働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

2007年12月
「精神障害等の認定をめぐる課題」 労災補償業務座談会

2007年12月、労働基準監督署等で労災補償業務に携わる組合員(A〜D)が集まり、労災認定の現場から見た精神障害等の現状と「精神障害等に係る業務上外の判断指針」(以下、判断指針)の課題と改善方向等について、意見交換しました。

◆精神障害等を生み出す今日の労働環境

司:本日は、労災補償業務に従事し、精神障害等の認定に携わる皆さんに集まっていただきました。最初に、労災認定の担当者から見た労働者の実態や特徴的な傾向についてお尋ねします。特に精神障害に焦点を当てたいのですが、厚生労働省の資料によると、精神障害の労災認定件数は急激に増加しています。但し、その中で自殺事案は大きく増えておらず、自殺事案の比率は相対的に下がっています。現場の実感としては如何でしょうか。

A:統計的に自殺は確かに横ばいです。一方でパワハラやセクハラが関係する精神障害の事案が増えていると感じます。パワハラ等と解雇・退職が絡んだ事案の労災請求が増えている印象です。

B:最初に解雇に関する相談があり、その中で実は心療内科や精神科に受診しているが、労災として取り扱うことができるかと尋ねられるケースが多いと感じます。実際、そのようなルートをたどって請求があり、認定されるケースもあります。ですから、労災として扱われるべき精神障害の多くが、未だ埋もれているように感じます。

司:精神障害を発症する業種や職種で特徴的な傾向はありますか。

A:職種では専門技術職の事案が飛び抜けて多く、その中でもシステムエンジニアが目立ちます。年齢を見ると30代を中心とした「働き盛り」と称される世代がたいへん多いという印象があります。

C:情報通信関係のシステムエンジニアは確かに多いと思います。システムエンジニアには、過重労働があたり前と言った悪しき「常識」が広がっています。おおむね30歳を越えると肉体的な疲労も重なって発症する方も多いように感じます。あまりにも過酷なので若い時にしかできない職種と言われています。

私の印象では管理職の方のケースもあるし、若い人でいじめやパワハラが関連するケースもあり、年代的な特徴は一概には言えません。確かに30歳代は、係長クラスの中間管理職ですから、その上の部・課長クラスになるかどうか岐路の年代です。そのため、いきおい長時間労働などの過酷な労働条件に身を置いてしまう場合が多くなると感じます。

A:最近の成果主義に基づいて人事制度との関連も見て取れます。管理職になれば多くの成果が求められることもあり、ストレスの増大に結び付きます。このような傾向は研究職に多い気がします。成果主義の下で過重労働が恒常的になっているのではないでしょうか。

D:研究職と同様に裁量労働制の対象業務の一つであるシステムエンジニアの場合、月の時間外労働が100時間あるいは200時間となっているケースがあります。いわゆる過労死ラインを大幅に超えているわけです。また、顧客とのトラブル等がストレスの要因として指摘できるケースが少なくありません。また、システム開発の業務については、直接受注する大手と言われる事業場では精神障害があまりなく、そこに入る一次、二次の下請事業場の労働者が過重労働を強いられて発症するという、構造的な問題もあります。

◆「判断指針」に対する評価と課題

司:労働時間法制のあり方、人事・賃金制度のあり方、さらには産業の重層構造の問題等が複雑にからみ合って、今日の労働環境に様々な影響を与え、過重労働を始めとするストレス要因を生み出していることがわかります。それでは「判断指針」の内容に話を移したいと思います。1999年9月に「判断指針」が示され、いわゆる「ストレス−脆弱性理論」に基づいて認定作業を進めることが明確になりました。全労働が2003年の1月に実施した第22回行政研究活動の組合員アンケートによると、「判断指針」の職場の受け止めは、「評価できる」が14.9%、「評価できない」が6.3%で、「わからない」が38.4%と非常に多かったのが特徴的です。一方、認定の担当者の55%が「業務上外を判断しやすくなった」と答えています。今日、認定件数も増加し、担当した職員も増えている中で職場の受け止めは如何ですか。

B:精神障害等の請求は、都市部の監督署では大きく増えていますが、地域的に偏りもあるため、経験を積んだ職員とそうでない職員とバラツキが未だあります。初めて担当する職員は、その運用にあたって十分に気を付けなくてはならないでしょう。実際、「判断指針」は、座学の研修を受けただけでは十分に理解できない面があり、やはり、多くの経験を積んで「判断指針」の本質がどこにあるのか、実例に即して理解していないと悩むことになります。現状を見ると、経験を積んだ職員は未だ少なく、「判断指針」を知っていても十分に理解していない職員も多いのではないでしょうか。

