雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

労働者派遣制度の見直し方向について

2014年2月18日
全労働省労働組合

労働政策審議会(会長:樋口美雄慶應義塾大学教授)は1月29日、同審議会職業安定分科会労働力需給制度部会(部会長:鎌田耕一東洋大学教授)の報告書を受けて、「労働者派遣制度の改正について」と題する建議を厚生労働大臣に提出した。

 今後、厚生労働省は、労働者派遣法の「改正」に向けた作業を急ぎ、通常国会(2014年)に法案上程する方針を明らかにしている。

 建議には、「派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限る」「(派遣労働者の)雇用の安定と処遇の改善」「均衡待遇の推進」「優良な事業者を育成」等の言葉が並ぶが、盛り込まれた具体的措置が講じられたとき、以下に示すとおり、これらと裏腹の結果が生じる可能性がある。

 そして、細部には一定の前進面を認めることができるものの、全体として見たとき、制度創設以来の大幅な規制緩和(派遣の自由化)と言え、労働者の諸権利を大きく脅かすおそれがある。

1 常用労働者の代替は、本当に生じないのか

 建議は、「派遣先の常用労働者(いわゆる正社員)との代替が生じないよう、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限る」とする一方、労働者派遣の期間制限のあり方を抜本的に変更することを求めている。

 現行の労働者派遣法は「専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務」又は「特別の雇用管理を行う必要がある業務」として認められた26業務を除き、最長3年の期間制限が設けられているが、建議では、個々の派遣労働者の属性(労働契約の期間の有無等)に着目した期間制限を設けるとしている。

 すなわち、(a)無期雇用の派遣労働者、(b)60歳以上の高齢者、(c)日数限定業務・有期プロジェクト業務・育休代替業務等については、期間制限をなくし、これら以外の派遣労働者については、個人単位の期間制限(派遣先の同一組織単位における同一の派遣労働者の受け入れは3年)と派遣先単位の期間制限(派遣先の同一事業所における継続した受け入れは3年とし、過半数労働組合等の意見聴取を要件として更新を認める)を設けることとしている。

 しかし、こうした措置によって、常用代替の防止が十全に図られるだろうか。

 新たな措置では、派遣労働者が無期雇用である限り、派遣先のあらゆる業務(派遣禁止業務を除く)に派遣労働者の受け入れが可能になる。しかも、無期雇用の派遣労働者であるなら、そこに期間制限もない。こうした新たな労働者派遣の容認によって常用代替が大きく進むことが想定される。また、これを派遣労働者の立場から見ると、同一の派遣先で直接雇用されることなく、何十年も派遣労働者のまま働くことになる。

 この点について、建議は、無期雇用の派遣労働者であれば、「雇用が比較的安定しており、派遣元事業者に長期的な人材育成のインセンティブが働きやすいため、教育訓練も受けやすい傾向にある。また、専門性・待遇が高い者も多(い)」(8月20日付「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」報告書)と理解しているようだが、同じ無期雇用であっても、「直接雇用」と「間接雇用」(派遣労働)では、その内実は大きく異なる。事実、リーマン・ショックの際(2008年11月〜2009年4月)は、無期雇用の派遣労働者の77%が離職し、そのうち実に94%が「解雇」であった(厚生労働省需給調整事業課「労働者派遣契約の中途解除に係る対象労働者の雇用状況について」、2009年5月)。多くの派遣労働者は無期雇用と言えども、「景気変動等への雇用の調整弁」として不安定な雇用を強いられているのである。

 なお、派遣労働者が無期雇用であることを、常用代替防止の原則(直接雇用の原則の重要な担保)を排除する理由と位置づける議論があるが(前記研究会報告書)、まったく筋が通らない。

 他方、 新たに設けられる期間制限は有効に働くだろうか。

 まず、同一の組織単位での同一派遣労働者の期間制限(3年)であるが、派遣労働者を入れ替えれば、何年でも派遣を受け入れ続けることができる。また、同一派遣労働者でも、組織単位(部・課等)を越えて異動させることで期間制限をかいくぐることができる。組織単位を越えて複数の業務に就く労働者なら、はじめから派遣先は直接雇用すべきではないだろうか。逆に言うなら、こうした方法を使って、直接雇用から間接雇用への移行を進める事業者が広がることも想定される。

 また、派遣先単位の期間制限(3年)は、過半数を組織する労働組合又は過半数を代表する労働者の意見聴取で更新を繰り返すことができる。この場合の意見聴取は、過半数労働組合等が賛成しようが、反対しようが関係なく、畢竟、使用者の意思は貫徹されることになる。こうした枠組みのもとでは、過半数労働組合等の意見反映はきわめて困難と言うべきである。

