり方がサービスの質と直接に関連しています。市民に直接サービスを提供する現場で働く労働者の不安定な雇用を改善しようとする韓国の動向とは、非常に大きな違いがあると思います。とくに、公共部門における非正規職の正規職転換は、積極的とは言えないとしても、保守的な李明博政権や朴槿恵政権も否定できず、それを進めていることは注目すべき点だと思います。
 とくに日本との比較で重要な点は、韓国では労働組合が、以前に比べてずい分弱くなったとされますが、活発な運動、とくに経営者や政府に対抗する活動を市民団体と共同して進めており、ストライキも含めて闘っていることです。
 2008年のリーマン・ショックのときに、解雇・リストラが世界で吹き荒れました。その年の争議損失日数は、世界一がアメリカ、その次がフランス、その次が韓国で、年間80万日でした。ところが、同じように製造大企業で「派遣切り」が広がった日本は1万日でした。日本の労働人口は韓国の約3倍ですので、それを考えると、韓国は日本の約240倍も争議を行ったともいうことができますので、日本とは比較にならないほど、労働組合が経営者に対する集団対抗力を維持してきたと思います。
 今、安倍首相は、賃金引上げを政府が上から経営者に求めるようなポーズをとっていますが、労働条件を決めるのは、やはり集団的な労使関係だと思います。
 労働行政についても、30年前になりますが、当時のイタリアでは職安の登録者リストを、労働組合が代表を出して決めるという仕組みができていました。とくに、現場労働者、ブルーカラーについては、職安を通さないと企業として自由に雇えないという仕組みがあり、企業の直接採用を規制していました。労働組合は、職安だけでなく、労働市場関連の政策や制度に参加するという「代表性」をもつ組織として公認されていました。日本の労働組合は、組合所属員を代表するという意識が強く、外部からもそう考えられています。しかし、EU諸国では、職場での協議を含めて非正規労働者を含めた職場全体の労働者を代表する組織、さらに労働条件決定での集団的労働者代表の仕組みを有することが基本になっています。

(4)これから日本が重視すべき課題
 日本の雇用のあり方について、重要と思われる内容は六つにまとめられると思います。(ア)就労の実態にもとづいて労働者を保護すること、(イ)長期雇用を前提とする常用雇用が原則であること(有期雇用は、例外で「入り口規制」が重要です)、(ウ)均等待遇、(エ)間接雇用は原則禁止すること、(オ)公正な労働条件の保障・社会保障の適用、そして、(カ)団結権保障が重要です。
 韓国では、非正規労働者が多いのですが、保守政府が「雇用形態公示制度」といって、ある企業に派遣労働、有期雇用、短時間労働(パート)、社内下請などが、それぞれどれくらいの割合、人数いるかを対外的に公示することを、300人以上の企業に義務づけています。実際、インターネットで公示されています。この公示制度とは別に、非正規職保護法で、有期雇用や派遣労働の場合、2年たったら正規職転換しなければなりません。この間、大企業で3年目の派遣労働者がいることが問題となっています。制度的には2年を超える派遣労働の受け入れは許されないからです。
 日本では、大企業も含めて、その企業に、社内下請を含めて、非正規雇用労働者が何割、何人働いているか、このような情報を明らかにすることを義務づけていません。韓国では、いわば労働側が企業に「見える化」を義務づけているのです。
 さらに、社会保険についても、零細企業や非正規雇用労働者の適用率が低いという「社会保険死角地帯」問題がありますが、労働団体、市民団体の要望もあって、不適用労働者をなくす意味で「発掘」という用語が使われ、法の適用を本来どおりにすることを行政の義務としています。そのなかで「トゥルヌリ事業」と呼ばれる、「あまねく」社会保険適用拡大といった意味の政府の取組みがあります。これは、どんな労働者も社会保険に加入しないとならないことで、とくに年金や雇用保険について10人未満の事業所、あるいは月140万ウォン(日本円では約10万円)の労働者については、政府が税財源から2分の1の保険料を援助するという事業です。韓国では、保守政権ですら、公正な労働条件保障・社会保障を重視しているわけです。日本は、政府の姿勢だけでなく、全体を代表するという点で労働組合の取組みとしても非常に違いがあると思います。
●森崎 労働市場政策は非常に幅広い分野に及ぶわけですが、公務労働のあり方、労使関係のあり方、労働条件決定のあり方、非常に多岐にわたって指摘をいただいたと思います。
 あるべき労働市場政策ということで言うと、この間、厚労省に「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」が2015年3月に設置され、過日、報告書が出ました(2016年6月3日)。ここには今後の労働市場政策の一つの方向が示されているわけですが、これをどう見るか。短い時間で恐縮ですが、河村さんからコメントをいただけますか。

