雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2009年4月
安心して働き、生活するための雇用対策の確立に向けた提言
全労働省労働組合 雇用対策提言プロジェクトチーム

 

1 広がる失業と貧困

米国の金融危機に端を発した世界規模の経済危機は日本経済をも直撃し、景気を急速に減退させており、働く者の失業を増やしている。完全失業率は今年1月に4.1%と、前月の4.3%より低下したものの、2月には4.4%と再び上昇している。有効求人倍率も0.59倍となって1月を0.08ポイント下回り、特に正社員有効求人倍率は0.26ポイント減の0.37倍と大きく落ち込んだ。

加えて見過ごせないのは、非正規労働者が1,796万人(2008年10〜12月平均)と過去最高を数え、雇用労働者全体に占める割合は34.6%に達し、一貫して増加傾向にあることである。昨年後半以降顕著となっている「非正規切り」や非正規労働者の労働条件の急激な悪化などを考えると、これは日本の労働者全体にとって大きな問題である。 「派遣切り」「請負切り」などの「非正規切り」、採用内定の取り消し、「産休切り」「育休切り」などが横行している。また、「常用型派遣」は雇用が安定しているとして、労働者派遣法改正法案においては規制緩和が図られようとしているが、現実には雇用調整が「常用型派遣」にも広く及び、派遣会社の正社員の解雇も増えている。さらに、雇用調整は今後、広範な正社員にも及ぶことが懸念される。 有効求職者数の急増と有効求人倍率の大幅な低下も顕著であり、非正規労働者が安定した雇用の場を得ることや、離職者の再就職は極めて困難になっており、これが失業率の上昇、非正規雇用のいっそうの増大を招くことが懸念されている。

こうした中で、フルタイムで働いても十分な賃金が得られず、生活保護水準にさえ達しないワーキング・プアが増加し、労働者全体の2割近くにも及んでいることは重大なことである。「年越し派遣村」などを通じて、失業によって直ちに住居喪失、生活苦に陥る労働者が各地に多数存在することが浮き彫りとなったが、こうした状況は一刻も早く解消されなければならない。

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2 失業と貧困をもたらした要因は何か

失業と貧困の拡大の要因としてはいろいろと指摘されているが、当初は米国発の金融危機の影響が最も小さいと言われていた日本で、製造業をはじめとする諸産業で企業活動の萎縮がいち早く生じたこと、そして、この間大きく後退した雇用・生活に関するセーフティネットの脆弱さが一気に露呈したことなどが大きい。

「構造改革」以前の日本では、雇用関連指標は「遅効性指標」と言われ、景気後退の始まりから雇用調整の開始までには半年〜1年のタイムラグがあり、その間は時間外労働の縮減や部門間の配置替えなどで対応するのが一般的であった。ましてや、景気後退の兆しが見えたからといって、従業員を直ちに解雇するというような乱暴なことは行われてこなかった。しかし今日では、企業収益に翳りが見えただけで「非正規切り」に走り、正社員の大幅な雇用調整を打ち出す企業が目立つなど、真っ先に手をつけるのが雇用・賃金となっている。このように、雇用関連指標は今や「先行指標」になったと言われるように、明らかに企業の行動様式が変わったのである。

これらの企業では、非正規労働者の解雇や契約更新の拒否、賃金カットを率先して実施しながら株主配当は維持するなど、株価の動向を過剰に意識する動きが見られる。その背景には、労働者派遣法改正による労働者派遣事業の原則自由化・物の製造の業務への労働者派遣事業の解禁、労働基準法改正による有期雇用契約に関する規制緩和など、労働法制の規制緩和が「使い捨て労働」を是認し、労働者をまるでモノのように扱う風潮を広げたことが指摘できよう。

労働法制の規制緩和とともに、雇用・生活に関するセーフティネットが極めて脆弱なまま放置、あるいは後退させられ、命綱としての機能を果たし得ていないことが決定的である。最も端的なのは、失職によって直ちに生活苦に陥る労働者が多数に上るという状況であり、これは先進国としてあまりにも異常である。

雇用問題として重視しなければならないのは、雇用保険制度が失業中の生活保障として十分に機能していないどころか、制度そのものから除外されている労働者が多数に上り(雇用労働者の3割近くが雇用保険の被保険者資格を得ていない)、失業給付が終了しても再就職できなかった人たちへの手立てがないなど、重大な問題を持っていることである。ILOが最近発表した報告書では、日本では失業保険の給付を受けていない失業者の割合が77%に上り、先進国中で最悪の水準にあることが指摘されている。今日の雇用・失業情勢の悪化に対応した、雇用のセーフティネットの構築は急務となっている。

