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技官レポート9

医療・福祉分野の腰痛/「仕方がない」と諦めないで/「正しい姿勢」と器具の活用を

 

 腰痛は、業務上の負傷などによって引き起こされる職業性疾病(労働災害)であり、不自然な姿勢をとった場合や、モノを持ち上げようと瞬間的に力を入れた際に発症したものが多くみられる。

 厚生労働省の発表によると、2013年の腰痛発生件数は、全国で4388件であり、あらゆる業種に広がっている。特に多いのは、医療や社会福祉施設(保健衛生業)で、全体の3割に上る。介護や看護に従事する労働者が、いかに腰痛を患っているかを示している。

 

椎間板ヘルニア発症も

 私たち技官が、腰痛予防を事業場に指導する際に活用するのが、「職場における腰痛予防対策指針(「指針」)」である。この指針は、作業管理、作業環境管理、健康管理、労働衛生教育など多岐にわたり、厚生労働省のホームページ上にも全文が公開されている。

 介護・看護作業では、利用者をベッドから車いすへ移したり、入浴や排泄の介助を行ったりする。体を持ち上げる作業(抱え上げ)を伴うわけで、このときに労働者の腰部に著しく負担がかかるのだ。

 以前、私が勤務していた労働基準監督署の管内では、介護業務に従事する労働者の腰痛が多く発生していた。「ベッドから車いすへ移す(移乗介助)際に、不自然な姿勢で利用者を抱え上げた瞬間、腰部に激しい痛みを感じる」といったケースが多かった。中には、椎間板ヘルニアを発症して、数カ月も休業を要する災害もあった。

 

福祉用具を使おう

 厚労省の指針は抱え上げについて、利用者の状態と体重を考慮して、できるだけ「適切な姿勢」で身長差の少ない2名以上による作業を求めている。腰をかがめたり、前かがみや中腰の状態で抱え上げるような不自然(無理)な姿勢をとらないことが大切である。

 さらに指針は、福祉用具(機器・道具)の積極的な使用を求めている。

 福祉用具は、抱きかかえに伴う腰部負担を大幅に軽減することを目的としており、ベッドから車いすへ移動する際に使うスライディングボード、動力を使用したリフトなどの機器がある。最近では、介護、看護の現場でよく見られるようになってきた。

 海外では、ノーリフティングポリシー(人力のみでの移乗介助や移動を制限する)という考え方があるが、腰痛予防のためには、これらの福祉用具の使用をぜひ促進したい。

 かつて、介護、看護従事者からこんな話を聞いたことがある。

 「私たちにとって腰痛は職業病みたいなもの。良い対策もないし、仕方がない」

 確かに、この業界に腰痛は多いが、私は「対策のない労働災害は絶対にない」と考えている。腰痛にならないよう、指針に基づいた予防対策を講じていくことが不可欠だ。

 

良いサービスのために

 腰痛は、労働者の命を奪うような労働災害ではない。しかし、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの場合は痛みが長く続いたり、身体全体の不調を伴って重篤になることもあるのだ。

 介護、看護従事者を苦しめる腰痛を1件でも減らしたい。私は、関係業界団体への集団指導や個別指導など、あらゆる機会を捉え、これらの実態を詳しく話して、指針を広く周知するようにしている。

 利用者に安心できるサービスを提供するためにも、まず介護、看護に従事する労働者の安全と健康を保つことが急務である。

(城田正義)

 

(「連合通信・隔日版」10月9日号から転載)

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