D:精神障害というものは可視できず、全体が漠然としてることから判断が難しい。しかし、「判断指針」が策定されたことで判断の「枠組み」が明らかになり、調査を含めた認定事務に役立っていると言えると思います。仮に「判断指針」がなければ、精神障害と業務との関係をどう考えたらいいのかさえもわからないのですから。ただ「判断指針」は、例えば「相当程度過重」「特に過重」などどちらにもとれるようなアバウトなところがあることから、全国的な取り扱いに偏りを生じさせないため、これまで積み重ねてきた事例を全国的にフィードバックする仕組みが重要です。

B:判断指針の不十分さを指摘する声は他にもあります。例えば、この間の行政訴訟でも問題となった論点ですが、心理的負荷を「同種の労働者」が一般にどう受け止めるかという観点から判断を行うことの是非です。厚労省は労災補償制度の性格上、そのような判断が必要と主張していますが、裁判所の判断とは乖離があります。また、「判断指針」では心理的負荷のうち、具体的な出来事又は変化を原因とするものを中心に因果関係を判断していますが、慢性的な心理的負荷をどう考慮するかも今後の課題と言えるでしょう。

D:精神障害に限らず、判例の水準と行政段階の認定の水準が乖離していることは重大な問題です。請求人に行政訴訟の手間を負わせることで初めて救済されるというのでは弱者切り捨て以外の何ものでもありません。本省は国側が敗訴した事案についても個別事案の判断であるから認定基準等が否定されたわけではないという趣旨の話をしまが、全くおかしいことです。そもそも個別事案を離れて認定基準等が法解釈として適当かどうか判断する制度はないのですから。

A:発病後にさらに出来事があって増悪するケースをどう見るかも大きな問題ではないかと思います。その場合、増悪を認めるなら増悪部分が元に戻ったところが療養給付の終了となるのかも検討すべきでしょう。症状固定の時期とその判断です。

B:腰痛と同様、それは非常に難しい判断となるでしょう。そもそも精神障害が医学的にどうして起きるのか未解明な部分があります。いろいろな要因が重なり合う中、増悪の要因を特定し、さらにどのような状態をとらえて症状固定と判断するかは至難です。

A:確かに今後の業務上の決定件数が増えてくれば、適正給付管理(長期間療養している労働者の個々の状態を勘案し、継続療養の必要性、症状固定の時期などを個別に判断する業務)も課題となるでしょう。主治医に意見を求めても限界があります。業務による心理的負荷による精神障害の場合、一般には6ヵ月から1年程度の治療で治癒する例が多いと解説されているようですが、実際、治癒する見込みがないことをあらかじめ指摘する医師もいます。

B:心理的負荷の評価をめぐる問題もあります。別表1「職場における心理的負荷評価表」は精細に項目が設けられていますが、判然としない部分もあります。精神障害では様々な要因も症状もあるわけですから、一律の基準による判断は困難な部分が多くあります。今後も認定事例を検証し、「判断指針」をより実態に即したものに改善を図る必要があります。

A:心理的負荷の評価にあたっては形式的に評価表に当てはまるのではなく実態に即して総合的に行う必要があります。「仕事上の責任」「仕事量の増加」「長時間労働」などが複合して負荷となることが、「判断指針」では必ずしも一般的と想定していないのではないでしょうか。複数の負荷要因が認められる場合、負荷強度の総合評価が3となる蓋然性が高くなることを考慮する必要があると考えます。それから「職場における心理的負荷評価表」の要因がすごく少ないと思います。もっと補強する必要があると思います。

C:このまま件数の増加傾向が続くなら、迅速化等の観点からもう少し判断を分かり易くする工夫が必要と感じます。しかし、精神障害は、医学的な課題が多く残されており、また個人の要因が複雑に関係しているため、認定基準として策定することはなかなか難しいでしょう。

A:「判断指針」の位置付けは、まだ事例が少ないわけですから、事例を積み重ねて必要に応じて認定基準に持って行こうとする前段階と言えるでしょう。そうだとするなら、もう10年近く経ちますから、これまでの事例を整理してく中で認定基準化を検討すべきでしょう。せめて別表1「職場における心理的負荷評価表」の出来事を改善していい時期でないかと思います。いい例が脳心疾患の認定基準です。長い積み重ねの中で労働時間を中心とした現在の基準を確立し、現場では相変わらず困難な判断を伴うものの、従前より認定は容易になりました。

