働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

2013年7月
雇用分野の「規制改革」をどう見るか
−2013年6月5日付規制改革会議答申を中心に−

全労働省労働組合

1 雇用分野の規制改革は、日本経済の持続的な成長をもたらすか

政府の規制改革会議(内閣府)は、6月5日に「答申」を取りまとめ、これを受けたかたちで「規制改革実施計画」が閣議決定(6月14日)されている。

この答申は、規制改革の目的を「国の成長・発展、国民生活の安定・向上及び経済活動活性化への貢献」と位置付け、広範な分野に関わって規制改革を促している。

 雇用分野では、(1)正社員改革、(2)民間人材ビジネスの規制改革、(3)セイフティネット・職業教育訓練の整備・強化を「3つの柱」とし、具体的な規制改革項目としては、(1)ジョブ型正社員の雇用ルールの整備、(2)企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制等労働時間法制の見直し、(3)有料職業紹介事業の規制改革、(4)労働者派遣制度の見直しを掲げている。

しかし、雇用分野に限って言えば、これらの規制改革が日本経済の持続的な成長に資するのか、大きな疑問がある。

 実際、総合規制改革会議(2001年4月に設置)から始まった、一連の労働・雇用分野の規制改革(緩和)は、非正規雇用の拡大を後押しし、格差と貧困の広がりの一因となった。そして、こうした労働者の状態悪化が、デフレ(需要抑制と雇用縮小・賃金低下を繰り返す悪循環)の主要な要因となってきたことも見逃せない。

経済の活性化は、本来、雇用を広げ、働く者の労働条件を改善するための有効な条件であるが、逆に、労働者の雇用と生活を犠牲にした「経済の活性化」は、格差と貧困を広げ、社会保障制度の基盤を切り崩し、社会の不安定化をもたらす。

2000年代の状況がその典型である。

69か月(2002年2月〜2007年10月)にも及ぶ景気拡大期(いざなみ景気)にもかかわらず、企業の多くは不安定雇用(間接雇用を含む)を増やし、賃金(所得)を減らし続けた。その結果、わが国は経済の深刻な病であるデフレからの脱却を図る好機を逸した。もはや、トリクルダウン・セオリーの破綻は誰の目にも明らかであり、労働者を犠牲にした「成長」が、経済の再生とまったく無縁であることがわかる。

求められているのは、「良質な雇用」を広げることであり、これによって国内需要(とくに個人消費)を拡大し、持続性のある経済を再生を図ることである。

(※1)平均給与は、2001年から2007年にかけて、454.0万円から437.2万円へと減少した(国税庁「平成23年分民間給与実態統計調査」)。一方、同じ時期、企業の売上高、経常利益は過去最高を更新し続けた。また、主要企業の内部留保も増え続け、株主配当も3〜4倍に増加した(財務省「法人企業統計年報」等)。

2 大企業(多国籍企業)本位の議論ではないのか

規制改革会議、それと密接に連携する産業競争力会議は、農業、医療、労働などの領域(いずれも国民生活を支える基盤の領域)を「岩盤規制」と名指ししながら、雇用分野を重点分野(規制改革会議では、雇用ワーキング・グループを設置)の一つと位置付け、議論を重ねている。

しかし、こうした諸会議の委員構成は、雇用分野の「規制」を取り上げた議論に相応しいものだろうか。いずれの会議にも、労使関係の当事者である労働者の代表は一人として参加していない(中小企業等の代表も参加していない)。これでは、もっぱら大企業の利益した代弁した議論と受け止められても仕方がない。

この点について答申は、「雇用改革に関わる重要課題は、公労使三者による議論のプロセスを経る」べきことを認めているが、三者構成による議論は、単にプロセスを経ればよいのではなく、議論の公正さや実効性を担保するための重要な前提であることを認めるべきである。

また、規制改革会議は、規制改革推進の新たな手法として「国際先端テスト」を導入した。雇用分野においても、法制、行政体制等の国際比較(とくに、労働時間規制や行政職員数等)を行うことは有意義である。

肝心なことは、どのような観点で比較を行うかである。

この点で今回の「国際先端テスト」は、「投資先としての日本の魅力を最高水準に引き上げることを目指し」たものとされており(6月5日付「国際先端テストとりまとめ」)、投資の主体である大企業(多国籍企業)等の視点がより重視されている。しかし、雇用をめぐる議論は、「働く者の視点」「生活者の視点」等の多様な視点を欠いてはならず、この点でももっぱら大企業本位の議論と映る。

 以下、個別の規制改革項目について検討する。

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3 ジョブ型正社員の雇用ルールの整備(正社員改革)

