働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

2014年12月
「新たな労働時間制度」に関する分析と提言

労働規制改革検討グループ

全労働省労働組合

1 労働時間規制は「岩盤」か

 「日本再興戦略(改訂)」(6月24日、閣議決定)は、その柱の一つに「働き方改革」を掲げ、戦後労働法の基本原則(8時間労働制、直接雇用の原則等)を経済成長を妨げる「岩盤」と位置付け、「一つ一つ穴を空ける」とする。

 その具体化の一つが、「新たな労働時間制度」(法定労働時間の新たな例外)の創設であり、一定の範囲(年収要件、職務等)の労働者について、労働時間に関する諸規制(時間外・休日労働協定制度や割増賃金制度等)の適用を除外すべく、現在、労働政策審議会を舞台に議論が進められている。

 しかしながら、わが国の労働時間規制は、法定労働時間(一日8時間、一週40時間)の原則に対し、すでに多種・多様な例外(時間外に関する労働協定制度、各種変形労働時間制、裁量労働制、事業場外みなし労働制、フレックスタイム制、管理監督者等)が設けられており、果たして「岩盤」と呼ぶに相応しい中身なのだろうのか。また、時間外・休日・深夜労働が不必要にまで規制され、働き手の多くが不自由を感じるような内容なのだろうか。

 労働現場に目を向けると、業種・業務にかかわらず、広く過重労働が横行している(※1)。その結果、多くの労働者の心身の健康を脅かされ、過労死・過労自殺(※2)の広がりを許している。また、長時間労働や不規則勤務等が、家庭責任等を有する労働者の「活躍推進」を大きく阻害している。こうした事態を招来している要因の一つが現行労働時間規制の不十分さなのではないか。具体的な例をあげてみよう。

a 過労死との強い関連性が指摘されている時間外労働時間(例えば、一日15時間、月160時間)を想定した時間外労働協定(特別条項)が締結されているケース。

b 1ヶ月単位変更労働時間制(シフト制)のもと、連続12時間以上にも及ぶ勤務が組み込まれているケース。

c 年収(固定分)に占める賞与の割合が過度に高く、割増賃金の「割増率」が実質的に低くなり、時間外労働が恒常化しているケース(※3)。

d 時間外労働に対する割増賃金の支払いについて、基本賃金を大幅に減額した上で、固定残業代制度を導入したケース。

 これらは、労働行政の第一線で近年よく目にする事例であり、いずれも不適切・不合理であるものの、必ずしも労基法違反とは言い切れない(※4)。

また、近年の「若者『使い捨て』企業」の特徴でもある、a過重なノルマ(成果目標)の設定、b労働者どうしの過酷な選別・競争、c洗脳まがいの「新人研修」「自己研鑽」の強要など、労働者を「自発的」に長時間・過重労働へと追い立てる「人事管理」が横行しているが、こうした動きを規制する法制・施策はまったく未整備である。

 こうして見ると、現行労働時間規制は「岩盤」どころか、脆弱な地盤に「大小いくつもの穴が空いている」と思えるのである。

 労働時間制度を不断に見直すことに異論はない。しかし、その見直しは、労働時間規制によって達成すべき目的(※5)を顧み、働く者の「現実」を直視するところから始めるべきである。「新たな労働時間制度」の創設を「働き手のニーズ」と位置付けるのであればなおさらである。さらに、「グローバルに通用する『働き方改革』」(※6−a)を標榜するなら、ILO1号条約をはじめとする、労働時間に関する主要な条約(日本はいずれも未批准)の批准を視野に入れた検討が求められよう。

 労働行政の第一線で日々、多くの労働者や事業主と向き合う私たちは、こうした視点から、「新たな労働時間制度」を分析し、あるべき労働時間制度への見直し方向を提起したい。

(※1)「就業構造基本調査」(平成24年)によると、男子正規雇用労働者のうち、年間250日かつ週60時間以上就労する労働者は297万人(13%)、年間250日かつ週75時間以上就労する労働者は62万人(3%)である。前者でさえ、いわゆる過労死ラインを超えている。

