働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

「安全文化の伝承」
—労働災害の防止を担う人材確保・育成の視点から—

安衛職域リスクアセスメントシートとりまとめ結果

2014年10月
全労働省労働組合

 第1回(機関紙「全労働」6月10日号)

 全労働は、新人事制度について、その導入時から各職域に必要な専門性を急速に低下させることを一貫して指摘し、省当局に対し抜本的な見直しを求めてきました。

 一昨年に実施した第23回行研究活動のアンケートでは、基準行政の76%の組合員が「新人事制度の導入により労働基準行政の専門性が低下する」と回答し、各職域の専門性の確保に懸念を抱いていることが明らかとなりました。特に安衛職域の組合員からは「労働災害防止は、規則を遵守させることはもとより、過去の災害を教訓とした専門的・技術的指導が重要だが十全にできていない」「技官未配置の署では、計画届の審査ができず、局の健安課が審査しており、事前のチェック機能が果たせていない」などの指摘があり、労働行政で長年培ってきた労働災害防止に係る専門性を急速に低下させている実態が浮き彫りとなりました。

 こうした中で、全労働は、新たなとりくみとして、労働安全衛生マネジメントシステムのリスクアセスメントの手法を用い、現在の新人事制度が将来にわたり安衛職域に及ぼす弊害等を明らかにするため、安衛職域の組合員による「安衛職域リスクアセスメント」(以下、RA)を実施しました。その結果、26支部から146枚のリスクアセスメントシート(以下、RAシート)が集約されました。(リスクアセスメント結果の概要は、「安衛職域リスクアセスメント分析結果の概要」を参照。)

 RAシートは、5つのステップから成り、ステップ1で「現在の安衛職域におけるリスク」を特定し、ステップ2では「リスクに対する防止対策」を記載します。さらに、ステップ3において、現在のリスクを見積りますが、その方法はリスクの重篤性(×致命的・重大、△中程度、○軽度)、発生可能性(×頻繁・可能性が高い、△時々・可能性がある、○可能性がほとんどない)及び優先度(3:直ちに解決すべきリスク、2:速やかにリスク低減措置を講ずる必要があるリスク、1:必要に応じてリスク低減策を実施すべきリスク)の3点を定量評価します。その結果をもとに、ステップ4では「リスクを低減させるために最も効果的なこと」を検討し、ステップ5で「リスク低減措置を講じた後の残存リスク」を総合的に見積もり、ステップ3と同様に定量評価を行います。 

 RAは、ステップ3と5の結果を比較することで、「安衛職域に介在するリスクについて、リスク低減措置を講じた結果、残存するリスクがどれくらいになるのか」を分析できることが大きな特徴です。さらにRAシートの定性分析を行うことで、細かなリスクの抽出や、より効果的なリスク低減策の提案が可能となります。

 146枚のRAシートについて、ステップ3のリスクの見積もり評価をみると、最も多かったのは、重篤度「×」129件、発生可能性「×」100件、優先度「3」115件です。この結果から、現在の安衛職域は「致命的・重大で、発生可能性・頻度が高く、直ちに解決すべきリスク」が多数存在することが判明しました。

 さらに、ステップ4でリスクの低減策を検討し、対策後のリスクをステップ5で見積もると、重篤度「○」111件、発生可能性「○」117件、優先度「1」114件となり、リスク低減策により大幅にリスクが低減することが分かります。

 具体的なリスク低減策は、「十分な経験・知識を有する専門官(技官)の配置」「長期にわたり安衛業務に従事する技官を採用・育成する」などが圧倒的に多く、現在のリスク低減に最も有効な対策について、RAを実施した組合員の多くは「新人事制度の抜本的見直しが必要」と結論付けています。

 次に、計画届の審査業務について見ると、「強度不足の型枠支保工の届出が受理されている」「地山の掘削勾配が基準に満たないことを把握できておらず、土砂崩壊の危険性がある」「特殊化学設備として事業場を指定しなければならないのに放置されていた」「計画届の書面審査が不十分であり、実地調査も適切でない」「計画届の審査に時間を要し、不備を指摘できないまま工事が施工される」など、これまで脈々と築き上げてきた安衛業務の根幹を揺るがしかねない極めて重大なリスクが報告されています。