(1) 「無限定」社員は許されるのか

答申は、「日本の正社員は、a.無期雇用、b.フルタイム、c.直接雇用、といった特徴を持つだけでなく、職務、勤務地、労働時間(残業)が限定されていないという傾向が欧米に比べても顕著であり、『無限定』社員となっている」ことから、正社員改革の第一歩として、「ジョブ型正社員(職務、勤務地又は労働時間が限定されている正社員)」に関する雇用ルールの整備を行うべきであり、「職務等に着目した『多様な正社員』モデルの普及・促進を図るため、労働条件の明示等、雇用管理上の留意点について取りまとめ、周知を図る」としている。

そもそもここで言う、職務、勤務地、労働時間(残業)が限定されていない「無限定」社員という存在自体、現行の法令(労基法、労安法、労契法等)にてらして許容されているとは解しがたい。例えば、労基法第41条が定める「管理監督者」であっても、過重労働防止の観点から労働時間は限定されなければならない。また、職務や勤務地の変更についても不利益を伴うなら、一定の合理性(不利益変更法理、配転法理等)が求められる。

答申は、あってはならない「無限定」社員という存在(「ジョブ型正社員」と並存)を当然視するものであり、そのアナウンス効果がもたらす弊害は少なくない。

「ジョブ型正社員」を論じる前に、すべての労働者を視野に入れ、過労死、過労自殺に結び付く過重労働を如何になくしていくか、また、如何にして労働者が家庭責任を相応しく負担しながら働き続けることが可能となるかを掘り下げて論じるべきである。

(2) 「ジョブ型正社員」の狙いは何か

その上で、「ジョブ型正社員」の普及・促進を図る狙いが問題となる。

答申が「正社員改革」の文脈の中で論じられていることや、連携する産業競争力会議では、一部の企業経営者から「解雇規制の緩和」が繰り返し主張されていることなどを見ると、今回の「ジョブ型正社員」構想は、非正規労働者の雇用の安定化や処遇の改善を狙ったものとは「別物」のようである。

 ならば、答申の狙いは何処にあるのか。

この点に関し、日本経団連は「勤務地や職種限定の労働者に対する使用者の雇用保障責任は、一般に、勤務地や職種が限定されていない、いわゆる正社員と当然には同列に扱われないという解釈がなされている。したがって、紛争を予防するため、特定の勤務地ないし職種が消滅すれば契約が終了する旨を労働協約、就業規則、個別契約で定めた場合には、当該勤務地ないし職種が消滅した事実をもって契約を終了しても、解雇権濫用法理がそのまま当たらないことを法定すべき」(「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」、2013年4月16日)と主張している。

また、規制改革会議の議論でも、一部の企業経営者から、「ジョブ型正社員」の要素を定め、それを満すことを前提に「パフォーマンスが悪かったら解雇される」ことを明文化(立法化)すべきとの意見が出されている。

これらを考慮すると、その狙いは、長年にわたり裁判所が多くの訴訟を通じて確立してきた判例法理(裁判による法創造)を「新たな立法」をもって変更することをめざすが、当面、「ジョブ型正社員」への解雇権濫用法理の適用において、「無限定」社員よりも緩和された要件で運用されることを周知せよということのようである。

しかしながら、「ジョブ型正社員」への解雇権濫用法理の適用が緩和されると断定することは適当ではない。解雇権濫用法理は、労使双方の多様な事情を個々の事案に即して慎重に利益衡量することを前提としており、一律の「基準」をアナウンスすることの弊害は大きい。

とくに、家庭責任を有する労働者を「ジョブ型正社員」と定め、解雇し易い労働者と扱うなら、育児介護休業法やILO第156号条約(家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する条約)の趣旨を没却する。また、派遣労働者を「ジョブ型正社員」(勤務地(派遣先)限定)と定め、派遣元は派遣先との労働者派遣契約が中途解除された際、容易に解雇し得るとするなら、派遣元(派遣会社)にとって、これほど都合のよい仕組みはないであろう。

(3) 「ジョブ型正社員」と労働行政

「ジョブ型正社員」を導入することは、現行法令上、まったく禁じられていないし、すでに多くの企業は、労使の合意のもとで多様な正社員制度を導入している(男女雇用機会均等法施行後に広がった「総合職」「一般職」などもその一類型であろう)。

こうした中で、答申は国(おそらく厚生労働省)に対して、「ジョブ型正社員」の普及・促進を求めている。しかし、「ジョブ型正社員」の評価に関わって、労使に様々な意見がある段階で行政機関(例えば、労働基準監督官)が普及・促進を一方的に進めるなら、職場(労使関係)に混乱を招きかねない。少なくとも、労働政策審議会の場で「ジョブ型正社員」の位置付け・評価に関わって十分なコンセンサスを得ることを前提とすべきである。

