雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

労働政策審議会答申(2009.12.28)に対する意見
−派遣労働者の権利保障に向けた労働者派遣改正を求める−

労働者派遣法の見直しについて審議していた労働政策審議会・労働力需給制度部会は2009年12月28日、「今後の労働者派遣制度の在り方について」と題する報告をとりまとめ、労働政策審議会(本審)はこれを答申として厚生労働大臣に提出した。これを受けて、政府・厚生労働省は、労働者派遣法改正案を早期に策定し、通常国会に提出するとしている。

答申の内容は、多くの前進面を含んでいるが、第一線の労働行政に従事し、日々、派遣労働の「現場」と向き合う立場から、派遣労働者の権利保障に向けて不十分な事項、懸念される事項等があることから、以下のとおり指摘する。

今後、政府の法案策定作業、衆参両院での審議、さらに国民的な議論を通して、次の各事項が、直接雇用の原則、常用雇用の原則等に立って相応しく解決され、実効ある労働者派遣法改正となることを切望する。

1 「20年法案」の問題点

答申は、「第170回臨時国会に提出した法案(以下、「20年法案」という。)の内容に、下記の各事項に示した追加・変更した内容の法案とすることが適当」としているが、「20年法案」には、1)特定を目的とする行為(事前面接)の一部解禁、2)雇用契約申込義務の一部適用除外という、深刻な問題点を含んでおり、これらの問題点を温存する立場であれば重大である。

 すなわち、1)の措置は、派遣先の権限をあくまで指揮命令に止めた「労働者派遣制度の基本構造」を覆すことになり、また、「派遣先の事前面接の禁止」が目的とした「直接雇用の原則を守り、常用雇用代替の防止を図る」趣旨を大きく損なうことになる。

 また、2)の措置も、派遣先に雇用契約申込義務を課した趣旨(直接雇用の原則の下、労働者の常用雇用代替を防止する)を後退させ、臨時的・一時的な労働力需給調整を目的とした労働者派遣制度の位置付けを変更させかねない。

1)及び2)の措置のいずれもが、派遣先の責任を大きく軽減するものでしかなく、その結果として、常用雇用(直接雇用)から常用型派遣(間接雇用)への代替を強く誘導することが懸念される。

2 登録型派遣の禁止

答申は、1)専門26業務、2)産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣、3)高齢者派遣、4)紹介予定派遣である場合を除き、登録型派遣を禁止することが適当としている。

諸外国にもほとんど例がなく、必要なとき必要なだけ労働者を雇用すると同時に当該労働者を派遣する登録型派遣を原則禁止することは、不安定雇用の解消に向けたものであり、評価したい。

しかしながら、紹介予定派遣を禁止の例外と位置付けることは問題である。実際、紹介予定派遣は、派遣元や派遣先に対して「常用化」乃至「直接雇用」に向けた法的責任を生じさせるものではなく、形ばかりの「紹介予定派遣」によって、禁止の趣旨が骨抜きとなる懸念がある。

また、専門26業務に従事する労働者は、「高い専門性を持ち、交渉力を持った労働者保護に問題のない労働者」と位置付けられているが、事務機器操作、調査、ファイリング等の業務を中心に、実態は一般事務と大差なく、「名ばかり専門職」と指摘されているところである。こうした事態の改善に向けて適切な「厳格な判断基準」を早急に策定・周知し、労働局の指導監督を強める必要がある。

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2 製造業務への派遣

答申は、「製造業務への労働者派遣については、これを禁止することが適当」「雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当」としている。

これらの措置は、不安定雇用の解消を狙ったものと理解するが、派遣元に常用雇用された派遣労働者の実態を見るなら、これを「安定雇用」と言うことは、到底できない。

厚生労働省が公表した平成21年5月21日付「労働者派遣契約の中途解除に係る対象労働者の雇用状況について」によると、労働者派遣契約が中途解除されたとき、常用型の派遣労働者の実に87.2%が離職している(しかも、これらの離職者のうち、87.9%は解雇)。

この間の「派遣切り」の実態が示したように、製造業務は、経済情勢に強く影響されることから、製造業務での労働者派遣契約は、派遣先の事情で変更・解除を迫られることが多く、安定性がない。結局、常用型は「名ばかり」となる懸念が強い。

また、製造業務の定義はあまりに広く、本来の専門26業務に匹敵する専門性等を有する業務も決して多くはない。その上、製造業務の多くは危険・有害業務であり、直接雇用と間接雇用(派遣労働者)が混在する就労形態は、災害・疾病のリスクを著しく増大させる。

以上から、製造業務には、労働者派遣を持ち込むべきではない。

3 日雇い派遣の禁止

答申は、「20年法案」と同様に、政令に定める業務を例外としつつ、「雇用管理に欠ける形態である日々又は2か月以内の期間を定めて雇用する労働者については、労働者派遣を禁止することが適当」としている。

