雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

求職者支援制度の創設に関する提言
〜職業訓練の制度設計を中心に〜

2011年1月
全労働省労働組合
求職者支援制度検討プロジェクト

1.雇用保険の受給資格のない者に対する職業訓練の創設

2009年7月に国が基金を造成して創設された緊急人材育成支援事業により、雇用保険受給資格のない求職者が無料で受講できる「基金訓練」と、訓練受講中の生活を支える「訓練・生活支援給付」の両制度が開始されました。

基金訓練は、従前の公共職業訓練がおもに雇用保険受給資格者を対象としてきたのに対し、雇用保険の受給を終了した者、自営廃業者、専業主婦や短時間アルバイトなど雇用保険の受給資格のない状態から、就職をめざす人に広く職業訓練機会を提供するものです。また、年間計画にもとづいて国や地方公共団体、委託実施機関が行う公共職業訓練とは異なり、各種学校などの実施機関が、国が定める基準の範囲で訓練実施を申し出、中央職業能力開発協会がそれを認定することによって募集が開始されるという特徴があります。

訓練・生活支援給付は、一定の要件を満たす受講生に対し、扶養家族がいる場合には月12万円、そうでない場合には月10万円が給付されます。さらに、同給付の支給では生活費が不足する場合には、扶養家族がいる場合は月8万円、それ以外は月5万円を上限とした労働金庫から融資を受けることができ、訓練修了後6ヵ月後の月末までに就職した場合(6ヵ月以上の雇用が見込まれる仕事に就いて雇用保険被保険者資格を取得した場合に限る)には、融資額の2分の1について返済が免除されます。

これらの制度は、当初、2011年度末(2012年3月31日)までの緊急対策として発足しました。しかし、政権交代後の政府内の議論より、2011年3月末で基金による事業を廃止し、2011年4月以降は恒久制度として新たな求職者支援制度を実施することが決定されました。現在、労働政策審議会の職業能力開発分科会及び職業安定分科会雇用保険部会において、恒久制度化に向けた検討が進められていますが、現時点で法案がとりまとめられておらず、本年4月から恒久制度に移行できる状況にはありません。そのため、新制度が発足するまでの間は、現行の基金訓練と訓練・生活支援給付金が継続実施されることとなっています。

2.基金訓練の積極的役割

先にも述べたように、基金訓練は従来公共職業訓練の対象外であった人々に訓練機会を提供するものであり、積極的な機能を持っています。厳しい雇用情勢が長期化する中で、何度求人に応募しても不調を繰り返し、自信を喪失する求職者は少なくありません。そうした求職者が基金訓練を受講することにより、再び意欲を取り戻し、閉塞感から解放される効果は大きなものがあります。雇用保険受給者の約半数がわずか90日分の給付となっていますが、従前は、再就職が決まらないまま支給終了となり、以後、経済的にはハローワークで支援を受けられない状況であったものが、雇用保険支給終了後もスキルアップをはかりながら給付金の支給を受け、安心して求職活動を行えるようになっています。

ある刑務所出所間もない求職者は、知り合いの事業所に「パソコンができれば採用する」と言われていたものの、パソコン技術を身につける手段がありませんでしたが、ハローワークでの職業相談を経て、現在パソコン訓練を受講されています。

また、新卒者の雇用環境が極めて厳しい状況のもと、派遣や請負労働に従事せざるを得なかった若年労働者等に対しては、基礎的な学科やビジネスマナー、さまざまな職業の基礎知識等を学べる基礎演習コースが用意されており、有効に機能しています。就職先での即戦力育成をめざす実践演習コースでも、ITの専門知識や介護福祉分野など、6ヵ月程度の訓練の中で専門知識を身につけて再就職を実現しています。

 新たな求職者支援制度の設計においては、こうした現行制度の積極面をしっかりと維持・発展させることが必要です。

 一方、現行制度では、さまざまな矛盾も顕在化しています。

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3.基金訓練において生じている諸問題

(1)訓練の地域間格差

 基金訓練は、国や自治体等が地域の労働市場を分析し、それにもとづいた職業訓練を実施する枠組みではなく、各種学校等の民間機関に奨励金を支給するインセンティブにより、訓練実施に名乗りをあげてもらう仕組みとなっています。そのため、各種学校が多数存在する都市部と他の地域では、基金訓練の提供規模が大きく異なっています。首都圏や大阪圏、名古屋圏、各都道府県の県庁所在地などの都市部では、基金訓練は供給過剰となっています。しかしながら、政府の重要施策であることから、ハローワークの職員は募集定員を充足させるためにたいへんな苦労をしている状況にあります。一方、それ以外の地域で実施されている訓練は、訓練科目もパソコンやCAD等に限られ、受講希望者のニーズに応えられないうえ、定員規模も小さく供給不足の状況にあります。また、基金訓練は3ヵ月間の「職業横断的スキル習得訓練コース」や6ヵ月間の「基礎演習コース」の受講後に「実践演習コース」を連続受講できることとされていますが、都市部以外ではそのような機会も限られています。このように、基金訓練の実施規模では、都市部と地方の二極化が生じています。

