雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

「生活保護制度に関する国と地方の協議に係る中間とりまとめ」に対する見解

 

2011年12月
全労働省労働組合中央執行委員会

厚生労働省は12月12日、生活保護制度に関する国と地方の協議において、中間とりまとめを行った。その中では、「生活保護受給者に対する自立・就労支援」を集中的かつ強力に推し進めるとしているが、その内容には以下に示す重大な問題点が含まれていると考える。とりわけ、求職者支援制度による職業訓練について、これを「合理的理由なく」受講しない場合、生活保護の停廃止を検討するとされており、事実上、求職者支援制度の利用を生活保護受給の要件として課すことになる。これは、生活保護受給者の職業選択の自由(日本国憲法第22条)を侵害しかねない由々しい問題である。

 求職者支援制度は、雇用保険を受けられない失業者が再就職に向けて職業訓練を受講するとともに、職業訓練の受講に際して一定の要件の下に給付金を支給する制度である。これは、雇用保険と生活保護の間をつなぐ「第二のセーフティネット」として位置づけられているものの、緊急人材育成支援事業(基金訓練、訓練・生活支援給付)から求職者支援制度へ移行する際、その基本的な性格について、求職者が再就職を図るための雇用施策(求職者が職業訓練を受講することで再就職の可能性を高めるもの)として再整理されたところである。従って、生活保護受給者が求職者支援制度を利用することはあり得るものの、再就職に向けた個々人の状況は異なっており、求職者の適性や希望、労働市場の動向等に照らして必要な職業訓練の受講を促すものである。

その一方、求職者支援制度による職業訓練は、緊急人材育成支援制度と同様、地域的な訓練コースの偏在が解消されていない。これは、民間の職業訓練機関に委託して実施する方式としたことによる限界であり、求職者のニーズに合った訓練コースが十分に用意されているものでもない。また、給付金の支給要件に8割以上の出席が義務付けられており、病気などの「やむを得ない」理由があっても、2割以上欠席した場合には給付金が不支給になるなど、その生活を十全に保障するものとはなり得ていない。従って、8割以上の出席日数を確保するため、体調を崩してでも無理に出席する者がおり、知人・友人の葬儀等への出席が「やむを得ない」理由とされていないなど、社会通念と合わない部分もある。このように、求職者支援制度自体が十分な内容と言えない中で、これを生活保護受給の要件とすることは不適切であり、適職選択の権利侵害と言わざるを得ない。

 また、中間とりまとめの中では、福祉事務所とハローワーク等関係機関との連携強化も打ち出されている。もとより、福祉行政と労働行政の連携は重要であり、この間も、それぞれの行政の専門性を活かしながら相互連携によって生活困窮者等への支援を行ってきた。他方、地域主権改革のアクション・プランにおける自治体とハローワークの「一体実施」が進められてきたが、これは、国が行う職業相談・職業紹介等と自治体が行う住宅、福祉関係業務等を一体的に実施するものである。しかし、既に開始されている「一体実施」の中には、生活保護受給者等の一定数を支援対象者として毎月選定し、その内の一定割合の就職を目標にするなどの実情がある。本人の希望条件に合致した再就職によって自立を実現することは重要であるが、生活保護費の抑制を目的として保護受給者を半ば強制的に就労へ導くとすれば、適職選択の権利を脅かすものとなりかねない。

 この他、中山間地域における農林業の雇用確保が重要として、ハローワークと農林業関係機関との連携が謳われている。これも、連携そのものは重要であるものの、農林業の実態を踏まえているのか疑問である。東日本大震災の被災地においては、第一次産業が主力であるが、震災から9か月が経とうとしている中で未だその爪痕は深く、復興は道半ばである。また、それ以外の地域においても、農林業で十分に生活していけるだけの実情になく、離農者が増加している実態もある。加えて、農林漁業は就労時間や収入構造が雇用関係とは大きく異なり、再就職を願う求職者を農林漁業へ誘導することには無理があり、ここでも適職選択権の侵害が懸念される。

 完全失業率4.5%、完全失業者数288万人、有効求人倍率0.67倍(いずれも10月時点)と厳しい雇用情勢が続く中、必要な者には生活保護が当然に適用されるべきであり、中間とりまとめの内容は、適職選択権と生存権(日本国憲法第25条)の保障に深刻な影響を及ぼしかねない。今、必要なことは、格差と貧困を当然視する新自由主義的政策を改め、労働者に良質な雇用を確保することを通じて内需を拡大し、長引くデフレからの脱却を図ることである。その上で、(1)求職者の適性と希望を尊重した公的職業訓練の充実、(2)ケースワーカーやハローワーク職員の増員等を通じたきめ細かな生活相談・就職支援(カウンセリング等を含む)など、国民のセーフティネットを十全に整備することである。何よりも、生活保護制度は憲法の規定する生存権保障に不可欠なものであり、保護基準以下の生活を強いられている国民に対して、十全に適用されることが当然であると考える。

 

以  上