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若者の「使い捨て」が疑われる企業(ブラック企業)に対する労働行政の取組みと課題

本稿は、『労働法律旬報』bP841(2015年6月上旬号)に掲載されたものを、発行元(旬報社)の了解を得て転載したものです。

全労働省労働組合中央執行委員長 森崎 巌

「過重労働や賃金不払残業など若者の『使い捨て』が疑われる企業について、相談体制、情報発信、監督指導等の対応策を強化する」日本再興戦略(閣議決定2013年6月14日)に盛り込まれた文言である。
 これを受けたかたちで同年8月8日、田村憲久厚生労働大臣(当時)は定例会見のなかで「若者の『使い捨て』が疑われる企業が、社会において今大きな問題となっている」「問題を野放しにしておいたのでは、再興戦略どころか、日本の国の将来はない」等の決意を示したうえで、こうした企業への取組みを強化することを明らかにした。
 翌年の日本再興戦略・改訂(閣議決定2014年6月24日)にも、求人条件や若者の採用・定着状況等の雇用情報の適切な表示、優良な中小企業の情報発信・採用の促進等の具体的な課題を掲げたうえで、「法的整備が必要なものについては、次期通常国会への法案提出を目指す」との文言が盛り込まれた。そして、労働政策審議会(職業安定分科会雇用対策基本問題部会)の議論・建議を経て、「青少年の雇用の促進等に関する法律案」(以下、若者雇用促進法案)の策定・上程へと結び付いていく。
 前者は、主に適正な労働条件の確保(法令遵守等)に関する対策であり、後者は求人情報の適正化等、若者の就職活動等に関する対策と言える。以下、それぞれに概要と課題を整理してみたい。なお、執筆時点で若者雇用促進法案は参院可決(2015年4月17日)、衆院審議中である。

一 若者の「使い捨て」が疑われる企業等への取組み

1 取組みの概要

 2013年度から以下の三点を柱とした取組みが進められている。

(1)集中的な監督指導

 各種情報から若者の「使い捨て」が疑われる企業(以下、若者使い捨て企業)および過労死等事案を起こした企業等に対し、「過重労働重点監督月間」(2013年9月)や「過重労働解消キャンペーン」(2014年11月)を設定し、労働基準監督官による集中的な監督指導(臨検監督)を実施している。

(2)相談体制の整備

 2013年度以降、特定日(休日)を定め、全国8ブロックで若者使い捨て企業等に関する「電話相談」を実施している。特定日以外も、都道府県労働局や労働基準監督署等にある「総合労働相談コーナー」「新卒応援ハローワーク」等で相談を受け付けるほか、2014年9月から、平日夜間(午後5時〜10時)・土日(午前10時〜午後5時)の相談窓口として「労働条件相談ほっとライン」を開設している。

(3)パワハラの予防・解決の推進

 パワーハラスメントによって若者を使い捨てにすることのないよう、労使をはじめ関係者に周知・啓発活動(セミナー開催、リーフレット・事例集作成等)を実施している。

2 取組みの実績

 取組みの中心は前記1(1)であり、その実績(2013年9月実施分)は次のとおりである(2014年11月実施分の実績も同傾向)<下記・注1参照>。
(ア)重点監督の実施事業場:5,111事業場
(イ)違反事業場率:4,189事業場(82.0%)
(ウ)労働基準関係法令違反の状況:主な違反は「違法な時間外労働」(43.8%)、「賃金不払残業」(23.9%)等
(エ)健康障害防止等に関する指導状況:主な指摘は「過重労働による健康障害防止措置が不十分」(23.6%)、「労働時間の把握方法が不適正」(21.9%)等
(オ)重点監督で把握した実態:1ヵ月の時間外・休日労働時間が最長の者の状況は「80時間超」が1,230事業場(24.1%)、うち「100時間超」が730事業場(14.3%)

3 取組みから浮かびあがる課題等

 労働基準監督官の臨検監督を中心とした対策の実績はとくに高い違反率(通常は65〜70%)を示しており、対策事業場の選定を含めて適切かつ有効な取組みであったと言える。加えて、取組みの結果を公表し、行政の姿勢(今後も積極的に情報を把握し監督対象に加えるなど)を明らかにしたことも評価できる。
 他方、若者使い捨て企業(ブラック企業)の実態を見るとき、高率の法令違反はその特徴の一つではあるが、それに加えて、現行法令の抜け道や未整備な部分を知悉し、それを悪用する労務管理をあげることができる。具体的には、過重労働を想定した固定残業代、過度なノルマ・目標の設定、過酷な成果・選別主義、洗脳まがいの新入社員研修、自主退職(内定辞退)の強要、損害賠償請求を示唆して退職を許さないなど、必ずしも労働基準関係法令違反を構成しないが、深
刻な権利侵害をともなった不適切な労務管理が野放しとなっている。
 労働基準関係法令違反の是正に向けた監督指導は重要であるが、取組みを「法令違反の是正指導」に矮小化せず、若者使い捨て企業の多様な手口の解明を進め、それらを封じる新たな政策的アプローチが急務である。こうした観点から、労働行政が向き合うべき当面の課題を提起したい。

