全労働の活動・とりくみ

1995年12月
第21回労働行政研究活動中央レポート
今日の労働者のおかれている実態と労働行政が果たすべき役割

【目次】

はじめに

1990年の後半から始まり戦後最悪といわれる今次不況は、94年9月の政府による「景気は緩やかながら回復の方向へ」という宣言にもかかわらず依然として深刻な状況が続き、政府統計による1995年平均の完全失業者数は210万人、完全失業率が3.2%となり失業率は1953年の調査開始以来最悪の数字を記録しています。このような中で、不況・円高を口実にしながら大企業は大規模なリストラ「合理化」を強引におしすすめ、労働者や下請け企業を犠牲にしながらいっそう利潤を増大させています。
このようなかってない規模での企業のリストラ「合理化」攻撃のもとで、民間の各職場では、賃金抑制、成績主義・能力主義の強化と年功賃金の見直し、終身雇用の形骸化とひとべらし「合理化」、出向・配転の常態化、管理職を含む中高年の切り捨て、女性や高齢者などにみられる不安定雇用労働者の拡大、超過密労働とサービス残業の横行、思想・組合差別などがすすみ、度重なる権利侵害により働きがいが奪われ、性別・年齢、階層を問わず、すべての労働者が仕事と職場の将来に対し不安をいっそう大きくしています。
一方、労働者の雇用や労働条件をめぐるこのような矛盾の広がりにもかかわらず、労働行政の諸施策は、後述するように真に労働者保護のためにその役割を果たしているとは言えず、むしろ大企業を中心とする企業のリストラ・「合理化」や財界が主張する規制緩和要求に呼応するかたちで展開されており、雇用調整の支援、有料職業紹介事業や労働者派遣事業の適用対象職種・業務の拡大、労働契約法制の見直し、裁量労働制の適用範囲の拡大、女子保護規定の緩和の検討に見られるように、労働条件の悪化をいっそう促進する方向での動きを強めています。
したがって、今日の労働者が各職場で実際にどのような状況に置かれ、労働行政に何を求めているのか、労働行政が真に労働者・国民のための行政として機能するためにどのような役割を果たすべきか、こうした点の解明は行政民主化の観点から急務の課題であると同時に私たち自身の働きがいの問題としても重要です。
第21回労働行政研究活動は、このような問題意識のもとに全国の仲間の手ですすめられてきました。本中央レポートは、1995年12月6〜8日に開催された全国集会をはじめとする全国的な討論によって補強されたもので、あらためて全国の仲間の奮闘に感謝します。
なお、中央レポー卜の構成は次のとおりです。
第1章では、全労働の労働行政研究活動の到達点をあらためて確認した上で第21回行研渚動の意義や目的、とりくみの概要等について述べています。
第2章ではアンケート結果にもとづいて「今日の労働者の置かれた実態」の特徴点を分析しています。ここでは、アンケートの共通部分を中心に雇用調整の実態や労働条件をめぐる全般的な状況について明かにするとともに、職域ごとの観点にもとづく諸問題を明かにしています。
第3章では、これらの諸問題を生じさせている財界の労務戦略とこれに追随する労働行政や労働諸法制の動向について諸資料をもとに分析・批判しています。
第4章以下では、以上の分析を踏まえて、「今日の労働者が置かれた実態」をめぐる諸問題とこれを解決するために労働行政が果たすべき役割等について総括的に明かにしています。

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第1章 全労働の行研活動の到達点と第21回行研のとりくみ

1.全労働の労働行政研究活動の到達点

全労働は1960年に第1回の労働行政研究集会(中央集会)を開催して以来、真に労働者国民のための労働行政の確立をめざして、今日まで20回にわたり行政研究活動を展開してきました。
全労働の労働行政研究活動は、初期の段階では、中央集会での個人や少数グループによる研究報告を中心とする活動にとどまっていましたが、その後回数を重ねるにしたがい、単なる政策や業務の批判・暴露にとどまらず、たたかうべき課題を明らかにし、勤労国民との共闘の場で、実践的にその課題にむかってたたかう努力を積み重ねてきました。
1975年の全労働第18回定期大会では行研活動の強化にむけて、「行研活動と行政民主化闘争との実践的結合を重点課題とし、研究活動を『机上研究』や『企業内研究』にとどめず地域の労働者、民主勢力、市民団体等と大胆に交流し・・発展させる」として「行政酷書」運動を提起しました。この行政酷書運動は、その後の「これが労働行政だ(労基署・安定所職員の手記から)」(1976年)へと発展し、社会的反響を呼びました。
こうした到達点を踏まえて、全労働第19回定期大会では、行政研究活動の抜本的強化の方針が決定され、中央行政研究推進委員会を設置して具体的方針を検討しました。その具体的方針の特徴は、(a)全支部・全分会で統一したとりくみを展開することを打ち歯したこと、(b)全労働の特性を活かした調査活動を提起し実証的研究を中心にすえたこと、(c)行研活動の成果を行政民主化闘争に着実に活かしていく方向を明確にしたこと等にあります。そして、これらの方針のもとにとりくまれた第15回行研活動では、中高年齢労働者や労災職業病等の課題を統一テーマとして設定し、アンケート調査、座談会、訪問調査活動等をとりくみ、労働者、民主団体、研究者との間で交流と研究がすすめられました。
その後の行政研究活動もこのような活動スタイルが引き継がれ、第16回から第18回行研活動では、中高年労働者、労災年金受給者、パート労働者、派遣労働者等の諸問題を全国全組織でとりくみ、行研活動は飛躍的な前進をとげました。
第19回行研活動では、それまでの活動の成果と到達点を踏まえ、運動の原点である職場でのとりくみを重視し、「労働行政の現状と問題点・その果たすべき役割(その1)」をメインテーマとし5つの関連するサブテーマを設定して斉支部が独自性・地域性により選択する方法をとりいれ、日常業務に根ざした研究の方向を明らかにしました。そして、前回の第20回行研活動は、「労働行政の現状と問題点・その果たすべき役割(その2)」をメインテーマとし、雇用保険制度、助成金制度、高年齢者の雇用問題、労働時間法制、労災補償等の諸問題をサブテーマとして研究活動を展開しました。
一方、この間、労働者・国民の立場にたった労働政策を確立する活動も着実にすすめられ、学者・研究者との共同による「労働政策研究会」の報告(1983年)が発表され、また職場代表による検討・対策委員会が設置されて、職業安定、監督、安全衛生、労災、婦人少年の各行政分野ごとの政策づくりが行われました。さらに、これらを集約して、「民主的労働行政実現のための全労働の提言(案)」(1984年)が発表されました。また、第20回行研活動を引き継いだとりくみとして本年3月には「過労死等問題検討委員会報告」(1995年)が発表されるなどこれらの活動は行政民主化のとりくみを前進させる上で大きな役割を果たしてきました。
こうして全労働の行政研究活動は、過去20回にわたる活動を通じて、アンケー卜調査、支部行研集会、シンポジウム、座談会の開催等による全組合員参加の活動として定着するとともに中央・地方において他の労働組合や学者・研究者等民主的諸勢力との交流や共同のとりくみを発展させ、労働行政民主化の運動を広範な運動へ前進させるための役割をはたしているといえます。また、研究活動をつうじて職場の仲間が行政をみつめ直し、「仕事そのものがたたかいの課題」であることを認識するとともに、研究成果のうえにたって、種々の政策提言や当局への申し入れを行い、民主的業務運営や労働条件の改善においても一定の役割を果たしています。

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2.第21回行研の意義と目的

第21回行研は、1993年7月に第1回中央行研推進委員会を開催して以降、支部意見の集約もはかりながら基本的観点や研究テーマ、とりくみ等について検討を重ね、1994年4月の支部担当者会議及び同年6月の第86回中央委員会を経て「第21回労働行政研究活動推進要領」を作成し具体化をはかってきました。

(1)第21回労働行政研究活動の基本的観点

第21回行研は、これまでの20回にわたる行政研究活動の到達点とその成果のうえにたって新たな成果をめざし、以下のことを基本にとりくみをすすめてきました。
(a)今日の労働者の置かれた実態と労働行政の問題点を明かにし、労働者、国民本位の行政とするための改善方向を明かにするようとりくみました。
(b)産業構造の変化や高利潤体制の新たな構築をめざす企業のリストラ「合理化」の推進に対応し、労働法制の改悪や労働政策の転換がすすめられています。今日の労働行政の変化が職場の日常業務のなかにどのようにあらわれているのか、分析・検討を行うなかで、労働行政の変化の実態を明かにするようとりくんできました。
(c)研究活動にすべての組合員が参加することを追求しました。研究活動への参加をとおして、行政民主化のたたかいを職場に根づかせ、日常業務のなかで、労働者、国民のための労働行政を追求し、なかでも次代を担う青年が労働者、国民の立場にたって正しく見つめ、批判できる力を培うことを重視してきました。
(d)すべての支部、分会で推進体制を確立し、職場のなかに行政民主化の議論をまきおこし、研究活動の成果を全体の合意のもとに、職場で実践するとりくみを重視してきました。
(e)地域の住民や労働者の生活と労働行政のかかわりに目をむけ、共同のたたかいを重視しました。

(2)研究テーマ

第21回労働行政研究活動のテーマは「今日の労働者の置かれている実態と労働行政が果たすべき役割」としました。
テーマの設定にあたっては、93年9月に行った「第21回行研活動アンケー卜」の支部意見をふまえ、日常業務に関連した身近な課題をとりあげつつ、専門性を生かしたより深い分析、検討を行い、同時に労働行政の今日的な課題に応え得る内容となることを重視しました。
不況の進行のなか大企業がリストラ「合理化」を強行するもとで、中小零細企業の経営の維持、雇用の確保も困難をきわめています。また、不安定雇用労働者の打ち切り、解雇、配転、出向、一時帰休等の人減らし「合理化」、労働条件の切り下げがすすんでいます。
このような、企業の雇用調整の状況、労働条件の変化、離職の原因、就職にあたっての希望、労働時間、健康管理状況など労働者の生活と労働がどのような状況にあるのかを直接私たちの手で明らかにし、労働行政に何が求められ、どのような役割をはたしているのかをさぐり、改善方向を明らかにするためにこのテーマを設定しました。

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3.第21回行研の具体的とりくみとその結果

第21回労働行政研究推進要領にもとづき、各支部では支部行研推進委員会を設置し具体的とりくみを展開してきました。主なとりくみは次のとおりです。

(1)アンケート調査

「今日の労働者の置かれている実態と労働行政が果たすべき役割」を明らかにするための調査研究の中心的なとりくみとして、1994年9月から1995年1月までの期間、労働者、労働組合、事業場に対するアンケート調査を行いました。
調査内容は、企業がすすめる雇用調整や「合理化」及び労働条件の切り下げ等の広範な実態を明らかにすることを基本として、さらに、労働行政の各職域の専門性を生かすという観点から、私たちが直接従事している職業安定行政、労働基準行政、婦人少年行政等の各行政の諸施策に即して労働者の実態を把握するという立場をとり、「窓口にあらわれた労働者の実態と職業紹介・雇用保険制度のあり方」(職安職域)、「長時間過密労働と健康破壊・職業病の実態と基準行政の役割」(基準職域)、「女性労働者の現状と婦人行政の役割」(婦少行政)といった観点を設定し、4種類の調査票を作成しました。(巻末調査表参照)
また、アンケー卜調査は、全国の職安・基準・婦少の各行政職域で働く全労働の組合員が窓口での面接等により実施し、全国各地域の労働者・事業所・労働組合から回収したものです。
これら4種類のアンケート調査の調査対象・回収数等の内訳は次のとおりです。
(a)アンケート1(求職者アンケート)
調査対象⇒調査時点で安定所の窓口を訪れた受給者や一般求職者
回収数〜6,533件
(b)アンケート2(事業所アンケート)
調査対象⇒調査時点で安定所の窓口に求人申し込み、各種助成金の申請等に来所した事業所
回収数〜3,253件
(c)アンケート3(労働組合アンケート)
調査対象⇒各都道府県の労働組合名簿から任意に抽出した労働組合
回収数〜931件
(d)アンケート4(在職者アンケート)
調査対象⇒全国の監督署の来署者や組合員の友人・知人で民間事業場の在職労働者
回収数〜4,051件
なお、以上により回収した調査対象の属性別の内訳は表1〜表3のとおりです。

(2)組合員メモ活動

アンケート調査による労働者の実態の把握と同時に、全労働の組合員がみずからの業務を通して感じている労働行政の諸施策や業務運営に対する問題意識を記述するとりくみを実施し、支部レポートや中央レポートに反映しました。

(3)支部行研集会やシンポジウムの開催

アンケート調査や組合員メモを中心として作成した支部レポート(案)をもとに全国の各支部では組合員の参加による支部行研集会やシンポジウムの開催あるいは民主的諸団体に支部レポート(案)を送付して意見を求める等、学者・研究者・労働組合等の参加も得て、今日の労働者の実態と労働行政の民主化についての広範な討論を実施しました。現在までに行研集会が17支部で、シンポジウムが4支部で実施されており、今後の実施を計画している支部もあります。

(4)支部レポートと中央レポートの作成

各支部では、以上のとりくみや文献・資料等をもとに研究活動をすすめ支部レポートを作成しました。また、中央レポートに反映するため10月31日までに27支部から報告があり、現在までに37支部で支部レポートが作成されています。
中央レポートは、中央行研推進委員会において、アンケート結果の全国集計分の分析を中心として、支部から報告のあった組合員メモや支部レポートによって補強しながら作成しました。

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第2章 アンケート結果に見る労働者の置かれている実態

1.アンケート結果に見るリストラ・「合理化」の実態

1.企業の雇用調整の特徴(調査結果からみた企業における雇用調整について)

〜 人減らし「合理化」が大規模に実施されている
調査は、職業安定所の窓口に来所した求職者6,513人(男2,991人、女3,522人)と民間企業に在職中の労働者4,045人(男2,341人、女1,704人)、また職業安定所に来所した事業所3,253事業所、さらに労働組合931組合を対象に、アンケート記入方式により実施しました。求職者アンケート・在職者アンケートとも同様の傾向にありますがリストラ「合理化」の実態がより特徴的にあらわれている求職者アンケートを中心に分析することとします。
求職者アンケートによる、最近一年間に経験した雇用調整やリストラは、「人員削減、採用・補充中止」(29.7%)、「残業規制」(26.6%)の2つが柱となって、「希望退職・勧奨退職・解雇」(20.5%)、「配置転換・出向」(15.6%)、「労働時間制度の変更」(14.6%)、「賃金制度の変更」(12.9%)、「賃金の遅払い・不払い」(4.5%)、「一時帰休」(3.3%)等が様々な方法で実施されています。(図1)
業種別では、全般的に「製造業」での雇用調整の割合が高く(8項目中5項目で割合が第1位)、また、規模別では大企業ほど雇用調整の実施の割合が高く、しかも「残業規制」(1,000人以上で43.6%、以下同じ。)「人員削減、採用・補充中止」(37.1%)、「配置転換・出向」(27.1%)の3つが高率となっているのが特徴です。
事業所や労働組合アンケートでは、雇用調整やリストラ等について「行った」が(事業所34.6%・労働組合40.7%、以下の項目も同じ)で、「残業規制」(35.1%・38.7%)、「人員削減、採用・補充中止」(32.5%・34.4%)、「労働時間制度の変更」(14.5%・19.1%)、「配置転換・出向」(13.2%・20.1%)の順で割合が高く、規模別でも求職者アンケートの回答と同様に大企業ほどその割合が高くなっています。(図2)
長引く不況のもとで、雇用調整は業種、企業規模にかかわりなく、多くの企業において様々な形態で実施されています。こうしたことから、多くの労働者が労働条件の変更等を余儀なくされるとともに、家族の生活にも大きな影響を与えています。

2.労働条件の変化

〜 雇用調整のもとで労働条件は悪化
(1)労働時間の変化について求職者アンケートでは、「短くなった」(15.7%)に対して「変わらなかった」(72.6%)、「長くなった」(11.0%)の合計で83.6%に達し在職者アンケートでも2つの合計が80.9%を占めています。このように労働時間は変わらず、労働時間の短縮は進んでいません。(図3)
「長くなった」の割合の高い業種は、「運輸・通信業」(15.8%)、「卸・小売業、飲食店」(14.6%)、「ホテル・旅館業」(13.5%)等となっています。また、規模別では大きな特徴は見られませんが、年齢別では年齢が高くなるほど「短くなった」の割合が高くなっています。

(2)残業時間の変化について求職者アンケートでは、「変わらなかった」(55.0%)、「少なくなった」(29.3%)、「多くなった」(14.5%)となっています。(図4)
「少なくなった」の割合が比較的高い業種は、「製造業」(43.7%)、「電気・ガス業」(30.5%)、「運輸・通信業」(29.6%)、また、職種では「製造職」(45.1%)、「運転・通信」(31.7%)、「専門・技術職」(29.2%)、「事務職」(26.4%)となっています。
ここにも不況による雇用調整の柱として、「残業規制」が広く行われていることがわかります。

(3)賃金の変化について求職者アンケー卜では、「変わらなかった」(54.8%)、「高くなった」(27.2%)、「低くなった」(17.0%)で、「変わらなかった」又は「低くなった」が71.8%を占め、ここ一年間、ベースアップも定期昇給もなかったり、逆に賃下げとなった人もおり、「賃金抑制」の影響が出ています。(図5)
「低くなった」の割合を年齢別にみますと、「35歳〜44歳」(18.9%)、「45歳〜59歳」(20.6%)、「60歳以上」(22.6%)と年齢が高くなる程割合が高く、より「賃金抑制」の影響が大きくなっています。

(4)人員の変化について求職者アンケートでは、「変わらなかった」(46.2%)、「少なくなった」(42.8%)、「多くなった」(10.3%)と、人員削減が多くの企業で実施されています。(図6)
「少なくなった」の割合の高い業種は、「製造業」(47.4%)、「運輸・通信業」(44.9%)、「金融・保険・不動産業」(39.6%)、「卸・小売業・飲食店」(39.1%)、「ホテル・旅館業」(34.5%)で、また、規模別では規模が大きくなるのに比例して、その割合が高くなっています。
ここにも、長引く不況の下で業種や規模に係わりなく、多くの企業で「人員削減、採用・補充の中止」等の人減らし「合理化」が、大規模に行われている実態が浮き彫りとなっています。

3.労働強化の実態

〜 労働条件が大きく変わり、仕事が「きつくなった」
労働強化について求職者アンケー卜では、「変わらなかった」(52.7%)、「きつくなった」(40.1%)、「楽になった」(6.6%)と回答し、「きつくなった」の割合が3分の1以上を占めています。(図7)
「営業・販売職」「専門・技術職」「運転・通信」「サービス関係」「製造職」等の職種では「きつくなった」の割合が40%以上となっています。また、規模別では規模が大きくなるのに比例して、その割合が高くなっています。
「人員削減、採用・補充の中止」等の人減らし「合理化」が、大規模に進められ仕事量、密度ともにますます高まっています。このような労働実態のもとで、多くの労働者は仕事が「きつくなった」と実感しています。

4.労使協議の問題点〜様々な雇用調整が「手続きなしに一方的に」行われる例も

「事業所アンケート」では、雇用調整やリストラ等を行った事業所(1,127事業所)のうち、労働組合や従業員の代表との協議を、「十分に行っている」(51.9%)、「十分ではないが行っている」(32.8%)、「行っていない」(8.8%)となっています。
同じ設問の「労働組合アンケート」(379労働組合)では、「十分に行っている」(46.2%)、「十分ではないが行っている」(42.7%)、「行っていない」(9.2%)と、ほぼ「事業所アンケート」と同様の傾向となっており、十分、不十分を別にすれは多くの場合労便の協議が行われています。(図8)
しかし、「行っていない」との回答も134件(100人以上で65、1,000人以上で11)あり、こうこうした事業主の対応は正常な労使関係からも許されるものではなく、その責任が厳しく問われなければなりません。
企業がとった雇用調整やリストラ等への労働組合の対応は、「反対した」(20.8%)で、「やむなく承知した」(62.3%)、「賛成した」(11.3%)となっています。
一方、連合が昨年末から今年2月にかけて行った「雇用点検アンケート」の中間報告では、雇用調整が行われたところで、「交渉などあり」とする労働組合は75.8%、「交渉なし」が16.3%となっています。また、解雇について労働協約に何らかの規定があるという労働組合は61.9%に過ぎず、その内容でも「組合、本人との協議・合意」を定めているのは14.5%、「組合との協議決定」の33.8%を合わせても半数に満たない状況となっています。
配置転換や出向は、その当事者の意思が最優先されるべきことがらであり、「本人同意」は欠かせません。「組合との協議決定」だけでは組合が出向等を認めた場合、当事者はこれを拒否することは事実上できなくなってしまいます。企業が雇用言周整やリストラ等を行う場合、労働組合や従業員の代表との協議を行うことはもちろん、「本人の同意」が最低限確保されるべきです。

