雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2008年 7月
労働者派遣制度見直しの基本的視点について

与党の「新雇用対策に関するプロジェクトチーム」は7月8日、(1)日雇い派遣を原則禁止とする、(2)派遣先の法律上の災害防止責任が反映されるよう必要な措置をとる、(3)労働者派遣事業に係る情報公開については、マージン率の公開を含め、法律上の義務とし、その徹底を図る、(4)「専ら派遣」については、グループ企業内において労働者派遣事業を行うことについて一定の規制を行う、ことなどを盛り込んだ「労働者派遣制度の見直しに関する提言」をまとめた。

1985年に制定、翌86年に施行された労働者派遣法は、その後、派遣対象業務の拡大・原則自由化、派遣期間の延長・期間制限の撤廃、紹介予定派遣制度の導入など、相次いで見直し=規制緩和が行われてきた。その過程では、派遣労働者保護のための一定の措置も盛り込まれはしたものの、その実効性は極めて脆弱なものにとどめられ、また、「規制改革」と一体で進められてきた労働行政体制の縮小・後退ともあいまって、派遣労働者の雇用不安と権利侵害はきわめて深刻な状況に至った。特に、1999年の派遣対象業務の自由化(ネガティブリスト化)は、今日大きな問題となっている日雇い派遣を容認することとなったし、2003年法改正による物の製造の業務への労働者派遣の解禁(2004年3月施行)は、危険・有害業務への不熟練労働者の従事による労働災害の多発を招くとともに、低賃金化をも加速させている。

ワーキング・プアや「ネットカフェ難民」などが大きな社会問題となっているが、これは決して日雇い派遣労働者に限られたものではない。労働者派遣事業の原則自由化を契機として、ビジネスチャンスの拡大をねらって多くの事業者が労働者派遣市場に参入した結果、派遣業界では過当競争が生じ、コストダウンをめぐる動きも激化し、それが派遣労働者の賃金を大きく押し下げるという事態を招いている。派遣労働ネットワークの調査によれば、政令指定業務(26業務)の派遣労働者の賃金水準(平均時給)は、1994年の1,704円から2006年には1,327円にまで低下している。年間労働時間を2000時間とすると、この12年の間に年間賃金は340万円から265万円にまで押し下げられたことになる。専門的業務とされる業務でもこうした低賃金であるから、それ以外の業務に従事する派遣労働者の賃金水準は推して知るべしである。また、登録型派遣労働者の場合、規制緩和による派遣制限期間の延長と逆行する形で、実際の派遣雇用契約の期間は逆に短縮され、1か月から3か月程度の細切れ雇用契約を反復更新させられるケースが急増している。派遣会社が社会保険や雇用保険の使用者負担を免れるために、こうした細切れ雇用契約を反復していることが多いが、こうしたことも派遣労働者の雇用不安をいっそう深刻なものとしている。

1999年の労働者派遣法「改正」にあたって当時の政府は、ILOが97年総会で採択した第181号条約(民間職業仲介事業所に関する条約)を前面に出し、労働者派遣事業の原則自由化は「国際的な趨勢」であると言い切った。この条約では、労働者派遣事業を民間職業仲介事業の一つと位置づけ、前文で「適切に機能する労働市場において民間職業仲介事業所が果たし得る役割を認識し」と述べている。しかし、同条約ではその直後に「労働者を不当な取扱いから保護することの必要性を想起し」と述べるとともに、第11条では「加盟国は…民間職業仲介事業所に雇用される労働者に対し次の事項について十分な保護が与えられることを確保するための必要な措置をとる」として、(a)結社の自由、(b)団体交渉、(c)最低賃金、(d)労働時間その他の労働条件、(e)法令上の社会保障給付、(f)訓練を受ける機会、(g)職業上の安全及び健康、(h)職業上の災害又は疾病の場合における補償、(i)支払不能の場合における補償及び労働者債権の保護、(j)母性保護及び母性給付並びに父母であることに対する保護及び給付の10項目をあげている。

1999年「改正」後の労働者派遣法の下で、日本の派遣労働者は前記第11条で規定するような保護措置を享受できてきたのであろうか。「否」としか答えようがない。言い換えれば、今日の日本の派遣労働市場は「適切に機能」しない状況にあるのであり、だとすれば、労働者派遣法改正の方向性は、ILO条約が定める原点に立ち戻って検討するのが筋であろう。「日本の労働者派遣法の内容は、ILO条約に抵触するものはない」という主張もあろうが、法の条文が形式的にどうなっているかではなく、派遣労働者が置かれた深刻な状況に対して、労働者派遣法令が適切に対応できるか否か、という機能面から労働者派遣法制のあり方を抜本的に再検討する必要がある。