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3 政府の雇用対策の特徴と課題

雇用・失業情勢の急激な悪化を受けて、政府は昨年秋以降、2009年度予算案に盛り込まれた諸施策を前倒しし、08年度予算の第1次補正、第2次補正を行い、各種の雇用対策を打ち出した。 その主なものは、a,製造現場などで働いていた派遣労働者や期間工労働者が多数雇い止めにあい、しかもその少なくない部分が離職と同時に住居も失い、著しい生活苦に陥るという事態に直面していることを受けた住居・生活確保対策、b,景気の悪化によって企業活動の縮小を余儀なくされた事業主を助成するための雇用調整助成金の支給要件の緩和(この結果、雇用調整助成金の申請件数は激増することとなった)、c,派遣労働者を直接雇い入れる企業や、年長フリーター(25歳以上40歳未満)の採用枠を設けて雇い入れる企業、採用内定取り消し者を雇い入れる企業に対する各種雇い入れ助成制度の創設、d,都道府県に交付金を拠出し、それによって都道府県が一時的な雇用・就業機会を確保する緊急雇用創出事業の実施などである。

これらの施策は、例えば住居・生活確保対策のように、放置しておけばホームレスになるしかない労働者に対する支援策としては一定の役割は果たしている。しかし、融資事業としてのこの施策は、特に正社員の有効求人倍率が大きく落ち込んでいる中では、新たな負債を抱える労働者を生み出すことにつながる恐れもある。また、各種雇い入れ助成制度は、対象労働者の範囲が極めて近接しているなどわかりにくいという問題があることに加え、企業の採用意欲が著しく減退している中で効果は限定的なものにとどまらざるを得ないのではないかとの疑問が残る。さらに、都道府県が一時的な雇用・就業機会を確保する緊急雇用創出事業については、昨年末から各地の自治体で3ヵ月〜半年の臨時雇用の募集を行ったものの応募者が極めて少ないこと、これは、「非正規切り」にあった労働者の間に短期雇用に対する強い不安感・拒絶感が存在することの裏返しでもあることを考えると、非正規労働者への雇用確保対策としてはこれも疑問を呈さざるを得ない。

このように、第1次補正、第2次補正に盛り込まれた各種の雇用対策は、実効性という点でなお多くの検討の余地がある。いま必要なのは、安定した雇用機会の確保に全力を傾注することであり、景気回復に向けた実効ある経済対策、良質な雇用の創出に向けた政府の責任が重大である。そのためには、求職者のニーズや能力に見合った職業訓練の充実と、それとセットになった職業相談・職業紹介の充実が重要である。また、補正予算に伴う雇用対策は非正規労働者に重点が置かれていたが、雇用・失業情勢の悪化は正規労働者の雇用不安をも引き起こし、労働条件の低下も大きな問題となっている。「名ばかり管理職」に象徴されるような、非正規労働者と紙一重の状態に置かれた正規労働者も少なくない。これからの雇用対策は、正規労働者の雇用安定、労働条件の確保・改善も十分に念頭に置いたものにする必要がある。

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4 求められる雇用・労働政策の基本方向

(1) 今日の求職者の状況にふさわしい、実効ある総合的な支援を推進する

世界規模の経済危機が国内の経済活動を急速に減退させ、失業者を増やしている現在、失業の再生産(高失業率→求人条件悪化→ミスマッチ拡大→さらなる高失業率)が生じやすくなっており、これを食い止めることが重要である。 そのため、労働行政として求職者を支援し、求人条件の悪化を防ぎながら、適格な新しい職業へ導くことが重要であり、職業紹介、職業訓練の充実等を通じて求職者の就職活動への支援を強化する。 その際、今日の貧困と格差の広がりの中で、仕事を奪われ、収入の道が途絶えた労働者の多くが、同時に定まった住居も失い、各種の社会保障制度からも排除され、その命を脅かされている実情に留意することが重要であり、職業紹介、医療、生活保護等を担う公的機関を充実させ、緊密な連携のもと、総合的な支援を進める。また、障害者や外国人労働者等、特別の支援を要する求職者に対してきめ細かい対応を進める。 とくに、様々な事情からホームレス(路上生活)の状態に陥った者が、何らの障壁なく駆け込むことのできるシェルター(一時的な滞在場所)を十分に確保し、マンツーマンの総合支援(医療、住居、雇用、多重債務等)を進める。

