雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

第23回労働行政研究活動レポート【求職者支援制度】

2014年6月
全労働省労働組合

はじめに

 全労働(全労働省労働組合)は、労働行政の第一線で労働者・国民と向き合いながら、国民本位の労働行政のあり方を追求してきました。労働行政のあるべき姿を不断に追求する「行政民主化」のとりくみは、全労働の活動における重要な柱となっており、行政運営における諸課題の分析等を進め、対外的な提言づくりなども行ってきました。

 そして、行政民主化のとりくみの中心となっているのが「行政研究活動」です。行政研究活動は、各種テーマを設定しながら、職員アンケートや行政利用者への聴き取り、統計資料の分析、外部団体や研究者との意見交換などを積み重ね、最終的にはレポートや提言の形で取りまとめるとともに、日々の業務にも活かそうというものです。これまで22回の行政研究活動を実施し、様々な政策・提言を内外に発信してきました。

 その上で、全労働は2012年9月を起点に「第23回行政研究活動」にとりくむことを決定しました。今回の行政研究活動では、「安心して働ける社会と労働行政の役割」を統一テーマに掲げるとともに、職域ごとに研究テーマを設定しながら、あるべき方向を検討することとしました。また、2013年6月28、29日には、全国労働行政研究集会を開催し、全体会と分科会を設置した上で、提言やレポートの方向性を議論しました。

 こうした中、職業安定職域では、若年者雇用、生活困窮者支援、雇用保険制度、各種助成金とともに、求職者支援制度がテーマとして掲げられています。求職者支援制度は、雇用保険を受給できない方が職業訓練を受講することによって、スキルアップを図り早期に再就職することを支援する制度となっていますが、実際には、民間委託による職業訓練であり、訓練期間中の「職業訓練受講給付金」を含め、制度運用上の様々な課題が指摘されています。本レポートでは、当該制度の問題点等を指摘しながら、求職者・失業者に対する職業訓練のあり方を考えたいと思います。

 

1 求職者支援制度の概要

 求職者支援制度は、もともと、2009年7月より実施された「緊急人材育成支援事業」に端を発します。これは、2008年秋に発生した「リーマン・ショック」によって多くの非正規労働者が失職し、雇用保険の受給権も無い中で、新たなセーフティネットが必要との議論の中で創設された制度です。具体的には、雇用保険を受給できない求職者に対して無料の職業訓練(基金訓練)を行うとともに、訓練期間中の生活給付(訓練・生活支援給付)を行うものです。

 しかしながら、急遽創設されたこととも相俟って、制度運用に際しては、様々な混乱が生じました。とりわけ、民間の教育訓練実施機関(以下、民間機関)に委託して職業訓練を行うため、都市部を中心に訓練コースが乱立し、定員が充足しない(あるいは開講中止になる)一方、地方では民間機関が少ないため、訓練コース・科目が不足するといった地域的な偏在が生じました。また、民間機関の中には、国から支給される奨励金を得るため、十分な準備も無いまま開講し、訓練の質が低下するといった問題も発生しました。さらに、訓練・生活支援給付にかかって、生活苦から給付金の受給を目的として職業訓練を受講せざるを得ない求職者が生じるなど、本末転倒な事態も起こりました。

 一方、緊急人材育成支援事業は、2011年9月末までの時限措置とされていたため、制度の存続が議論されました。その結果、同年5月、「職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律(求職者支援法)」が成立し、「求職者支援制度」として恒久化されました。その際、前制度の実施状況に鑑みて、福祉施策ではなく雇用施策との位置づけを明確にし、訓練設定や受講にかかる要件、給付金(職業訓練受講給付金)の支給要件等を厳格化したことも特徴です。

 現在、新制度へ移行後3年が経過し、受講者が約21万人、就職率が約77%(2014年1月末時点)となっており、一定の制度利用と就職促進が図られていますが、後述するように、前制度の問題点が十分に解消されていない実態もあります。

 

2 全労働アンケートの分析

 こうした中、全労働は職員(組合員)に対して求職者支援制度の運用にかかるアンケートを実施しました(2012年1〜2月)。その結果、394件の回答があり、実務上の様々な課題が浮き彫りになりました。

