雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2008年12月
労働者派遣法改正案(政府案)の審議に向けた課題について
全労働省労働組合

政府は11月4日、7月28日の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」(以下、研究会報告書)をベースとした、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、法案)を閣議決定し、上程した。

その内容は、多岐にわたるが、労働行政の実務を担う立場から、働く者の権利保障や今後の雇用の在り方等との関連で、後退が懸念される事項、不十分さを残した事項等が認められることから、その要点を指摘する。今後の充実した国会審議と国民的な議論を通じて、これらの課題が相応しく解決されることを強く願う。

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【後退が懸念される事項】

1 特定を目的とする行為の一部解禁について

法案は、期間の定めのない雇用契約の派遣労働者(常用型派遣労働者)について、事前面接(派遣労働者の特定を目的とした行為)を可能にするとする。

これは研究会報告書が、常用型派遣については「仮に特定を目的とする行為が行われたとしても、これにより雇用関係の存否に影響することはな」く、むしろ、「これにより、派遣先にとって常用型派遣が使い易いものとして選好されることによって、派遣元における登録型派遣から常用型派遣への転換促進も期待できる」と指摘したことを受けたものである。

しかし、「派遣元事業主と派遣労働者との雇用に影響を及ぼし得ないことが明白な場合については、労働者供給事業に該当する可能性がな」いから、事前面接も何ら問題ないと見るのは、事前面接を禁止した趣旨を誤解したものである。

派遣先が派遣労働者の特定を行う行為を容認することは、派遣先の権限を指揮命令に止めた「労働者派遣制度の基本構造」を根底から壊すことになり、派遣先にとってきわめて都合の良い「新たな労働力供給の枠組み」を創設することにほかならない(事前面接の解禁は、派遣労働者をショーウインドウに並べる「商品」のように扱うことに等しくないか)。

そればかりでない。これまで事前面接を禁止してきたことには、「直接雇用の原則」を守り、常用雇用代替の防止を図るという重要な意義があることを見逃すべきでない。

実際、事業主にとって、派遣労働者の受け入れではなく、直接雇用を選好するメリットの一つは、面接によって応募者のうちから最も相応しい労働者を選考(特定)し得る点にあった。派遣労働者の事前面接を無制限に行うことが可能(とくに派遣元が雇い入れと同時に派遣先が面接することが可能)となるなら、直接雇用によって労働者を雇い入れる事業主の意欲は大きく減退する。

結局、このような措置は、研究会報告書が指摘する「登録型派遣から常用型派遣への誘導策」とはならず、むしろ、常用雇用(直接雇用)から常用型派遣(間接雇用)への代替を強く誘導することになるだろう。

なお、法案は、年齢又は性別を理由とした差別的取り扱いを禁止するとしているが、事前面接を認めるのであるから、派遣先は面接時に尋ねるまでもなく、その容姿等から年齢又は性別を確認することができる。こうなると、雇用(採用)の責任を負わない派遣先の「無責任さ」とも相俟って、年齢・性別・容姿等による差別的選考(かつて派遣労働者の容姿等にランクを付けて派遣するケースもあった)を広く横行(摘発不能)させてしまう懸念がある。

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2 雇用契約申込義務の一部適用除外について

法案は、期間の定めのない雇用契約の派遣労働者(常用型派遣労働者)について、「同一の業務に同一の派遣労働者を3年を超える期間継続て受け入れており、その業務に新たに労働者を雇い入れようとする際に生じる、雇用契約申込義務」の適用対象から除外するとする。

この点について研究会報告書は、この規定を「派遣労働者の雇用の安定を図る措置」と位置付けた上で、「(常用型派遣労働者は)すでに派遣元事業主との関係で雇用の安定が確保されている」のであるから、そもそも雇用契約申込義務は不要であると指摘する。そして、「これにより、派遣先において、常用型派遣が選好されることに伴い、派遣元事業主において、登録型派遣の労働者を常用型派遣としていくインセンティブも生じる」とする。

しかし、雇用契約申込義務を「派遣労働者の雇用の安定を図る措置」とだけ、矮小化してとらえることは誤りである。雇用契約申込義務は、「直接雇用の原則」に立ち、労働者の常用雇用代替を図ることを防止するための措置であり、労働者派遣制度が、臨時的・一時的な労働力需給調整の仕組みであることの重要な担保である。

結局、ここでも、「登録型派遣から常用型派遣への誘導策」とは名ばかりで、実際は、常用雇用(直接雇用)から常用型派遣(間接雇用)への代替を強く誘導する事態を招きかない。