(2) 壊された雇用のセーフティネットを再構築する

これまでも経済活動が危機に陥り、多くの労働者の仕事が奪われた時代はあったが、今日の特徴は、この間、「規制改革」「労働市場改革」などと称して、常用雇用、直接雇用の原則を守る様々なセーフティネット(雇用の規制)が大きく破壊されてきたこと、あわせて、社会保障費の削減圧力の中で雇用保険制度などのセーフティネットが相次いで縮小させられてきたことから、経済の停滞が直ちに雇用破壊、そして生活破壊へと直結する事態が広がった。 派遣労働の規制等を通じて、常用雇用、直接雇用の原則に即した雇用のルールを再構築するとともに、今日の深刻な雇用・失業情勢にふさわしく、雇用保険制度を充実させることが何よりも重要である。また、失業給付を受けることのできない者(就職の意欲を持った長期失業者、短時間労働者、未就労者等)についても、職業訓練や再就職活動期間の生活支援を目的とした給付を創設することが必要である。

(3) 雇用のモラルを維持し、公正な働き方の確立に努力する企業を支援する

派遣労働に代表される「間接雇用」のこの間の急激な広がりが、人を雇う際に求められる企業のモラルを失わせてしまったことは否定できない。労働者がモノのように「使い捨て」にされている。働く者の生活を脅かし続けることは、健全な社会の重要な基盤を掘り崩していることに気づくべきである。

もとより、強欲な企業ばかりではない。企業の社会的責務を自覚し、雇用を維持し、労働条件の改善に努力する企業は、そうでない企業との間で不利な立場に置かれるべきでなく、こうした企業・業界への新たな支援を進める。
ただし、各種の支援に「ばらまき」や「不公平」があってはならないことから、その手法と効果を行政運営の第一線の知見から十分に検証し、不断に見直すことが重要である。

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(4) 新しい時代にふさわしい、公正で持続可能な働き方を確立する

今回の経済危機からの脱却を図る上で留意すべきことは、単に雇用を確保するだけではなく、その内容に着眼し、新しい時代にふさわしい働き方を積極的にさし示しながら、そこへ政策的に導くことである。 具体的には、失業者が急増する一方で、過労死、過労自殺に象徴される過重労働が広がっている現状はあまりにもいびつであり、適切なワークシェアリング(過重労働の抑制や年次有給休暇の取得促進等)を通じた、労働者のワーク・ライフ・バランスの実現を推進する。また、最低賃金の引き上げや均等な待遇を保障した公正な働き方を推進し、ワーキング・プアをなくしていく。
これらの方策は、低賃金の非正規労働者の増大によって崩壊しかけた社会保障制度の再構築につながる。加えて、少子化対策としてもきわめて有効であるばかりか、自立的な内需主導型社会の基盤を作ることになる。

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5 雇用・労働政策の具体的な方向

(1) 雇用維持の推進、職業訓練と職業相談・職業紹介の充実

失業の再生産という悪循環を断ち切るには、労働者を使い捨ての労働力として便宜的に使うという企業の行動に対する規制が必要である。後に述べる労働者派遣法の抜本改正や労働契約法の遵守などはその重要な一環である。また、公共職業安定所による、労働者に対する定着指導や、企業の雇用管理改善に対する指導の充実も必要である。

やむなく離職に至った場合は、労働者を次の職業に円滑に導くことが重要であり、そのためには公共職業訓練の充実が不可欠である。職業訓練は3ヵ月〜6ヵ月コースが多いが、学校卒業後定職に就いた経験がなく、フリーターとしていくつもの職を転々としている労働者や、長期失業のために以前の職業経験が通用しなくなっている労働者が少なくないことを考慮すれば、短期の職業訓練では不十分であり、1年や2年といった訓練コースを充実させる必要がある。また、訓練コースの設定に当たっては、地元中小企業の要望を聞いたり、公共職業安定所の職員による企業訪問を強化することなどによって、効果的な訓練コースの企画に生かすことも重要である。