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◆調査に伴う様々な困難

司:「判断指針」は、今後の発展方向も含めて様々な課題があることがわかります。他方、基本的に認定事務にあたっては有効な存在であること、また、申請件数と認定件数が飛躍的増えていることから見て、申請する側にとっても「判断指針」の効果が大きいことがわかります。次に、実際の認定事務に関わってお尋ねしたいと思います。「判断指針」の三つの判断要件は、(1)対象とされる精神障害の発病していること、(2)対象とされる精神障害の発病前おおむね6ヶ月間に、客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること、(3)業務以外の心理的負荷又は個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと、となっています。また、従来は「自殺」は故意によるものとして、労災給付の対象にはなりませんでしたが、特定の精神障害の場合、「自殺念慮が出現する盍然性が高い」として、正常な認識、行為選択能力、自殺を思いとどまる抑止力が著しく阻害された状態(故意の欠如)に陥ったと推定し、業務起因性が認められることとなりました。実際の調査に伴う課題等についてお聞かせください。

D:まず「発病時」の判断が難しい。受診している日が「発病時」ではないですから、それを特定するのがたいへんです。そこが決まらないと先へ進めない部分があります。

B:発症時を間違うと、おおむね過去6ヵ月間の出来事等の調査の内容が変わってしまう。実際、私は調査をやり直したことがあります。安易に自殺した日とか、心療内科や精神科に受診した日としてしまうわけにはいかないのです。そのため、私の局では精神部会で合議してもらうことにしています。

A:私の局では、署の調査の一定の段階で、局・署間で協議をして方向性を出し、部会にかけます。発症時を二つぐらい出しながら、両方を調査する場合もあります。

調査で困るのは、発症時を特定しようと請求人から事情を聴く際、仕方のないことですが、請求人は発症後の辛い出来事を強調される傾向があり、難航することがあります。発症時を調べる中で転勤や転職があった場合後から管轄が違うことがわかることがあります。請求人はどうしても辛かった時期を基準に請求されることが多く、その場合、とまどいを感じられる方もいます。前の事業場なのか、それとも前職なのか、あるいは転勤後なのか等の違いとなる場合もあり、判断が非常に難しいです。

D:私の局では、そういう仕組みはなく、個別に局医の意見を聴くことにしていますが、発症時をかなり前、例えば10年前とする場合もあります。カルテの保存期限も過ぎているし、病院自体がない場合もあります。継続的に受診していない場合は、周辺から事情を調査しながら事実関係を推定することになり、調査は難航します。本人から「よく眠れない」等の不眠傾向が申し立てられることがありますが、そのあたりが発病時となるケースもあります。主治医がそう判断することが多いのです。ですから、調査ではカルテや問診票の記載等が非常に大事になります。

B:実際、調査要領にはいろいろな手順等が示されているけれども、そのとおりでは必ずしもうまくいかない場合もあります。ケースバイケースで判断することが必要です。経験を積み重ねていくと、調査の手順に関してこの事案はこっちが先だとか、これはまず本人から聞いた方がいいとか、管理者から先に聞く方がいいとか、個々で対応を判断できるようになります。経験でセンスを磨く必要があるのです。

D:主治医の診断名も差し障りのない診断名を書きますから、それだけでは全く判断できません。ですから精神障害の発症のメカニズムをよく理解しないと対応できません。本当に医師と同じような感覚を持って対応することが求められます。また、カウンセリングの知識や経験も不可欠で請求人との対応もそれなくして適切にはできないでしょう。

A:どこを押さえるかなんです。それは症状的なものであったり、請求の背景事情等によっても違ってきます。その辺をよく理解しておくことが重要です。さらに言うと、そもそも疾患の種類の違いをよく知らないと難しい。カルテを読んですっと理解できないと無理です。自分で診断を付けられるぐらいでないと判断は難しい。しかし、実際、多くの職員はICD−10(国際疾病分類第10回修正)第X章「精神及び行動の障害」の解説本を読むぐらいしか余裕がないのが本音でしょうか。

B:精神事案は、聴き取りにも難しさがあります。その表面だけを聴き取っていては、不十分になります。裏付けを確認しながら聴き取っていくことが必要です。単なる主張なのか、何かの事実に基づいているのか、それを必ず一つひとつ裏付けを確認していかないと、何の意味のない聴き取りになってしまいます。ですから、できるだけ複数体制で聴き取りや検討も担い、サポートする体制が必要です。また、事前の準備は当然としても、一人だけの考えで聴いていると内容面で聞き漏らす部分が生じるおそれがあります。複数体制で臨むことで精神的に落ちついて聴き取る余裕ができますし、相手にも信頼感が増すのではないでしょうか。

