雇用対策・雇用法制 −労働者派遣、職業紹介、若年者・中高年雇用対策など

2002年12月
「雇用保険部会報告書」の問題点について(見解)

労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会(以下、「雇用保険部会」という)は12月18日、雇用保険制度の見直しについてこれまでの議論をとりまとめた「報告書」を確認した。
今回の見直しは、雇用保険財政の悪化を直接の動機にしているが、制度見直しに先行して施行された「失業認定の厳格化」や「法第32条の給付制限制度の強化」等と相まって、就職「促進」を口実に雇用保険受給者を低賃金・不安定雇用への再就職に誘導していく側面を強く持つ等、多くの問題点を含んでいる。
今後は、報告書に基づいた法案要綱の審議会への諮問を経て、次期通常国会に雇用保険法等の「改正」法案が上程される予定である。全労働は、雇用保険制度が、失業者が増大し失業期間が長期化している時だからこそ離職時に必要な給付を行うことによって、受給資格者が安んじて求職活動に専念できる制度を維持するよう求めるものであり、雇用保険制度本来の趣旨を大きく歪める恐れのある「報告書」に基づく法案作成に反対することを表明する。

1 給付水準の見直し

報告書は、「基本手当については、高賃金・高給付層の中に基本手当日額が再就職時賃金を上回る者が多く見られること等を踏まえ、再就職時賃金に比して基本手当日額が高い層の給付水準を調整するため、現行の給付率60%を50%(60〜64歳は50%を45%)に改めることが適当である」としている。

現行の雇用保険制度では、基本手当の日額は離職前6月の平均賃金の68割(上限有り)が受給できる。これは、雇用保険の重要な目的の一つに、失業した場合に「労働者の生活の安定を図る」(雇用保険法第一条)ことが位置づけられており、この「生活の安定を図る」とは、失業者の離職前の生活状態をある程度まで保障することをいい、失業給付の額は、労働者の離職前の賃金を基準として定められることになっている。
これは、失業給付が失業者の最低生活の保障とともに、その労働力の維持、保全を図ることを目的としており、労働者個人の所得能力、すなわち、労働者の労働力の価値=賃金を基準とすることが妥当であるとの判断によるものである(改訂版「雇用保険法」)。こうした考え方を薄め、基本手当の給付水準に再就職時賃金の実勢を持ち込むことは、これまでの雇用保険の基本的な性格を歪めるものである。
労働者は、失業しても就業時の賃金をベースに負担してきた高い社会保険料や教育費、家賃(住宅ローン・不動産税)等の定額的な支出を継続して負担しており、少しでも離職時の賃金額をはじめとした労働条件で就職しようと支給終了ぎりぎりまで求職活動を続けているのが実態である。単に「基本手当日額が高いから再就職の意欲が低い」「支給終了後一か月に再就職時期が集中している」とする意見は、このような失業者の生活と求職活動の実態から目をそらしている。
リストラを国が「支援」し、賃下げが強行される雇用失業情勢の下で、基本手当日額と再就職時賃金との逆転が生じているからと、「円滑な再就職」を進めるために給付率や上限額の見直しをするのは、失業時の労働者の生活の安定を図るとした目的を放棄し、労働力を売り急がせることで雇用保険受給資格者を低賃金・不安定雇用労働者として労働市場へ誘導することになるのではないかと懸念される。

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2 所定給付日数の見直し

報告書は、「短時間労働被保険者とそれ以外の被保険者との給付内容(所定給付日数、下限額)については、雇用就業形態の多様化が進展していること等を踏まえ、一本化する必要がある」として、特定受給資格者については短時間労働被保険者以外の被保険者に合わせ、非特定受給資格者については短時間労働被保険者に合わせられ(就職困難者は短時間労働被保険者以外の被保険者に合わせる)、下限額は短時間労働被保険者に合わせるとしている。

非特定受給資格者(就職困難者を除く)の所定給付日数が短縮される。完全失業率が5.5%、完全失業者362万人の現状(10月)の下で失業期間が長期化している。平均有効求人倍率が0.56倍(10月)、年齢や職種によってはさらに求人倍率は下がり、求職活動は困難を極め、求職活動期間が長期化している。
雇用保険部会では、支給終了後一か月以内に就職している割合が高いとする資料が提出され議論されているが、こうした人たちは、雇用保険の受給が終了し無収入となることで、希望する労働条件より低い求人にやむなく就職しているのが実態であり、この時期に所定給付日数を短縮する見直しは、こうした実態に目を向けない乱暴な見直しだと言わざるを得ない。

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3 就業促進手当(仮称)の創設

報告書は、「多様な方法による早期再就職の実現のため、現行の再就職と後の支給対象(=1年を超える雇用等)とならない就業形態で働いた期間(支給残日数が3分の1以上ある期間に就業を開始した場合に限る)について、基本手当日額の一定割合を支給し、その就業日は基本手当の支給を受けたものとみなす仕組みを設ける必要がある」としている。