 まず、基金訓練時に問題指摘されていた訓練コース数および訓練科目の地域的偏在にかかって、「コース数・科目ともに偏在がある」が57.4%あり(「コース数に偏在がある」「科目数に偏在がある」も合計で21.4%)、依然として改善されていません。また、自由記載欄において、こうした状況の根本要因が民間委託にあると指摘する声も多く、「民間委託だけの制度自体有用とは言えない」などの意見がありました。

 また、基金訓練時には趣味・教養的な講座も目立ちましたが、これに関しても、「(依然として)趣味的と思えるコースがある」の回答が48.0%もあり、十分に改善されたとは言い難い状況にあります。その上で、具体的なコース名を聞いたところ、「ネイルアート」が72.6%、「アロマテラピー」が35.6%など、エステを含めた美容系コースが多く挙げられました。一方、就職に結びつきやすいコースについては、介護関係が6割(60.6%)を占め、求人数が比較的多いこととも関係しているようです。

 さらに、訓練内容の不十分さ(質の低さ)について、「問題がある」との回答が41.9%を占める一方、「問題は解消された」は14.7%にとどまり、この点でも、課題が残されています。具体的には、訓練施設、講義内容、講師の質などを挙げる意見がある一方、「派遣や非常勤の講師が多い(ただし、公共職業訓練でも非常勤講師がいる)」「訓練施設が講師の確保に苦労している」実態もあり、ここでも「民間委託による仕組みが原因で、人材の安定的な供給に困難を来している」との指摘がありました。

 一方、職業訓練受講給付金に関わって、受給要件の見直しを求める意見が多数寄せられています。具体的に見直すべき要件を複数回答で求めたところ、「世帯全体の金融資産(300万円以下)」(24.1%)、「土地・建物の不所有」(23.4%)、「世帯の収入要件(月25万円以下、年300万円以下)」(23.1%)、「やむを得ない理由があっても8割以上の出席」(21.6%)、「全ての訓練実施日への出席」(17.8%)、「本人の収入要件(月8万円以下)」(12.9%)、「就職支援拒否による不支給(返還)」(10.4%)、「同一世帯の同時受講不可」(9.6%)などとなっています。また、自由記載欄にも様々な意見が寄せられています。各要件にかかる具体的な見直し方向を指摘する意見が多いほか、自己申告であることの問題点に触れる意見も見られます。実際に、「本人申告では調べようがない」「申告の真偽を正確に確認できるわけではない」「多少疑義があっても、確証がない限りは踏み込めない」などの意見も聞かれ、「詳細な個人情報の確認が必要な点で、職員や訓練生への負担が大きい」との指摘もありました。

 基金訓練から求職者支援制度への移行に際して、前者が「第2のセーフティネット」と位置づけられていたのに対し、後者は再就職を目指すための雇用施策(ただし、セーフティネットの側面も残されている)とされています。その上で、求職者支援制度が再就職にどの程度資するかを尋ねました。その結果、「再就職にかなり有効」「再就職にある程度有効」の回答の合計が半数以上(51.0%)となっていますが、「再就職に資するとは言い難い」「どちらとも言えない」の回答の合計も4割以上(40.8%)となっており、評価が相半ばしています。自由記載欄においても、「安定所が求職活動に関わり、職業指導も行うので、効果が高いと思う」との意見がある一方、「就職意欲が低いと思われる求職者へも受講あっせんをせざるを得ず、職業訓練を有効に機能させることは困難」「就労意欲の改善が優先されるべきケースも多い」「再就職に資するものとすべく、また、受講意欲がないと応募できない制度とするため、長期の訓練にシフトすべき」などの意見もあり、福祉施策と雇用施策の中間的な性格が払拭できていない側面が浮き上がっています。

 他方、公共職業訓練(国・都道府県の施設内訓練)のあり方にかかっても、いくつかの観点で質問を行いました。

 まず、求職者支援訓練等の民間委託による職業訓練との違いを尋ねたところ、「長年の実績があり、スキルがある」(36.3%)、「訓練施設が充実している」(29.4%)と肯定的な意見がある一方、「科目が固定的であり、変更の柔軟性に欠ける」(39.8%)との意見もありました。自由記載欄でも、「長年の実績、特に就職支援について実績がある」「地域の産業実情に合わせたコース設定ができる」「地元企業との結びつきがある」「安定所との連携が密であり、トラブルが少ない」などの意見が多いものの、「設備の関係で容易に科目変更ができない」「最先端の技術に対応できているか疑問」との声も聞かれました。

