働き方・労働法制 −労働時間、賃金、安全衛生、労災補償など

2004年 4月
「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」の一部改正にかかる全労働の考え方

政府は、本通常国会に、建設労働者の雇用の改善等に関する法律の一部を改正する法律案(以下、法律案)を上程した。法律案は、「建設業に必要な労働力の確保に資するとともに、建設労働者の雇用の安定を図ることを目的とする」とし、新たに建設業務労働者就業機会確保事業や建設業有料職業紹介事業などの仕組みを創設するとしている。
建設業務労働者就業機会確保事業は、一定の要件を備えた建設事業主団体の中で、構成事業主間の労働者の送出(事実上の労働者派遣)を認めるものであり、また、建設業有料職業紹介事業は、同様に建設事業主団体又は構成事業主による建設業務の有料職業紹介事業を認めるものである。
こうした新たな仕組みの導入に対しては、労働政策審議会等でも様々な疑問点、問題点が指摘されており、法律の目的である「雇用の安定」に逆行しないか、また、建設業務における労働災害の危険を高めないか、などの懸念が高まっている。今後の国会審議にあたっては、こうした懸念に対する「万全の措置」が講じられなければならない。
以上の観点から、重点的に検討を行うべき課題と問題意識を次のとおり明らかにする。

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1 建設業務における「有料職業紹介」及び「労働者の送出」の解禁による権利侵害をどう防ぐか

「建設業務については悪質ブローカー等の介入による中間搾取、強制労働の生じるおそれが高い」(注)ことから、有料職業紹介及び労働者の送出の解禁は、再び深刻な権利侵害の横行を許すおそれがある。
法律案は、こうした事態を招来させないよう、(1)建設事業主団体(建設事業主の割合一定以上)による、各種の改善措置を盛り込んだ「実施計画」の作成、(2)「実施計画」の厚生労働大臣による認定、(3)建設事業主団体内部で適格性を備えた構成事業主間で常用労働者を対象とした建設業有料職業紹介事業又は建設業務労働者就業機会確保事業(労働者派遣事業)を認める、(4)(3)の各事業の許可にあたって厚生労働大臣が厳格に審査、(5)(4)の許可期間は原則として3年以内などの諸要件を課している。
加えて、建設業務労働者就業機会確保事業に関しては、労働者保護措置として、(1)労災保険の保険関係は送出事業主を受入事業主の「下請負人」とみなすこと、(2)送出期間は原則1年以内とすること、(3)受入事業主が整理解雇を行った後の受入を禁止すること、(4)送出労働者に法違反の申告権を認めること、(5)労働者の申告に対する不利益取扱を禁止すること、(6)送出労働者の書面による同意を必要とすることなどの措置が下位法令に盛り込まれることが見込まれる。
たしかに、新たな各事業は建設事業主団体の構成員間(あるいは建設事業主団体とその構成員の間)の有料職業紹介、労働者の送出に限っている点で、有料職業紹介、労働者派遣業の建設分野への参入とはやや異なる性格を持っているし、「常用労働者」に限っている点で直接雇用の原則にも一定の配慮がうかがえる。しかし、今日の労働者派遣の実態は、「違法派遣」「偽装請負」等が横行し、派遣労働者への権利侵害は後を絶たない状況にある。
こうした中で、重大な弊害を取り除くために設けられる諸要件が、「厳格な国の関与の下で」(注)、的確に遵守されることがきわめて重要であることから、これらの取締りにあたる都道府県労働局のの行政体制を抜本的に強化するとともに、同法及び一部適用される労働者派遣法の諸規定違反にかかわって、労働基準監督官に司法警察権限を付与し、日常的な臨検による監督指導を強化すべきである。

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2 「常時雇用」等の定義は十分に限定的か

法律案は、建設業務労働者就業機会確保事業の対象を「常時雇用する労働者」に限るとしている。これは「一時的に過剰になる労働者のみを同事業の対象としていること」(注参照)から求められる要件であるが、この場合、「常時雇用」の定義如何によっては、専ら「労働者の送出」を目的としたを雇い入れを容認することになりかねない。
例えば、有期雇用契約以外を「常時雇用」と言うのであれば、労働者の送出の都度、労働者を雇い入れることも可能となる。その上、送出期間終了後の解雇(民事的効力は格別)や合意解約は禁止されておらず、「常時雇用」の要件は画餅となりかねない。
また、同事業はあくまでも建設業者間に限って労働者の送出(事実上の労働者派遣)を認めるものであるが、いわゆる人材ビジネス業者(派遣会社等)も建設業許可を容易に取得できる実情にてらすなら、送出事業主の要件は一層の厳密さが求められる。
従って、「常時雇用」等の定義を本事業の趣旨に即して十分限定的なものとするとともに((1)直近1年以上、雇用保険、社会保険に継続加入していること、(2)一定の技能に関する有資格者であること等)、送出事業主が名実ともに「建設業を営むものであること」を担保する措置を講じるべきである。

