働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

2010年 3月
外国人研修・実習制度はどう変わるか
外国人研修生ネットワーク 旗手 明 氏を囲んで

外国人研修・技能実習生への権利侵害が大きな社会問題となる中、改正入管法(出入国管理・難民認定法)の施行が予定されています。今後、外国人研修・技能実習制度はどう変わるのか、労働行政の課題は何か等について、2009年12月5日、座談会を実施しました。

 座談会は、外国人研修生権利ネットワークの旗手明氏を中心に、組合員A氏(労働基準監督官)が加わり、全労働本部役員が進行役(司会)を努めました。

司会:今日は、「外国人研修・技能実習制度はどう変わるか」というテーマで外国人研修生権利ネットワークの旗手さんを囲んで懇談したいと思います。

最初に、外国人研修生・実習生の実情を明らかにしていきたいと思います。統計的なところから、いくつか明らかにしていただけますか。

◎外国人研修生・技能実習生の実情と特徴

 旗手:まず、「研修」という在留資格ができたのが1989年の入管法(出入国管理及び難民認定法)改正です。その実施は、1990年6月。当時の状況を統計的に見ると、91年の研修生の入国者数が43,649人です。「働きながら学ぶ」という技能実習制度が設けられたのが93年。そして97年にはKSD事件がからんで、技能実習期間が1年から2年に延長され、3年間のローテーション政策として確立された。それ以降の研修生の入国者数を見ると、90年代は基本的に4万人台、2000年から02年まで5万人台、その後03年の6万人台から、04年が7万人台、05年が8万人台、06年が9万人台、07年と08年が10万人台と、うなぎのぼりという状態です。

 ただ、08年秋以降、リーマンショックの影響もあり、やや落ちています。そして、09年の月々の状況を見ていくと、現時点で08年と比べてほぼ2割減になっていますから、確実に減少すると思います。

司会:経済状況を反映して数が大きく変動しているように思えます。

旗手:その通りです。今年は研修生・技能実習生が途中で帰るということが起きています。先般、法務省から確認した数字では、08年10月から09年8月、つまり11カ月の途中帰国者が4,040人となっています。いま、研修生・技能実習生は急激に減少していく過程に入っています。しかし、それでも現在、約20万人の研修生・実習生が日本で生活し、働いています。

司会:このような研修生・実習生は、具体的にはどういう業種や地域に多いのですか。また、性別や国籍にも特徴がありますか。

旗手:地域的な偏りは、はっきりとあります。08年のデータですが、愛知がトップ、その次に茨城、広島、岐阜、静岡と続いています。

 かなり大雑把に言うと、自動車関連産業の多い地域に集中しているという印象を受けます。ただ、具体的な職種等は様々です。自動車関連産業は裾野が広く、直接自動車の組立をする工程に従事するとは限らないわけです。シートの製造は繊維産業になりますし、プラスチック成型の部門もかなりあり、部品関係は金属加工になります。

司会:農業も多いと聞いています。

旗手:農業分野は最近、増えてきています。地域的には、茨城県が飛び抜けています。また、JITCO支援の農業研修生の受入数は、03年の2,768人から08年の6,353人と2倍以上になり、とりわけ技能実習移行申請者数はその間に1,155人から4,981人と4倍以上に急増しています。

 また、外国人研修生全体を性別に見ると、かつては男性が多かったのですが、01年以降、女性の研修生が男性を上回っています。国籍では、中国が3分の2も占めております。

司会:研修・技能実習制度は、「企業単独型」と「団体監理型」がありますが、どちらが多く運用されているのですか。

旗手:圧倒的に団体監理型です。

 研修生の受け入れは、国際協力機構(JICA)、海外技術者研修協会(AOTS)、ILO等の国受入れと、JITCO(国際研修協力機構)支援の下での受入れ、その他に分かれます。国受入れの数は1万数千人で10年以上にわたって横ばいであるのに対して、JITCO支援の受入れは急増しており、08年の数字で68,150人(全体のほぼ3分の2)です。この中で、「企業単独型」と「団体監理型」を比較すると、「団体監理型」が9割を占め、1割弱が「企業単独型」です。なお、国受入れ等も含めた比率で見ても、「団体監理型」が6割を占めています。

◎外国人研修生・実習生に対する様々な権利侵害

司会:さて、外国人研修生・実習生に関しては、この間、新聞報道等でもさまざまな権利侵害が報道されています。労働行政の現場から見て、どういう権利侵害が特徴なのでしょうか。

