働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

技能実習制度を見直し、外国人労働政策の転換を
―外国人技能実習制度のあり方について(提言)―


2015年4月16日
日本国家公務員労働組合連合会
全法務省労働組合
国土交通労働組合
全労働省労働組合
1 技能実習制度の現状と問題点

1)現行の外国人技能実習制度の概要

現在の外国人技能実習制度は国際貢献のために発展途上国等から日本に一定期間に限り外国人を受け入れて、OJTを通じて技能を移転する外国人研修制度(1981年創設、最長1年間)に加えて、1993年に創設された。この制度により、研修生(雇用契約無し)が一定以上の技能水準に達した後に、在留資格「特定活動」として雇用契約の下で一定期間(研修期間を除き最長1年間。1997年から2年間)就労することが可能となった。
その後、2010年に出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)が改正され、在留資格「技能実習」を創設して、これまでの研修生を技能実習生1号、従前の技能実習生を技能実習2号と改め、入国直後の講習期間(原則2カ月)以外は、雇用関係の下で労働関係法令が適用される労働者と整理された。
現在、155,214人が技能実習生として在留しており、受入の多い国は中国で全体の69.1%と約7割を占め、続いてベトナム13.9%、フィリピン6.5%、インドネシア6.5%となっている(2013年末現在。「平成26年版『入国管理』」法務省入国管理局)。

(2)技能実習制度の問題点

現在の技能実習制度は、実習生と送出し機関との間で途中帰国への違約金等を定める契約が締結されていたり、事業主によるパスポートの取り上げなどの人権侵害が相次ぎ、米国国務省から2007年以降、8年連続で人身売買・強制労働にあたると指摘されている。また、国連人権規約委員会からも厳しい指摘を受けているなど、国内でも日本弁護士連合会をはじめ多くの団体が人権侵害の温床となる技能実習制度の廃止を求めている。
 さらに、技能実習の対象職種も拡大傾向にあり、現在、技能実習2号対象職種が69職種127作業(2015年1月23日改正、厚生労働省「技能実習制度推進事業運営基本方針」)に拡大してきている。その一方で、賃金不払い(割増賃金不払い含む)、長時間労働など、法令が定めた最低労働条件さえ守られていないなど労働基準法等の法令違反も深刻で、「技能実習」とは名ばかりで安価な労働力として使用されているケースが目立つ。
 2013年に労働基準監督機関が技能実習制度を利用している事業場を対象に監督指導を行った件数は2,318件で、そのうち違反事業場は1,844件(79.6%)にものぼり、ここ3年間の違反率は80%前後の高水準で推移している。他方、実習生から労働基準監督機関に労働基準関係法令違反の是正を求めてなされた申告監督件数はわずか125件であり、2009年の284件から年々件数が減少してきている(厚生労働省資料)。
 これは、労働基準法や入管法に違反する事案があっても、実習生が技能実習の即時中止・即時帰国や母国に帰った際の制裁(違約金等の支払い)などを恐れ、関係機関に申告することができない実態にあることが原因と考えられる。
 このように技能実習制度は、開発途上国において必要となる技能を移転させるという本来の目的とは異なり、長年にわたって安価な労働力として活用され、人権侵害も横行している。しかし、政府はその規制に本腰を入れようとはしてこなかった。
 その背景には、政府の移民政策(外国から日本に労働を目的に移住させる政策)は採らないという大原則がある。政府は、移民につながる外国人労働者は受け入れないという外国人労働政策(特に単純労働は認めない)には手をつけようとはしない。そのため、入管法の在留資格には、専門的・技術的分野の職種について就労が一部認められてはいるものの、単純労働などを含めた「就労ビザ」は存在していない。
 その一方で政府は、人手不足を背景に外国から労働力を確保したいという財界などのニーズに応えるために、研修や技能実習という枠組みを用いて実態上労働力を確保することで折り合いをつけてきた。その矛盾が前述のような問題となって表面化してきており、長年にわたってそれらの解決が進まない最大の原因は、技能実習制度の構造から派生している問題だからである。


2 外国人労働力確保と技能実習制度拡充の動向

ここ数年、少子高齢化が進行するなかで労働力不足が深刻化している。そのため財界を中心に外国人労働力の受入を求める動きが活発である。最近の特徴的な動向は以下の通りである。

(1)建設・造船分野での緊急措置

 建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置を検討する閣僚会議は2014年4月4日、2020年度までの「緊急措置」をとりまとめた。
 そこでは、東京オリンピック関連施設整備等による一時的な建設需要の増大に対して、緊急かつ時限的に対応する措置として、即戦力となる外国人材の活用促進を図るとしている。
 具体的には、技能実習修了者が国内で雇用関係の下で在留資格「特定活動」として建設業務に従事することを可能とし、その期間は、技能実習修了後引き続き国内に在留する場合は最大2年、本国に帰国後1年以上経過して再入国する場合は最大3年間としている。