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3 契約関係の複雑化が労働災害の危険を高めないか

建設業では、事業の性格から多くの専門工事業者が順次一定期間、当該事業に関わることになり、必然的に重層請負関係が形成される。こうした中で、労働者の送出(事実上の労働者派遣)を解禁することになれば、前記の必要から重層的請負関係は解消されず、そこに送出労働者が組み込まれる形(数次にわたる下請負人がそれぞれ受入事業主となるなど)が想定される。そうなるとタテの「請負関係」とヨコの「送出関係」が複雑に入り組んだ形態が出現する。このことが労働者の安全衛生の確保に支障を生じさせるおそれがある。
下請負人が送出労働者を受け入れ、元請負人の現場で作業をすることを想定した場合、当該労働者に対する安全衛生の確保にかかる責任は、元請負人、下請負人、送出事業者の三者が担うことになる。この場合、責任分担と連携の在り方が問題となるが、従来以上に契約関係が複雑化することは明白であり、三者の連携ミスから災害を生じさせる可能性がある。従って、労働安全衛生法30条1項1号の「協議組織」の構成員に送出事業主を含めるなど、こうした連携ミスを防ぐための適切な措置を講じるべきである。
また、複雑な契約関係がじん肺など発症まで長期間を要する疾病予防のための継続的な管理に重大な困難をもたらす懸念があることから(受入事業主の下での就労記録が、送出事業主の下で長期間かつ継続的に管理し得るのかなど)、一定の措置義務を送出事業主と受入事業主が連携して担う仕組みを検討すべきである。

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4 安全衛生管理における使用者責任の後退とならないか

建設業では、重層的請負関係の下で、労働災害の防止、職業性疾病の予防を如何に図るかが課題となってきた。労働安全衛生法は、労働災害の防止、職業性疾病の予防等の観点から、労働者を直接雇い入れた事業者及び(特定)元方事業者が講ずべき必要な措置を義務づけているが、ここに労働者の送出が解禁されるという新たな事態は、労働安全衛生法の想定外であり(例えば、法令上、労働者の安全衛生教育は、送出事業主の責務となると考えられるが、現場の実情を熟知しない者が有効な教育がなし得るのか疑問がある)、新たな仕組みの導入をふまえて、労働安全衛生法の特別規制等の抜本的な強化しに着手すべきである。
また、民法上の安全配慮義務は、基本的に労働契約に付随する義務として直接の雇用者が負うこととされているが、労働者の送出の形態では、送出事業主が現場で具体的な安全配慮義務を果たすことは事実上できない。受入事業主等の不法行為責任を問うことも考え得るが、立証責任等の面で労働者保護に欠けることから、送出事業主と受入事業主が連帯して責任を負う仕組みを検討すべきである。

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5 建設業法の元請負人の責任が後退しないか

建設業法には、「建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者」(41条2項)、すなわち下請負人が労働基準法等の違反を犯さないよう元請負人の指導責任、管理責任が規定されている。実際、この規定は、下請負人が使用する労働者に対して賃金不払いが発生した場合に元請負人の責任を追及する際のきわめて重要な根拠となっている。
しかしながら、「送出事業主」が「建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者」に該当しない場合、労働者の権利保護が大きく後退することが懸念される。つまり、送出事業主が使用する労働者に賃金不払いが発生しても、元方事業主は同法に基づく責任を法的に負わなくなり、実務上よく見られる、元請負人が主導しての解決が期待できなくなる。
従って、「送出事業主」が「建設工事の全部又は一部を施工している他の建設業を営む者」に該当することを解釈上、明確にすべきである。

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6 事業の恒常化につながらないか

建設業有料職業紹介事業及び建設業務労働者就業機会確保事業は、「緊急避難的かつ限定的な形で新たな労働力需給調整システムを創設することが必要である」(注)と指摘されているが、両事業の恒常化、さらには建設業における有料職業紹介事業及び労働者派遣事業への本格的導入の突破口になるとの懸念が払拭できない。
また、建設業務労働者就業機会確保事業は、港湾労働法(第4章)に基づく港湾労働者雇用安定センターによる港湾労働者派遣事業の「建設業版」であるとの指摘がある。しかしながら、港湾労働者派遣事業は、限られた地域・業務で一定の技能を有する者だけが対象とされており、加えて、労使のとりくみによって新規事業者の参入や既存事業者が安易に新たな労働者を雇い入れることを事実上規制してきたという、港湾運送業特有の事情もある。これらを考慮するなら、これらを同列に見ることはできない。
従って、両事業はあくまでも「緊急避難的かつ限定的」なものであることを明確にすべきである。
(注)2005年1月17日付『新たな建設労働対策について』(労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会建設労働専門委員会)

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