A:私は、労働基準監督官をしています。

 技能実習生を受け入れている事業場に、定期監督等として立ち入ることがありますが、時間外労働手当について、労基法37条に定める割増賃金が払われていないだけでなく、そもそも時間給に満たない額でしか払われていない事例がありました。また、他署のケースですが、強制貯金が疑われるような事案、経営不振で賃金未払いが起きた事案もありました。

 注目を浴びたケースでは、和歌山局の労働基準監督署が09年9月に中国人実習生を受け入れていた4社を一挙に送検した事案があります。時間外労働が1カ月に115時間、時間外労働に関する協定を上回る時間外労働をさせ、その上、時間外労働手当の額がわずか300円だった。ですから労基法37条違反や最賃法5条違反もある。この事案は、かなり悪質で、家宅捜索(強制捜査)まで行っています。この他、岐阜局などでも送検に至った事案(最低賃金法違反等)が複数件あります。ただ、このような送検事例は未だ必ずしも多くない。いろいろな法違反、問題点は見えてはくるのですが、多くのケースは行政指導に止まっているのではないか。例えば、これは岐阜局がとりまとめたものですが、平成20年度に外国人技能実習生を受け入れている106事業場に臨検監督を実施したところ、約7割の事業場で労基法や労働安全衛生法の違反があったそうです。是正措置として支払わせた金額は、総額1億円近くにのぼっています。

司会:労働基準監督官が臨検した事業場では、行政指導に従った是正措置が講じられているとしても、先程の外国人研修生・実習生の人数を考慮すると、労働基準監督署の眼が未だ行き届いていない事業場は、かなり多いと考えなければならないでしょう。

 『外国人研修生 時給300円の労働者』(外国人研修生権利ネットワーク編、明石書店)という、衝撃的なタイトルの本が出版されていますが、その中にもひどい権利侵害の実態が紹介されています。

旗手:明らかな最賃法違反の時給300円。このようなケースは、たまたま起こっているわけではなくて、研修生・実習生の地域相場だったり、業種相場だったりして、「300円」がある種の基準になってしまっているという状況があります。

 外国人研修生・実習生に関わる典型的な権利侵害のケースを紹介します。「山梨事件」と言われていますが、受入れ機関は「テクノクリーン」という会社でした。婦人・子ども服製造という職種で、研修・技能実習制度に基づいて来日をした中国人研修生の事案です。実態としては、婦人・子ども服製造ではなくて、クリーニング会社で洗濯機に洗濯物を出し入れする作業を延々と行っていました。(ちなみにクリーニングは、技能実習の職種にはない。)これでは、ほとんど何の技能も身につかない。しかも、8時半から22時まで働き、残業代は時給300円でした。研修手当と技能実習賃金とも、月5万円。こういう働かせ方だったので、研修生たちは不満を持ち、ついには08年8月、「正規な報酬の支払い」を求めて会社に要望書を出しました。するとたちまち強制帰国、つまり無理矢理に中国に返すという動きになったのです。

 こういう強制帰国というのは、私どもの相談の中では、決して例外的ではなくて、たまたま何らかの形で支援団体につながったケースが表に出てきているにすぎません。言うことを聞かない研修生・技能実習生は最終的には「帰国をさせるぞ」というのが、極めて有効な脅しの手段になり、正当な権利主張を妨げる構造になっています。

 このケースでは、会社が15人ほどで暴力的に6人の技能実習生の寝込みを襲い、中部国際空港から強制帰国させようとしました。しかし、実習生たちは、会社側の拘束を逃れたり、つかまったりと繰り返す中で、暴力行為あるいは監禁行為があって、打撲・負傷をしたり、足首を骨折する実習生まで出ました。結局、3人が何とか逃走して、地域の住民や全統一労組に救済され、残る3人は帰国させられました。

 この事件は、外国人研修生権利ネットワークの共同代表でもある莫邦富(もうばんふ)さん(中国人ジャーナリスト)が中国系メディアに記事を載せ、全世界的に報じられたこともあり、その年の中国の年間10大ニュースのひとつにまでなりました。

 本来なら、本当に研修が行われているかどうかを、JITCO等が巡回指導という形でチェックを行うことになっています。しかし実は、巡回指導にくる日だけ、クリーニング工場の一角にミシンを置いて、婦人子ども服製造をやっているかのような状況を一時だけ作り出しチェックを免れていたのです。こんな単純な偽装を見抜けないJITCOの巡回指導とは、一体何なのでしょうか。