 しかし、これらのリスクへの対策は「本省作成のマニュアルの配布」「机上研修を中心とした教育の充実」に留まり、現在のリスクを見積もると、最も多いのは、重篤度「×」38件(92%)、発生可能性「×」26件(63%)、優先度「3」31件(75%)に分類されます。

 計画届の審査業務におけるリスクは、労働者の命と健康に直結するものですが、これらの現状について、RAを実施した組合員の多くが「直ちに解決すべき重大なリスクが多数ある」と指摘しています。

 計画届の審査業務は、安衛法に精通することはもとより、力学や工学などの専門的知識が必要です。こうした専門性は一朝一夕に身に着くものではなく、リスク低減策では「専門的・技術的観点が必要とされる計画届の審査は技官が実施すること」が最も多く掲げられています。

 今回のRAで明らかとなったリスクに真摯に向き合い、一刻も早くリスクを低減させるとりくみが求められています。

 

第2回(機関紙「全労働」7月10日号)

 第2回目は「特定機械検査」についてです。

 6月10日号に掲載したリスクアセスメント集約結果のとおり、最も多くの意見が集まりました。

 提出された意見から、検査業務に係る現状のリスクを具体的に見てみると、新人事制度導入による専門性の低下等から「一時期に一定期間の研修を受けただけでは、専門性は維持されない」「検査する側に必要な知識が備わっていないことから、受検者の主張を鵜呑みにしてしまう」「知識、経験の不足から潜在化した危険に気がつかない」「検査のための行政体制の不備から、検査希望日を大きく遅れて実施する可能性がある。その場合、遅延による賠償を求められるかもしれない」「問い合わせに対する回答が遅延したり、間違った回答をする可能性が高まっている」などが指摘されています。

 これらの指摘は、実に的を射ていると思います。特定機械等の検査等は、書面審査と実機検査がありますが、どちらにおいても長年検査業務を担当していても、迷う場面が多々あります。例えば、「溶接部の溶込みとは十分か」「割れの補修方法は適切か」「水漏れか、もしくは結露か」「たわみ量が必要以上にある場合の原因は何か」「溶接部のX線写真に写る陰は何か」「ワイヤロープの直径の減少は何か」などなど。

 現状においても、万全とはいえない行政体制、専門性に対し、指摘されたリスクに対する現在の防止対策は、規範等である程度の検査方法等が示されているものの、合否の判断については、技官(検査官)がこの間培ってきた知識と経験も加味しながら決定しているのが実情です。

 求められるリスク低減策としては、言わずもがな「技官の採用再開」「安全衛生業務専門職員の育成」が一番多くの意見となっています。一方で、特定機械等の業務全て(製造許可から検査まで)を安全衛生行政から切り離して委託化するとの意見もあります。これは、職務放棄と言うよりも、労働安全衛生法でも触れられているとおり、特定機械等が「特に危険な機械設備」として指定されているからこそ、安易な考えで対応してはならないことの裏返しと見ることができます。

 一度研修を実施したのだから、出来て当たり前ではリスク低減策とは到底言えません。労働安全衛生法でも概ね5年ごとに定期的な教育のほか、随時教育、業務(作業)内容変更時の教育などを実施することを求めていることをみても、現在の教育のあり方は不十分です。また、とりわけ重要なことは、時間の経過とともにOJTで検査業務を教示できる技官(職員)が減少していくことです。一刻も早く、新人事制度を終息させることにより、リスクを積極的に低減することが必要です。

 

第3回(機関紙「全労働」7月25日号)

 第3回目は「個別指導・災害調査」についてです。

 集約した146枚のうち、「個別指導・災害調査」に関するものは20件(15%)と全体の中での割合は高くありませんが、「重篤度」「発生可能性」がいずれも高く、8割以上の事案で「優先度」が高い状況となり、「個別指導・災害調査」を担う安全衛生職域の現場における問題が非常に多く存在する結果となりました。