(2)介護分野への拡大

介護分野への対象業務の拡大について、厚生労働省の「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会」が2月4日、「中間とりまとめ」を公表し、一定の日本語能力を要件に設立3年以上の施設で受け入れることなど、介護職種の追加に向けた考え方を示した。
これを踏まえ、介護分野の職種追加に向け、具体的な制度設計を進めるとしているが、新たな技能実習制度にかかる見直しの詳細が確定した後で、職種追加を行うとしている。

3)家事支援人材の活用

外国人家事支援人材については、女性の活躍推進のためとして、国家戦略特区でその活用が可能となるよう国家戦略特別区域諮問会議で議論が進められ、外国人起業家等の受け入れ拡大などとともに、昨秋の臨時国会で国家戦略特別区域法「改正」法案に盛り込まれ国会に提出されたが、衆議院の解散にともない廃案となった。
 諮問会議では、新たな規制緩和の項目とともに法案の再提出に向けた検討を進め、4月3日に再提出された。

(4)技能実習制度の拡充

(1))政府の検討過程

 法務省の「出入国管理政策懇談会・外国人受入れ制度検討分科会」では、現行の技能実習制度に関わり、監理団体による管理及び公的機関による監視の問題点が指摘された。特に、国際研修協力機構(JITCO)による巡回指導等は法的根拠があいまいで、強制権限に基づかない調査・指導しか行えず、実効性に限界があると報告された。
 これらを受け、昨年6月24日に閣議決定された「日本再興戦略・改訂2014」においては、対象職種の拡大(介護分野等への拡大)、実習期間の延長、事業場規模による受入れ枠の拡大とともに、管理体制の抜本的強化として「新たな法律に基づく制度管理運用機関」を設置し、2015年度中に新制度へ移行するとしている。
 その後、法務省及び厚生労働省は「技能実習制度の見直しに関する法務省・厚生労働省有識者懇談会」を設置し、報告書を1月30日に公表した。
 報告書によると、a実習期間の延長・再実習の実施、b受け入れ枠を現行の2倍程度への拡大、c対象職種を送り出し国のニーズ等を踏まえ拡大など、全体として実習生の受け入れを大幅に拡大する方策が盛り込まれた。またこの間、人権侵害などの不適正行為が社会問題化していることを踏まえ、実習生を受け入れる監理団体と実習実施機関の適正化と新たな法律に基づいて指導・監督権限を有する制度監理運用機関を設置することを盛り込んだ。
 そして2015年3月6日、技能実習制度の適正化及び拡充内容を盛り込んだ「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」(技能実習新法案)を今国会に提出した。

(2)技能実習新法案の概要

法案では、基本方針を策定するとともに、技能実習計画を認定制とし、実習実施者(事業場)は届出制、監理団体(事業者団体)は許可制としている。さらに、その認定や届出、許可に関して報告や調査を行う機関として、新たに「外国人技能実習機構」を認可法人として新設するとしている。その他、技能実習生に対する人権侵害行為等について、禁止規定を設け違反に対する罰則を規定することや、優良な実習実施者・監理団体に限定して、5年目までの技能実習期間の延長を可能(従前の技能実習2号に加えて、帰国後の技能実習3号(最長2年)を新設)としている。


3 外国人労働力確保と技能実習制度拡充の問題点

(1)建設・造船分野での緊急措置の問題点

 東京オリンピックに係る建設需要増への対応について、前述した「緊急措置」においては、「就労環境の改善、教育訓練の充実・強化等によって、(中略)国内での確保に最大限努めることが基本」とされている。しかし実際には、国内での労働力確保に向けた努力が具体化されているわけではなく、むしろ安価な労働力として技能実習修了者に目が向けられている。
 建設業は、高度経済成長と比べれば労働災害が減少してきているものの、死亡災害などの重大災害の割合は依然として他の業種より多い。言葉や習慣が違う外国人労働者への十分な安全衛生教育が可能なのか、現場レベルで組織的な災害防止活動が可能なのかなど、労働災害の発生を不安視する声もある。また、重層下請の産業構造により労働災害が発生しても、それを隠そうとする、いわゆる「労災かくし」の事案も後を絶たない。
 そうした職場に技能実習を修了したという理由だけで、多くの外国人を参入させる考えはあまりにも安易すぎる。
 また、関連施設の建設にともなって、既存建設物の解体を伴うことが多く、十分な安全衛生教育と健康確保措置が講じられなければ、粉じんやアスベストなどの吸引による遅発性疾病に罹患するおそれもあり、労災申請やその調査が困難となる問題も残されたままである。

(2)介護分野への対象拡大の問題点

介護分野への対象業種拡大が検討されているが、そもそも介護分野の人材不足も劣悪な労働条件に問題があり、その改善こそが急務である。
 人材不足、劣悪な労働環境にある産業に外国人を実習生として受け入れ、低賃金労働でまかなおうとするのであれば、現在生じている深刻な問題を温存ないし広げることにしかならない。

