雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

生活に困窮する失業者等を行政が支援するために
―「派遣村」を必要としない支援策の具体化のための課題―

2010年10月
日本国家公務員労働組合連合会
日本自治体労働組合総連合
全労働省労働組合

 自治労連、国公労連、全労働は、11月4日、生活困窮者向けの「派遣村」がなくても済むよう、公的支援制度の改善策をまとめ、政策提言として発表しました。国のハローワークと自治体の福祉事務所について、本来の機能を確保・強化し、日常的な連携を進めるべきだとしています。それぞれ、社会福祉協議会やハローワーク・監督署などの勤務する組合員が、業務や2008年末の「年越し派遣村」などでの生活・就労相談の経験に基づいて、今年4月頃から共同で議論を重ねていたものをまとめたものです。

共同提言

はじめに−問題意識−

 2008年秋に発生したアメリカ発の金融危機は、たちまち世界に広がり、日本国内でも深刻な経済危機となって現れた。こうした状況の中で日本の大企業は、「雇用調整」の名の下、競うように期間工などの非正規労働者や、派遣労働者を大量に解雇し、路頭に放り出した。

 仕事とともに収入、さらには住居までも失った失業者の悲惨な状況は、2008年末に日比谷公園で取り組まれた「年越し派遣村」で誰の目にも明らかとなり、以来、各地で労働組合や支援組織等の手によって、継続して取り組まれている「労働・生活相談会」などを通じ、大きな社会問題となっている。

 こうした状況が引き起こされた原因として、直接的に労働者を解雇した大企業の無責任な姿とともに、その背景には、1995年の日経連(当時)による「新時代の日本的経営」にみられる、期間工のなどの細切れ雇用の放置や派遣労働の自由化、低賃金政策など財界の要求に、時の政権が無条件に従い、雇用に関わる様々な法的規制を緩和し、低賃金・不安定雇用労働者を大量に生み出す政策をとってきたことにある。

 こうしたことへの国民的な怒りと批判の中で、昨年8月の総選挙で、自民・公明両党が政権の座から転落し、「労働者派遣法の抜本改正」「最賃の引き上げ」などの公約を掲げた民主党政権に交代した。

しかし、この政権のもとでも抜本的な労働法制の改正や整備は行われず、自公政権時代から引き続いて実行・具体化された「第2のセーフティネット」や「緊急雇用対策」などの政策は、新たな財政支出を極力抑え、従来の制度政策の組み合わせにとどまっており、利用実績は想定を大きく下回るものとなった。

また、政府は自治体に協力を求め、2009年末を迎えるにあたり、当事者や支援組織、労働組合の声に押され、「派遣村を必要としない」施策として、ハローワークと福祉事務所等の連携をはかる「ワンストップ・サービス・デイ」を実施した。また、年末年始には東京都をはじめいくつかの自治体を拠点に、ハローワーク等の関係機関が参加する生活総合相談が実施された。これらは、従来バラバラに行われてきた雇用・失業対策と生活支援策の連携を図ろうとするものであり、一定の評価はできるものである。しかしながら、場所的なワンストップは実現したものの、参加機関の連携が十分はかられたとは言えず、生活に困窮しながらも、何の制度にもたどり着けず会場を後にする相談も少なくなかった。政府は、本年末も同じようなとりくみを準備するとともに、新たに打ち出されたNPOなどの活用は国の責任を曖昧にしかねず、抜本的な解決策とはならない。

困窮する失業者等の生活問題の抜本的な解決に当たっては、元凶である労働者派遣法の抜本的な改正や、非正規雇用・期間工などをなくして雇用の安定を図ること、改正最賃法の徹底と地域最賃の改善などを通じ、低賃金・不安定労働者を「踏み台」にして大もうけをしてきた大企業に、必要な負担を求めることが重要である。

同時に、現在も生み出され続けている生活に困窮する失業者に対する支援について、雇用におけるセーフティネットの再構築及び、生活保護などを軸とする当面の生活支援の手立ての拡充、国・自治体による政策的な雇用の拡大策などが緊急の課題となっている。

