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新人事制度の欠陥

 

 平成20年10月以降、労働基準行政(労働基準監督署等)の人事制度が大きく変わった。

労働基準行政は、監督行政(法令遵守指導、法違反の摘発等)、安全衛生行政(労働災害防止、職業病の予防等)、労災行政(労災補償給付、労働保険の適用・徴収等)の各行政分野(職域)に大きく分けることができる。当然、各分野は相互に緊密な連携を図っているが、同時に、各分野は広範な知識と経験を必要とすることから、それぞれに専門職員の採用、育成を重視してきた。

 具体的には、監督行政には「労働基準監督官」、安全衛生行政には「技官」、労災行政には「事務官」をそれぞれ採用し、一人ひとりの専門領域を明確にしながら、各分野のプロフェッショナルとなることを強く求めてきた。

私は、20年程前に「技官」として採用されて以来、長年、安全衛生分野の専門家となるべく、研鑽を重ねながら、危険・有害な業務あるいは困難な事案に立ち向かってきたつもりである。

ところが、平成20年10月以降採用者から、労働基準行政に従事するのは、「労働基準監督官」(労働基準監督官試験合格者)だけとし、前記のすべての分野を頻繁に人事異動させるという。これを「新人事制度」と呼んでいるが、近い将来、各行政分野の「専門性」が低下していく可能性が高い(しかも、新任監督官の実地訓練課程は縮小するという)。

今日、労働災害や職業性疾病の発生プロセスはますます複雑化している。

 労働者の安全と健康を確固たるものとするには、従来以上に安全衛生行政がその「専門性」を発揮しなければならない。

 一言で安全衛生行政といっても、膨大な安全衛生法令に関する知識に止まらず、特定機械の構造計算等では物理・材料に関する専門知識が、化学工業の爆発事故では化学に関する専門知識が、感電事故では電気・機械に関する専門知識が、原発事故では原子力・放射線に関する専門知識が、アスベスト・ダイオキシン障害予防では化学・医学に関する専門知識がそれぞれ必要とされる。そして何よりも豊富な経験がモノを言う。

 こうした広範な分野に及ぶ「専門性」を身に付けるには、自らが当該分野の専門家であることを強く自覚し、職業生活を通じて幅広い情報に積極的にアプローチし、進んで多くの経験を積もうとする姿勢が不可欠である。これが「技官」に求められるスピリットであり、それなくして事業主や労働者の信頼は得られない。

 「新人事制度」は、労働基準行政に不可欠な「専門性」の確立を困難し、ひいては働く者の権利と生活、そして命を脅かすことになる。一日も早く抜本的な見直しを図るべきだと思う。(S)

 

 

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