雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会報告
(2015年12月24日)についての見解

2016年1月
全労働省労働組合

1.雇用保険制度の現状

 労働政策審議会雇用保険部会は2015年12月24日、雇用保険部会報告」(以下、部会報告)をとりまとめた。

 部会報告は「雇用保険制度の現状」において、2015年10月の有効求人倍率が1.24倍、完全失業率が3.1%であることから、「雇用情勢は、着実に改善が進んでいる」との認識を示している。しかし、公共職業安定所(以下、安定所)第一線の実感は、数字上求人数が増加し、求職者数は減少しているものの、非正規求人や低賃金求人が多数を占めており、再就職の困難性は改善している状況にはないというものである。2015年10月の有効求人倍率も、正社員に限れば0.77倍(季節調整値)であり、正社員就職が「狭き門」であることに何ら変わりはない。求人・求職の賃金額においても、再就職の厳しさを見て取れる。最低賃金額が最も高い東京労働局の2015年10月の状況を見ると、たとえば営業職の平均求職賃金は297,594円、求人賃金は上限が309,032円、下限が219,577円となっている。企業側が、求職者に用意できる最高水準の額と、求職者の希望賃金の平均額がきわめて近く、逆に求人賃金の下限額は求職希望賃金とには8万円もの開きがあり。これでは再就職は容易ではない。安定所の求職者で希望の多い職種では、たとえば一般事務の求職賃金が229,328円であるのに対し、求人賃金の上限は242,831円、下限は190,105円である。商品販売では、求職賃金226,751円に対し、求人賃金の上限242,481円、下限186,039円。介護サービスでは、求職賃金204,057円に対し、求人賃金の上限228,604円、下限198,698円。保安(警備)では、求職賃金198,548円に対し、求人賃金上限207,623円、下限177,944円。製品製造・加工処理では、求職賃金214,933円に対し、求人賃金の上限255,504円、求人下限189,612円などとなっている。東京都内においても、多くの職種で求人の月額賃金は20万円前後であり、手取り賃金を考えると、「雇用情勢の改善」と言える状況にはない。

 地方になれば、さらに厳しさは増す。同時期の福岡労働局管内では、一般事務の求人賃金の上限は191,000円、下限は160,000円。介護サービスでは、上限189,000円、下限160,000円。保安(警備)では上限161,000円、下限147,000円である。

 雇用の質的劣化が止まらない中で、雇用保険の失業給付が脆弱であれば、生活できないとわかっていても無収入となるわけにはいかず、低賃金に耐えるか、長時間労働もしくはダブルワークに就くかを選択せざるを得ない。こうした中で、現下の厳しい雇用情勢を正しく把握し、雇用保険制度のあるべき姿を検討することが必要である。部会報告は「雇用情勢の改善」との認識を前提としているが、全労働は「非正規・低賃金求人が多数を占めており、再就職は容易でない」との情勢認識のもと、部会報告を検討する。

 

2.基本手当の見直しの方向について

 雇用保険制度は、2000年の制度改定によって、雇用保険被保険者期間と離職時年齢によって決定されてきた所定給付日数を変更し、離職理由によって差をつける制度となり、「特定受給資格者」を厚くする一方、特定受給資格者以外の所定給付日数を大幅に削減した。また、2003年改定では、従前、離職前12ヵ月間に被保険者期間が6ヵ月以上あれば受給資格が発生したものを、この要件を特定受給資格者に限定し、それ以外は離職前24ヵ月間に被保険者期間が12ヵ月以上あることを必要として、受給資格要件を厳格化している。これらによって、雇用保険の給付は大幅に縮小されている(たとえば、45歳・勤続8年の特定受給資格者でない所定給付日数は、2000年以前には210日であったが、現在では90日)。

 実際、厚生労働省雇用保険事業月報によると、2015年10月の雇用保険基本手当の受給者実人員は454,295人、同月の総務省労働力調査による完全失業者数は208万人、したがって、完全失業者の22%しか雇用保険を受給していない。

 また、2014年度の「雇用保険事業年報」によると、同年度における所定給付日数が90日の受給者の割合は、初回受給者比で58.3%、受給者実人員比で45.5%となっている。受給資格者の約6割が、わずか3ヵ月しか雇用保険の失業給付を受給していないのが実態である。

 さらに、雇用保険で支給される基本手当日額は離職前賃金の5〜8割とされているが、最低額と年齢ごとの最高額が定められている。2016年1月現在、最低額は1,840円、最高額は最も高い45歳以上60歳未満で7,810円、最も低い30歳未満で6,395円となっている。そのため、離職時点でいくら高い賃金を得ていても、218,680円(45歳以上60歳未満、通常の4週間分の失業認定)が上限であり、離職時賃金を大幅に下回る。