(2)儲け優先の実施機関による弊害

基金訓練の実施事業者に対しては、新規に訓練を開始した際に新規訓練設定奨励金(20人規模で3ヵ月の訓練を開設した場合100万円など)が、訓練実施期間中に訓練奨励金(基礎演習1人あたり月額10万円、職業横断的スキル習得訓練や実践演習1人あたり月額6万円など)が国から支給されます。すべての実施機関ではないものの、奨励金目当ての運営を行う実施機関が多数存在し、「基金訓練バブル」という言葉まで聞かれるとともに、さまざまな弊害が顕著になっています。

まず、受講生を金づるとしか見ていないような運営です。たとえば、基金訓練受講中に就職が決定し、受講生が中途退校して再就職を強く希望したにもかかわらず、実施機関に対する訓練奨励金が1人分減少することから、訓練修了までは退校して就職することを認めない実施機関が存在します。さらに、連続受講に関して「同一の実施機関でないと訓練・生活支援給付の対象とならない」との誤った情報を伝えている実施機関もあります。また、受講生に対し、知人などにみずからが運営する基金訓練のチラシを配布させ、引率して集団で受講申し込みを行わせるなど、奨励金目当ての「受講生囲い込み」とも言うべき状況が各地で見られています。

このような奨励金目当ての運営は、受講生確保のために、訓練・生活支援給付金を強く打ち出した募集に結びつきます。ハローワークに持ち込むチラシでは控えめになってはいるものの、各戸配布されるチラシや新聞折り込みのチラシ、求人広告紙などでは、「国から月に10万円支給」が前面に打ち出された広告が大規模に行われています。こうした情報はネット上や口コミでも広がっており、ハローワークの担当部署では、「10万円もらえると聞いたのですが」といった、訓練は二の次で給付金目的の相談が相当数にのぼります。ハローワークに十分な体制があれば、そうした求職者に対するていねいな相談を通じて職業訓練の理解を深め、再就職への意欲を喚起したり、職業訓練受講が適切ではない方には、他の生活支援制度を案内することができます。しかし、きわめて限られた体制の中、日常的に長時間の待ち時間が生じており、十分な相談が困難な状況にあります。そのため、給付金目的の意識を持ったまま訓練に臨む受講生も少なくなく、高い意欲を持つ受講生とそうではない受講生が混在しながら訓練が実施されている実態があります。意欲の高い受講生からは、訓練に集中することが困難といった苦情もハローワークに寄せられています。また、先に述べたさまざまな職業の基礎知識等を学べる基礎演習コースは、本来職業経験や知識に乏しい若年者等を対象に設計されていますが、給付金支給を目的とした受講の蔓延から、高年齢層等が相当数を占めるケースも見受けられます。

こうした給付金目的の受講生が存在する問題の原因が受講生にあるとする報道や意見も散見されますが、根本的な原因は、生活困窮者が頼れる生活保護等の制度が周知されていないことや、奨励金目当ての実施機関による本末転倒の募集広告にあることを指摘します。

このような状況から、ハローワークの担当部署では、訓練・生活支援給付金の要件に該当しない受講希望者とトラブルになるケースも少なくありません。

一方、派遣会社が実施機関となっている場合、登録している求職者に対し、仕事がない期間についてみずから運営する基金訓練に誘導するケースも散見されます。また、求人情報誌等に求人広告を掲載し、それに応募した求職者を基金訓練に誘導するケースも見受けられます。

(3)訓練の内容や質の諸問題

現行の基金訓練には、良質なものも多数ある一方、その質に疑問や問題のある訓練も少なくありません。

訓練規模を拡大している実施機関等においては、パソコンの訓練でありながら受講生分のパソコンが用意されていないケースや、経験の浅い講師が原稿を読むだけの講義の実態も受講生から寄せられています。