 今回の事件は、救済に結びついたという意味ではレアケースなのですが、こうした事件そのものはけっしてレアケースではないのです。

司会:研修・技能実習制度の基本理念である「より実践的な技術・技能等の開発途上国等への移転を図り、開発途上国との経済発展を担う人づくり」、この理念とはまったく裏腹の事態が進行している。すなわち、低賃金労働者の確保、さらに低賃金だけでなく、違法労働の温床になっているという見方ができるのではないでしょうか。

◎米国「人身売買報告書」の指摘

旗手:できると思います。研修生等が置かれた状況をさらに補足しておきたいのですが、まず、パスポートを取り上げられる。そして、携帯電話等の通信手段を持つことを禁止され、外部との接点を奪われる。あるいは生活上も外泊や遠出を禁じられる。さらに、強制貯金をさせられている場合もあるし、さらには通帳や印鑑も事業主が保管しているというケースもあります。

 こうした中で、2007年以降毎年、アメリカ国務省の「人身売買報告書」において、日本の研修・技能実習制度は「労働搾取目的の人身売買」であるという厳しい指摘が続いています。2007年には、一応そこに触れたというレベルでしたが、だんだん具体的な触れ方になっていて、日本政府への苛立ちの反映だと思いますが、だんだん強い調子に切り替わってきています。また、08年10月には、国連の自由権規約委員会でも、同様に「強制労働」ではないかと懸念を表明しています。さらに先般、09年8月の女性差別撤廃条約委員会でも研修・技能実習制度が「労働搾取」に利用されているという懸念が示されています。

司会:人身取引(トラフィッキング)にあたるというのは、具体的にどのような状態をさすのでしょうか。

旗手:「人身売買」とは、売春の強要や強制労働などの目的で人を取引することを言います。米国国務省が人身売買かどうかの基準、つまり見分け方を出しています。例えば、「パスポート、または有効な身分証明書を本人が所持しているか」という項目があります。研修生・技能実習生のパスポートや外国人登録証明書等は、受入れ企業や受入れ団体に預けられているケースが、例外なくとまでは言いませんが、大部分だったのです。

 それから、「どのような賃金、雇用条件で働いているか」という項目があります。これも時給300円では該当してしまう。最近、問題になっているのは外国人実習生の長時間労働で、実は過労死ではないかという事案も出ています。

 国際的な基準からすれば「人身売買」の、かなり濃厚な疑いがあると言わざるを得ないのです。

◇人身売買被害者を見分ける質問事項

(米国国務省・人身売買監視対策室)

1、本人が職場から自由に外出できるか?

2、身体的、性的または精神的な虐待を受けていないか?

3、パスポート又は有効な身分証明書を本人が所持しているか?

4、どのような賃金および雇用条件で働いているか?

5、自宅に住んでいるか、それとも職場の中またはその地区に住んでいるか?

6、被害者の可能性のある人物が外国籍の場合、どのように当該国に到着したのか?

7、本人またはその家族が脅迫されたことがあるか?

8、本人がその仕事を辞めた場合、本人またはその家族に害が及ぶことを恐れているか?

A:もう一つ送出し側の問題があるのではないでしょうか。送出し機関に渡航費用等の借金を作らされているだけでなく、契約不履行時の違約金みたいなものを定められたり、家族が人質(保証人)とされたりという状況があると話によく聞きます。

旗手:保証金、違約金、手数料等、様々な名目で送出し機関側が、研修生やその家族から金銭を受け取っています。最近は、そういう諸々の経費を含めて中国からの研修生は100万円前後の支払いを事前に迫られるという状況があり、いわば自分の財産を全部かたにして、あるいは親戚縁者から大金を借り、相当な犠牲を払って日本に働きに来ています。日本に来れば、その何倍かの収入、300万円とか400万円ぐらいは貯めて帰れる、と言われて来ているという実情があります。

 研修+技能実習で3年間ですが、3年間ちゃんと労働すれば保証金は自分の手元に戻るが、途中で帰されるようなことを起こせば保証金は召しあげられる。

 ですから、先ほどの山梨のケースのように、当然の権利を主張したために途中帰国させられると、予定した収入が得られないだけではなくて、保証金も召し上げられ、さらに違約金まで取られるというように、トリプルでダメージを受ける。したがって、権利主張が非常にしづらい構造が作り出されている。