 

3 求職者保護の強化

●河村 この報告書ですが、たとえば、虚偽の求人を出した企業には罰則を適用すべきだなどとも書かれてあり、一部報道では、ずいぶんこれを前向きに評価して、規制強化に乗り出したという指摘もありました。
 しかし、全体を見たら、先ほど脇田先生が述べられました、有料職業紹介事業者の面積要件である「4メートル」×「5メートル」の20平米を緩和することなども提起されています。しかも、実務担当者からも、実際に許可申請に際して、「マンションの一室だけど、大丈夫だろうか」、「事業者としての責任を果たせるのか」という疑問はぬぐえないとの声も聞いています。そんな状況のなかで、この基準をさらに緩和しようということです。
 「事務所内で職業相談なんかやらないんだから、そういう要件は外し、他の適切な措置が講じられればいい」とも述べられています。全体を通じて、さらに詳細な分析は必要だと思いますが、かなりの規制緩和がうたわれていると思います。
 私は、何としても言いたいのは、派遣にしても、有料職業紹介にしても、人材ビジネスと雇い入れる、あるいは派遣労働者の受け入れる求人企業との関係は、圧倒的に求人企業が有利だということです。派遣にしても、職業紹介にしても、年齢・性別のオーダーは当たり前です。安定所は、それはやってはいけないと窓口で繰り返し指摘していますが、「30代、女性」と言われれば、人材ビジネスの側は聞くしかありません。さらには、容姿までも平気でオーダーしてきます。そこに逆らったら、そんな人材ビジネスからは人を採りません、きちんとオーダーを聞いてくれる所からしか人は採りません、となってしまうのです。
 そういう点では、私は、労働者、求職者の人権を守るために、そういう行為をより実効あるかたちで規制すべきであり、こうした方向転換が必要だろうと思っています。そのためには、労働運動が重要であり、その力でそういう規制をしていく必要があるのではないかと考えています。
●森崎 ありがとうございます。ここで会場からも、あるべき労働市場政策の方向性について発言をいただきたいと思います。この本の執筆者の一人でもあります中村和雄先生から、発言をいただけますか。

 