(※2)平成25年度の脳・心疾患の労災補償請求件数は784件、支給決定件数は306件。また、精神障害の労災補償請求件数は1409件(過去最高)、支給決定件数は436件(平成26年6月27日、厚生労働省公表)。

(※3)総賃金の1/5が割増賃金の算定基礎から除外されている場合、4/5×1.25=1であるから、時間外労働手当(残業代)の割増効果(時間外労働の抑制効果)はなくなることになる(それ以上除外されているなら割引効果がある)。加えて、労働者を雇い入れることに伴う社会保険料負担等を考慮すると、使用者にとって現行制度は少ない人数で長時間働かせることの方がコスト面でメリットが大きい。

(※4)使用者が過労死の発症と強い関連性を指摘し得るほどの長時間労働、不規則労働等を容認ないし放置し、労働者の健康障害等を引き起こしたのであれば、安全配慮義務違反(労働契約法5条)や不法行為(民法709条等)を構成する可能性が高い。例えば、大庄(日本海庄や)大阪高裁判決(平成23年5月25日、労働判例1033号事件)は、「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり、この点の義務懈怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお、不法行為責任についても同断である」と判示している。

(※5)労働時間の法的規制は、「労働保護立法の歴史の上においても最も古い沿革」(厚生労働省『労働基準法(上)』)をもち、a労働者の生命・健康の確保、b家族的・社会的・文化的生活の保障(ワーク・ライフ・バランスの確保)、c雇用の創出(ワークシェアリング)等の重要な目的を有しており、その今日的意義はきわめて大きい。

(※6)「新たな労働時間制度」構想は、a.2014年4月22日付「個人の意欲と能力を最大限に活用するための新たな働き方〜多様で柔軟性ある労働時間制度・透明性ある雇用関係の実現に向けて〜」(産業競争力会議/雇用・人材分科会)、b.2013年12月10日付「『雇用・人材分科会』主要論点メモ(労働時間規制等)」(産業競争力会議/雇用・人材分科会)、c.平成25年12月5日付「労働時間規制の見直しに関する意見」(規制改革会議)等に依拠したものであると思われる。また、日本経団連は2005年、「現行の管理監督者に加え、仕事の専門性と時間管理について自己裁量の高いホワイトカラーを労働時間等規制の適用除外」すべきであるとし、「年収400万円以上の労働者」を対象に ホワイトカラーエグゼンプションの導入を提言している(「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」)

 

2 「新たな労働時間制度」構想の分析

(1)「新たな労働時間制度」構想がめざす労働社会

「日本再興戦略(改訂)」は、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため、一定の年収要件(例えば、少なくとも年収1000万円以上)を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、健康確保や仕事と生活の調和を図りつつ、労働時間の長さと賃金のリンクを切り離した『新たな労働時間制度』を創設する」との構想を示し、あわせて、長時間労働抑制策、年次有給休暇取得促進策等の検討を進めるとしている。

 こうした構想は、内閣府に設けられた産業競争力会議、規制改革会議の議論、答申をもとに策定されたものであるが、これらの会議のメンバーには、大企業・業界の代表者がずらりと名を連ねる一方、労働者の代表はおろか厚生労働大臣すら含まれておらず、大企業や投資家の要求が経済産業政策に形を変えて色濃く反映していることは否めない(※6)。

 また、構想の背景には、雇用の規制緩和や流動化等の新自由主義的改革を強く志向する政策的立場があることは明らかであろう。「グローバル企業が国・地域を選別する姿勢を強め、国家間の制度間競争が激化している」との現状認識のもと、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすという姿勢である。しかし、他国(競争相手国)もこのような姿勢をとるなら、世界規模で「底辺への競争」(Race to the bottom)が激化するだけである。

 重要なのは、「経済成長」の中身である。本来、「経済成長」を追求する政策は、働く者にとって良質な雇用機会を保障し、誰もが安心して働き続けることのできる政策でなければならない。雇用や労働条件を犠牲にした「経済成長」は、本末転倒と言うべきである。

