雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2009年5月12日
労働者供給、労働者派遣、請負の区分に関する基準について

 

1 問題意識について

今日の経済危機は、この間の労働者派遣法等の規制緩和によって働く者のセーフティネットが相次いで壊されてきたことと相俟って、労働者(特に、派遣労働者等の間接雇用労働者)の雇用と生活を極度に脅かしている。

あらためて確認すべきは、職業安定法が「労働者供給」を、労働基準法が「中間搾取」を、それぞれ原則的に禁止し、「直接雇用の原則」を謳ったことの今日的な意義である。
労働者を商契約(労働者供給契約、労働者派遣契約等)の対象とし、他人の就業へ大きく介入しながら利益を得ることが、労働者の権利・利益を侵害し、如何に甚大な弊害をもらすか。それは、多くの職場に偽装請負等が蔓延し、労働者がまるで「商品」の如く扱われ、都合よく「使い捨て」にされる事態を見るとき、きわめて明瞭である。

 およそ、他人の労働力を利用しようとする者は、その者を直接雇用すべきであり、第三者の介入を認めないという、「直接雇用の原則」はますます重視されるべきであり、「労働者供給」を厳格に禁止することが、未曾有の経済危機に直面した日本社会で切実に求められている。すなわち、「労働者供給」「労働者派遣」及び「請負」の相互の関係をあらためて整理し、「直接雇用の原則」を重視した、新たな雇用のルールを確立すべきである。

 なお、厚生労働省は本年3月31日、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準に関する疑義応答集」を明らかにしたが、これまで派遣労働者の権利救済を担ってきた労働組合、NPO、法曹団体等から、「直接雇用の原則」を大きく脅かすものとして、多くの疑問や批判があがっている。労働行政は今日の雇用情勢に相応しく、労使はもとより幅広い人々から信頼に応えながら、権利侵害に苦しむ多くの労働者・求職者等の保護に力を尽くさなければならず、こうした疑問や批判を真摯に受け止め、速やかに必要な措置を講じるべきである。
以上の観点から、現下の課題と見直し方向等を提起する。

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2 労働者供給、労働者派遣、請負の関係について

(1) 労働者供給と労働者派遣の関係について

1985年の労働者派遣法制定以前、すなわち「労働者派遣」という概念が法制上存在していなかったとき、職業安定法第44条に言う「労働者供給」の概念は、供給元がその支配下(雇用契約を締結している場合を含む)におく労働者を供給先の指揮命令下で就労させる場合を広くさし、これを業とし利益を得ている場合には、労働基準法第6条に言う「中間搾取」にも該当するとしていた。

しかしながら、労働者派遣法の制定に伴い、厚生労働省(旧労働省)は、「供給元が事実上の支配下にある労働者(雇用契約を締結している場合を含まない)を供給先の指揮命令下で就労させる場合」と「供給元が雇用契約を締結した労働者を供給先に雇用させて指揮命令下で就労させる場合」だけを「労働者供給」とし、それ以外の形態は「労働者供給」及び「中間搾取」の概念から除くこととした(注1)

労働者派遣法が、適法な「労働者派遣」と法所定の要件を欠いた違法な「労働者派遣」の二つの領域を峻別したことは当然であるが、違法な「労働者派遣」について、職業安定法違反を問うべき「労働者供給」から除外する必要はないし、その当否は当時、立法論として十分議論が尽くされたとも言い難い。たしかに、職業安定法第4条第6項には、「労働者供給とは、労働者派遣法第2条第1項に規定する労働者派遣に該当するものを含まない」旨が盛り込まれたが、その際、職業安定法第44条や労働基準法第6条自体の文言に変更はなく、事実、前記の厚生労働省の解釈には異論が多い(注2)。

その後、厚生労働省(旧労働省)が作成した概念図(下図参照)が、各種の解説書等に掲載され、広く流布したことから、今日、これを当然視する労使関係者も少なくない。

職業安定法第44条は、供給先事業主を名宛人とし、「労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」と規定しており、その違反には「1年以下の懲役又は百万円以下の罰金」(第64条第9号)を科すことを予定している。他方、労働者派遣法も、「労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣元事業主以外の労働者派遣事業を行う事業主から、労働者派遣の役務の提供を受けててならない」(第24条の2)としているものの、派遣先事業主に対する罰則はない。供給元(派遣元)が労働者と雇用契約を締結しているか否かで、供給先(派遣先)の責任が大きく左右されるのである。供給元が、他人の指揮下で就労させることを強制し得るほどの支配力を及ぼしうる者と雇用契約を締結することは必ずしも難しいことではなく、その限りで職業安定法第44条は「空文化」したと言え、如何にもおかしい。
従って、「労働者供給」は、供給元が雇用契約を締結しているか否かを問わず、その支配下におく労働者を供給先の指揮命令下で就労させる場合と位置付けた上で、少なくとも労働者派遣法の主要な要件を一つでも欠くなら、職業安定法及び労働基準法で原則禁止された「労働者供給」及び「中間搾取」に該当すると解することが妥当である。

(2) 労働者供給と請負の関係について

「労働者供給」と「請負」の関係については、労働者派遣法制定以前から、民法第632条を具体化する形で、次に掲げる職業安定法施行規則第4条第1項各号のすべてに該当する場合のみを「請負」として扱い、それ以外を「労働者供給」するとされている。
(イ)作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。
(ロ)作業に従事する労働者を指揮監督するものであること
(ハ)作業に従事する労動者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること。
(ニ)自ら提供する機械、設備、器財(業務上必要なる簡易な工具を除く)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。

