働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」に対する全労働の考え方


全労働省労働組合

 

はじめに

  政府は2月20日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律案」(以下、法案)を通常国会に提出した。法案は、昨年の臨時国会に提出されたものの、審議未了で廃案になったところであるが、政府は「女性の活躍促進」「女性が輝く社会の実現」を掲げ、その中心となる法案として、早期の成立を目指している。
 一方、女性団体や労働組合などからは、法案の実効性に懸念を示す向きも見られ、法案第2条が掲げる基本原則にある「女性がその個性と能力を十分に発揮できる」を真に実現し得るかについて、疑問符がつかざるを得ない。本来なら、こうした基本原則の実現を困難なものとしている諸要因を明らかにし、その解決に向けた対策が盛り込まれるべきであるが、その姿勢は不十分であると考える。 ついては、法案に対して、労働行政の第一線からの視点も踏まえながら、以下に問題意識などを述べたい。

 

1 働く女性の現状を変えることはできるか

 労働政策審議会(雇用均等分科会)では、法案の審議に当たって、日本の働く女性の現状を分析している。すなわち、「雇用者全体に占める女性の割合は43.3%。その半数以上は非正規雇用」「出産・育児期に就業率が低下する『M字カーブ』が未だ顕著」「意思決定層(管理職以上)に占める女性の割合(7.5%)は国際的に見ても低い水準」と指摘しており、実態はこのとおりと考える。

一方、それに対する処方箋(法的枠組み)として、大企業(301人以上)に対して「自社における女性の活躍に関する状況把握・課題分析」を行わせ、それを踏まえた「行動計画の策定・届出・公表」を行わせるとしている(300人以下企業は努力規定)。端的に言えば、企業の自主的な努力を促す仕組みであるが、果たしてこれだけで上記のような実情は改善されるであろうか。

実際に「状況把握・課題分析」を行う項目として、(1)女性採用比率、(2)勤続年数男女差、(3)労働時間の状況、(4)女性管理職比率などが挙げられている(ただし、選択制)。
もちろん、これらの状況を分析し、それに沿った対策を講じることには一定の意義と効果もあろうが(したがって、そうした点での肯定的評価もあろうが)、それだけで働く女性の現状が大きく変わる状況には至らず、数合わせに終始する企業が広がる懸念もある。

例えば、勤続年数の男女差について、上述の出産・育児期の退職が大きな要因と考えられるが、これは一企業の努力のみでなく、社会全体の中で解決が求められる。
すなわち、待機児童の解消、母性保護や育児休業にかかる制度改善、長時間労働の規制、性別役割分担意識の転換など、様々な制度・政策や職場風土・意識の改善と相俟ってはじめて効果が表れる。あるいは、管理職登用にしても、「管理職を希望しない」「登用されることに躊躇する」要因にメスを入れる必要がある。とりわけ、長時間労働や広域異動などがネックになっている実態は依然深刻であり、労働時間の規制強化や労働組合(労働者代表)の適切な参画等の方策が示されない限り、結局、「仕事」と「家庭」の二者択一が迫られる。また、管理職登用は企業全体で見るのではなく、雇用管理区分ごとにきめ細かく分析する視点も欠かせない。
なお、状況把握・課題分析すべき項目には、例えば、賃金格差(厚労省の賃金構造基本統計調査(2014年)では、男性100に対して女性72.2)や、非正規雇用の正規転換(非正規労働者にかかる均等待遇の実現)などに触れられていない。これらも女性労働者の長きにわたる課題であるが、こうした点に踏み込まないのであれば、処遇改善が置きざりにされ、結果的に法案が掲げる基本原則の実現を阻害してしまうであろう。

 

2 事業主行動計画に基づく取組は実効性があるか

法案は、次世代育成支援対策推進法(以下、次世代法)と非常に似た内容となっている。すなわち、国・自治体や企業に対して、今後の取組にかかる行動計画(実施時期、取組内容、計画期間等)を策定させ、都道府県労働局(雇用均等室)に届出を行わせ、基準に沿った到達が見られる場合には認定を行う仕組みである。
 次世代法においては、101人以上企業において事業主行動計画の届出を義務化(100人以下企業は努力規定)し、実際にも100%に近い届出状況にある(2014年12月現在で97.6%)。他方、行動計画に沿った取組を行って認定を受けた企業は、301人以上企業の約14%にとどまる。次世代法の認定を受けた際には、「子育てサポート企業」としてPRできる(認定マーク「くるみん」の活用)ほか、税制上の優遇措置など、一定のインセンティブも用意されているが、実際には行動計画の策定(届出)にとどまっている企業が多いと見られる。  他方、法案では、次世代法同様、企業等に対して行動計画の届出とその実行を求める枠組みではあるものの、次の二点において相違がある。

