雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2002年12月
「民間労働力需給制度部会報告」の問題点について(声明)

労働政策審議会・職業安定分科会・民間労働力需給制度部会は、12月26日、次期通常国会に関係法の「改正」案を上程することを前提に、その原案となる「報告書」(以下、「報告書」)を明らかにした。
「報告書」は、職業紹介事業に係る求職者からの手数料徴収の拡大、派遣制限期間の緩和、「物の製造」の業務への派遣の解禁等、より一層労働力供給事業を自由化し、そこにプールした(登録した)労働力(労働者)を求めに応じていち早く供給していくシステムを整備するための規制緩和が目白押しに取り上げられている。こうした規制緩和が行われると、不安定雇用・低賃金労働者が急速に増大する等の多くの問題点を含んでいる。

とりわけ以下の点については看過できない重大な問題を持っており、「報告書」に基づく法案要綱の作成に反対である。
全労働省労働組合は、厳しい雇用失業情勢の下で、短期・不安定雇用を拡大する規制緩和に反対し、雇用の質の向上・量の増大を図る雇用対策を要求し、労働者とともにたたかう決意を表明する。

ポイント

1、求職者からの手数料徴収を拡大すると、基本的人権を制限しかねない。
2、派遣期間の延長(a26業務以外(1年→3年)、b26業務(3年→無制限))は、低 賃金・不安定労働者を拡大する。
3、「物の製造」の業務への労働者派遣の解禁は、常用労働者から派遣労働者への 代替を加速させる。
4、事前面接の解禁等は、労働者派遣の仕組みを根底から覆し、「労働者供給事業」 とかわるところがなく、労働者派遣制度の崩壊と言わざるを得ない。

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第1章 職業安定法について

【報告書】

(a) 求職者からの手数料徴収について、年収要件(現行は年収1,200万円)を引き下げるとともに、手数料徴収が可能な経営管理者・科学技術者の範囲を拡大する。

求職者からの手数料徴収については、職業安定法第32条の3第2項で「有料職業紹介事業者は…求職者からは手数料を徴収してはならない」と定めている。「報告書」は、「手数料を求職者から徴収することが当該求職者のために必要であると認められるときとして厚生労働省令で定めるときは」と例外を認めている(これは、わが国が1999年7月に批准したILO181号条約も同様の規定となっている)ことを利用して求職者からの手数料徴収を拡大しようとしている。この例外については、これまで職業安定法施行規則(厚生労働省令)第20条で例外を芸能家又はモデルに限定していたが、2002年2月16日に科学技術者又は経営管理者について1200万円を超える年収要件が付されて拡大される「改正」が行われた経過がある。

そもそもこのように原則的に禁止をし、例外として認めている事項について拡大した場合は、施行後一定期間経過した後に実態を把握し、原則禁止している趣旨に照らし問題ないか検証を行うべきであるが、前回の「改正」から1年も経過しないうちに年収要件を引き下げるとともに範囲も拡大するのはあまりにも拙速と言わねばならない。さらに問題なのは、こうした重大な「改正」が、省令であるため国会審議を経ることなく行われることである。こうした手法で「改正」が行われるのであれば、早晩、原則禁止が形骸化するおそれがある。例外を認める要件とされている「手数料を求職者から徴収することが当該求職者のために必要であると認められるとき」について、厚生労働省令は、現在、職種しか明示していない。「求職者のために必要であると認められるとき」と限定している具体的な要件を明らかにし、法令厳守で原則禁止を貫くべきである。

求職者の多くは失業者であり、生活の糧(賃金)を得るために一日も早く職に就かなければならない。まして労働組合の支援とも無縁な多くの失業者は、採否を決定する権限を持つ求人者の前でもっとも弱い立場に置かれている。こうした力関係の下で求職者からの手数料徴収が拡大されると、求職者はそれを拒否できないばかりか、雇用失業情勢が悪化するほど市場原理に基づいて手数料は引き上げられることになる。
また、費用負担の可能な労働者とそれが困難な労働者との間に格差・不平等を生じさせることがあってはならない。職業安定法第3条は職業紹介、職業指導等について均等な待遇を定めている。これは、憲法第14条第1項の法の下の平等と趣旨を同じくし、個人はすべて人間として平等の価値を持ち、基本的人権が保障されるという精神を職業紹介、職業指導等について規定したものである。経済的な理由で基本的人権が制限されることがあってはならない。