 グローバル競争を適切に規制し、良質な労働社会を実現することこそ、長引くデフレを克服し、日本経済と国民生活を真に再生していく道筋ではないか。

(2)労働時間規制の緩和は労働者のニーズか

 構想は、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する働き手のニーズに応えるため」とし、「新たな労働時間制度」が労働者のニーズに基づくことを強調しているが、どのような立場の労働者がどの程度の割合で当該労働時間制度の導入を希望しているのか、必ずしも明らかではない。

 それどころか、今日の成果主義賃金(賃金査定制度)の広がりを見るまでもなく、現行法令は成果で賃金を決めることをほとんど規制していない(※7)。業種・業務によっては、「オール歩合制」に近い賃金形態を導入している場合も少なくない。

 また、構想は時間に縛られない「多様で柔軟性ある働き方」(※6−a)を希望する労働者のニーズも指摘しているが、現行法令は生命・健康を脅かす過重労働を規制することはあっても、家庭事情等に配慮した「多様で柔軟性ある働き方」(例えば、終業時刻以前に帰宅するなど)を規制していない。所定労働時間に満たない労働時間でも、成果を認めて所定の賃金を払うことも何ら禁じられていない。要するに、規制の対象は、あくまでも「多様で柔軟性ある働かせ方」なのである。

 さらに、「より創造的な働き方」「付加価値生産性の高い働き方」(※6−b)を可能にするとの指摘もあるが、労働時間の際限をなくしたり、残業代を支払わない方が創造的に働くことができるなどという根拠はまったく明らかでない。

 他方、現行法令が「自発的な長時間労働」を誘発していることから、「労働時間の長さと賃金のリンク」を切り離すべきとの指摘もある(※6−c)。要するに、労働者が時間外労働手当を目当てにダラダラと働く労働者がいるというのである。しかし、労働者が自由に残業し、上限なしで残業代を支払うという職場は今日では滅多になく、時代錯誤ではないか(※8)。時間外労働を命じる権限は、就業規則の定め方にもよるが、一般に使用者にあり、残業が労働者によって勝手に行われている前提自体が正しくない。

(3)成果で賃金を決めること自体の危険性

 もっとも、成果で評価することと労働時間の規制が無関係であるとは言えない。

 今日、過度な成果目標を設定したり、労働者間の競争をあおることで過重労働が引き起こされているケースが増えている。

 要するに、成果で評価し、賃金を決めようとすることがもっとも長時間労働につながりやすいのである。実際、都市部の旅客運送業等、歩合制賃金の割合の高い業種では、長時間労働がいっこうに改善されない状況が認められる。また、営業等の業務でも、使用者が設定した高い営業目標を達成するため、労働者が遮二無二働かざるを得ない事態をよく目にする。

 成果主義の人事管理を導入すれば、労働時間規制が不要になるというのは実態に沿っていないばかりか、論理的とも思えない。職場の現実は、むしろ逆さまであり、成果で賃金を決めるなら、厳格な労働時間規制が不可欠とさえ言える。

(4)年収(高収入)は、労働時間規制を除外する根拠たり得るか

 年収が高い労働者の中には、経営者と一体的な地位にあり、労働時間の始業・終業時刻も自らの判断で決めることのできる労働者がいる。こうした労働者は、すでに「管理監督者」(労基法41条)として、労働時間規制が除外されている。

 そうでない労働者は、使用者の指揮命令を受けることとなり、就業規則等の定め方にもよるが、適法かつ合理的な残業命令に従う義務があると言える。

 こうした関係を前提として、現行法令は労働者の心身の健康の確保や家族的・社会的・文化的生活の保障の観点から、労働時間規制を定めているのであるが、年収の高い労働者がとりわけ心身が「頑強」であるわけでも、家庭的責任が軽いわけでもない。高額な年収は、労働(所定時間の労働)の質と責任の重さへの正当な対価であり、年収の水準を根拠に労働時間規制を除外することに合理性はない。

