雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

「職業紹介等に関する制度の改正について」(報告)に関する見解


2016年12月
全労働省労働組合 中央執行委員会

はじめに

 労働政策審議会職業安定分科会需給制度部会は12月7日、「職業紹介等に関する制度の改正について」(報告)をとりまとめた。これは、厚生労働省に設置された「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会」による6月3日の報告書の内容をほぼ踏襲したものである。
 全労働は9月、「『雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書』に関する見解」を発表し、検討会報告が求める人材ビジネスに関する規制緩和は、求職者の権利を後退させる危険が大きいものであると指摘した。今回の報告は、その危険性を現実としかねないもので看過できない。上記見解にて問題意識を述べたところであるが、あらためて以下に問題点を指摘する。

1 基本的考え方

 報告は、「職業紹介事業や募集情報等提供事業等、求職者や求人者が利用する事業の多様化が進む中、‥適切かつ円滑なマッチングを進めていくことも求められている」として、多様な人材ビジネスを労働市場における「適切かつ円滑なマッチング」の主要な担い手の一つと位置付け、「職業紹介事業等の機能強化‥に向けて‥具体的措置を講ずることが必要」としている。しかし現実は、人材ビジネスにとって求人企業や派遣先は重要な「顧客」であるために、職業紹介や労働者派遣に際しては求人企業や派遣先の意向が反映しがちであり、法令等が禁止する性別や年齢による差別、容姿等の差別も散見される。一方、公的職業紹介は、求人事業主に対して求職者が相対的に弱い立場に置かれることをふまえ、国の機関がそこに介在し、多様な雇用施策と一体となった職業相談(適格紹介)によって再就職の実現をはかることにより、求職者(労働者)の諸権利を保障する目的を有している。人材ビジネスの役割と法規制を論じるのであれば、こうした権利保障の観点が十分配慮される必要がある。こうした点で報告は、差別の禁止や権利保障といった、最も重視すべき視点を欠いている。

2 職業紹介責任者

 報告は、職業紹介責任者講習について、「新規受講者のみ必修となっている科目を、受講者全員に必修とする」「労働関連法令等の改正の動向、他の従業員に対する教育方法等を追加する」「理解度の確認のための試験を実施する」ことなどを求めている。現行の講習内容はあまりに不十分であり、拡充の方向性は当然である。問題は求職者等の権利保障の観点から、講習をいかに充実させるかであるが、報告が明確にしているのは、新規受講者のみ必修としている「民営職業紹介事業制度の概要について(1時間)」と「職業安定法及び関係法令について(1時間)」を全員に受講させることにとどまっている。それ自体は若干の前進ではあるが、課題も多い。現在の講習は差別の禁止などを柱とする「公正な採用選考の推進について」を内容に含むが、前述したように、性別、年齢、容姿等による差別が横行しており、報告はそうした実態の原因分析や対策について何ら触れていない。また、講習を5年に1回受講すれば良いとされる点についても、充実に向けた記述がない。職業紹介責任者の選任要件は、職種等を問わず職業経験が3年あり、1日の講習を受講すれば良いとされているだけで、きわめて緩いものとされている。したがって、これを抜本的に見直し、職業紹介の実務経験を求め、制度・法令の概要にとどまる講習内容を、質・量ともに充実させていくことが不可欠である。同時に、「他の従業員に対する教育方法」についても、職業紹介責任者講習の水準同様とすべきと考える。

3 職業紹介事業者に関する情報提供

 報告は、人材ビジネスに対して、常用就職の実績と、その内6ヵ月以内の離職者数や、手数料に関する情報について、インターネットで提供することなどを求めており、これらは個々の人材ビジネスの状況をある程度透明化するものである。
 一方で報告は、公共職業安定所(以下、安定所)に対して、「適切かつ円滑なマッチングを進めていく観点から、求職者又は求人者が必要とする場合、情報提供を希望する職業紹介事業者等に関する情報を提供するものとすることが適当」としている。これは、安定所が従前以上に人材ビジネスの情報を求職者や求人者に提供することを求めるものである。現在、安定所では、日本再興戦略の要請にもとづき、職業紹介事業者や労働者派遣事業者のチラシ(A4表裏程度)をファイリングして公開し、希望する求職者に提供するサービスを実施している。しかし、希望する求職者はほとんどなく、案内しても「安定所の相談を受けに来ているのに、なぜ人材ビジネスに誘導するのか」との苦情が寄せられている。また、チラシの内容は人材ビジネスが一方的に作成しており、安定所のチェックを経ていない点でも、安定所業務の中ではきわめて異質なものである。報告は、こうした現状の問題点についてはいっさい言及しておらず、逆に、何らのチェックを経ない人材ビジネスの情報を積極的に提供し、利用を促す意図が見え隠れする。

4 職業紹介事業者間の業務提携等

 報告は、求職者の同意を前提に、10事業者を上限とする職業紹介事業者との間での業務提携を可能とすることが適当としている。これは求職を受理する職業紹介事業者が、求人情報を有する遠隔地の職業紹介事業者と連携し、求職者が遠隔地の職業紹介事業者に求職登録することなく、職業紹介を可能とするものである。しかし、求職受理事業者が遠隔地の労働市場や求人内容に精通しているわけではなく、「この事業者には適切な求人がある」と求職者を説得し、求職者の情報を他の事業者に提供することは、適格紹介の観点から疑問が大きい。有料職業紹介事業は、求人事業主からの手数料収入で成り立っており、報告の求める事業者間の業務提携では、求職者情報を提供する事業者にも手数料収入が配分されることが想定される。そうなれば、求職者情報の提供自体が新たなビジネスとして広がることになりかねない。このような規制緩和は実施すべきでなく、求職者は求人受理事業者に求職登録を行って、求人情報の十分な説明を受けた後、紹介を受けることが適当である。