5.雇用調整や解雇に関する労働者の意識〜雇用調整や解雇は法律で規制を

「求職者アンケー卜」や「在職者アンケート」で、「配置転換や出向」を「した」とする者のうち、「同意の上で」は「求職者」(34.8%)、「在職者」(48.9%)、これに対して「会社から一方的に」は「求職者」(61.1%)、「在職者」(45.6%)にもおよび、かなり高い割合で本人の意思を無視した配転・出向が行われています。
しかも「求職者」(15.8%)、「在職者」(19.4%)が「転居を伴った」としています。不況下で企業が行う配置転換・出向などの雇用調整について、「しかたがない」が「求職者」(47.9%)、「在職者」(46.1%)、これに対して「法律で規制すべき」は「求職者」(17.6%)、「在職者」(22.8%)となっています。
一方、解雇については、「しかたがない」が「求職者」(27.0%)、「在職者」(23.6%)、「法律で規制すべき」が「求職者」(37.3%)、「在職者」(44.3%)となっており、「雇用調整」と比較して「法律で規制すべき」の割合が高く、「求職者」「在職者」とも「しかたがない」を上回っています。
「雇用調整」「解雇」とも「しかたがない」の回答の中には、「不十分な法制度」の下でこのような気持ちを持った人たちも少なくないと思われ、このような人たちも含めれば「法律で規制すべき」は大多数の労働者の切実な要求と言えます。(図9、図10)

6.雇用調整助成金の活用状況〜法的規制と一体で実効性確保を

「事業所アンケート」では、最近1年間に雇用調整助成金を「利用したことがある」が19.7%(641事業所)で、業種別では製造業、運輸・通信業等で多く、規模別では規模が大きくなるのに比例して「利用した」事業所の割合が高くなっています。
「雇用確保の効果」については、「大変効果があった」7.1%(「利用したことがある」を100とした場合35.7%)、「多少効果があった」10.9%(同54.9%)、「あまりなかった」「まったくなかった」の二つを合わせると1.8%(同9.4%)となっています。
同様の設問で「労働組合アンケート」では、「利用したことがある」が14.0%(130組合)で、「大変効果があった」「多少効果があった」を合わせると、「事業所」ほど高くはないものの8.7%(同49.3%)となり、「あまりなかった」「まったくなかった」を合わせた3.3%(同18.3%)を上回っています。(図11)
このように、事業所や労働組合は、雇用調整助成金制度が一時的には解雇や希望退職等を防ぐ「調整弁」として、一定の役割を果たしていると評価しています。しかし一方で、「組合員メモ」では「『失業の予防』という制度本来の目的を果たし得ていない」という意見も少なからず出されています。雇用調整助成金の受給期間終了後に雇用調整やリストラ、労働条件の切り下げ等が行われることのないよう法的規制が必要と思われます。
なお、雇用調整助成金制度に対する意見・要望(「事業所アンケート」から)は、「手続きを簡単にしてほしい」996事業所(30.6%)、「支給要件を緩和してほしい」628事業所(19.3%)、「助成金の支給額の引き上げ」576事業所(17.7%)の要望が事業所から出されています。また、一部の事業所からは指定業種の拡大を望む意見も出されています。

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2.離職者の実態と意識

職安職域でのとりくみの重点は、現在の産業構造の変化やリストラ合理化の中での労働者の実態、とりわけ離職後に職業安定所の窓口にあらわれた求職者の離職理由について明らかにし、労働者の職場での実態について分析・検討することにありました。
調査は、職業安定所の窓口に来所した求職者6,533人(男2,991人、女3,522人・性別不明20人)を対象にアンケート記入方式により実施しました。
集計したアンケート実施者の年齢区分で見ると、25歳未満1,182人、25歳から34歳まで1,777人、35歳から44歳まで935人、44歳から59歳まで1,592人、60歳以上1,024人、年齢不明23人となっています。25歳から34歳台と、45歳から59歳台が比較的多い傾向を示していますが、全体的に見て各世代層の声を集約することができたものと思われます。

1.離職理由からうかがえる実態

全体的な離職理由の比率は「自身の理由」が54.7%といちばん多く、続いて「会社の都合」31.O%、「家族の理由」5.8%となっています。これを年齢別に比較すると図13になりますが、明らかに年齢が高くなるにつれて「会社の都合」による離職の割合が高くなり、逆に「自身の理由」による離職が減少しています。
また、「家族の理由」による離職は、各年齢層でほぼ同じ割合になりますが、「その他」が60歳以上で多く、「自身の理由」とほぼ同じ比率になっています。今回のアンケートではその内容を詳しく分析することはできませんが、離職にいたる経過は「とても一言では言い表わせない」ことを示しているのではないでしょうか。

(1)「会社の都合」で離職した人の分析
「会社の都合」で離職した2,026人の具体的な内容を見ますと、「解雇・希望退職」が745人となり、男性410人、女性335人といずれも30%強の高い割合を占めています。これに「会社倒産」を加えると40%強となり、ほぼ二人に一人が人員的な合理化の対象となったことによる離職といえます。(図14)
年齢別にこれを詳しく見ると60歳以上では「定年」が(57.5%)で半数以上であり、次いで「契約期間満了」(20.6%)、「解雇」(11.3%)となっています。これは現在の定年制の状況と、この年齢層の雇用形態にパート社員、臨時社員等の不安定な有期契約が多いことを映し出しています。
また、45歳〜59歳の層を見ると解雇(32.9%)、定年(15.7%)、希望退職(15.6%)となっています。ここで注目すべき点は「希望退職」がこの年齢層に集中していることです。(希望退職全体に対してこの年齢層が占める割合は58.2%)ここからリストラのひとつの方法である「希望退職者」の募集が中高年齢層をターゲットにしていることがうかがわれます。さらに、「定年」による退職も高い割合を示し、60歳未満の定年制度により多くの人が退職を余儀なくされていることもわかります。(図15)
職種や業種から見た特徴は「会社都合」で退職している人の割合が「製造職・業」で多くなっています。そのほかの質問項目全体を見渡してみても、明らかに「製造職・業」に対して、雇用調整のしわ寄せが集中していることがわかります。
業種別にみた場合、「会社の都合」の割合が全体で31%であるのに対し、「製造業」が38.6%、「建設業」が34.8%、「運輸・通信業」が33.6%と高くなっています。
さらにこれを「職制」で見た場合、「会社都合」で退職した人の比率は「管理職(部長以上)」で49.3%、「管理職(部長以下)」で45.1%、一般従業員で28.4%となっています。また「管理職(部長以上)」の「会社都合」の理由の中で「解雇」が25.3%も占めていることが特徴的です。
企業規摸別には、「会社の都合」による離職の割合はほぼ同じでが、企業規模が大きくなるほど、「残業規制」の割合が高くなっていますが、同時にサービス残業が増加している調査結果(4.「残業規制」とサービス残業の項を参照のこと)とも合わせて考えるならば実労働時間は短縮されず、むしろ人員の減少などともあいまって仕事がきつくなったと感じる人が増加している傾向がうかがえます。さらに配置転換や出向等の雇用調整も多く実施されています。これらのことから浮かび上がってくるのは、企業の「雇用調整」の対象は「製造部門」であり、またコストのかかる中高年層や中間管理職を中心に進められているといえます。

(2)「自身の理由から」退職した人の分析
全体的には、年齢が上がるほど、「自身の理由」が減少しています。若い世代が「自身の理由」でたくさん退職していますが、これを短絡的に安易な離職と結論づけるわけにはいきません。ここで、「自身の理由」をより具体的に見てみますと「その他」(23.1%)が目立ち、以下「賃金が低かった」「会社の方針」「労働時間が長かった」「上司や同僚との折り合い」「職業適性」などがあげられています。一般的には加齢とともに家族の生活を支える責任が重くなり、いったん離職してしまえば再就職は困難になります。そのために加齢とともに「自身の理由」が減少していることがうかがえます。しかし、年齢に関係なく労働者が最終的に退職を決断するまでには多くの葛藤があります。入社の時には現在の終身雇用・年功序列という日本型雇用慣行のもとで、多くの人がその人の一生を託す決意をしていたはずです。しかし、「退職の道を選び、選ばざるを得なくなった」こういう経過をたどり退職に至った求職者に、退職理由をこのアンケートでひとことで言えというのは無理であろうと思います。窓口で多くの求職者と接した私たちの経験からも、アンケートの回答で「その他」が一番多かったということからもそのことがうかがわれるのではないでしょうか。そして、前回の行研活動の際の求職者の言葉「正当な理由がないと言ってほしくない。誰でもそれなりに退職した理由があるのです」を今一度思い起こし、「その他」として記述された多くの言葉の重みを真摯に受け止め、単なる「自身の理由」ではなくその背景と真実を理解し、私たちの日常の職業紹介業務、雇用保険業務にいかす必要があります。

(3)「家族の都合」で退職した人の分析
全体で見た場合、「介護」(37.5%)と「育児」(17.2%)で過半数をこえています。
この点からも「介護休暇」「育児休業」の各制度のいっそうの充実をはかる必要があります。(図19)
また男女別に見ると、男性では「親の介護」が53.5%で過半数をこえていますが、女性では「親の介護」は30.6%で「育児のため」が23.0%となっています。これは女性は「親の介護」が少ないのではなく、「親の介護」も当然におこない、さらに「育児」が女性に対する負担となっていることをあらわしているとみることができます。(図20)
また、「配偶者の転勤」を理由として上げた女性の44名(16.6%)についても、一般的には配偶者の状況の変化によるもので、これは企業の「合理化」や「リストラ」により、広範囲な「配置転換」「出向」が行われ、退職せざるを得なかったケースが含まれると推察されます。

2.離職者の収入からうかがえる実態

ここでは離職後の主たる収入の状況を調査していますが、全体では「雇用保険失業給付」が32.3%、次いで「貯金・退職金」が25.1%となっています。(図21)
離職理由別に見た場合、「雇用保険失業給付」の比率は「自身の理由」でやめた場合の26.7%に対し、「会社都合」では42.2%と比較的高くなっています。(図22)
ここから何の準備もなく急に解雇された労働者の「雇用保険失業給付」に対する依存度は非常に高いことがわかるとともに、生活保障の効果もあらわれていると考えられます。
一方、「自身・家族の理由」で退職した場合は「雇用保険失業給付」の比率はずっと低くなります・ここからは、手続きしても「3カ月給付制限」によりすぐには支給されない「雇用保険失業給付」に頼ることができず、「貯金・退職金」を使わざるを得ない状況にあることがうかがわれます。
これらのことは、「アンケート項目11」の設問に対し、「雇用保険法の充実」を求める声が多いことからも明らかです。給付制限の撤廃が35.9%(2,343名)、給付額の引き上げ18.3%(1,196名)、所定給付日数の拡大17.4%(1,137名)と上位3項目までで全体の71.6%を占め、雇用保険に対する期待の大きさをうかがわせています。

3.希望雇用形態から見た実態

再就職にあたっての希望雇用形態は図23のとおりです。
前職の雇用形態が「正社員」は総数で5,140人であり、「正社員」で再就職を希望する人は4,305人で約16%減少し、前職が「パー卜社員」は695人で、再就職希望は1,564人と倍増することになります。(図24)
これだけを見れば「パー卜雇用」を希望する割合が増え、パート労働者の増加は労働者の意思に沿ったものと言えるかも知れません。
しかし、なぜ「パート雇用」を希望するのかを詳しく見てみると、回答で一番多いのが「年齢、経験などの制限による応募難のため」(24.9%)であり、これはたとえ「正社員」を希望していても求人が年齢などで制限されており、「パー卜雇用」を希望するしかないということです。また、「育児、介護のため」(18.5%)についても、「正社員」ではとても「育児・介護」と両立できないということであり、働き続けるための制度上のバックアップや労働条件次第では「正社員」を希望したことをうかがわせます。また、「扶養家族からはずされたくないから」(8.2%)という理由も税法上の問題が大きく、これらを合計すると約半数は自発的な「パート雇用」希望とは言い難く、仕方がなく「パー卜雇用」を希望しているという実態が明らとなってきています。最近、しきりに「労働者の意識の多様化」が強調され、政府・財界は「働く人がいろいろな価値観、意識を持つようになってきたからパート、アルバイト、派遣労働等のさまざまな雇用形態が必要である」と主張していますが、実際はまったく逆なのではないでしょうか。
財界がもくろむ労務戦略は、「終身雇用制度」などの従来の雇用慣行を見直し、不安定雇用を増大させ、企業の都合で好き勝手に採用、解雇をくりかえすシステムを構築しようとするものです。労働者の意識の多様化を言うならば、まず労働条件の向上と家庭責任等を有する労働者が安心して働き続けるための各種制度が実効あるものとして整備されなければならないのは当然のことです。

4.就職時に重視していることがら

(1)労働条件について
男性では「賃金」(67.1%)、「仕事内容」(62.9%)の2項目に集中し、以下「勤務時間」(38.9%)、「職場環境」(26.5%)の順に続きます。これは当然のことながら、生活の安定・確保と、中長期的な勤務を考えてのことと思われます。
一方、女性では「仕事内容」(62.1%)、「勤務時間」(58.9%)、「賃金」(56.5%)、「通勤時間」(35.9%)となっています。女性の場合、その多くが「家事・育児」などを行いながらの「仕事」であることから「働きやすさ」という点を重視していることがわかります。そのために「勤務時間」を重視する女性の比率が非常に高くなっており、希望雇用形態とも関連しますが、「パー卜希望の理由」の項目でも「家事のため」が25.9%と高く、以下「年齢・経験」「育児・教育」と続いたものと思われます。
つまり女性の場合、「家庭生活と仕事の両立」という問題にかかわって、家事・育児にかかる時間を確保するために、「勤務時間」を重視しているのであり、逆に、正社員では長時間過密労働で、「家庭生活と仕事の両立」ができないということを証明していると考えられます。

(2)制度面について
まず男性・女性とも重視する点として、「社会保険」を第一位にあげていること(男性83.5%・女性77.8%)が注目されます。このことは労働者が就職するための条件として社会保険を重視しているという意識のあらわれと見ることができます。また、依然として雇用・労災・健康・厚生等の社会保険が整備されていない事業所が多いという現実も直視しなければなりません。
以下男性の場合は、「週休二日制」(44.0%)、「退職金」(41.6%)と続き、女性では、「週休二日制」(56.6%)、「有給休暇」(45.5%)と続いています。女性の場合、将来的な職業生活を考える時に、家庭事情全般に視点を置き、前項「(1)労働条件について」でも述べた「働きやすさ」を重視していることがうかがえます。

5.アンケート記述にみられる離職者の意識

(1)企業に対する意見.要望の概要
企業に対する意見の中で特徴的なことは、「社員を大切にしてほしい」「業績不振を社員の責任にしないでほしい」「安易な雇用調整を行わないでほしい」というような意見がたいへん多かったということです。こうしたことから企業がこの不況下で、労働者に対して一方的な雇用調整を強いている状況がはっきりとうかがえます。
また、「賃金の引き上げ」「労働時間の短縮」などの根本的な労働条件の改善の遅れや「中高年齢者の受け入れ態勢の強化」「定年の延長」などの職業安定行政にもかかわる重要な課題も数多く出されています。

(2)労働行政に対する意見・要望の概要
労働行政に対する意見・要望は広い範囲にわたり出されていますが、大きく分けて「職業紹介を受けやすい環境の改善」というハード面に対する意見・希望、「求人の確保と内容の把握」などのソフト面に対する意見・要望および「雇用保険制度」への意見・要望に大きく別れています。
まず、「職業紹介を受けやすい環境の改善」という点では、「駐車場が狭い」「もっと安定所を増やしてほしい」などという「庁舎の改善・整備」に対する意見や、「もっと親切に対応してほしい」など「職員の対応」に多くの要望が出されています。予算の確保や職員研修の充実などでこれらの意見・要望に対応していく必要があります。
また、「求人の確保と内容の把握」という点では、「積極的な求人開拓」などの求人の総量の確保と、「企業・求人の内容を十分チェックしてほしい」というような、求人の質の向上を求めています。これは、「定年延長」「高年令者の雇用促進指導」などに代表される、企業指導についての要望と連動し、職業安定行政の機能強化が望まれていることを示しています。さらに、「職業訓練制度の充実」に関しても、「訓練科目の増設」「受講定員の拡大」「年齢制限の撤廃」などの要望も数多く出されています。このような意見・要望は労働行政に対する非常に大きな期待につながっていると考えられます。
雇用保険制度に対する要望については、「3ケ月給付制限の見直し・撤廃」が最も多くなっており、「2.離職者の収入からうかがえる実態」の項で述べた点を裏づける結果になっています。また、第19回と第20回の行研活動のなかで、「雇用保険の現状と問題点」というテーマでアンケートを行っていますが、その時も「給付制限期間の見直し・撤廃」を求める回答が非常に多かったことや、組合員メモにも同様に数多くの批判が記述されています。この問題は好・不況期にかかわらず、大きな矛盾を抱えたまま現在に至っています。
アンケート記述部分全体で感じられることは、安易な「雇用調整」を行う企業に対する法的規制や指導の強化などの要望と、雇用保険制度をはじめとした現行制度の充実を望む要望・意見が多くを占めていることです。求職者は「労働者の立場に立った」民主的な行政を期待しています。今回の労働行政研究活動の成果をふまえ、今日における労働行政が果たすべき役割をもう一度検証する必要があります。

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3.進まない労働時間の短縮

1.アンケート結果にみる所定労働時間短縮の実態

前回の20回行研(1991年)における「週休制」に関する調査では、「完全週休2日制」26.4%、「何らかの形での週休2日制(4週5休〜4週7休)」47.6%、「週休1日制」19.1%となっていましたが、今回のアンケート結果では、「完全週休2日制」38.3%、「何らかの形での週休2日制」42.0%との集計結果となり、未だに完全週休2日制が定着したとは言えない状況にあります。なお、20回行研との比較では、完全週休2日制が11.9ポイント増加し、逆に何らかの形での週休2日制はマイナス5ポイントと少なくなっています。
また、今回のアンケート結果から「正社員」の週所定労働時間をみると、44〜46時間未満14.7%、46〜48時間未満11.6%、48時間以上11.0%となっており、37.3%の労働者が週40時間労働とは無縁の労働をしていることが明らかになりました。(図25)
さらに企業規模別にみた場合5〜9人規模の企業においては30%を越える労働者が46時間以上働いており、企業規模1,000人以上の企業でも46時間以上働く人が10%も存在しています。(図26)
1994年の「毎月勤労統計調査」の年間総実労働時間(調査産業計:30人以上)は1,904時間であり、対前年比でわずか9時間しか短縮されていません。アンケート結果にみる所定労働時間の分布状況からも所定労働時間短縮のテンポは鈍く、時短推進計画において当初目標とした「90年代前半の早い時期に1,800時間を達成」とはほど遠い状況が確認できます。(図27)

2.総実労働時間について

1994年「毎月勤労統計調査」によれば、年間総実労働時間は1,904時間で、うち時間外労働は132時間、月平均11時間の時間外労働を行っていることになります。
アンケート調査における時間外労働の実態は、正社員で73.7%が「変わらない」「多くなった」と回答しており、実際に時間外手当が支払われた時間数では「なし」30.8%、「10時間以下」26.3%、「10〜20時間未満」22.6%、「20〜30時間未満」10.4%、「30〜40時間未満」5.2%、「40〜50時間未満」2.8%、「50〜100時間未満」1.9%、「100時間以上」0.4%となっています。さらに注目すべき点は、時間外手当が支払われないいわゆるサービス残業について、全雇用形態を通じて36.3%もの人が「ある」と回答していることです。その内訳は、1ヵ月当たり「10時間以下」42.8%、「10から30時間」32.2%、「30時間以上」12.7%となっています。
今回のアンケート結果と「毎月勤労統計調査」の数値を比較して総実労働時間の実態を軽々に論じることはできませんが、アンケー卜結果が労働者個々人からの回答であることを考慮すれば、より実態に近いものと推察できます。
こうした労働時間に関するアンケート結果からは、38.8%の労働者が週所定労働時間44時間以上となっており完全週休2日制(週40時間)の定着とは程遠い現状にあること、時間外手当の支払われないサービス残業、風呂敷残業が横行しており、労働時間の短縮とは名ばかりの実態がうかがわれます。
なお、総務庁統計局の「労働力調査」によれば、年間総実労働時間は「毎月勤労統計調査」の数値より常に多い結果となっており、1992年における比較では「毎月勤労統計調査」が1,982時間、「労働力調査」が2,309時間と後者が、327時間長くなっています。調査方法の違いが影響しているものと思われますが、「労働力調査」は労働者調査であること、「毎月勤労統計調査」は企業調査であり、今回のアンケー卜結果にあらわれたサービス残業の実態などと併せて考察するならば、「労働力調査」における数値の方が、長期化している不況下で厳しい労働環境に置かれている労働者の実態をより正確に反映しているものと思われます。(図28)