なお、法案のベースにある「常用型派遣労働者は、雇用の安定が確保されている」という認識(立法事実)自体、大いに疑問である。事実、米国発の金融危機以降、全国に広がる大量の「派遣切り」は、決して登録型派遣労働者に限ったものではない。期間の定めのある労働契約ですら、その期間の中途で乱暴に解除(労働者の解雇)される事案が急増しているのであり、登録型・常用型を問わず、派遣労働者の雇用はきわめて不安定な立場にあると見るべきである。

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【不十分さを残した事項】

1 日雇い派遣について

法案は、近年、大きく社会問題化した「日雇い派遣」について規制を加える方向を打ち出している。具体的には「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者」の労働者派遣を原則禁止するとする。しかし、雇用契約の期間にのみ着目した規制に効果はあるのだろうか。

実際、31日の雇用期間を定めて労働日を1日とすることは可能であるし、その後も個別労使の合意の下で労働日を適宜増やすことも、現行法上可能である(現在の日雇い派遣とほぼ同様の態様となる)。

派遣先は、労働者を1日、2日と都合よく使いながら雇用の責任を負わず、派遣元もまた信頼関係に基づく労使関係の構築を意識すらしないまま、労働者を「商品」のごとく扱う「日雇い派遣」は、日々派遣の形態を想定した(派遣先・派遣元間の)契約自体を規制することなしに禁止し得ないのではないか。

また、研究会報告書は、通訳やソフトウエア開発などの18業務については「専門性があり、労働者保護に問題がない」として、雇用期間の制約から除外すべきとの考え方を示しているが、今日、事務機器操作、調査、ファイリング等の業務の中には、決して高い専門性を有しない就労形態が存在していることから、さらなる限定を検討すべきであろう。

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2 派遣労働者の待遇の確保について

労働者派遣制度は、臨時的・一時的な労働力需給調整システムであり、決して、安価な労働力の供給システムではない。そのこと担保する重要な措置が、「同等(又は同等以上)待遇原則」であり、EUをはじめとする諸外国の当たり前のルールである。

しかしながら、実情は、「正社員1人のリストラで、派遣労働者が2、3人は使えます」と営業活動を進める派遣会社があるなど、労働者派遣制度は「直接雇用の原則」を脅かし、低賃金労働者を生み出し続けている。

こうした中で、法案は、派遣労働者の賃金を決定するにあたり、「派遣先の同種の労働者の賃金を考慮要素の一つ」とすることを派遣元の(強制力のない)努力義務とするに止まっており、深刻な格差と貧困の現実を改善するには、全く不十分である。

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3 登録型派遣の常用化について

法案は、1年以上勤務している、期間を定めて雇用する派遣労働者等の希望を踏まえ、[1]期間の定めのない派遣労働者又は通常の労働者として雇用する機会の提供、[2]紹介予定派遣の対象とすること等、[3]期間の定めのない労働者への転換促進のための教育訓練等、のいずれかの措置を講じる(強制力がない)努力義務を派遣元に課すとする。

これらは不安定な有期雇用の解消をめざしたものであるが、このうち、「紹介予定派遣」については、派遣元はもとより、派遣先にも常用化(雇い入れ)の法的責任が一切生じないことから、法的な意味で「常用化策」の名には値しない。また、派遣元が行う教育訓練の中には、労働者の費用負担を求めながら実施されるビジネスベースのものも少なくない点に留意すべきであろう。

いずれにしても、強制力を伴わない努力義務である点で実効ある対策とは言い難い。

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4 グループ企業派遣等について

グループ企業派遣は、幅広い需給調整機能を果たしているとは言い難く、むしろ、本来直接雇用すべき労働者に対して、もっぱら労働条件抑制(切り下げ)のツールとして機能している面がある(派遣先の労働者をグループ内の派遣会社(派遣元)へ移籍させ、低賃金で(派遣先の)同じ仕事に従事させるケースまである)。

また、グループ企業派遣の場合、派遣先と派遣元の関係は、一般に親会社と子会社の関係にあるなど、派遣先が圧倒的に優位な立場に立っている。このことから、派遣先の都合によって契約内容(労働条件、業務内容、就労場所等)が変更させられるなど、派遣元が多くの矛盾を抱え、労働者の権利を脅かす構造が生まれやすい。

法案では、[1]グループ企業内の派遣元が一の事業年度中に当該グループ企業に派遣する人員(定年退職者を除く)の割合を8割以下にする、[2]離職した労働者(定年退職者を除く)を元の企業に派遣することについて離職の後1年間は禁止するとする。

しかしながら、[1]については、「8割」という基準によって前記の矛盾は、基本的に解消されず、解決策としては不十分である。また、[2]については、常用代替防止を図ろうとする趣旨は理解できるものの、離職した当該労働者の派遣禁止に限定する必要はなく、人員をリストラした業務への派遣労働者を受け入れ自体を禁止すべきであろう。