 こうしたことから、国・自治体が行うべき公的支援策で、現在の主な制度の状況と問題点を明らかにするとともに、不安定就労や細切れ雇用、失業を余儀なくされた労働者の当座の生活と、就労を支援する手立て−「派遣村」のような一時的措置が必要ない状況−をつくるための制度・政策について、以下のとおり提言を行う。

共同提言概要「派遣村」を必要としない支援策の具体化のための課題PDF(416kb)−政策提言−
−政策提言− 参考資料集(1.2Mkb)

1.基本的な考え方

(1)現在の事態を引き起こした最大の責任は、大企業による身勝手な「雇い方」にある。したがって、抜本的な解決策は、大企業における不安定雇用や「派遣・期間工切り」、「下請切り」に厳しい社会的な規制をかけ、労働者派遣法の抜本的な規制強化、解雇規制法や労働契約承継法など不安定雇用を解消する法的整備と「正規・継続雇用が当たり前」の働くルールの確立、及び、雇用・生活・住宅などを含む各分野でのセーフティネットの再構築が必要となる。

(2)同時に、大企業による「雇用の規制緩和」の要求に応え続けた政府の制度・政策上の責任が極めて大きい。したがって、具体の支援施策をすすめるにあたって、その実施主体は国・地方自治体であったとしても、財源確保を含む実施責任については、政府の責任を明らかにしたものであることが求められる。

(3)今日の劣悪な労働条件を見るならば、こうした支援施策は一時的な措置ではなく、継続的に行う必要がある。そこでは、急造された「第二のセーフティネット」を抜本的に改善することが必要である。そして諸制度の活用にあたっては、ワンストップ・サービス・デイに見られる一時的な「場所の一元化」ではなく、「雇用におけるセーフティネット」の役割を果たしてきたハローワーク、「総合的な生活支援」の役割を果たしてきた福祉事務所が、それぞれの機能の確保と体制の整備をはかりながら、相互に恒常的な連携をすすめることが基本となる。

(4)こうした問題が課題となっている状況でも、現行制度を可能な限り改善し、失業者などの生活と雇用確保の手立てを検討する。

2.失業者等を支援する現行制度上の問題点

(1)雇用保険制度

雇用保険法は第1条において制度の目的を明らかにしている。そこでは求職者給付について、労働者が失業した場合に必要な給付を行い、労働者の生活の安定をはかり、求職活動を容易にするとしている。一昨年秋以降の解雇や雇い止めが激増する中でも、雇用保険制度が失業者の生活の安定をはかる必要があったが、実際には十分機能したとは言い難い状況であった。

まず、雇用保険制度に未加入であった離職者が多数にのぼった。当時、雇用保険の加入資格は雇い入れ時点で6ヵ月以上の雇用見込みが要件とされ、短期雇用の派遣労働者や期間工の中には加入できない労働者が一定割合存在していた。また、事業主が加入手続きを怠ったり、離職票を発行しないケースも多数存在していた。ハローワークに相談すれば事業主指導が実施されるが、相談者の実態はそれどころではなく、住居を喪失し、泣き寝入りする人も少なくなかった。

受給資格を得た人であっても、解雇や雇い止めの場合は比較的手厚い給付日数が用意されているが、契約書に「更新の予定はありません」と書かれていた場合の期間満了や、退職願いを書いてしまった場合には、多くの場合給付期間がわずか90日分で、安心して求職活動ができるような状況ではなかった。

解雇や雇い止めの離職者に用意された60日分の個別延長給付も、自己都合退職者等は対象外となっている。所定給付日数はこの間の制度見直しで大幅に短くなっている。そのため、受給資格者が一定割合に達した場合、すべての受給資格者に対して90日分の給付延長を行う全国延長給付も、100年に一度といわれる不況下でも発動されていない。

 給付日額も、離職前賃金の50〜80%とされているものの、上限額が30歳未満で6,145円、30歳以上45歳未満は6,825円などと定められており(2010年8月1日改訂額)、生活保護基準以下の給付となっていることが少なくない。

(2)生活保護制度

 派遣労働者や期間工などは、人件費削減を目的に企業に都合よく使われてきた。そのため、解雇・雇い止めされた労働者の多くは、低賃金で貯蓄がなく、また、社員寮等に住み込みで働いていた者も少なくない。そのため、失業と同時に住居喪失を余儀なくされた派遣や期間工の失業者のうち、雇用保険を受給できる割合は約2割に過ぎず、雇用保険を受給できたとしても、住居確保のための入居初期費等はとうてい捻出できない。

