雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2008年 7月
「行政の内側から見た労働者派遣の実態と問題点」
派遣(需給調整)事業担当者座談会

全労働は2008年7月、労働者派遣制度の実態と問題点を明らかにし、今後予定される「労働者派遣法」改正を見据えて改善すべき方向を明らかにするべく、労働局、安定所の担当者による「座談会」を実施しました。

  • 司会 全労働本部
  • A 大都市圏労働局の需給調整事業指導担当
  • B 大都市圏安定所の求人・職業紹介担当
  • C 地方の安定所(求職者送り出し地域)の求人・職業紹介担当
  • D 大都市圏労働局の労働基準監督官(需給調整事業指導担当の経験あり)
  • E 大都市圏労働局の需給調整事業指導担当

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◎職業紹介、求人受理の窓口から見える派遣就労の実態

司:本日の座談会ですが、行政内部から見た労働者派遣制度の実態と問題点を明らかにして行きたいと考えています。

まずは、職業紹介・求人受理の視点から話を進めて行きたいと思います。

C:古くから、中高年齢者の土木作業員など、知り合い同士で声をかけて行く県外への就職が多かったのですが、最近は、若い層を中心に派遣労働者として自動車メーカーや関連の部品工場に行くケースが増加傾向です。このような就職の場合、トラブルとして多いのは、赴任地での宿舎や生活環境の問題です。事前に聞いていた内容よりも「劣悪な環境だ、話が違う」という相談が寄せられています。

司:生活環境が違うというのは、どんな話ですか。

C:面接時の説明では、宿舎は、テレビコマーシャルで宣伝されているような白塗りのしゃれたワンルームマンションを貸与するということだったのに、実際には築何十年も経ったような古い汚い部屋だったというケースです。

司:若い人たちは、地方から出てきて夢や希望を持って就職するわけですよね。その夢と違えば、ガッカリして就職自体に良い印象が持てなくなりますよね。

C:もう1つのパターンとしては、採用が決まって赴任し宿舎に入ったが、「ちょっと待ってくれ」と2、3日待たされて「実は予定されていた○○工場の話がキャンセルになったので、違う工場に行ってくれないか」と言われるパターンです。そうなった時には、初めに提示された日勤制・交代制の条件や時給の単価が微妙に違ってくる。「夜勤があるのなら来るつもりはなかったのに」みたいなトラブルが起きています。

司:就職した場合の、引っ越しの費用などは誰が出しているのでしょうか。

C:私の知る限りでは、3カ月ぐらい経つと「行き」の旅費を出してくれる。さらに3カ月頑張ると「帰り」の旅費を出してくれると、そのようなケースが多かったと思います。

司:それって、移転費用で雇用期間を縛っているようなものですね。半年経たないと帰る金が出ないと。

C:そんな感じです。生まれ育った実家を離れて遠くで就職することを選んだ人は、それなりに覚悟していますので、少々労働条件が違っていても、転居してしまえば我慢する人が多いのではないでしょうか。「こんなつもりではなかったけど、しょうがないか」と思っているうちに半年になり、1年になり、結局我慢して働いているケースが水面下ではかなりあるのではないかと思います。

司:新卒者の採用に関わってはどうですか。

C:県内には、進学校が1、2校あって、その下に成績に応じた普通高校がないので、工業、商業、農業高校に行かざるをえないという地域もあるのです。そういうところの就職希望者は専門高校の生徒の方が優秀だったりするのです。大都市だったら、普通高校に行っているレベルの子どもが工業高校とかに行っているので、「専門技術も持っている上に優秀だ」と評判が高くて、県外の企業からもそこから採りたいという指定があったりするのです。先生たちもその辺はわかっているので、どんな会社でもいいからとはなりません。

しかし、人材ビジネスは、それを突き崩すために、さまざまな学校訪問を行ったり企業見学会みたいなことを積極的にやっているようです。派遣会社は早い時期から高校に対する求人攻勢をかけてくるので、就職希望の生徒のうち、成績も含めて優秀なほうが最初に採用されていく。地元の一般企業が「来年、採用枠をどうしようか」って言っているうちに、先に派遣会社に採られてしまう。結局、地元企業は残った生徒を年明けに採用することになり、その業務についていけず短期間で退職するなどし定着状況を悪化させ、地元企業は翌年度の採用を手控えるという悪循環になっているという話を先生から聞かされます。一般的に生徒は、卒業生が採用してもらった会社には安心感がありますよね。例え派遣会社であっても根拠のない安心感といいますか、それで応募を希望するケースはあるようです。

基本的には地元で就職したい生徒が多いのですが、求人数全部合わせても地元就職希望者の半分もないですから、実際に地元で希望通りの職種に就職できるのは、まあ2、3割です。7割以上は多少、不本意であっても県外に出るケースが多いです。

司:県外に出る人のうち、人材ビジネス経由は相当な割合になっていますか。

C:数字では把握していませんが、派遣会社のほうが圧倒的に積極的です。ちょっと聞いたことのない会社名で、でも名刺の裏には業種がいっぱい書いてあって、相当大きい会社かなと思うとやはり派遣なのです。学校訪問をしたついでに地元の安定所に寄っていく企業は多いですが、圧倒的に派遣会社が多いです。

B:日雇い派遣でやっている人たちがどういう実態か調査は行われているのでしょうか。

司:十分な調査や統計は無いのではないでしょうか。厚労省がネットカフェ難民の調査をやりましたが、対象は日雇い派遣労働者だけではないのです。首都圏青年ユニオンに話を聞くと、彼らはずっと日雇い派遣というわけでもない。場合によっては3カ月ぐらい期間労働ができたりして。次の仕事が決まらないと、また1カ月ぐらい日雇い派遣の状態でいて、たまたま友達の紹介で2カ月間アルバイトになりました、という感じになる。恒常的な不安定労働者ではあるけど、分類上でいくと日雇い派遣労働者という分類とはいいきれない。

A:半日暇になっちゃったからとメールを入れて、半日の仕事を貰って半日だけ雇用関係ができちゃうことがありますから。ジャストインでやりくりして、今なら来てというパターンも、いろんな会社とつないでやっているから。