 その上で、公共職業訓練をすべて民間委託とした場合の問題点について尋ねると、「職業訓練の質が低下する」が約6割(59.9%)を占めるとともに、「国の責任があいまいになる」(39.6%)、「就職率の低下が懸念される」(31.0%)などの懸念が示され、「特に問題は生じない」は約1割(10.2%)にとどまりました。実際に、自由記載欄では、「民間委託では営利主義となりかねない」との声が多く、公共職業訓練に関して、「国が関与しないと、法律の趣旨まで曲げられる可能性がある」「離職者への職業訓練は、労働行政にとって重要な業務。民間ではできない設備の揃った施設でなければできない訓練もたくさんある」と、その必要性を訴える意見が相次ぎました。

 さらに、現在、公共職業訓練を縮小し、求職者支援訓練を拡大する方向性が示されています。こうした検討方向についてどのように考えるか尋ねたところ、「公共職業訓練を拡充すべき」が半数以上を占め(51.5%)、「求職者支援訓練を拡充すべき」はわずか2.3%に過ぎません。自由記載欄においては、「公共職業訓練は内容や就職支援がしっかりしており、求職者支援訓練に移行する必要があるのか。真に求職者のためになるのか疑問」「国の制度として国の管轄下になければ、質の低下、地域間格差が懸念される」「職業訓練の趣旨を考えれば、設備、内容、就職支援体制などを備えた公共職業訓練拡充の方向に回帰すべき」など、公共職業訓練の必要性・重要性を訴える意見が多数寄せられました。民間委託の求職者支援訓練等に対しては、「定員が充足しないコースもあり、認定の見直しが必要」など、これまで述べてきた問題点を指摘する声が多い一方、「社会情勢の変化に対応するためには、民間委託も必要と思われる。バランスが重要」「公共職業訓練で対応できない科目もある。民間委託の全てが悪いのではなく、悪質な業者に監督・指導を強化すべき」「就職の可能性を踏まえつつ、地域ニーズ枠の実施を可否判断する枠組みも必要」「地域の実情に応じた定員設定など、実施機関に負担のかからない支援も考えられる」など、それぞれの役割が重要との指摘もありました。

 

3 全労働行政研究集会(求職者支援制度分科会)での議論

 全労働は第23回行政研究活動の中心的なとりくみとして、「第23回全国労働行政研究集会」を開催しました(2013年6月28、29日)。その中では、全体集会とともに各分科会を開催し、「求職者支援制度分科会」も実施しました。以下、分科会での議論を紹介します。

 

(1)訓練校講師

 東京都の訓練校でCAD製図科の非常勤講師をしている。非常勤講師になって40年になり、学校の名前は職業訓練校、技術専門校、能力開発センターと変遷してきた。CAD製図科も以前はトレース科という名称であった。製図にパソコン(CADソフト)を使用するようになったが、基本的な内容はトレース科当時と変わっていない。科名が変更となる当時は、CAD操作について、職員に講習が実施されたが、非常勤講師には講習が実施されず、非常勤講師の仲間で集まり、勉強を行いながらスキルアップを図った。

 現在勤務する訓練校では、職員27人、非常勤講師106人が在籍している。交通費は当初支給されず、1993年から支給されるようになった。しかし、退職金の支給には至っていない。訓練生への受益者負担が2002年から始まり、教科書も有料化となり、その後、1年訓練・2年訓練が有料(年間112,500円(選考料1,700円))になった。

 講師には受講者の状況が事前に伝えられないが、受講者と話をしながら状況を把握しており、1講座に職業訓練受講給付金の利用者が1〜2名程度いる模様。職業訓練受講給付金利用者からは、制度の要件が非常に厳しいことを聞いている。