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4.「残業規制」とサービス残業

1.アンケートに見る残業時間の実態

残業時間の変化では、この1年間で、「少なくなった」が23.0%で、「多くなった」と「変わらない」を合わせると75.3%となっており、不況下においても残業時間は減少していないことがうかがわれます。
労働省の「毎月勤労統計調査」においても、1994年度の所定外労働時間は1993年度と比較して、年間でプラス2時間とほぼ横ばいの結果となっています。
今回のアンケートの結果では、時間外手当が支払われた残業時間は、「なし」35.5%、「10時間以下」23.0%、「10〜20時間未満」18.0%、「20時間以上」15.8%となっています。(図29)
69.4%の男子が時間外手当の支払われた残業を行っており、そのうち「月10時間以上」44.1%、さらに「30時間以上」は12.0%にも達しています。女子は、49.8%が残業を行い、そのうち「月10時間以上」が20%、「30時間以上」も2.0%あります。

2.残業規制が雇用調整の1つの柱

「最近1年間に会社で行われたこと」として、「残業規制」と回答した労働者が21.2%(離職者では、26.6%)に上っています。「残業規制」は、雇用調整の中でも、「人員削減、採用・補充中止」と並んで最も多い事項となっています。
企業規模別で見ると、300人以上で30.8%と大企業ほど「残業規制」を実施していることがうかがえます。
また、業種別では、製造業が約4割と最も多くなっています。

3.依然としてはびこるサービス残業

(1)36.3%の労働者がサービス残業を行う
今回の調査では36.3%の労働者が何らかのサービス残業を行っていることが明らかとなりました。(男性42.3%、女性27.9%)
全労働第20回行研活動の調査(1991年)においても42%の労働者がサービス残業があると答えていますが、今回の結果は依然として違法なサービス残業がはびこっていることを示しています。

(2)ホワイトカラーに多いサービス残業サービス残業を行っている労働者のうち、43.8%が10時間以上、5.8%が50時間以上も行っているという調査結果となっています。(図30)
職種では、多い順に営業・販売職で48.7%、専門・技術職で41.8%、事務職で35.7%の者がサービス残業を行っており、ホワイトカラーに多いことを示しています。(図31)
また業種別にみた場合、金融・保険.不動産業では57.1%と過半数を超える労働者がサービス残業を行ったと答えています。(図32)
企業規模では、1000人以上の大企業で42.6%と規模が大きくなるほどサービス残業を行っていると回答した労働者の割合が多くなっています。

(3)サービス残業を行う労働者の状態
サービス残業を行っている労働者は、行っていない労働者と比較して職場が「忙しくなった」(30時間以上のサービス残業を行っている者63.6%・全く行っていない者24.1%、以下の項目も同じ)「ノルマの査定が厳しくなった」(31.0%・7.1%)と感じ、「生活が不規則になった」(30.4%・5.7%)「毎日ぐったり疲れる」(20.7%・5.4%)「体調を崩し」(18.5%・3.9%)「過労死の不安がある」(40.7%・7.1%)などの状況におかれています。

(4)サービス残業を行う理由
サービス残業を行う理由として、「仕事がこなせない」25.6%、「自分の判断で自主的に」21.0%、「会社が時間外労働時間を制限」8.3%、「残業手当がつかない」が5.8%となっています。(図29)

4.変形労働時間制等労働時間の弾力化による問題点

(1)変形労働時間制等労働時間の弾力化と労働時間の短縮〜変形労働時間制のもとでは労働時間短縮は進まない
今回のアンケート集計結果の正社員に着目すると23.2%の労働者が変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制等弾力化された労働時間管理のもとで働いています。変形労働時間制等の労働時間の弾力化のもとで労働時間が短くなったのは、28%弱の労働者にすぎない状況です。(図34)
また、営業等事業場外労働に従事する労働者に対する適用が考えられる事業場外みなし労働時間制では労働時間の短縮が行われたのは11.1%で変形労働時間制が採用されていない人よりも少なく、みなし労働時間制は現状の労働時間の固定化にしか役立っていないということが言えます。
変形労働時間制等の種類に着目すると1カ月単位の変形労働時間制(9.3%)、フレックスタイム制(6.5%)の順です。

(2)裁量労働制に従事している労働者の状態〜裁量労働制に従事している労働者は、全員疲れを感じている
裁量労働制に従事している労働者のアンケート数(正社員)は14と少なく断定的なことはいえませんが、全員が疲労を感じており、事業場外みなし労働時間制とともに疲労を感じている率が高いことがわかります。(図35、36)
さらに裁量労働制のもとで働く労働者については、(a)78.6%の労働者が「忙しくなった」としており、他の変形労働時間制においては高くても44.4%(みなし労働時間制)である、(b)71.4%の労働者が「仕事がきつくなった」としている、(c)35.7%の労働者が「生活が不規則になった」としており、他の変形労働時間制等に比べて高い、(d)「体調を崩す」ようなことのある率は78.5%と他の変形労働時間制に比べて高い等の特徴があらわれています。

5.アンケート結果から浮き彫りになった問題点

(1)「残業規制」の一方でサービス残業が横行
アンケート結果では、「残業規制」を会社が実施していると答えた労働者のうち、39.5%の人がサービス残業を行っていました。「残業規制」は、本来仕事量が減少する中で時間外労働時間の規制を行うものですが、アンケート結果からは「残業規制」が労働時間規制ではなく、「残業手当規制」にすぎないことが明らかになりました。
また、サービス残業の理由として「仕事がこなせない」「自主的に」など、労働者の側の理由が多く見られますが、同時に自由記述部分では「サービス残業・休日出勤を無くして欲しい」「適正な人員配置・増員」を求める声も多くなっています。ここから、不況下で残業手当は押さえられながら、こなしきれない仕事については「自主的に」サービス残業を余儀なくされている労働者の実態が浮かんできます。

(2)サービス残業が労働者の生活・健康を破壊
先に30時間以上サービス残業している労働者とまったくしていない労働者の比較をあげましたが、これを見るとサービス残業を含む長時間労働が労働者の生活と健康破壊をもたらしていることがわかります。サービス残業の時間が増えるほど深刻で、100時間以上サービス残業をする人のうち、65%が過労死の不安を感じたことがあると答えています。

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5.過労死に対する不安と健康管理

1.自由に取れない年次有給休暇

今回の調査で、「この1カ月間で年次有給休暇を何日取りましたか」という質問に対する回答は図37のとおりです。年次有給休暇を一日も取得していない人が半分程います。
また、「年次有給休暇を取ることをどのように思っていますか」(複数回答)という質問に対しては、自分の意思どおり休んでいると考えられるものが「取りたい時に自由に取る(44.2%)」「夏休みなどにまとめて使いたいので普段は取らない(18.4%)」、自分の意思に反してなかなか休めないと考えられるものが、「同僚に迷惑がかかるので取りにくい(37.8%)」「仕事がたまるので取りにくい(33.3%)」「成績に影響したりボーナスの査定にかかるのでなるべく取らない(7.1%)」「会社が取らせてくれない(5.4%)」「年次有給休暇の制度がないので取れない(4.5%)」となっています。また、「病気やけがに備えて普段は取らない(32.9%)」という人も多くいます。
自分の意思に反して年次有給休暇を取得できていない状況は、職場に年次有給休暇を取得できる体制ができていないことを示しています。つまり年次有給休暇を取得すると、仕事が順調に運べないことになり、「同僚がひどい思いをする」「自分が後でひどい思いをする」と思って、自分から休暇を取得できない実態があることがわかりました。

2.健康診断を受けていない人が15.6%

今回の調査で、「この1年間に健康診断をうけましたか」という質問に対する回答は、「受けた」が83.2%、「受けていない」は15.6%でした。
「受けていない」は、企業規模では5人未満(38.4%)、5〜9人(35.7%)、10〜29人(26.9%)、年齢別では25歳未満(27.2%)、雇用形態では労働時間が正社員と同じパート社員(35.8%)、労働時間が正社員より短いパー卜社員(45.6%)、職種ではサービス関係(41.0%)や運転・通信(25.7%)、業種では卸・小売・飲食業(34.7%)やホテル・旅館業(30.6%)で高くなっています。
また、今回の調査で、労働時間が正社員と同じパート社員の健康診断の受診率が低いことが判明しました。労働省のパートタイム労働指針では、1年以上使用する予定の労働者で、1週間の労働時間が通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上であれば、雇用形態に関係なく健康診断を実施することになっていますが、正社員と同じ時間働いていても「パート社員」という身分であれば、法律の適用が除外されるという誤った認識をもつ事業主が多いことを裏付けているものと考えられます。
健康診断を受けた人の中で、「異常があった」のは21.8%、「異常がなかった」のは76.0%となっています。45〜59歳(36.4%)、60歳以上(34.3%)で異常があった者の割合が高くなっています。
「健康診断を受けていない」理由は図38のとおりとなっています。
「実施していない」と回答した中では、企業規模の5人未満の割合が67.4%と高率になっています。「健康診断を受けていない」理由について「めんどうだ」の回答中、職種別ではサービス関係が16.5%となっています。また「仕事が忙しい」の回答中、職制別では中間管理職が21.6%と高率になっています。
健康診断を受けていない理由の半数以上が企業で実施していないためであることが判明しました。企業規模が小さいところほどその割合が高く、小規模・零細事業場を中心に、行政として健康診断の必要性をさらに周知していく必要があります。
また1割弱の人が仕事が忙しいために健康診断を受けていないことも判明しました。健康管理の第一歩である健康診断を、仕事が忙しいために受けられない実態があることはきわめて問題です。

3.意外と知られていない衛生管理者・衛生委員会

今回の「衛生管理者はいますか」という質問に対して、衛生管理者を選任する必要があると推測できる100人以上の企業規模で、「いる」48.8%、「いない」17.5%、「わからない」32.4%と回答しています。
同じく「衛生委員会はありますか」という質問では、衛生委員会を設置する必要があると推測できる100人以上の企業規模で、「ある」45.3%、「ない」19.4%、「わからない」33.6%という割合になっています。
今回の調査では衛生管理者や衛生委員会を設ける必要がある事業場で、どれだけの割合で設けられているか正確な割合はわかりませんが、ここで問題にしたいのは、約3割強の入が「わからない」と答えていることです。これは実際に設置されていないか、衛生管理者や衛生委員会を設けている会社においても、それらの活動が十分に行われていない、あるいは一部の人や部署の活動に終わり、それ以外の人に活動が十分知られていないことのあらわれと判断できます。

4.仕事で疲れ切っている労働者

今回の調査で、「仕事をすることで疲れを感じますか」という質問に対する回答は図39のとおりです。
疲労感を感じる者の割合は約75%にもなります。このうち「常時疲労感がある」、「毎日ぐったり疲れる」と答えた割合が高いのは、業種では、医療・福祉業(順に18.8%、11.2%)で、勤務実態では、一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満(25.0%、20.8%)、同20〜24時間(25.9%、16.7%)、1カ月間の休日出勤の日数が3日(20.6%、17.7%)、同4日(27.0%、11.1%)、同5日(23.1%、15.4%)、同6日以上(16.3%、26.5%)、時間外手当が支払われた残業時間が1カ月40〜50時間未満(21.2%、14.1%)、同50〜100時間未満(25.9%、14.8%)、サービス・持ち帰り残業が1カ月40〜50時間未満(31.3%、18.8%)、同50〜100時間未満(34.4%、29.7%)でした。
1991年実施の第20回行研アンケートでは、仕事で疲労を感じることが「ときどきある」が56%、「よくある」が18%と、仕事でストレスを感じることが「ときどきある」が53%、「よくある」が25%となっていました。今回の調査は景気低迷期に行われましたが、仕事で疲れると感じる者の割合は、第20回行研アンケート調査と大差ない結果となっています。
今回の調査で、「最近1年間で体調を崩すことがありますか」という質問に対する回答は、「ときどきある」が52.2%、「よくある」が5.5%となっています。体調を崩すことが「よくある」と回答した割合が高いのは、業種では、「医療・福祉業」(9.4%)で、勤務実態では、「一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満」(11.3%)、「同20〜24時間」(7.4%)、「休日出勤の日数が1カ月3日」(9.9%)、「同4日」(11.1%)、「同5日」(7.7%)、「同6日以上」(12.2%)、「時間外手当が支払われた残業時間が1カ月50〜100時間未満」(11.1%)、「サービス・持ち帰り残業時間が1カ月40〜50時間未満」(16.7%)、「同50〜100時間未満」(26.6%)となっています。
また、「過労死すると感じたことがある」人の割合は14.5%でした。
「体調を崩した時にどのようにしていますか」という質問に対する回答は図40のとおりです。
「病院にかかる」と回答した割合が高いのは、年齢で、「60歳以上」(58.5%)でした。「休暇を取って静養する」と回答した割合が高いのは、週所定労働時間で、「20時間未満」(29.8%)でした。「仕事が忙しくて何もできない」と回答した割合が高いのは、職種では、「営業・販売」(11.3%)で、業種では、「金融・保険・不動産業」(12.7%)、「医療・福祉業」(10.9%)で、週所定労働時間では、「48時間以上」(22.6%)となっており、これらの人々では、「常時疲労感があると感じる」(17.8%)、「毎日ぐったり疲れると感じる」(25.6%)、「過労死すると感じる」(25.6%)割合が非常に高くなっています。
今回の調査では「仕事が忙しくて何もできない」と回答した者が8%いました。当然のことですがこの回答をした人では、「強い疲労感がある」、「過労死するのではないか」と感じる人の割合が高くなっています。体調を崩しても仕事のために「何もできない」ことが、労働者の健康をむしばんでいると言うことができます。

5.長時間過密労働と過労死に対する不安

第20回行研アンケート調査では、「最近仕事がきつくなったと感じますか」との質問に対し、「非常にきつい」が16%、「少しきつい」が36%、「かわらない」が37%、「少し楽」が5%、「非常に楽」が1%でした。
今回の調査では、「楽になった」が6%と変化はないものの、「変わらなかった」が54%と少し多く、「きつくなった」が40%と少なめでした。これは景気が多少影響したものと考えられます。しかし楽になった人の割合が増えていないことは、人員削減などのため労働者が引き続き過密な労働に従事していることをあらわしていると考えられます。
今回の調査で「最近1年間に仕事が忙しすぎて過労死するのではないかと感じたか」との質問で、「ある」が11.1%、「ない」が85.6%でした。「ある」と回答した割合が高かったのは、職制では、「中間管理職」(17.9%)で、週所定労働時間では、「48時間以上」(28.3%)で、労働時間制度では、「みなし労働時間制を採用している」(26.9%)で、勤務実態では、「一番長く仕事をした日の労働時間が15〜20時間未満」(36.3%)、「同20〜24時間」(44.4%)、「時間外手当が支払われた残業時間が1カ月20〜30時間未満」(20.6%)、「同30〜40h未満」(26.9%)、「同40〜50h未満」(37.5%)、「同50〜100時間未満」(46.9%)、「休日出勤日数が1カ月2日」(21.3%)、「同3日」(27.7%)、「同4日」(33.3%)、「同5日」(30.8%)、「同6日以上」(32.7%)、「サービス・持ち帰り残業時間が1カ月20〜30時間未満」(20.6%)、「同30〜40時間未満」(26.9%)、「同40〜50時間未満」(37.5%)、「同50〜100時間未満」(46.9%)でした。
このように今回の調査では過労死不安を感じることと、仕事のきつさの程度や実労働時間の長さには、強い相関が明らかとなっています。

6.労働者の健康は保たれているか

今回の調査では、労働時間や残業時間の長さ、休日出勤の回数の多さ、サービス・持ち帰り残業時間の長さが、労働者の疲労感、労働者の体調の悪さ、労働者の健康状態と相関があることが判明しました。仕事の忙しさのために、健康診断を受けない人、体調を崩しても何もできない人がおり、健康管理の観点からも労働時間、労働密度を問いなおすことが求められています。
また今回の調査では医療・福祉業で、強い疲労感を感じる人や、体調を崩す人や、過労死不安を感じる人の割合が多いことが判明しました。この業種では、変則交替勤務が多いこと、労働密度が高いことが原因と思われます。命を預かる職場で苛酷な労働が行われていることは、皮肉な結果です。
長時間・過密労働の解消のために、実労働時間の減少、サービス・持ち帰り残業の根絶、休日出勤の制限などが、過密労働の解消のために、十分な人員の確保、変形労働時間制やみなし・裁量労働制の制限などが必要です。

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6.女性労働者の労働の実態

1.女性労働者の雇用形態

アンケートの回答者について、性別による雇用形態を比較した場合、求職者アンケートでは、男性の場合「正社員」が87.6%、「臨時・日雇社員」、「パー卜社員」等を合わせた非正社員は12.0%。これに対し、女性は「正社員」が71.3%、非正社員は28.2%となっています。
在職者アンケートによると、男性は「正社員」が89.1%、非正社員は10.6%。女性は「正社員」が64.8%、非正社員は35.0%であり、特に「短時間パート社員」は5人に1人の割合(20.0%)となっています。
女性の場合、パート社員の形態で働いていた、又は働いている割合が、男性に比してかなり高いという結果になっています。
求職者が今後就職する場合の希望する雇用形態をみても、女性の場合「パート雇用」を希望する人が33.6%にものぼるのに対し、男性の「パート雇用」希望者は12.5%に過ぎません。(図41)
この背景には、女性がより家庭責任を負っている現状が存在するものと思われます。
「パート雇用」希望の理由をみると、女性の場合4人に1人(25.9%)が「家事のため」を挙げており、「育児、教育のため」(18.6%)、「親などの介護のため」(4.5%)を合わせると半数近くが、比較的就業時間が短く、家庭生活と両立させることが容易であるパート雇用を希望しています。男性は「家事」「育児、教育」「介護」を理由とする者を合わせてもわずか6%にも満たない結果となっています。
一方、「趣味などのため自由時間を確保したい」とする者は、男性は24.7%であるのに対し、女性は6.6%となっています。(図42)
ここで比較したい調査結果があります。
労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(平成2年)による女性がパートを選択する理由をみると、今回のアンケート結果と異なり、「家事、育児の事情」(24.1%)より圧倒的に多数の者が「自分の都合の良い時間に働きたい」(64.8%)と回答しています。その一方、「正社員として働ける会社がない」と回答している者は13.8%と比較的少ない数値となっており、これらの結果から「女性の場合、自ら希望してパー卜夕イム労働に従事しており、仕事の選択にあたっても時間的余裕を重視するものが多い傾向にあり、就業ニーズの多様化にともない、パー卜タイム労働へのニーズは増大している」というイメージを意図的に描きだしています。
つまり、労働省調査においては、当該設問を複数回答制としていることに留意する必要があり、「家事、育児の事情」と「自分の都合」は決して別ものではなく、「家事、育児の事情」等=(イコール)「自分の都合」という図式つまり複数回答が成り立つのです。
今回のアンケートでは、求職中の者は性別を問わず、正社員として働くことを希望する割合が最も高いという結果になりました。
女性は58.6%、男性に至っては求職中の実に4分の3(74.7%)の者が正社員を希望しているのです。「パート雇用」希望の男性(12.5%)に着眼しても、その半数近く(42.1%)か「正社員には年齢、経験などの制限があり応募が難しいから」という理由を挙げています。
「女性にもっと門戸を開けて欲しい」という声に代表されるように、正社員として働くことを希望しながら正社員として雇用されない、あるいはとくに女性については、仕事と家庭の両立という困難な状況を克服するためにやむなく「パート雇用」を選択せざるを得ないという過酷な現実がそこにはあるのです。

2.女性労働者に対する雇用調整の現われかた

不況下における雇用調整はどのように行われているのでしょうか。
求職者アンケートと在職者アンケートの回答者の合計を100とし、会社における「希望退職、勧奨退職、解雇」の対象をみた場合、「男性のみ」と「男性の方が多かった」を合わせると20.4%、「女性のみ」と「女性の方が多かった」を合わせると20.3%となっており、「性別に関係なく」という回答が50.0%という結果でした。
総務庁統計局「労働力調査」によると、平成6年の女子雇用者は全体の38.8%を占めるに至っており、雇用者総数に占める女性の割合は年々増加しています。
とはいえ、職場においては、男性が6割以上を占めているのが現状であり、雇用調整の対象について、上記の数値では一見性別による偏りがないかのように判断され得る結果となりましたが、各々の職場における男女の比率等を考慮する必要があると思われます。
求職者が離職するに至った理由をみると、「自身の理由から」と回答した人が54.7%と半数以上を占めますが、次に回答の多かった「会社の都合」(31.0%)の理由に焦点を当てた場合、男性は「定年」を理由とする人が30.2%と最も多かったのに対し、女性は「解雇」のケースが32.8%と最も多くなっています。(図43)
また、先にみたように、女性の場合パート社員等の非正社員として働いていた人が男性と比較してより多いということもあり、「契約期間の満了」によるとする人も20.3%を占めています。
労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(平成2年)によると、雇用契約期間が定められていたパート社員のうち、更新規定があったとする割合が73.2%となっていますが、深刻化する不況下においては、希望しても更新の行われないケースが増加しているものと思われます。