司:現実に、そういう仕事を常態としているというのは恥ずかしいことだという雰囲気はあるんだそうです。だから、それが人に言えない。同じ仕事をしている仲間には言えるけれど、親には言えないという人がいるから、よけい実態が分からなくなるんでしょうね。
日雇い派遣もいろんなものがあって、毎日バラバラに、今日は居酒屋、明日は工場という人もいれば、普通に同じ工場に勤めて早3カ月みたいな。ただ、明日仕事があるかどうか毎日携帯でもらう。

E:引っ越し業界も多いですね。

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◎非正規が非正規を募集する現地選考の実態

司:面接には、派遣会社の人が募集地域まで来るのですか。

C:選考に関しては現地選考員が行っていることが多いようです。事務所があって2、3人の担当者がいるケースもあれば、1人が自宅を事務所にして県内全域を担当し、面接は近くの喫茶店でする様なケースもあります。それぞれの選考員にはノルマがあるようで、ノルマ達成のために、面接の時についつい良い点だけを言ったりして、応募者のイメージと実際に行った先が違うなどのトラブルを引き起こしています。

B:募集地域に事務所を構えていても、求人地域からスタッフを送っている派遣会社と現地の人を採用している派遣会社があります。現地事務所も県庁所在地などにしか設置していないので、現地事務所が募集地域の人を雇って、その人の自宅等を事務所にし、県内各地域を受け持たせている場合があります。

A:2日前に入った苦情では、「派遣求人に応募しようと思い、フリーダイヤルに電話したら違う会社だった。調べてみると別の派遣会社のインターネットサイトに同じフリーダイヤルが出ていた。なんで複数の会社名で同一の電話番号なのか。おかしいじゃないか、確認しろ」というものがありました。

実際にそのフリーダイヤルに電話をしてみたら、派遣会社が現地選考員に委託したのだと言いました。本来であれば、電話に派遣会社の採用選考を行う社員が出るはずなのですが。どうも人材募集専門の会社が多くの派遣会社から「採用選考事務は、私どもの窓口でやります」と請け負っているようなのです。労働法的に問題だと思うのは、採用決定までやると言っている点です。「あんたは採用!」までやっちゃう。本来なら委託募集として届け出ないとできないはずなのに、募集から採用決定まで全部取り仕切って、「はい、じゃあ○○派遣会社に行ってきなさい」と言って送り出しているようなのです。

司:ブローカーですね。

A:ブローカーです。遠方から人を採用するなら、その地域に出向いて応募者に会うのが従来の採用に至るまでのプロセスなのに、やらなくなってきました。

司:そもそも人材ビジネス自体がメーカーの下請けなのだけど、その人材ビジネスがさらに下請け的なブローカーみたいなこともやっていると言うことですね。当然、労働条件なんかちゃんと説明できないでしょう。

A:正直、「派遣だ、請負だ」という問い合わせの中に、採用代行があてはまるかという質問はきています。募集から採用に至るプロセスを、委託をうけて請負う。例えば、書類選考や採用テスト、面接などのノウハウの提供や、実際の募集までやって、最終的な「雇う、雇わない」の決定は発注元会社でどうぞ、とするなら法的にクリアでしょうが、「あんた○(マル)だよ」という採用を出しちゃう行為までを、第三者であるブローカーが行うのは法律的に疑問があります。

雇用契約は雇う側と雇われる側の2者が合意をして締結するものですが、業務請負として適法かと見れば、請負った業者が「採用事務」を最後までやった場合が適正な「採用事務」の請負と言えるわけです。でも、絶対にそれを頼んだ企業は不採用を出さないのか。その辺が抜け穴的な要素だけれども、いつなんどき火を噴くかわからない行為です。

このように、現地選考員による選考は非常に大きな問題が裏側にあると言うことです。求人地域の派遣会社が出向いて直接選考しているなら問題はないと思うのですが。

B:大概の派遣会社は出向いていないと思います。

司:現地事務所は、求人の情報を十分に知らない人がやっているのでしょうか。

B:知らない人がやっていることは十分あると思っています。

司:現地選考員の人たちは、出退勤管理を受けるでもなく、自分の家が事務所と言うことでは、一般的に正規労働者ではないですね。非正規労働者が非正規労働者を募集していることでしょうか。

B:その募集の求人に関する相談を受けたことがあるのです。

司:現地選考員の募集?

B:そうです。定年になったような人でいいと。そんなに高い給料ではなかったです。社会保険に入らないで済むような短時間の雇用でした。しかし、雇用の形態を取っていれば勤務時間や賃金など明確で、まだいいほうですが、個人委託契約ではそうはならないので、雇用形態はより不安定になります。

C:派遣業者の現地選考員がいるケースが増えていますが、出稼ぎ労働者などのための現地選考員は昔からいました。人材の送り出しを前提に雇われているわけですが、毎日8時間などとそんなに事務量があるわけではないケースが多いので、1人の人間が複数の会社に雇用されているケースもあります。

私の安定所では県外求人の選考会を定期的に行っているので、県外への就職希望者はその日に集中してきます。そこに、複数の会社の名札を付けた現地選考員も来ていますから。

司:1人の面接官が「3つありますが、どこと面接したいですか」と聞くのですかね。本人の希望通りに面接はできるのでしょうか。

C:それぞれの会社のノルマがあるようですから、A社のノルマを達成していれば、本人がA社に応募したいと来ても、ノルマの達成していないB社、C社へ誘導する可能性は十分あります。現に苦情として聞いたこともあります。

司:それはその人に頼んでいる、人材ビジネスのほうも了解の上なのですか。

C:本人(現地選考員)が黙っていればわかりませんから(笑)。

司:個人委託みたいになっていたらそうですね。雇用関係があればそうはいかないだろうけど。

C:いや、実質的に労働時間を管理できない状態ですから、雇用関係にあると言っても契約書面上は週20時間未満みたいな形にして、社会保険加入などを逃れているケースもあると思います。

司:成功報酬的な部分もあるのでしょうか。1人入れていくらみたいな。

A:だからやっている現地選考員の立場からしたら、自分でAなのかBなのかCなのか最終的に選択せずに、とりあえず契約しているすべての派遣会社に同じ人のデータを送って、「こんな感じの人ですけど」とやって、どっか引っ掛かるぐらいでいいかなと。