成長分野との名目で、制度発足当時はダイビングのような趣味的講座も実施されていました。現在、都市部を中心に多数の訓練が実施されている科目として、ネイルアーティストやエステティシャン、セラピスト、トリマーなどを挙げることができます。これらの訓練は、地方ではそれらの求人はほとんどなく、再就職に資する訓練とは言い難い状況となっています。東京などの都市部ではこれらの求人はある程度の規模で存在していますが、歴史の浅い職種であり、職場の定着性などの蓄積データがなく、ネイルアートなどでは高度な技術を持つアーティストに指名が集中するなど、現行訓練が再就職にとって有効なものであるか、分析が必要です。

職業横断的スキル習得訓練コースは、エクセル、ワード、パワーポイントのビジネスソフトの習得をめざすもので、パソコンの普及状況に照らして一定の効果は期待できます。しかし、同じパソコン技術を習得するにも、それに要する時間は相当の個人差があるにもかかわらず、多様な年齢層やパソコンの習熟度合いの異なる受講生が混在して訓練が実施されています。そのため実施機関と受講生双方から、改善が求められる状況にあります。

 

(4)訓練受講を困難にしている課題

雇用保険受給者が公共職業訓練を受講する際には、交通費の実費(通所手当)が支給されますが、基金訓練においては実施機関までの交通費は自己負担となっており、生活困窮者にとっては受講への隘路となっています。地方では、車での移動が中心となりますが、受講先での駐車料金負担も切実な問題となっています。

また、訓練・生活支援給付金は、1ヵ月に実施される訓練の8割以上を出席しなければ翌月以降の支給が停止されます。その際、「やむを得ない理由」として「欠席」から除外される理由がきわめて限定的であり、身内の不幸など社会通念上当然認められるべきものが正当理由に含まれていません。この点についても、より柔軟な対応が必要です。

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4.生活保護との関係

リーマンショック以降、不安定雇用での就労を繰り返してきた労働者が、解雇とともに住居を喪失し、きわめて過酷な状況に追い込まれました。こうした事態に陥った段階では、就労によって生活を再建することは困難であり、生活保護によってまず住居と生活費を確保し、生活基盤を安定させてから再就職をめざすことが有効です。現に、「派遣切り」に遭った労働者の多くが生活保護を受給しながら再就職をめざしています。その過程で、これまでパソコンに接する機会に恵まれなかった者は、基金訓練受講によって再就職の実現可能性が確実に高まります。また、基金訓練の資料代や交通費も生活保護の技能習得費として支給されるため、無理なく受講することができます(ただし、技能習得費の周知・運用が十全にはかられていない福祉事務所の対応も見受けられ、改善が必要)。

しかしながら、一部の自治体では生活保護基準以下の生活を余儀なくされる困窮者に対し、保護費の支出を抑制する目的をもって、訓練・生活支援給と基金訓練を活用するように誘導している実態があります。ハローワークの訓練担当部署には、生活保護の説明を受けることもないままに「福祉事務所からハローワークに行くように言われた」との相談が後を絶ちません。たとえば、当該求職者が住居喪失状態にあり、友人宅等を生活の拠点としている場合は、そのままの状態では安定した仕事に就くことは困難であり、無理な基金訓練への誘導は再就職の実現可能性を低下させることに他なりません。生活保護の職場も多忙を極めていますが、体制を確立して生活保護制度を十全に機能させるとともに、労働行政の施策に関する理解を深め、基金訓練を有効に運用する姿勢を共有することが必要です。

 

5.あるべき求職者支援制度に向けた提言(職業訓練を中心に

冒頭に述べたとおり、緊急人材育成支援事業では、基金訓練と訓練・生活支援給付金が主要な柱となっており、その後継制度である求職者支援制度の設計に関する議論が労働政策審議会で行われています。

 これまで見てきたように、現行制度は積極的意義・目的を持つ一方、さまざまな問題が浮かび上がっています。私たちは、新制度がこれらの問題を解消し、真に目的に資する制度として作られることを期待し、職業訓練を中心に以下に述べる事項を提言します。

(1)訓練の科目や定員等の設定

職業訓練の実施にあたっては、地域の雇用情勢を踏まえた科目や規模等の制度設計が不可欠です。そのため、現在の実施機関まかせの方式をあらためることが必要です。都道府県労働局やハローワーク、職業訓練の知見を蓄積している雇用・能力開発機構都道府県センター職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)などが主体的に設計する枠組みとすべきです。そこでは、地域の労使の意見を反映させるシステムを整備することも重要です。また、労働局やハローワークがその機能を担うのであれば、それにふさわしい体制を確立する必要があります。