司会:労基法で禁じられている違約金ないし、損害賠償の予定の構造に近いです。

A:国外で行われているから、労働基準監督署として手を出せない部分があるが、これが国内で完結しているなら、明らかに違約金等の問題です。そういう意味でも、グローバルに見たとき、確かに「人身売買」に該当する面があると思います。

 労働基準行政の現場で事業主からよく聞かされるのは、「労働力が欲しいんだ。しかも彼らみたいに安い賃金で働いてくれる人がいなければ、自分たちの事業が成り立たない」ということです。そこには、技能の移転等の理念とは全く乖離した実態が確かにあり、どうしようもない矛盾を多くの監督官が感じています。

この記事のトップへ

◎入管法の改正をどう見るか

 司会:入管法(出入国管理及び難民認定法)の改定がこの程ありましたが、この間の経緯を紹介していただけますか。

旗手:今回の入管法改定の主眼は、在留管理の強化です。これに関連して外国人登録制度を廃止して、IC在留カードという制度に切り換えます。また、住民基本台帳法の改定も伴って、外国人住民の台帳制度も取り入れられます。09年7月に公布されて3年以内に施行されます。

 加えて、大きな柱の一つとして、研修制度から新たな技能実習制度に「改正」して、労働法の適用対象とすることとなりました。これは公布から1年後の施行ということで、10年7月1日に実施されます。

 これ自体は、従来、外国人労働者を「研修」という名目で実質的に「労働」させているのだから、できるだけ労働法を適用すべきだという指摘を受けたもので、少なくともマイナスの改正ではない、と一応言えると思います。

 また、これに関連して、従来、指針等という法的にきわめて低いレベルの規制でしかなかった事項を法務省令に取り入れる、という方策も打ち出されています。いま、省令案が最終的な検討段階に入っているところです。

 その上で、今回の改定をどう見るかですが、先程ありましたように、制度の理念は国際貢献としての技能・技術の移転であるにもかかわらず、実態は、主として中小・零細企業に対する低賃金労働力の確保策となっている。その矛盾が、研修生にしわ寄せされてきているのですが、こうした理念と実態の乖離は今回の改定でも維持されている。こうした枠組みは廃止した方がいいですし、その上で、労働力の確保策として別にきちんとした制度を確立すべきではないか。その視点から見ると、今回の改定はきわめて部分的なものに止まっている、と思います。

 その上で、具体的にどういうところが改善されて、どういうところが相変わらずかということですが、ポイントを幾つか紹介したいと思います。

 いま、省令案として示されているものを見ますと、従来、不正行為とされた行為類型を、今回、省令に盛り込み不正行為の定義を明確化しました。それに伴って不正行為をした者に対して、受入れ停止期間を最大3年から5年に延長し、5年・3年・1年と不正行為をランク分けしています。その中には、パスポートの取上げであるとか、保証金の徴収、賃金の不払い等の行為も入ります。

 それから、「とばし行為」つまり受入れ企業以外のところで働かせるということも起こっていたわけですが、これも不正行為として扱われることになります。

 保証金や違約金の徴収については、受入れ要件としても位置づけており、こうした問題点にある程度対応しようという姿勢は出てきていると思います。

 また、受入れ団体の問題があります。今後は、団体監理型の受入れ団体は、「監理団体」と表現します。そこがいろいろチェックをしたり、法務省に報告をしたり、制度を健全に運営する中核的な機関となると位置づけています。しかし実は、受入れ団体こそが制度の劣化を招いた元凶なのです。これまで受入れ団体自身が、「安く外国人が使えます。時給300円でいいですよ。パスポートを預かってもいい」等という話をしてきたのです。ここを温存したまま制度を改善しようということですから、無理があると思います。さらに、強制帰国への対応策が必要なのですが、明確な措置が示されていません。

司会:08年6月に厚生労働省の研究会報告が出されています。その中にあったJITCOの抜本的な見直しや受入れ団体の許可制の導入等が、今回の改正では見送られています。研究会報告から大分後退をした、という印象でしょうか。

旗手:そうです。JITCOは、関係者の指導等を担う研修・技能実習制度の中核的な機関である、という位置づけになっています。しかし、研究会報告は、JITCOを制度運営上、サービスを提供する機関であり、規制をする機関としては相応しくない。規制は、別途の公的機関によるべきとしていたのです。こういう点については、今回の見直しで触れていない。一言でいうと、枝葉の整理はやったが、根っこのところは変わっていないと見ています。