4 同一労働同一賃金

●中村 この本を読ませてもらって、あらためて、労働行政は公務でしっかりやらないとたいへんなことになることを痛感しました。人材ビジネスのひどさを本当に痛感したので、これから努力していきたいと思っています。
 この本の「同一労働同一賃金」の項(W章5)について、書かせていただきました。いわゆる日本型雇用がグローバル化のなかで行き詰まって、そして、今、政府や財界などがやっていこうとしているのが、流動化、多様化、劣悪化、そして、分断化だと思っています。
 それに対して、どのようにしてきちんと対応していけるのか、労働時間の規制とか、最低賃金の引き上げとか、公契約条例とか、そういうことも非常に重要だし、もう一つ、われわれがきちんと対応する政策として同一労働同一賃金があると考えています。分断される雇用政策に対して、団結して、連帯して活動していくという労働運動全体を共有化することにも役立つと思っています。
 今政府が考えている同一労働同一賃金は、言葉は同じようなものを使いながら、現状肯定型でおそらく収まってくるのではないかと懸念しています。この間、これの提唱者でもある水町勇一郎先生や、いろいろな人たちから説明をいただいたのですが、だんだんトーンが弱まってきました。最近は、「同一労働同一賃金」という言葉をあまり使わなくて、「合理性」という言葉が中心となっています。
 ところで、パート法の改正のときに、厚労省は少し先取りをして、職務評価の基準などをインターネットに出しています。そのなかで職務評価のやり方を提示してパートと正社員の職務の評価は各々の判断で違うようにやってもよいということを言っておいて、さらにもう一つ、「活用係数」という用語を作って、「人材活用の仕組みが違うんです。パートさんは正社員と違います。配転がありません、転勤がありません、残業がありません。だから、人材活用でも仕組みが違うので、活用係数というものを用いて、『0.8』とか『0.7』を掛けてください」というようなことを、平気で言っているわけです。
 パートだということで二重に差別評価される。職務評価で「0.8」で、人材活用の仕組みで「0.7」だったら「0.56」です。今、正社員の6割すなわち「6」をめざすと言っている数がそのまま当てはまる。そういうことを平気でやろうとしています。ぜひそれに対してきちんと反論していくことが必要です。人材活用の仕組みがどの程度の評価になるかということが、いろいろな所で議論になっていますが、本来、職務が同じであれば同じ賃金を出すということが原則です。人材活用の仕組みの違いが評価に多少入ったとしても、そんなものが大きな格差になってはいけないという共通基盤確立の運動を、ぜひつくっていただきたいと思っています。
 同一労働同一賃金というものが、本来、どうあるべきものなのかということについては、前から議論されてきました。ILO条約などができた経過をふまえれば、これは労働者全体にとっては非常に有効な手段として使えるものだと思っています。「正社員の賃金を低下させるためだけに使われる」というようなことで反対するのではなくて、労働というものに対して、きちんと働いたものは賃金として、みんなで公正に取得していこうじゃないか、今の正規と非正規の二層化の分断社会を、正規も非正規も、ディーセント・ワークの権利を確立していく、労働者が安心して働ける正しい社会にしていくための手段として、同一労働同一賃金をぜひ各地の運動のなかでも取り入れていただきたいと思っています。
 実は、昨日、プリントパックという、「ネットで印刷」というキャッチフレーズで、ゴールデンタイムにやたらと宣伝を流している会社の事件の労働委員会の期日がありました。聞くところによると、労働組合の一部でもずいぶん使っていると聞いています。どういう企業かというと、非常に早くて安い、ネットでの印刷をやるわけです。
 どういうふうに労働者が使われているかというと、一台の機械に、12時間シフトの昼と夜の労働者が2人付きます。昼と夜、12時間ずつです。それが週5日勤務というかたちで行われていて、始めからシフト上、12時間勤務が組み込まれていますので、労働時間がだいたい1ヵ月で80時間くらい残業になるわけです。
 給与は、最終的には30万円弱もらっているのですが、どういうふうにされているかというと、基本給は全員ほとんど14万円台です。京都の最低賃金は807円なので、ぎりぎり上回るくらいです。多少手当がつきますが、あとは固定残業代です。90時間分の固定残業代が付いています。だから、80時間残業をしたって、30万円しかもらえない。そういう体質のなかで、どんどん過労状態となり、事故が起きたりして、たいへんなことになっています。
 だから、若い二人が、これを改善しようとして労働組合をつくって動き出したら、「もうおまえらは要らない」と、別の梱包などの部署に配転するということが起きています。そして、彼らを配転しただけではなくて、残業をさせないわけですが、残業しないので賞与はゼロで、昇給もゼロということになりました。「これは会社の『お客様第一主義』の社是に反する」ということで、そういうことをやってくる。多くのブラック企業≠ニ言われる所の体質そのものです。別に、プリントパックだけの問題だと思っていません。
 これを改善する、こういうことをきちんと是正していくためにも、私は同一労働同一賃金ということが非常に有効な手段だと思っています。最低賃金を引き上げて、同一労働同一賃金を実現していけば、こんなむちゃくちゃな雇用というものができなくなっていく。そのためにも、ぜひ何とかしてこの制度を実現していく必要があるのかなと思っています。