(1)新たな法整備と指針等の策定

 若者使い捨て企業の不適切な行為を抑止するため、新たな法制(労基法、労契法等の改正)を整備することが望ましいが、当面、有識者会議等の場で判例等を考慮した指針(物損等における労使の危険負担のあり方、労働者発意の退職をめぐる望ましい対応等)を取りまとめ、労働行政機関による指導・啓発を進めるべきである。なお、固定残業代制度は、労基法の原則・趣旨との整合性を欠くことから、原則禁止の方向で立法措置を検討すべきである<下記・注2参照>。

(2)労基法等の実効確保

 労基法等は職場に対等な労使関係が存在し、そのなかで適切な労働条件が設定されることを期待している(時間外・休日労働に関する協定制度等)。この場合、労働組合のない職場では、労働者代表がその役割の多くを担うことになるが、労働者代表の多くは必要な知識を習得する余裕もなく、労働者の意見を取りまとめるにも時間的、技術的な限界があり、本来の役割を果たすことが難しい。結果として、労使協定の締結等の場面で使用者の言いなりになる場合が少なくない。
労基法等の規制を実効あるものとするため、労働者代表を支援する施策が急務である。
 また、労基法等が定める要件等が必ずしも明確でないグレーゾーンで法違反が生じやすいことから、こうした部分(裁量労働制の要件、管理監督者の範囲等)に関し、これまでの実務の蓄積を反映した解釈例規、指針、Q&A等の積極的な策定を通じて要件等のいっそうの明確化を図り、周知すべきである。

(3)紛争解決援助制度の整備

 若者使い捨て企業では、その権利侵害等が民事上の紛争として生じるケースも多いことから、簡便で実効ある個別労働関係紛争解決援助制度をいっそう整備(総合労働相談員の増員と常勤化、司法実務に精通した相談員の配置等)すべきである。

(4)労働基準監督署の体制強化

 労働基準監督官による臨検監督が有効であることから、臨検監督等に日常的に従事しうる労働基準監督官の減少に歯止めをかけ、増員等でその体制を強化すべきである<下記・注3参照>。

二 若者雇用促進法案の概要と評価

 若者雇用促進法案は、勤労青少年福祉法の改正に加えて、能力開発促進法等の改正をあわせたものであるが、若者使い捨て企業(ブラック企業)の特徴とされる部分への対応を含んでおり、一定評価できる。しかし、盛りこまれた対策の効果は限定的であり、不十分さは否めない。以下、その主要な内容と課題を指摘したい。

1 労働条件の的確な表示

 若者雇用促進法案は、事業主、職業紹介事業者、募集受託者、募集情報提供事業者、能力開発支援事業者および国、地方自治体の責務(いずれも努力義務)を明確化するとともに、相互連携の努力義務を定めている(4条〜6条)。こうした責務に関して、募集・採用および定着促進に当たって事業主等が講ずべき措置に関する「新指針」が策定される予定であり(7条)、そのなかに「労働条件の的確な表示」に関する事項が一覧できるかたちで盛り込まれる見通しである<下記・注4参照>。
 募集内容・労働条件の的確な表示等に関しては、すでに募集段階の規制として職業安定法5条の3(労働条件等の明示)および42条(募集内容の的確な表示)等があり、契約締結段階の規制として労働基準法15条(労働条件の明示)がある。加えて、平成11年労働省告示141号<下記・注5参照>が、募集にあたって明示すべき労働条件の内容や方法等に関する詳細な事項を定めているが、これらは「次に掲げる事項に配慮すること」としているにすぎない。実際、一部の求人情報では、「頑張れば月100万円も夢じゃない!」等の誇大表示が横行しており、求職者に多大な誤解を与えるばかりか、求人者間の公正競争の観点からも放置できない。「労働条件の的確な表示」の実効性を確保するなら、職安法5条の3(施行規則4条の2)を改正し、事業主等の義務を強化する方向(罰則の創設等)で検討を進めるべきである。
 職安法65条8号は、虚偽広告または虚偽条件呈示等に対する刑事罰を設けているが、実務上、労働局が告発に踏み切るケースはきわめて少なく、同条の実効性を高める意味から、労働基準監督官に同条違反に係る司法警察官の職務を行わせることを検討すべきである。
 労基法15条が定める労働条件の明示義務は、労働契約の「締結の際」となっており、文理上、締結の前までに明示すべき義務とまでは解釈されていない。しかし、契約締結前にその内容が明示されていないこと自体がおかしく、就労後の紛争要因となっていることから、「締結の前」と改正すべきである。