 CAD製図科は中卒以上で受講可能であり、親子を教えたこともある。しかし、基礎学力(算数(とりわけ面積計算)等)がないと難しく、漢字にふりがなを付けることもある。

基金訓練制度時においては、犬のトリマーの受講者が委託先の業務を訓練と称して手伝わされたとの話も聞いた。また、訓練終了後も無償で働かせていた民間機関があるとも聞いている。

 2008年にドイツの訓練校(生産学校)を視察したことがあり、ドイツでは弱者救済の立場に立った訓練制度になっている。職員が街へ出て行き、仕事のない若者などに入校を案内している。希望すれば全員が受講可能で、受講している科目が合わなければ変更も可能。より勉強をしたければ、延長も可能であり、給付金も途切れることがない。訓練受講生の75%が他の国籍者で、訓練には食事マナーやドイツ語の授業もある。

 訓練を受講するまでの過程は人それぞれであるが、受講前までは緊張状態である。しかし、受講すると、受講生同士、講師との関係でお互いを支え合い、心の修復も行いながら、就労につながっていくことを望んでいる。

 

(2)訓練受講生

 学卒後、土木関係、訪問販売、金融業等の仕事を転々としてきた。最終的にお金がなくなり、求人情報誌で寮付の派遣求人に応募したところ、面接を受けたらすぐに自動車製造関連企業に採用され、仕事をすることになった。その後、4年8か月間勤務を続けたところで派遣切りに遭い、今までと同じように派遣で働くのは難しいと思った。現在、派遣切りの裁判もたたかっている。

 求職活動に際して、職業訓練の受講を検討し、当初、内装関係訓練の説明を聞いたが、就職後の給与が少ないことなどから、応募しなかった。次に、生産管理の訓練受講を考え、面接を受けたが不合格となり、最初は考えていなかった介護の訓練を受講することになった。介護福祉士の訓練を受講するまでは、介護業務は女性がメインの仕事で自分には合っていないと思っていたが、受講することにより考えが変わってきた。訓練受講中に同じ介護福祉士の訓練を他コースで受講する人と勉強会を行ったが、授業やカリキュラムの内容に違いがあること知り、学校間(訓練施設間)でも情報を共有してほしいと思った。また、訓練受講生間の基礎学力に差があり、講師および受講生側にも影響が大きいと感じた。訓練後の就職についても、就職率を問われることを聞いたが、就職率は別として評価をすべきと思う。

 裁判をたたかった仲間の中に警備業に就職した仲間がいるが、スキルアップを考えても勉強するための施設等がないことを聞いたので、訓練の種類については、ニーズの把握を見直す必要があると感じる。また、訓練期間中の生活保障も必要であり、職業訓練受講給付金制度も必要と感じた。

 不正受給や給付金目的の受講希望者がいるとの話も聞くが、それぞれの人の現状を理解してほしい。一方で、訓練を受講する人の思いや考えは様々であるが、その中で安定所職員の方々が頑張って対応していることも理解できた。

 雇用の流動化により、能力の積み重ねができないままで非正規となってしまう。より不安定で処遇の低い仕事に限りがちな雇用流動化の中で、どのような対応が求められているかを考える必要がある。やりたい仕事ができるためには、やりたい仕事に就くためのスキルが充実する職業訓練が必要であり、そうした趣旨を実現する制度に近づけてほしい。

 

(3)弁護士

 弁護士になって6年目になり、非正規労働者や派遣切りの裁判等を担当してきた。現在は過労死や過労自殺の問題も扱っている。日弁連においては、貧困対策本部に所属している。求職者支援法ができて2年目となるが、今後見直しが行われると聞いており、日弁連からも提言を出していく予定。

基金訓練においては、民間機関に助成金が支給されることから、業者が乱立し問題が多かった。また、民間へ委託することにより、都市部に偏在している。なかには、訓練費用がかからないよう、カセットテープを流している英会話の訓練があったと聞く。

 当座の生活費を得るため職業訓練を受講するなど、就職支援からかけ離れた考えで受講する人や、生活保護受給者で就労可能な人に強制的に訓練を受講させるケースも見受けられた。生活基盤を整えてから職業訓練の受講や求職活動を行う必要があると思われる。また、職業訓練は学校教育にもつながっているので、文科省との連携も必要と考える。