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【報告書】

(b) 募集・採用において事業主が不合理な理由による年齢制限を行わないよう、改正雇用対策法に基づく「指針」に基づき指導を徹底する。

近い将来、労働力人口の約4人に1人が55歳以上になる超高齢化社会の到来が見込まれている。労働力人口の構成が大きく変化する中で、募集・採用での年齢制限を課すことは、中高年齢者に対して就職活動の「入り口」を閉ざすもので、募集・採用における年齢制限の禁止にむけて実効ある施策を講じることは理解できる。
他方、賃金決定における生計費の重要性に照らすならば、賃金決定の要素に年齢が考慮されていることはむしろ望ましく、否定することはできない。すなわち、わが国では各種社会保障制度の不十分さから、中高年齢者に対する教育費、医療費などの負担が重く、賃金決定の要素に年齢を加味することが実情に即しているのである。
とすれば、募集・採用における年齢制限をなくす前提として、中高年齢者の生計費を軽減する、換言すれば、年齢による生計費負担の平準化をはかるために、各種社会保障制度の拡充をすすめるなど、あらためて総合的な対策を確立する必要がある。
単に、「指針」に基づく指導を徹底すると言うだけでは、中高年齢者が必要とする賃金水準を満たす「求人」がないというミスマッチが際だつだけであり、中高年齢者の就職促進にはつながらない。

厚生労働省は、7月18日にわが国経済の集中調整期間あたる今後23年に重点的に展開する雇用政策のあり方等について検討をとりまとめた「雇用政策の課題と当面の展開」(雇用政策研究会報告)、(以下、「研究会報告」)を発表した。研究会報告によると今後5年間で労働移動は年平均379万人を見込んでおり、うち産業間移動を201万人としている。産業間移動は中高年齢者にとって肉体的・精神的にもハードルは高く、単に事業主に対して年齢制限緩和の指導を強化すればいいと言うものではなく、こうした産業間移動を余儀なくされる中高年齢労働者に対する職業訓練の充実など必要な施策が求められる。

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第2章 労働者派遣法について

1 派遣期間の延長・制限廃止について【報告書】

(a) 派遣期間(いわゆる26業務以外)の制限について、一律1年とすることを見直し、3年までの期間で臨時的・一時的と判断できる期間について派遣を認めることとする。この場合の判断は派遣先事業主が行うこととし、その際、当該事業所の労働者の過半数代表の意見を聞くこととする。
(b) いわゆる26業務の派遣期間の制限について、廃止することとする。
(c) 月初や土日のみの業務に対する労働者派遣については、派遣期間の制限を対象外とする。
(d) いわゆる26業務と他の付随業務の「複合業務」について、付随業務の 割合が低い場合には派遣期間の制限を対象外とする

労働者派遣法の趣旨とはうらはらに常用雇用労働者から派遣労働者への代替がすすむのは、労働者派遣の期間制限(原則1年3年)を設けてはいるが、真に臨時的・一時的業務に限定せず、恒常的な業務への派遣自体を禁止していないことや、派遣期間を超える労働者派遣に対する規制の不備に加えて、実効ある監督指導をなし得ていないからである。その結果、恒常的な同一業務への派遣が、契約更新を繰り返しながら継続し、当該業務に長期間にわたって従事している派遣労働者が少なくない。