その点で、これまで規制緩和一辺倒であった労働者派遣制度に関して、与党が見直しの提言をまとめたことは大きな変化である。これを受けて、政府内では、厚生労働省が労働政策審議会の議を経て、秋の臨時国会に労働者派遣法改正案を提出する予定と伝えられている。あわせて、厚生労働省内に設置された「労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が7月末の報告に向けて検討を行っている。法制の見直しが、単に日雇い派遣問題に限定されず、今日の労働者派遣事業が抱える諸問題の解決に向けた第一歩となることを期待するものである。

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成立には至らなかったものの、今年の通常国会には野党各党から労働者派遣法改正案の提出に向けた動きがあり、労働組合からもそれを強く求める活発な取り組みが行われた。国会内でも、数回にわたって労働者派遣法の抜本的な改正を求める集会が開かれたが、そこで確認された内容を大きくまとめると、(1)労働者派遣法の目的に、派遣労働者に対する差別の禁止など労働者保護の必要性を明記すること、(2)直接雇用の原則を明確に打ち出すこと、(3)常用代替防止を明確にすること、(4)派遣労働者の権利の保障(適職保障、職業選択の自由、差別の禁止と均等待遇、派遣労働者の就業に関する条件整備と雇用の安定、その他福祉の増進)を明確にすること、(5)マージン率の公開等であった。政府は、こうした要求を真剣に受け止めて、登録型派遣の抜本的な見直し(禁止または大幅な制限)など、労働者派遣法の抜本的な改正を急ぐべきである。

その際、相次ぐ労働者派遣法の見直しによって、派遣会社(派遣元)と派遣労働者を使用する企業(派遣先)の関係は圧倒的に後者が優位に立つことになったことに留意する必要がある。悪質な派遣法違反である二重派遣や偽装請負は、派遣先企業が介在しなければ起こりえないことである。ところが、日本の労働者派遣法は派遣先企業を顧客(ユーザー)として位置づけ、業務の指揮命令に付随する労働基準法・労働安全衛生法上の義務の一部を除けば派遣先企業の責任を基本的に問わない法体系となっている。また、労働者派遣法によって労働者派遣事業を営むものは、労働基準法第6条(中間搾取)や職業安定法第44条(労働者供給事業)を適用しないこととされている。しかし、今日のように公然と違法行為が行われ、脱法行為が横行するという中では、労働者の権利保障のために労基法、職安法の条文を厳格に適用するという原則に立った規制を真剣に検討すべきである。

また、労働者派遣法の適用による規制を免れることを意図して横行する「業務請負」についても、その実態は限りなく労働者派遣に近いことから、「業務請負」に関する適切な法規制を行うべきである。

労働者派遣法第48条(指導、助言及び勧告)では、派遣元事業所および派遣先事業所の法違反に対し、行政処分または司法上の処分を行う前に指導・助言を行うことになっている。このため、行政機関(都道府県労働局)が労働者派遣に関して悪質な法違反を確認しても、直ちに改善命令や告発を行うこととはされず、まずは指導票や是正指導書の交付という手続きを経て、それでも事業主が指導に応じない場合にようやく是正勧告、行政処分、司法処分を行うという手順になっている。このため、指導期間中は違法行為を続けたり、看板を掛け替えて実質的に派遣事業を継続するなどの悪質な行為が後を絶たず、この間、労働者は被害を受け続けるというケースは枚挙に遑(いとま)がないほどである。こうした問題を根本的に解決するためには、派遣法第48条の規定の削除を含めた見直しが必要である。

それは同時に、労働行政職員に対して労働者派遣事業に対する強力な監督指導権限を付与することを必要とする。全労働は、2001年11月にまとめた「今、求められる雇用対策の提言」において、労働者派遣事業に対する監督指導の強化に関して、「都道府県労働局における職業安定行政、労働基準行政、雇用均等行政の連携を強化するとともに、都道府県労働局に司法警察権を持った派遣事業監督官(仮称)などを配置し、罰則の適用を含む機敏で実効ある対応の強化が求められます」と指摘している。派遣法違反を放置せず、派遣労働者に対する権利侵害を迅速に解決するために、政府はこうした指摘を真剣に受けとめて必要な措置を講ずるべきである。あわせて、都道府県労働局の労働力需給調整機能の強化(権限の拡充や職員の増員等)および、公共職業安定所において派遣労働者からの相談を迅速かつ効果的に処理するための体制整備も行うべきである。

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なお、規制改革会議は7月2日に「中間とりまとめ―年末答申に向けての問題提起―」を公表したが、この中で労働者派遣法に関して「派遣受入期間の制限、雇用申込義務、派遣業種の制限や紹介予定派遣の派遣可能期間の制限等について再検討していくべきである」と述べている。これは、昨年5月の労働タスクフォース提言および12月の「第2次答申」における主張をトレースしたものであるが、政府が労働者派遣事業にまつわる問題への対応にこれまでにない決意で臨もうという時期に、政府内に設置された機関が時代錯誤とも言える主張を繰り返していることに対し、政府として毅然として対応すべきである。