 生活保護制度は、生活費が底をつき住居を失いかけていたり、路上生活に陥った失業者に対し、直ちに居宅や申請のあった現在地において、住居、生活費、医療など、生活再建のための安定した生活を保障するものである。同時に、ケースワーカーによる支援を受けながら、職業訓練を受けたり、本人の希望する安定した仕事を探せる点で、最も優れた制度と言える。

 しかし、生活保護制度にも問題はある。

 第一に、制度と実際の運用に乖離があったことである。生活保護制度は、実際の運用において、住居のある人の保護を前提とし、「行き倒れ」などの人を「急迫保護」「現在地保護」としており、住居喪失者への保護適用は例外的な取り扱いとの理解が広がっていた。そのため、大量に失業した路上生活者の生活保護の申請に対し、現場では制度と運用の乖離による混乱が生じた。これに加え、「急迫保護」「現在地保護」の制度運用の不徹底や施設保護を前提とした対応が加わった。

第二に、自治体が財政的な負担から、生活保護受給者の増大を敬遠したことがある。路上生活者を積極的に保護すれば、その情報が拡がり、周辺自治体からも申請者が殺到することも懸念された。生活保護の費用は、4分の3は国が負担し、4分の1は自治体の負担となっている。制度上は、自治体負担について、地方交付税措置により翌年度に補填されるが、それまでの間、自治体財政における負担は大きい。

第三に、現場の体制が限界に達していることがある。ケースワーカーの人件費は、地方交付税交付金の算定基礎となっているが、三位一体改革による地方交付税交付金の減額に加え、地方議会からの公務員定数削減の圧力もあり、ケースワーカーの人件費にそのまま充てられず、他の部門との均衡で決定されてしまう。そのため、生活保護実施体制は限界を超えるところも多く、窓口で「電車賃だけ渡して他の自治体に行かせる」などの対応も生まれ、社会的な問題となった。

(3)第2のセーフティネット

雇用保険の受給資格がなかったり、給付が終了して収入の途を絶たれる離職者や、住居喪失者が大量に発生するもとで、「生活保護に陥ることなく生活を再建する」ために各種制度が新設された。しかし、多くの制度は融資制度であり、生活困窮者にさらに借金を背負わせるという矛盾を抱えるものであった。また、類似の制度が混在し、窓口も異なるわかりづらいものとなった。

住居確保対策としては、ハローワークを窓口に労働金庫で実施する就職安定資金制度(融資)と、自治体で家賃補助を行う住宅手当制度(給付)、社会福祉協議会で入居初期費用や生活費等を融資する総合支援資金が実施された。このうち、就職安定資金については、利用が著しく低調になったことを理由に、2010年9月末で新規申し込みが終了とされた。本来、国民の権利として設けられている生活保護制度に対し、その適用を「保護に陥る」ととらえることが問題であり、借金に誘導するのではなく、要保護状態にある困窮者は適切に保護しなければならない。また、就職安定資金の利用が落ち込んだことには様々な要因が考えられるが、住居喪失という過酷な状況に追い込まれた人に対し、金融機関が信用情報を調査して融資を実行する枠組みの限界も、その一つと言える。

 雇用保険の受給資格のない離職者に対し、国が設置した基金によって職業訓練を実施し、その間月額単身世帯で10万円、複数世帯で12万円を支給する訓練・生活支援金(追加融資もあり)も実施された。職業訓練機会に恵まれなかった離職者にとっては有効な制度だが、訓練は各種学校等が手をあげて実施する仕組みのため、地域間格差や、同種の訓練間の訓練内容のばらつき等が生じている。この制度は、2010年度で基金を終了することとされ、恒久化に向けた検討が労働政策審議会で行われている。

(4)住宅確保の支援制度

2008年末以降、離職と同時に住居を失った人に対し、政府は企業に対し、家賃を助成して従来の社宅等での継続的な入居を要請するとともに、入居要件を緩和した雇用促進住宅への緊急入居、公営住宅への入居基準の緩和や都市再生機構(UR住宅)の一部開放、「就職活動困難者支援事業」などをすすめ、これらの利用について、ハローワークを通じて空き住宅の確認ができる手立てを講じている。