 事実、医師など年収の高い労働者が、過重労働の末に命を奪われるケースがあり(※9)、こうしたことを二度と起こさないことが重要である。

(5)長時間労働抑制策との関係性

 長時間労働抑制策(労働時間の量的上限規制、休日・休暇取得促進策)とセットであるなら、新たな労働時間制度の導入は問題ないとする考え方(「三位一体改革」)がある(※6−c)。以下、その当否を検討する。

a 労働時間の量的上限の導入

 労働時間の量的上限をどの程度の水準とするか、また、上限を超えて労働させた際の取り扱いをどうするのか、いずれも定かではないが、量的上限が法定労働時間を上回ることは明らかであろう。しかし、こうした労働時間の量的上限の設定したことをもって、当該一定上限までの時間外労働は「残業代ゼロ」でよいとするのはおかしい。

 前記のとおり、時間外労働を命じる権限は、一般に使用者の側にあるのであるから、残業代を支払わなくてもよいとするなら、使用者は労働者を一定上限ぎりぎりまで働かせたくなるのではないだろうか。従って、労働時間の量的上限の導入したことをもって、時間外労働手当(残業代)の支払い義務を除外することは、かえって長時間労働を助長しかねない。

b 休日・休暇の取得促進策

 休日・休暇の取得促進策の内容が明らかでないことから、それ自体の当否を判断しかねるが、この間の年次有給休暇取得率の低迷(50%未満)は、職場の人員不足(過大な業務量)や成果主義賃金の広がり等の要因によって生じている。従って、もっとも有効な有給休暇取得促進策は、こうした要因を除去し、年休を取得しやすい職場を作ることであり、それなくしては如何なる方策を講じても、持ち帰り残業の増大等の新たな矛盾を抱えることになるだろう。

c 労働基準監督官の人員強化との関係性

 労働時間規制を緩和しても、労働基準監督の人員を強化し、取締りを強化すれば問題はないとする議論があるが(※6−a)、にわかに理解しがたい。

 労基法の労働時間規制は、使用者への義務付けであると同時に、監督官の権限行使の根拠でもある。監督官の権限行使は法令を超えることができないのであり、その法令自体を後退させることは、監督官の取締りの範囲も狭めることになり(適用除外なら権限はゼロ)、本末転倒である。

 日常的に臨検監督に従事する監督官数は、国家公務員削減方針のもとで一貫して削減され続けている。この方針を転換し、監督官を増やすことは労働時間規制の緩和と切り離して速やかに実現すべきである。

(6)「労働者の同意」をどう見るか

 「新たな労働時間制度」の適用にあたっては、個々の「労働者の同意」(希望選択)が前提となるとの考え方が示されているが(※6−a)、これが過重労働等が生じる事態への歯止めとなると考えるのは早計である。

 労働契約の当事者である使用者と労働者は、その社会的、経済的な力において大きな差があり、これを自由な取引きに任せておくなら、労働者は使用者の意向に従わざるを得ない(実際、新たな労働時間制度の適用への同意が「採用条件」とされた場合、これを拒むことのできる労働者はほとんどいないだろう)。これは、契約自由の原則を修正する労働法の存在が必要とされる理由でもある。

(※7)成果で賃金を決めることへの制約に関しては、労働者に人たるに値する生活を保障する立場から、最賃法4条(最低賃金)と労基法27条(保障給)がある。

(※8)実際、時間外労働がダラダラと行われている場合、その原因は、管理者の進行管理や業務指示の仕方が悪かったり、目的が曖昧なミーティングが多かったり、管理者の能力欠如に起因する非効率な業務運営自体にあることが多い。これを労働時間法制に原因があるかのように論じることは問題のすり替えである。

(※9)脳・心臓疾患に関するの労災請求・決定の状況(平成26年6月27日、厚生労働省公表)を見ても、管理職層が多いと思われる40代から50代の請求・決定件数が相対的に多い(40歳〜59歳が全体の68%)。