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5 マージン率規制について

法案は、いわゆるマージン率規制について、労働者派遣金額の平均額と派遣労働者の賃金の平均額から算出したマージン率等を関係者へ情報提供すべきこととする。

こうした情報提供は、労使の間にある圧倒的な情報量の偏りの解消には一定資するだろうが、その前提たる労使の交渉力の圧倒的な格差(とくに求職者の立場はきわめて脆弱)は全く解消されない。従って、不当なマージン率が設けられることによって低賃金を強いられる危険は依然払拭できず、個別のマージン率の上限規制を設けるべきであろう。

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6 法令違反に対する是正措置の強化について

法案は、派遣先に対する措置として、一定の法違反に対する是正勧告を指導・助言を行うことなくできるとする。

派遣先の責任に目を向けるとともに、勧告に至る「指導・助言前置主義」が解消された点は前進と言える。しかし、勧告という行政手法も、その場を取り繕い、公表を免れ、ほとぼりが冷めた頃にまた違反を繰り返すという態様を根絶し得るとは必ずしも言えない(勧告も行政指導の一態様であり、関係者の権利形成を伴わない)。従って、勧告制度に加え、司法警察権を持った派遣事業監督官(仮称)等を配置し、労働基準法等と同じように直ちに罰則を運用し得る仕組みを用意しておくことことが適当であろう。

あわせて、労働者派遣法の施行を担う行政機関(労働局の需給調整部門)の体制は、あまりにも脆弱であることから(中小規模の都道府県労働局の担当職員は2〜3名)、これを抜本的に強化すべきである。

なお、12月8日に内閣府の地方分権改革推進委員会の「第2次勧告」は、労働者派遣法の施行等を担う都道府県労働局について、ブロック機関に集約することを打ち出した。組織・定員の一層のスリム化等をねらったものだが、権利保障を担う行政機関を派遣労働者から大きく遠ざけ、派遣元・派遣先への指導監督もたちまち困難となることは明らかである。

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7 派遣先への雇用申込勧告について

法案は、一定の法令違反(適用除外業務への派遣、無許可・無届事業所からの派遣、期間制限違反、偽装請負)の場合で、派遣先に一定の責任があり、派遣労働者が希望する場合、厚生労働大臣が派遣先に対して、「当該派遣労働者に対する労働契約を申し込みすべきこと及び当該労働者の賃金その他の労働条件を低下させることにないよう適切な措置をとるべきこと」を勧告できることとする。

しかし、勧告は民事効(労働者の権利形成)を伴わないものであり、その実効性に疑問が残る。

法令違反の状態で働かされている派遣労働者にとって、当該法令違反の解消は、多くの場合、直ちに派遣契約及び労働契約の解消に結び付き、当該派遣労働者は職を失うことになる。しかも、その後の法律関係を見たとき、当該派遣労働者にとって実効ある権利行使は難しい(民事訴訟等で直接の契約関係にない派遣先の責任(不法行為責任等)を追及する道もないではないが、実際上、きわめて困難)。このように、派遣元・派遣先の違法行為が原因で、派遣労働者が無権利のまま放り出されてしまうことを放置している実態は、「法令の不備」と言えるだろう。

従って、もっとも弱い立場に置かれた労働者(法令違反の状態で働かされた派遣労働者)を相応しく保護する立場に立ち、民事効を伴った「派遣先との雇用契約の成立をみなす規定」又は「派遣先から雇用契約の申込があったとみなす規定」を新設すべきである。その上で、「いかなる内容の雇用契約(又は雇用契約の申し込み)なのかが確定できない」(研究会報告書)との疑問には、「当該労働者の賃金その他の労働条件を低下させない」ことを前提に、行政機関の適切な関与によって解決する仕組みを講じることが妥当だろう。

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8 今後の課題について

いま、全国で乱暴な「派遣切り」が広がり、多くの労働者が「使い捨て」同様に無権利のまま職場から放り出されている。

このような深刻な事態の原因を、労働者派遣法のみに求めることはできないが、相次ぐ同法の規制緩和が「直接雇用の原則」「常用雇用の原則」等を大きく脅かしてきたのは事実だろう。

この間、「人間を雇用する」ということが大きく変質してしまったように感じる。働く者の人格を尊重し、信頼し、そして育成するという社会的な営みであった「雇用」が、まるで「モノ」でも扱うように軽々しいものになってしまった。

「労働は商品ではない」(フィラデルフィア宣言)の精神が、いまこそ求められている事態はないと強く感じる。

近年、規制緩和一辺倒で「見直し」を進められてきた労働法制(派遣法等)であるが、あたらめて「直接雇用の原則」「常用雇用の原則」等に立った労働法制を確立するため、その抜本的な見直しが求められている。

以上

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