しかし、派遣切り等で住居を失った人の最大の問題である入居時保障金や当月家賃、入居にあたっての保証人の確保や住民票、印鑑証明の提出などについて、配慮されているのは都市部には少ない雇用促進住宅だけであり、自治体の公営住宅は、こうした対応には消極的であり、UR住宅については、住宅手当制度などの利用が条件になるなど、実際には極めてハードルが高いものとなっている。入居が比較的容易な雇用促進住宅は、賃貸住宅が不足する地域に建設された経過があるため、交通が不便な物件が多く、再就職を困難にしている。

 また、それぞれ、「緊急一時入居」であることから、働くうえで継続的な住居とはなりえず、今日の雇用状況に見合わない実態となっている。とりわけ、首都圏や大都市圏では、低廉な家賃で入居可能な公営住宅そのものが決定的に不足しており、そのことが「貧困ビジネス」の活動の温床ともなっている実態がある。

公営住宅の新規建設とともに、公的住宅への入居要件の緩和や入居期間の延長等の手立てが求められている。

(5)緊急雇用対策

雇用状況の急激な悪化をふまえ、さまざまな雇用対策が実施された。企業の雇用維持のため、雇用調整助成金の要件を大幅に緩和し、助成内容も拡充された。これは、企業の業績が悪化しても解雇せず雇用を維持している場合に、賃金額の一定割合を企業に助成するものである。

2008年度当初は月間の申請が100件足らずに過ぎなかったが、急激に申請が増加し、最大で事業所数は8万5千近く、対象労働者数は250万人を超えた。2010年5月段階でも約7万7千事業所が利用し、対象労働者数は132万人を数えている。この制度によって、膨大な労働者が失業から守られたと言える。

しかし、賃金助成額の上限が雇用保険日額の上限額とされているため、助成率の引き上げが事実上意味をなさず、最大4割の賃金引き下げとなった労働者や、助成を受けながらも厳しい経営環境を余儀なくされた経営者も存在していた。

 雇用創出では、都道府県や市町村に交付金を交付し、これをもとに基金を造成して雇用創出をはかる緊急雇用創出事業やふるさと雇用再生特別基金事業が実施された。これらは一定の雇用創出を実現したものの、期限付き雇用であり、安定雇用を創出するものではない。また、国の対策が期限付きであるため、交付金終了後に雇い入れた労働者の雇用問題が生じるため、自治体が慎重にならざるを得ない問題がある。

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3.体制整備をはじめとする現状の課題

(1)ワンストップサービスが、一時的な「窓口の一元化」に

 昨年11月30日と12月の一日(地域によって異なる)、ハローワークを拠点にして、自治体や社会福祉協議会などの関係機関が参加し、諸制度を一ヵ所で案内するワンストップ・サービス・デイが実施された。12月には204ヵ所で400市区町村が参加し、約4千人が利用した。年越し派遣村以来、支援団体では、労働や生活の課題を一体的に解決する必要性が認識されており、行政がこうした認識を共有した点で大きな前進と言える。

 しかしながら課題も明らかとなった。行政機関が1ヵ所に集まっても、互いの制度を理解し、相談者を適切な制度に案内する役割は十分ではなく、どの制度にもたどりつけない相談も少なくなかった。また、多くのハローワークは複数以上の自治体を管轄区域としているため、各自治体はもとより、社会福祉協議会、保健所の職員の参加は膨大な人数になり、会場はきわめて狭隘となった実施施設が少なくなかった。小規模自治体では、職員を終日派遣しながら、当日の利用がほとんど、あるいはまったくなく、非効率な運営も目立った。さらに特定日のみの実施では、必ずしも課題を抱えた求職者すべてに周知が行き届かない問題もある。

 こうした問題を解決するためには、ハローワークや自治体、社会福祉協議会等の職員が、困窮者の生活状況とその支援の諸制度を十分理解し、日常的な連携の中で必要な窓口につながなければならない。