その一つは、行動計画に「定量的目標」を入れるとされている点である。次世代法では、必ずしも定量的な目標である必要はなく(可能な限り定量的目標が望ましいとされているが)、企業によって「育児休業取得率について、男性○%以上、女性○%以上」という目標もあれば、「短時間勤務制度を導入する」といった目標もある。しかし、法案では定量的目標が必須とされており、例えば「女性の採用を○%以上にする」などの目標が設定されると思料される。

 しかし、定量的目標は数値のみを追い求める傾向に陥りやすく、形式的に達成したからといって、必ずしも女性労働者が働きやすい環境につながるとは言えない。仮に、見かけ上、採用や登用が拡大したとしても、誰もが働き続けられる職場環境の実現に向けた課題(長時間労働など)が解決されない場合も容易に想定できよう。

また、法案にかかる行動計画では、いわゆる「ポジティブ・アクション(男女間格差の是正にかかる取組)」に関わる目標が多くなると考えられるが、日本においては「ポジティブ・アクション」概念がまだ緒についたばかりであり、必ずしも正確に理解されていない。したがって、目標設定に際しても、すでに女性従業員が多いにもかかわらず、「女性の採用拡大に向けて、女性従業員のみの募集を行う」など、男女雇用機会均等法に反する事例も生じかねない。

もう一つは、行動計画の策定(あるいは達成に伴う認定)にとどまらず、履行確保を行うことである。次世代法については、先述のとおり、計画の策定とその後の努力を促すものであるが、法案では、履行確保措置(雇用均等室(法律上は都道府県労働局長)による報告徴収・助言指導・勧告)も盛り込まれている。
 この点について、法案は計画の策定にとどまっては実効性の確保に欠け、これに対して履行確保まで踏み込んで企業の対応を強く求める趣旨と考えられる。もちろん、計画策定のみでは女性の採用・登用などを十分促すことにはならないが、他方で基本原則の実現を阻害している項目は多様かつ根深く、こうした行政手法にも限界があることを認めなければならない。すなわち、履行確保のみを求めても、形式的な到達にとどまりかねない問題点は先述のとおりであり、ポジティブ・アクション自体が浸透していない中では、矛盾や混乱も懸念される。少なくとも、男女雇用機会均等法に履行確保措置がある中で、それとの整合性をどのように図るのか(あるいは、男女雇用機会均等法を強化する方向性を含めて)、実情に即した検討が求められる。

 

 3 雇用均等行政の体制が極めて脆弱

これまで述べてきたとおり、法案では、企業に対して行動計画の策定(届出)や履行確保を求めているが、これらの実務を担うのは雇用均等室である。

 雇用均等室は、労働行政の第一線機関でありながら、労働基準監督署や公共職業安定所と異なり、都道府県に1か所(都道府県労働局内に設置)であり、職員数も大半は4名(47雇用均等室の内、33の雇用均等室が4名体制、2015年4月現在)と大変脆弱な人員となっている。しかも、ここ数年は毎年のように定員削減が続いており、2009年から2014年の6年間で10名もの削減が強いられた。あわせて、厚労省内の担当部局である雇用均等・児童家庭局においても十分な体制整備がなされておらず、本省においても、雇用均等室においても、過重労働が蔓延している。  

一方、雇用均等行政に対する行政需要は高まり続けている。とりわけ、男女雇用機会均等法や、育児・介護休業法、パートタイム労働法といった基本法にかかる施行業務(労働者や事業主からの相談、事業主に対する助言・指導等)はその重要性をますます高めており、例えば、2013年度の是正指導(3法の合計)は前年度比で約2,000件の増加である。あわせて、次世代法についても、10年間の延長(2024年度まで)が決定したところであり、引き続く対応が求められる。しかも、これら基本法や関連規則の改正も続いており、直近では、2014年7月に男女雇用機会均等法施行規則が、2015年4月にパートタイム労働法がそれぞれ改正され、雇用均等室では改正内容の周知や相談対応が続いている。  

これらに加えて、近年では種々の助成金にかかる取扱いが急増している。具体的には、育児・介護休業法の推進に関わって、「両立支援等助成金」制度があり、さらにいくつかのコースに分かれている。これら助成金は、制度も非常に複雑で、事業主からの問い合わせ等への説明に相当の時間を要する。当然、実際の申請に対する審査も膨大な業務量を要しており、不正防止の観点からも慎重な対応が必要である。中には、助成額の大きさなどにも影響されて、申請が増加しているものもあり、基本業務である各種法律の施行業務よりも、助成金関係業務に忙殺される状況が続いている。なお、これら助成金については、趣旨・目的に沿った制度設計となっているのか、期待される政策効果が表れているのか、疑問も生じていることから、その検証も急がれる。

法案が成立し、施行されるにしても、このように極めて逼迫した行政体制の下では、施策の実行にも多大な困難が伴う。基本法の履行確保など、雇用均等行政の重要な役割に鑑みるなら、体制整備こそが今最も急がれる課題であることを強調したい。

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以上