なお、法令の趣旨にてらして有益なことがらや、過重労働の防止や安全衛生の確保など望ましい労働条件、職場環境等の実現に資することがらについて、行政機関がその専門性を発揮して積極的な行政指導を行うことは重要であるし、行政本来の責務でもある。

この点で、規制改革会議(第3回)は、「法律に基づかず通達や行政指導による規制を原則廃止する」(議長代理提出資料)ことを求めているが、行政機関の役割を過小に位置付けるもので不適切であり、「ジョブ型正社員」の普及・促進を求めることともつじつまが合わない。

(4) 「解雇の金銭解決制度」をどう見るか

 答申は、「判決で解雇無効とされた場合における救済の多様化など労使双方が納得する雇用終了の在り方については、諸外国の制度状況、関係各層の意見など様々な視点を踏まえながら、丁寧に検討を行っていく必要がある」としている。

日本経団連が提唱する「解雇の金銭解決制度」の導入を示唆していると思われるが、違法・無効とされた法律行為(解雇)が、金銭の支払いによって一方的に有効になるという仕組みは、わが国の裁判制度に適合するのだろうか。有り体に言えば、司法の作用(法を適用し、権利義務関係を確定する作用)も、金次第でひっくり返ることを認めるのだろうか。

このような動きは、社会全体に「金さえ払えば」の意識を広げかねず、多くの使用者のモラルハザードを引き起こしかねない。

 他方、労働基準監督署や労働局で取り扱う解雇紛争では、労働者(被解雇者)が職場復帰を希望しないケースが多いのも事実であり、迅速、簡易、低廉(できれば無料)な解決(金銭解決を含む)をどのように実現していくかは大きな課題である。この点では、解雇を含む労働紛争の「多様な解決」を実現しうる「労働審判制度」や「個別労働紛争解決制度」(労働局長による指導、助言、あっせん)の体制と機能の充実を図ることが必要かつ適当である。

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4 労働時間法制の見直し

答申は、「個々の労働者のライフスタイルに合わせて労働時間に拘束されずにその能力を最大限発揮できるよう、多様で柔軟な働き方の実現のための環境整備が求められている」としている。

 現行の労働時間規制が、労働者の「多様で柔軟な働き方」を阻害しているので緩和すべきとの指摘であるが、はき違えてはならないのは、現行法令は労働者の「多様で柔軟な働き方」を規制しているのではなく、使用者の「多様で柔軟な働かせ方」を規制しているという点である。

労働局や労働基準監督署を訪れる労働者の声に真摯に耳を傾けるならば、いかに多くの労働者が過重労働に苦しみながら労働時間規制の強化を求めているか、また、不定形・不安定な働き方に苦しみながら就労形態の改善(拘束時間の規制や休息時間の確保等)を求めているかがわかるであろう。とくに、「多様で柔軟な働き方」と言われる裁量労働制の適用を受け、あるいは「管理監督者」として働く労働者やその家族から、ノルマ達成を厳しく迫られたり、あるいは激しい選別や競争にさらされる結果、無制限な長時間労働を余儀なくされている(多くは健康障害を発症)という訴えは後を絶たない。一方、労働時間規制の緩和を求める労働者は、皆無といってよい。

 答申が描く立法事実が正しいのか、はじめに検証してみる必要があるだろう。

また、答申は当面、「企画業務型裁量労働制やフレックスタイム制を始め、労働時間法制について、企業における実態調査・分析に基づき労働政策審議会で総合的に検討する」よう求めているが、前出の日本経団連の提言(※2)が掲げる事項とおおむね符合しており、もっぱら大企業の要望に傾いた内容と言える。

労働基準法は、使用者が適切に労働時間を管理することを基本に、労働時間の算定が困難な事業場外労働や業務遂行手段や時間配分等を労働者に委ねるざるを得ない裁量労働という特殊な労働実態に限り、例外的にみなし労働時間制度を認めているにすぎない。労働時間の把握・管理は、労働者に対して指揮命令権を有する者(使用者)の基本的な責務であって、それなくして安全配慮義務(労働契約法第5条)も果たし得ないだろう。

従って、過重労働をなくし、過労死、過労自殺を防止する観点から、労働時間の算定が可能な業務にこれ以上、みなし労働時間制を適用することは不適切である。

そもそもわが国の労働時間規制は、ILO第1号条約(労働時間(工業)条約)を批准していないなど、他の先進国に比べてたいへん緩やかなものとなっている。国際比較を広く明らかにしながら、働く環境として、「先端」と言わずとも、せめて標準的な規制(例えば、上限規制の導入)を講じるべきである。