 

◎韓国における外国人技能実習制度の見直し

 司会:研修制度は韓国でも、日本よりやや前に見直しがありましたが、韓国の制度見直しはどのように評価されていますか。

旗手:韓国では、日本の研修制度を参考に、外国人労働者に関する研修制度を創設してきたという経過があります。日本が1993年に技能実習制度を新たに設けましたが、韓国では2000年に研修就業制度が始まっています。伺っているところでは、韓国ではかなり率直に「労働力の輸入なのだ」という意識を、政府側も受入れ企業も持っていました。

 実は、韓国の見直しには、外国人研修生の半数以上が逃亡してしまう状況があり、制度の破綻がはっきりしていたという事情が背景にあったと思います。具体的には、04年から雇用許可制度を施行して、雇用許可制と研修制度が並行するという期間を経て、07年1月に産業研修・研修就業制度が廃止されました。ただ若干例外があり、海外投資企業研修制度というものが部分的に残っていますが、基本的には雇用許可制に移行したと考えていいと思います。

 従来、韓国の制度は日本と同じように、民間での受入れを認める制度だったのですが、雇用許可制度に切り換える段階で、受入れルートを政府機関に一本化しました。日本で言えば、公共職業安定所にあたる組織が基本的に受入れルートを全面的に担うという形で、現在、15カ国ぐらいと二国間協定を結んでいます。

 雇用許可制度の運用方法はいろいろな説明が必要ですが、基本的には代替ではなくて補完のシステムとして考えられています。要するに、韓国人労働者がいないところに、雇用許可制度を通じて外国人労働者を入れていく、というのが基本的な枠組みです。そのため、労働市場テストが実施されています。ただ一部では、建設業等で代替的な形での受入れになっているという指摘もされています。

 韓国出身の研究者からの報告によりますと、送出し費用が従来の研修制度に比べて3割ぐらいに減少している。つまり7割も削減されたという報告があり、かつてのシステムがいかに搾取的であったかが分かります。

A:雇用許可制度のもとで外国人労働者を受け入れるとした場合、外国人が自国民の仕事の代替にならないよう、かなり慎重に運用されていると聞きます。韓国も08年末から09年にかけて、経済状態が厳しくなっている中で失業者が増えていると思いますが、韓国の中で、そのせいで仕事が失われているとか、そういう指摘はされていないのですか。

旗手:いまのところ、そこまでの状況は聞いていません。具体的には、クオータ制と呼んでいますが、もともと人数枠を設定して総量規制で対応できる制度設計になっています。制度自体に、ある程度経済状況の変化に対応できる設計が組み込まれていると言っていいだろうと思います。ただ、当然、影響は出ているだろうと思います。

 

この記事のトップへ

 

◎外国人研修生・実習生と労働行政

 司会:研修生・技能実習生の問題に向かう労働行政にどのような課題があるでしょうか。特に、情報把握には多くの課題があるように思えます。

A:労働基準監督署では、研修制度の下にいる限り労働基準法の適用はないという形式的な対応をしていたと思います。ですから、臨検監督の際も基本的に調査するのは技能実習に移行した人たちについてであったと思います。その意味で、「労働者性は、実態に即して判断する」という労働基準法の大原則が後退していた印象があります。ただ、必然的に研修生の状況も現場では見えてしまうのです。多くの研修生が技能実習生とほとんど変わらないような状況でそこで働いていることに、多くの現場の監督官が矛盾に感じ、疑問を持っていたのは事実です。

 また、情報把握の方法ですが、この場では申し上げられない部分もあるのですが、いろいろなルートで技能実習生の働いている事業場の情報は得ているのですが、必ずしも十分なものではありません。

旗手:先日、労働基準監督署の監督指導状況について、厚生労働省から数字をもらいました。平成20年に臨検した受入れ機関(事業場)の数が2,612件、そのうち労働法規の違反件数が1,890件、72.4%に違反があった。70%を越える事業場で法違反が見つかっています。

A:労働基準監督署が収集する情報というのは、問題のある事業場に関するものが多いのです。従って、当然、臨検監督の違反率は高くなってくるのだと思います。もとより、表面化していない問題がもっとたくさんあると思っています。