日雇い派遣について、「20年法案」を超える規制を講じたことは、一定評価したい。しかし、雇用契約の期間のみに着目した規制の効果には疑問がある。

実際、2か月を超える雇用期間を定めた上で、労働日を1日とすることは可能であり、その後に個別労使の合意で労働日を増やしていくなら、現在の日雇い派遣とほぼ同様の態様が生じ得る。

 結局、日雇い派遣の形態を想定した労働者派遣契約自体を規制することが必要である。

4 均等待遇

答申は、「派遣元は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するものとする旨の規定を設けることが適当」としている。

 労働者派遣制度を本来の役割(臨時的・一時的な労働力需給調整)に即して機能させ、安価な労働力供給システムとさせないために、「同等(又は同等以上)待遇原則」を徹底させる必要がある。

そのため、「均衡を考慮するものとする」との措置は全く不十分であり、「均衡待遇を義務づける」べきである。

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5 マージン率の情報公開

答申は、「『20年法案』のマージン率等の情報公開」に加えて、「派遣元は、派遣労働者の雇入れ、派遣開始及び派遣料金改定の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示しなければならないとすることが適当である」としている。

こうした情報提供は、確かに前進であるが、労働者派遣における労使の交渉力の圧倒的な格差を前提に考えるなら、不当なマージン率によって低賃金を強いられる懸念はなくならず、各個のマージン率自体に上限規制を設けるべきである。

 

6 違法派遣の場合における直接雇用の促進

答申は、

 1)禁止業務への派遣受け入れ

 2)無許可・無届の派遣元からの派遣受け入れ

 3)期間制限を超えての派遣受け入れ

 4)いわゆる偽装請負(労働者派遣法の義務を免れることを目的として、労働者派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れること)の場合

 5)登録型派遣の原則禁止に違反して、常用雇用する労働者でないものを派遣労働者として受け入れについて、「違法であることを知りながら、派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当」としている。

これらの措置は、違法状態のもとにある派遣労働者を適切に保護する立場に立った前進ではあるが、「労働契約を申し込んだものとみなす」ための要件として、派遣先が「違法を知っていたこと」を掲げている点は、派遣先の言い逃れ(「知らなかった」)を許し、実効を失わせる懸念がある。

ついては、1)〜5)の違法の有無を確認する義務を派遣先に課し、その確認を怠った場合には、違法を知っていたとみなす措置を講じることが適当である。

なお、前記4)の場合については、「違法を知っていたこと」に加えて、「労働者派遣法の義務を免れる目的」という、実務上、立証の困難な主観的要件を設定しているが、派遣労働者の保護を欠き不要である。

また、答申は、「みなされた労働契約の申込みを派遣労働者が受諾したにもかかわらず、当該派遣労働者を就労させない」事態を想定し、「派遣先に対する行政の勧告制度を設けることが適当」としている。これも貴重な前進であるが、勧告も行政指導の一態様にすぎず、権利の形成を伴わない。当該措置の実効を確保するためには、勧告制度に加えて、司法警察権を有する派遣事業監督官(仮称)を配置し、直ちに罰則を運用し得る仕組みを設けることが適当である。

加えて、答申は、新たな労働契約の内容について、「派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容」としている。当該労働者の労働条件を低下させない趣旨は理解できるが、「同一の労働条件」の中に「労働契約期間」まで含むとすると、派遣元が有期労働契約の更新を繰り返していたケースは、短期間のうちに派遣先による雇い止めが可能となり、不適切であるから、新たな労働契約は「期間の定めのない契約」とすべきである。

 

7 施行期日・暫定措置等

答申は、改正法の施行日に関し、登録型派遣の原則禁止及び製造業務派遣の原則禁止については、公布日から3年以内とすることが適当とし、また、登録型派遣の原則禁止については、一定の業務に限って、施行日から更に2年間の適用を猶予する暫定措置を設けることが適当としている。

深刻な経済危機のもと、全国で乱暴な「派遣切り」が広がり、多くの労働者が「使い捨て」同様に無権利のまま職場から放り出されている中、改正法の施行については、多くの猶予を与えるべきでなく、周知・指導を強化した上で、少なくともすべての措置を1年以内に施行すべきである。

 

8 その他の検討項目

答申は、派遣先責任の強化等に関わる課題について、「更に検討すべき問題も多数見られることから、今回の法案では措置せず、当部会において検討することが適当」とし、先送りの姿勢を示している。

しかし、派遣労働者の多くが「無権利状態」を強いられるのは、派遣労働者の雇用と労働条件を左右する実質的な権限を有する派遣先が、法令上、多くの責任を免れていることに起因している。

従って、派遣先の責任の強化に向けて、1)団体交渉応諾義務、2)賃金支払い等に関する連帯責任、3)年次有給休暇、育児休業等を理由とする不利益取扱いの禁止、4)派遣労働者に対する安全衛生教育、5)労働者派遣契約の遵守等について早急な検討を進め、措置することが適当である。

 

2010年1月5日
全労働省労働組合