労働組合の役割と運動の方向

●森崎 次に、労働組合の役割、あるいは運動の方向という観点から、考えてみたいのですが、労働市場政策の場合は、様々な事業で展開することが非常に多く、まずは、その立案過程にも労働組合がしっかりとコミットしていくことが非常に大事だと思います。
 伍賀先生から、労働組合が向き合うべき課題等を指摘いただければと思います。

1 組合本来の力を発揮できるような立場に立って

●伍賀 私は、非正規雇用がかかえる困難について申しましたが、「非正規労働者の問題は、正規雇用の問題でもある」ということを強く言いたい。正規労働者と非正規を対立的に捉えないことが肝心じゃないかと思います。
 そういう視点で見ると、労働組合が非正規労働者の課題を、自らの問題として捉える立場に立てないケースが依然としてあります。労働組合の多くは正社員で組織されていますから、そうなる力が大なり小なり働くでしょう。しかし、実態を見ると、非正規労働者は同じ使用者のもとで、正社員と並んで働いているわけですから、仮に派遣社員であっても、その人たちは別会社の人間だというふうに考えないで、同じ仲間と捉えることが肝心ではないかと思います。
 最近、私が注目している民放労連傘下の京都放送労働組合では、この十数年間にわたって、請負労働者の直接雇用化、さらには正社員化に取り組んで数々の成果をあげています。現在は、春闘の賃上げ、ボーナス要求とあわせて、業務請負で18年間働いている女性を、直接雇用に切り換える要求を掲げて取り組んでいます。直用化を求める署名も、民放労連傘下の組合や他部門の組合、さらに市民からも集めていると聞きました。このような視点に立つことがたいへん大事だと思います。
 とりわけ、新派遣法の規定によって、施行3年後、具体的には2018年の8月、9月には、派遣先企業が派遣労働を継続して活用する場合、従業員の過半数で組織する組合、または過半数代表者の意見を聴取しなければなりません。その際に、派遣先の労働組合の対応が問われてくるわけです。そういう場合に、会社の方針をそのまま了承するのではなく、派遣労働者の要求をしっかりと聞いて使用者と交渉してほしいと思います。すぐに正規雇用に転換することは容易でないとしても、労働条件の引上げや均等待遇などを掲げて、労働組合の力を発揮して取り組んでいただきたいと思います。
●森? 脇田先生にも、同じく労働組合の今後のあり方、進むべき方向を諸外国の例なども念頭に、コメントをいただければと思います。

 