  加えて、支給開始時期についても問題があり、2014年度の一般求職者給付受給資格決定件数1,564,722件のうち、自己都合退職 による3ヵ月給付制限は766,673件、全体の49%の受給者が「自己都合退職」を理由に受給資格決定後(正確には資格決定日を含む7日が経過した待期満了後)3ヵ月間は失業していても失業給付の対象にならない。

 先に述べたように、雇用情勢は数値上の改善はあるものの、非正規や低賃金求人が多数を占めており、再就職は容易ではない。そうした中で、雇用保険法が掲げる「必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする 」との目的が果たされているとはとうてい認めがたい。雇用保険部会では、労働者代表がこれらの点を繰り返し指摘したが、部会報告は「労働者代表委員からは、現在の雇用保険の財政事情や最低保障の考え方等から給付水準(給付日数、給付額、給付率等)や給付制限期間の見直しを行うべき旨の意見があった」ことを示した上で、「使用者代表委員からは、基本手当受給者の再就職状況等の指標について前回改正時と変化が見られないことやモラルハザードの観点等から見直しの必要性が乏しい旨の意見があった」「今後の雇用情勢等を踏まえつつ、引き続き、今後の在り方について検討すべき」と結論を先送りしている。あわせて、議論の中では、給付の拡充が「失業なき労働移動」に悪影響を及ぼしかねないとの意見もあるが、これは実態を見誤ったものである。現在の給付水準は「生活の安定」が得られるものではく、「失業なき労働移動」が実現できないのは、安心して働ける求人が見つからないことによるものである。雇用環境を改善するためには、中小企業の経営環境を改善し、最低賃金の大幅引き上げなどにより賃金の底上げを図るとともに、直接雇用・常用雇用を増やし、失業しても安心して働ける再就職先の確保や、公的職業訓練の拡充が必要である。そのような環境がまったく整っていない現状では、労働者代表委員が指摘するように、「給付水準(給付日数、給付額、給付率等)や給付制限期間の見直しを行うべき」である。

 

 なお、部会報告は、事業主による不利益取り扱いによって離職した場合であっても、特定受給資格者の基準に該当しない事例が見られるため、特定受給資格者として整理すべく、基準の見直しを求めている。現行の特定受給資格者制度が存在する中では、この判断は妥当であるが、そもそも離職理由によって所定給付日数に大きな差を設けること自体に疑問がある。労働者が唯一の生活の糧を得ている仕事を辞めるには、一つひとつに大きな理由がある。しかるに、現行制度では、事業主からのいじめがあったとしても、離職者がそれを証言できる者を具体的に挙げ、その者から具体的証言が得られる等の確認ができなければ、自己都合退職者として給付制限がかかるとともに給付日数が抑制される。こうした制度を抜本的に見直し、すべての求職者の安心を実現すべきである。

 

3.就職促進給付について

 部会報告では、再就職手当の受給割合が上昇し、当該手当の早期再就職への効果を評価した上で、給付制限期間中の再就職割合に大きな変化が見られないことを問題視し、支給割合を引き上げるべきとしている。また、2014年に新設された、離職時賃金と再就職後賃金の差額6月分を一時金として給付(基本手当支給残日数の40%相当額を上限)する就業促進定着手当について、その上限額を支給残日数の100%とするよう求めている。

 これらは給付の改善であるが、決して手放しで歓迎できるものではない。給付制限中の再就職手当については、前述したように給付制限そのものが失業中の求職者の生活を脅かし、意に沿わない条件であっても再就職を急がざるを得ない状況に追い詰めるものであり、職業選択の自由を侵害する制度である。そこに一時金のインセンティブを付与したところで、生活の安定には結びつかず、「再就職を急げ」との圧力に他ならない。就業促進定着手当に至っては、「賃金水準の低下を一時金として補うので、低賃金求人への就職を急げ」と言うものでしかない。したがって、就業促進定着手当を廃止し、その財源により再就職手当を拡充すべきである。

 

 部会報告はまた、移転費や広域求職活動費の拡充を求めている。これも、給付の拡充ではあるが、慎重な検討が必要である。両制度は安定所紹介によって広域的に求職活動を行う場合や、それによって再就職が実現して住居を変更する場合に支給するものであるが、部会報告は、実績が少ない状況にあることを踏まえ、見直しをはかるべきと主張している。しかし、職業安定法第17条は、「公共職業安定所は、求職者に対し、できる限り、就職の際にその住所又は居所の変更を必要としない職業を紹介するよう努めなければならない」としている。その上で同条第2項は、安定所が管轄区域内で適格紹介ができない場合に、広域職業紹介を行うよう規定している。したがって、制度の実績が少ないのは、給付額が少ないことや距離要件が厳しいことが理由ではなく、住居変更を必要としない職業紹介が十全に実施されていることによると考えるべきである。労働者にはそれぞれ生活や家族、慣れ親しんだ文化や風土があり、転居は大きな負担となる。真に広域的な求職活動を希望する求職者への支援を充実させることに異論はないが、移転費や広域求職活動費の拡充を理由に転居を要する再就職を勧奨するとなれば、職業安定法第17条を形骸化させかねない。