(2)ハローワーク・福祉事務所それぞれの機能と具体的な制度に対する理解不足

ハローワークは、再就職をあっせん・援助することが基本である。雇用が細切れ化される前は、生活保護等の制度を適用することなく、住居喪失者に対しては住み込みの仕事をあっせんすることで生活の確保を図ることができた。また、多くの場合在職中にある程度の蓄えがあり、家族・親戚からの援助を受けることなどができたため、生活支援の必要性は限定的であった。

しかし、雇用形態の変化や、国内産業の空洞化などによって雇用全体の規模が縮小しており、多くの労働者が失業と同時に住居までも失って路上生活とならざるを得ない状況がリーマンショック以降に多発している。

路上に放り出されても、多くの人は就職することで生活再建をはかろうとするが、住居喪失状態のままでは再就職はきわめて困難であり、生活基盤を安定させるためには生活保護適用を検討されることが望ましい。ハローワークの求職者の中に、住居・生活困窮者が存在する以上、直接所掌する業務ではないものの、ハローワーク職員が生活保護制度の概要を理解しておくことが必要だ。しかし、要保護者の掘り起こしを懸念する政府は、専門の窓口職員には生活保護制度の研修を行っているものの、全ハローワーク職員に対する生活保護研修等を実施しておらず、早急な対応が求められる。

福祉事務所では、生活保護受給者の就労支援に関して、経験の長いケースワーカーが本人と一緒にハローワークに行って、仕事探しの相談を行った経験をもっている。これが現場で顔の見える関係となり、連携して就労と自立を支援することが行われてきた。ところが、生活保護職場では担当ケースが増大したため、ハローワークに相談に行くように指導するのが精一杯となり、きちんと支えることができなくなっている。こうした実態は、ケースワーカー自身が雇用情勢の実情を知る機会を失うことにもつながり、「3日に一度の求職活動では稼働能力を十分活用しているとはいえない」という理由で生活保護を打ち切ったため、裁判で争われるような事態を生んでいる。

加えて、厳しい雇用情勢が続くことにより、生活保護受給者は、探しても仕事が見つからない状況が長くなることで自信を喪失し、さらには就労意欲そのものまでなくしてしまうことから、ハローワークにも行かなくなる。本人の就労を継続的に支援する就労支援員もそのほとんどが有期雇用の非常勤職員であり、その役割を果たすことが困難となっている。

今日の雇用情勢のもと、ハローワーク・福祉事務所には、それぞれの機関が持つ専門性を生かしつつ、他の専門機関との連携によって一人ひとりに有効な支援を行うことが求められている。それぞれの専門性を確保し、経験と知識がなければきめ細かい支援はできないことから、それらを最大限生かしつつ、相互の制度や多重債務、こころの健康問題等に関する知識を深め、多様なニーズに応じて必要な連携が図られるようにすること、そして、就労支援についての方針を共有することが求められる。

そのためには、個人的な努力でつくられていた「顔の見える連携」を制度として再構築し、連携を強化することこそが求められる。

(3)背景にある人員の不足や経験・熟練の不足

2009年12月に自治労連が行った全国生活保護職場体制調査(731実施機関・56.7%から回答)では、ケースワーカーのうち経験3年未満が7割(66%)を占める反面、5年以上の経験者は11%しかいない。したがって、一実施機関当たりの平均ケースワーカー数は10人(9.6人)であることから、5年以上の経験者は職場に1人となる。

経験3年未満7割、年齢も7割(68.0%)が30歳未満と若い職員が中心となっており、社会福祉士・社会福祉主事等の資格を持たないケースワーカーも2割(20.0%)を占めている。ケースワーカーの能力向上を、実務経験と資格の両面から考えていく必要がある。

それどころか、アンケートの自由記載をみると、「毎年、異動を希望する者が多く、ベテランが少なくなり、ケースワーカー同士相談もできない」「忙しさの中で仕事に追われ、希望が持てず、異動希望が引きもきらない」「ベテランワーカーの異動に伴い新人が赴任するが、現場経験がなく、複雑な福祉制度を理解する前に現場実践を行わなければならないため、戸惑い、自信喪失し、バーンアウトに至る現実がある」など、人材育成の崩壊が起きていることがうかがえる。