職業訓練の成否は、訓練コースの設定とともに、いかにして求職者のニーズや適性、能力を正確に把握することができるかによるところが大きい。そのためには、ていねいな職業相談・職業紹介が不可欠である。昨年末から現在に至るまで、各地の公共職業安定所では数時間待ちという状態が続き、充実した職業相談等に必要な時間の確保が困難になっている。こうした状況では、的確な訓練受講指示は困難であり、求人と求職のミスマッチを防ぐためにも、職業相談・紹介体制の拡充は不可欠である。

行政減量化の観点から雇用・能力開発機構の機構改革がすすめられることになっているが、雇用・失業情勢の劇的な変化に対応した公共職業訓練のあり方を、あらためて検討することも必要である。

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(2) 安定した就労の前提となる生活支援策の充実

安定した就労の場の確保のためには、求職者が生活や住居の不安なく求職活動や職業訓練に専念できる条件を整備することが必要である。政府の緊急雇用対策では、融資制度による就労支援事業が行われた。しかし、すでに指摘したように、こうした施策のみでは新たな負債を抱える労働者を増やす結果となりかねないことから、融資制度によらない住宅・生活確保対策を講じる必要がある。厚生労働省は、廃止予定の雇用促進住宅の活用に踏み切ったが、これにとどまらず、低家賃の公共住宅の整備も急務である。これは、国民のための公共事業および新たな雇用の場の創設という観点からも真剣に検討すべきである。

ネットカフェでの長期の宿泊や路上生活のために健康を害している労働者も少なくない。健康の維持は継続的な就労のための前提条件である。しかし、こうした労働者の中には、健康保険証を持っていなかったり、医療機関を受診するために必要な金銭を持っていない人も多い。生活保護への適切な誘導により、健康を回復し、就労への意欲を持ってもらうことも重要である。また、多重債務を抱えているために住民票の異動ができず、そのことが安定した就労への大きな足枷となっている労働者も少なくない。ここでも、失業→生活難→ローンなどの借金→日雇いなど不安定な就労へ、というパターンが見られる。

失業や不安定な就労などによって住居を喪失した「ハウジング・プア」などの就職困難者が増加しており、こうした人々に対してシェルター(一次的な宿泊場所)を確保し、それとマンツーマンの総合的な支援(医療、住居、雇用、多重債務)を行うことは、雇用対策としても重要さを増している。この場合、職業相談の過程でこうした人々の状況やニーズを的確に把握することは非常に重要である。

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(3) 雇用・失業情勢に即した雇用保険制度の改善

3月27日に改正雇用保険法が成立し、雇用保険の適用要件の緩和(雇用見込みを「1年以上」から「6ヵ月以上」に)、再就職困難者への失業給付日数の延長(60日分)などの措置が講じられ、3月31日および4月1日から施行されている。

雇用のセーフティネットとしての雇用保険制度の充実・強化は喫緊の課題となっていることから、改正法の円滑な実施とともに、以下についても改善を図るべきである。

「1)」2003年の雇用保険法改正によって、一部の受給資格者への改善の一方で、多くの受給資格者の所定給付日数、基本手当日額の引き下げが行われた。この改正は雇用保険財政の赤字という状況の下で行われたが、所定給付日数の短縮、基本手当日額の引き下げは雇用保険受給者を大幅に減少させるとともに、労働法制の規制緩和とも相まって、低賃金、非正規労働への就労を選択せざるを得ない労働者を多数生み出した。今日の雇用・失業情勢に対応した、所定給付日数、基本手当日額の改善を行う必要がある。
※現在、基本手当日額は最高額でも7,730円であり、30日分として231,900円である。これは、1級地の生活保護費(45歳夫婦と小学生2人の4人家族で26万円余)を下回る水準である。改正最低賃金法では生活保護との均衡が盛り込まれたが、雇用保険の失業給付がこれを下回ることは妥当でない。

「2)」「正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合」に「1ヵ月以上3ヵ月以内」の給付制限を課す雇用保険法第33条の規定は、雇用期間中の蓄えが少ない非正規労働者にとっては特に厳しすぎる内容である。雇用保険の受給資格を有しながら、給付開始までの3ヵ月間の生活を維持することができず、日雇い派遣など短期雇用を反復せざるを得ない労働者が少なくないこと、非正規労働者が雇用労働者全体の3分の1を超え、増加傾向にあることを考えれば、給付制限は撤廃または期間の短縮を検討すべきである。