3.男女平等の実態

在職者アンケートにみられる男女間における平等観については、男女とも「平等と思わない」と回答した者が最も多く半数近く(45.6%)を占めています。(図44)
これを男女別にみると、女性の方が「平等と思わない」と答えた割合が高く(47.4%)「平等と思う」と答えた人は3割に満たない(27.7%)結果となっています。
また、企業規模が大きくなるにつれ、「平等と思わない」とする割合が増加しているのも特徴的です。
職場において不平等を感ずる点について割合の高い順に並べた場合、男性は「仕事の内容」、「賃金」、「昇進」となり、女性は「賃金」、「仕事の内容」、「昇進」の順となっています。(図45)
労働省「賃金構造基本統計調査」により、平成5年の所定内給与の男女間格差をみた場合、男性を100とすると女性は61.6となり、男女の格差は歴然としています。
ILO「Year book of Labour Statistics 1992」による主要国における賃金の男女間格差と比較しても、オーストラリア90.9、旧西ドイツ73.9、イギリス70.3といずれも日本の女性の水準を上回っています。
このような賃金格差についても、女性が男性に比べ高い割合で、賃金形態が正社員と区別され、明らかに低水準に抑えられているパート等の雇用形態での勤務を余儀なくされる身分に押し留められているという根本的な原因に帰着するのではないでしょうか。
また、正社員であっても、最近の三陽物産の賃金請求事件(東京地裁・1994年6月16日判決)にみられるように、賃金基準が女性に一方的に不利益になることを容認して制定・運営されているケースもあり、男女同一賃金の原則を規定した労働基準法第4条に公然と違反する企業も今だに厳存するのです。

4.女性が働くうえでの負担の現状

家庭において、女性の負担がより大きいと感ずる点については、男女とも同傾向にあり、8割が「家事」、6割が「育児」を挙げ、以下「家計のやりくり」、「病人などの介護」が続いています。(図46)
先に、女性労働者の雇用形態について触れたところですが、求職中の女性の将来的に望む働き方については、家事や育児、子供の教育等に時間を費やさざるを得ないために、男性と比べパート希望の割合が高いという結果でした。
しかし、在職者アンケートの回答者の雇用形態に着目すると、女性の正杜員数は非正社員数の約2倍てあり、女性全体の6割を超えています。正杜員として男性と所定労働時間を同じくして働いたうえで、家庭に帰ると家事や育児にも専念しなければならない人が多数派なのです。
総務庁純計局「仕会生活基本調査」によると、1991年の雇用者世帯における共働き夫婦の生活時間の実態をみた場合、「家事等」に充てる時間は、妻の場合3時間51分であるのに対し、夫は12分に過ぎず、その分妻は睡眠や休養に充てる時間を削っているという結果となっています。
働く女性の過酷な職業及び家庭生活の実態がうかがえるところです。
また、家族の理由のために離職せざるを得なかった現在求職中の人が、最も多くその理由としてあげたのが「親などの介護のため」となっており、男性53.5%、女性30.6%を占めています。介護に関しては、男女問わず、就業の継続をやむなく中断させる重大な要因のひとつとなっているのです。

5.労働者の求める男女平等の施策

こうした現状を踏まえたうえで、働く人々は男女平等の実現に向け、行政に対しどのような施策を求めているのでしょうか。
「男女の雇用差別を積極的に改善して欲しい」、「パート労働者を保護し働きやすい環境づくりのための法的整備を望む」、「働く女性が増えている中で育児や介護が重くのしかかっている。社会全体で働く条件を整えて欲しい」といった切実な生の声を自由記述部分から聞くことができました。
また、具体的な施策を列挙し回答を求めたところ、次のような結果となりました。
育児休業制度については、1992年に法が施行され、翌年4月1日からは、事業所規模にかかわらずすべての事業所に適用されていますが、男女とも「育児休業法を強化し育児休業制度を普及させる」を筆頭に挙げ(47.7%)、「男女雇用機会均等法に罰則を設けて男女差別を規制する」(33.1%)がそれに続いています。(図47)
また、「男女ともに時間外労働を法律により一定制限する」(27.6%)、「転勤、単身赴任を法律により一定制限する」(22.0%)という声も多く、家庭生活に支障をきたしかねない現代の長時間過密労働や転勤、単身赴任に対し、大きな疑問符が投げかけられています。
その一方、「時間外労働や深夜労働を規制した女子保護規定を撤廃する」という意見が女性では最も少なかった(80%)のに対し、男性側に多い(20.5%)のも特筆すべき点です。
現在労働省は、時間外労働の上限規制に背を向ける一方で、女子保護規定の撤廃・緩和をすすめようとしていますが、これはアンケート結果に示された女性労働者の望む方向とまったく逆行したものと言わざるを得ません。

6.女性労働者の労働時間・健康・生活

求職者アンケートと在職者アンケートの回答者の合計を100とし、職場における女性の残業時間の変化をみた場合、「多くなった」(14.9%)と「変わらなかった」(60.5%)を合わせると全体の4分の3を占めています。(図48)
また、求職者アンケートにより、女性の勤務時間の変化をみた場合、「長くなった」(10.6%)と「変わらなかった」(75.6%)を合わせると全体の9割近くにのぼります。
一方、職場の人員が「少なくなった」と回答した女性は40.7%と、「多くなった」(11.5%)を大幅に上回っています。(図49)
求職者アンケートによると、仕事が「きつくなった」と感ずる女性は38.1%と4割近くを占め、在職者アンケートでは、女性の30.9%が「仕事量が増え忙しくなった」と答えています。
これらの結果から、人員削減が着実に進み、仕事がいっそう過密化されたものと思われます。
男性も同様の傾向にあり・企業における大規模な雇用調整が行われている一方、働く側は過密労働を強いられているという実態をうかがい知ることができます。
その結果、健康面にはどのような影響が現われているのでしょうか。
疲労感については、程度の差はあるものの8割近くの人が日常感じており、「毎日ぐったり疲れる」という女性は8.2%となっています。
また、体調を崩すに至る女性は59.1%と6割近くいるにもかかわらず、仕事が忙しい等の理由で、通院や静養すらできないとする者が25.0%と4分の1にものぼっています。

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第3章 財界の推し進める労務戦略と労働行政

1.財界の推し進める労務戦略

1.リストラ「合理化」を強行する財界のねらい

日経連の平成7年版労働問題研究会報告(平成7年1月12日)は、「日本経済が直面する多くの問題、経済成長の鈍化、国際経済収支の大幅黒字の継続、異常な円高、内外価格差の拡大、実感としてのゆとり・豊かさの欠如、高コストによる産業空洞化などの問題を生み出す基本的要因は、国内産業間に発生している大きな生産性格差である」と分析し、「日本経済に残る生産性の低い部門の効率化は、産業構造の改革・高度化という課題を提起していることは、当然であるが、これを雇用・労働の側面からみれば、大規模な雇用構造の改革・高度化を要請することにほかならない」と述べています。
このような財界の危機感のもとで、すでに製造業を中心として生産コストの大幅削減をねらった生産拠点の海外移転が広範かつ急速にすすんでおり(わが国の海外生産率は、全体では、90年の20.2%から94年の24.5%に、業種別では、電機の20.5%から29.7%、一般機械の20.1%から28.8%等となっています/「東洋経済統計月報」9月号)、これと相まって、国内では出向、配転、首切りなどのリストラ「合理化」が大規模にすすめられています。第21回行政研究活動におけるアンケート調査結果に現れた労働者の生活と労働の実態は、そのことを如実に表しています。
このような動きは、今日の構造的不況下における一時的な現象、すなわち、個別企業の対症療法的な対応とみるべきでなく、後に述べるように中期的な戦略の下で財界が目論む壮大な「改造計画」の一環としてとらえるべきものと考えます。
そして、その概要を以下のとおり明らかにすることによって、第21回行政研究活動におけるアンケート調査結果が示した「今日の労働者が置かれている実態」を、よりリアルに、よりトータルに描くことができると考えます。

2.財界がめざす労務戦略の方向

近年、経済諸団体は、今後の雇用・労働システムをさまざまなかたちで提言し続けています。それらは、雇用、人事、労働時間、賃金、能力開発等、労働政策の多様な課題に及んでいます。そして、各企業は、この間、自らの労務管理の中で着実に具体化をはかるとともに(例えば、日本生産性本部(当時)が、93年3月に発表した「年俸制に関する調査」は、「年俸制を導入している企業は1割で、3割の企業が導入予定である」としています)、政府・労働省に対して法令改正を含む労働行政の転換を求めつづけてきました。
このような中で、本年5月17日、日経連「新・日本的経営システム等研究プロジェクト」から報告された「新時代の『日本的経営』―挑戦すべき方向とその具体策―」(以下「プロジェクト報告」という)は、財界がめざす労務戦略の集大成とも言うべきものです。
従って、「プロジェクト報告」の特徴を明らかにすることによって、この間、広範に進められてきたリストラ「合理化」のねらいと財界の中期的な戦略の全体像をとらえていくこととします。
「プロジェクト報告」は、「日本的経営」と言われた「終身雇用制」、「年功序列賃金制」を見直し、「日本的経営」の再編をめざしており、その基調は、徹底した賃金抑制、コスト削減を志向しています。
すでに、日経連は、1993年8月、内外価格差問題研究プロジェクト報告の中で「日本経済の生産性は全体としてアメリカの6割程度に止まっているが、21世紀にかけてアメリカ並に引き上げるには、現在のGDP(国内総生産)を今の就労人口の6000万人ではなく、4000万人の労働力でしなければならない」として人員面からさらなる「合理化」の必要性を指摘していますが、「プロジェクト報告」は、雇用、賃金、労働時間、能力開発等の諸制度にわたるトータルな「合理化」を打ち出しているのが特徴です。
しかも、これらが「従業員の意識の多様化を背景に」した「人間中心(尊重)の経営」の具体化であるとし、あたかも労働者の期待に沿うものかのように装っている点も見逃せない特徴のひとつです。
「プロジェクト報告」をさらに次の四つの側面からとらえることとします。

(1)雇用の流動化と労働者使い捨て時代への志向
「プロジェクト報告」は、「好むと好まざるにかかわらず、雇用は流動化の動きにある」とし、雇用の流動化を「当然視」することで、社会全体に気運を醸成しながら、流動化をいっそう加速させることをねらっています。
その上で、今後のあるべき雇用形態として、相互に乗り入れることのできる三種類を予定していくこととしています(表4参照)。
第一は、「長期蓄積能力開発型グループ」です。このグループに属する者(従来の終身雇用に近い者)は、企業の要を占める幹部要員(管理職、総合職、技能部門の基幹職)であり、期間の定めのない雇用契約によって採用し、月給制ないし年俸制+退職金の賃金によって処遇することとしています。
第二は、「高度専門能力開発型グループ」です。このグループに属する者(派遣労働者契約社員等)は、企画、営業、研究開発等の専門部門に携わり、有期雇用契約(当面、1年更新)によって採用し、業績給ないし年俸制(昇給・退職金なし)によって処遇することとしています。
第三は、「雇用柔軟型グループ」です。このグループに属する者(パー卜、アルバイト等)は、事務、販売、技能部門等の一般職であり、有期雇用契約によって採用し、時間給(昇給・退職金なし)によって処遇することとしています。
そして、これらの三つの雇用形態を最も効果的に組み合わせた企業ごとの雇用ポートフリオが検討が必要だと指摘していますが、基本的に、終身雇用を前提とした「長期蓄積能力開発型グループ」をよりスリム化し、流動性の強い「高度専門能力開発型グループ」や「雇用柔軟型グループ」の比重を高めることとしています。つまり、「必要な都度、必要な人材を必要な人数だけ採用する」という「労働者使い捨て時代」「リーン(やせた)な雇用管理システム」を描き出しているのです。(注 (a) 参照)
労働者から寄せられたアンケートに現れた多様な雇用形態の存在やパート、アルバイト派遣労働者、契約社員等の不安定雇用の増大は、まさに財界がねらう中期的な戦略の具体化と言えます。
すでに、日経連「労働力・雇用問題研究プロジェクト」が、1992年5月20日に発表した「ゆとり・豊かさの実現と労働力・雇用問題への対応」(最終報告)では、「雇用形態の多様化は、今後いっそう進むものと思われる、そうなれば、これまでの正規従業員を中心とした終身雇用はしだいに変容していくだろう」「しかし、雇用形態の多様化の中にあっても中核となるのはあくまで入社:から退社に至るまで同一企業・グループに在籍してその組織を支える中核的な終身雇用型従業員であって、その有効活用を図ることが人材活用の基本であることに変わりはない。企業としては、今後、こうしたコアとなる従業員を機軸としつつ、これと併存する形でさまざまな雇用形態の下で働く従業員を適材適所に据えて活用することがますます必要になってこよう」と述べ、また本年7月に発表された日経連雇用特別委員会報告書でも「円高進行に伴う雇用対策と新産業分野への取り組み」は「雇用を創出する過程では、企業内や企業グループ内の労働移動ばかりでなく、新規事業分野への進出、分社化、合併等新しい企業づくりのため、出向、社外派遣、転籍等が不可欠となる」と述べており、雇用の多様化・流動化は、この間の一貫した戦略であることは明らかです。
注 (a) 「ポー卜フォリオ」とは、もともと「紙ばさみ」や「書類カバン」を意味し、転じて株式、債券など証券投資における分散投資を代表する言葉です。成瀬日経連常務理事は、雇用ポートフォリオ・マネージメントについて、「資金運用のときのポートフォリオと同じでありまして、人材を採用する場合でも、例えば千人の従業員がいるとすれば、雇用形態別の人員構成をどのようにすれば経営していくのに最も合理的で効率的で、生産性が上がるかを考えていく時代になったのではないかというようなのがイメージであります」と述べています。
(「関西経協」1995年2月号)

(2)雇用の流動化を支えるシステムの整備
「プロジェクト報告」は、雇用のいっそうの流動化をはかるための諸制度の創設もぬかりなく指摘します。
すなわち、「現在の雇用情報システムを企業・個人のニーズに合うような制度に再構築することが必要である」と述べ、「現在、わが国では職業紹介は原則として公共職業安定所が行い、民間職業紹介所はそれを補完するものと位置付け、わずか29の職業にのみ例外的に認めているにすぎない。しかし1993年に職安が紹介した就職者は全就職者の2割程度であり、さらには、今後の産業構造や就業形態の変化に対応できないとの懸念が強い」とし、「(ILO第96号条約の破棄を含む)民間有料職業紹介事業の積極的な推進」、「労働者派遣事業制度のネガティブリスト方式(特定の業種だけを規制する)への転換」、「転職援助制度の整備」等を政府に求めています。
さらに「適職選択やキャリアアップを図るための能力開発機関の積極的活用」を求めている点も雇用の流動化にむけた周到な環境づくりの一環と言えます。
「高度専門能力開発型従業員は能力を売り物にして自分の好む仕事をしていく従業員であるため、賃金水準は、まさに能力次第」、「雇用柔軟型従業員の賃金水準は職務内容、労働の質等を考慮して決める」とした職能・業績給重視の賃金制度の下では、「長期蓄積能力開発型グループ」を除く二つのグループに属する労働者の能力開発は、当該労働者にとってまさに死活問題となってきます。しかし、流動的な雇用形態ゆえに能力開発の主体は、企業から労働者個人へと移行せざるを得ず、能力開発にむけた労働者の自己努力とこれを支援すべき機関の整備を求めるているのです。
経済同友会労働委員会が、「アクティブな雇用関係の形成を目指して」(1995年4月26日)の中で提唱する「社会的なキャリアとして評価されうる職業能力開発に個人が主体的・継続的に取り組める環境づくり」、「雇用保険制度を、いわゆる失業手当や一企業での雇用維持のための助成金主体から、能力開発や再就職の支援、新産業分野への移動促進策等へとウエイトを移す」なども同様の問題意識を背景にしたものと言えます。

(3)職能・業績給重視の賃金制度への転換
「プロジェクト報告」は、「厳しい環境下、総人件費の徹底化が求められている」とし、「従来の『年齢、勤続に主体を置いた考え方』をやめ『職能・業績の伸びに応じて賃金が上昇するシステム』という定義に変えていく必要がある」「若年層から高年層にいたるまで、男女を問わず、仕事と賃金の関係を強め、働きに応じて賃金を考えていくシステムに切り替えていく」との方向性を明確に示しています。つまり、中高年層の増大を背景に、従来の年功賃金制が総人件費を押し上げているとの問題意識の下で、職能・業績給重視の賃金制度への転換をはかることで、コスト削減をはかっていく戦略です。
少数の「長期蓄積能力開発型従業員」については、「退職金があり、福利厚生等の恩恵もあることなども考えて、自社の支払い能力との関係の中で適正な水準を検討する」としながらも、「職能資格制度を導入すると、従業員の関心は昇格ということになる。昇格しなければ社会的ステイタスも賃金も上がらない」と述べ、管理・昇格制度、賃金制度、目標管理制度、人事管理制度などを卜一夕ルに結合させた処遇制度の確立を訴え、管理強化と人件費削減を一挙に推し進めようとしています。
また、退職金についても、「『ポイント制』など貢献度反映型退職金制度に切り替えていくべきであろう」と述べ、さらに、降格・降給制度にも言及し、「今後の経営環境を考えると、もう少し降格、降給を処遇制度の中に明確に位置付けてもよいであろう」とし、あらゆる面での管理強化を目指しています。
「高度専門能力開発型従業員」については、「契約初年度は市場賃金水準も考慮しつつ、業務内容と期待度によって年俸額が決まるが、翌年度の契約においては前年の業績・成果によって年俸額が決定されることになる」として徹底した職能・業績給を志向し、「雇用柔軟型従業員」についても、「地域労働市場の状態や業種・職種によって大きく違ってくる」とし、地域労働市場の「時給制」を想定しています。そして、「業種・規模に差があるものの所定内賃金に比べて総額人件費はかなり高い水準にある」との問題意識に裏打ちされ、流動性の強いこれらのグループの労働者を増やすことで、長期雇用を前提とした退職金や福利厚生費の削減をはかろうとするねらいも示しています。

(4)労働時間規制を廃し、無制限な長時間・過密労働へ
「プロジェクト報告」は、「ホワイトカラーの仕事は、一般的に企画判断業務が中心であり、時間管理になじまないケースが多く、できるだけ各人の自由裁量の下で仕事ができるようにする必要がある」「ホワイトカラーの業務は一般に個人の能力差によって生産性格差が生じている場合が多く、成果が働く時間に正比例しないといってもよい」と述べ、労働時間規制を合法的に排除し得る裁量労働制に着目し、「ネガティブリスト方式にすることを前提にすでに指定されている5業務に加えて適用範囲の拡充をおこなう必要がある」と指摘します。
すでに日経連は、前出の「ゆとり・豊かさの実現と労働力・雇用問題への対応」(最終報告/1992年5月20日)の中で、「ホワイトカラーの生産性向上策」として、「従来、ホワイトカラーの労働に対する評価は、労働の密度や成果より労働時間の長さなど表面的な勤務態度を過大視する傾向が見られた。このような尺度によって人を評価する限りホワイトカラーの効率化の進展は望めない。労働に対する評価は労働時間の長さではなく、仕事の業績・アウトプットこそが最も重視されなければならないポイントである」と述べているほか、1992年7月9日、東京商工会議所から出された「労働政策に関する要望」にも「特定のホワイトカラーの労働時間管理については、生産労働者と明らかに異質な労働であることからそのあり方については、むしろ事業場内の労使の話し合いを尊重し、労働基準法の法定労働時間管理の適用除外措置を検討するなど新しい法的概念の形成が望ましい」との考え方が示されています。
この間の一貫した財界の戦略は、裁量労働制の拡大をはかることによって、ホワイトカラーを労働基準法の労働時間規制のらち外に置きながら、職能・業績給重視の賃金制度と考課制度によって裏打ちしながら、労働者を無制限な長時間・過密労働に駆り立てていくものと言えます。

