雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針」に対する見解

2013年6月
全労働省労働組合中央執行委員会

 厚生労働省は5月16日、社会・援護局長通達「就労可能な被保護者の就労・自立支援の基本方針について」(以下、基本方針)をとりまとめ、各都道府県知事、指定都市市長、中核市市長に通知した。基本方針は、その趣旨を「就職できないという状況が長く続くと、就労による自立が困難となってくる傾向がある」ことから、「保護開始後から早期脱却をめざし、‥集中的な支援を行うことによって被保護者の就労による自立を促進するもの」としている。失業期間が長期化すれば履歴書に大きな空白が生じ、求人事業主から敬遠されがちとなり、再就職が困難となる傾向は存在する。また、多くの被保護者は適職を得て自立することを希望しており、基本方針の趣旨は理解するところである。しかしながら、就労支援の各論は、被保護者の適職選択権を制限することや、求人への応募を過度に要請するなどの内容が見受けられ、国の公共職業安定所(以下、ハローワーク)の公正な運営を阻害することが懸念される。以下に、その問題点を指摘する。

1.就労支援には職業安定行政の関与が不可欠

 基本方針では、保護の実施機関(福祉事務所)は、被保護者の同意を得ながら、勤務形態や職種、労働時間、希望賃金額、さらには求職活動の方法や回数の目標まで含む「自立活動確認書」を作成し、被保護者の署名を得て実施機関が保管することとしている。「自立活動確認書」の作成にあたっては、「保護の実施機関」が、地域の求人状況等を総合的に勘案して求職活動の内容や、それに対する支援等を確認するとしている。しかしながら、保護の実施機関の現状は、ケースワーカーが標準をはるかに超える保護世帯数を抱え、生活の維持・向上に関する指導や指示さえも困難な状況に置かれている。かつては、被保護者の求職活動を支援するため、ケースワーカーがハローワークに同行することも行われていたが、現状はそうした余裕はまったくない。そのため、保護の実施機関が各地域や各産業の労働事情に精通することは事実上不可能である。そうした中で保護の実施機関が「地域の求人状況等」を、「総合的に勘案」することは困難と指摘せざるを得ない。
 基本方針は、「自立活動確認書」の各項目において、被保護者の求職条件や求職活動方法のすべてを、保護の実施機関と被保護者の判断に委ねているが、これは本来、ハローワークにおいて求職申し込みや職業相談の過程を通じて確認されるものである。したがって、「自立活動確認書」は、ハローワークの職業相談において、求職者である被保護者の希望を尊重し、ハローワーク職員が助言することによって作成することが適当である。  基本方針は、原則6ヵ月以内の一定期間とする活動期間の中間時点を目途に、それまでの求職活動状況等を実施機関が評価し、活動内容の見直しを行うとしているが、こうした求職活動の評価・見直しについても、ハローワークがその専門性を発揮しながら担うことが適当である。

2.求職活動の回数を増やしても採用にはつながらない

 「自立活動確認書」では、具体的な求職活動方法について、「ハローワークでの求人情報の閲覧」や「ハローワークでの職業相談」、「ハローワークの紹介による求人先への応募」、「ハローワークなどを利用せず、求人先への応募面接」などの項目が列記され、各項目ごとに月に何回以上かの回数を記入することとされている。しかし、毎日職業相談を受けたから、毎日求人に応募したからといって再就職の可能性が高まるものでは決してない。
 失業が原因で、生活保護基準以下の生活水準にまで困窮した被保護者は、離職から相当な期間が経過している長期失業者であることが多い。現在の雇用情勢は、有効求人倍率を見れば0.89倍(2013年4月、季節調整値)と改善傾向にあるものの、求人の状況は職種に偏りがあり、低賃金や非正規雇用が多数を占める。そのため、ある程度条件が整った求人には応募が殺到し、競争率が100倍を超えることも珍しくない。そのような熾烈な競争においては、失業期間の長さはきわめて不利な条件となり、応募回数を増やせば採用に結びつくような甘い環境にはない。むしろ、応募回数をノルマ化すれば、応募不調(不採用)を何度も繰り返し、求職活動の意欲を低下させることにしかならず、採用の可能性をいっそう低下させるものである。
 また、応募回数をノルマ化することは、形式的な応募を増加させることになる。みずから同意した求職活動を行わなければ、保護が停・廃止されるのではないかと不安を抱くのは自然なことであろう。そのため、意に沿わない職種や勤務条件の求人に形式的に応募し、採用通知を受けても辞退したり、面接に行かないことが起こりうる。これは、労働市場に混乱をもたらし、ハローワークの職業紹介に対する事業主の信頼を失うことになりかねない。
 これらの理由から、ハローワークでは「再就職したければ、できるだけ多く応募するように」といった指導や助言はいっさい行わない。「自立活動確認書」様式の中に応募回数等の目標設定を求めることは、ハローワークでは「ありえない」活動を一般化し、被保護者の自信と意欲を喪失させるものであり、被保護者を自立から遠ざけることにしかならない。
 長期失業等により、不利な条件で求職活動を行わなければならない被保護者に対しては、多くのハローワークで担当制・予約制による職業相談を実施している。そして、求職者の状況に即した個別求人開拓や、必要に応じ職員の面接同行等を実施している。保護の実施機関とハローワークが連携し、個別専門支援に結びつけることこそが、再就職に有効である。