「3)」2007年の雇用保険法改正にあたって結論が持ち越された「マルチジョブホルダー」(複数就労者)への雇用保険適用の検討が、今回の雇用保険法改正に当たって参議院厚生労働委員会の附帯決議に盛り込まれた。これについては、早急に結論を出すべきである。これによって、一つの派遣元のみでは加入要件を満たさないが、複数の派遣元で就労し、通算労働時間が20時間を超える派遣労働者、短時間就労をかけ持ちしながら、結果として長時間労働となっている母子家庭の母などが雇用保険の被保険者となることができるし、同一労働者をそれぞれ20時間未満のパートタイマー、アルバイトとして切り分けて雇用することによって雇用保険料負担を免れるという事業主の脱法行為も封じることができるようになる。この場合、保険料負担に関しては、労働者負担の軽減も考慮されるべきである。

「4)」全国延長給付(雇用保険法第27条)の要件を緩和すべきである。政令では、全国延長給付の発動要件は失業給付の受給率が4%以上となっている。しかし、この制度はこれまで一度も発動されたことはない。その最大の理由は、発動要件の厳しさ(これまで最も失業率が高かった03年度でも受給率は2.4%)にある。これでは全国延長給付の発動は事実上不可能であり、2%程度に緩和するなどの措置を検討すべきである。

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(4) 労働者の拠出によらない失業扶助制度の創設

度重なる雇用保険制度の改定により失業給付の捕捉率は低下を続け、今日では約20%にとどまっている。失業給付の終了後も再就職できていない長期失業者が多数存在することが、その大きな要因となっている。また、労働の意思と能力があり、現に求職活動をしていながら雇用保険制度の対象とならない人(新卒・主婦などの無業者で求職中の人、自営業者またはその家族従業者で倒産・廃業のために求職活動をしている人、65歳を超えて季節雇用以外に新たに雇用された人など)が多数に上っている。働く意欲を持ちながら、適職が見つからないために短期の就労を繰り返したり、生活維持さえ困難な低賃金での就労を余儀なくされる人々が増えることは、雇用・失業情勢の改善にとって大きな障害となる。効果的な職業訓練と結びついた、無拠出の就職支援制度(失業扶助制度)を早期に構築する必要がある。

この点に関しては、与党新雇用対策に関するプロジェクトチームの提言(3月19日)で、「緊急人材育成・支援基金(仮称)」を創設し、雇用保険を受給していない者や雇用保険の受給が終了したものの長期失業状態にある者などに、職業訓練、再就職、生活支援を総合的に行うことを打ち出し、3月23日の政労使合意でも、失業給付を受給できない者、失業給付の終了後も再就職できていない長期失業者への就職と生活の支援を盛り込んでいる。「緊急人材育成・支援基金」は3年程度の時限措置とされているが、一般会計による恒常的な制度とすることも検討すべきである。 なお、65歳を超えて新たに雇用された人については、1984年の改正によって雇用保険の対象外とされたが、政府の雇用対策として70歳台前半層の雇用促進が打ち出されていることを考えれば、65歳以上の就労は生きがい対策としてのみでなく、雇用としても明確に位置づける必要がある。したがって、これらの人は雇用保険の被保険者に戻すことを検討すべきである。

(5) 労働条件のミスマッチ解消による雇用機会の拡大

求職者が急増する一方で、充足しない求人が少なからず存在する。その原因の多くは、労働条件の底割れによるミスマッチ、すなわち、求職者の決して法外でない求職条件と求人条件との間にきわめて大きな隔たりがあることである。このような現状は、ワーキング・プア(働く貧困層)を選ぶのか、失業状態の継続を選ぶのか、という隘路に求職者を立たせることになることから、低賃金構造を余儀なくされている業種・業態の経営環境の改善と最低賃金の引き上げ(少なくとも、すべての地域で生活保護水準を上回る水準を確保する)が急務である。とくに、公契約に伴う事業(介護、福祉分野等)でワーキング・プアが少なくない実情に照らし、実効ある法規制を行うべきである。具体的には、行政機関が関与(発注、助成等)するあらゆる公的事業に従事する労働者の基本的な労働条件の基準(適正な賃金など)を策定し、受注企業等にその遵守を義務づけるなどの措置を講ずるべきである。