このように、恒常的な業務であるにも関わらず、派遣先事業所が常用雇用労働者の雇い入れを嫌い、派遣労働者の受け入れを続けるのは、単なる法令の不知だけでなく、a雇用の調整弁(使い捨ての労働力の確保)、b人件費の削減(安価な労働力の確保)、c使用者責任の放棄など、派遣労働者を受け入れることで得られる「メリット」を最大限に享受したいからにほかならない。これを派遣元事業所の側から見れば、この間の参入規制の緩和で過当競争が進む中、顧客(ユーザー)である派遣先を確保するためにも脱法的な労働者派遣を続けざるを得ないのである。
こうした「規制の欠如」と「過当な競争」が、低賃金、不安定雇用、そして数々の権利侵害など「何でもあり」の派遣労働市場をつくり出しているのである。ところが、「報告書」はこうした事態を適切に規制するどころか、問題の多い実態を追認することにほかならない。

具体的には、「報告書」は、いわゆる26業務以外の業務について、派遣先の判断で派遣期間を3年まで延長できるとしているが、前述の「メリット」ゆえに、現状でも恒常的業務に派遣労働者を受け入れ続けている派遣先が「当該業務が臨時的・一時的であるか否か」を正しく判断することなど全く期待できない。また、派遣先事業所の労働者の過半数代表の意見を聞くとされているが、意見を聞けばよいのであって過半数代表の意見と全く異なる判断も許されるのであるから、この手続きをもって判断の「正しさ」を裏付けることには全くならない。
また、いわゆる26業務については、派遣期間の制限を撤廃するとしているが、これは労働者派遣法制定当時の「派遣労働者の市場を一般労働者の市場と融合させず高待遇の市場として形成する」としたねらいを完全に放棄することを意味している(事実、26業務への派遣労働者の賃金は低下し続けており、また、専門性の疑わしい業務への派遣も横行しているのである)。とするならば逆に、派遣労働を明確に「臨時・一時的労働」と位置づけ、派遣期間の拡大などすべきでなく、26業務以外の業務と同様の派遣期間の制限を課すべきである。
派遣制限期間の延長や制限の廃止は、派遣労働者の雇用の安定をもたらすものでもない。現状は、派遣の制限期間とは無関係に個別の派遣契約期間が短期化しており、さらに派遣事業の原則自由化・派遣元事業所の乱立で派遣契約が競争入札にかけられ、入札価格の低下・派遣労働者の労働条件の低下となっている。こうした規制緩和が、派遣労働者の雇用・労働条件を確保するものでないことは、派遣労働の現状から明らかである。

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2 直接雇用の促進について【報告書】

(a) 派遣期間の制限に違反する場合、派遣元事業主は派遣先事業主及び派遣労働者に派遣停止を通知することとし、通知を受けたにもかかわらず 当該派遣労働者を就労させる派遣先事業主は当該派遣労働者に雇用契約の締結を申し入れなければならないとする。
(b) ・ 3年を超えて同一業務に同一派遣労働者を受け入れようとする派遣先が、当該業務と同じ業務に労働者を雇い入れようとするときは、当該派遣労働者に雇用契約の締結を申し入れなければならないとする。

「報告書」は、前記(a)及び(b)の措置を講じることによって、派遣先への直接雇用を促進すると言うが、・派遣元事業所が顧客(ユーザー)である派遣先事業所に対して弱い立場にあることから、派遣元事業所が自ら事業活動の停止となる派遣停止を派遣先事業所に通知できないこと、・直接雇用には、同一業務、同一派遣労働者、当該業務と同じ業務に労働者を雇い入れようとするとき、など幾重にも要件が設定されており、同様の規定である派遣法第40条の3(派遣労働者の雇用)による派遣先への直接雇用がこの3年間促進されていないことへの検証がないこと、(c)本来事業主には雇い入れの自由が認められており、こうした規定が派遣先事業所に対する優先雇用の努力義務でしかないこと等からも、派遣労働者の派遣先への直接雇用の促進につながるのかはなはだ疑問である。