また、同条第2項が、「前項の各号に該当する場合(中略)であっても、それが法第44条の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであって、その事業の真の目的が労働力の供給にあるときは、法第4条第6項の規定による労働者供給の事業を行う者であることを免れない」と特に注意を喚起していることも見逃せない。
なお、厚生労働省は、前記施行規則をめぐる行政解釈(逐語的解釈)を「労働者供給事業と請負により行われる事業との関係」(「労働者供給事業業務取扱要領」)として明らかにしている(注3)

(3) 労働者派遣と請負の関係について

(1)で見たとおり、労働者を供給先の指揮命令下で就労させる行為のうち、適法な「労働者派遣」以外は、すべて「労働者供給」と考えるべきであるから、「労働者派遣」と「請負」の関係についても、職業安定法施行規則第4条第1項各号に即して、これらすべての要件を具備するか否かで区別することで足り、かつ適当である。
もとより、これらの諸要件について、労働現場の変化に即した具体化、明確化を進めることは、行政機関による指導監督等の実務上、必要かつ有効である。
その際、重要なことは、仕事の完成を目的とした典型契約である「請負」の要件を具備したか否かを、「直接雇用の原則」を重視する立場(労働者派遣が「直接雇用の原則」の例外であり、使用者責任の分担等の所定の諸要件を備えた場合のみ法認したという立場)から、厳格に判断することである。

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3 「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)について

すでに述べたとおり、「労働者派遣」とは、労働者派遣法の定める諸要件を備えたものであり、違法な「労働者派遣」は、「労働者供給」(職業安定法違反)に該当すると解すべきである。その上で、「請負」であるか否かの判断にあたっては、職業安定法施行規則第4条第1項各号を基本的なメルクマールとして判断すべきである。 この点について、厚生労働省は、昭和61年4月17日付労働省告示第37号として、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」を明らかにしている(違法な「労働者派遣」を「労働者供給」から切り分けたことから、「労働者供給と請負との関係」とは別個に「労働者派遣事業と請負の関係」を示す必要が生じたものと考えられる)。

この基準は、職業安定法施行規則第4条の基本的な部分を踏襲したものであるが、その後に厚生労働省(及び旧労働省)が監修した解説書、リーフレット、そして、本年3月31日付「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準に関する疑義応答集」の内容には、「請負」の本質をゆがめかねない点がある。

そもそも、「労働者派遣」と「請負」の区分が問題となるケースは、職業安定法施行規則第4条第1項各号のすべての要件を具備しているかどうか(脱法の意思をもって形式的な要件を整えたものか否かを含めて)、慎重に吟味すべきであるが、前記解説書等には、とかく、「発注者から請負労働者への直接の指揮命令がないなら、労働者派遣ではなく、偽装請負ではない(=請負に該当する)」といった、短絡的な判断を行う傾向が見受けられる。

例えば、前記質疑応答集Q2は、発注者が請負事業主に作業工程の見直しを要求するケースを取り上げているが、発注者が請負事業主に要求することは可能であり、請負労働者へ直接に要求するものでない限り、偽装請負ではないと回答する。しかし、設問の如く、発注者が作業工程を管理する権限を一部有し、その変更までもを請負事業主に要求し得る関係が存在していること自体、請負事業主が当該作業の完成に対して十全の責任を負わず、権限を有していないことをうかがわせるのであり、単なる「労働力の供給」に限りなく近いのではないだろうか。

また、前記質疑応答集Q5は、発注者の労働者と請負労働者が混在しているケースを取り上げているが、請負と判断すべき場合の基本的な要件を指摘しつつ、混在の事実だけをもって偽装請負と判断されるものではないと回答する(あわせてQ9は、一定の場合、着用する作業服も同一でよいとする)。しかしながら、混在した労働者に対して発注者と請負事業主がそれぞれ別個に指揮命令を行うことは実際上難しく、請負事業主が独立して事業を行っているとは言い難いのではないだろうか。やはり、発注者と請負事業主の労働者が同一の作業場で作業を行わざるを得ないとしても、パーテーションを設ける等の方法によって混在を防ぐことが、「適正な請負」の趣旨に合致するのではないだろうか。


厚生労働省が監修した解説書等は、事業主の人事管理に広く活用されるばかりか、類似した実際のケースに関する行政指導の基準ともなり得るのであるから、「適正な請負」の在り方を積極的に示すべきであり、違法すれすれの限界事例を指南するようなものであるべきではない。

労働者の雇用と権利に重大な弊害をもたらす「労働者供給」の蔓延を許してはならず、厚生労働省は、あらためて「直接雇用の原則」に立ち返り、職安法施行規則第4条の定める諸要件の具体化を厳格かつ明確に示すべきであろう。

 

注1 厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領」

http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/
jukyu/kyoukyu/index.html)

 

注2 職業安定法第44条と労働者派遣法の適用をめぐる諸説(単独説、折衷説、重畳説)の分析については、萬井隆令(龍谷大学大学院教授)『偽装請負における業者従業員と発注元との労働契約関係の成立について』(2009年4月25日付「労働法律旬報」No.1692)に詳しい。

 

注3 厚生労働省「労働者供給事業業務取扱要領」

http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/
kyoukyu/index.html)

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