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3 求められる労働時間制度の改革

 全労働省労働組合は、過去23回に及ぶ労働行政研究集会をはじめとし、第一線の視点から労働行政のあるべき姿を探求する「行政研究活動」を重ねている。こうした取り組みで提起された労働時間制度の改革方向は、次のとおりである。

(1)労働時間の上限規制と罰則の強化

 時間外労働に関する協定制度は、労使合意で労働時間の上限を定めるものであるが、労働者代表の不適切な選出が横行し、あわせて選出された労働者を支援(エンパワメント)する施策がまったく欠落していることから、労働者代表が使用者に指示されるままに署名するなど、形式的な協定締結が多く(※10)、長時間労働を適切に抑制することができず、過重労働が広がっている。

 これを解決するには、時間外労働時間の上限を直接規制することが有効である。この場合の上限時間の設定単位は、労働者の生体リズムの確保・回復等を考慮するなら、できる限り短い方が望ましいことから、週単位(長くても月単位)とし、あわせて年単位の上限時間を設定すべきである。具体的には、週単位又は月単位の上限時間は、いわゆる過労死ラインを大きく下回る時間を設定し、段階的に限度基準(労基法36条2項)まで引き下げていくべきである。また、年単位の上限時間は、時間外労働が本来、一時的・臨時的なものであることをふまえ、直ちに限度基準(360時間)をもって上限時間とすべきである。

 また、現行労基法の罰則の運用はきわめて軽く、これを強化するとともに、実効ある付加金制度を確立すべきである(※11)。

さらに、前記上限を超える時間外労働を行わせるなど、関係法令に違反し、因って使用する労働者に過労死・過労自殺・過労性疾病を引き起こした行為を処罰する、違法労働致死傷罪(結果的加重犯)の規定を新設すべきである。

(2)時間外労働に関する協定制度の厳格化

 労働時間の上限規制によっても、時間外労働の協定制度が不要になるわけではなく、あわせて、その機能を十全に発揮させる、以下の措置を講じるべきである。

a 「限度基準」(厚生労働省告示)の例外措置の廃止

 労基法36条2項に基づく「限度基準」について、(通達、指針であった当時から)約30年にわたって適用除外(同基準第5条)の事業、業務(「工作物の建設等の事業」「自動車の運転の業務」「新技術、新商品等の研究開発の業務」等)を定めておくことは、合理性を欠き、直ちに限度基準の例外措置を廃止する。

b 「特別条項」の速やかな廃止

 「特別条項」は、限度基準を超えた時間外労働を想定した協定であって、正に長時間・過重労働の温床であり、法定労働時間を死文化させている「元凶」と言っても過言ではなく、(1)の上限時間の段階的・計画的な引き下げによって、速やかに廃止すべきである。

c 労働者代表の選出方法

 労働者代表の選出方法については、厳格な手続きとなるよう見直すべきである。

 また、選出された労働者代表を支援(エンパワメント)する施策を強化すべきである。具体的には、労働者代表の役割、知識等を取りまとめ、広く周知するほか、支援のための相談窓口を設置するなどの施策が有効である。

(3)労働時間の把握義務の法定化

 労働時間の把握義務は、適正な労働時間管理や健康確保の義務を負う使用者の当然の責務であるから、平成13年4月6日付基発第339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」が定める使用者の労働時間把握義務(労働日毎の始業・終業時刻及び実労働時間の把握)及び記録義務は罰則をもって強制すべきである(※12)。

 その際、同基準の適用除外とされている管理監督者(労働基準法41条2号)及びみなし労働時間制が適用される労働者についても、当該労働者の過重労働防止及び健康確保の観点から適用を図る。また、その記録を改ざんする行為を厳しく規制すべきである。

(4)法定労働時間の特例措置の廃止

 現在、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業であって、常時10人未満の労働者を使用する事業場に認められている週44時間制(特例措置)は、労働者の平等の観点から速やかに廃止すべきである。