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3 派遣対象業務の拡大について【報告書】

「物の製造」の業務を適用対象業務とするともに、一定期間、派遣期間を1年に制限する。

前回の法「改正」は、あくまでも常用代替については厳格にこれを禁止し、そのおそれが少ない臨時的、一時的な労働力需要に限って派遣労働の原則自由化を図るという趣旨で行われた。このため「物の製造」の業務への派遣をめぐっては、「いわゆる偽装請負といわれるものがまだ存在するのではないか」「製造の現場に拡大することについて常用代替が進むのではないか」との懸念から、附則で当分の間禁止をされた経過がある。
前回の法「改正」からこの間、製造業における業務請負が増大しているのは、公共職業安定所で受理する求人に業務請負業からのものが急増していることから実感できる。また、今回の見直し検討に先立ち実施された労働者派遣事業に関する総合的実態調査の派遣先事業所調査では、事業所の業種で最も多いのが「製造業22.0%(これが「物の製造」の業務への派遣とは限らないが)」で、「物の製造」の業務が派遣の対象業務となることで、現在の違法派遣・業務請負の形態が「派遣」に置き換えられるばかりではなく、使い勝手の良い派遣労働者があらゆる職場に配置され、常用代替が一気に加速するのではないかと懸念される。一定期間、派遣を1年と期間制限しているが、これもこれまでの派遣法の規制緩和の流れから推察すると、早晩、これまで臨時的、一時的業務とされてきた派遣と期間を揃え、やがては期間制限を撤廃する意図であることが容易に想像できる。

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4 紹介予定派遣・派遣労働者の特定について【報告書】

(a) 紹介予定派遣について、差別禁止等について指針等で措置を講じながら、
派遣開始前の面接、履歴書の送付等を可能にする。
派遣就業期間中の求人条件明示を可能とする。
派遣就業期間中の求人・求職の意思等の確認及び採用内定を可能とする。
(b) 紹介予定派遣以外の派遣について、
派遣就業期間中の求人条件明示を可能とする。
派遣就業期間中の求人・求職の意思等の確認及び採用内定を可能とする。
また、労働者の判断で行う、派遣就業開始前及び派遣就業期間中の事業所訪問、履歴書送付は可能であることを明らかにする。

2001年12月から、派遣元が派遣開始から1年後に派遣先への「職業紹介」を予定する紹介予定派遣(ジョブサーチ型派遣)が認められている。こうした紹介予定派遣の「運用緩和」は派遣元、派遣先それぞれに大きな「メリット」がある。
派遣元は、常用雇用を希望する労働者(新卒者を含む)に対してもその期待を抱かせることで、低賃金で派遣労働者としての雇い入れを甘受させることができ、実際に派遣先への採用にむすびつくならば「派遣」に続いて「職業紹介」でも利益を上げることが可能になる。
派遣先は、一切のリスク(雇用義務)なしに労働者を試用することができ、派遣労働者に対して「採用の可能性」を匂わせることで、より過重な労働を受け入れさせることがでる。
他方、現行法は、派遣先に対して派遣労働者を雇い入れるよう努力義務を課しており(法40条の3)、また派遣元に対しては、雇用関係終了後に派遣労働者と派遣先が雇用契約を締結することを制限してはならないことを定めているのであって(33条)、元来、派遣労働者が派遣先へ雇い入れられること(常用化)が望ましいとの立場に立っている。そうである以上、前述した紹介予定派遣の種々のメリットの裏側にある、派遣労働者のデメリットが十分に考慮されなければならない。
すなわち、紹介予定派遣によって、派遣先が一切の雇用義務を負わずに労働者を試用できることになれば、いわゆる試用期間の法理(期間経過後の解約権の制約)等をなし崩しにしてしまうことになる。もっとも、こうした「効果」は派遣労働者と派遣元との間で締結された「有期雇用契約」に内在する問題点ではあるが、労働者にとってみれば紹介予定派遣は、派遣元による職業「紹介予定」で常用雇用への期待をもたされるものの常用雇用を約したものでないだけに問題は深刻といえる。
派遣先事業所が、事前面接等により派遣労働者の特定を図り当該労働者の派遣を承認する行為は、派遣先事業所の募集・採用行為と見なされ、雇用関係が成立したものと推定される。こうした紹介予定派遣は「労働者供給事業」とかわるところがなく、労働者派遣制度の崩壊・労働者供給事業の自由化と言わなければならない。

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