(6) 実効ある権利保障のための労働基準の確立

1)本来、発生させてはならない違法な首切りや労働条件の引き下げ等が「リストラ」と称して横行しているが、労働法制の整備を通じて防ぐことが必要である。 現行の労働契約法の規定の多くは、確定した判例を実定法に盛り込んだものであるが、もっぱら民事的効力(私人間の権利関係)を定めたものにすぎない。したがって、同法は原則として行政機関の関与を想定しておらず、当事者が合意に至らない限り、その権利関係の確定は司法判断によるほかない。 しかしながら、例えば、労働者が解雇の効力をめぐって訴訟を提起しようとした場合、訴訟費用等の経済的負担が困難なこと、必要な証拠の多くが使用者のもとにあり、立証が困難なことなど、実際上の大きな障害があり、これを躊躇せざるを得ない場合が多い(労働局の個別労働関係紛争解決制度や労働審判制度の活用が進んでいるが、この現状に大きな変化はない)。 こうした実情をふまえて、労働契約法の実効性を担保するため、行政命令制度を創設する等の仕組みを整備すべきである。

2)この間の有期雇用契約の急速な広がり、契約の更新を行わない雇い止めという形で、事実上、使用者のフリーハンドの「解雇権」「不利益変更権」を行使させている事態を改めるため、EU諸国で確立した原則である、有期雇用契約の締結と更新拒絶について合理的な理由が存在する場合に限定すべきである。また、使用者の都合による契約期間中の解約は原則として無効とすべきである。

3)悪質な内定取消しを規制する観点から、内定が実質的に労働契約の締結と同等の機能を有している実情に照らし、その取消しは労働契約法第16条が準用されることを法定すべきである。

4)求人条件をめぐるトラブルが後を絶たないことから、求人条件を下回る労働条件で労働契約を締結する際に文書で労働条件を明示することを怠った場合には、求人条件で労働契約が締結されたものとみなすことを法定すべきである。

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(7) 労働者派遣法の抜本改正と請負法制の制定

 急速に広がった労働者派遣等の間接雇用が、労働者をモノ同然に扱う「使い捨て雇用」の温床となっていることから、労働者派遣法を抜本的に改正すべきである。具体的には、a,日雇い派遣の原則禁止、b,労働者派遣の臨時的・一時的業務への限定、c,派遣対象業務の真に専門的な業務への限定、d,均等待遇の実現、e,マージン率の上限規制、f,派遣と請負の区分に関する基準の厳格化、g,司法警察権を持った派遣事業監督官(仮称)の創設等が必要である。 請負法制については、建設業等で労働安全衛生法や建設業法が元請事業者に課している責任(例えば、下請事業者の賃金不払い対する立替払い責任)と同様、他の業種においても元請事業者が適切に使用者責任の一部を負うべく、法整備を図るべきである。 ※労働者派遣法改正案(政府案)についての全労働としての詳細な評価は、「労働者派遣法改正案(政府案)の審議に向けた課題について」(2008年12月9日)で示したとおりである。

(8) 労働時間短縮(ワークシェアリング)による雇用創出

1998年にフランスで施行された週35労働時間制が数十万人の雇用を創出した教訓に学び、時間外・休日労働の規制、年次有給休暇の取得等を通じて労働時間短縮(ワークシェアリング)を推進すべきである。

現行の労働基準法は、週40時間制が明記されているものの、時間外労働に厳密な意味での上限がなく(この点でILO第1号条約は未批准)、過労死、過労自殺という痛ましい事態が後を絶たない。速やかに時間外労働の上限を法定すべきであり、時間外・休日労働の割増賃金を割増率と算定基礎の両面から改善すべきである(割増率は国際水準に即して時間外50%、休日100%を目標に段階的に引き上げ、算定基礎には少なくとも賞与を含める)。

「名ばかり管理職」が大きな社会問題となったが、広範に存在する賃金不払残業の根絶はワークシェアリング以前の問題であり、労働基準監督官の増員等によって厳しく監督指導すべきである。

(9) 産業政策と連携した良質な雇用の創出

雇用不安が広がる中で安定した雇用の場を確保するためには、良質な雇用の場を創出することが不可欠である。 政府は、介護・福祉、農業や林業などの分野が雇用の受け皿となるべく施策を講じており、こうした分野への就労を規模する人も少なくない。一方で、これらの分野は低賃金の職場が多く、肉体的にも条件が厳しいところが多いことから、いったん就職しても長続きしないことが指摘されている。とくに介護職場では、希望を持って就職した若い労働者の離職の多さが問題となっている。この分野での雇用創出には、労働条件の大幅な引き上げが不可欠である。農業、林業も有望視されているが、「国際分業」などと称して、これまでの「構造改革」政策はむしろ国内の農林業の基盤を弱体化させる方向を歩んできた。労働集約型産業の意義をあらためて評価することが重要である。太陽光発電など環境分野での雇用創出も注目されているが、そのためには思い切った予算の投入が必要となる。