司会:実際、JITCOが立入り調査をして法令遵守を指導していると聞いていますが、そういう面もあって、労働基準監督署がなかなか全数監督に至らないのでしょうか。

A:それもあると思います。しかし、もっとも大きな要因は、毎年の人員削減の中で労働基準監督署自体の主体的能力が失われているのです。技能実習生の労働条件確保だけでなく、過重労働、災害防止等々の課題も山積しています。言い方は悪いですが、もはや監督署の実情は、問題があった事業場に対して、表現は良くないのですが、もぐら叩きのように対応している現状です。

 但し、平成22年度の行政運営方針では、入管法の改正を視野に入れて、受入れ団体の集団指導とともに受入れ事業場への監督指導を集中的に展開する予定と聞いています。

司会:その際、外国人研修生・実習生は声を上げられない状態になっているわけですから、そういう状態を前提に考えなければなりません。ある支援団体の方から、研修生・技能実習生たちは、「労基署」(ろうきしょ)という言葉を、いざという時の駆込み寺のようにとらえて覚えていると聞いたことがあります。労働基準監督署の役割は大きいと思います。一方、JITCOの立入りは予告するのですか、それとも抜き打ちですか。

A:予告をすると聞いています。

司会:それでは、先ほどの山梨事件の例にあるように、とてもじゃないが違反を摘発することにはならないでしょう。外国人研修生・実習生の権利保障を明確に労働行政の課題と位置づけることが必要ではないでしょうか。

旗手:法務省は毎年、不正行為認定の発表を行っていますが、平成20年の不正行為認定が452件、その前年が449件。それ以前のほぼ倍という状況になっています。ここでかなり詳しく違反状況が報告されていますが、この不正行為認定のかなりの比率を労働基準監督機関との情報連携の中で掴んでいると聞いています。そういう意味では、法務省の受入れ停止処分を含めた制度的な連携が重要であり、労働基準監督署の果たしている役割は実質的には相当大きいと思います。

A:労働行政の第一線の抱える課題のもう一つは言葉の問題です。都道府県労働局等には外国人労働者労働条件相談員として、通訳が配置されていますが、各労働局に1人か2人という状況です。この人数を増やさなければなりませんし、日系ブラジル人や中国人研修生・技能実習生に対応するポルトガル語、中国語を話す通訳をどう確保していくのか。きちんと体制整備をしていく必要があると思います。

 

◎外国人技能・実習生に関するあるべき政策方向

司会:今後の政策の方向性についてお聞きしたいのですが、今後の外国人労働者と日本社会が如何に向き合っていくか、お考えをお聞きしたいと思います。

旗手:まず、ベーシックな問題として、2005年以降、日本が人口減少社会に入っており、50年間で人口が4,000万人ぐらい減少することになります。このような中で、例えば1,000万人移民政策という提案がありますが、1,000万人ではとても埋め合わせになる数字ではない。

 その中で日本の国のかたちをどう描いていくのか。ほとんど同じような民族性を持った人間だけで構成する社会を描いていくのか、それとも日本列島上に多様な民族が多文化で共生する社会をイメージしていくのか、その辺で大きく議論が分かれいくのだろうと思います。

 日本政府はこの20年間、日本社会に外国人が徐々に増えてくる過程の中で、「単純労働者の受入れは慎重に検討する」、実質的には「単純労働者は受け入れない」という政策を堅持してきました。その代わりに労働力不足を埋める形で、当初は中国からの就学生、あるいは南アジアからの人たちのオーバースティが事実上そこに位置づけられてきました。90年の入管法改定以降は、日系人という形でブラジルやペルーから30万人を越える人たちが日本に来られて、その方たちが労働力として働いてきました。

 それと同時並行でずっと継続されてきたのが研修制度ですし、93年以降の技能実習制度でした。正面から外国人を「労働者」として受入れる政策は一回も打ち出されていない。日系人については、「活動の制約はない」ということで受入れだけはしたが、そのあと子供たちの教育の問題一つとっても、きちんと手当がされていません。

 研修・技能実習制度は、正面から労働力として受け入れるのではなく、あくまで国際貢献という建前です。私たちはサイドドアという言い方をしますが、正面からではなく、脇の入口から労働力を確保するという政策です。問題に正面から向き合わないために、様々に深刻な諸問題を引き起こしているのだろうと思います。

 今回の入管法改定は制度改善に向けた第一歩にはなるだろうと思いますが、とても最終的な解決とは言えないと考えています。

 今後、外国人労働者政策をどうするのか、抜本的な議論が必要です。欧米やアジアにも様々な先行モデルがありますが、どこにも正解と言えるものはありません。そういう意味では「解答なき問題」と捉える必要があるでしょう。