3.「規制緩和」の流れを巧妙に利用した攻勢

今日、「規制緩和」は新聞等にその文字を見ない日がないほど、連日のようにマスコミ誌上をにぎわし、大々的なムードづくりが進められています。
しかし、政府がまとめた「規制緩和等に関する要望提出団体等リスト」によると、政府に対する規制緩和の要望先(156団体)のほとんどは、経済四団体をはじめとした業者団体と各国政府・大使館などの諸外国であることがわかります。「規制緩和」によって、財界は、時代逆行的なレッセフェール(自由放任)への回帰をねらい、また諸外国は、わが国の国民の安全と健康を犠牲に市場開放をねらっているのです。
「規制緩和」はいかにも国民的課題のような言われ方をしますが、そこに真のねらいを覆い隠す意図を感じざるを得ません。
このような中で、日経連は「規制緩和に聖域なし」として、労働分野の規制緩和を求めつづけています。本年5月25日には、産業別最低賃金の廃止、労働者派遣事業の適用対象業務の拡大、民営職業紹介事業にかかる規制の撤廃、裁量労働制の適用範囲の拡大、労働基準法の女子保護規定の撤廃。緩和、社内預金の利率の最低限度の緩和等を政府(行政改革委員会規制緩和小委員会)に要求しています。
その底流には、「現行労働基準法に代表されるような労働契約、労働条件設定について刑事罰を背景にした取締的・介入的規制とそれを実行する監督行政組織による運営は、契約自由、個人の意思尊重を志向するこれからの労働諸関係からは方向が違うものになる・雇用契約や労使関係という社会的な自治関係は、基準となるガイドラインを設定する法設定にし、行政組織も社会全体を誘導するものとして、その機能を変えていくべき」(1995年4月6日付「日経連タイムス」)、「自らの関わる分野で、徹底した自立を目指し、規制緩和を促進していかなければならない。平岩研究会が聖域なしということで掲げた労働の分野においても、労使さえしっかりすればなくてもよい規制、労使がしっかりしているのに行政が無理にやろうとしている規制がいろいろあるのに気付く」(1993年11月25日付「日経連タイムス」)との主張に示されるように、最低労働条件の確保を重要な任務のひとつとする労働基準行政の変質をはかるねらいがあります。
そして、これら要望事項の一つひとつは、「規制緩和」のムードを巧妙に利用した「プロジェクト報告」がめざす「日本的経営」の再編にむけた「環境整備」と考えることができます。

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2.労働者の願いに背をむけ財界の労務戦略を後押しする労働行政

1.財界の労務戦略の推進にむけて「地ならし」をすすめる労働行政

労働省は、「雇用政策研究会」(座長/西川俊作慶応義塾大学教授)による検討結果として、1994年6月6日、「中期雇用ビジョン」を発表しました。これによれば、21世紀にむけた労働力需給の見通しは、内需不足による経済成長の鈍化や内外価格差による生産拠点の海外移転から、これまで予想されていた「人手不足」とはならず、むしろ労働力の余剰が生じるとして大量失業時代を描き出し、同時に、労働力需給の均衡保持のためには、大規模な労働力移動を前提とした「構造改革」と3%の経済成長の確保が不可欠であるとしています。
また、今後の雇用政策の基本的方向として、「産業構造の変化や労働者の意識変化により、今後、労働移動の増加が見込まれる」として、「失業なき労働移動」のため「諸般の対策を講じる必要がある」とし、具体的に「労働力需給調整機能の強化」「年功的処遇制度の修正」「企業内外の職業能力開発の支援」などを提起しています。
「中期雇用ビジョン」は、賃金を含む高コスト構造の是正をとなえ、また、雇用の流動化を「不可欠」と言い切り、その上で、流動化によって労働者が勤務先を転々と変えても失業期間がなく、スムースに転職ができる限り「雇用は維持」されたという一方的な理解をぶし、全体として、財界がすすめる労務戦略の「地ならし」をすすめたものと言わざるを得ません。
また、政策調査部長の私的諮問研究会である「日本的雇用制度研究会」(座長/白井泰四郎日本労働研究機構顧問)も、1995年4月4日、「中間報告」(日本的雇用制度の現状と展望)を発表し、日本的雇用制度の現状と展望にかかる見解を示しています。
「中間報告」は、「長期にわたるいわゆる『平成不況』により、企業の経営環境は非常に厳しい状況が続いている」「国内における労働コストが相対的に上昇したため、国際競争力が弱まり、生産拠点の海外移転や輸入代替、サービス貿易の自由化を進めざるを得ないなど我が国企業は一層厳しい状況に置かれている」とした上で、「新たな雇用制度の姿」として、「『終身雇用制』は、基幹労働者を中心に、基本的に維持されていくが、『年功制』については、労働コスト圧力が高まる中で、成果によって評価・処遇される時期が早期化されたり、成果に結び付いた処遇の比重が大きくなったり、さらには評価基幹の短期化といったいわゆる『実力主義』的側面が強くなる」「雇用制度の運用の弾力化・柔軟化が求められる」「転職の増加や職業障害の長期化を前提に、今後自発的キャリア形成を望む労働者の自己啓発ニーズが高まる」など、すでに概観した財界が求める労務戦略と「同一歩調」をとることを明らかにしています。
このように、労働省が描くビジョンは、財界が求める政策方向にあまりにも酷似しています。

2.雇用の多様化・流動化をねらい労働契約法制の変質に着手

労働大臣の諮問機関である労働基準法研究会労働契約等法制部会(座長/安枝英諦同志社大学教授)は、1993年5月10日、労働契約法制の見直しを求める「報告」をまとめました。
「報告」は、「雇用就業形態の多様化等に伴い新たなタイプの労働関係が形成され」ているとした上で、現行の労働基準法等の規制が「かえって新たな契約形態による労使の自主的な労働関係の展開を阻害している」と述べ、財界が、中期的な戦略のもとで進めてきた雇用の多様化・流動化を容認し、労働契約法制の面からさらにこれを促進する姿勢を明らかにしています。
すでに見たとおり、ここで言う雇用の多様化・流動化とは、終身雇用を前提とした「長期蓄積能力開発型グループ」については、配転、出向などで自由に関連企業間の移動を可能にするシステムをつくりあげることであり、派遣労働者、契約社員、パート、アルバイト等の「高度専門能力開発型グループ」及び「雇用柔軟型グループ」については、安価な労働力として、必要な時に必要な量を確保できるシステムづくりにほかなりません。
「報告」は、「労働契約関係の明確化」として、就業規則の中に、配転にあたっての「従事すべき業務、勤務場所の範囲」や出向にあたっての「出向の範囲、出向にあたっての手続き」を盛り込むことを求めていますが、第21回行政研究活動における労働者アンケート調査結果等に現れた強引な配転、出向、転籍等の実態を深刻に受け止め、これを適切に規制していく姿勢を見い出すことはできません。これでは、労働者側に争いの余地を与えず、配転、出向に従うべき義務だけを重く課すものでしかありません。
また、解雇についても、「手続きの明確化」や「勤続期間を考慮した予告期間」の検討を求めるだけで、解雇理由を法律で規制することを放棄する姿勢を明らかにしています。
就業規則の中でルールさえ明確にしておけば、事実上、労働者を自由に移動・排除させることができる体制をつくるあげるものにほかなりません。
さらに、「報告」は、「労働契約関係の自主的決定の促進」の名の下に、かねてからの財界の要望(日経連「労働力・雇用問題研究プロジェクト報告」等)に応え、有期労働契約の期間を「1年」から「5年」に延長することで、安価な労働力としての不安定雇用労働者(契約社員等)のいっそうの活用を支援することを求めています。これによって事業主には、いわゆる正社員と全く変わらない労働実態にありながら、「1年」「3年」「5年」と任意に設定された期間の満了を理由に、雇用を打ち切る自由が認められるのであり、加えて、この間、判例上違法とされていた「若年定年制」や「結婚退職制」も事実上容認していくことを示しており到底容認できるものではありません。
もともと労働契約法制をはじめとする労働保護立法は、資本主義社会の中で不可避的に社会的弱者に置かれざるを得ない労働者の地位に鑑み、労働者(あるいは労働組合)の意向にかかわらず、守るべき社会秩序として、労働者が人間らしく働くための最低労働条件を設定するものです。
「報告」は、「多様な働き方を求める労働者のニーズがある」、「労働条件は労使の話し合いの促進によって改善していくのが好ましい」等として、「規制」から「労使自治」へ転換を求めていますが、そもそも、最低労働基準は「労使の話し合い」や「個々の労働者の意向」を排除したところに成り立っているのであり、各企業は、最低労働基準を守ったうえで、対等な労使交渉を通じていっそうの労働条件の向上をはかることが求められているのです。
「労使自治」等を口実に持ち出しながら、労働諸法令の規制緩和をすすめることは、労働行政にとって、自殺行為ともいえるものであり、労働者保護立法の基本構造を変質、崩壊させるものと言わざるをえません。
その後、労働省は、同報告等を検討材料として、中央労働基準審議会就業規則部会(部会長/菅野和夫東京大学教授)を通じて、労働契約法制の見直し方向について検討をすすめてきましたが、本年5月26日、「中間とりまとめ」を発表しました。
「中間とりまとめ」は、前述の労働基準法研究会報告(1993年5月10日)が示す方向を踏襲し、今後の労働契約法制に関わる検討課題として、「労働移動の増大、就業形態の多様化等に伴う労働契約の明確化」、「柔軟・多様な働き方を志向する労働者について、労働契約期間の上限の見直し」などを提起するとともに、「労働契約の個別化・多様化に伴う、労働契約に係る個別紛争の調整のためのシステムのあり方」についても検討の必要性を強調しています。
労働行政の現在の政策方向は、「失業なき労働移動」の名の下に、大企業のリストラ「合理化」を放任し、不安定雇用の増大を助長するもので、他面、解雇に対する有効な規制対策を持ち得ていないがゆえに、失業そのものの増大をも招いているのです。そのため、個別の労使紛争の激増を予測して、その調整・処理システムの検討を急がざるを得なくなっていると言えるでしょう。

3.不安定雇用の増大にむけ、有料職業紹介・労働者派遣の自由化の動き

先に述べたとおり、財界は、有料職業紹介や労働者派遣の自由化を求めることによっても、雇用の流動化、すなわち安価な労働力としての不安定雇用労働者の増大をねらっています。
そもそも職業安定法は、営利的な職業紹介事業者が、劣悪な労働条件、労働環境の職場に労働者を送り込むことによって、法外な利益を得てきた弊害を排し、労働者を保護することを目的としたものであり、このような見地から、職業紹介は、「労働する権利」を実効あらしめる立場で公的機関が無料で行うことを原則とし、有料職業紹介は一定の場合を除き、これを禁止しています。また、いわゆる中間搾取(ピンハネ)から労働者を保護するため、労働者供給事業についても一定の場合を除き、これを禁止しています。
しかしながら、従来、多くの事業主が「請負」「委託」を仮装しながら、職業安定法の潜脱をねらうなど違法な職業紹介、労働者供給がまん延し、労働者の権利侵害が日常化していました。
このような中で、1985年7月、労働者派遺法が制定され、14種の業種(現在は16業種)について従来違法とされてきた労働者派遣が公認されてきました。
そして、近年、財界は「規制緩和」の流れにも乗じて、有料職業紹介や労働者派遣の自由化にむけた動きを強めています。
これを受けて労働省は、すでに「労働者派遣法の適用対象業務の範囲」について、「中央職業安定審議会の審議を踏まえ、見直しを進める」(規制緩和計画/7月31日閣議決定)ことを明らかにしており、また、有料職業紹介事業に関しても、「(平成8年度中に)有料職業紹介事業について取扱職業の範囲及び紹介手数料の在り方を検討する」(同上)としていることから、今後、法改正を含めた議論が活発化することは必至と言えます。
さらに近時、育児・介護休業取得者の代替要員の確保の必要性を強調しながら、労働者派遣の拡大をはかろうとする動きが強まっていますが、対象業務の如何にかかわらず、労働者を派遣する実績をつくり、これを突破口にネガティブリスト化(原則自由化)への道を開こうとするもので、きわめて危険なものと言わざるを得ません。
労働者・国民の期待する方向は、アンケート調査結果に現れた労働者の不安定な権利状態の解決であり、まさにこれを裏切ろうとしている労働行政の動きを注視していくことがきわめて重要となっています。
同時に、パートタイム労働法の施行(93年12月)から3年後の見直し時期を迎えるにあたって、パートタイム労働者をはじめとした基幹労働者以外の労働者へのあらゆる差別をなくすため、昨年6月24日のILO総会で採択されたパートタイム労働条約が明記する「労働基本権、労働安全衛生、有給休暇、病気休暇、母性保護、解雇保護などに関するパートタイム労働者に対するフルタイム労働者と同一の保護」「労働時間等に比例してフルタイム労働者より少ない賃金を受け取ることのない相応しい待遇」などの実現をめざし、同条約の批准とパートタイム労働法の抜本的な改正が急務となっています。

4.高年一齢者の賃金を引き下げ、不安定雇用を拡大する雇用保険法「改正」

1974年12月、失業者の生活保障という失業保険制度本来の機能を後退させ、失業者の就職促進や事業主に対する助成措置など、政府・独占資本の雇用政策を推進する役割を前面に押し出した雇用保険法が制定されました。もともと、失業保障は憲法第27条に基づき、労働者が適職を選択し、あるいはよりよい条件の仕事へと移動する可能性を担保するものであり、職業紹介や公的就労事業の実施等と併せて積極的に労働権を保障するものです。しかしながら、現在の制度はアンケートにもみられるように失業期間中の生活保障としては給付日数・給付期間等不十分なものになっています。制度制定以来これまでも、給付日数の改悪や給付制限期間の改悪などの「改正」が行われていますが、94年6月には「就業しているものに失業給付を行う」という、雇用保険法制定以来の最大の「改正」が行われました。
この「改正」のもととなった中央職業安定審議会雇用保険部会の報告(93年12月1日)は、今後の急速な高齢化や女性の職場進出、中長期的な労働力の供給制約、労働者の就業形態、就業ニーズの多様化、転職意識の変化などの構造的変化に的確に対応するためには雇用保険制度を「改正」し、「雇用に関する総合的な機能を有する制度」にする必要があると述べており、この「改正」の目的が労働者の犠牲のもとにすすめられている大企業本位のリストラ「合理化」を容認し、再雇用、出向、転籍などをさらに促進する方向に雇用保険制度を対応させていくことにあったことは明らかです。さらにこの「改正」は、昨年12月の連立与党の年金プ口ジェク卜チームの最終報告が「65歳までの継続雇用対策の強化を図るための高年齢者雇用安定法の見直し及び高年齢雇用継続給付の創設等の雇用保険法の見直しを行う」と述べているように、年金制度の大改悪とも密接に連動しているのです。
高年齢雇用継続給付制度は、その設立の趣旨によれば、「継続雇用中の賃金が定年前に比して相当程度低下」し、「定年時に離職して受給する失業給付の額の方が継続雇用されて受け取る賃金額より多いという『逆転現象』が生じるため、働くことを希望する定年到達者であっても継続雇用を選択しない」ケースが多いことから、高齢者を雇用継続の方向に誘導するために設けられたものです。実際、民間企業では定年前から賃金カーブは減少傾向となり、賃金構造基本統計調査(92年6月)の「毎月決まって支給する給与」でみると、5559歳の37.2万円に対し、6064歳では27.5万円と25%以上も大幅にダウンしています。こうした実態から見れば、60歳時点に比して賃金が相当程度低下した高齢者に対し、賃金額の25%を限度に支給する(上限は、60歳時点の賃金の85%)という制度の導入は、見方によっては賃金の大幅な低下に対する一定の歯止め措置といえないこともありませんが、逆に、定年後の賃金は60歳時点の85%以下でよいとすることを是認することにもなり、制度を最も効果的に利用しようとすれば、賃金を68%まで引き下げることが可能となります。実際、安定所には「どの程度賃金を引き下げれば給付が受けられるのか」との相談が多く寄せられており、今度の「改正」が賃金引き下げの方向により大きな役割を果たしています。
もともと、定年後の賃金が定年前に比べて大幅に低下するというのは、高年齢労働者を安上がりの労働者として活用しようとする企業の賃金政策そのものに起因しており、本来は労使間の交渉で決定すべき賃金を、「定年延長指導」と称してそうした企業の行動を後押ししてきた政府・労働省の行政姿勢にも大きくかかわっています。問題は、同一企業・同一職種に従事しているにもかかわらず、失業給付よりも低い賃金で雇用が行われていることや、年齢のみを理由とした差別的賃金が押しつけられていることにあり、みずからの労働が賃金面で正当に評価されない現実こそが、高齢者の就労意欲を妨げているとみるべきです。
したがって、本来こうした差別的待遇を規制するという観点こそ重視されるべきであって、こうした実態に対する有効な施策抜きに高年齢者雇用継続給付制度を導入することは、結果として、高年齢労働者に差別的な賃金を強要している企業の社会的な責任を免罪するものであり、高年齢労働者の低賃金を固定・拡大することにつながる危険性を強くもっています。
雇用を継続するか、引退して年金を受給するかは労働者の選択に任されるべきものであり、労働者も拠出する失業給付分の財源を使って、高年齢労働者を雇用継続の方向に政策的に誘導するべきではなく、現役労働者として働いている高年齢労働者を「準失業者」とみなすことは、「高齢者の活用」といいながら、実際には高年齢労働者を企業にとって安上がりで便利な労働力ととらえていることの表れにほかなりません。
この雇用保険法「改正」は、「雇用に関する総合的な機能を有する制度」として、労働力確保対策としての機能をより強化するとともに、「保険事故=失業」以外の給付にも労働者負担部分を含む保険財政を投入するなど、雇用と失業保障に対する国と企業の責任をいっそう曖昧にし、雇用保険制度の基本を大きく変質させる危険性をもつものといわなければなりません。
また雇用保険法の改悪と時期を同じくして、高齢者の積極的な活用を推進するものとして「高齢者雇用安定法」が改正され、60歳以上の高年齢者に関しては特定業種(港湾、建設、製造業生産工程)を除いて労働者派遣事業が自由化されました。これは高齢者の労働権を担保するものではなく、むしろ6O歳代前半層の雇用確保を口実に派遣事業や短時間労働に大きくシフトし、不安定雇用への就労を拡大しようとするものです。
アンケートにも見られるように圧倒的多くの労働者が望む正規のフルタイム就労は企業の自主性と良心に任せるという無責任なものであり、高齢者労働力を企業の望む安価で、便利な労働力として利用しようとする姿勢が垣間見られ、さらには、派遣法そのものの改悪への突破口となる可能性も強いものです。

5.リストラ「合理化」支援に乗り出した労働省

現在、労働省が扱う助成金は極めて多岐にわたっており、ほとんど利用されていないものや、手続きの煩雑さから大企業を中心に限定的にしか利用されていないものも数多くあります。
一方、長引く不況の中で、中小企業はその経営に苦しんでおり、そこで働く労働者の権利を確保するためにも中小企業に対する援助・国の施策が求められています。現行の最も代表的な助成金のひとつである雇用調整助成金の利用状況(95年7月分)を見ると、中小企業の利用割合が「休業」では45%、「教育訓練」では23%(いずれも計画延日数比較)、「出向」では6%(対象被保険者数比較)と、この間に行われた手続きの簡略化や支給要件の緩和、不況克服のために現行制度を活用しようという労働組合の運動もあり、中小企業でも比較的利用され、アンケート結果からは一定の効果もあったことが伺われます。
しかしながら、雇用調整助成金がまがりなりにも企業内での雇用を維持しようとしたのに対し、この3月に成立した「改正業種雇用安定法」では「労働移動雇用安定助成金」「労働移動能力開発助成金」を新設し、不況でなくとも生産を海外にシフトし「リストラ」合理化を進める大企業に対しても、「失業なき労働移動」を口実に積極的に支援していく方針を打ち出しています。
労働省は昨年8月に、現実に進行している「産業空洞化」が雇用に及ぼす影響について調査するため、「企業の海外進出・生産が雇用の及ぼす影響ヒアリング」を実施し、12月には、その結果に基づいて「製造業の海外シフトが国内雇用に及ぼす影響について」を発表しています。その中では政府・財界自らが作り出した円高による「産業空洞化」の責任については一言も触れず、逆に「海外進出したり、海外からの部品調達を拡大して行くことは・市場メカニズムに基づいた行動であり、これを政策的に押し止どめる事はできない」と、大企業がその経営戦略によって生産を海外にシフトすることを無批判に受容し、今後いっそう進行するであろうリストラ「合理化」=出向・再就職斡旋・配転などの人減らしのための対策を、積極的に支援する姿勢を打ち出しているのです。そして、このことは今後の大規模なリストラ「合理化」の受け皿を準備し、これまでの雇用慣行を根底から覆して、労働力流動化政策を進めていく大きな一歩ともなるものです。