 引きこもり、長期失業者については、中間的就労(市町村から委託を受けた企業組合が中間的就労の受け皿となっている)も必要と考える。そして、就職後については、企業側が訓練(OJT)をすることにより、長期就労につながってくると考える。

 神戸のポリテクセンターを視察し現場の職員から状況を伺ったところ、予算が削られ、非常に厳しい状況であった。あわせて、受講定員も限られているので、入校も難しくなっている。その中で講師が各訓練生の技量等を把握した上で、企業のニーズに照らし合わせ、就職に結びつける努力を行っており、休日や夜間には補講を行っている。訓練の質を上げ、設備面への支援を行うには、十分な予算措置が重要である。

今後は、職業訓練受講給付金制度に該当しない受講希望者への対応が必要。いずれにせよ、制度を見直すには、厚労省が第一線職員や訓練校、地元企業などの意見をもとに対応する必要がある。

 

(4)労働行政職員の議論

1)訓練コース及び科目について

 就職につながるのが難しく、趣味的な要素を多く含むネイルやアロマ等の訓練コースがあり、雇用状況に見合ったコース設定となっていない。

 地域的偏在について、都市部が中心の訓練施設の配置となっており、地方では公共交通機関の便が悪く、受講生が通学に苦慮している実態もある。

 訓練内容について、「テキストを読むだけの訓練があった」「訓練生の習熟度合いを無視した訓練の進行」など、訓練講師の資質にも問題がある。

 これらは民間委託による営利主義の弊害であり、国が責任をもって対応すべき。

 

2)制度面について

 職業訓練受講給付金の支給要件について、本人申告のみで安定所では確認が取れない。とりわけ、資産要件については困難である。

 出席要件について、遅刻・早退等により不支給となるケースは酷と感じる。また、訓練施設等ができるだけ不支給とならないよう努力している対応もある。

 なかには、給付金目的での訓練受講者もいるが、受講することで本人の意識が変化し、就職へ結びつくケースもあった。

 生活保護との関係において、自治体側からの強い勧奨による訓練受講も見受けられる。

 

3)今後の訓練制度について

 現在の制度では不十分な点が多数あり、厚労省が現場で起こっている実態を把握し、第一線窓口の意見を聞く必要がある。

 給付金と職業訓練を組み合わせた制度では矛盾を多く含んでおり、相成り立たない。制度を根本的に見直す必要がある。生活保護制度と職業訓練受講との関係においては、衣食住の生活基盤を安定させ本人の意識を就労へ向かわせた上で、職業訓練を受講できる環境を整備する必要がある。

 公共職業訓練においては、地域経済に結びついた技能の伝承を基本とした訓練もあり、設備面等で費用のかかる訓練においても充実している。民間委託の訓練においては、社会情勢の変化に即した対応も可能であり、それぞれの利点を生かしたコース設定が必要。

 

4 求職者支援制度の課題とあるべき職業訓練の方向性

 以上のようなアンケート結果や議論をまとめると、公共職業訓練を拡充させるべきとの方向性が見えてきます。したがって、将来的には民間委託ではなく、公共職業訓練により実施することが必要と考えますが、予算の制約等もあり、現に実施されている求職者支援制度が一定の役割を担っていることを踏まえ、当面、当該制度の改善が急務と考えます。

 具体的には、訓練科目・コースの偏在解消や訓練水準を一定以上に保つ措置、職業訓練受講給付金の要件見直しなどが求められます。とりわけ、職業訓練受講給付金に関しては、アンケート等でも「遅刻・早退等による不支給は過酷」「面接に行くと欠席扱いとなる適用では、就職活動をするなと言うに等しい」「非常に厳しい受給要件を課すことは、セーフティネットとしての役割を発揮していない」「職業訓練受講給付金が非該当であっても、交通費の負担軽減は必要」などの意見があり、こうした点での必要な見直しを行うべきと考えます。