あわせて、現行のみなし労働時間制は、その要件を定めた文言が抽象的で濫用的な運用を防ぐことがきわめて困難となっていることから、前記の労働時間規制の基本に即して、その明確化を図るべきである。

(※2)日本経団連「労働者の活躍と企業の成長を促す労働法制」(2013年4月16日)は、「労使自治を重視した労働時間法制改革」を掲げ、(1)企画業務型裁量労働制の見直し(対象業務と対象労働者の拡大、手続きの簡素化)、(2)事務系や研究技術開発系等の労働者に適した労働時間制度の創設、(3)フレックスタイム制の見直し(週休2日制の場合の時間外労働時間となる時間の計算方法、精算期間の柔軟化)、(4)変形労働時間制の見直(天災時の労働日の変更)等を求めている。

5 労働者派遣制度の見直し

答申は、「労働者派遣法の規制の根拠である『常用代替防止』は正社員の保護を目的としており、派遣労働者の保護とは必ずしも相容れない」とし、「『常用代替防止』のために派遣労働を『臨時的・一時的な業務』『専門業務』『特別の雇用管理を要する業務』に限定するという規制体系、規制手法を抜本的に見直」すよう求めている。具体的には、「(1)派遣期間の在り方(専門26業務に該当するかどうかによって派遣期間が異なる現行制)、(2)派遣労働者のキャリアアップ措置及び(3)派遣労働者の均衡待遇の在り方を含め労働政策審議会で検討する」としている。

労働者派遣法は、派遣元に雇用される労働者の保護と派遣先に雇用される労働者(派遣労働者)の保護の双方を視野に入れており、前者の重要な原則が「常用代替防止」でなのである。これは直接雇用の原則(労働基準法第6条、職業安定法第44条)からも導き出される。

従って、直接雇用の原則の例外である間接雇用(派遣労働)を許容するにあたっては、その必要性が合理的であって、かつ派遣先・派遣元双方の労働者がいずれの保護にも欠けないことが前提とならなければならない。

このような見地から、現行労働者派遣法が派遣労働を「臨時的・一時的な業務」「専門業務」「特別の雇用管理を要する業務」に限定していること(常用代替防止の原則)は、当然であって、この原則を放擲することは許されない(そればかりか、現行労働者派遣法の規制が不十分との批判の中には、肯けるものが多い)。労働者を常用的に使用(指揮命令)したいのであれば、労働者を直接雇用すればよいだけである。

なお、答申が指摘する「派遣労働者のキャリアアップ措置及び派遣労働者の均衡待遇」は、「常用代替防止」の議論に関わらず、速やかに実効ある措置を講じる必要がある。

6 有料職業紹介事業の規制改革

答申は、有料職業紹介事業についても言及し、「民間人材ビジネスの活用によるマッチング機能強化の観点から、利用者の立場に立った有料職業紹介制度の在り方について引き続き問題意識を持ちつつ、当面、求職者からの職業紹介手数料徴収が可能な職業の拡大について検討する」としている。

職業紹介手数料徴収が一定の範囲に制限されているのは、職業紹介事業者の営利を求める行為が、労働者(とくに資力がない労働者)の権利・利益を損なうことがないようにする趣旨であり、とくに求職者の資力によって、職業紹介事業者のサービスに差異が生じることは、社会不安の一因となると考えるからである。

実際、規制改革会議(第4回雇用ワーキング・グループ)の議論でも、委員から「少し手数料を払っても、それを上回る処遇を紹介してくれるなら、私ならそのサービスは受けたい」との指摘があった。裏を返せば、手数料が払えなければよい処遇の仕事は紹介してもらえないことを意味しており、「貧困の連鎖」を引き起こしかねない。 

この間の「規制改革」をめぐる議論では、「人が動く」「労働移動」が繰り返し強調されており、あわせて労働者派遣事業や有料職業紹介事業の規制改革(緩和)が優先的に取り上げられている。また、すでにハローワーク(公共職業安定所)が保有する求人情報をオンラインで民間職業紹介業者に提供することも決定されており(「日本再興戦略」)、人材ビジネス業者の利益拡大に直結する議論が非常に多いと感じる。

あらためて、求職者の実態を見極め、労使の代表(※3)によって真に求められる規制の在り方を検討することが求められる。

(※3)ILO第181号条約(民間職業仲介事業所に関する条約)第7条第1項及び第2項の規定は次のとおり。

(1)民間職業仲介事業所は、労働者からいかなる手数料又は経費についてもその全部又は一部を直接又は間接に徴収してはならない。

(2)権限のある機関は、関係する労働者の利益のために、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、特定の種類の労働者及び民間職業仲介事業所が提供する特定の種類のサービスについて(1)の規定の例外を認めることができる。

以上

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