E:複数請負っている人は採用の最終的な決定までしないのですか。

A:そこまではやらないと思います。発注先の派遣事業者に対してのリスクを負っちゃいますから。

司:それだけに応募受付の件数を増やさなければいけない。しかし、求職者の数は決まっているから、頭打ちになりますね。1人を3社に案内すれば、3倍の応募受付ということになりますね。イメージとして、派遣業者が現地選考員を使って「とにかく人をかき集めて来い、よそに負けるな」と言って、その人の尻をポンポンと叩くものだと思っていたけど。

A:全国隅々まで派遣会社が直接選考員を送り込めるなら可能でしょうが、全国から募集しようと思ったら何らかの形で選考員等に頼むしかないのが現状です。それがよそと掛け持ちでやっている人であっても頼まざるを得ないのでしょう。

司:カリスマ募集員みたいになると人材ビジネスで引っ張りだこで、「○○県にあいつ有り」みたいな(笑)。

ところで、安定所の場所を面接に貸したりする基準というか、条件はあるのですか。

C:それは庁舎管理上の問題でもあるので、安定所ごとに独自に決めています。貸し出しに関する事務を担当する職員のストレスとして多いのは、現地選考員が会議室を定期的に借りることを既得権と考えている点です。たとえば「貸し出しの予約は2か月前から受け付けします」と言うと、ワアッと来るのです。30席しかないのに、40社とか50社の申込みがあります。先着ということで一気に席を決めて、予約が取れなかったところには、今回は確保できませんでした、と連絡したりとか。それだけでも結構な手間なのです。そこまでして予約しておいて、直前になって電話1本で「ちょっと用事で行けなくなりました、よろしく」みたいなことが結構な比率であります。一昔前のクリスマスイブのホテルの予約みたいです(笑)。キャンセルが出ると、キャンセル待ちの会社に繰り上げて連絡して、参加事業者名簿を作り直したり、掲示物を剥がしてまた新しく作る。この手間が大変なのです。

こちらが掲示を間違えたりすることがあると、現地選考員から猛烈な苦情を受けることがあり、ひどい場合は本社の担当者に注意せざるを得ないようなことにもなります。局内の会議でも、どの担当者からも同様の話が出ます。

まあ、良好な人間関係のもとにやっていこうという現地選考員のほうが多いのですが、そうじゃない人も結構います。

司:現地選考会に参加するためには、ただ単に予約すればいいのですか。求人を出しておかなければならないのですか。

C:もちろん求人が必要です。有効求人があって、それを募集するための管理選考ですから。

司:そうすると面接会の予約のために、実際に仕事があろうがなかろうが、求人を出しておかないと予約できないってことになりますよね。

C:大概、万年求人ですから。

司:それだけに実際の仕事があるとかないとかでなく、「労働条件が確定していなくてもとりあえず」みたいな感じの求人を出しておくことにならないのでしょうか。

C:派遣先が確定していて、仕事があるということでないと求人は受け付けないので、一応仕事はあるはずです。

司:会議室の予約時と面接時で派遣先が変わったりすることはあり得ますね。

C:そういうリスクは高くなると思います。

司:求人受理段階でもめることはないのですか。「詳しく書かないと受け付けません」とか。「本当にそういう仕事があるかどうかはっきりして下さい」みたいな話の中で。

B:派遣先がどこか書かないと受け付けないというスタイルをとっています。

司:派遣先の企業名をそのまま求職者に公開するのですか。

B:そうです。今はそれに加えて契約書を確認させてもらうというスタイルでやっています。

司:派遣会社側からはどんな反応ですか。

B:企業名は出したくないという会社は結構あります。

E:求人票に派遣先企業名を載せないとだめということですね。

B:載せないと受理しませんから。

E:管理情報に載せるだけではだめだと。

B:そうです。派遣求人が爆発的に増えて、管理情報を入力する余裕もなかった。できない状態だったのです。局内でもそれは統一されていなかったけど、結果として求職者側から見れば、正確な求人情報を見ることが出来るようになったということで、良かったと思います。

それより全国の安定所に求人募集を出したいという事業所があるのです。派遣会社は、無料の広告ぐらいの気持ちですから。それが一番困っていました。

司:どうやって対応したのですか。

B:連絡先は30安定所までと決めたのです。それをやったら、今度は求人内容をちょっとずつ変えて出してくるのです。それはそれでまた困った。地域別に変えてくる。たとえば東北・北海道方面向け、九州・沖縄方面向けとか。中身はほとんど一緒で、勤務先も同じ。

司:派遣会社がだす求人広告はどうなっていますか。旅行のパンフレットの様に華美だと聞いたことがあるのですが。「都会へ行こう!」みたいな。

C:新聞の折り込み広告には、派遣会社などのカラフルなものが入ってきます。ただ関東や東海地方への送り出しを前提にしたものもありますが、半分ぐらいは地元就職が中心です。

地元でも雇用創出に力を入れて企業誘致も行っており、いくつかの企業が進出しています。周囲の協力工場みたいなものも含めるとそれなりに求人数が確保されます。そこの募集チラシのうたい文句は「地元で働こう!」みたいなものです。

司:そういった会社は直接雇用が多いのですか。

C:直接雇用も派遣もあります。派遣の場合、地元の派遣会社が雇って工場へ送ります。

司:大きな企業の進出があると、そこの地域で、都市部に送り出したい人材ビジネスと、地元で就職させたい人材ビジネスがせめぎあい、人の取り合いをしますね。

C:ひと頃たくさんチラシや求人があった業者が、いくつか消えているということはあります。その会社が倒産したわけではなく、この地域の労働市場から撤退したということのようです。

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◎需給調整業務の組織、体制の課題

司:今度は、平成16年に安定所から労働局に需給調整業務が集中化されましたが、指導監督に関わってノウハウの蓄積などどうなっているかに話しを移していきたいと思います。

D:やっている業務の中身は、むしろ安定行政というよりも基準行政に近いと思います。安定行政の職員は需給調整業務に就いたときチャンネルを入れ替えないといけないのです。安定所の業務からまったく逆の意識で取り締り業務に関わる。気持ちの切り替えが大変なのだという感じはすごくしました。

例えば行政処分の場合、事案の調査報告書や捜査報告書を作らないといけないわけです。そういうものはひな形も何もない、白紙の画用紙の上に自分で全部考えて組み立てた報告書を書かないといけない。そのような仕事は安定行政にはあまりないのではないでしょうか。監督官はそういった訓練を新人の頃から受けてきています。これから行政処分をきっちりやっていくとなった場合、その辺のトレーニングをどう積んでいくかという課題があると思います。

