雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

雇用保険制度の課題と改善方向
−全労働省労働組合 小川 洋−

1 近年の雇用保険制度の見直しの概要

 近年の雇用保険制度の見直しは、2001年に特定受給資格者(※1)が創設され、2005年には受給資格要件を満たす被保険者期間が、これまでの離職前1年間に6ヵ月から離職前2年間に12ヵ月になるなど、制度の根幹を大きく変更するものが含まれていました。これらは、1〜2ヵ月の雇用を繰り返す、いわゆる「細切れ雇用」などの多様な働き方の増加に対応するなどの面もあるものの、従来の給付日数を倒産・解雇による離職者に限定し、自己都合退職者などの給付日数を削減したり、離職理由により受給資格に必要な被保険者期間に差異を設けるなど、厳しい雇用情勢のもとで求職活動を余儀なくされる者に対する勤労権保障の在り方としては、課題を残すものでした。

 2009年にも見直しが行われました。前年秋から急速に悪化した雇用失業情勢のもと、派遣就労やパート労働者の資格取得要件について、これまで1年以上の雇用見込みを必要としていたものを6ヵ月に短縮し、特定理由離職者(※2)の創設や個別延長給付(後述7参照)など、被保険者要件の緩和と給付の拡充が図られました。

2 更なる制度改善の必要性

 2008年度後半から急速に下降局面となった雇用失業情勢は、2009年4月の雇用保険制度の見直し以降も、有効求人倍率は0.4倍台、完全失業率は5%台で推移し、派遣労働者やパートタイム労働者、契約社員等の非正規労働者の雇用の安定に著しい影響を与えています。

 このような状況を踏まえると、非正規労働者を中心とした全ての労働者にとって、雇用保険制度を真にセーフティネットとするため、更なる機能強化を図り、安心して求職活動ができる状況をつくりださなければなりません。

 現在、厚生労働省の労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会(以下、雇用保険部会)では、更なる制度の見直しについて議論を行っており、2009年12月25日に開催された雇用保険部会では、厚生労働省から雇用保険制度の現状と課題及び今後の改正の基本方向が報告されています。以下、その内容を紹介しつつ、職業安定行政の第一線で実務を担う立場から見た課題と、求められる制度改善の方向性について提言します。

 

(1)適用要件について

 雇用保険部会では、現在、短時間労働者について「6ヵ月以上の雇用見込み」の要件に該当せず、雇用保険に加入できない者がおり、こうした者に対しても勤労権の保障をする施策が必要なことから、「週所定労働時間20時間以上、31日以上雇用見込み」の者については適用の対象にすべきとの報告がされています。

 このことは正規労働者と非正規労働者の適用要件の垣根を取り払い、労働者の働く権利を保障し、社会的に求められている機能を拡充する点では歓迎すべきことです。ただし、これにより被保険者資格の取得や喪失に係る手続は大幅に増加し、未手続事業所に対する指導をこれまで以上に行う必要があり、現在も手薄な行政体制を強化することが求められます。また、今回の内容が措置されたとしても課題は残ります。それは、マルチジョブホルダー(兼業者)に対する適用です。長引く不況による賃金低下や雇用不足から副業を行ったり、週20時間未満のアルバイト的な短時間労働を掛け持ちし、何とか生計を立てている労働者は少なくありません。とりわけ短時間労働の兼業の場合、トータルの労働時間では週20時間以上になるにもかかわらず、個々の事業主との雇用契約では適用が除外されることから、これらの者には求職活動中の生活保障がまったくないのが実態です。兼業している仕事のどちらか1つだけ離職した場合等の給付のあり方をどうするのかという課題はあるものの、厳しい雇用失業情勢の中での不安定な働き方を余儀なくされている労働者の権利保障の観点から、こうした働き方の実態の把握と対応が急務です。

 

(2)遡及適用について

 被保険者資格があるにもかかわらず、事業主が届出を行っていないなどの理由で適用されていない者については、現行制度において、被保険者であったことが確認された日から2年前まで遡及して適用できることとなっています。

 雇用保険の所定給付日数は被保険者期間によって変わることから、2年以上前の期間において、事業主から雇用保険料を控除されていたことが給与明細等により確認された場合には、所定給付日数が短くなる不利益が労働者に生じないようにするため、2年を超えて遡及して適用すべきことが雇用保険部会でも報告されています。