雇用創出に関するさまざまな助成措置は重要であるが、同時に、雇用創出が望める分野の産業政策をしっかりと確立することも不可欠である。これらは、雇用・労働政策のレベルだけで行えるものではなく、政府全体として、省庁横断的な連携強化を含め、働く者が将来に希望の持てる雇用機会を積極的に作り出していくことが重要である。

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(10) ワーク・ライフ・バランスを確保した公正な働き方の実現

新たに創出される雇用は、新しい時代にふさわしく、公正で持続可能な働き方を伴ったものでなければならない。 具体的には、前記のワークシェアリングを通じた、労働者のワーク・ライフ・バランス(WLB)の実現が急務である。また、育児・介護休業法を非正規労働者に適用拡大するとともに、所得保障を拡大すべきである。 非正規労働者の多くは常用的な働き方をしていながら、どんなにがんばっても年収200万円に及ばない低賃金を強いられていることから、同一価値労働・同一賃金原則に基づく均等待遇原則を確立し、ワーキング・プアを解消すべきである。あわせて、こうした公正な働き方を推進する企業への新たな支援措置を検討すべきである。 これらの方策は、少子化対策としてもきわめて有効であり、内需主導型の健全な経済社会への転換を進めることに通じる。また、低賃金の非正規労働者の増大が社会保障制度の基盤を脆弱にしてきたことは明白であり、信頼される社会保障制度の再構築にも資することとなる。

(11) 職業安定行政の体制整備

実効ある雇用対策の実施にあたって欠かせないのが、職業安定行政の体制整備である。しかし、職業安定行政の定員は一貫して削減されてきた。1999年からの10年間で1,245人の定員が削減されたが、これは東北6県の全安定行政職員数を上回る規模である。2006年に小泉内閣が閣議決定した国家公務員の新たな純減計画によって定員削減に拍車がかけられ、2007年度からわずか3年間で742人が削減されている。 日本の職業安定行政の定員はもともと、他の先進諸国に比べて極端に少ない。ILOの公表データ(2003年時点)によると、就業者1万人当たりの職業安定機関の職員数は、日本が1.97人に過ぎないのに対し、フランス9.11人、カナダ14.03人、ドイツ23.56人、イギリス41.31人と極めて大きな差がある(ILO公表データにはアメリカとの比較はないが、OECDが2000年に各国の公共職業サービスに関して行った調査によると、職員1人当たり被雇用者数は、日本を100とすると、アメリカは52で、ここでも大きな開きがある)。日本の公共職業安定行政の体制がいかに脆弱であるかは一目瞭然である。

いま、全国の公共職業安定所は開庁時間前から求職者が列をなす状況にあり、月間有効求職者数は昨年12月の200万人から今年2月には248万6千人に急増している。その数は今後さらに増加し、過去最高を記録した2002年当時の280万人を上回ることも予想される。雇用維持に努める事業主を支援する雇用調整助成金の申請も激増し、2月の申請件数は昨年11月と比べても210倍となっている。また、各種雇用対策にもとづく新規業務も著しく増えている。改正雇用保険法では雇用保険の適用要件の見直しが行われたが、今後、これによって被保険者、受給者が大幅に増えることが予想される。

 今日の雇用・失業情勢は、「100年に一度の経済危機」が招いたものであり、回復には相当の期間を要すると考えられる。3月23日の政労使合意では、雇用のセーフティネットの拡充・強化の一環として、「全国ネットワークのハローワークの再就職・生活支援等の強化及び組織・体制の拡充・強化」が盛り込まれた。 また、公共職業安定所だけではなく、解雇、賃金不払い、セクハラ・パワハラ、過重労働、メンタル疾患等の相談事案が激増している状況を踏まえるならば、労働基準監督署、雇用均等室(労働局)、さらに違法派遣・擬装請負の摘発・指導等を行う企画室(労働局)の体制も早急に拡充すべきである。そのためには、労働行政職員の臨時緊急増員の実現が急務である。

以上