6.女性労働者の願いに逆行する「女子保護規定の撤廃」

1985年5月、男女雇用機会均等法の制定とセットで、労働基準法の女子保護規定(時間外労働の上限規制等)が一定緩和(時間外労働の1日単位規制の撤廃、専門業務従事者・指揮命令者の適用除外等)されました。その理由は、女子保護規定が女性の雇用機会確保・処遇改善・能力開発等の妨げとなっているというものでしたが、第21回行政研究活動に寄せられた多くの女性労働者からのアンケート結果(職場における男女平等について、47.7%の女性労働者が「平等と感じない」と回答している)によっても明らかなように、この間、女性労働者をとりまく状況は、長時間・過密労働をいっそう広げる一方で、依然として採用から退職に至るあらゆる分野で差別が根強く温存されています。
もともと均等法は財界の強い抵抗で「努力義務」しか規定されておらず、企業はその不十分さをよいことに、男女差別の解消に真摯にとりくむことを拒み続けてきました。
このよう中で、財界は、国連の女性差別撤廃条約等を口実にし、「規制緩和」のムードも最大限に利用しながら、時間外労働の上限規制、休日・深夜労働の規制などのいわゆる女子保護規定の「全面撤廃」を求め続けています。さらに近時、連合傘下の労働組合の中にも、「女性労働者の就業機会の拡大」につながるとして、「女子保護規定撤廃」を要求として掲げる労働組合が現われています(電機連合、自動車総連)。
しかしながら、時間外労働の上限規制や深夜の交替勤務制限が徹底され、労働時間も週30時間台になっている欧州諸国と異なり、わが国の異常な長時間労働のもとでは、むしろ男女労働者を問わず保護と規制の強化が必要です。それを行わずに女性労働者の規制撤廃だけを主張するのは筋違いと言わざるを得ません。
日経連は、「女性の就業促進、能力発揮」(平成7年版労働問題研究会報告)のためと言いますが、自ら女性を差別し門戸を閉ざしながら、もっと劣悪な条件でなら雇ってやってもいいという主張であり、このような「女性の就業促進、能力発揮」は決して女性の願う方向ではありません。
このような動きを受けて、すでに労働省も「婦人少年問題審議会では、今秋から男女の均等を強化することについて検討を始めることにしている。労働基準法の女子保護規定が依然として女性の職域拡大にとって『足かせ』になっているとの意見があることから、女子保護規定は母性保護を除き原則的になくしていく方向で見直すといったことについての議論も行う予定だ」(坂本婦人政策課長/1995年7月10日付「週間労働ニュース」)との姿勢を明らかにしており、すでに10月25日から、婦人少年問題審議会(婦人部会)での検討が開始されています。
この間、財界は「日本的経営」の再編として、「終身雇用制」「年功賃金制」の見直しを唱えていますが、もともと「終身雇用制」「年功賃金制」は、男性基幹労働者を中心とするものでしかなく、多くの女性労働者は、従来、パート・臨時工などとして、これを下支え・補完する雇用調整弁として位置付けられてきたのです。
財界が将来像として描く「効果的な雇用ポートフォリオ」においても、安価で流動的な労働力である「高度専門能力活用型グループ」や「雇用柔軟型グループ」の主力として女性が位置付けられていることは明らかです。
多くの女性労働者が依然として育児、介護等の家庭責任をより重く負っている状況下を「就労形態にかかるニーズの多様化」としてあたかも「男女の価値観の相違」であるかのように言い換え、女性を中心とした不安定で劣悪な労働条件の下で働く労働者層の形成をめざす動きは厳しく批判されるべきです。
第21回行政研究活動のアンケート調査結果が示すように、多くの女性労働者は、男女平等の実現をはかるために必要な施策として、「女子保護規定の撤廃」(8.0%)ではなく、「男女労働者の時間外労働の規制」(24.5%)、「均等法の罰則強化」(32.4%)こそを求めているのです。
労働行政は、女子保護規定緩和をすすめるのではなく、むしろ、男女労働者の時間外労働の上限規制、割増賃金の大幅引き上げをはかるなど、諸外国から「不公正な労働基準」として批判されつづけているわが国の労働時間法制を抜本的に改正し、長時間・過密労働を解消しながら、男女平等のステージをつくりだし、同時に、募集、採用、配置、昇進等のあらゆる段階での差別を厳しく罰するなど均等法を実効性のあるものに改正することこそが求められています。

7.労働時間短縮の推進は「労使の自主性頼り」

第21回行政研究活動のアンケート調査結果にも如実に現れているとおり、わが国の労働者は、横行するサービス残業、持ち帰り残業によって、健康破壊、家庭破壊さらには過労死の不安にさらされています(実に、労働者の36.6%が「サービス残業を行っている」と回答しています)。
加えて・深刻化・長期化する不況の中ですすむリストラ「合理化」は、労働時間の短縮をいっそう困難なものとしています。
この間、労働基準行政は、労働時間の短縮を最重点課題と位置付け、「計画中(平成8年度まで)に年間総労働時間1800時間を達成する」(「労働時間短縮推進計画」(1992年10月/閣議決定)ことを目標にかかげ、中央、地方において、「多様な」施策を展開してきました。
しかしながら、1994年の年間総実労働時間は1,910時間(1993年は1,920時間)となっており(労働省「毎月勤労統計調査」)、労働時間の短縮は遅々として進んでいません。
この間の労働時間短縮にむけた労働基準行政の対応の特徴は、「労使の自主性頼り」と言えます。「労働時間短縮推進計画」(前出)においても「日常的な話し合いに基づく具体的な方策が実施されることにより推進されることが重要である」として、「労使の意識」「労使の自主性」に責任を転嫁していますが、これまでの「指針」「要綱」「目安」の指導に終始した施策の実効性を、真摯に見直さなければなりません。
労働基準行政が、このように「労使の自主性」を強調する中で、労使の一方である日経連は、すでに、「平成5年版労働問題研究会報告」の中で「労働時間短縮推進計画」(前出)にふれ「計画中の1800時間という総労働時間の達成には相当の無理があると言わざるを得ない」との見解を明らかにしており、このまま「労使の自主性」に頼りつづける限り、第一線の職員の地道な努力にもかかわらず、労働時間の短縮はおぼつかないと言わざるを得ません。
同時に、労働基準行政は、労働時間短縮の指導にあたり、「生産性の向上にむけた取組の促進」(「労働時間短縮推進計画」(前出))を強調します。しかし、労働時間の短縮を生産性向上の配分と位置付け、コスト論に巻きこむことには、根本的な問題性を指摘せざるを得ません。
そもそも、労働時間規制は、使用者がその責任において雇用する労働者に対して保障すべき最低基準であり、侵すことのできない「労働者の権利」として位置付けるべきものです。最低基準としての労働時間の水準がコスト論で決められるということになれば、それが景気の動向で左右されることにもなりかねません。
労働時間規制は、現在の長時間・過密労働の実態を解決するため、労働者とその家族が「健康で文化的な生活を営むため」に保障される権利(憲法第27条第2項)として位置付けられることが求められています。

8.無制限な長時間・過密労働を合法化する裁量労働制の拡大

労働時間の短縮が遅々としてすすまない現状の下で、財界は、前述したとおり裁量労働制の拡大を声高に唱えつづけています。
そして、このような財界のねらいは、労働省がすすめようとしている労働基準法の「見直し」によって、一歩また一歩と実現しようとしています。
裁量労働制は、1987年の労働基準法「改正」により創設されたもので、実際の労働時間にかかわらず、協定された労働時間が、労働基準法上の労働時間とされるため、企業の労働時間短縮にむけた努力は期待できなくなります。そこには、サービス残業という概念もなくなり、また、いかに長時間労働の実態が明らかになろうとも、労働基準監督機関が事業主に対して法違反を問うことはできません。
すでに裁量労働制が導入され、事実上、労働時間規制のらち外におかれた職場では、考課制度と結び付いた競争原理のもとで、労働時間短縮どころか、労働強化がますますはかられていることからも、その問題性は明白かつ深刻です(事実、前述のアンケート調査結果によれば、裁量労働制の下で働く労働者のうち、71.4%が「仕事がきつくなった」と回答し、また、78.5%が「体調を崩すことがある」と回答しています)。
にもかかわらず、中基審の建議(1992年12月18日)を受けて、現行の裁量労働制の対象業務等について検討をすすめていた「裁量労働制に関する研究会」は、本年4月24日、「労働省令で具体的に示されている研究開発の業務等の5業務以外にも裁量的に働いている層が増加しつつあ」るとし、裁量労働制の対象業務の拡大等を求める報告をとりまとめました。
しかも、「労働者の側においても…自律的で自由度の高いフレキシブルな働き方を求める動きが強まっている」とし、その方向が、あたかも労働者の期待に沿うものであるかのように装っていることに欺購性を指摘せざるを得ません。
労働省は、今、急ピッチでこの報告をふまえた省令改正を、つまり裁量労働制の対象業務の拡大をすすめようといます(本年9月21日の労働基準法研究会労働時間法制部会(座長/保原喜志夫北海道大学教授)報告も、前述の報告同様に「経済社会情勢の変化等に対応して、裁量労働制の対象範囲を一定の範囲で拡大することが必要と考える」と述べている)。
労働行政に求められているのは、多くの労働者がサービス残業を強いられ、健康を損ないながら働きつづけている実態を直視し、これを解決することであると考えます。
使用者の労働時間管理の責任を免責し、労働者の「自主性」「裁量」の名のもとに長時間労働とサービス残業を公然と認める裁量労働制の拡大は、その方向に逆行するものと言えます。

9.職能・業績給重視の賃金制度への転換を積極支援

労働省は、94年7月、雇用情報センターの「これからの賃金制度のあり方に関する研会」よる委託研究「ホワイトカラーの生産性向上と賃金制度のあり方に関する研究」を発表しました。
同研究は、この中で「中高年ホワイトカラーの余剰感」を指摘しながら、今後の賃金制度として、「新しい環境に適応したホワイトカラー活用の6つのキーシステム」を提示します。
すなわち、(a)年功職階人事を改めて能力を基準とした人事考課制度の確立、(b)目標面接制度等の導入による個人主義管理の強化、(c)管理職・専門職・専任職による複線型昇進制度の導入、(d)職能給体系の確立と年功賃金カーブの修正、(e)複線型昇進制度に合わせた評価制度の整備、(f)年俸制に代表される業績重視の賃金制度の導入をそれぞれ提起し、財界がめざす職能・業績給重視の賃金制度への転換を積極的に支援する姿勢を示しています。
このような中で、すでに労働省は、「近年、仕会経済情勢の変化に応じた賃金制度の確立が急務となっているが、とりわけ中小企業では専門スタッフがいないことなどから、賃金制度が未整備な状況も見受けられるところであり、平成7年度から中小企業賃金支援事業(賃金制度のひな型及び自主点検表の作成・提供、セミナーの開催等)を社団法人全国労働基準関係団体連合会(全基連)への委託事業として実施する」(基発第387号・平成7年6月16日「平成7年度中小企業賃金制度支援事業の実施について」)ことを明らかにしていますが、中小企業賃金制度支援事業の方向が、「総人件費の削減・抑制」を目論む財界のめざす方向であるならば重大であると言わざるを得ません。
賃金制度に関しては、多くの労働者が、就業規則もなく不明確な賃金制度の下で働き続けており、それゆえ賃金をめぐるトラブルは・連日、申告・相談として監督署の窓口に寄せられており後を絶たちません。賃金水準に関しても、大企業と中小零細企業との大きな賃金格差も依然として残されており、さらに労働配分率の低さも国際的に批判されています。加えて、コース別人事管理、疑似ハートなど、新たな費金差別も広がっています。
労働基準行政に求められているのは、すべての労働者に生計費を基本とした賃金水準を確保するとともに、このように多くの労働者が権利・利益が侵害され、差別が横行している実態を改善することです、そのため、使用者責任を明確にしながら、必要な法規制を整備していくべきであると考えます。
また、総人件費の削減・抑制、とりわけ安価な労働力の確保をねらい、近年、財界が「労働分野の規制緩和」のひとつとして「産業別最低賃金制の廃止」を求めていることにも、今後注視していく必要があります。

10.職業訓練の権利性を忘れ、労働者の自発的な能力開発を当然視

「平成7年版労働白書」(6月27日労働省発表)は、今後の労働力需給構造にかかわって、「非正規雇用の増加」を指摘しつつ、企業の雇用調整について、「企業は基本的に雇用の安定をはかる方向で対応しようとしており、行政としても企業が労働力の有効活用を図られるよう、職業能力の開発支援を中心とした各種の支援を積極的に行い、また企業が前向きな対応を行う上で不足する人材の確保面での支援を行う必要がある。さらに、事業の縮小等に伴い転職を余儀なくされるケースもふえることが予想されることから、産業間・企業間の労働移動による雇用機会の確保、移動の際の能力開発等失業なき労働移動のための事業主の取り組みを支援することや離職者の再就職対策に万全を期す必要がある」とするなど、労働力のいっそうの流動化を容認し、眼前で展開されている大企業のリストラ「合理化」に対しても、企業の「善意」を強調しています。
労働力のいっそうの流動化は、当然のことながら、各企業に、自ら雇用する労働者の職業訓練に対する意欲を失わせることとなります。しかしながら、能力主義・成績主義重視の賃金体系の下で、労働者は、能力開発にむけた自己努力を余儀なくされるのであり、職業訓練は「労働者の権利」から「労働者の義務」へと移り変わることとなります。
労働省が本年8月25日に発表した「雇用安定・雇用創出のための『人的資産形成プログラム』」では、このような動きを当然視ながら、「労働者の自発的・主体的な能力開発への支援」を打ち出し、「雇用促進センターによる『自己啓発等支援プログラム』の作成等による支援」「自己啓発のための援助施策の実施」「自己啓発に係る気運の醸成」をすすめることしています。
ILOの「職業訓練に関する勧告」(第117号)では、職業訓練は、「その人が自己及び社会の最大限の利益となるようその能力を利用することができるようにする手段である」としながら、「企業内で訓練を受ける者は、妥当な報酬を受けるべきである」、「訓練問題に関する企業内における責任は、当該企業の訓練の必要の性格及び程度に応じ、特別の訓練担当部局等に対して明確に割り当てるべきである」などと述べ、職業訓練(能力開発)の権利性及びそれを保障すべき使用者の責務を明らかにしています。
使用者(各企業)の果たすべき責任を棚上げし、ことさらに、労働者の自発的・主体的な能力開発の必要性を強調することは、「人間の能力を開発し、人格の発展に寄与する」(職業訓練に関する憲章(トリノ憲章)/1968年・世界労働組合会議)という職業訓練の基本的性格を忘れたものといわざるを得ません。

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第4章 労働行政の役割をめぐる労働団体や学者・研究者などの論議や政策提言等の動向

今日における労働行政の役割を検討するとき、財界や労働省の労働政策の分析だけでなく、円高・不況下や戦後50年を契機に高まっている労働分野の「規制緩和」や「労働法制見直し」をめぐる論議、さらには労働行政にかかわる労働団体の要求や政策提言等を念頭におく必要があります。また、ILOなど国際的な動向も見落としてはなりません。

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1.財界・政府を後押しする論議とその特徴

財界・政府の「規制緩和」や21世紀をにらんだ雇用システムの見直しなどの動きと並行し、また、戦後50年を契機に、労働省の審議会に参加している中心的な学者などから労働行政や労働法制に関する「規制緩和」と「労使自治」を求める研究活動や論議が高まっています。
例えば、「わが国の労働法制は基本的には1940年代後半に形成されて以来今日まで、基本的枠組みは変更されることなくほぼそのままの形で存続しているが、その相当部分が労働市場と労働力の質的変化の結果、今日では規制過剰、規制不適切と化している。戦前の前近代的労働者搾取に対する規制という発想を基本に置いた現行法制は、今日の状況からは時代錯誤の過剰規制を含んでいる」という主張とともに、労働者の権利救済や労使の個別紛争について、「紛争処理システムとしては、労使協議制と第三者機関の設置が考えられる。…第三者機関は…労働委員会制度を再検討し、これを改組、活性化し個別紛争処理の機能をもたせる」(花見 忠中央労働基準審議会会長著「規制緩和と労働法制の再検討」書斎の窓1995年4月号)など労働基準行政や婦人少年行政が担当すべき行政の範囲・内容、労働法制における最低労働基準のあり方を問いかけています。
また、「現状に適合しなくなった取締規定を再編成するとともに、新しい事態に対応した基本枠組みの導入と整備の作業をすすめる必要がある」と主張し、「規制緩和」を提起すると同時に、労働法制の改革を機能させるためには、「労働市場の流動化や内部労働市場における個別契約的な雇用の進展に伴う苦情・紛争処理のサポートシステムの整備」が必要だとして、「労働関係調整法の大幅な見直しによる、個別紛争の処理メカニズムの創設」を提案しています。その根拠や理由として、「20世紀を通じて、先進工諸業国で社会法・労働法が労働者の経済的地位向上に果たした役割は大きい。しかしながら、…経済成長と所得の分配によって労働者の経済生活は向上し、…雇用保障も進み、…労働条件も格段に向上した。こういった20世紀労働法の目標の、相当程度の達成と目される変化が、今度は、労働法そのものの構造と機能に跳ね返ってくる。…労働者のなかに、かつてのような『絶対的な弱者』というタイプが減少し、『相対的な弱者』あるいは『もはや弱者とみるべきでない』といったタイプも、目立ちはじめ…労働法の規制の対象となる労働者像が…『集団としての労働者』から…『個々人としての労働者』へと転換しつつある」(いずれも菅野和夫中央労働基準審議会就業規則部会長・裁量労働制に関する研究会座長、諏訪康雄共著「労働市場の変化と労働法の課題」)という認識や「日本型雇用システム」(長期雇用、年功による処遇など)の変化を挙げています。
一方、通産省委託調査研究報告「21世紀に向けた雇用システム・労働関連法規に関する調査研究」(1994年3月、財団法人日本生産性本部〕も、変化する雇用システムに対する法的規制の観点として、「仕会の成長・成熟に伴い、画一的、取り締まり的、強行的規制対象としての『労働者集団』から、個別的、補完的、当事者の意思を尊重した任意的規制の対象としての『個々人としての労働者』へと対象が転換してきた」という現状認識を示しています。その上で、今後の労働法制のあり方について、「最低限度の刑事的な制裁措置や行政的介入を別にするならば、社会的な自治の基準となるガイドラインの設定機能を法と行政は担っていくにとどまるべきであって、民間の自治(市場)への過剰な介入は避けるべき」であり、「私法的な手法によって規準提示型、誘導型の要素を強めていくこと(いわゆる社会法の私法化)がこれからの基本方向」であると主張し、「取締権限を担う機構とそれ以外の権限を行使する機構との組織再編なども考慮していく必要がある」と指摘しています。
「刑罰からの解放。それは労働法制全般に見られる時代の流れでもある。…労働基準法制もまた、このもはやさえぎることのできない潮流の中にある。『罰則がなければ監督ができない』。しばしば耳にするこの論理も今日では通用しない」「ILO81号条約は…破棄か見直しか。わが国はいずれその選択を迫られることになろう」(小嶋典明大阪大学教授「労働基準法制と規制のあり方」ジュリスト1066号)や「労働市場活動に関する職業安定法の立法政策は、国営職業紹介と労働者派遣をのぞけば、ことごとく時代遅れとなっている。…サービス経済化した社会ではあらゆる経路と形態のサービス(労務)の自由な供給と流通が要求される。社会一般の人権保障の状況、雇用保険を含む社会保障制度の発達、労働者の経済的仕会的地位と教育水準、求人・求職情報の伝達手段や交通機関の発達、職業の種類の多様化、専門化、高度化等、この60年の変化には顕著なものがある。それゆえ職業安定法の見直しも、ILO事務局の報告書が示すような抜本的な発想の転換に学ぶべき点が多い」(馬渡淳一郎姫路独協大学教授著「職業安定法制の課題」ジュリスト1066号)も同様な考え方に立つものです。ここでいうILO事務局の報告書というのは、1994年の総会に提出されたもので、職業紹介の国家的独占政策の放棄や公共職業紹介と私的職業紹介の対等な競争等についての内容を含む1949年有料職業紹介所(改正)条約(96号)の見直しに関するものです。

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2.「規制緩和」や労働基準の弾力化を批判し、労働者保護と規制拡充を求める意見