もう1点は、労働局に一本化したのはいいのですが、全県が管轄であり、機敏に動くためには移動時間の無駄が多くて、それが仕事上の一番の悩みでした。そうじゃなくても人員が少なく、体制が不十分な中でやらないといけないのですから。

E:過去にも集中化については、東京とか大阪で試験的にはやっていて、ブロックなどに広げるべきか、全国的にどうしようか、と議論もありました。確かに東京、愛知、大阪は地理的に面積が狭いとか、交通網が発展しているとか、そういう所での集中化は効果的かなと思います。Dさんが言った通り、地域によっては局全域では管轄範囲が広すぎて効率的な運営とは言えないと思います。

結局、需給調整業務は労働局へ集中化になったのですが、同時に規制緩和で派遣事業所の数が増えてきた。そのため、全国規模で指導監督をする必要性が必然的に生じてきたと考えると、集中化になって、所から局、局から本省、局から他局またその次の局へと、そういった段階を踏まずにやれるところはメリットになっている部分かなと思います。

A:まず集中化の問題そのものでいえば、私の局でも同じようなタイミングで集中化を行っています。東京、大阪ほど目立った形ではないですが、実は、県内中心地域にある安定所の中で民営紹介事業、派遣事業者が集中している地域があって、その所と需給調整事業室とが連携をとりながら、どんな形で指導監督をやっていこうか情報交換をしながらやっています。「先程、窓口にこんな会社が求人を出しに来たけど、これってどうしようか」などリアルタイムに連絡を取りながら対応しています。

こういった風土があるので局集中については、歓迎ムードでスタートしましたが、当然局需給調整担当と安定所のすみわけをどうするのかという課題は、すっきりと解消はしていません。

私の局の管内には、多くの外国人労働者が働いています。そうすると派遣で外国人労働者が働いているという実態があります。いかにも難しそうな事案です。そうなると、とにかく需調でいいや、というイメージがあるのかなという気はします。また、実態は1つの求人なのに5つも6つもの派遣会社が共有して出してくる「見せ求人」を、形だけの求人倍率が上げても意味がないので無くしていこうと、安定課が旗を振って求人受理の厳格化をスタートしました。事業主間の契約書とか提出させたりして。しかし、所からは「こういう書類だったらいいかな」という問い合わせが需給調整担当にかかってくる。

労働者からの苦情については、「派遣労働者」と名乗られると大抵の場合、需給調整担当にノンストップで回されるというのがほとんどです。なので、18年度から19年度にかけて苦情案件が倍になっています(笑)。職員として気持ちが分からないこともないから、対応できる部分であれば対応してあげたいとは思いますが、最終的には安定所長の権限や判断の領域だったりします。「いや、そんなに不安がらずに、もっと腰を据えてこうやって言えば大丈夫だよ」と言うと「では一回それで言ってみます」となるのですけどね。

司:派遣労働者は賃金未払いで相談をしたいのに、「派遣」という言葉を聞いた瞬間に、需給調整室に回してしまう。相談者は「派遣の求人受理は?」と聞いたのに、安定課に案内しないで需給室に誘導してしまうということですね。

E:(労働局への集中化以前に)所でやっていた時には身近に指導官がいて、局にはわからないことが聞けて、それはそこで聞いた者の勉強になる。今の安定所では直接担当じゃないし日常的に相談できないから、局へ連絡した人だって相当な覚悟をして「こんなこと聞いていいのかな」と思って連絡してきたとも思います。聞いてくるならまだいいけど、誰にも聞けずに解決できず、相談者に「局の需給室へ連絡して」で終わっているとしたら、それはまずいですね。

A:そういったこともあって、これだけ社会的注目を集めている派遣労働に関わって職員の心理的な不安を取り除くことを目的に、安定系職員だけでなく基準系職員にも声をかけて職員研修を実施しています。需給調整システムの成り立ちの部分から、よくあるトラブルを紹介しながら、こういった点に気をつけて第一線窓口で対応すれば、「やれたらい回しだ」「やれ縦割りだ」と言われなくて済みますよと伝えています。

B:全国より1年早く集中化をスタートさせた私の局では、職員の中から、「もうどこかでまとめてやってくれ」との声が上がっていました。労働行政が定員削減方向の中、いつもテーマとして上がってきていました。ただ、実際には、安定所の機能の中から指導監督という権限を取ってしまったという側面はあるわけです。そういった認識は、あまり職員の中にはありませんが。

D:指導監督の面からみて思うのですが、おそらく需給調整関係の事業所指導ってかつては派遣元に対してだけやってきたと思うのです。しかし、派遣元、派遣先の力関係は派遣先のほうが強いので、派遣先をきっちり指導していかないとうまく回っていかないのです。特に製造派遣がはじまってからは、派遣先への指導強化の必要性が高まっている。

ところが派遣法自体、派遣元に対しては厳しいことを言うが、派遣先に対してはものすごく甘いです。グッドウィルの行政処分でも、派遣元のグッドウィルにはガンガン言うが、派遣先には単に行政指導で終わらせている。そういった制度上の問題もあります。派遣先への指導は寛容なので、そういった意味では、はたして局に1カ所しか担当窓口がなくて、それで派遣先現場の様子を把握できるか、かなり疑問です。やはり安定所なり監督署なり一線のところでないと管内の事業所の正確な情報は持っていないのです。

司:集中化したことによってすべての届出があるから、派遣元に関しては逆に局で把握できるということですか。

D:そうですが、逆に派遣先のことになるとわからない。星の数ほどあるのです、派遣先は。

司:安定所への求人提出だとか、いろんな雇用対策などで、お付き合いがあるのが派遣先である地元企業ですよね。そういうところへ派遣指導の視点で啓発活動を行う必要があるということですね。

A:キャンペーンには集団指導のメニューもあります。一昨年は5か所しか開催出来なかったのですが、昨年は11か所で行いました。これはハローワーク主導で受け入れ企業向けの集団指導をやろうとの考えから始めたのです。ハローワーク窓口では、局で把握しきれない派遣ユーザーの部分をリアルに見ていて、そこへ集中的に呼び出しをしてやったので、今までよりは手応えのある内容だったのではないかなと思います。

