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「有期労働契約の在り方について」(建議)について

2012年1月/全労働省労働組合

 厚生労働省の労働政策審議会は12月26日、「有期労働契約の在り方について」と題する建議を行った。

(a)合理的な理由がない場合(例外事由に該当しない場合)には、有期労働契約を締結できない仕組みとすることは、例外業務の範囲をめぐる紛争多発への懸念や、雇用機会の減少等を踏まえて措置しない。

(b)有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応として、有期労働契約が同一の労働者と使用者との間で5年(利用可能期間)を超えて反復更新された場合には、労働者の申し出により、期間の定めのない契約に転換させる仕組み(期間の定めを除く労働条件は別段の定めのない限り、従前と同一とする)を導入する。

この場合、従前の有期労働契約と通算されないこととなるクーリング期間(6月、但し有期労働契約の期間が1年未満の場合はその2分の1)を設ける。

利用可能期間到達前の雇止めの抑制策の在り方については、労使の十分な検討が望まれる。

(c)いわゆる「雇止め法理」の内容を制定法化し、明確化を図る。

(d)有期労働契約の内容である労働条件について、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、期間の定めを理由とする不合理なものであってはならないこととする。

 主な内容は前記のとおりであるが、多くの問題点を内包していることから、以下、全労働の考え方を明らかにする。

 

1 有期労働契約の何が問題なのか

今日、有期雇用労働者は、労働者の非正規化(2010年、1756万人)(※1)の動きと相まって、その比率(全労働者比)を急速に高めており、そのことが日本社会にいくつもの深刻な影を落としている。

その第一は、「貧困層」の広がりであり、特にフルタイムで働いても貧困から抜け出すことのできない「ワーキング・プア層」の広がりである。

実際、有期雇用労働者の多くは、時給制又は日給制の賃金制度のもとにあり、昇給・昇任制度からも除外されるなど、低賃金を強いられている。

統計上も、有期雇用労働者のほとんどを占める非正規労働者の賃金は、正規労働者の65%(男性、女性は64%、いずれも大企業)に止まっており(※2)、年間収入分布で見ると、パート・アルバイト(短時間勤務を含む)では50万〜99万円、近年、急増している派遣社員・契約社員では200万円から249万円の各レンジにそれぞれ集中が認められる(※3)。

このような格差が生じる原因の一つは、使用者の多くが「賃金の節約のため」(※4)に正社員を減らし、非正規化(≒有期雇用労働者化)を推し進めた結果であり、不合理な差別が介在している可能性が高い。

また、こうした有期雇用労働者の広がりが、社会保険制度(健康保険制度や年金制度)から制度的に、あるいは低賃金ゆえに事実上、除外される労働者を増やし、社会保険制度の基盤を揺るがし続けていることも見逃せない。

公正な労働条件の確保を求める多くの有期雇用労働者の声に応える法整備(均等待遇原則の確立等)が急務である。

第二に、有期雇用労働者が事実上の「無権利状態」に置かれている現実を直視する必要がある。

自ら従事する事業又は業務が恒常的(無期)であるにもかかわらず、有期雇用を強いられる労働者は、その仕事が引き続き存続するにもかかわらず、常に「雇用不安」と向き合わなければならない。

契約期間満了とともに言い渡される雇止めは、労働契約法や判例法理が示す解雇規制の潜脱の道具として「利用」されており(実際上、有期雇用労働者が雇止めの有効性等を訴訟等で争うことは難しい)、使い捨て同然の扱いも少なくない。

そして、更に重要なのは、こうした一方的な雇止めのおそれが常にあるため、法令によって保障された権利を行使することさえ、有期雇用労働者にとっては難しい点である。実際、年次有給休暇や育児休業の請求のほか、労働組合を作り、あるいは加入することさえも躊躇せざるを得ない状況、換言すれば、適切な労働条件を求めることさえできない状況、正に「もの言えぬ状況」「無権利状態」に置かれているのである。