2 公共職業安定所(ハローワーク)における求人の不受理

 若年雇用促進法案は、公共職業安定所における求人の全数受理の原則(職安法5条の5)の特例として、学校卒業見込者等であることを条件とした求人の申込であって、一定の労働関係法令違反に関して一定の措置が講じられたときは、当該求人申込を一定期間受理しないことができるとする(11条)。
 具体的には、労政審の議論を経て政省令で規定される予定であるが、ここで言う「一定の労働関係法令違反に関して一定の措置が講じられたとき」は、賃金不払残業等の一定の労働基準関係法令違反が繰り返し認められる場合(たとえば、過去1年間に同一条項の違反で2回以上の是正勧告)や均等法や育介法の違反で企業名公表に至った場合が想定されている。また、求人不受理の期間は、法違反が是正されるまでの期間に加えて一定期間(6ヵ月程度)が想定されている<下記・注6参照>。
 しかし、このような場合の求人の不受理を学校卒業見込者等に向けた求人に限る必要があるのだろうか。学校卒業見込者等以外にとっても不適切な求人であることは明らかであるし、少なくとも「是正指導中」等の表示を検討すべきである。
 労働基準関係法令違反の「繰り返し」の要件が必要なのかも疑問である。一度でも是正勧告を受けた以上、その法令違反の是正されるまでの期間等は不受理とすべきであろう(実務上も、同一事業場に対して1年以内に同一条項違反の是正勧告を行なうケースはかなり少ない)。
 また、「繰り返し」の要件の判断は原則として「事業所単位」が想定されているが(参議院厚生労働委員会2015年4月16日)、法令違反の態様(他の事業所でも同様の違反が推認され
る場合等)によっては、企業単位またはフランチャイザー(本部)単位で判断すべきであろう。
 なお、大卒者等の場合、新卒採用ナビサイト等による就職活動が増加していることを考慮するなら、後記(三3)の企業名公表と併せて、こうした求人サイトでも同様の規制を検討すべきである。

3 青少年雇用情報の提供

 若年雇用促進法案では、学校卒業見込者等であることを条件とした募集に関わって、募集者および募集受託者に対し、a.幅広い青少年雇用情報(「青少年の募集及び採用の状況、職業能力の開発・向上並びに職場への定着の促進に関する取組の実施状況その他の青少年の適職の選択に資する事項」)を提供する努力義務を定め、b.学校卒業見込者等から求めがあった場合には、一定の青少年雇用情報(省令事項)を提供する義務を定めている(13条〜14条)。
 労政審の建議によれば、bの義務は、つぎの三類型ごとに事業主が選択した一つ以上の青少年雇用情報を提供する義務とすることが予定されている<下記・注7>。
(ア) 募集・採用に関する状況(過去3年間の採用者数及び離職者数、平均勤続年数、過去3年間の採用者数の男女別人数等)
(イ) 企業における雇用管理に関する状況(前年度の育児休業、有給休暇、所定外労働時間の実績、管理職の男女比等)
(ウ) 職業能力の開発・向上に関する状況(導入研修の有無、自己啓発補助制度の有無等)
 近時の雇用対策は、外部労働市場の整備が必要であるとして、労働者(求職者)の職業能力の「見える化」(能力評価シートの普及、ジョブカードの普及等)を重視しているが、他方で企業の雇用情報が「見える化」されていないなら、バランスを欠くばかりか、マッチング機能の強化もおぼつかない。
 こうした観点から見るなら、雇用情報の提供は適職選択にきわめて重要であり、学校卒業見込者等に限らず、労働者の募集に際して幅広い雇用情報の提供を義務化していくことが求められる。
 若年雇用促進法案では、学校卒業見込者等からの求めに応じて、一定の青少年雇用情報を提供すべき義務が新たに設けられており、その点は一定の前進である。しかし、提供すべき情報は事業主が任意に選択できることから、学校卒業見込者等が求めた項目と異なる項目の情報が提供される場合が起きうるのであり(「前年度の労働時間の実績」を求めたところ、「管理職の男女比」が提供されるなど)、いかにもおかしいことから、見直すべきである。
 また、学校卒業見込者等が不利益をおそれて自ら情報提供を求めることを躊躇することがないよう、不利益な取り扱いの禁止が「新指針」(二1)に盛り込まれる予定であるが、法律上明記しておくべきである。