(3)家事支援人材の活用の問題点

家事労働への外国人受け入れは、虐待などのハラスメント・人権侵害の温床となる危険性が高いことが指摘されている。また日本は、家事労働者の保護を規定したILO(国際労働機関)の「家事労働者の適切な仕事に関する条約」(189号条約)を未批准であり、不十分な法制のまま安易な受け入れは行うべきではない。

(4)技能実習新法案の問題点

  法案は、第3条で基本理念として「技能実習は労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」として、労働力受入政策ではない旨を強調しているが、この条文だけでは現実に生じている問題点は解決しない。
 一方法案では、技能実習制度の適正化として、認可法人「外国人技能実習機構」(新機構)の新設を盛り込んでいる。新機構は、前述のとおり、技能実習計画の認定、実習実施者の届出の受理、実習実施者・監理団体への調査などを行うほか、技能実習生の相談・援助等を担うとしている。
 既に、1991年にJITCO(公益財団法人「国際研修協力機構」)が設立され、技能実習・研修制度の適正な推進のため、関係団体や企業への助言・指導を実施してきたが、前述の通り、制度の諸問題の解決には至っていない。今回、これを補完する形で、関係省庁の職員が出向し、権限を行使する新機構を設置しようとするものである。
 しかし、関係省庁から職員が出向するといえども、あくまで「民間人」であり、その権限行使は限定的とならざるをえないなど、新機構による監視、指導等が十分に機能するかは疑問である。
 現在でも15万人以上の実習生、約3万の実習実施者(対象事業場)、約2,000の監理団体が存在している。それらが拡大される中で、十分な監視・指導などの役割を発揮するためには、十全な権限と組織を持って対応することが必要であるが、新機構だけでは不十分である。

 

4 外国人労働力政策と技能実習制度に対する提言

(1)建前だけの政策の転換を

  このように、政府は技能実習について、様々な問題が生じている制度の枠組みは変えずに、新法によって受入期間の延長などを行うとしている。また、介護等の対象業種の拡充や在留資格「特定活動」による技能実習修了者の再入国を可能とするなど、外国人労働者の受入を拡大しようとしている。
 しかし、政府が外国人労働者の就労は原則認めないとしながら、建前としての技能実習制度を利用して、労働力不足を外国人労働者で補い、「用が済めば帰国させる」との考え方は、技能実習制度の濫用と言わざるを得ない。
 現在日本では、在留資格のない非正規滞在外国人が59,061人(2014年1月1日現在、法務省入国管理局推計)にのぼり、現実的に多くは労働力として日本の社会を支えている。欧米では、非正規滞在者を合法化する動きもある。また韓国では、技能実習制度を廃止し、外国人労働者の入国許可制度に変更しているなど、日本においても、就労許可制の導入など、建前だけの政策を根本から転換する時期に来ている。
(2)良質な労働条件と雇用の確保を

 これまで技能実習制度を利用し、あるいは今後新たに利用しようとする業界では、もともと労働条件や作業環境の劣悪さに見合う処遇が確保されずに、労働者がその収入での生計維持が困難であり、その結果、人手不足が常態化していることが指摘されている。したがって、労働力を安定的に確保するためには、まずは労働条件を抜本的に改善し、雇用の安定をはかるべきである。
 あわせて、本来の技能実習制度の趣旨に照らせば、その受入先は安価な労働力を求める企業・業界ではなく、開発途上国に移転すべき技能を有し、その移転に積極的な企業・業界に限定すべきである。
 その上で、技能実習生の人権を十全に確保することが最低限の前提であろう。

(3)国の機関の拡充による規制強化を 新法案では、新機構の設置によって技能実習制度の適正化をはかるとしているが、前述の通り、人権擁護など、実習生の権利保障を十分担うことができるか疑問である。
 さらに、技能実習制度の「適正化」のために、国費で新機構を設けることは、政府が進める国家公務員の定員を5年で10%以上削減する「新たな定員合理化計画」などの総人件費削減方針とは全く矛盾している。

法案では、第105条で、第35条による関係団体・関係者に対する報告徴収、立ち入り検査等について、労働基準監督官並びに船員労務官に職権行使を行わせることができること規定されている。このことは、新機構だけの監視・指導では十分ではなく、国による権限行使が不可欠であること認めているといえる。
 そうであるならば、公法人を新たに作るのではなく、その予算を充てることで国の機関を拡充し、監視・指導等を徹底できるような方策を取るべきである。

(4)技能実習制度の抜本見直しと外国人労働政策の転換を

  以上述べたとおり、現在政府が進めている技能実習制度の拡充政策では、これまでの問題の解消が困難なだけではなく、新たに深刻な問題が浮上する懸念がある。したがって、新法案に「拡充」ではなく、技能実習制度を制度の趣旨に沿って抜本的に見直し、人権擁護など実効ある規制を強化するとともに、外国人労働政策を根本から転換すべきである。

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以上