 一方、求職者支援訓練は民間委託方式であり、公共職業訓練の委託訓練を含め、民間委託での職業訓練をどのように捉えるべきでしょうか。

 現在、公共職業訓練の施設内訓練は「ものづくり系」科目を中心に開講されており、一方、民間委託の職業訓練は、設備・初期投資面で負担の軽いパソコンや介護関係が中心です。アンケート結果や集会での議論においても、それぞれの特性を生かすことが必要との指摘がありました。こうした意見の背景には、民間委託を拡大する政府の意向に沿って、公共職業訓練を縮小してきたことや、これにより、公共職業訓練の予算や施設・人員に限りのあることが挙げられます。これらの背景事情が無ければ、パソコンや介護訓練であっても、公共職業訓練の方が偏在も生じず、質を維持して実施できることから、公共職業訓練の拡大を目指すべきです。

 当面、民間委託の職業訓練を継続するにしても、職業訓練が離職者の再就職に必要な技術・技能・知識を付与するものである以上、質的・量的水準の確保が強く要請されます。したがって、質の低い職業訓練は厳しく排除し、実施できる民間機関が無く、地域や職種で空白が生じる場合には、公共職業訓練で実施することが必要と考えます。

 職業訓練の受講に際して、経済的に窮乏する求職者に対しては、職業訓練受講給付金(あるいは訓練・生活支援給付)のような職業訓練受講とセットに措置するのではなく、生活扶助的な制度を措置すべきものと考えます。また、「託児付訓練の拡充」など、受講環境の改善を求める意見も重要です。

ドイツの職業訓練校を視察した訓練校講師は、「ドイツでは弱者救済を懸命に成し遂げようとしている。民間委託へ走る日本の訓練行政の歪んだ姿勢が対照的に浮かび上がってきた」と、自ら記した随想の中で述べています。また、『公共職業訓練の実施主体、方式等についての考察』(黒澤昌子氏、佛石圭介氏:日本労働政策研究・研修機構(JILPT)2012年No.618)論文においても、「離職者訓練の目的が離職者の円滑な就職を促進することにある限り、経費の節減だけを企図し、少なくともこれまでのやり方のままで離職者訓練の実施を『官』から『民』へと振り替えることには慎重であるべき」との主張が見られます。

 これまでのアンケート等でも、「職業能力開発促進法では、職業安定と能力開発は一体で行うこととされている。職業紹介業務を国で実施し続ける限り、職業能力開発を国が全く実施しないことにはならない」「民間の利益を優先したものでは、受講者が不利益を受ける可能性がある。国の責任として行うべき」「訓練受講中の求職者とハローワーク(公共職業安定所)が接点を持ち、就職支援につなげていくことが重要」「求職者の経歴・求職活動の状況と求人状況を踏まえてしっかりと科目選択することや、訓練中(指定来所日)の相談を充実させることにより、再就職につながる」などの意見が寄せられています。そして何よりも、職業能力開発促進法は「職業能力開発の基本理念」の項において、「労働者の自発的な職業能力の開発及び向上の促進は…職業生活設計に即して必要な職業訓練及び職業に関する教育訓練を受ける機会が確保されなければならない」と定めています。この理念を具体化するには、偏在や質のばらつきは許されるものではなく、求職者・失業者の権利保障としての職業訓練実施について、国がその責任を果たすべきと考えます。

 

【補論】

 労働政策審議会(職業安定分科会雇用保険部会、職業能力開発分科会)は2014年3月、求職者支援法附則第13条において、「法律施行後3年後を目途に施行状況を勘案し、支援施策の在り方について検討する」とされていることを受け、制度見直しにかかる議論を行い、報告書を提出しました(同年4月以降、厚生労働省は報告書に基づいた見直しを実施)。

 その内容は、a求職者支援訓練への誘導(効果的な受講生募集を行うためのルールの明確化・見直し)、b求職者支援訓練の質・量の確保(コース認定の際の評価要素の見直し等)、c職業訓練受講給付金の支給要件の見直し(「やむを得ない理由」に該当する事項の見直し等)、d安定就職に向けた支援の充実(制度実績を把握する「就職」の定義の見直し)となっています。

 これらは、上記の議論に沿った内容を一定含んでいるものの、なお十分な見直しとは言えません。引き続き、労働行政の第一線や求職者・失業者の実態に即した制度のあり方を求めていきたいと考えます。