職業訓練のコース設定については、公共職業訓練と同様に、1年間程度の訓練計画を策定し、その内容に沿った入札によって実施機関を決定することが有効と考えます。これは現行の公共職業訓練の委託訓練と同じ枠組みであることから、求職者支援制度における職業訓練と公共職業訓練の委託訓練は統合し、雇用保険受給者も受給資格がない求職者も受講できることが望ましいと考えます。

(2)質の高い訓練の確保

上記の入札にあたっては、訓練の質に関する仕様を厚生労働省や労働局、ポリテクセンターが定め、応札事業者が具体的内容を明示し、行政機関等が審査することにより質を確保することが必要です。また、訓練実施後も一定水準に到達しない実施機関をチェックするために、労働局とハローワークの体制を強化し、実態調査を適宜実施することや、受講生に対するアンケート、苦情通報制度等を整備することが必要と考えます。さらに、訓練が再就職に結びつくものであるかを検証するため、修了者が当該訓練科目に関連する職種に就職した割合を調査することも必要と考えます。

あわせて、実施機関が職業訓練を委託するにふさわしい事業者であるかを審査することも必要です。法令等に違反する事業を運営する事業者を排除することはもとより、各種社会保険の完全加入や保険料の滞納がないことなども要件とする必要があると考えます。

(3)生活費給付のみを目的とした受講防止

生活保護制度の周知の徹底や、融資によらない給付型の各種生活支援制度を充実させることにより、生活困窮者の命綱が職業訓練とセットの給付金しかない状況を改善すべきです。

その上で、ハローワークでは職業訓練の受講希望の意思を十分確認し、生活困窮が優先課題である求職者は住居・生活支援窓口へ確実に誘導し、生活保護やその他の制度を案内するような制度設計が必要です。

また、訓練実施機関は宣伝物にみずから権限を持たない生活費給付については、「○○給付金対象訓練」など限定的な記述にとどめることを徹底すべきです。訓練と給付金の制度全体のルールについては、政府や労働局が責任を持って広報すべきです。

(4)習熟度等に配慮した訓練受コースの整備

訓練習得に要する時間の個人差に配慮し、パソコン基本ソフトの習熟訓練については、「比較的短期間で習得をめざすコース」、「標準的なコース」、「じっくり時間をかけて習熟をめざすコース」のようなコース分けを行う必要があります。その場合、短時間で習得をめざすコースでは、次のステップの訓練を組み合わせるなど、訓練期間に格差を設けない工夫をすることが望ましいと考えます。

また、さまざまな職業の基礎知識等を学ぶ現行の基礎演習コースは、本来職業経験や知識に乏しい者等を対象に設計されていることから、訓練受講の受講対象者の要件を明確化することが望ましいと考えます。

(5)やむを得ない欠席と通学交通費

訓練受講中に支給する給付金について、出席要件を課すことは必要と考えますが、やむを得ない理由による場合は、社会通念に照らし認める必要があります。現行はあまりにも限定的な運用であることから、見直しをはかることが必要です。

また、受講生の負担軽減と、職業訓練機会を保障し選択肢を広げるため、一定の要件と上限を定め通学交通費を支給すべきと考えます。その際、通所経路の認定や支給事務は膨大な業務量となりますが、現在の労働行政の体制では実務を担うことは不可能であり、労働行政の体制を抜本的に整備することや、専門性を備えた外部機関に委託する必要があります。

(6)行政体制の確立

職業訓練の受講は、職業相談の過程で経験、希望職種、資格、適性などを的確に把握し、求職者の意欲喚起をはかりながら、その必要性を判断して実施することが不可欠です。新規求職申込と同時に職業訓練の受講希望がある場合、現状ではその要因が生活困窮にあることも多く、他の制度の案内も含め時間をかけてていねいに職業相談を行う必要があります。しかしながら、現在の行政体制はあまりに脆弱であり、増員によるハローワークの体制確保が不可欠です。

また、地域のニーズに応じたきめ細かな訓練計画の策定、訓練内容の審査や実施過程でのチェックなど訓練の質の維持等をはかる上でも体制確保が不可欠です。

訓練修了生の再就職もきわめて重要であり、修了生の多くが正社員として就労していた経験が乏しいことを配慮し、専用窓口を設置して、ていねいな職業相談や応募書類作成指導、個別求人開拓など多彩な就職支援を提供できる体制の確保も必要です。

 

以  上