 

 さらに部会報告では、新たな就職促進給付として、就職面接に伴い必要となる子の一時預かり費用や一般教育訓練の対象となっていない短期の資格講習等の費用を措置すべきとしている。これらは、不要とまでは断じないものの、本来の失業給付をあまりに不十分な水準に放置することと対比すれば問題が大きい。

 

 あわせて、就職促進給付のあり方について「安定した就職に向けて熱心に求職活動を行う者に対するインセンティブ強化の観点に留意」しながら検討に着手することを求めている。この点では、現在の失業認定のルールこそ先に見直されるべきである。失業の認定日から認定日までの間に2回の「求職活動実績」を必要としているが、安定所に足を運んで求人情報を検索することは「求職活動」と認めていない。求人情報誌や新聞広告などに何度も何度も目を通しても、それを「求職活動」とは扱われない。そのような求職者の再就職に向けた努力を否定する運用を見直すこべきと考える。

 

4.65歳以上の者への対処について

 部会報告は、現行制度が65歳を超えて新たに雇用された者を適用除外としている点について、65歳以上の雇用者数、完全失業者数、公共職業安定所における新規求職者数、就職件数、高年齢求職者給付金受給者数等の指標が大幅に増加していることなどから、今後は適用対象とする考えを示している。あわせて、半数近い者が65歳を超える就労を希望していることや、老後の収入の保障等への関心の高まりなども見直しの理由としている。実際、65歳を超えても就業によって生計を維持する必要がある労働者が増加しており、失業時には失業給付によって雇用の安定をはかる必要がある現状に照らせば、適用除外の見直しは必要と考える。しかし、部会報告も経済的理由を高齢層就業人口増の要因に挙げているように、就業年齢の高齢化は、労働者側の希望ではなく、年金支給開始年齢の引き上げや50歳代の賃金抑制、非正規雇用の拡大など、高齢層をめぐる経済的な環境悪化が要因であろう。もちろん、意欲と能力を持って積極的に就労する高齢者も数多いが、経済的理由から健康不安を感じながら就労する高齢者は少なくない。それを、「生活できないなら、働ける仕事を探して経済的に自立せよ」と迫ることは許されない。社会保障制度(年金、医療、介護、福祉等)を拡充し、安心して引退できる社会を築くことが必要であり、雇用保険制度に老後のセーフティネットの役割を大きく担わせることは適当ではない。

 一方、部会報告では、高齢層の就職希望や入職経路の多様さを理由に、4週間ごとの失業認定による給付ではなく、引き続き一時金である高年齢求職者給付金(※)を支給することとし、「モラルハザードを防止する等の観点から」失業認定の見直しに言及している。また、教育訓練給付や介護休業給付などの支給対象とするよう求めている。

 65歳以上の労働者を雇用保険被保険者とするのであれば、現行65歳未満に適用する基本手当の対象とするのが当然である(64歳で被保険者期間20年以上の特定受給資格者の所定給付日数が240日であるのに対し、高年齢求職者給付金は基本手当50日相当額)。

 このような考え方に照らせば、部会報告は大きな矛盾を抱えている。65歳以上の高齢層を新たに被保険者とし、保険料免除制度も廃止(ただし、平成31年度分まで免除)しながら、給付は不十分な一時金に据え置くことは、負担と給付の世代間の公平性を欠くものと指摘せざるを得ない。あわせて、失業認定の取り扱いの見直しを求めているが、高年齢求職者給付金は基本手当と異なり、失業している日数とは無関係の一時金である。仮に50日分の一時金を、50日間について失業と働く意思・能力を有していることを認定した上で支給することを想定しているのであれば、もはやそれは一時金ではなく基本手当の考え方であり、64歳以下の世代より著しく給付日数を抑制することに何の正当性も見いだせない。

 

 部会報告はさらに、「65歳以上の高齢者を一定割合以上雇用」、「高齢者向けに健康管理制度を導入」などに対する新たな助成措置を求めている。健康管理制度とはどのようなものであるか明らかでなく、また、高齢者を一定割合以上雇用したことに対する助成措置は、助成金の使途等が限定されないものであれば、高齢者にとって必ずしも有益なものとはならない。

 