加えて近時、有期雇用労働者の弱い立場につけ入った悪質なセクハラ、パワハラも目立っている。

契約更新を繰り返すことで得られる数々の「メリット」は、悪質な使用者にとってまことに都合のよいものなのであって、法整備を通じ、こうした事態を速やかに克服しなければならない。

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2 どのような措置が求められているのか

前記第一の問題点については、法制上、均等待遇の原則を確立することが重要である。建議は「職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、期間の定めを理由とする不合理なもの」を規制するとしているが、その規定の仕方如何で実効性を欠いたものとなりかねない。

例えば、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)第8条は、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」の差別的取り扱いを禁じているが、所定の3要件(※5)を満たすパートタイム労働者はわずか0.1%にすぎない(※6)。また、労働基準法第4条は、男女同一賃金の原則を定めるが、原則として労働者が女性であることのみを理由として行う差別を禁止する趣旨と解されていることから(※7)、複雑な賃金制度のもとで「差別的取り扱い」を判定することは実務上きわめて困難となっている。

従って、広範な有期雇用労働者を対象することができ、判断要素と判断基準を具体的に列挙した規定を整備することが重要である。あわせて、労働局企画室の体制強化等を通じて、「差別的取り扱い」の判断をめぐる紛争を適切に解決し得る仕組みを充実させる必要がある。

前記第二の問題点については、入り口規制、すなわち合理的な理由のある場合(業務自体が臨時的・一時的である場合等)を除いて、有期労働契約を締結することはできないものとする措置が必要である。

建議は入り口規制を行わない理由として、「例外業務の範囲をめぐる紛争多発への懸念」を指摘するが、必要な規制に伴う新たな紛争の発生に対しては、必要な紛争解決制度を整備することが必要なのであって、入り口規制の導入を忌避する理由とはならない。

また、建議は同様に「雇用機会の減少」をその理由に掲げるが、そもそも雇用量は当該事業が必要とする仕事量に比例するのであって、有期雇用労働者を増やすことで雇用量が増えるわけではなく(ワークシェアリングの必要性を述べているなら、労働時間規制を進めることが合理的)、これも入り口規制を行わない理由とはならない。

3 出口規制の導入をどう見るか

 建議は、新たに5年間の有期労働契約の利用可能期間を定め、これを超えて有期労働契約が反復更新された場合、期間の定めのない契約に転換させる仕組み(無期雇用転換権の付与)を設けるとしている。

 この規定の最大の問題点は、事実上、期間の定めのない契約に転換するかどうかの判断が使用者のフリーハンドにゆだねられており、有期雇用労働者の意向が反映される余地がほとんどないことである(無期雇用転換権の付与は、形式上、労働者の申し出を要件としているが、「利用可能期間内の雇止めをしない」という使用者の判断が先行する)。

 つまり、有期雇用労働者の「無権利状態」を維持したいと思う使用者は、無期雇用転換権が付与される以前に雇止めを行い、代替する労働者を雇い入れるか、新たに用意されるクーリング制度を利用すればよいだけである。

 逆に、使用者が有期雇用労働者を無期雇用に転換してもよいと思うなら、無期雇用転換権の付与を受け入れることになるが、それは今でも可能なのであって、労働者にとってまったく新しいメリットとは言い難い。

 そればかりか、5年以内の雇止めに「利用可能期間」(上限)という新たな「正当事由」が加わり、安易な雇止めが横行する可能性が高い。

 しかも将来、有期雇用から無期雇用への転換にあたって新たな奨励金が創設されるなら(派遣労働者の派遣元への直接雇用の例に倣えば、最高額で100万円程度か)、それを目当てに無期雇用に有期雇用に前置することが助長されることになり、かえって有期雇用労働者が増大することになるだろう。

 なお、この出口規制を労働組合の側から評価する意見もある。

 すなわち、「有期労働契約が反復・継続されることは不適正・不適切」とした上で、これを防止する措置と位置付けているようである。しかし、本来、無期雇用であるべきであるにもかかわらず、有期労働契約が反復・継続されることが不適正・不適切なのであって、反復・継続自体を禁止することだけでは、有期雇用労働者の権利保障に結び付かず、何らの解決にもつながらない。有期雇用労働者の一番の願いは、「雇用を継続してほしい」「雇用不安をなくしてほしい」という点にこそある。最も重要なステイクホルダーである有期雇用労働者の声がまったく反映されていないことは問題である。