D:経営者側にしてみると、地元のハローワークの所長から「来てね」という手紙がくれば行かざるをえませんが、安定部長名では行こうとも思わないわけです。ハローワークの所長と安定部長とどっちが上位かなんて行政内部の話であって、行政利用者の視線で見れば、普段お付き合いのある所長から言われれば「これは行かなければいかん」となるけど、会ったこともない安定部長や労働局長から紙切れがきても「誰それ、知らない」だけで終わっちゃうのです。だから、行政が身近にあるということは、すごく大事なのだと思います。局へ集中化したということは、どうも指導の意味から言うと残念な気がします。

司:職場体制の問題もあるけど、逆にみれば、そこにうまく所が機能的に関われれば有効ですね。

E:最初のDさんの指摘通り、確かに需給調整業務は、基準行政的な部分が非常に多いと感じます。数局では監督官が常駐していますが、多くの局には監督官が配置されていません。それだけに人事交流による監督官の配置のメリットは大きいと感じます。すべての局に監督官が配置されれば、需給調整業務のあり方も違ってくるのではないかという感じはします。

B:需給調整業務に監督官の配置は、非常に有効です。私の局規模なら常に2人以上は配置して欲しい。複数年で配置され交代で入れ替われば、人的なつながりも確保されていきます。難しいとは思いますが。

D:配置されるポジションの問題もあると思います。私の場合は、ナンバー2という位置づけでした。そのポジションの下には、需給調整指導官がいます。ナンバー2には「背中を押してやる」という役目があります。安定行政職員としては優しい人柄が多く、逆に見れば、なるべく摩擦を避けていきたいというタイプが多いので、「ケンカして来い」と押してやらないといけない部分があるのです。事業所に指導監督へ行くということは、ケンカをしに行くくらいの気概が必要です。ドンとやってこいと、上の人が言ってくれるか、言ってくれないかは、実際に指導監督する職員の心理的負担に違いが出てくると思うのです。監督官が、ナンバー2として入っていることが、一番効果的に発揮できる配置ではないでしょうか。

A:1人監督官が増置されるだけでも、やっている内部の人間からするとすごく嬉しい話です。まずは、継続的に配置されるかが心配です。

司:局へ集中化するだけでなく、ブロックとしての局間連携みたいなものは相当進んでいるようですか。

A:私の局に配置されていた監督官はブロックの労働局間の需給調整業務のキーマンにもなっていました。キャンペーンはブロック実施も指示されています。それがベースになって、双方の情報交換がやれるようになって、その時には監督官の部分で話ができる。しかも基準系の知識もありつつ、安定領域の話も理解している人は少ないのです。双方の視点で舵取りを出来る人がいてくれると、こっちの部分の問題はここでこうやって解決して、ここはこういうふうな形でやったらどう?と進んで行く訳です。さらに、ブロックを超えたところからも、連絡が入ったりしていました。

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◎公務に入り込んでいる派遣

D:役所にも、すごく派遣労働者が入っています。僕が一番驚いたのは、検察庁。あんな個人情報を大量に扱って、しかもがっちりと管理しなければいけないところですら、派遣。あと地元の県庁は、総務関係の事務を集中化したのですが、そうなると年度末と年度始めは無茶苦茶忙しいじゃないですか。だから派遣労働者を150人ぐらい受入れたと言うんです。

司:この間、民間労組から言われるのは、特に自治体の派遣の実態がひどい。自治体事務のなんでもかんでも市場化テストと民間業者委託でやるけど、そこで働いている人たちは、落札した業者がさらに人材派遣から人を呼んできてやっているから、そこの派遣で来ている人たちを酷使しているのは「役人だ」と言われます。

A:変な話、私たちの指導監督の相手は民間企業で一時は製造業中心だったのですが、最近は、官公庁の割合が増えています。給食センターで偽装請負をやっているから取り締まれとある政党の議員団から申し入れが2回もありましたし、××市の水道局で偽装請負をやっていることが新聞報道されたのを見て、別の市が内部調査をやって7件の違法案件があったので自主改善したということもありました。新聞報道された市は、全国のいろんな市町村から、何が問題だったのかという問い合わせが増えて困っていると言っていました。給食センターもそうだし、もともとは旧自治省の管轄にあたるところが、行政体制のスリム化を強力に求められていて、必要以上の定員削減をやっているんです。でも、仕事は無くなる訳ではないので、アウトソーシングしていくしかないのです。

どうやってアウトソーシングするかというと、行政サービスですから責任問題等もあって、職員の指揮命令下でなければ、民間人は行えません。だから、請負はだめ。じゃあ、派遣にするかというと、総務省のカウントでいくと、正規の職員が派遣に置きかわっても、要員数は変わっていないという見方をするらしい。だから派遣もよろしくないとなる。

そうすると法律上は派遣だか、請負だか曖昧な形になって、結局、どっちから見ても違法な形態になる。国(総務省)からそういうふうにしろと県が言われ、県からの指導でうち(市)はやっているのに、なんで国(労働局)から言われなければならないのかと。国の中ですでに矛盾が起きている。

いろんな制度の中で、厚労省内の擦り合わせの問題もあるけれど、他省庁との関係で、どういう労働市場、どういう労働環境を作るんだという話が何もされていないから、やれフィリピンから100人看護師を引っ張ってきて働かせましょうと簡単に言う。あれは派遣じゃないかと思いますが、どういう話の整理でやっているのか、全然わからないです。

司:公務員の定員削減も人材ビジネスのビジネスチャンスの側面があるということですか。

A:知らないからだろうけど、派遣会社の外回りの女性が営業にきました、需給調整室に派遣労働者を使いませんかって。上司から叱られたんじゃないかな、「馬鹿なところに行くんじゃない」って(笑)。

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◎クーリングは直接安定雇用に有効か

A:最近出た新聞ですが、私たちの中では「6月20日付朝日新聞通達」と勝手に名づけている記事があります。いわゆる「2009年問題」、製造業派遣のクーリングの問題です。今、窓口には、派遣労働者を受入れている会社から、なんとか3カ月間をやり過ごす手はないかという問い合わせが非常に多いです。