2 職業紹介、職業安定や失業保険に労働組合が取り組む

●脇田 私は、労働組合は、所属の組合員だけを代表するものではなく、国、産業、職種、地域、職場など、一定の単位に属するすべての者を代表する、代表的労働組合でなければ駄目だと思います。現在、そのような思いをより強くしています。
 とくにフランスや私が勉強したイタリア、スペインなどもほぼ同じだと思いますが、労働組合は活動家(active member)の結社(association)です。フランスの場合、これは全体の一割にも達していません。この組合が呼びかけたストライキに、労働者が個人として参加できます。憲法上、ストライキ権は個人の権利だからです。イタリア、フランス、日本は、ストライキ権を保障していますが、労働組合の権利ではなくて労働者個人の権利です。組合に入っていなくても、組合の呼びかけに応えれば、集団性を帯びて仕事を拒否することが権利であるストライキとされます。憲法上の権利ですから使用者は解雇できません。
 実際、フランスでは、7割、8割の未組織の労働者が参加して「一時的団結(coalition)」ができます。その結果、獲得した労働協約は組合員だけに適用されるのではなく、場合によっては95%に及ぶ労働者の多数に拡張適用されます。このような産業別労働協約が、非常に大きな実際的意味を持っています。日本では、中曽根流の官民分断、派遣法による正規・派遣の分断など、労働組合は多様な分断で孤立化しています。これを乗り越えて、労働者全体を代表できる組織に生まれ変わること、これが労働者、市民の主導で「劣化する雇用」を改善するための前提になると思います。
 日本でも近年、様々なユニオン、地域労組、あるいは青年ユニオン、POSSEなど、自らの組織構成員だけのためではなく、労働者全体の雇用・労働条件改善のために活動して、影響力を拡大しています。このような取組みに将来性があると思います。
 とくに、今日のテーマでは、職業安定法や雇用保険に関連した問題に、労働組合が、従来、どこまで本気で取り組んできたのか。求職者、つまり職を失っている人がまともな仕事に就きたいという切実な要望に向き合い、彼らをも代表しなければなりません。
 職業紹介、雇用保険にも労働組合として関心を持つべきです。ヨーロッパではゲントシステムと呼ばれる、労働組合が失業保険の主体となる仕組みがあります。スウェーデンの組合は、組織率9割ですが、失業保険を労働組合が運営していることも高い組合組織率の理由となっています。フランスも、労働組合が使用者団体と失業保険の運用について協議して、その結果を、政府に強制する「労使の自治」を前提に失業保険制度が運用されています。
 まさに職業紹介、失業保険運用など、労働市場で労働者全体を代表する労働組合の取組みが重要です。そのような課題をしっかりと把握して、全体代表的な志向をもつ組織ができたときに初めて、日本の現在の状況を大きく転換できるのではないかと思っています。
●森? 労働組合が重視すべき観点と課題を示していただいたと思います。最後に、河村さんにお聞きしたいのですが、今回のシンポジウムで取り上げた課題のなかで一つ抜け落ちているのは、職業能力開発の部分だと思います。この間の職業能力開発行政の動きにも注目すべき点があろうかと思います。簡単に指摘をいただけたらと思います。

 

3 職業能力開発行政

●河村 職業能力開発は、この数年大きくクローズアップされてきました。とくに、日本再興戦略では、これを非常に重視しています。『劣化する雇用』のなかでは、ジョブ・カード、職業能力評価基準、セルフ・キャリアドック、主にこの三つを柱に立てました。ここでは、とくにセルフ・キャリアドックについて述べたいと思います。
 この間の議論で言うと、労働者が人間ドックを受けるように、定期的にキャリア診断を受けるという仕組みをあらゆる企業で作って、すべての労働者はそれを受けるということが議論されています。すでに制度は始まっています。キャリアコンサルタントを採用して、自社でそういう仕組みを作った企業には今、助成金が出ます。そういう仕組みがない企業で、外部委託によってキャリアコンサルティングを受診する労働者に対しては、雇用保険の教育訓練給付でその一部が助成されることが決まっています。
 これが労働者のためになるならいいのですが、このキャリア診断がどう使われているかが問題です。リストラの対象となった労働者の再就職支援の現場では、あなたの能力を全部書き出してみろ、それぞれの能力が市場でどれだけの価値があるかを考えてみろと、迫られます。そうすると、「あなたは今800万円もらっているかもしれないけども、あなたの市場価値は、せいぜい250万円くらいだ。その程度だと思って、仕事を探せ」というふうに使われていきます。そういうことが一部ですでに起きているのです。
 したがって、このように「今の賃金はもらい過ぎです」とか、あるいは、「わが社に居ることがそもそも危なくなります」とか、そういう誘導の道具に使われやしないかというのを、私たちは非常に心配しています。様々な職業能力開発のメニューは、いずれもそういう危険な側面があると思っています。


おわりに
●森崎 様々な観点から労働市場政策の課題を明らかにすることができたと思います。短い時間のなかで、なかなか語り尽くせなかった部分も多くあったと思いますが、この集会が、私たちが新しい労働市場政策の構築に向けて力を合わせる契機になればたいへんうれしく思います。最後になりましたが、お忙しいなか、本集会に足を運んでいただいた皆様に心から感謝を申し上げて、シンポジウムを終わりたいと思います。


今回のシンポジウムで使われたデータ資料PDFを((図1〜図17)ダウンロードする