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技官レポート16

日常に潜む危険/「もしも」と考える視点を/「まさか」では事故防げず

 

 この技官レポートでは、これまでに数々の労働災害を取り上げてきた。

 私が災害防止の仕事に携り四半世紀が過ぎたが、長期的にみると労働災害は随分と減少した。1995年の労働災害による死亡者数は2414人で、昨年の2倍以上である。この20年間で死亡災害は半減したことになるのだ。

 しかし、第一線で災害防止の任務にあたる技官にその実感は全くない。依然として悲惨な労働災害が後を絶たず、労働災害防止に取り組む重要性はさらに増すばかりだ。

 

想像してみよう

 私の経験則では、労働災害の調査に赴いたとき、関係者の話にはある共通した特徴がある。それは、「まさか、この作業で事故が起きるなんて…」「まさか、ここに人がいるなんて…」「まさか、物が倒れてくるとは…」などである。「まさか」がキーワードだ。

 ある労働基準監督署に勤務していた時のこと、労働者が機械に上腕を挟まれる災害が発生した。

 関係者から話を聴くと、災害は材料を混ぜ合わせる攪拌機(かくはんき)と呼ばれる機械で発生していた。羽の付いた回転部に異物が混入したので、作業者が素手で取り除こうとしたところ挟まれてしまった。止まっていたはずの機械の回転部が、何らかの原因で突然動き始めたのだ。

 「まさか、機械が急に動き出すとは思わなかった…」

 関係者の最初の一言を今でもよく覚えている。

 安全パトロールなどで作業現場を歩くと、「危険を十分に認識していないな」と感じる場面がある。日常の作業の慣れは、危険に対する「もしも」の認識をなくしてしまうのかもしれない。

 攪拌機による災害のケースでも「もしも、突然機械が動いたら…」と考えてもらえれば、「機械が動き出さないようにスイッチを切ろう」という対策を講じられたと思う。労働安全衛生規則第107条では、機械の掃除、給油、検査、修理や調整の作業を行う場合は、機械の運転を停止してから実施するよう定めている。労安規則に定めのある措置の多くは、「もしも」の危険に対応したものなのだ。

 

身を守る術になる

 「まさか」は、危険を過小評価することにつながりやすい。一方「もしも」の視点は作業に潜む危険を私たちに気付かせてくれる。

 フォークリフトで作業をする際に、運転者に「もしも、あの荷物の陰に人がいたら…」という視点があれば「物陰に人がいないか、よく確認しよう」となるだろう。作業者に「もしも、あのフォークリフトが突然後退してきたら…」という視点があれば、「フォークリフトの付近に立ち入らないようにしよう」となる。

 「まさか」を「もしも」の視点に変えることは、十分な危険予知と災害防止対策につながるのだ。労働災害防止の講演会などでは必ずこの話をしている。

 「もしも」の視点を持つこと。事業場の安全衛生担当者には、労働者への周知をお願いしたい。労働者がこの視点を持てば、必ず身を守る術になるはずだ。

 「まさか」より「もしも」の視点で事故防止

 ゼロ災害の達成に向けて、私の経験から出た言葉である。

 

(城田正義)

(「連合通信・隔日版」8月27日号から転載)

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