 日本も実はすでに外国人登録者は220万人を越えていますし、在日の方たちを除いた外国人労働者の数もほぼ100万人近くと推定をされています。

 外国人労働者が働いている職場は決して例外的な職場ではありません。自動車産業の裾野であったり、身近にコンビニ弁当を作っているところであったり、あるいは携帯電話の部品製造などです。明日、外国人労働者がいなくなったら、多くの職場が回っていかない状況にあり、日本社会にも支障が出る。外国人労働者が、日本社会の中で家族形成も含めて生活者として存在し始めている。それに正面から向き合う姿勢をとることが、肝心ではないでしょうか。その姿勢さえ確立できれば、受入れの手法は様々なモデルがありますし、正解はありませんが、正解に近いものはいくつか見い出せるのではないでしょうか。

司会:外国人研修・技能実習制度のあり方について、基本的にはどのように考えているのでしょうか。

旗手:私たち外国人研修生権利ネットワークとして、08年に政策提言をまとめています。その骨格は、以下のとおりです。

 

『少なくとも、本来、国際貢献を理念とする研修・技能実 習制度は、労働力政策とは全く目的を異にするものであり、両者は別個に設計されるべきである。私たちは、純粋な外国人研修制度は維持しつつも、労働力政策としての外国人労働者の導入は、別途「労働」ビザの発給によるべきである、と考える。こうした研修と労働力政策を厳格に分離する枠組みが、今後の外国人研修制度の基盤となる。

 まず、外国人研修制度は、純粋な「技術・技能・知識の移転」に限られるべきである。

 具体的には、「研修」は、関連する基準省令の原則型(研修生は受入れ企業の従業員20人に対して1人とし、非実務研修の時間を全体の3分の1以上とることなど)に限定すべきであり、法務省告示による例外の拡大はすべきでない。特に、問題が多発している「団体監理型」での受入れは廃止すべきである。

次に、技能実習制度は、「労働」でありながら職業選択の自由(他企業への移動)が認められず、技能実習生は労働者として不完全な立場におかれている。このことが、技能実習生の正当な権利主張を妨げ、受入れ機関及び送出し機関による様々な人権侵害行為を誘発している。従って、「技能実習」(在留資格は「特定活動」)という特殊な形態は廃止し、研修後もさらに働きながらスキルアップを望む者には、通常の「労働者」としての在留を認めていくべきである。

 こうした制度的な整理をした上で、国際研修協力機構(JITCO)は、廃止すべきである。』

司会:研修制度の理念に純化した制度をしっかり作り、労働力として受け入れるのであれば、労働者の基本的な諸権利を守るための条件整備をやっていく、という政策提言ですが、大事な視点だと思います。

旗手:先日、内閣官房で「新たな人身取引対策行動計画」(案)に対するパブリックコメントが実施されたところです。

 新しい行動計画での大きな変更点は、今までは「人身取引」を性的搾取を中心とした主に女性の問題と捉えてきたわけですが、今回の行動計画(案)では男性被害者にも視点が当てられています。ここでは、外国人研修生・実習生が念頭に置かれています。

 従来、人身取引対策に十分コミットしていなかった労働基準監督機関についても、その役割が指摘されており、人身取引、とりわけ労働搾取に対応する重要な機関として位置づけられています。

A:この行動計画(案)を見て、人身取引を伴う強制労働に重大な危機感を持ちます。第一線の監督官として、こうした人権侵害を排除していく立場で積極的に取り組んでいかなければならないと思います。

 逆に言うと、そのための制度的な整備や行政体制の拡充をきちんと取り組むんだという政府全体の姿勢が重要だと思います。労働基準行政の第一線で大きな理念や目標を徐々に見失いつつあるということです。毎月の監督計画の件数が1件増えたとか、減ったとか、幹部が自らの人事評価にばかり気を取られているようにも見えます。全労働がしっかりと必要な提起をし、労働基準行政の役割を果たさせなければならないと感じます。

司会:平成22年度の定員削減は、地方労働行政で236人の純減です。労働基準監督署がいくつも廃止されるような事態です。また、労働基準監督官の専門性を決定的に後退させようとしている新人事制度も抜本的に見直さなければならないと思います。

 本日は、どうもありがとうございました。

この記事のトップへ