5 就職した労働者の早期離職等への対応

 報告では、職業紹介事業者の紹介によって就職した労働者が早期離職した場合、手数料の返戻制度を設けることや、そうした制度を求職者に明示することを求めている。この点について、人手不足感の強い職種を中心に、早期離職が求人企業の大きな負担になっており、悪質な事業者と求職者が結託し、長期に就職する意図がないと疑われる紹介の事例も散見され、これらに対応する必要性は理解できる。しかしながら、在職期間に応じた手数料設定や返戻金の創設は、長期の安定雇用を促す側面もあろうが、逆に「退職の自由」を阻害する危険性も考慮される必要がある。早期離職の原因を求職者に求める議論は多いが、離職の要因は多様であり、劣悪な労働条件や職場環境など、求職者の責任ではない原因も決して少なくない。そうした中で、労働者の早期離職が人材ビジネスの返戻金支払い義務に直結すれば、労働者は人材ビジネスによって意に沿わない仕事を強いられたり、人材ビジネスから返戻金に相当する額を請求される事態も懸念される。こうした労働者の不利益を防止させる措置こそ十全に講じられることが必要である。

6 面積要件・事業所外での事業実施

 報告では、おおむね20u以上とする面積基準について、「個室の設置やパーティション等で区分して職業紹介の適正な実施に必要な構造・設備を有すること」や、「予約制や貸部屋の確保によって他の求職者や求人者と同室にならずに対面の職業紹介を行うことができるような措置が講じられていること」で代替できるとしている。しかし、そもそも20uにも満たない狭小事務所を個室やパーティションに仕切ったきわめて狭隘な場所を「職業紹介の適正な実施に必要な構造」と評価することに疑問がある。予約制で職業相談を実施しても、予約のない新規求人や新規求職の来客があれば、たちまち「他の求職者や求人者と同室にならずに対面の職業紹介を行うことができるような措置」は崩れる。貸部屋の確保は、近年増加している貸し会議室の類を想定しているのであろうが、常に空室があり随時利用できる保障などまったくない。人の就職という重要な課題を扱う事業が、「携帯電話1台あれば誰でもできる」手軽なものであってはならない。一定の面積基準を満たした事務所を継続的に確保することは、職業紹介事業者として社会的信頼を得るために不可欠な条件であり、これを維持すべきである。
 事業所以外での事業実施についても、報告は「職業紹介責任者が当該事業所外にいる場合又は当該事業所外に速やかに到着できる場合であり、かつ、プライバシー保護や個人情報保護の措置が実施される場合」について可能としている。しかし、プライバシー保護や個人情報保護の措置が、個々の職業相談の場面でいかなる手段で講じられたかを確認することなど不可能である。少なくとも、面積や環境などをきめ細かく基準として定め、事前の届出もしくは事後の報告によって、履行確保をはかることが必要である。
 あわせて、求職者のプライバシー保護や個人情報保護の措置が適切に講じられていない場合に対する、苦情申し立て方法や事業者への罰則など、実効ある方策が示されなければならない。

7 個人情報等の管理

 報告は、職業紹介事業と労働者派遣事業を兼業する場合の個人情報の管理について、目的外使用を禁止することを前提に、「別個の管理は要しないこととすることが適当」としている。全労働が9月に発表した見解に詳細な背景を述べたところであるが、安定所が有料職業紹介事業者にオンラインで提供している求人情報について、現状においても職業紹介に使われるのではなく、労働者派遣事業の「営業先リスト」として使用されている疑いはきわめて濃厚である。そうしたもと、別個の管理を求めないとすることは、今以上に、労働者派遣事業者が安定所の求人情報に自由にアクセスすることを可能とするものである。これは、求人情報のオンライン提供にあたって、厳しく規制すべき情報の目的外使用を事実上なし崩しにする動きであり、とうてい認められるものではない。

8 労働条件等の明示

 報告は、「求人者が当初の求人条件に明示していなかった労働条件を新たに提示しようとする場合」「当初の求人条件と異なる内容の労働条件等を提示しようとする場合」などにおいて、その条件を書面で明示しなければならないようにすることが適当としている。これは、求人条件と異なる条件で働かされる「虚偽求人」に対応するもので、一見すれば規制強化である。しかし、安定所では、求人事業主から募集要件と異なる条件で採用したい旨の連絡を受けた場合(あるいは求職者から相談があった場合)、書面での明示ではなく、既存の求人を取り消し、再度新たな条件で求人を提出し、その上で紹介を受けるよう指導するのが通例である。安定所では、求職者の適性や能力、生活に必要な賃金水準等を把握し、求職者とともに求人内容が適格であることを確認した上で職業紹介を実施する。ところが、面接時に当初の求人条件と異なる内容が提示されれば、適格紹介の前提が崩れてしまい、新たに提示された条件について安定所と求職者で相談することができない。求職者は、求人事業主に対して弱い立場であるため、公的職業紹介では、安定所が介在して求職者に注意点を十分説明し、必要に応じ求人者に詳細な条件を確認することがきわめて重要である。報告の示す方向性は、これまで安定所が行ってきた適格紹介に向けた努力を否定しかねず、書面で明示さえすれば、いかようにも求人条件を変更できるとするに等しい。見栄えの良い求人を提出して求職者を集め、実際の労働条件は自由に変更し、安定所が関与することなく求職者に書面で納得させれば良いとするのではなく、求人条件を実際の労働条件に合致させることこそが求められているのであり、当面、求人票に「求人条件以下の内容では採用しない」とのチェックボックスを設けるなど、信頼性を高める方策こそが必要である。

以  上