本省の見解として「法律の中に駄目とは書いていないけど、実態として労協状況が認定できるのであれば、それは指導対象だ」ということを打ち出し、しかも「今後厳しく取り締りたい」と書いてある。その部分が実務のレベルで言うと、本当の意味の通達で出るのか、指導監督を強化するということで出るのか、今度の法改正の中に何らかの形で盛り込むのか、全然見えないですが、何かアクションがあるだろうと期待しています。

「2009年問題」に向け、十分な理論と体制を作っておかないと、クーリング期間、直接雇用化を促すための期間は骨抜きにされるし、ひいては業界団体が主張するように、雇用の努力義務というもの自体が全部撤廃の方向に突き進むのではないかと思います。

D:この話も根っこの部分で派遣労働者の受入れの目的が変質したから起きたことです。派遣労働者の受入れの目的が、労務のアウトソーシングであり、受入れ側企業の雇用責任逃れのためにできているからです。実際、現場では確かにいわれる通りで、ことは火を噴くでしょうね。

B:ある程度いい人材を抱えているところはもう1回、請負に戻りたいというのもある。適正な請負でやっていけるように、いい人材を抱えているところは請負スタイルでできないかをさぐっている。これは労働組合ベースから聞いたことがあって、そういうことを考えているところがあります。

A:請負もオーケーなんですが、地元系列企業の考え方でいうと、どうしても企画とか立案とかタイムスケジュールとかすべてがジャストインになっているので、受託者のイニシアティブでやれるのか、作業完成がめざせるのかというと、注文行為、収納行為がジャストインになっていて厳しいでしょう。最終的にはジャストインとの対決になるけど。

B:1年から3年ぐらい前もこういう問題があったわけです。まず受け入れる会社を2つに分けて、実際は同じ仕事をやっているけど、受け入れる会社間で本人を転籍させちゃう。

A:こんな相談もありました。「甲という会社に派遣労働者を送っていますが、直接雇用の時期を迎えます。なので、うちの労働者は引き揚げてくれと言われています。その後どうも乙という人材会社が、私どもがやっていたところの仕事を請負でやるようです。うちは乙に派遣するのはいいですか」と。

おかしな話です。乙が甲との関係で適正に請負をやるのだったら、なぜ、この会社から派遣を受け入れなければならないのか。なぜ、甲が乙と取引する話が同業他社に漏れたのか。それは、甲が直接雇用にはしたくないが、慣れた労働者がほしいからと仕組んだことなのでないかと、疑問はたくさん出てきます。「そんなことやったら労働者供給事業として問題になってくる。法律どうこうでなく、申告事例になったら火を吹くんじゃないですか」と指摘しておきましたが。

B:実態として人材ビジネスは、いろんな脱法的なことを考えるものだから。

A:申告事案だけではなくて、むしろ派遣会社の問題もあるから、労働者の個人請負化に切り換えている運送会社は多いです。雇用責任も一切負わない、対等な事業主同士の関係だと。建前的には運行系統別に請け負わせているから適正な請負だと言い切るけど、本人の作業実態は社員だった時とまったく変わらない。時間外労働部分も負担してもらえなく、かつ、いきなり前日付けで契約解除だと言われてクビになる。委託契約の解除だから予告もへったくれもないと言われた。「こんなことはおかしいから労働局が動け」と相談されたことがあります。「全国展開のコンビニチェーンF系はみんなそういう運送会社に委託しているから、労働局が一斉摘発しろ」とか。物流系やITエンジニア、製造業でこういった傾向が強いです。

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◎考え方の整理が必要 シルバー人材センター事業

A:本筋と離れますが、うちの系統でいうとシルバー人材センター事業にそれに近い状況がある。民間会社から電話がかかってきて、「シルバー人材センターから請負で1人よこすといったが、これは派遣に入っちゃうんじゃないの、普通に1人だけ製造ラインに入れるのだけど」。なぜ、シルバー人材センターから採るのかと聞いたら、売り込みに来たからだという。なんでシルバーが売り込んで回っているのかといったら、厚労省が、100万人プロジェクトだか知らないが、どんどん高齢者の働く場を増やしましょうと旗振ってやっているらしいのです。すると、今までの高齢法の枠で定められている、本当の短期で正社員領域を脅かすような職域でない、除草作業だとかの仕事だけでは足りないから、新聞チラシとか見て製造業に送り込む。シルバー人材センターは社員でなく会員ですから、シルバーが請け負ったものを個人会員に再請負をさせるというシステムでやっているので、労働者的要素はないものだから、民間とやると価格で絶対に勝ってしまいます。今はネガティブリスト化で派遣会社があらゆる業界へ進出しちゃったから、ほとんど作業領域がオーバーラップしています。

B:それこそ日雇い派遣との領域でオーバーラップですね。

A:シルバー人材センターへの指導も行っていますが、年寄りの仕事を奪うのかと言われました。年寄りだったらなんでもやっていいのか(笑)。

D:シルバーは今言われた通りで、あやしい部分があるんですよ。

A:10何年前のNHKの番組で、脇田滋教授(現龍谷大学教授)が労働関係のコメンテーターとして出演されていましたが、シルバーの作業中にケガした人がいたのだけど、労働者ではないから労災の適用にならなかったという例を紹介し、シルバーの人たちが労働者なのか否か、法的な保護のフォームを作らないと、次から次に泣き寝入りの人ができると述べられていました。あの時から何も変わっていないです。

それなのに国がもっとやれ、もっとやれという。官公庁の仕事もやっている。シルバーは市などのOBが役員に入っているから「仕事があるんだったらうちがどんどんやるぞ」なんて勝手に請け負ってきちゃう。事務職の一人請負なんて違法ですよ。それを指導すると、市がおじいちゃん、おばあちゃんの仕事を作っているのになんの文句があるんだと逆切れです。労働局だけ敵になっています。

E:本来が、臨時・一時的なところを目的としているから。

B:派遣と同じ領域まできちゃっている。

A:完璧に派遣ですよ。日雇い派遣と同じ領域。

司:安定所で65歳以上なら、「シルバーへ行けば」と言っていた時代もあったのでは?