一方、上記のような考え方を厳しく批判し、労働行政の存在意義を改めて明確にするとともに、労働分野の規制を拡充することを主張する意見も少なくありません。
労働法の権威である片岡舜龍谷大学教授は、前記の論文「労働市場の変化と労働法の課題」、「労働基準法制と規制のあり方」の考え方を批判し、「自立的・専門的労働者の増大のみを重視して一面的に規制の緩和や弾力化を図るべきでない…元来労働者は、法の支援なしには使用者(とくに大企業)と対等の立場で労働契約を締結できないのであって、ことにわが国で未組織労働者が多数存在し、また多発する労働契約紛争は一般に労働契約に基づく権利義務の内容が不明確であることに起因していることなどを考慮すれば、実態的権利関係の要件・内容も含めた法的規制を講ずることは不可避であって、こうした見地からの法規定の見直しと整備が必要」(「労働基準法制」―ジュリスト1073号)と述べています。
また、労働省の外郭団体の代表的な研究者であっても、「規制緩和と労働力流動化ということが論者からつよく言われていますが、これは有り体に言えばもっと経営者に労働者の解雇を容易にさせようという提言としか思えません…余剰労働力を解雇し、別に雇用機会を確保すればよいというようなことを言っていますが、解雇されたものが新しい雇用機会に容易に適応できるわけはなく、多くは失業してしまいます。人間が右から左にそう簡単に移動できるわけはなく、そのへんの認識が非常に甘いと言わざるを得ません。…規制緩和論者は算術で労働移動を考えているに過ぎません。経営者は雇用したら雇い主としての責任を負うべきです。今、正規の労働者を減らして、パートタイム労働者や派遣労働者を使う傾向がありますが、これも労働者であれば雇用調整が簡単にできるわけではなく、パート労働者の場合もトラブルは増大しています。派遣労働者も同じです。こうした最近の論調は、労働市場や雇用問題の基本を取り違えているのではないか…簡単に解雇を認めるようなことは賛成できません」(高梨 昌日本労働研究機構研究所長「構造的失業にどう対応するか」一労働経済旬報95年7月上旬号)と主張しています。
さらに、花見上智大学教授は、上記のように「労働法制は…今日では規制過剰、規制不適切と化している」と述べる一方で、雇用平等にかかかわっては、「均等法を廃止し、全ての雇用差別を規制する包括的な立法が必要である。…均等法が努力義務の対象としている差別の部分についてこそ効果的な禁止が必要」と主張するとともに「効果的行政救済制度の設置と裁判所に積極的是正命令の権限を付与する」ことを提言しています。

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3.「規制緩和」の本質を鋭く突くマスコミ論調

ジャーナリストの内橋克人氏は1994年3月から約1年間の日米両国での調査をもとにした著書『規制緩和という悪夢』で、規制緩和はアメリカの終身雇用制に終わりを告げ、富の分配の不均衡を増大させたと結論づけつつ、「もし、あなたが日本で規制緩和をしようというのなら、こう理解しておけばいい。要するに規制緩和とは、ほんの一握りの非情でしかも貧欲な人間に、とてつもなく金持ちになるすばらしい機会を与えることなのだと。一般の労働者にとっては、生活の安定、仕事の安定、こういったものすべてを窓の外に投げ捨ててしまうことなのだと」というポール・デンブシーデンバー大学教授の言葉を引用しています。また、「確かに、新産業は生まれた。しかしそのことの意味は、中流の豊かな暮らしを楽しめる給料がもらえた仕事が失われ、そのかわりに、とにかく生きていけるだけのお金をもらえる仕事が生まれたということなのである」と指摘しています。
また、96年1月15日付朝日新聞中野隆宣編集委員の「労働分野の規制緩和は慎重に」とする論説では、「これらの規制緩和を求める経営側の狙いは明白だ。日経連が昨年五月に発表した『新時代の日本的経営』という方針は、人件費抑制の立場から、正社員(ストック型)を少数にしぼり、あとは派遣労働者やパート(フロー型)にすることなど、雇用の流動化と労働条件の多様化を掲げている。企業が、必要なときに必要な労働力を、より安く調達し、思い通りに働かせ、自由に解雇できるシステムを目指している。そのためには、障壁となる法的規制の除去が必要なのだ。…『労働者のための』労働省は、まず現行法の欠陥や不備を是正し、安易な解雇を規制する凡例を明文化するなど、むしろ規制を強化することが求められているのではないか」と指摘しています。

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4.労働団体や労働弁護団などから相次ぐ「規制緩和」批判や労働行政への政策提言

全労連・日本労働弁護団などから財界、政府・労働省などの動きをにらみながら、要求やとりくみ・立法提案などが行われています。

(1)労働総研は全労連からの委託研究に対する報告書「規制緩和で日本はどうなる」を1995年4月21日に全労連に提出しました。報告書は、政府・財界の「規制緩和」を「大企業の横暴な経済活動を促進する意味合いをもっている」、「規制緩和による雇用破壊・賃金破壊」、「『労働力の流動化・多様化』をテコとした人件費の大幅削減・労働者分断」と批判し、大企業を中心とするリストラ「合理化」による人員整理(配転、出向、転籍、退職勧奨、希望退職、閉鎖解雇など)や賃金・労働条件の切り下げに反撃し、賃下げなしの労働時間短縮、過密労働規制による雇用の創出、大幅賃上げなどの要求を掲げてたたかうことの重要性を指摘するとともに、大企業の民主的規制を提案しています。具体的には、整理解雇の4要件の法制化、週40時間労働・週休二日制の制度化、全国一律最低賃金制の確立、課税最低限の引き上げ、未就職の新規学卒者も対象とする国庫負担による失業手当の支給、高齢者や障害者に就労機会を保障する公的就労事業の確立、地域経済を破壊する工場閉鎖・移転の禁止、下請けへの単価切り下げや発注停止の禁止、国内での雇用と生産を削減している企業の海外進出禁止等を提案しています。

(2)全労連は、(a)臨時・パートを含むすべての労働者への退職強要や解雇をやめさせること。解雇を法的に規制すること(整理解雇の4要件の法制化などを内容とする解雇規制法の制定など)。(b)労働時間短縮で雇用を拡大すること。国や自治体の責任による雇用の創出と失業保障の拡充をはかること。(c)大企業などの工場・事業所の…方的な縮小や閉鎖を規制すること等を求めて、政府あての「解雇を規制し、雇用・失業対策等の改善を求める署名」を行っています

(3)日本労働弁護団は、1995年1月、「労働契約法制立法提言(第二次案)」を発表しましたが、解雇予告に関する規制強化、整理解雇の4要件や権利乱用の法制化、配転・出向・転籍の拒否権、期間の定めのある労働契約の原則禁止など、その内容は全労働として、基本的に支持できるものです。しかし、次の2点については、さらに議論を深め、整理していく必要があると考えます。1つは、全労働は最低労働条件の確保と労働監督制度は一体のものであるべきだと考えていますが、提言されている事項のなかで、そういう意味での最低労働基準(刑事制裁・行政処分・民事的効力が一体となって機能すべき事項)と、民事的効力のみを持つ事項とを区別して整理する必要があるということです。2つは、新たな「個別的労使紛争処理システム」の提起についてですが、少なくとも、国の責任を明確にすることと労働行政機関とのネットワークあるいは連携が制度上明確にされなくてはならないと考えます。この点に関し、「全労働の『問題意識』に対する反論と所見」(日本労働弁護団通信)が、労働委員会の機能を拡充強化した新たな個別的労使紛争処理機関と「各都道府県に設けられている労政事務所や労働センター等の相談窓口との有機的連携」のみに触れ、労働基準の履行確保に専門的に関わっている監督署や婦人少年室をどう位置付けるのか提起していないのは理解できないところです。「監督署は役に立たない」という意見が若手弁護士の間に多いとしても、「反論と所見」自身が主張するように「制度論と運用論とは本質的に無関係であり、切り離して論じるべき」です。
ところで、財界や一部の学者などから、労働基準に関わって、「刑事罰からの解放」が主張されている状況下での、「労働基準法は、刑罰法規・行政取締法としての深化がされてこなかったばかりか、実務上深刻な空洞化が進行していたといっても、過言ではない。刑罰法規・行政取締法規としての空洞化は、民事的効力にも影響し、『同意』による強行法規性の緩和等の問題も生み出している。現行の労基法所定の労働基準監督事項に関して、監督官が監督権限を発揮できないことについて、刑事処罰規定としての要件事実論や期待可能性論等の法理論、運用実務等のさまざまな分野で検討を行ない、その充実を図るために必要な措置を講じなければ、労働基準監督行政は空洞化を招き、信頼を失う。労基法が食糧管理法と同じような道を歩むことがあってはならない」という「反論と所見」の指摘はきわめて重要で、まったく同感です。監督官の訓練の問題も含めて、なによりも労働省当局の責任を追及するとともに、全労働としても早急な対応が必要だと考えています。

(4)自由法曹団は日本労働弁護団の「労働契約法制立法提言(第二次案)」を基本的に支持しつつ、「労働基準法(契約法制等)『改正』についての緊急提言」(1995年3月)を発表しています。また、「今日のリストラ『合理化』のもとで激増する労働関係の紛議を迅速・的確に解決する救済機関の新設などの課題は、十分に検討に値するところであるが、後日を期す」としています。「緊急提言」では、労働大臣の私的諮問機関である労働基準法研究会の1993年5月の報告に基づく中央労働基準審議会の検討の方向を、「規制緩和」と「基準の明確化」であり、「現行の労基法が資本を規制することあまりに少ない」と指摘しつつ、「それすら『緩和』していっそう効率よく、つまりはいっそう『もうけ』がでるよう労働力を使いきりたい」という「使用者、とりわけ大企業の強い願望」に応えようとしていると位置付けています。また、「報告」のいう「明確化」とは、「労働者にとって不利益な配転・出向、懲戒処分なども、就業規則で定めさえすればなんでもできることにする、というにすぎない」と指摘しています。その上で、時間外・休日労働に対する規制(個別同意権、拒否を理由とする処分の禁止)、配置転換、出向、転籍に対する規制(本人の個別同意権、一定期間後の原職復帰等)、有期雇用の規制(期間の定めのある労働契約には正当理由が必要等)、解雇に対する規制(整理解雇の4要件などの法制化)、就業規則の記載事項や作成変更手続きの規制強化等を提言しています。

(5)連合は、「産業構造の変動にともなって、労働移動を余儀なくされるが、移動にともなう労働条件の低下を、可能なかぎり小さくするため、…雇用の量だけでなく質の確保も重要になる」、「労働移動の拡大は、経営側の労務コスト削減や解雇自由の拡大目的だけでなく、労働者自身の選択の自由の拡大につながるものとなり、『会社人間』から『社会人間』への道を開くものでなくてはならない」、「『経済的規制』の緩和は…経済成長と雇用機会の拡大にプラスする可能性を持っている」などと、企業のリストラ「合理化」を是認した上ではあるが、労働法制について一定の提起をしています。具体的には、「解雇規制や雇用契約をはじめとする労働法法制の改革、職業能力開発機能の充実、倒産の際の労働債権の確保」、「男女雇用機会均等法の強化」、「独占禁止法、労働基準法の契約法制、労働債権の確保に関する規定の強化」などです(以上いずれも、松浦清春、連合雇用対策局長著「産業構造の変化と雇用システム問題」ジュリスト1066号)。

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5.労働法制をめぐるILOなどの動き

日本は昨年の総会で採択された「パート労働条約」をまだ批准していません。労働時問に関するILO条約を一つも批准していないことなどをはじめ、労働者の権利と労働条件を国際水準に引き上げるための努力を怠っています。また、今年の総会では、ILO第81号条約「工業および商業における労働監督に関する条約」の適用対象を「非営利的部門」(公務部門など)に拡大する条約が採択されるとともに、家内労働者の保護に関する条約案の第一次討議が行なわれました。
ILO第81号条約(改正)の批准をめぐっては、公務部門などへの拡大に関わって、現行の日本の労働監督制度のあり方の見直しにつながる可能性があります。また、家内労働条約案の討議に関わっては、家内労働者の定義をめぐって激しい議論が行なわれており、その結論は労働法制が対象とする労働者の範囲に大きく影響を与えます。
また、ILO事務局は1994年の総会に、職業紹介の国家的独占政策の放棄や公共職業紹介と私的職業紹介の対等な競争等についての内容を含む「1949年有料職業紹介所(改正)条約(96号)」の見直しに関する報告書を提出しましたが、これをふまえた「職業紹介事業の自由化」条約とも言える条約案が1997年の総会で第一次討議に付される予定です。これらに条約に対する日本政府の姿勢が問われることになります。
OECD・TUAC(経済協力開発機構労働組合諮問委員会)は、先進諸国の労働市場の弾力化や規制緩和による雇用創出について、「規制緩和は良質な雇用の創出には役立たない」、「労働市場の弾力化がもっとも押し進められた国では、創出された雇用の大半が不安定で質も生産性も低い」と批判し、WTOの憲章に社会条項を盛り込み、加盟国に労働基本権を遵守させるべきだと主張しています(週刊労働ニュース95年6月19日)。

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第5章 今日における労働行政の果たすべき役割

前章までにおいて、アンケート結果の分析や財界・労働省の政策の批判的検討を行うとともに、学者・研究者は現在どういう主張をしているのか、労働組合や労働弁護団などは何を要求し、どういう提言をしているのかなども概観してきました。これらの分析や検討結果及び各支部のレポートをふまえ、また、労働組合等の要求や提言を念頭に置き、以下、私たちの考える労働行政の果たすべき役割について提起します。

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1.私たちの考える労働行政と労働法制の存在意義〜憲法を生かした労働行政と労働法制が求められています

労働行政の存在意義は・従属労働に従事し、企業に対して非常に弱い立場にある労働者が・現実に悩み苦しんでいる諸問題、たとえば、長時間・過密労働、健康破壊、配転、出向、単身赴任、解雇、男女賃金差別等々を解決すること、また、適性・能力に見合った職業を人間らしい生活ができる労働条件で紹介したり、労働災害に被災したときや失業中の生活を保障したりすることなどです。そして、労働法制は、健康で文化的な生活を営むための「最低労働基準」として労働条件決定に係わる企業の自由を一定制限し、また、「労働する権利」を保障して雇用の安定をはかり、さらには労働者の権利や生活の向上のため労働者と資本家が対等な立場で交渉できるように団結する権利等を保障することを目的に制定され、労働行政の存立根拠でもあります。すなわち、労働法制と労働行政には、憲法の保障する「生存権」、「労働権」などの実現が求められているのです。これは、資本主義社会の発展の中で、労働者のたたかいによって確立されてきた、「侵すことのできない永久の権利」です、
私たちの考える労働法制に照らすとき、政府・労働省や財界が押し進めようとしている労働法制の見直し・規制の緩和は、憲法に背を向けた時代逆行的な内容だといわざるを得ません。このことは、「産業革命以降の歴史は、労働者と使用者との間の法律関係を契約自由の原則に委ねることか、労働者の生存そのものを脅かすほどに不公正な結果をもたらすことを明らかにしてきた」「このような現実の中から、労働関係において契約自由の原則を修正しなくてはならないという法運動が生じてきたのであり、その一環として、国家が労働条件の基準を労使に積極的に提示しようとする労働基準法が制定・施行されてきたのである」「日本国憲法第27条第2項は…単に労働基準法に根拠を与えるにとどまらず、わが国の労働関係において契約自由の原則を修正していくという、つまり、世界の労働法の流れをしっかりと見極めて日本の法秩序の新しいあり方を宣言していることに他ならないのである」「労働基準法は労働条件の原則として、憲法の定める2つの指標=健康であること及び文化的であること=をとり上げているのであるから、労働基準法はもはや単なる労働保護法にとどまるものでなく、一層充実した市民的生活の保障を求める国民の憲法意識の変化につれてさらなる展開がなされていくべき」(労働省労働基準局編「労働基準法」上、序論部分)という労働省自身の文献の記述に照らしても明らかです。

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2.アンケート結果などにみる今日の労働者が置かれた労働と生活の実態及ぴその改善方向

〜 雇用の安定と労働条件の改善のために労働分野の規制拡充が求められています
アンケート結果や労働団体の要求、労働弁護団などの提言からは、長引く不況下で、労働者が、雇用の安定と失業保障、長時間過密労働の解消と健康の確保、職場における男女平等、家庭生活と職場生活を両立できる労働条件などを切実に求めている姿が浮かび上がってきます。
特に、アンケート結果でも確認された以下のような労働者の置かれた厳しい労働と生活の実態や要求は、組合員が日々職場の窓口で実感していることを裏付けるものであり、労働行政の今日的役割を考えるうえで重視しなくてはなりません。
(a)雇用調整に伴う解雇について多くの労働者が法的規制を望んでいます(在職者アンケートで44.3%)。また、配転・出向は企業によって一方的に行われており(求職者アンケートで61.1%)、法的ルールの必要性が明らかになりました。どちらの場合も、やむを得ないという労働者も少なくありませんが、それは、本当にやむを得ないものを、納得できるルールで行うならやむを得ないというふうにとらえられます。
(b)36.3%の労働者がサービス残業を行っており、賃金不払いの違法行為が横行していることが明らかになっています。また、サービス残業が多い労働者ほど過労死の不安を感じています。このことは、サービス残業と過労死を生み出すメカニズムが同じであることを示しており、サービス残業が過労死を生み出している実態が窺えます。サービス残業の根絶は行政の急務になっています。
(c)変形労働時間制(特に、裁量労働制)の導入によって、労働強化、ストレス、家庭生活への影響など労働者が苦しめられている一方、労働時間の短縮がほとんど進んでいない実態が明らかになりました(在職者、求職者いずれのアンケートでも、8割以上の労働者が、最近一年間で実労働時間が長くなったか、変わらなかったと答えています)。変形労働時間制の規制の強化が求められています。
(d)多くの労働者が「疲れており」(74.5%)、1割以上の労働者が「過労死の不安」を感じています。また、体の具合が悪くても「何もしない」、あるいは「仕事が忙しくて何もできない」人が少なくありません。そういう現状の中で、労働安全衛生法に違反して衛生管理者が未選任など、企業の健康管理体制は極めて不十分です。
(e)賃金、労働時間、人員などいずれについても、いっこうに改善が進んでいません(求職者アンケートでは71.8%の労働者が最近一年間にまったく賃金が上がらないか、引き下げられたと回答しています)。そういうなかで、雇用調整が行われ、解雇、賃下げ、配転・出向などが行われているのです。これらの労働条件の改善につながる政策や法規制などが求められています。
(f)大多数の労働者が正社員になることを望んでいます(65.9%)。パート雇用を希望する場合でも、理由として、介護、育児など家庭生活との両立を理由にあげており、正仕員では労働と家庭生活との両立がはかれないという苛酷な労働実態を示しているものといえます。
(g)男女平等はいっこうに進んでいません。多くの労働者が職場では男女不平等だと考えており(45.6%)、法的規制や政策的支援を求めています。
こうした労働者の要求は、けっして「規制緩和」で解決できるものではなく、かえって労働行政分野における規制の拡充強化こそが求められていることを示すものといえます。
「経済成長と所得の分配によって労働者の経済生活は向上し、…雇用保障も進み…労働条件も格段に向上した。…20世紀労働法の目標の、相当程度の達成」(前出)したとして、「規制緩和」や労働法制の見直し等を求める学者等の主張は、アンケート結果に示されたような労働者が置かれた厳しい生活と労働の現状を見ないものといわざるを得ません。

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3.今日における労働行政が果たすべき役割

今、長引く不況や雇用不安、過労死に象徴される健康破壊、いっこうに改善が進まない労働条件と職場環境などといった労働者が置かれた厳しい現実を背景に、労働行政の本来の存在意義を発揮することが痛切に求められています。
例えば、円高不況等の中で労働者が置かれた状況を直視し、どう雇用の安定と労働条件の確保をはかるのか、そのためにどういう最低労働基準を設定し、行政としてどう担保するのか、また、国として、雇用の創出と必要で十分な失業保障をどう確保するかなどの観点で政策提起、行政展開、法規制の拡充などが求められています。
以下、第21回労働行政研究活動をふまえ、労働者の労働と生活を守り改善するために、今日における労働行政が果たすべき役割について、私たちの考え方を提起します。