 しかし、この点にも課題は残ります。

 生活・労働相談会で出会ったAさんは、1年以上前に解雇されましたが、雇用保険がかかっていなかったために、少ない預金を取り崩しながら求職活動をしていました。Aさんはできる限り早期に就職しようとハローワークに通い続けましたが、悪化し続ける雇用情勢の中、なかなか仕事が見つからず、1年以上にも渡る長期の失業により、とうとう生活費も底をついている状態でした。解雇された事業所の雇用契約内容を聞き取りする限りでは、雇用保険の適用要件を満たしており、今からでも遡及し適用させることは可能でした。しかし、離職から1年以上経過していることから、いくら遡及適用させても基本手当の受給期間が満了しており、実際に給付を受けることは不可能でした。

 遡及適用の範囲を定めることなく拡大することは、制度改善の方向性としてよいことなのですが、労働者本人に帰すべき責のない届け出漏れ等の場合は、受給期間延長も遡及して申請できるなどの給付段階での救済措置がなければ、実効性には乏しいと言わざるを得ません。

 また、Aさんは複数のハローワークに求職登録し、再就職の相談をしていたにもかかわらず、「遡及適用」に関するアドバイスはなかったと言います。

 本来なら、どのような労働条件・雇用契約の場合に雇用保険が適用され、その場合の保険料や届け出の有無の確認方法、遡及適用する場合の手続き方法などが、職業相談を通じて求職者に案内されるべきです。それができない最大の要因は、窓口職員があまりに少なく、最低限の職業相談で切り上げざるを得ず、次の求職者の相談にあたらざるを得ないことにあります。雇用保険制度を十分に周知し機能させるためには、窓口体制の強化が不可欠です。

 

(3)基本手当の受給資格要件について

 2009年3月31日の改正により、予め雇い止めの明示がなく雇い止めされた有期雇用契約者等については「特定理由離職者」とし、倒産・解雇等の事業主都合により離職した「特定受給資格者」と同様、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6ヵ月以上あれば受給資格を満たすこととなりました。

 しかし、離職の日以前2年間に被保険者期間が12ヵ月あることを要件とする「原則」は2005年の改正時のままであり、「雇い止め明示」や「更新の可能性なし」を通告されていた有期契約労働者は、12ヵ月以上被保険者期間がなければ受給資格がないことは従前どおりです。最近の求人の内容を見ても、あいかわらず1年未満の有期雇用の求人は多数存在しており、こうした有期雇用を失業期間を経ずに繰り返すことなど実際は不可能な状況です。このような状況におかれた者にこそ、雇用保険制度は役割を発揮すべきです。

 雇用保険制度では、これまで「所定給付日数」と「給付制限の有無」について、離職理由によって異なる取り扱いを行ってきました。しかし、2005年の改正時に「受給資格要件」にまで離職理由による取り扱いの区別を持ち込んだために、制度はより複雑になり、ハローワークの職員も最終的な離職理由が判定されるまで、失業給付の受給資格があるのかどうか判定できなくなっています。また、ある職員は「これまでは電話による問い合わせでも、ある程度の受給資格の有無は答えることができたが、離職理由を厳密に確認しなければならないため、とにかく来所をお願いするしかなくなった。わざわざ足を運んでもらって『受給資格なし』と宣告するのはトラブルを生む原因であり、求職者にとってあまりにも酷な仕打ちだ」と話します。

 受給資格要件は失業給付受給のための最初の入り口であり、その部分は「被保険者期間」のみをもって判断するという、2005年以前の取り扱いに戻すべきです。さらには、離職理由によって給付日数に大きく差を付けた「特定受給資格者」の導入(2001年)以前に戻すべきではないでしょうか。

 

(4)基本手当日額について

 失業給付の基本手当は、被保険者が離職した月以前において、被保険者として計算された最後の6ヵ月間に支払われた賃金総額を180で除した額の4.5〜8割相当額が支給されますが、その額は最低1,640円から最高7,685円と定められています(2009年8月1日現在、毎月勤労統計の平均賃金額により毎年8月1日に改定)。最高額の30日分は230,550円ですが、これは東京23区で4人家族の世帯の生活保護費を大幅に下回っています。45歳の者の場合、勤めていた時の月収が46万円を超えていなければ基本手当の最高額には達せず、こうした者(家族を含む)に生活保護基準以下の23万円で生活しろというのは、あまりにも実態からかけ離れており、早急に基本手当日額の算定基準を改善することが必要です。

 また、経済活動が冷え込むもとで、労働者の雇用を確保しながら休業等を行う事業主に対し、休業手当の一部を国が助成する「雇用調整助成金」があり、この間、助成率が引き上げられてきました。しかし、その効果が得られていない企業も少なくありません。それは、雇用保険制度の中で作られている制度であるため、雇用保険基本手当日額の最高額が助成の上限とされていることにあります。この点も早急な改善が求められます。

 