 一方、ハローワーク職員は、生活保護ケースワーカーとは異なり、職業生活すべての期間を労働行政で過ごすため、長期にわたって経験を積み重ねている。しかし、定員削減による正規職員の不足は深刻で、第一線では非正規の相談員が欠かせない。非正規職員もキャリア・コンサルタントや産業カウンセラーの資格を取得する者も多く、第一線で高い専門性を発揮している。しかしながら正規職員は、職業紹介・職業訓練・雇用保険・各種助成金をはじめ、生活、多重債務、家族問題など、多様なニーズを把握し、解決に結びつけられるゼネラリストとして養成されており、その増員が求められている。

 

4.それぞれの機能強化と対象者を中心にした支援策を

(1)ハローワーク・労働行政

1995年に日経連(当時)が「新時代の日本的経営」により労働者の大部分を非正規化することを提唱して以来、労働者の雇用は細切れ化、不安定化し、賃金等の処遇も大幅に低下してきた。その結果、今日の労働者の多くは貯金をする余力はなく、失業と同時に生活に困窮する事態は決して珍しくはなく、この状況は当面続くと見なければならない。

 求職者の中に一定割合生活に困窮する者が存在するなら、ハローワークの窓口では、常にそれを意識し、求職者の置かれる状況を見逃さない職業相談を実施する必要がある。そして多重債務や生活苦を把握した場合には、法テラスや弁護士会、福祉事務所等に速やかにつなぐ対応が求められるため、債務整理や生活保護制度の基礎知識は必要不可欠となっている。2010年度より中央研修に生活保護の研修が盛り込まれたが、対象者も時間数も限られており、抜本的な拡充が必要となっている。

 こうした対応は、ハローワークに限って必要なものではなく、雇用均等室や総合労働相談においても実施すべきであり、労災補償や労働基準監督など、あらゆる場面で意識する必要がある。そのため、研修等は労働行政全職員を対象に実施すべきである。

 一方労働行政では、連年の定員削減により、行政体制が大幅に縮小されてきた。現在の厳しい雇用失業情勢のもと、多くの求職者がハローワークを訪れているが、1時間2時間待つのは当たり前の状況が続いている。そして、職業相談も5分や10分で切り上げざるを得ないのが現実である。その中でも、求職者の状況を察知して支援につなぐ対応が必要であり、大幅増員をはじめとする抜本的な体制強化が求められる。

(2)福祉事務所・自治体

福祉事務所では、生活保護の適用に当たって、「水際作戦」などと言われる状況をなくし、現行生活保護制度における「急迫保護」「現在地保護」の考え方を徹底することが重要である。

そのためには、まず、ハローワーク等との日常的な連携を通じて、現在の雇用・失業状況と、その下での失業者の求職状況の困難性に対し、職員が正しい理解をすすめることが重要となっている。その上で、処遇に当たっても「稼働能力」の判定を、単に「主治医意見書」に求めるのではなく、それぞれの地域での雇用情勢と、失業者本人や世帯の客観的状態に即して判断し、不安定就労を急がせず、「生活の立て直し」に焦点をあてて、職業訓練や資格取得など、本人の状況に見合った自立計画を確立すべきである。また、各福祉事務所に配置されている「就労支援員」についても、こうした処遇と切り離して就労支援のみを行うのではなく、ハローワークとの連携も通じて、継続的・日常的な支援が行えるよう、その身分を安定的なものとすることが求められる。

同時に、総合的な支援策として、国民健康保険など医療保険制度の改善や、高齢者・障害者施策の拡充、公営住宅の新規建設や入居要件の緩和なども図ることが求められる。

(3)対象者を中心とした支援策で連携を

労働行政と福祉事務所や自治体が、主体的力量を高めると同時に、相互に連携して困窮者への支援を迅速に実施することが求められる。厚生労働省では、こうした観点から第2のセーフティネットに限らず、多重債務や心の健康相談、生活保護等についても、ハローワークや自治体、社会福祉協議会が連携して、支援施策に的確な誘導を行うことが重要との通達を発出している。また、都道府県や地域ごとに、「生活福祉・就労支援協議会」を設置して、連携強化をはかることとしている。