◆求められる行政体制の整備

C:確かに精神障害を発症した方の聴き取りは困難を伴う場合もあることから、複数体制で対応することで適当でしょう。実際、聴き取りの最中にもう一人がアドバイスができたり、効果をあげています。しかし、複数体制をとれない署が多いのです。職員の数が全く足りない。複数体制をとろうとすると他の業務に影響が出てしまい、結局、経験のある職員一人に任せざるを得なくなってしまう。

D:私の署では、労災担当の全職員が脳心事案と精神事案を担当しています。経験の浅い職員にはサポートを付けるようにしています。私自身は聴き取りは1人でしますが1日では終わらない場合には、相手の協力を得て、後日不足分を聴いてまとめます。日数はかかるのですが、その方が余裕を持って聴くことができます。

B:管外出張による聴き取りはプレッシャーがあります。時間は制限されているし、旅費の制約から遠方でも必ず日帰りする必要があります。しかも、相手がこの日、この時間しか空いていないと言われると、その日時に聴き取らざるを得ない。また、精神事案の場合、突然キャンセルされてしまう場合もあります。特に管外へ出張した際に、キャンセルされるのは正直困ります。

A:複数体制は本当に必要だと思うのですが人的な体制がない、一方で迅速化が求められており、どんどん結論を出していかなければならない。ここに平成18年度の首都圏のある労働基準監督署の保険給付状況に関するデータを持ってきましたが、特別給付金を除く保険給付ですが、療養(補償)給付が2,235件、休業(補償)給付が5,281件、障害(補償)給付が164件、遺族(補償)給付が21件、葬祭料(葬祭給付)が27件、介護(補償)給付が396件あります。これだけの件数をこの監督署は課長以下12名で処理しています。また、この中には職業性疾病も含まれるわけですが、その内訳は精神障害が9件、脳・心疾患が17件、じん肺が5件、がん・腫瘍等が1件、さらに石綿が11件、その他の疾病が3件が新規に請求されています。加えて認定業務以外にも適正給付管理がありますし、労働保険の年度更新業務等の適用業務、保険料の滞納整理など徴収業務も行っており、人的には限界を超えているのではないでしょうか。精神障害だからといって特別の体制を作ることは難しいのです。

B:これに連年の定員削減があります。削減分は監督担当部署より労災担当部署に多く配付されている傾向があり、このことも困難を大きくしています。その中でいかに人材を育成していくかが重要となります。他の職業性疾病等の困難な事案も増えていますから、若い職員にはそちらの方をまず経験させ、精神事案や脳心事案を課長が自らやらざるを得ない実態があります。すなわち、本来は進行管理と実質的な最終決裁が課長の役目ですが、ほかに石綿の事案が多数あったり、これらへの対応に追われてしまいます。昭和の時代の署の課長は本来の管理業務をじっくりしていましたが、今の時代はなかなかそうも行きません。経験のある課長が困難事案を自ら引き受けなければ回りません。

◆今日的な調査手法の修得

C:労働時間の調査で感じたことですが、事業場が労働者を「管理監督者」(労基法第41条)として扱い、労働時間が把握・記録していないケースが非常に多い。請求人は、何時間の時間外労働をしたと主張するけれどもそれが客観的にはわからない。また、ネットワークへのログイン・ログオフ、パソコンの立ち上げ時刻などを利用する場合もありますが、古いデータが削られている場合もあり、相談の段階で直ちにデータの保全を指導しています。

B:労働時間に関する監督指導の場合もそうですが、実労働時間を把握するのは、パソコンの起動とシャットダウンのデータを使う場合が多い。特にシステムエンジニアは、どうしてもコンピュータを使うし、セキュリティも厳しいので必ず記録はあります。また、昔は帰るコール、今は帰るメールで労働時間が推定できる場合もあります。今の時代に即した調査手法を修得しておかないと事実が特定できない場合もあります。そして、初動調査でこうした資料を取り寄せることが大事です。後になって気付いたらもう削除されていたこともあります。特に退職の可能性がある人は記録の保全を指示しておく必要があります。労基法では賃金台帳の保全義務があるものの、各労働日の始業・終業時刻は必要な記載事項ではない。この点も問題意識を持っています。