(5) 割増賃金制度の抜本的な改善

 現行の割増賃金制度が、時間外労働を抑制するために十分機能し得ず「割増賃金」ならぬ「割引賃金」となっている(※3)。割増率と算定基礎の両面から、改善をはかるべきである。具体的には、割増賃金の算定基礎については、賞与等を含めた年収を基礎に算定すべきである。

また近時、急速に広がっている固定残業代制度については、恒常的な時間外労働を前提とした制度であり、現行労基法の割増賃金制度や時間外労働に関する協定制度の趣旨を整合しないことから、こうした就業規則等のとりきめ自体を規制すべきである。

(6)労働基準法等の要件・定義の明確化と周知の徹底等

 管理監督者(労基法第41条第2号)、裁量労働制(労基法第38条の3)の適用範囲(要件)の曖昧さが、名ばかり管理職、名ばかり裁量労働制の広がりを許しており、その結果、長時間労働及び賃金不払残業を引き起こしている。

 従って、「管理監督者の範囲」「裁量労働制の適用範囲」等を画する要件・定義をより具体化する政省令あるいは指針等を整備すべきである。

(7)休息・生活時間の確保に向けた新たな措置

a 勤務から次の勤務までの休息・生活時間の確保

 現行法上、勤務から次の勤務までの休息時間の確保に関する規制は存在していないが(但し、自動車運転者の「改善基準」に一定の措置が盛り込まれている)、EU労働時間規制等の例を参考として、立法化すべきである(例えば、11時間程度の休息時間の保障)。

 また、現行法上、拘束時間に関する規制は休日の確保を除き存在しないが、休息・生活時間の確保の観点から見るなら、拘束時間の長さは切実な問題であり、一定の規制を講じるべきである。

b 1ヶ月単位変形労働時間制等の要件の厳格化

 1ヶ月単位変形労働時間制導入の要件は、変形期間内の総労働時間や各日の始業・終業時刻の特定などに止まり、1勤務における労働時間の長さには何らの制約がなく、非常識とも言える勤務(シフト設定)が散見されることから、1勤務における労働時間の上限を定めるべきである。また、1ヶ月単位変形労働時間制及び1年単位変形労働時間制について、変形期間開始後に個々の労働者の同意のない一方的な「始業・終業時刻の変更」「休日の振替」が認められないことを法令上明記すべきである。

(8)行政体制の充実強化

 厚生労働省が発表している労働基準監督官数は3千人程度であるが、この中には厚生労働省(本省)に勤務する監督官、都道府県労働局に勤務する監督官、労働基準監督署の管理職員(署長、次長)のほか、労災補償部門、安全衛生部門、庶務部門に配置されている労働基準監督官も少なくないことから、日常的に臨検監督、申告処理、司法実務(捜査)等に従事している監督官は、およそ1,500人ということになる。

 この人数は、ILOが定める労働基準監督官の配置基準(労働者1万人に1人)を大きく下回る。また、適用事業場数は、約450万件であるから、監督官が年間1人100件の監督を行いうると考えると、全事業場に赴くにはおよそ30年かかる計算になる。法違反さえいとわない「若者使い捨て企業」(「ブラック企業」)が広がる中、監督官の増員は急務である。

(※10)一部の社会保険労務士が「時間外・休日労働に関する協定届」を大量に提出し、そのすべての協定内容がまったく同一であることがあるが、このような場合、各事業場で労使の対等な話し合いがあったのか疑わしい。

(※11)付加金の付加率を三倍程度に引き上げるとともに、付加金請求権は賃金支払日(の不払いの事実)をもって確定させ、判決をもって支払いを命じるなど「逃げ得」とならない制度とすべきである。

(※12)労働行政の第一線からは、労働時間の把握義務が法定されていないことが、賃金不払残業の取締りを困難にしている点が指摘されている。実際、労働時間を労働者も、使用者も記録していなかったとなると、立件はおろか是正勧告すら難しい。いい加減な使用者ほど、責任逃れを許す結果となっている。

以上