4 優良中小企業の認定制度

 若年雇用促進法案は、省令で定める基準に適合する優良中小企業(300人以下)について、厚生労働大臣による認定制度を設け(15条)、当該認定を受けた事業主は商品等に表示す
ることができるとしている(16条)。
 認定基準の策定に関わる労政審(2015年1月9日)の議論では、現行の「若者応援宣言企業」よりも厳格化した基準とすることを前提に、具体的には、a.新卒者の定着状況では3年前就職者の離職率30%以下を満たしていること、b.年休では平均取得率70%以上、または平均取得日数10日以上、c.育児休業では男性取得者1名以上、または女性取得率75%以上、d.所定外労働時間では月平均20時間以下、または週労働時間60時間以上の労働者割合が5%以下などの例が示されている<下記・注8参照>。
 前述のとおり、若者使い捨て企業(ブラック企業)の態様は実に多様であり、こうした基準だけで「優良」と判断することが必ずしも適当とは言い切れない(とくに過労死ラインを超える時間外労働の労働者が5%以下なら優良と言えるのか)。しかも、書類審査(自己申告)で確認できることには限界があり、求職者に新たな混乱を引き起こし、労働行政の信頼を失墜させる懸念もある。

三 その他の対策

 以上の他にも、若者使い捨て企業等への多様な対策が検討または実施されている。

1 労働法制教育の充実

 労働法制に関する知識の付与に関しては、現在でも労働局から大学等に働きかけ、職員が無料で講義等を行っているが、若年雇用促進法(26条)の制定を契機とした取組みの強化が期待される。この場合、労働者保護法制の知識と同時に、対等な労使関係を確立する観点から労働組合の必要性や役割等を啓発していくことが求められる<下記・注9参照>。

2 過重労働撲滅特別対策班の設置

 過重労働が同一企業の複数の事業場で行われている大規模事案や実態把握等が困難事案への対応を図るため、2015年4月から東京・大阪労働局内に「過重労働撲滅特別対策班」が設置されている。ただし、新たな人員措置は講じられておらず、体制確保が重要な課題である。

3 労働時間関係法令違反の是正勧告を受けた企業名の公表

 厚生労働省は2015年5月15日、社会的に影響力の大きな企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、その改善を促すため、指導(是正勧告等)の事実を公表するとし、その基準を発表した。
 具体的には、
a.複数の都道府県に事業場を有する企業であって、中小企業に該当しないこと、
b.労働時間等に関する労基法違反が認められ、かつ1ヵ月当たりの時間外・休日労働時間数が100時間を超えていること、
c.1年程度の期間に3ヵ所以上の事業場でbの事実が認められること、
d.1ヵ所の事業場で10人以上の労働者または4分の1以上の労働者にbの事実が認められること、のいずれにも該当した事案を対象とするとしている<下記・注10参照>。
 当該公表基準は相当限定的なものであるが、今後、企業名公表制度による法令違反の抑止効果を見極めつつ、随時、対象範囲の拡大を検討すべきである。

 

<注1> 厚生労働省「若者の『使い捨て』が疑われる企業等への重点監督の実施状況」(平成25年12月17日)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000032425.html
<注2> 森崎巌「固定残業代の問題点と労働行政の役割」労働法律旬報1824号(2014年)29頁
<注3> 日常的に臨検監督等に従事している監督官は1,500人〜2,000人程度と推計できる。ILOが定める労働監督官の配置基準は労働者1万人につき1人であるから、現状は国際基準の3分の1程度となる。また、監督官を含む地方労働基準行政職員数は、2007年度以降毎年度、毎年50名〜70名程度ずつ減少している
<注4>労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会「若者の雇用対策の充実について」(平成27年1月23日)。同日付で厚生労働大臣に宛て建議
<注5>平成11年11月17日付労働省告示141号「職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針」(平成16年一部改正)
<注6>第59回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会配付資料(平成27年1月9日)
<注7>前掲、注4
<注8>前掲、注6
<注9>厚生労働省「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書」(平成21年2月27日)は、労働関係法制度のめぐる教育の課題を的確に整理し、今後の施策の方向性、留意点等を提起している。
<注10>安倍総理大臣は2015年3月27日、参議院予算委員会で「今後、法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を繰り返しているような場合、是正を指導した段階で公表する必要がある」等と発言し、厚生労働省がその具体化を検討していた

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