(1)労働省の行政姿勢の転換と行政体制の確立が求められています。
労働組合等が労働省の政策や行政姿勢の転換を求める声は非常に大きいものがあります。そのことはアンケートで寄せられた行政に対する要望にも表れています。労働行政が労働者の期待に応え得るものになるために、なによりもまず第一に、労働省が行政姿勢を転換することが求められています。さらに、それと同時に、雇用の安定や労働条件の改善のために必要な労働法制の拡充・新設でのイニシアチブを発揮することが必要です。また、現行の制度や法規制の下にあっても、今日の労働者が置かれた厳しい労働と生活の実態を改善するために、日常的に行政の民主的運営を確保徹底し、行政機能を十二分に発揮し、行政として、やるべきことをやりきるとともに、それを担保するための行政体制確立をはかることが重要です。
政策や行政姿勢については、例えば、解雇規制にかかわって、整理解雇の4要件の法制化を拒否したり、法定労働時間の猶予措置や特例措置を場当たり的に設定するなどは財界寄りの典型ですし、時短の指導をするのに生産性向上を求めるのは、労働行政のやるべきことではありません。労働移動能力開発助成金など色々な名目で大企業に助成金を出していますが、そういう方向ではなく公的就労事業の確立など労働者の雇用確保のための施策などに重点を置くべきです。また、労働省の能力開発政策は、個々人が、自らの費用と時間をかけて競争をして、自分の努力で労働力を磨いて高く売ることを押しつけるもので、権利としての職業訓練になっていないことも改める必要があります。さらに、労働省の過労死認定基準や業務上外の認定業務が、マスコミや裁判所も含め各界から厳しい批判にさらされているのも財界寄りの行政姿勢が原因です。この点では、私たちは、全労働過労死等問題検討委員会報告(1995年3月3日)で提言した「過労死認定基準改善案」の重要性を改めて確認します。また、労働委員会や各種の審議会の労働側委員を連合に独占させるような不公平な選任についてもただちに改められるべきものです。
なお、「今後の雇用創出分野が労働力供給構造の変化に見合った多様な雇用機会を提供するとともに適正な労働条件を備えたものとなるように、産業・企業の活力を高めていくことが求められる。また、雇用の安定を図りつつ円滑な労働力の移動を実現するために、新規入職、転籍、配転・出向といった労働力分配機能が持つ問題点を解決しそれらの機能が十分に発揮できるような環境整備を図ることが大切であり、また、構造変化への対応のために、事業再構築に際しての事業主の取り組みへの支援、能力開発体制の充実、国全体としての職業紹介機能の強化が求められる」、「(今後の雇用創出分野について)非正規雇用の労働条件の改善が極めて重要である」(95労働白書)等々の労働省の抽象的な言明も、「労働者の立場に立って」具体的に実行することで、労働者の労働条件の改善と雇用の安定につながるのです。
労働省はみずからの財界寄りの政策の根拠として、頻繁に「労働者のニーズ」を挙げます。例えば、(非正規雇用に対して)「労働者側にこうした働き方を求めるニーズが高まっている」(95労働白書)、「労働者の意識変化による労働移動の増加」(「中期雇用ビジョン」)などです。また、労働基準法研究会報告(労働契約法制)は、ホワイトカラー労働者のニーズの多様化やパート労働などを求める労働者の増加等を理由にして「労働契約内容の明確化」や労働条件の「労使による自主決定の促進」等を提起しています。しかし、労働者側のそうした事情がなぜ生じるのかを考えると、それは財界の雇用政策とそれを後
押しする政府の労働力政策から生み出されたものだといえます。家庭責任と労働を両立できないような企業と社会のシステムの現状、高齢者の解雇を中心とする雇用調整や年令に応じた正規雇用を提供しようとしない企業の姿勢、青年労働者が正規雇用労働者になることを躊躇するような憲法を無視した非人間的な労務管理などが非正規雇用(不安定雇用)の「ニーズ」を生じさせているのです。不安定雇用労働者は本当の意味で自ら望んでパートタイム労働者や派遣労働者になったわけではありません。そのことは、アンケート結果からも明らかです。大多数はやむなく選択しているのです。労働省の労働者の「ニーズ」を口実にして非正規雇用の増加を放任する政策の反労働者性を指摘せざるをえません。転職(労働移動)にしても、雇用調整等で余儀なくされたり、苛酷な労働条件に耐えられないといったことなどが原因と考えられます。労働者が置かれた苛酷な労働実態の前に労働省の「労働者のニーズ論」は破綻を余儀なくされているといえます。
また、労働省は、財界の雇用や労働条件に対する姿勢を肯定的に理解したうえで政策展開をはかっています。例えば、企業の構造調整について、「企業は基本的に雇用の安定をはかる方向で対応しようとしている」(95労働白書)とか、「『失業なき労働移動』のための企業と行政が一体となった対応も重要」(「中期雇用ビジョン」)などです。しかし、前章で分析したように、財界の労働政策は、利潤の飽くなき追求が基本にあります。「失業なき労働移動」のために企業と一体となった対応を強調することは極めて疑問です。私たちは、労働省が信仰している「財界の善意」は幻想だと考えます。
行政機能の十二分な発揮については、労働弁護団の批判「今緊急に必要なことは、現行法上労働監督機関がその有している権限を発動して解決機能を発揮するよう求められている事項(賃金不払い、残業手当の未払い、労働時間規制、安全衛生等)について、『労働監督機関は役に立つ』との信頼を高めることであり、そのために権限発動を阻害している要因を解明して克服することである」(日本労働弁護団「全労働の『問題意識』に対する反論と所見」)に見られるような行政の状況の改善が必要でする行政研究活動のなかで、「労働者のためになっているのかどうかわからずむなしい」という声が組合員から寄せられています。労働者のためにやるべきことをやるというのは組合員の働きがいでもあります。日常的に当局責任を追及し、行政の民主的運営を確保徹底させ、行政機能を十二分に発揮し、やるべきことをやりきるという姿勢に立たせるとともに、それを担保するために、増員をはじめとする行政体制確立をはかることが重要です。これまでの相次ぐ定員削減計画の強行により、労働行政では3,000名近い定員が削減されています。雇用の確保、労働時間の短縮、労働災害の防止、職業性疾病の予防、労災補償制度の充実、男女差別の解消など、労働者・国民の大きな期待に応えるために大幅増員による行政体制の確立は不可欠です。
以上のような政策や行政姿勢の転換、行政の民主的運営、行政体制確立なくしては、第21回労働行政研究活動のなかで私たちが集約した前記のような労働者の要求を真に解決することは出来ません。

(2)組合員が労働者のための行政を自覚的に実行する努力も大切です。
組合員が自覚的に労働者に目を向けた職務執行を行うことも重要です。全労働は1976年に組合員の手記をまとめて労働略書「これが労働行政だ」という本を出版しましたが、その序には、次のような一節があります。
「しなくてはならないことを/しなかったこと/してはならないことを/したこと/恥ずかしさで顔があからみ/背筋が冷たくなるおもいをしながら/その事実の一つ一つを/しっかり記録しておこうと………」
この酷書は、日常業務を通して味わった押さえがたい怒りと悔恨を告白し、行政の反動化や形骸化を告発し、民主的な行政体制の確立をめざすとともに自覚的に労働者のための行政運営に努力する決意を示したものです。この姿勢をみんなのものにしていくことが望まれます。

(3) (1)、(2)を前提としつつ、今労働行政として果たすべき役割として、雇用の安定と失業保障、長時間過密労働の解消と健康の確保、職場における男女平等を中心に、私たちは具体的に次のように考えます。

(a)雇用安定・雇用創出のため、解雇規制、労働時間短縮、パートタイム労働者など非正規(不安定雇用)労働者の労働条件の改善が三位一体で求められています。
「企業が既存の雇用者を維持しつつ人員削減を図るための雇用調整として、厳しい採用抑制を続けている」(95経済白書)実態があります。また、新規学卒者の未就職者は、1993年4月には11万人、1994年4月には15万人、1995年4月には16万人と増えています。こういう状況下で、解雇を厳しく規制するだけでは、労働者全体の雇用の安定にとっては不十分です。既に職についている(雇用を確保している)労働者と未就職(特に新規学卒者の)の対立が起こる可能性があります。また、企業が必要な労働力を正規労働者ではなく非正規労働者(派遣、パート、契約社員等不安定雇用労働者)によって補充するという事態が進んできたことを考えると、正規労働者が非正規労働者によって置き換えられることを促進することになる危険性が大きいと言わなくてはなりません。就業構造基本統計調査によると、1987年の正規労働者数は34,565千人、非正規労働者数は8,498千人であるのに対して、1992年はそれぞれ38,062千人、10,543千人となっており、正規労働者数が10.1%、3,497千人増えたのに対して、非正規労働者数は24.1% 2,045千人増えており、非正規労働者数の増え方のほうが大きく、雇用者数に占める割合も大きくなっています。95労働白書は「労働力供給構造の変化について、今後とも重要な変化の方向として指摘できるのは、女子の職場進出、高齢者の増加、高学歴化の進展、非正規雇用の増加である」と指摘しています。
また、「規制緩和によって新産業分野を創造し雇用を確保する」という財界や政府の主張にかかわっては、新産業分野が創造されるか否か非常に不確かなものですし、たとえ新産業分野が創造されたとしても、現在行われているような苛酷な雇用調整の実態ををみるならば、雇用が確保されるか否か疑問です。それに期待するわけにはいきません。
したがって、雇用の安定のためには、労働時間を短縮して雇用を分け合う(ワークシェアリンク)必要があります。解雇規制と労働時間短縮は一体でなくてはなりません。さらに、解雇規制と労働時間短縮だけでも不十分です。パートや派遣労働者など非正規労働者の労働条件の改善が一体でないといけないと考えます。具体的には、特に、パート労働者に対する時間比例の原則に基づく賃金・権利の保障、派遣労働者と派遣先正規労働者の賃金等労働条件の差別禁止等が必要です。
さらに、障害者や高齢者などの雇用の確保については企業に一定の責任を負わせる必要があります。当面、高齢者雇用率の義務化、障害者雇用の徹底が必要です。あわせて、東京や大阪の一部で行われている特別清掃事業や公共事業の発注に際しては一定率で失業者を雇用することを義務づけるなど国・地方自治体の責任による雇用の場の確保が求められています。

(b)出向・転籍や長距離配転を規制し、雇用と労働条件を確保することが求められています。
大企業を中心に広範におしすすめられているリストラ「合理化」によって、労働者への権利侵害はますます深刻化しています。これらを適切に規制するため、出向・配転等については、真にやむを得ない場合に本人の同意をもとに実施することを基本に、必要性の明示、事前の十分な準備期間を置くこと、労働条件の低下をきたさないこと、一定期間後に現職に復帰させることを法的に義務付けるべきです。
雇用調整助成金などの支給は、これらの法的規制と一体となってはじめて実効性を持つものだと考えます。

(c)ゆとりある生活と家庭責任の両立のために、労働時間の短縮と週休二日制の制度化、病気休暇の制度化、育児休業法・介護休業法を実効あるものに改正することが求められています。
いっこうに短くならない実労働時間、蔓延するサービス残業、年次有給休暇の消化率の悪さ、具合が悪いときも落ち着いて静養できない実態等を考えたとき、全業種・規模で一日の労働時間の短縮を中心とする早期の週40時間制の実施、男女とも時間外労働の上限規制、完全週休二日制の法制化、病気休暇の制度化が切実に求められています。そのためには労働行政が労働時間短縮について、労使の自主性頼りの姿勢を転換すること、統計にあらわれないサーヒス残業の根絶をはかること、裁量労働制の導入などによる見かけの労働時間短縮に厳しく対応することなどが求められています。また、労働行政として、労働密度の強化・生産性向上と労働時間短縮等とを分離する必要があります。労働条件の改善という観点からだけでなく、労働時間を短縮して雇用を分け合う(ワークシェアリング)という観点からも、労働時間短縮には増員で対処すべきことを求めるべきです。そのためにも、法的規制が必要なのです。
このことは、正社員として働きながら、労働と家庭責任とを両立させるためにも必要であり、併せて、公的な保育・介護体制の充実、育児休業法・介護休業法を実効あるものに改正することが求められています。

(d)変形労働時間制や裁量労働制の規制強化、時間外労働・交替制労働・深夜労働などの規制強化、余裕ある標準作業時間の設定や休暇取得を前提とした要員配置なとの労働密度規制等が求められています。
近年、長時間・過密労働のもとで、過労死の発生が後を断たない状況を背景に、各地の裁判所は、過労死の業務上外の認定をめぐって、相次いで国側敗訴の判決を言い渡しています。また、最高裁判所は、今年7月6日、「花城事件」(沖縄県)において、過労死の業務上外の認定業務が大幅に遅れている現状ふまえ、労働基準監督署長の処分に不服がある場合は、労働者災害補償保険審査官に審査請求してから3ヵ月経過した時点で行政訴訟が提起できる旨判決しました。審査行政の制度や機能も問われています。過労死の業務上外の認定をめぐって、労働者の置かれた現状に目を向けない労働省の後向きの行政姿勢が指弾されているのです。こうした状況も背景の一つとして、第20回労働行政研究活動の成果のうえに設置された「全労働過労死等問題検討委員会」は、その「最終報告」において、労働省の認定基準の改善を求めるとともに、過労死の「予防対策」を提案しています。私たちは、ここで改めて、全労働過労死等問題検討委員会報告(1995年3月3日)で提言した「過労死予防対策」の有効性を確認します(「別記」参照)。加えて、労働密度規制のあり方についての検討も急務です。作業研究の研究成果等にもとづいた標準作業時間の設定や欠勤率を考慮した要員設定などの方策で労働密度を適正に規制することが求められています。
さらに、人間ドックや健康相談の義務化など健康の保持増進法制の整備強化、変形労働時間制の制限と8時間労働制の徹底、非生理的労働従事者への保護措置の制度化などが求められています。このことは、職場と家庭責任との両立の観点からも必要です。

(e)失業者の生活保障(給付制限の廃止、給付日数の大幅延長、給付対象者の拡大など)の拡充が求められています。
多くの失業者が退職金と貯蓄で失業中の生活を維持しています。給付制限の廃止や給付日数の大幅延長、未手続き事業所の労働者の受給権の保障などの給付対象者の拡大などは切実な要求になっています。
また、学卒未就職者の生活保障や職業訓練は緊急の課題です。スウェーデンの例に見られるような学卒未就職者への失業給付の適用や有給の公的職業訓練制度を検討すべきです。

(f)労働者の権利としての職業訓練制度が求められています。
アンケートで寄せられた行政に対する要望のなかで、職業訓練に対する要求には極めて強いものがあります。しかし、労働省の職業能力開発政策の本質は財界の意向を背景として、労働者個々人が、自らの費用と時間をかけて、競争をして、自分の努力で、労働力を磨いて高く売ることを押しつけるものです。労働省が産業構造の変化を背景に、平成8年度の重点施策に掲げている「高付加価値化や新分野展開を担う人材育成等の推進」を目的とした「人的資産形成プログラム」もその延長線上のものです。
今、権利としての職業訓練の重要性を再確認し、労働者の職業選択の自由や雇用機会の確保に資するもので、かつ自らの能力を最大限に発揮できるような職業訓練の体系を国の責任で確立することが求められています。その際、企業と国の責任による短期、長期の労働者の要求に根ざした有給教育訓練休暇制度が併せて制度化されるべきだと考えます。

(g)男女雇用機会均等法を実効あるものに改正することが求められています。
男女雇用機会均等法は、募集・採用から定年・退職・解雇に至るまで、性による差別を禁止していますが、職業生活の入り口である募集や採用、また、昇進などについては努力義務に止まっています。さらに、実効ある救済制度がありません。その結果、女子学生の就職差別や賃金の男女格差は極めて深刻な状況にあります。
アンケート結果によれば、女性がもっとも不平等を感じているのは賃金の男女格差であり、また、罰則を設けて男女差別を禁止するという声がもっとも多くなっています。
男女雇用機会均等法を実効あるものに改正し、職場における真の男女平等を実現することが求められています。また、真に実効性を確保するためには、男女差別を是正し被害者を救済するうえで何の役にも立っていない男女雇用機会均等調停委員会に代えて、強力な権限をもった救済制度を設ける必要があります。

(h)全国一律最低賃金制の確立が必要です。
財界が、初任給の引下げ・凍結や産業別最低賃金制の廃止・地域別最低賃金の凍結などを主張するとともに、雇用システムの再編や実績主義、能力主義などに基づく賃金制度の変更を行うなかで、労働者の生活を確保するうえで最低賃金制の確立が極めて重要になっています。正規労働者や非正規労働者の区別なく、また、賃金体系の如何にかかわらず、生計費原則に基づいて、健康で文化的な最低限度の生活を営むに足る金額を保障する制度にする必要があります。
その際、現行の地域別最低賃金制度は地域・規模など様々の賃金格差がある現状を是認し、より低い人件費コストを求める企業間、地域間などの競争をさそい、雇用の確保を口実に、労働者に低賃金を押しつける要因にもなっていることも念頭に置くとともに、そもそも国は憲法によって、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する義務を負っていることをふまえ、最低賃金制度は社会保障給付や課税最低限などとも有機的に関連させながらナショナルミニマムの基軸として位置付け、全国一律最低賃金制度であるべきだと考えます。

(4)労働基準監督制度(労働基準監督署・婦人少年室)の役割と個別の権利侵害を真に救済する機関を確立すべきです。
職場の組合員は、使用者による労働契約の不利益変更、解雇の効果、具体的男女差別の救済等々個々の労働者の権利侵害など監督機関として十分対応できない問題に直面して日々悩んでいます。また、当局は「民事不介入」の方針のもとに、これらの問題に直面している労働者の救済を放置する姿勢をとり続けてきました。すなわち「民事不介入」の名のもとに私人間の権利義務関係に関わる事件の一切にわたって、適切に指導することすら放棄してしまう姿勢は、事実上労働者への権利侵害を横行させ、かつそれを容認するものです。個別の権利侵害の救済は、当局の「民事不介入」方針の転換、法的権限の拡大や行政体制の整備で解決できるものも少なくありません。もとより労働基準監督制度の多様な役割を考えたとき、一定の限界もありますが、司法警察権の行使と行政指導を明確かつ適切に区別しながら労働者の権利救済に向けた積極的な対応が求められていると言えます。全労働は最低労働条件や男女平等の確保と労働基準監督制度は一体のものであるべきだと考えています。そして、刑罰権を背景にした監督指導・捜査を任務としている労働基準監督制度は、刑罰法規の順守や違反者を適正に摘発することが重要な機能の一つとされています。他方、実際に発生した個々の労働者の権利侵害の救済という意味では、かかる機能の反射的効果はあっても、同時にこのような機能を有する行政の役割から生まれる限界のなかで、必ずしも十分に機能していない状況があります。
また、一方には、企業によるリストラ「合理化」の強行、労働者の権利意識の向上などがあり、監督署や婦人少年室が個別の権利救済では不十分な対応にとどまっているとの批判が強まっています。そして、労働者の権利を救済する、あるいは個別の労使紛争を処理する新たな行政機関が必要だという意見が多くの団体や研究者から主張されるようになってきています。
既述のように、現在、新たな「個別的権利紛争」の処理システムについて、中央労働基準審議会で議論されていますし、労働弁護団や少なくない学者・研究者から具体的提言がなされています。私たちは、労使間の個別的権利紛争の解決は基本的には裁判所の体制整備によって対応すべきだと考えます。しかし、裁判所の労働事件における機能の現状を念頭に置くと、当面の措置として、労使間の個別的権利紛争を簡易・迅速・低廉に解決するための新たな行政処理機関を設置することについて検討することは必要だと考えます。その際、少なくとも、国の役割を明確にすることと労働行政機関(労働基準監督署、婦人少年室、公共職業安定所)とのネットワークあるいは連携が制度上明確にされなくてはならないと考えます。そして、設置する処理機関の数や場所は、少なくとも労働基準監督署と同数で同一地域が適当だと考えます。
一方、労働基準監督機関の重要な役割である監督指導・捜査のための行政体制は、そのことを理由に縮小したり形骸化したりすることは決して許されず、監督官をはじめ職員の大幅増員や専門性の向上など量的質的拡充強化が必要です。とくに、ほとんど「お願い行政」に埋没している状況にある婦人少年行政の権限の強化と監督機関にふさわしい体制確立は急務です。

(5)労働行政は憲法理念に則り国みずからが行うべきです。
首相の諮問機関である地方制度調査会答申(94年11月22日)は、「機関委任事務については、この概念を廃止し、現在地方公共団体の機関が処理している事務は地方公共団体の事務とすべき」、「国の出先機関については、大幅に整理、縮小し、廃止又は地方公共団体の組織への統合を検討」し、「地方事務官制度は廃止する」と主張しています。
また、政府の「95年度行革大綱」(94年12月25日)や5月15日に国会で成立した「地方分権推進法」は、機関委任事務の整理合理化や国の事務事業の地方公共団体への委譲を積極的に推進することを内容としています・
以上の考え方を単純に職業安定行政に当てはめた場合、雇用保険行政以外のすべての業務を地方公共団体に委譲することになり、それと並行して、職業安定所の整理・縮小や廃止が進められることになります。
一方、全労働は第38回定期大会で、「労働行政のあり方に関する研究会」を設置し、「地方分権・規制緩和・労働法制見直し」と関わって、国民のための労働行政・労働法制のあり方やそれと関連しての行政体制の拡充について、全労働としての理論構築などを行なうことを決定しています。
また、「全労働は地方自治を憲法に基づいて拡充し、住民のための行政を確立するために、機関委任事務制度の廃止などの地方分権は必要だと考えていますが、労働行政については…国の責任で国によって行なわれるべきだ主張しているのです。また、労働政策について国と地方自治体との調整が必要な場合(現在は地方事務官制度によって調整されている)は、それぞれが対等の立場で行うべきだと考えています。全労働は国が行うべき労働行政を「地方分権」という口実で地方自治体に押しつけたり、「規制緩和」の名の下に形骸化させたりすることに反対なのです。」という見解を確認しています。
国民のための雇用安定にとって重大な関わりのある職業安定行政と「地方分権」の動きについては、引き続き適切な対応をはかる必要があります。

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