D:シルバーは、原則は労働者ではないけれど、働き方で労働者になる場合もあるという書き方になっていますね。でも、監督署の職員にシルバーと聞くと、労働者ではないというイメージを持っちゃっているところがありますね。

B:今の日雇い派遣と違う部分でいえば、それで全部の生活を支えているとは誰も思っていない。

司:年金をもらっていることが前提なだけで、年金も受けられない人が増えてくると、シルバーだって。

A:元気な高齢者がこれからもっと増えてくるから、草むしりよりも、「経験のある製造業でバリバリやりたい」となったら、需要が増えちゃう。

B:そうなっちゃうと日雇い派遣と同じになっちゃう。

A:臨検にいくと怖いですよ。取引先名簿の中にシルバーはいないだろうなと思っています。「シルバーがあった、でも清掃だけ。ああそれならセーフ」とか(笑)。

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◎指導監督から見える派遣先、派遣会社のモラル

B:技術系の派遣求人で言うと、派遣先がみんな一緒の求人が5社、6社の派遣会社から出てくる。求人倍率だけが「改善」されていく。それに、一時的な要素ではなく、常時雇うべき労働者を派遣でまかなっています。事務系でずっと仕事はあるのに、人を代えて人件費を抑えたいだけの理由で、派遣労働者を使っています。

D:私はやはり派遣労働関係の転換期は平成11年(1999年)だと思います。平成11年以前の派遣と11年以降ネガティブリスト化された派遣事業とは意味が全然違うと思います。

思い起こしてみると平成11年以前の派遣というのは、専門能力が高い人を求める時給も高い高嶺の花だったのではないでしょうか。もともと派遣会社の位置づけは、そういった専門的なスキルを徹底して教育し専門能力のある人を養成して、そういった人材のいないところに提供しましょうというのがはじめのスタンスだった。そういった派遣であれば、ある種の能力の高い人を一つの会社で占有せず、いくつかの会社や業界で効率的に使おう、その分、高い賃金も払おうということは理解できる訳です。だから、必ずしも平成11年以前の派遣は、全て悪だという見方を私はしていないです。

ところが平成11年を境に派遣労働者の受け入れる目的が大きく変わり、労務のアウトソーシングに転換します。本来、自社で働く労働者は自社できちんと養成し責任を持って雇うべきところを、高度な専門性を必要としない業務においてもアウトソーシングするために派遣労働者を受け入れるようになった。使うだけ使って「問題が起きれば知らないよ」というスタンス。大手、一流企業でもそうです。典型的なのは派遣先自身が「社会保険や労働保険に入っている人でないと送り込んでもらっては駄目ですよ」と契約書に書いているにも関わらず、そんなものはチェックなどしたことないという実態があります。結局のところ、「雇用」と「使用」が分断させることになって、職場としての一体感が分断されてバラバラになっている。一体感がないから、社員が、業績が悪くなると「派遣の人を切っちゃえばいい」と簡単に言う。全員が同じ直接雇用の正社員であれば、お互いになんとか守っていこうという話になる。ところが平成11年以降、労働者同士が安易な雇用調整を押し付け合うようになっている。
11年のネガティブリスト化以降に出てきた会社は、本来の派遣会社ではなくて、「人出し、人夫出し会社」です。ただ、人を送り込んでいるだけだから、長期的な技能育成とか職業訓練はまったくしないわけです。また、安全衛生教育もやることにはなっているが、まったくやっていないです。だから、派遣先に問題が起きていても、ネガティブ情報をオープンにしたら派遣先が発注してくれませんから正確な情報は流しません。そういった意味で非常に情報連絡の分断が起きている。特に、現在社会問題化している貧困問題の原因には、こういった会社の影響が小さくありません。

1999年以降、派遣労働は質も大きく変わったし、問題も起きてきたというのが率直な印象です。

司:そう言った派遣業者はリストラ代行業みたいですね。

A:失業者が400万人時代とか言われた時代に、「直接雇用の仕事はないけれど、派遣だったら受け入れてもいい。派遣でも仕事があるだけありがたいと思え、もっとやれる領域を広げなさい」と雇用環境改善のためと錦の御旗を振られて、そうなっちゃった。私どもの地元企業の言葉を借りれば、まさに「人間のカンバン方式」です。

司:雇用のコストを下げるためにですか。

A:というか、すべてがジャストインタイムなのです。生産も雇用も会計も、企業経営全般が。

D:ある意味、まさに多様な働き方を担保する形でスタートしたはずの法律なのに、1999年を境に大きく変わっちゃった。

E:多様な働き方を求める労働者が増えてきたと言われたことがあった。その頃から派遣が自由化になって、そういう言葉を使用者側がうまく活用してこうなってきたというのがありますね。

A:人材派遣協会が行っている労働者のアンケートで、働き始めて7年ぐらいで正社員を希望するとの傾向が出ている。多様な働き方をして、一定期間いろんなスキルを積んだら、その後は安定雇用に移行したいと、労働者側はそのように思っているのです。いろんなチャレンジして、若いうちはお金を最優先、だけど家庭形成期以降については生活を優先とか。経営者側はなんとなくそこをぼやかして、「多様なものはみんな欲しいでしょ」と言っておいて、安定している道を用意しないのです。

D:成果主義も同じ発想でしょう。

E:選択出来た仕事がなくなってきている。職業選択の自由がない。

A:法体系でいうと、そもそも職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業を、労働者派遣法第4条で特例的に認めた。原則禁止が基本で特例として認めていたのに、それを「原則自由」というのですから矛盾です。どっちの目線が中心軸なのか、まったくわからない。

D:派遣会社は単なる雇用コスト削減の目くらましに過ぎない。

A:電話での話ですが、「会社を問い詰めてうちの会社がやっていることは派遣じゃないのかと聞いたら、いや、うちは一般の許可も、特定の届け出も出していない。だから人夫出しをしているんだと言われたけど、そういう理屈ってあるのか」と。ちなみに何の業界ですかと言ったら、「俺は土工だ」と言われた。こりゃ駄目だ。違法です。許可を出していないから人夫出しをしていいんだ、という理屈をよく言えたなと思って。

D:グッドウィル、あそこの会社もひどい会社で、営業所長が可哀相です。学校を出て入社して半年もすれば営業所長です。そこから3年くらいで辞める者が非常に多い。3年間、労働者派遣法の研修を1回も受けたことはありませんと言う。派遣元責任者講習だって、アルバイトなどに行かせて、実質的には全然、派遣元責任者の仕事をしていませんし、労働者派遣法という法律があるのも知らないのではないかというレベルです。うがった見方をすれば、グッドウィルという会社は、ヘタに教育しちゃうと、真面目な奴は法律を守ろうとする。すると商売にならないものだから、あえて教育しないのではないかと。