2 有期雇用の派遣労働者の雇用安定措置は有効か

 建議は、期間制限に達する派遣労働者の雇用安定措置を用意している。具体的には、(a)派遣先への直接雇用の依頼、(b)新たな就業機会(派遣先)の提供、(c)派遣元事業主において無期雇用、(d)その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置のいずれかの措置(a)が不調の場合は、続いて(b)〜(d)のいずれか)を講じることとされているが、(a)の依頼が派遣元に何らかの義務を生じさせると解することは難しく、また、(b)の就業機会(派遣先)の提供も、これまでの労働条件の維持が必ずしも保障されていないことから、実効性を疑わせる。さらに、これらの措置違反に関する民事的効力を明確に定めていない点も不十分である。

3 派遣元のキャリア・アップ措置は有効か

 建議は、派遣元に対して、計画的な教育訓練、キャリア・コンサルティング(希望者のみ)等を実施することとしている。

 派遣労働者の雇用の不安定さ、処遇の低さの要因をキャリア・アップの欠如に求めているように思われる(前記研究会報告書も同様)。しかしながら、実際の派遣労働者の多くが自己研鑽に励み、能力向上に努めているにもかかわらず、「十年間昇給なし」といった実例に示されるように、不当な格差を強いられているのである。

 また、新制度のもとでは、派遣労働者の業務は必ずしも特定されない(求められる技術、技能、知識等も特定されない)が、そのような中で派遣元が実施するキャリア・アップ措置が真に効果的なものとなるのだろうか(実際、派遣元が派遣先の諸業務を担う人材育成に関して高い専門性を有しているとも限らない)。

 実態を見ると、これまでも派遣元が派遣労働者(登録中の者を含む)に対して高額(派遣労働者負担)なセミナー等の受講を強いる例もあり、派遣労働者を対象とした新たな「ビジネス・チャンス」の面が色濃く現れることはないか、様々な角度から検討していく必要がある。

4 均等待遇ではなく、均衡待遇で格差がなくなるか

 建議は、均等待遇(その原則を具体化する差別禁止規定)を掲げることを避け、均衡待遇への意識を高める方策(努力義務を指針に規定等)を用意した。しかし、実務では、均等待遇と均衡待遇は大きく異なる。均等待遇は、その要件の明確化を図りながら、不利益な取り扱いを禁止するものであるが、均衡待遇は諸事情を考慮してバランスをとるということである。従って、事業主への指導の際も、余程具体的な基準が定められていない限り、結局のところ「水掛け論」で終わり、現状の追認となる可能性が大きい。

 先進諸国の派遣制度で当たり前に導入されている「均等待遇」又は「均等以上待遇」が保障されない中では、派遣対象業務の限定がなくなることと相まって、派遣労働への代替が大きく進むことが想定される。

5 雇用の安定と処遇の改善は図られるのか

 一部の派遣事業者は「必要なとき、必要なだけ」等と言った「営業文句」で派遣労働を広げている。また、一部の派遣事業者は、人件費の削減(コストカット)を「営業文句」に派遣労働を広げている。中には、公共職業安定所(ハローワーク)が保有・公開する求人情報をもとに営業活動を展開し、より安い労働力の提供を申し出る事業者まで存在する。

 もとより、派遣事業者のすべてがこのような活動を行っているわけではない。しかし、ビジネス(市場競争)の世界では「悪貨が良貨を駆逐する」ことも多く、こうした動きを具体的に規制することが、派遣労働者の「雇用の安定と処遇の改善」に資することになり、良質な派遣事業者の利益にもかなう。

 建議では、すべての派遣事業者を許可制とすることが盛り込まれたが、そのことから「雇用の安定と処遇の改善」が進むと考えるのは、楽観にすぎるだろう。

 また、「優良な派遣元事業者を認定し推奨する事業」の推進を掲げているが、派遣元、派遣先の実態を子細に把握した上で、労働基準法、労働安全衛生法等の労働関係法令や各種の基準・指針等の遵守状況等を公表するなど、客観性、信頼性、透明性の高いものとしていくことが不可欠である。

 あわせて、建議は行政機関による指導監督の強化を求めているが、具体策は皆無である。それどころか、新年度の地方職業安定行政の定員は「179人減」であって、労働者派遣法の施行を担う需給調整事業課・室・担当の行政体制(担当職員数は標準的な労働局で3〜4人)が強化される余地はほとんどない。

 

 以上のように、建議の内容は、掲げられた「考え方」と「具体的措置」が整合しておらず、羊頭狗肉と言えないのか。

 まがりなりにも労使が共通認識とした「考え方」をどう実現するのか、そして、「直接雇用の原則」「常用雇用の原則」を前進させるのか、法案策定、法案審議の各段階で、実態に根差した慎重な議論を重ねることで抜本的な見直しを図ることが求められている。