 組合員から指摘された問題点の共通項としては、「現場で技官が不足している」「技官の不足により専門性(技術)の継承が難しくなっている」「技術系監督官の養成に関して、その素養となる知識や経験が足りない」「個別指導(安全衛生水準の向上)と監督指導(法の取締り)の目的が異なり行政手法に差がある」等が意見として多く挙げられてきています。

 また、「爆発・火災・中毒等発生現場における知識不足による二次被害」「類似災害に関する知識や経験不足による再発防止対策指導の不備」「局所排気装置等設備を実地調査した際の能力確認不足」など、具体的な問題点も挙げられており、これらが安衛職域で共通したリスクとして認識されていることが分かります。

 これらの結果、安衛職域におけるリスクを低減する方法は現在の新人事制度の抜本的な見直しと、技官の採用再開であると痛感しています。

 今までは、技官がいることにより労働安全衛生法の遵守だけではなく、様々な業種・規模の事業場に対して、出来る限り実情に即した、技術的・専門的な個別指導が行うことが出来、よりきめ細かなフォローがされていました。今後、それらを担う技官がいなくなり、専門的・技術的な指導を行う人間がいなくなると、安全衛生行政はどうなるのでしょうか。技官が担っている専門性は一朝一夕で身につくものではありません。

 しかしながら、新人事制度は技官の採用を停止し、安衛職域に監督官を配置することにより安衛に関する専門職域を運営する体制としています。今後、後任の採用のない技官職員に対して、今までに組織として、職域として、様々に経験してきた専門的・技術的な知識の伝承について、どこまで求められているのでしょうか。今後の安全衛生行政の運営を行う上でも非常に重要な問題であることを強く指摘していきたいと感じているところです。

 

第4回(機関紙「全労働」8月10日号)

 最終回は「安全衛生業務全般」について寄せられた意見のいくつかを紹介します。

 その内容は「(労基署の)安全衛生分野における専門性が失われていく」ことへの危機感が多くを占めており、「新人事制度が導入されて5年、安全衛生分野の専門性は確実に低下している」「安全衛生は『経験』が重要。2年程度の従事では専門性は育たない」との声や「事業場との間に培ってきた信頼が揺らいでいる」との意見がみられました。

 行政指導上の問題点として「最近の安全衛生指導は法違反を指摘するのみ。例えば『労働災害防止』のためには法規以上の対策を検討し指導することも必要ではないか」という意見がある一方で、「『法違反にさえならなければよい』という考え方をしている事業場側の安全衛生担当者が増えている」という、事業場側の『意識低下』も報告されており、「『安全衛生の専門性低下』の問題は、(行政側だけのものではなく、)社会全体の問題となってきている」こと、その現状に歯止めをかけるためにも「労働者の安全と健康の確保は労働基準行政にとって『第一』優先事項」であると訴えられています。

 省当局は「国民の目線にたった行政運営を行わなければ、自らが組織の崩壊を招く」ことを真剣に考え、「経験に裏打ちされた指導は厚みがあり、そこに(国民の)信頼が生まれる」ことを理解すべきです。

 安全衛生職域リスクアセスメントを実施した結果、「安全衛生の『知識』と『経験』は長期的に養成されるものであり、それを次世代にしっかりと『継承』していくこと」が重要です。「安全衛生業務には『促成』ではない専門の担当者を配置しなければならない」といった意見が全国の技官・監督官から一斉にあげられたことは、新人事制度による弊害が発生しているという間違いのない証拠です。

 「大きな問題が起こってからでは遅い」「技官採用を再開しても一人前に育つまでには数年間が必要」「結局、一番の不利益を被るのは国民」であるからこそ、一日も早い技官採用・育成再開を訴えます。

 安全衛生は一日して成らず。「(安全衛生)担当官も一日にして成らず」です。

 

 

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以上