1年未満の短期の就職者に対して賃金に上乗せする形で手当が支給される。この手当の創設は、これまで1年以上の雇用への再就職促進を目指していた施策を、1年未満の雇用への就職も促進するものに転換することを意味する。
国際競争力の強化を口実に、人件費の徹底した削減が行われる中で雇用が短期化している。こうした経営側の雇用・労務管理の戦略に合わせるかのように、すでに雇用対策法の基本理念(第三条)や雇用政策研究会報告(2002年7月)は、短期雇用を前提に再就職支援の強化を行政の基本理念にしてきた。
安定所の受理する求人の5.5%が臨時・季節(4か月未満の雇用)、33.1%がパートの実態(2001年度、学卒・日雇いを除く)からすると、この手当の創設はそうした有期(短期)の不安定雇用への就労を促進するものとなる。
雇用の安定は国民生活の安定でもある。短期雇用の拡大は、近い将来の失業(収入の途絶)を予定しており国民生活を不安定にさせ、国民経済を中長期に安定し発展させることにはならない。行政として、長期雇用を基本にすえた基本理念を堅持すべきである。

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4 制度「見直し」に先行して発出された運用通達の問題点

こうした雇用保険制度の見直しに先行し、10月1日から掛金率の弾力条項を発動し掛金率が千分の二引き上げられことにともない、9月20日から雇用保険制度の運用を変更する通達が発出され、・失業認定の厳格化、・法第32条の給付制限の的確な運用等が指示された。

(a)失業認定の厳格化

失業とは、労働の意思及び能力を有するにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあることをいい、これまで失業認定申告書による本人の申告で失業の状態にあることが認定され、基本手当が支給されてきたが、通達では、認定対象期間(前回の失業認定日から次の失業認定日の前日までの期間)に、求職活動を行った実績が二回以上あることを確認できた場合に失業の認定を行うと改められた。
有効求人倍率は、職種や年齢によって大きな開きがある。失業し再就職先を探す時、どのような方法で求職活動をするかは決して一様ではない。本人の経験、希望職種や年齢によっては、安定所に求人がなく、また、有料職業紹介所等の求職登録には年齢や職種の制限のため登録できず、以前の同僚や親類・知人に再就職先の紹介を頼らざるを得ないケースもある。そのためこれまでは、「安定所利用」「知人に紹介を依頼」や「新聞広告等」、さらには「その他」まで多様な自主的・自発的求職活動を認め、労働の意思及び能力を確認していた。それを職業紹介機関等での相談や応募の「実績」が二回以上確認できた場合に限定することになれば、認定対象期間に通達のいう二回の求職活動の「実績」がつくれなかった受給資格者のその期間の失業を不認定、つまり基本手当が払われないことになる。
面接のアポイントメントを取ろうとして電話で年齢を言ったとたんに断られる高齢者等は、有効求人倍率がとりわけ低い中で求職活動に苦労しており、こうした求職活動の「実績」をつくれない。失業認定の厳格化は、最も援助の必要なこうした人たちを、雇用保険制度の給付の対象から締め出すことにつながる恐れがある。

(b)法第32条の給付制限の一層的確な運用

法32条の給付制限は、就職意欲を喚起し、早期再就職促進を効果的に達成するとして設けられている。通達は、「その実効性を一層確保するため」として「安定所の職業紹介、訓練受講指示、職業指導を拒んだものと解して給付制限を行う場合を明確化すること等により、その的確な運用を図る」としている。
「安定所の紹介する職業に就くことを拒んだことに含まれる場合」として「安定所に紹介された先の事業主のもとにおいて面接した際に採用を拒否する場合及び面接の結果採用になった後において就職することを拒否する場合」等が明記されている。
通達に明記されたことにより、面接後に採用や就職を拒否する場合は、身体的な能力、知的・精神的能力、知識及び技能が不適当等業務取扱要領に示されている「正当な理由」がある場合以外は1か月を超えない範囲内の給付制限が行われることになる。面接は、求職者にとってもどのような事業所・事業主であるのか確認する機会でもある。面接を受ければ要領に示された以外の理由で採用や就職を拒むことができないとなれば、職業選択の自由に抵触しないのか懸念される。
また、この正当な理由として法第32条第1項第3号の「一般の賃金と比べて不当に低い場合」の認定基準とされている「就職先の賃金が、その地域の同種の産業の同職種の職業に同程度の年齢の者が就いた場合に受ける平均的な賃金のおおむね100分の100よりも低い場合」の100分の100を100分の80に変更された。地場賃金より安い求人に紹介されても100分の80までなら拒否すれば給付制限処分がおこなわれることとなった。これでは国の職業紹介機関が低賃金労働を拡大していくことになり、賃金水準をより引き下げる役割を担うこととなる。行政姿勢として大いに疑問の残るところである。

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