3.短時間就労への誘導の問題

 基本方針では、活動期間の中間時点を目途に(概ね保護開始後3ヵ月程度)、「それまでの求職活動を通じて直ちに保護脱却が可能となる程度の就労が困難と見込まれる場合には、本人と面談の上、生活のリズムの安定や就労実績を積み重ねることで、その後の就労に繋がりやすくする観点から、パートタイム勤務等短時間・低額であっても一旦就労することに向けた求職活動を行うよう、本人の同意を得て、活動内容を見直す」としている。
 職業安定法第22条第1項は職業指導を定め、同法施行規則第16条において「公共職業安定所が行う職業指導は、求職者に対し、職業知識の授与、職業の選択、就職のあっ旋及び就職後の指導を一連の過程として、これを実施するものとする」とし、同第2項では「公共職業安定所が行う職業指導は、職業指導を受ける者が職業の諸条件及び就職の機会と照合して、自己の素質及び能力を判断することができるよう助言・援助するものでなければならない」としており、適職を選択し、安定就職をめざす過程と解すべきものである。保護の実施機関の評価によって短時間就労を強いることは、ハローワークの基本姿勢と異質のものである。また、ハローワークの求人は、常用・パートを問わず企業が労働力の確保を求めるものであり、職業安定法第5条の7は「求職者に対しては、その能力に適合する職業を紹介し、求人者に対しては、その雇用条件に適合する求職者を紹介するように努めなければならない」と規定している。求人企業に「雇用条件に適合しない」求職者を紹介することは、求職者・求人企業双方にとって不幸な結果をもたらすことになる。そもそも、「生活のリズムの安定」が必要な保護受給者は、ただちに職業紹介の対象にはならず、福祉事務所と公共職業安定所が連携し、生活支援等を適切に実施することこそ必要である。

4.「自立活動確認書」様式の問題点

 「自立活動確認書」の様式には、求職活動以外にも多くの問題点があり、その一部を指摘する。
 希望職種を記入する欄が設けられ、自由記載も可能な様式にはなっているものの、「清掃」、「調理(補助含む)」、「整備」、「工場・倉庫作業」の4つが選択肢として例示されている。多様な職種の中で、なぜこれら4職種のみが例示されるのかが意味不明である。最初に「清掃」を例示する意図が、「清掃ならできるだろう」ということなのだろうか。被保護者一人ひとりの能力や適性、そして地域の労働市場の特徴等を考慮することなく、特定の職種に誘導しようとする姿勢は安易であり、効果を期待できない。しかも実際の清掃業務には、未経験者でも就業可能な仕事もあれば、経験・技術を要するものもあり、職業相談の中で、具体的な希望職種を絞り込んでいくことが必要であり、実施機関と被保護者の相談のみで、乱暴に希望職種を決定することは、その後の職業相談を混乱させかねない。
 1週あたりの勤務日数では、選択肢が「1〜2日」、「2〜3日」、「4〜5日」、「その他」とされ、1日あたりの勤務時間は、「3時間以内」、「3〜5時間」、「5時間以上」とされている。多くの被保護者である求職者は、安定した常用就職を実現することにより自立することをめざしている。あえて短時間就業の選択肢を前に置いている点は、前述した短時間就業への無理な誘導を引き起こしかねず、その弊害は大きい。
 希望条件の「その他」において、「住込可」の選択肢が用意されている。リーマン・ショック後の「派遣切り」、「非正規切り」では、社員寮に入居し、仕事(賃金)も住居も事業主に支配されていた労働者は、失業と同時に住居を喪失するきわめて過酷な状況に置かれることとなった。住込就職は、それ自体が問題とは言わないものの、失業が住居喪失に直結する危険を含むものである。また、生活保護制度の運用においては、敷金や家具什器費、布団代を支給せず、アパート入居を認めないケースが散見される。しかしながら、住居を確保して生活を安定させ、プライバシーが確保されて精神的にも安定することが、安定就職をめざす上で非常に重要である。あえて「住込就職」の選択肢を設けることは、アパート入居から遠ざける意図を感じ取れる。

5.おわりに

 現在、国会で審議されている生活保護法「改正」案は、保護申請をごく一部の例外を除き書面による申請に限定し、多くの証明書類の提出を保護申請者に義務づけるなど、生活保護制度の入口を著しく狭めようとしている。同時に国会審議が行われている生活困窮者自立支援法案は、保護が必要な状況にあっても、住宅確保や食事の提供、職業訓練の実施など、生活保護とは別の限定的な制度を作り、そこに誘導するものである。これらはいずれも、保護費を削減することが強く意識されている。それに先立つ形で通知された今回の基本方針も、「就職による自立」によって、保護費を削減しようとするものであろう。先にも触れたように、私たちは適職を得ることによって保護から自立できることは望ましいと考える。しかし、それはあくまで適格紹介の原則により適職に就くことでなければならない。意に沿わない、あるいは苦痛を感じるような仕事への応募や就労を求めることは、国民の勤労権、職業選択の自由を著しく侵害する。また、離職の危険性が高い不安定な就労に誘導し、保護を廃止するなら、生存権が脅かされる。
 私たちは、すべての求職者が個人として尊重され、適職に就くために、失業中は雇用保険制度や生活保護制度など社会保障の拡充により、その生活が十全に維持されなければならないと考える。そのため、生活保護制度や労働諸法制の改悪に反対し、広範な勢力と共同して尽力するものである。

以  上