(5)所定給付日数について

 基本手当の支給を受けることのできる日数は、離職の日における「満年齢」「被保険者期間」「離職理由」に応じ、90〜330日(障害者等の就職困難者除く)の範囲で定められていますが、2001年の特定受給資格者の創設時に従来の給付日数が見直され、非正規労働者の多くは最低ラインの90日となっています。

 法政大学日本統計研究所が2002年3月に行った「求職活動に要する期間調査」では、平均求職期間が全年齢で5.1ヵ月、25歳未満で3.1ヵ月、25〜34歳で3.8ヵ月となっており、比較的求職期間が短いと言われている若年者でも、90日以内には再就職先が見つかっていないことがわかります。

 また、全労連が2009年10月に行った「ハローワーク前アンケート」では、失業・離職後の期間が3ヵ月未満の者は32.7%であったのに対し、3ヵ月以上と答えた者は62.5%、6ヵ月以上は37.8%と、厳しい雇用情勢の中、失業が長期化していることがあらためて明らかとなりました。

 こうした状況を踏まえ、政府は個別延長給付として、所定給付日数を超えて60日間延長して支給できる制度を、2009年4月から3年間の時限措置として創設しました。しかし、これらの対象となる者は「特定受給資格者」又は「特定理由離職者」に限定され、それ以外の雇用保険受給者は対象とはなっていません。再就職が困難である状態は、特定受給資格者も自己都合退職者も同様であり、ハローワークの職員も「今の雇用情勢では90日の間に再就職させる確信は持てない。最低でも給付日数は180日必要」との認識を示しています。

 雇用保険法第27条には「全国延長給付」という給付が規定されています。これは、失業の状態が全国的に著しく悪化し、政令で定める基準に該当するに至った場合において、受給資格者の就職状況からみて必要があると認められるときは、厚生労働大臣が指定する期間内に限り、所定給付日数を超えて(90日限度)受給資格者に基本手当を支給することができるものです。しかし、「100年に1度の経済危機」と言われる状態でも、この全国延長給付は発動されていません。その原因は「政令で定める基準」にあります。基準では「連続する4ヵ月間、基本手当の受給率が4%を超え、初回受給率が低下傾向にないこと」とされています。基本手当の受給率は、「受給資格者数」を「受給資格者数+全被保険者数」で除したもので、非正規労働者の大量雇い止めがあった2009年3月の基本手当受給率でも2.08%しかありません。現在の被保険者数は約3,800万人ですから、3月の受給者数79万人の倍の158万人を超えなければ4%を超えないことになります。これは、今の全失業者と雇用保険受給者の比率でみた場合、失業率が10%程度になる必要があります。また、その場合でもほとんどの受給者が所定給付日数が90日のままであるなら、3ヵ月で支給終了となり、4ヵ月連続で受給率が4%を超えることは実態としてあり得ません。

 以上のように、法令に規定されている全国延長給付の発動要件を現在の失業情勢に見合ったものに緩和するか、あるいは所定給付日数そのものの見直しを行わなければ、国民の勤労権保障を担う雇用保険制度の機能として疑問が残ります。

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3 国民・労働者のための雇用保険制度をめざして

ここまで述べてきたとおり、現在の雇用保険制度は労働者・失業者のおかれている状況から見て、まだまだ不十分な制度であると言わざるを得ません。

 全失業者に対する雇用保険基本手当受給者の割合である「給付率」は、現在20%台にまで落ち込んでいます。失業していても失業給付が受けられず、まったく無収入のまま求職活動をしている失業者が全体の7割以上(260万人程度)存在します。これらの方々は貯蓄や家族からの支援がなければ、生活保護制度に頼るしかありませんし、それも叶わなければたちまち路上生活者になってしまいます。欧州諸国の失業給付率は、7割〜8割以上と高水準で推移していることからも、同水準の給付率となるよう早急な制度改善が必要です。

 

(※1)特定受給資格者

 倒産・解雇等により離職した者であり、離職前1年間に6ヵ月間の被保険者期間があれば失業給付を受給できる。これに対し、定年や雇用期間満了(特定理由離職者に該当する者を除く)及び自己都合退職者は、離職前2年間に被保険者期間12ヵ月が必要。

(※2)特定理由離職者(2012年3月31日までの時限措置)

 次の要件に該当する離職者で、受給資格要件及び所定給付日数について特定受給資格者と同様の扱いを受ける者。

a.期間の定めのある労働契約の期間(当該雇用期間が3年未満のものに限る)が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないため、離職した者(特定受給資格者に該当する者を除く)。

b.離職日前2年に被保険者期間12ヵ月未満、かつ、離職日前1年に被保険者期間6ヵ月以上の正当な理由のある自己都合退職者。