司:紹介にいた時に対応した例ですが、長い間求職者だった人が採用になったと来ました。それは良かったですねというと、派遣会社なのです。こういうところに入ったので、うちの求人に合う人を紹介して下さいって求職者のリクエストに来たのです。よく採用になりましたねと言ったら、近隣の安定所は求職活動で全部回りましたから所在地がわかっているといったら、すぐ雇ってくれたとのこと。経験など全くない人ですし、法令とか全然知らないです。ただ安定所に行ってこいと言われたから来ただけの人が人材募集している。

A:その昔のクリスタルグループと一緒で、100も200も同じような会社を立ち上げて、会社同士で競わせて、一番上に君臨している人だけが高見の見物を決め込んで、駄目だったらそこを潰せばいいと。みんな訳がわからないまま競争させられているパターンです。

司:グッドウィルはなくなりましたけど、悪質な派遣や請負は減った印象はありますか。

A:まったくありませんね。
今の需給調整窓口には、泥棒が警察に「今から盗もうと思うけど、バレなければいいですか。どこまでなら盗んでも大丈夫ですか」というような相談の電話がしょっちゅうかかってくる(笑)。「バレなければいいんですよね」みたいな。「捕まったらどうなるんですか、どんな罰則ですか」と根掘り葉掘り。「やるんですか」「いや、やったならの話です」と。そもそも、そんなことを行政に確認してからやろうというのが、どうかと思う。

D:その辺を追求したのが例のライブドアであり、村上ファンドであり、グッドウィルです。要するに役所なんか大したことはできやしないと、高をくくっているわけです。

B:使うほうはダメージないから。

D:この10年ぐらいで、事前規制型社会から事後監視型社会に政策が大きく動きましたね。事後監視型社会というのは社会のモラルを下げたような気がします。事後監視というのは、僕ら公務員なら分かるけど、全部なんかできるわけがないじゃないですか。しかも公務員だってリストラをかけられて定員削減をやっている中で、完璧に事後監視なんかできるわけないし、なおかつ、起きちゃった事象を元に戻すのは大変な作業で、結局は「やった者勝ち」が横行しています。その結果、社会全体のモラルの低下を著しく招いたような気がします。

B:事前規制が機能していたから公務員の数は多すぎるという指摘を生んだということでしょうか。

D:逆に事後監視したほうが、よほどコストや人手がいるじゃないかという気もします。

司:だから事後監視の国のアメリカは公務員がいっぱいいますしね。

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◎これからの需給調整業務は?

司:これからの需給調整業務はどうなって行くべきでしょう。

B:法律で派遣先の責任を明確すべきです。本人が申告すると、いったん直接雇用すると言って契約社員にし、契約期間が来たらおしまいというパターンでは労働者を救えません。

E:2009年問題も、派遣業者には大きな問題ですが、派遣先からいえば「お前のところが問題を抱えているのなら、新しい派遣業者に変えるから」という話になっちゃう。

D:直接雇用すると情も移るし雇用調整もしづらいということでこういう格好になったのでしょうが、これが格差社会の拡大を促進してしまった理由の一つだと思います。

A:僕の個人的な意見でいえば、派遣先も許可制で許可を受けてきちんとコンプライアンスがちゃんとできるところでないと「派遣労働者を受入れては駄目」とすべきです。

D:許可制までいかなくとも、せめて届け出ぐらいしてもらわないと。「派遣労働者を、何社から何人受け入れています」という報告を出してもらうべきです。

司:経営側のニーズからこういったことになったのでしょう。しかし、生産現場の責任者からは、労働者が技術を習得することができない、ノウハウが蓄積されないなどの不満があがっていると聞きます。当然、会社に対する愛着や忠誠心は絶対に出てこないから、不良品を出そうが、産地偽造しようが、賞味期限改ざんだって、「俺には関係ない、どうせ半年で終わりだ」となる。そういうリスクも経営は負わなければいけなくなっているのだけど、そこは経営者の感覚から欠落していますね。

E:派遣先への指導強化では経済的なメリットでのアプローチの仕方とか、派遣を使うことのデメリットとか、税法上で制限をかける方法もありますね。派遣を受入れている会社は税金を免除しないというふうにしたら、派遣を入れたら損ですからね。

B:そもそも派遣を受入れているところは、継続的に存在している仕事をアウトソーシングで経費節減し雇い主責任を放棄しているのだから、厳しくしてもいいはずです。

A:派遣会社に対しては是正指導の強化です。悪質なところは処分に慣れてしまっています。「ごめんなさい。いつも通り書いてきますから。回答まで2週間でよかったですよね」と手慣れたものです。何も懲りていません。是正指導を10回以上受けたところは、大手でも厳しくするなどと言われていますが、交通違反と一緒で何点になったら許可取消と明文化して、是正指導を実効あるものにすべきです。

司:派遣元の規制では「不法に得た利益は没収」ということも入れておかないと。

A:例のマージン開示の部分を改正に盛り込むと書いてあったのですが、ちょっと気になったのが、「適正以上の搾取をした場合に違法性がある」という部分。搾取に適正もなにもないと思うけど。適正な搾取なんていう言い方自体が間違っています。

司:派遣先と派遣会社、両方への指導強化のためには法制度が必要になりますが、あわせて体制確保が必要でしょう。

D:大幅な増員が必要なのは当然のこととして、需給調整課・室への監督官配置よりさらに踏み込んで、需給調整指導官を監督署に配置したらいいと思います。定員管理の問題はありますが、監督官と一緒に行動し、一緒に会社の中を見ることは効果的だという感じがします。労働者の立場から見ると、安定行政は就職するまでと退職した後を扱っていて、働いている間は基準行政が扱っています。労働者派遣法だけが例外で、働いている最中のことも安定行政が扱う法律になっている。監督署に需給調整業務の監督指導を移管した方が会社側も指導を受け易いし、指導する方もし易いと思います。

司:需給調整分野が先駆けとして基準、安定の垣根を低くしていければ、その他の業務でも人の顔もつながり労働行政の連携強化が進むと思います。

B:多分、こういう話も人事交流があったので初めてできるのかなという気がします。人的交流も含めてどんどん連携は強化すべきです。

司:本日は貴重なお話をありがとうございました。

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