しかしながら、現状では必ずしも十分に機能しているとは言えない。その要因の一つとして、協議会の検討事項にワンストップ・サービス・デイの開催が位置付けられていることがあげられる。前述したようにワンストップ・サービス・デイは積極面も持つものの非効率性も明らかになっており、場所的なワンストップより、むしろ日常的な連携強化を抜本的に強化すべきである。この基本姿勢をより明確化し、担当者同士が顔の見える関係を作り、困窮者を把握した場合どの窓口の誰に連絡するといった、具体的な連携方法を確立することが必要である。

 同時に、「検討したがどうにもならない」といった結論を絶対に出さないという気風の醸成も必要である。現行通達においても、利用可能な制度に誘導した後のフォーローアップが盛り込まれている。これをさらに発展させ、当事者がいつでも戻って来られる相談窓口を用意することが不可欠である。第2のセーフティネットでは解決できない場合や、ハローワーク・自治体・社会福祉協議会の連携では対応できない場合は、当事者の立場から、行政側が連携したケース会議を実施して、解決策が見つかるまで徹底的に議論しなければならない。

 繰り返しになるが、日時限定の場所的な連携よりも日常的な連携強化こそが有効であり、地域間のアンバランスを生じさせることなく実現可能な支援策である。

 

5.働き、生活する基本的な権利を国・自治体が責任を持って(憲法25条・27条)

憲法は、第25条で国民の生存権を、第27条で勤労権を定めている。これは、すべての国民に対し、平等に人権を保障する責務を国に課しているものであり、政府は、その実現に万全を期す必要がある。しかしながら現状では、さまざまな問題が起きており、改善が求められている。

 生活保護制度では、国が費用の4分の3を負担することとされており、都道府県や市区町村にも費用負担の責任を負わせている。自治体は、その規模や財政基盤に強弱があるほか、保護受給者の割合もそれぞれに異なる。そのため、保護受給者の増加が多くの自治体財政を圧迫しており、要保護状態にある困窮者を無理に他の制度へ誘導したり、稼働年齢であることを理由に申請を受け付けないといった対応の要因ともなっている。国民の生存権を十全に保障するためには、自治体が安心して保護制度を適用できるよう、その費用を人件費等も含め、全額国費で負担することが必要である。また、老齢加算の復活も含め、保護基準を真に健康で文化的な生活を営めるよう引き上げるべきである。

 前述したように、雇用保険制度が非常に脆弱であり、生活保護の捕捉率が低いために第2のセーフティネットと位置付ける諸制度が整備されてきた。これらの借金制度には限界があり、そもそも雇用保険制度を、失業中の生活を保障し、求職活動を容易にするための制度に拡充する必要がある。少なくとも、離職区分による、受給資格や所定給付日数上の差別をなくし、特定受給資格者の要件に高位平準化することや、基本手当日額の抜本的な改善が求められる。

 第2のセーフティーネットについても、利用しやすく、生活再建に役立つものに再構築しなければならない。訓練・生活支援給付金や住宅手当以外は借金を背負わせる制度であり、生活保護基準以下の状態にある者は、原則的に保護すべきである。その上で、一定程度の預貯金や資産があっても、失業等により生活に困窮する場合は、一時的に低利の融資があれば無理なく生活再建できると考えられる。総合支援資金等の要件を大幅に緩和することも必要となる。

 また、公的給付・融資の申請から実行までの生活を支える制度として新設された臨時特例つなぎ融資資金制度も、雇用保険給付制限期間や基金訓練受講終了から次の訓練受講までは使えず、要件緩和が必要である。

 一方、自治体は、住民の命と暮らしを守る役割がある。生活に困窮する失業者等に対して自治体がすべきことは、1)安価な住宅を提供し、生活再建の足場を確保すること、2)当座の生活費を給付すること、3)無保険をなくし、医療にかかれるようにすること、4)生活保護において「急迫保護」「現在地保護」の運用を周知し直面する困窮から救済すること、同時に、ケースワーカーの配置を拡充し、就労による自立支援を充実させること、5)障害や疾病等により就労が困難な者に対し、自治体として雇用を創出すること、6)ハローワークや社会福祉協議会等と顔の見える連携組織をつくり、各機関の専門性が相談者の抱える課題の解決に役立つ体制をつくること、多重債務の解決やうつ病などの対応も求められている。

以上