5.教育訓練給付について

 「日本再興戦略改訂2015」(2015年6月30日閣議決定)では、「働き手個人が『セルフ・キャリアドック(仮称)』を受けた際の経費の一部について、一般教育訓練給付の対象とすること等個人への支援策について検討をし、本年度中に結論を得る」としている。そして、「労働者が自己負担により企業の外部でキャリアコンサルティングを受けた場合」を教育訓練給付の対象とし、「企業内でこれまでのスキルを踏まえたキャリアコンサルティングを実施する場合についても、支援の拡充を行う」よう求めている。

 セルフ・キャリアドック(仮称)とは、産業競争力会議の議論において、労働者が定期的に自己のキャリア診断(キャリアコンサルティング)を受ける制度設計が想定されている。これを受けて部会報告では、キャリアコンサルタントが在籍しない企業においては、事業主の求めによって労働者が外部のキャリアコンサルティングを受診した場合に教育訓練給付の対象とし、キャリアコンサルティングの体制を有する企業においては、「支援の拡充」を求めている。これまで、在職労働者に対するキャリアコンサルティングはほとんど行われてこなかったが、近年、労働者を解雇する企業が人材ビジネスに委託して再就職支援を行う際、キャリアコンサルティングの手法が活用されている。その中では、「職務経歴の棚卸し」などと称して労働者の保有する能力を列挙させ、それらの能力がどれだけの市場価値があるかを「診断」し、結果的に低賃金・低条件労働への就労を納得させる労働者の「値踏み」に使われる場合が多い。そのため、労働者の保有する能力を適切に評価し、昇進や処遇改善に活用するのではなく、「企業が求める能力に対して労働者に不足する能力」がことさらに強調され、能力開発の自己責任化にとどまらず、降格や減給、退職勧奨の道具とされかねない。労働者が求めてもいないようなセルフ・キャリアドックの普及はよほど慎重であるべきであり、雇用保険制度で後押しする必要性は認められない。

 

6.財政運営について

 失業給付に係る雇用保険料率は、原則14/1000であるが、財政状況を勘案して大臣が弾力条項を発動して引き下げが可能であり、現在は10/1000で運用されている。部会報告は、近年、雇用保険財政が黒字基調で推移し、2014年の差引剰余が1,965億円、2014年度末の積立金残高が6兆2,586億円であるとしている。過去の雇用情勢をもとに推定したところ、収支均衡となる保険料率は12/1000であり、2016年度の失業給付に係る雇用保険料率を原則12/1000とするよう求めている。さらに、積立金等の状況から、2016年度の料率は弾力条項を発動して8/1000に引き下げるとしている。

 しかしながら、これまで述べてきたように、現在の黒字基調は求職者の置かれる厳しい現実から目をそらし、失業給付を絞りに絞った結果である。労働行政の第一線を担う立場として、あまりに不十分な現行給付水準を抜本的に見直し、それを維持するための保険料率を算定することが急務と考える。

 あわせて、部会報告は国庫負担について、本則の1/4(25%)の約半分である13.75%で運用されていることについて、「雇用保険法附則第15 条の『できるだけ速やかに、安定した財源を確保した上で国庫負担に関する暫定措置を廃止するものとする』との規定に基づく措置を講ずるべきである」としているが、国庫負担も本則に戻し、給付の拡充をはかるべきである。

 

 

※参考

高年齢求職者給付金について(厚生労働省HPをもとに作成)

 高年齢継続被保険者が失業した場合、一般の被保険者の場合と異なり、被保険者であった期間に応じ基本手当日額の30日分又は50日分に相当する高年齢求職者給付が支給されます。

高年齢求職者給付金の受給要件について

 高年齢継続被保険者が高年齢求職者給付金の支給を受けるには、住居地を管轄する公共職業安定所に来所し、求職の申し込みをしたうえ、高年齢受給資格の決定を受けなければなりません。

 この決定において高年齢受給資格が認められるには高年齢継続被保険者であって以下の要件を満たす場合に限られます。

・離職により資格の確認を受けたこと。

・労働の意志及び能力があるにもかかわらず職業に就くことができない状態にあること。

・算定対象期間(原則は離職前1年間)に被保険者期間が通算して6ヶ月以上あること。

 被保険者期間の計算方法は一般の被保険者と同様です。

 

高年齢求職者給付金の支給について

 高年齢求職者給付金は失業認定を行った日に支給決定されます。

 失業認定は一般の受給資格者の場合とは異なり1回限りです。

 支給額は、被保険者であった期間に応じて次の定める日数分の基本手当の額に相当する額とされています。

被保険者であった期間1年以上  高年齢求職者給付金の額50日分

被保険者であった期間1年未満 高年齢求職者給付金の額30日分

基本手当日額は、被保険者期間として計算された離職前の6ヶ月間に支払われた賃金を基礎として計算されます。

 

以  上