D:管理者や同僚に話してもらえないケースもあります。証言したことを明らかにされるのは困りますと申し立ててくるのですが、それはもう証言の重要性を説き、お願いするしかないです。また、明らかにデータを隠してるとか、悪質なケースもあります。使用者側の傾向として言えるのは、署の求めに応じて一応の対応するが、積極的な協力は一切しないという姿勢です。これもありますとはまず言わない。弁護士が質問状の細かい語尾にまでクレームを付けながら、協力を拒んでくるケースもあります。

A:調査の限界を感じることはあります。請求人にも協力してもらいないケースもあり、袋小路に突き当たることはよくあります。

B:精神事案や石綿事案については、相談窓口の一本化が必要です。最初の対応を間違うととんでもない話に発展してしまう。だから署内で誰もが対応するというやり方は避けるべきです。

A:事実を正確に確認しながら責任を持って答えないといけません。「前と違うことを言う」と受け止められたなら、信頼を決定的に損ねることになりかねません。

D:精神事案の電話相談の際、もう少し詳しく聴きたい時は必ずこちらの名前を名乗って「何月何日の何時にお待ちしてます」「変更を希望される時は必ずお電話ください」とここまで言っておく必要があります。そして、必ず担当が自ら相談に応じることとしています。突然に来られた相談者にも必ず担当者に回すようにしています。

B:私の署も最初から、担当の私が対応します。不在の時は、他の職員が一応相談に応じますが、「詳しく説明する必要があるので、後日時間を調整して来てほしい」とお願いしています。

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◆労災認定業務の専門性と人材育成

司:認定業務の専門性をどう培っていくべきでしょうか。

A:「判断指針」のもととなった報告書(1999年7月29日付「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」)を読むことで理解が進みます。必ず熟読すべきで、それなくして指針全体の仕組みやその根拠は十分に分からないでしょう。

C:精神事案は、多くの経験を積んでいることが重要ですから、誰にでも担当させるわけにはいかないというジレンマを感じています。だから転勤しても前の署で精神事案を担当していたら、また担当になるということがあります。自分の経験の蓄積にはなるけれども、育成するシステムがないのです。

B:現場はそこを工夫しながら何とか業務を進めています。人材の育成もしなければいけないけども、現実に対処するために、経験を持った担当にある程度業務を集中させなければいけないのです。

A:労災補償行政の人材育成は、個人任せではなく、もっと組織的に、十分時間をかける研修体制が必要です。実際、片手間に出来るものではなく、長い時間かけなければ人材育成はできないし、経験によってノウハウを培っていく仕事だと思います。この「判断指針」の理解もそうですが、その他にも困難な業務は多い。いつどんな事案に向き合うかわからないから、いろんな経験を積んで専門性を日々高めていかなければならず、専門的な業務を担う職員を育成しないと組織として対応できない。しかし、組織のリーダーたちにはそういう認識が希薄です。管理者は「キャリア形成のためいろいろな仕事をしないと駄目だ」の一点張りだ。実際、核になる人材を系統的に作っていかないととても回っていかないと思う。それを考えないと、ゼネラリストは育成できても、スペシャリストはどこにもいないという事態になってしまう。これでは組織力は向上しません。

D:人事異動も系統的な考え方で行なわれているようにはとても思えない。実際、多くの若い職員は積極的に困難な事案と向き合っていこうという姿勢があり、精神障害の聴き取り等を補助したり、様々な経験を積み重ね、さあこれからと言う時に庶務部門へ異動させられる。本人もがっかりしてたし、人事異動も必要だけども、やる気がある職員が2年や3年で労災補償業務を離れてしまうのは残念です。

A:事務官に対して、しっかりした研修が必要という認識が乏しいと思う。精神障害は本当に専門的に担当していないと出来ない。そもそも署長はずっと監督官として監督業務を中心に経験を積んでいるから、精神障害自体をあまり理解していない。若い時から「判断指針」を読み込んでる監督官は出世しないだろう。

B:複雑・困難な事案が増えてきている中で最後に指摘したいのは監察の仕方です。労災業務の中でも、今何を優先させ、あるいは重点化していくかを指摘すべきところ、障害の診断書料の請求書に裏に「診断書料」と書けとか、細かい所をばかりを指摘し、それに終始している。全く本質的ではない部分のチェックに多くの時間を費やすぐらいなら、もっと抱えている事案の調査を進めさせてほしいと思います。

司:不十分な体制の中で、本当に複雑な仕事多いことがわかります。そして、労災補償分野の専門家となるには何十年もかかることがわかります。

本日はありがとうございました。

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