 しかも、建議は新たにクーリング期間を設けるとしており、クーリング期間を挟みながら、有期雇用契約が反復・継続されることは不適正・不適切とならないか、理解に苦しむところである。

4 雇止め法理の法制化をどう見るか

建議は、いわゆる雇止め法理の内容を法制化し、明確化を図るとしている。

現行の労働契約法の例に見られるように、判例法理を実定法化することは一歩前進であるだろう。しかし、個別労働関係紛争処理の現場(労働局又は労働基準監督署)において、労働契約法の制定が使用者の遵法意識の向上につながったという意見はほとんど聞くことができない。従って、これを過大に評価することで、「出口規制」の深刻な弊害に目を瞑ることがあってはならないだろう。

他方、雇止め法理の法制化にあたっては、有期雇用労働者の実情に即した立法政策上の措置が不可欠である。

1つは、いわゆる不更新条項への規制である。有期労働契約の反復・継続した後に次回の更新を行わないことを約する場合やあらかじめ契約更新の上限(例えば4回)を約する場合があるが、このような場合、多くの判例は有期雇用労働者の契約更新への「合理的な期待」を認めず、雇止め法理の適用を否定する(※8)。しかし、契約更新に際して、不更新条項に労働者が合意しないことは、その時点で雇止め(あるいは不採用)を言い渡されることに等しいのであるから、有期雇用労働者は如何に不満であってもこれを受け入れざるを得ないのが実態である。従って、雇止め法理の「抜け穴」とも言うべき不更新条項を規制することが不可欠である。

もう1つは、有期労働契約を「試用期間」として扱うことへの規制である。すでに有期労働契約の「利用可能期間」の設定(出口規制)が、雇止めの新たな「正当事由」となり得る可能性を指摘したが(前記3)、この「正当事由」が後押しし、無期雇用にあたって5年程度の有期雇用を前置させる雇用管理が広がるおそれがある。更に、有期労働契約を使い勝手のよい「試用期間」として位置付けた運用が一般化する可能性もある。

これまで判例は、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるのであるから、合理的範囲を越えた長期の試用期間の定めは公序良俗に反し、その限りにおいて無効であるとしており(※9)、また、試用期間終了時の解雇(本採用拒否)についても、多くの判例が、解雇権濫用法理に準じて扱い、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認されるものでなければならないとしている。

こうした「試用期間」にかかる必要な制約を有期労働契約の雇止めという「形式」で潜脱する行為を明確に規制することが必要である。

以上のとおり、建議の内容はもっとも必要とされる法整備を怠る一方、新たな「出口規制」によって深刻な弊害をもたらすおそれが大きいことから、抜本的な修正を講じるべきである。

※1 総務省『労働力調査』(2010年)。このデータを10年前と比較すると483万人の増加が認められる。

※2 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』(2010年)。

※3 厚生労働省『労働経済白書』(2011年版)。

※4 厚生労働省『就業形態の多様化に関する総合実態調査』(2011年)によれば、非正規社員を活用する理由として43.8%が「賃金の節約のため」と回答(複数回答)している。

※5 パートタイム労働法第8条が定める要件について、厚生労働省は「職務の内容(業務の内容と責任の程度)」、「人材活用の仕組みや運用等(人事異動等の有無及び範囲)」、「労働契約期間の定めの有無」の3つに整理し、指導している。

※6 『パートタイム労働法の改正の効果等』 (第106回労働政策審議会雇用均等分科会配付資料、平成23年10月25日)は、「パートタイム労働法第8条の3要件に該当するパートタイム労働者は、平成22年調査によると調査対象パートタイム労働者の0.1%」と指摘している。

※7 昭22・9・13発基第17号、平9・9・25基発第648号。

※8 近畿コカ・コーラボトリング事件(大阪地判H17.1.13)等。

※9 ブラザー工業事件(名古屋地判S59.3.23)等。

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